ピンクの魔人と共に   作:クー(無課金勢)

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旅立ち

 オレに新しくオスカー・オルクスの記憶が植え付けられたあの日から、約一週間が経過した。

 

 あの後、期待は薄いがオスカーの隠れ家の中でハジメを探してみたものの、見つけることは叶わなかった。隠れ家で少し前まで誰かが暮らしていた痕跡があったことと、迷宮から出るために必須なオスカーの指輪型アーティファクトである宝物庫が椅子に置いてあった宝箱の中から取られていたことから、オレがちょうどヒュドラと戦ってる時ぐらいにこの迷宮から脱出したと推測できる。

 

 その時、すぐにでも脱出すればハジメに追いつける可能性ぐらいはあったかもしれないが、今のオレの姿を見ても風磨仁だとは気づかないと思う。それに、ここに辿り着いたということは、少なくともあのヒュドラを倒せるくらいの実力はあるということだ。オレがお節介をかけてやらなくても十分地上でも生きられると思う。再会は後回しにしても構わないだろう。

 

 それよりも、オレにはまだこの場所でやらなきゃならないことが残っている。

 

 そんな訳でしばらくの間、この場所に住むことを決めたオレが最初にやったことが…………掃除だった。

 

「ハジメマジふざけんな!」

 

 恐らくオレよりも前にこの場所に来ていたハジメは全く掃除をせずに出て行きやがった。散らかしっぱなしの家具、脱ぎ捨てられたままの衣服、掃除のされていない風呂、それ以外にも多々あるが、中でも特にベッドルームは酷かった。女とイチャコラした形跡がそこら中に広がり、最初に見た時なんか明らかに水ではない液体がベッドに付着していた。他人のベッドを洗うのがこれほど苦痛だと感じたことはない。……白崎にはどんまいとしかいいようがないな。だからさっさと告っとけって何度も言ったのに。

 

 しかし、これだけで済んでいたらどれだけ良かっただろう。更に酷かったのは隠れ家の荒らされようだ。

 

 貴重なアイテムとかがいっぱいあるオスカーの工房はすっからかんになってたし、書斎にあった本、高価な家具、それらも全部持っていかれていた。要するにこの家の中にあった目ぼしいものは一つ残さずハジメが持っていきやがった。

 

「盗賊かあいつは……」

 

 ここがすでに死んだオスカーの家だとしてもこれはあまりにも酷すぎる。墓荒らしと言われても過言じゃない。特にオスカーの記憶を所持してるオレにとっては余計辛かった。久しぶりに家に帰ってきたら他人が生活した跡があって、家の物を勝手に持ってかれていたと説明すれば辛さが分かるだろうか。はっきり言おう。ちょっとオレは怒ってる。これもハジメをすぐに追いかけなかった理由の一つだ。今あいつに会ったらオレは何するか分からない。

 

 そんな理由があって、オレはハジメに荒らされたオスカーの隠れ家を掃除することにした。ハジメの尻拭いをしてるようで気に食わないが、やる奴がいないのならオレがやるしかない。

 

 幸い、といっていいのかは分からないが、物が少なくなっていたから掃除自体は大変ではなかった。

 

 それでも掃除を終わらせるのには二日程の時を必要とした。恐らくハジメは1〜2ヶ月の間この場所にいたんだろう。それほどまでにここは荒らされていた。そのせいで想定よりも掃除に時間を使ってしまったが、時間には余裕があるから問題はない。

 

 次にオレはオスカーの残したとある物を探すことにした。探す物は二つ。それは長い時間をかけて研究した魔人ブウについての研究記録。そして、ありとあらゆる物に『鉱物』という概念そのものを付与するオスカー最後の作品。

 

 この二つは何としてでも手に入れなければいけない。

 

 魔人ブウに関する研究記録はオスカー自身が情報の漏洩を防ぐために自分の記憶にさえロックをかけていた。そのためオスカーの記憶を持っているオレでさえもその詳細については知っていない。だが、どこにそれがあるのかぐらいは分かっている。あの研究記録さえあれば本来の魔人ブウですら知らない魔人ブウの情報を手に入れられる。少しでも強くなるためには、自分についての情報は多ければ多いほどいい。

 

 鉱物という概念を付与する魔道具もオレにとって、というよりは生成魔法を使える人間にとっては喉から手が出たくなるほどに魅力的な代物だ。それさえあれば、例え水であろうが炎であろうが空気であったとしても鉱物の概念を付与させることができる。これは鉱物に魔法を付与する生成魔法とは相性がめちゃくちゃいい。

 しかし、これほどの物がそう簡単に作れるはずがなく、作成難易度はかなり高い。オスカーほどの生成魔法の使い手が絶え間ない努力を積んだ上でなお、運が良ければ一つ作れるかもしれない。それほどのものだ。当然生成魔法を覚えたばかりのオレ程度が作れるはずもない。だからこそ、この世に一つしかないアレがあればオレの戦略の幅も大きく広がる。

 

 ……はずだったのだが。

 

「…………………………………………………………嘘だろ」

 

 どこにあるかは分かっていた。工房の中にある隠し金庫の中。常人では発見することすらできない認識阻害の魔法がかけられたそこに、オレの求める物はどちらも隠しているはずだった。

 

 ……その金庫の扉が銃弾のようなもので破壊された跡が無ければ。

 

「ハジメぶっころーーす!!」

 

 とうとうオレの怒りが限界を超えた。

 いくら友人だからといってもやって良いことと、悪いことがある。オスカーのアーティファクトとか日記ならまだいい。アレはオスカー自身も誰かに託すために作った物だ。持ってかれても仕方ないなっとギリギリ許せる。でもこれは違う。オレ以外の誰にも教えてはならない物だと思ったからこそ、オスカーは仲間の解放者にも教えず隠し続けてきた。

