ピンクの魔人と共に   作:クー(無課金勢)

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今回は少しネタバレ成分を含みます。

ガッツリとネタバレしているわけではありませんが、どんなに多少でもネタバレは嫌だという方は今回はスルーすることをお勧めします。


迷宮攻略

「はぁ、やっぱオレは甘いな」

 

 深く溜息を吐き、オレはつい先程の出来事を思い出す。

 あの暗闇の中で襲いかかってきた襲撃者、ヤコンと名乗ったあの魔物をオレは自分を殺しにきた相手にも関わらず、助けてしまった。

 

 特に深い理由があったわけじゃない。

 

 あの時、オレがエネルギー波で風穴を開けてやった後、何があったのかは知らないが、いきなり雰囲気の変わったヤコンはオレを餌ではなく、倒すべき世界の敵としてオレを殺しに来た。当然、満身創痍の体であったため、オレが負けるなどあるはずがなかったが、予想以上に苦戦した。勿論、それにはオレが作った人工満月やフルパワーで放ったエネルギー波で気が消耗していたのもあるが、それを考慮してもヤコンは最初に戦った時より強くなっていた。その強さを肌で感じたオレは考えを改めた。

 

 最初は躊躇いなく殺すつもりだった。本能に身を任せて人間を殺す魔物など生かしておく理由はない。それにオレを殺そうとしてきたんだ。それなら情けをかける必要すらない。しかし、雰囲気の変わったヤコンはオレの間違いでなければ、自分のためではなく、自分以外の誰かのためにオレを殺そうとした。オレを魔人ブウと認識し、そのうえで勝てないと分かっていながらも挑んできた。

 

 その相手が誰かなのかは知らないが、他者のために命を捨てられる相手をたとえ魔物とはいえ殺してしまうのは、上手く言葉にするのは難しいが『勿体ない』そう思った。

 

 そうして心変わりしたオレは自分の気を三分の一くらいをヤコンに分け与えることで命の危機からは救ってやった。完全に回復させてやったわけではないが、あのタフさなら何とかなるだろ。初めてやったにしては上手くいったと思う。おかげで、今のオレの気は三割程度しか残ってないが、それほど問題ではない。

 魔力がもっとあれば楽に治せたんだろうが、コレに関しては妥協するしかない。

 

「それにしても、"解放者"……か」

 

 ヤコンと戦闘している最中、何度か"解放者"という単語を発していた。その解放者という者が何者なのかはオレの記憶にもブウの記憶にも無かったから分からないが、どうやら魔人ブウのことを知っていたようだし、相当古い時代に生きていた奴だとは思う。人間か、それともヤコンが慕うくらいだから魔物か、そこまでは分からないが、覚えておいて損はない。

 

 ヤコンや解放者について気になることはまだまだあるが、オレが今持っている情報は少なすぎる。この程度では答えに辿り着くことはできない。それならいっその事、そこらへんは後で考えることにして今集められる情報を集めるのが賢い時間の使い方だと思う。

 

 そう考えたオレはこの迷宮から脱出するために今いる階層についての情報を集めてみることにした。

 

 

 

 

 

 

 それから一時間後。

 色々と調べてみた結果、この階層には下へと降りる道はあっても、上へと続く道がないことが分かった。エネルギー波で無理矢理にでも通り道を作ることは不可能ではないが、迷宮が崩れてオレが生き埋めになったり、上の階層にいる人間が巻き込まれるかもしれない可能性がある以上、この案はボツだ。

 

「そうなると、必然的に下に行くしか選択肢はないんだが……」

 

 どうにもこの階層には不自然な点がある。

 まず魔物との遭遇率が異常に低い。どういうわけか、魔物がオレを……というよりは人間の形をした生物を恐れて隠れているような気がする。上の階層の魔物ですら人間を見かけたら真っ先に襲いかかってきたというのに、ここの魔物は人間への恐怖心があまりにも高すぎる。

 そして人が一人入れそうな程の穴が開いた壁。中に入ってみると、しばらく放置されたのであろうが、誰かが住んでいた痕跡を見つけた。しかもその壁は錬成によって開けられている。

 

「極めつけはコレ……か」

 

 最後にこの階層で度々と見つかる半円状の鉄の塊。

 

「銃弾……だよな」

 

 そこまで銃についての知識を持っていないオレでも分かる。これは間違いなくオレ達の世界にあった武器の一部だ。当たり前だとは思うが、魔法が発達した変わりに科学技術が日本と比べて圧倒的に劣っているトータスに銃なんて近代的な武器があるはずがない。あったとしても火縄銃くらいだろう。

