迷宮攻略を初めてから大体一週間と少しが経過した。
今、オレのいる場所は最初にいた階層から数えて、やっと次で100回降りたことになる階層、つまり99階層だ。メルド団長はオルクス大迷宮は全100階層で出来ていると言ってたが、勇者パーティーで降りた階層数が20、オレが一人で降りた階層数が99、足すとどう考えても100を超える。そもそも誰も最下層に到達したことがないというのに全階層数だけが分かっているというのもおかしな話だが、この迷宮の階層数は確実に100以上あることだけは確かだ。
「次こそはラストであってくれよ……」
結局、ここに来るまでにオレとまともに戦えるレベルの魔物と出会うことはなかった。そのため、襲ってきた魔物を返り討ちにするだけの流れ作業ではあったが、その程度でも戦闘すること自体が良かったのか、ステータスには少しずつだが変化が見られた。
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魔人ブウ(風磨仁) 0歳 男 レベル:6
天職:魔人
筋力:4200
体力:10050
耐性:1
敏捷:3100
魔力:110
魔耐:1
技能:体内エネルギー操作・舞空術・エネルギー波・エネルギー弾・超再生・変化ビーム・肉体分離・肉体操作・自爆・吸収・回復の術・念力・生成魔法(使用不可)・言語理解
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体力の数値がついに10000を超えた。それに魔力の方も他に比べればまだまだ低いが、三桁台にまで突入している。その影響で今まで使用不可だった回復の術と念力が使えるようになった。まだ乱用できるほどではないが、使う分には問題ない。
そして一番大きな変化は……
やはり名前と性別がはっきりしたことだろう。
名前に関しては考察するに体はブウではあるが、人格はオレであったためどうすればいいのかステータスプレートでも分からなかったんだろう。結局、二人の名前が記載されている。オレの方に()がついていることに多少不満を抱かないわけではないが、文字化けに比べれば圧倒的に分かりやすい。
そして性別。
やっと、ステータスプレートがオレを男であると認識してくれた。最近では鏡とか水面に反射した自分を見て『わあ! オレって可愛い!』とかつい思ってしまうことが稀にあって、自分が男だって自信がだんだんと失われてきてたから本当に嬉しい。
そんな感じで様々な変化をしていくステータスの中でただ一つ、生成魔法だけがまったく変化していなかった。
こればっかりははいくら考えても答えは出ない。魔力消費が激しい魔法なのかとも思ったが、ここまで魔力が伸びても使えないなら別の理由がある気がする。それに、ブウの記憶をいくら探っても、生成魔法らしき魔法など使った記憶はない。忘れているのではなく、使ったことがないのだ。つまりこの魔法は魔人ブウ本人ですら気づかぬ内に習得していたということなる。そんなことあるのかとは思ったが、実際にそうなのだから仕方ない。
そんな不安の芽を残しながらも、オレは下の階層へと続く階段に向かった。
「いかにも、ラスボスの部屋って感じだ」
その階層は雰囲気からして他の階層とはまったく異なっていた。
規則正しく並んだ無数の巨大な柱に支えられた広い空間に多分30メートル以上はあるであろう高さの天井。地面には荒れたところ一つなく、平らで綺麗であるその場所は、どこか荘厳さを感じられた。
しばらく警戒しながらもその空間を歩いていくと、200メートルほど進んだ先で意外なものを見つけた。それは全長10メートルはある巨大な両開きの扉。表面には七角形の頂点に描かれた文様が特徴的な彫刻が彫られている。
「どう考えてもあそこがゴールだよな」
あの先に何があるのかは分からない。
出口に通づる道があるかもしれないし、珍しいお宝が眠ってるかもしれない。そんな期待を胸に扉に向かおうと足を踏み出したその時、扉の前に赤黒い光を放つ30メートルほどの大きさの魔法陣が出現した。予想できなかったわけじゃない。ダンジョンの最下層にはラスボスが待っているものだ。
「やっぱり……そう簡単には行かせてくれないよな。鬼が出るか蛇が出るか。まあ、どっちにしろぶっ倒すことには変わりない」
内心、何が出てくるのかを楽しみにも感じていたオレは魔法が発動されるのを待つ。するとだんだん魔法陣の光は増していき、遂には弾けるような光を放った。そして光が収まった時には……