 そんな重要な物を、ハジメのやつは無理矢理持っていきやがった。あいつがアレを持っていても意味が無い。得にアーティファクトの方にはパスワードがあり、そのパスワードは今は亡きオスカーを除くと、現在オレしか知っているやつはいない。にも関わらずあいつは持っていきやがった。使えないなら置いてけよ。日本人らしい勿体ないの精神を今ここで発揮してるんじゃねえ。

 

 絶対次会ったらハジメを痛い目に遭わせる。オレはそう強く誓った。

 

 そんなわけで、残念ながらオレがここでやるべきことは失敗に終わった。だからもうこの場所に留まる必要もないのだが、せっかく綺麗にしたんだから少しくらい休みたい。そんな理由でオレはしばらくぶりの休憩をとることにした。

 

 

 

 

 

 

 その後、オレがこの迷宮から出ることに決めたのは数日後のことだった。

 

 ヒュドラとの戦闘により激しい怒りを経験したことと、オスカーの記憶を得たことにより全ての技能が解放された今のオレは以前とは比べ物にならないほどに強くなった。その変化量はステータスプレートを見れば明らかだ。

 

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魔人ブウ(風磨仁) 0歳 男 レベル:11

天職:魔人

筋力:39600

体力:60880

耐性:1

敏捷:26150

魔力:2100

魔耐:1

技能:体内エネルギー操作・舞空術・エネルギー波・エネルギー弾・超再生・変化ビーム・肉体分離・肉体操作・自爆・吸収・回復の術・念力・生成魔法・言語理解

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 はっきり言ってこの成長速度は異常だと言える。

 原因は分かりきっている。オレはこの場所で過ごしている間も体が鈍ってはいけないと思い、入り口にある魔法陣を強制的に起動させ、召喚したヒュドラと何度も戦った。オレが強さを取り戻すためには強者との戦いが最も効率がいい。だからこそ、現状この迷宮で一番強いヒュドラはオレの修行相手にはピッタリだった。今では第二形態に入る前にワンパンできるくらいには成長している。

 

 最近でこそ一回の戦闘での上昇量が少なくなってきたが、最初の時の上昇量は本当に凄まじかった。一気にグンッと上がるステータスは正直見ていて頬が緩んだ。

 

 そして、生成魔法を使って新しいアイテムも用意した。

 今のオレの見た目は人間に近い姿をしているが、肌の色や目の色が人間とはあまりにも違いすぎる。これから地上に出る以上、必ず人間と関わる機会は出てくる。そんな時にこの姿のままでは話すら聞いてもらえない。

 

 そういう時のためにオレは自分の見た目を変化させる紫色のマントを作った。このマントにはONとOFFの切り替えが可能な魔法が付与されている。効果は単純、オレの体の肌と目の色を人間と同様のものへと変化させる。オレの人外要素は戦闘能力とか再生能力を除けば、体の色だけだから、これさえあれば見た目だけならば人間に擬態できると思う。

 

 弱点を上げるとすれば、この魔法がオレの気に耐えられないことぐらいだろう。一度魔法の発動をONにした状態でヒュドラと戦ってみたら、まさかのマント自体がぶっ壊れた。要するに、一度マントの魔法を発動したら、OFFにするまでオレは常に気を抑えて行動しなければいけない。この状態ではエネルギー弾は勿論、舞空術すら使えない。結構不便ではあるが、人間の近くでしか使わないと考えれば大した問題ではないだろう。

 

 そんなわけで準備は万端、オレは三階の魔法陣がある部屋でオスカーがくれた指輪を使い。地上へと続く転移の魔法陣を起動させる。

 

「さて、ようやくこの迷宮からもおさらばか……」

 

 振り返ってみると色々あった。

 最初は経験を積むために難易度の低い階層を攻略するってだけの話だったのに、ハジメを助けようとして奈落に落っこちて、落ちた先でブウに吸収されて、色んな魔物と戦って、オスカーに記憶を与えられて、間違いなくオレの人生の中で一番濃い時間を過ごした。

 

「それでも……悪くはなかったな」

 

 辛いことは山ほどあった。奈落に落ちる前は勿論、奈落に落ちた後も経験のない迷宮での暮らしにかなり苦戦した。

 でも、同時にそれが楽しくもあった。まるで自分がゲームの主人公になったかのような冒険。誰かに与えられたレールを走るのではなく、全てを自分で選ぶことのできる自由さ。それは日本で育ってきたオレにとっては刺激的な体験だった。

 

「そんな冒険もこれでおしまいか……」

 

 今までは人との関わりがなかったからこそ、自由に生きられた。しかし、地上に出たらそう簡単にはいかない。今のオレは魔人ブウ。人間も魔人族も亜人族も神ですらオレの存在を拒絶する。まさに、世界が敵だと言ってもおかしくない。

 

「分かっている。魔人ブウと一体化してしまった以上、風磨仁はこの世界にとっての悪だ」

 

 自分に言い聞かせる。多くの人の命を奪った魔人ブウが今さら世界を救ったことで罪が消えるはずがない。最初こそ神に命令されて殺していたが、途中からはブウの意思で関係のない者まで殺していた。そんなブウが許されないことぐらい分かってる。

 

 だが……

 

「悪人が善行を成しちゃだめってルールはないしな。オレはオレの好きなようにやらせてもらう」

 

 そう言葉を吐いた直後、オレの視界は何も見えなくなるほどに魔法陣の輝きによって白く染めあげられた。




これにて一章はラストになります。

ここまで毎日投稿を続けて来ましたが、想像以上にキツかったので次話以降はもうちょっとゆっくり投稿していこうと思います。
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