 つまり、コレは別の世界の知識を持った人間によって作られた可能性が高い。最近この階層に現れ、銃についての知識を持った上で、それを作ることができる人物によって。そんなことが可能な人間はオレの知る中では一人しかいない。

 

「やっぱり生きてたか…………ハジメ」

 

 人間を警戒する魔物。錬成で開けられた穴、日本の武器、これだけ証拠があれば坂上みたいな馬鹿でも分かる。

 

 南雲ハジメは生きていると。

 

 一体この奈落でどうやって生き延びたかは知らんが、生きていることが分かったのは喜ばしい。

 

「だとしたら、オレもあいつの後を追うべきだな」

 

 周囲を気で探ってみるも、この階層に人間の気は存在しない。それならハジメは普通に考えて、この階層から脱出したことになるが、上への通り道がない以上、下に降りるしかない。きっとハジメも同じ考えのはずだ。

 

「それじゃあ……サクッと迷宮攻略しますか」

 

 そういうわけで、オレはハジメの後を追う形で迷宮の深部へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 道中にはバリエーション豊富な魔物がわんさかいた。

 

 睨んだ相手を石化させるメデューサみたいな能力を持つトカゲ。

 

「アイスバーになれ!」

 

 冷たくて美味しかった。

 

 気配を消してタールの中から奇襲ばっかりしてくるサメ。

 

「大福になれ!」

 

 もちもちした食感が美味しかった。

 

 毒の唾を吐く虹色のカエル。

 

「金平糖になれ!」

 

 とっても甘くて美味しかった。

 

 鱗粉に麻痺の効果が付いてる蛾。

 

「コーヒーキャンディになれ!」

 

 不味い。

 

 ばらばらに分裂してくる巨大ムカデ

 

「チョコレートになれ!」

 

 見た目はちょっとアレだったが、いい感じの苦味が美味しいかった

 

 何故か赤い果物をプレゼントしてくれるトレントモドキ。

 

「アップルパイになれ!」

 

 今まで食べた魔物の中では一番美味しかった。

 

 そんな感じでいろんな魔物と戦った? 食べた? どっちでもいいか。

 

 今のところ、出会ったどの魔物もヤコンに比べれば雑魚同然だった。対して強敵にもならない魔物となんて真面目に戦うつもりはない。そう判断したオレはちょうどお腹が空いていたこともあって、襲いかかってきた魔物を変化ビームでお菓子にして食べた。お腹が空いたといってもブウの体である以上餓死なんてするはずはないが。

 

 どの魔物もそれぞれ違う美味しさがあったが、特にトレントモドキは美味しかった。あの魔物自体も何故か果物を投げてくるが、その果物と一緒に食べるとより美味しい。ただし、あの蛾だけは許さない。あんなぱさぱさして味の無いコーヒーキャンディなんて二度と食ってやるか。

 

 そんなこんなで迷宮攻略を始めて二日程経過した今、オレは降り始めたあの階層から50階ぐらい下の階層にいる。

 

 その階層を適当に探索していると、そこでは、今までの迷宮にはないものが見つかった。

 

「こりゃあ、また派手に暴れたな」

 

 そこには、半開きの状態で放置された豪華な装飾が施されている巨大なドアがあった。両脇には体にどデカい風穴を開けられた二体の単眼の巨人が倒れている。

 

「なるほどな、こっちは心臓を一発。そっちの方は多少痛めつけられた後で目ん玉を撃ち抜かれたか……」

 

 案の定、その魔物は銃によって殺されていた。

 ここにくるまでにも銃弾で撃ち抜かれた魔物の死体は何体か見かけたが、きっと全てハジメの仕業に違いない。何故かどの魔物も同じように決まって肉を剥ぎ取られているのは気になったが、もしかしたらハジメは魔物の肉を食って飢えを凌いでいるのかもしれい。魔物の肉は人体にとって有毒だと聞いたが大丈夫かあいつ。

 

「それにしても……ハジメのやつ強くなりすぎじゃないか?」

 

 こんなことを言ったらお前が言うなと文句を言われそうだが、オレがこんな疑問を抱いてしまうのも仕方ない。一応、ここら辺の階層の魔物はどれもベヒモス超えの一般的な目線でみればめちゃくちゃ強い魔物ばかりだ。いくら銃があるからといっても短期間でこのレベルの魔物を倒せるまでに成長したというのは異常だとしか思えない。一体何がハジメをここまで強くした。