「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」
6の頭に長い首、12個のつぶらな瞳と天井にギリギリ頭が付かないほどの巨大な体、神話の怪物であるヒュドラに似た姿の魔物がそこにはいた。
出現した直後、ヒュドラは強い殺気を放つと同時に赤い紋様が刻まれた頭が口から火を吹いた。
直撃したとしてもオレの再生能力の前では致命傷になることはないが、わざわざ必要のないダメージを食らってやるほど馬鹿では無い。オレは舞空術を使い、空中へと回避する。
「ほら、プレゼントだ!」
そして、攻撃後の硬直で隙だらけとなっていた赤頭にエネルギー弾を放つ。エネルギー弾は狙い通りに赤頭へと直撃し、その頭は吹き飛んだ。
「見た目のわりに防御は薄いな。こんなのが最後のボスなのか?」
そう油断したのも束の間、白い紋様の頭が叫ぶと吹き飛んだ赤頭を白い光が包み込む。すると逆再生しているのかと思うような速度で赤頭は復活した。その回復速度はオレほどではないが、一般的な魔物と比べれば圧倒的に早い。
「ヒーラーがいるのか……なら!」
青頭が吹き出してくる吹雪を回避しながら今度は白頭に向けエネルギー弾を放つ。だが当たる直前に黄色の紋様の頭が間に割り込み、頭を肥大化させ攻撃を受け止めた。当然直撃していない白頭にダメージはなく、黄頭は赤頭とは違い防御に優れているのかゼロではないが、それほどダメージが入っているようには見えない。
まさかエネルギー弾を体で受け止めるとは思ってもいなかった。その驚きによって短時間ではあるが隙のできたオレに赤頭と青頭が炎と吹雪を放つ。迫ってくる2つの攻撃を慌ててエネルギー弾で軌道を変えることで逸らしたが、他の頭の影から隠れるようにオレに狙いを定めていた緑頭への対応が遅れてしまった。
「…………ッ!」
緑頭が放った風刃が体中を切り刻む。痛みはそれほどでもないが、突風に煽られ背後の壁へと衝突する。急いで体勢を立て直すも、3つの頭が放った攻撃が目の前に迫ってきたため急降下することで回避する。
「なるほどな。ヒーラーにタンクにアタッカー、全部一人でこなすか。ダンジョンボスには相応しい性能だな!」
今分かった。このヒュドラは今まで戦った魔物の中でも段違いに強い。決して楽して勝てる相手ではない。そんな強敵にも関わらず、今のオレには恐怖や不安などというマイナスな感情はなかった。むしろその逆だ。
「いいねぇ。そうでなくちゃ面白くない」
あるものはただ一つ。
自分の力を存分に振るえる相手との戦闘ができる喜びだけだった。昔のオレだったら戦いを楽しむなんて考えもしなかった。むしろ戦いたくないとさえ思ってたはずだ。これもブウに吸収された影響だろう。いや、もしかしたら自分が新しく得た力を使ってみたいという子供のような純粋な動機なのかもしれないな。
そんなオレの心境など知らんとでもいいたげなヒュドラはアタッカーの3つの頭で同時に攻撃を放つ。その時、放たれた炎と氷と風刃は空中で融合し、一つの巨大な光線となった。その光線は地面を抉りながらオレへと襲い掛かる。
「それならこっちも!」
オレは気を突き出した両手に集中させ、巨大の黄色いエネルギー弾を作り出す。その大きさは約3メートル以上。それほどの巨大エネルギー弾を押し出すように前方へと押す。そしてオレの手から離れた途端、巨大エネルギー弾はとんでもないスピードで前方に向かって飛んでいく。
衝突する光線と光球。一瞬の間ではあるが、その2つの攻撃は確かに拮抗していた。しかしそれは本当に一瞬だけのこと。みるみるうちに光線は光球に押し返され、ついには本体であるヒュドラにまで届いた。着弾した巨大エネルギー弾は鼓膜が破れそうなほどの音をだして爆発する。
「名付けるなら…………そう。イノセンスキャノンとでもしようか」
そうして出来上がったオレの新技であるイノセンスキャノンは攻撃役の3つの頭に直撃し、その頭をまとめて吹き飛ばす。すぐさま白頭が回復させようするが、当然そんなこと許すつもりはない。回復させるよりも早く接近しようとしたその時、
「…………あ」
黒い紋様の頭と目が合った。
その直後、オレの視界は暗闇に閉ざされていく。
◯
気がついた時には、オレは何も見えない暗闇にいた。
そんなオレの目の前には……
「なんであなたが生きてるの?」
いるはずのない八重樫雫がいた。
「もしかして、あなたに生きててほしいとでも思う人が一人でもいると思ってるの?」
オレを蔑む声が聞こえる。
「必死に守ろうとしたハジメくんだってあなたのせいで奈落に落ちたじゃない」
オレを責め立てる声が聞こえる。
「あなたが1人で死ねば良かったのよ」
オレを罵倒する声が聞こえる。
「そうやって、あなたが
オレを否定する声が聞こえる。
「もう私に近寄らないで…………行きましょう光輝」
そして、いつ間にかそこにいた天之河と腕を組んで、八重樫は暗闇の中へと消えていった。
オレは…………自分の頭を吹き飛ばした。
◯
「…………ふざけるな」
あの黒頭によって幻覚? を見せられたオレは自分の脳を破壊することで無理矢理魔法を解除した。
幻覚を見ている間にオレを食い殺そうと目の前まで近づいてきていた青頭を至近距離からエネルギー弾を当てて吹き飛ばす。すぐに回復されるが、今はそんなことを気にしている余裕はない。
「おまえ…………ぶっ殺してやるよ」
つい先程までの強敵との戦いにワクワクしていたオレの心はもう怒りの感情に染め上げられていた。
「よりにもよって八重樫にあんなこと言わせやがって……」
八重樫がオレを否定する光景。
精神的にダメージを負ったかと言われればかなり負った。めちゃくちゃキツかった。でもそれ以上に、オレは八重樫があんなことを言うわけがないと信じていた。だからこそ幻覚だとすぐに理解出来たし、自分の頭を吹き飛ばすのにも抵抗はなかった。
今はそれよりも、幻覚とはいえ八重樫にあんなことをさせた目の前のヒュドラをぶっ潰すのが先だ。もう様子見はしない。全力で行く。ここからはオレが一方的に蹂躙する番だ。
「吹っ飛べ!」
オレは地面を勢いよく蹴り、ヒュドラの目の前まで高速で移動する。そしてヒュドラの頭ではなく体の部分を蹴り上げる。蹴り上げられたヒュドラはその体を宙に浮かべ、天井に衝突する。
「「「「「「グルゥウウウウ!!!!!!」」」」」」
とんでもない速度で天井にぶつかり悲鳴を上げる6つの頭。そんなヒュドラが落下するよりも早く、オレは飛んだ。接近に気づいた黄頭が咄嗟に体を肥大化させ守りの体勢に入る。
「じゃあ、今度は落ちろ!」
ヒュドラの真上まで飛び、握り合わせた両手を黄頭へと振り下ろすことで、地面へと叩き落とす。再度訪れた衝撃によって与えられたダメージを回復させるために白頭が叫ぼうとするが、そんな隙を与えるはずがない。
「だりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!!」
空中から容赦せずヒュドラに向かってエネルギー弾を連射する。一撃でも頭一つ破壊するエネルギー弾を大体100発ぐらい撃った。雨のように降り注ぐエネルギー弾を巨体のヒュドラは避けることもできずに受け止め、どんどん頭の数は減っていく。
「ダメ押しだ!」
そして最後残った2つの頭にエネルギー波を放つ。
いくら黄頭が肥大化したとしても、広範囲に放たれたエネルギー弾全てを受けきることは出来ない。当然受けきれなかった攻撃は他の頭を破壊する。もはや残っている頭は黄頭と白頭だけだ。この状況で白頭を失うわけにはいかないと思ったのか黄頭はエネルギー波を自滅覚悟で受けようと前にでる。
だが、そこまでがオレの予想通りだ。
「……そうくると思ってた!」
黄頭の姿を確認してオレはすぐに手のひらに残っているエネルギーの尾を手の向きを変えることによって曲げる。すると、黄頭の目の前でエネルギー波がクイっと曲がった。もう一度オレが手を動かすと、再度軌道を変え、まるで黄頭を避けるように後ろにいた白頭へと直撃した。当然、回復役の白頭にエネルギー波を耐えるほどの防御力があるわけがなく、その頭は吹き飛んだ。
「これで、最後だああああああ!」
残った黄頭に上空から狙いを定めてイノセンスキャノンを放つ。
「クルゥアン!」
真上から押し潰されるように直撃したエネルギーの塊によって黄頭は根本から消滅する。
「はあ、はあ、ここまでキレたのは久しぶりだな」
怒りをぶつける相手を倒したことで、ようやく冷静さを取り戻したオレはゆっくりと地面に着地する。
だがその瞬間、オレはとある違和感に気づいた。
「ん? どうして気がこんなに……」
死んだ生物からは気を感じるはずがない。にも関わらずヒュドラの気が全然減っていない。むしろ増えてるようにさえ思える。不思議に思い死んだはずのヒュドラの方へと目を向けると、
そこには……先程まではいなかった銀色の頭が、オレに向かって極光を放とうとしていた。
戦闘シーン。結構頑張りましたが、やっぱり難しいですね。