 

「オレみたいな余程のイレギェラーがあったか、もしくは単純にハジメが天才だったかだな」

 

 個人的には後者の方が帰った時に天之川をおちょくれるから面白いが、ハジメが生きているなら理由はなんだっていい。

 

「…………これは……酷いな」

 

 半開きになってる扉から室内へと入ったオレはまずその惨状に驚いた。

 大理石のような滑らかな石造りで出来た床はところどころが砕けており、規則正しく二列に並んでいる太い柱は半分近くがぼろぼろの状態、中心には崩れかけの立方体があり、なによりも目を引くものが部屋の中央で倒れている巨大なサソリのような魔物。

 ここでド派手な戦闘があったことが証明されていた。

 

 入る前から全く気を感じていなかったから、きっとオレがこの階層に来た時にはすでに死んでいたのだろう。サソリモドキの死体はピクリとも動かない。

 

「…………これは、かなり強力な魔法が使われた痕があるな」

 

 調べてみると、倒されてからかなり時間が経ってるであろうに、サソリモドキの死体からは魔力の痕跡を感じた。銃弾がそこら辺に転がってることから、このサソリモドキと戦ったのはハジメだとは思うが、新たに魔法の才能が目覚めたみたいなご都合展開でもなければ、魔法適正のないハジメがここまで強力な魔法を使えるとはとてもじゃないが考えられない。

 

 そうなれば答えは1つ。

 

「ハジメには協力者がいる」

 

 十中八九その協力者はこの部屋に封印されていたナニカだと思う。この部屋は何かを封印するために作られた部屋だ。長い間封印されていたブウの勘がそう告げている。それにブウほどの魔人がこの迷宮に封印されてたんだから、他の誰かが封印されてたっておかしくはない。

 

 この予測が正しければ、間違いなくその協力者は部屋の真ん中にある、崩れかけた立方体に封印されていたはずだ。オレは部屋を進みその立方体の至近距離まで近づく。

 

「へえ、すごい魔法が掛けられてるな。単純な拘束だけじゃない。魔力を奪う魔法に外側からの魔力を拒絶する魔法。それにこれは……形を保たせる魔法か?」

 

 調べてみれば、立方体にはかなり高性能な魔法が付与されいてることが分かった。防御力こそブウが封印されていた部屋の結界には遠く及ばないが、複数の機能を混ぜ合わせたことで複雑な魔法として出来上がっている。これほどまでの魔法は王国に暮らす程度の人間では、まず付与できない。

 

「ん? なんだコレ?」

 

 立方体の周りをぐるぐる回りながら調べていると、ふと視界の端にダイヤモンドのように透き通った鉱石のような物を発見した。

 

「これは……アーティファクトみたいなもんか?」

 

 鉱石には魔法が付与されていた。どうやら映像を記録して起動させたら流すビデオのようなものみたいだ。オレはその鉱石に最近になってやっと少しづつ伸びてきた魔力を流し起動させる。

 

 

 

 

 

 

「…………やっちまったな。オレなんかがノリで見ていいもんじゃなかったわ」

 

 記録された映像は、とある父親からの娘に対する愛のメッセージだった。そんな大事なものを赤の他人であるオレが勝手に見てしまったことに今更ながらに後悔する。オレだって家族に送る感謝の手紙を全く関係ない他人に読まれたら恥ずかしくて死ぬ。

 

「はぁ……見ちまったもんは仕方ない。詫びといっちゃなんだが、コレはあんたの娘さんにちゃんと送り届けてやるよ」

 

 返事が返ってくるわけでもないというのにオレはそう言う。正直、オレにとって全く関係のない寄り道ではあるが、せめてそのくらいはしてやらないとオレが我慢ならない。こんな名前も顔も種族も分からないような奴に任せるのは彼も不安だとは思うが、我慢してほしい。

 

「よし、そうと決まればさっさと最下層に行くか」

 

 きっと彼の娘ならばハジメと一緒にいるはずだ。それならこのまま迷宮を進んでいけば、いずれは出会えると思う。コレはその時に渡せばいい。というか、それってハジメが女と二人旅してるってことか? 白崎ヤバいじゃん。これがNTRか。

 

 こうして、新たに増えた目標を達成するためにもオレは迷宮攻略を再開した。




薄々察していた方もいるとは思いますが、主人公はハジメと別行動させます。

弱体化したとはいえ、魔人ブウの力を持った主人公がハジメと一緒に行動してしまうと、ヌルゲーになる予感しかしなかったので。
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