ピンクの魔人と共に   作:クー(無課金勢)

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アンカジ公国

 激しい砂嵐の中、口や目に大量の砂粒が入る痛みに何とか耐えながら、もしかしたらマッハに届くんじゃないかと自分でも思う程の速度で舞空術を使い続け、かなりギリギリではあったが、気を探知した子供である少年が魔物に食い殺される前にオレは間に合った。

 

「あ、あ、あの……ありが、とうござっ……」

「礼は後だ。今はこのデカブツを排除する。立てるか?」

「は、はい! …………って、あれ?」

 

 目の前の巨大ミミズから感じられる気は大したものではない。殺すことぐらいなら容易に出来る。しかしこの少年を守りながらとなればその難易度は僅かに上がる。万が一ということもあるかもしれない。出来れば少し距離を取ってくれるとありがたかったのだが、死の恐怖か、腰が抜けたのかは知らないが、少年は頭の方では立ち上がろうとしているのだが、肝心の体の方が動いてくれない。

 

「無理か……それならもう動くな。中途半端に動かれても迷惑だ。二体くらいならおまえを守りながらでもなんとかなっ!?」

「うぐっ!?」

 

 最初に三体いた巨大ミミズは着地する際に一体踏み潰している。雑魚魔物が二体くらいなら少年を守りながらでも負けることはない。そう思考を巡らせていたその時、オレ達の真下の地中からかなりの速度で上昇してくる気を感じた。反射的に少年の腹に左腕を通し、小脇に抱えて数秒後に現れる敵から空中へと逃げる。

 

 ボゴォォォォォン!

 

「一体くらい増えたところで別に変わらないが……面倒ではあるな」

「っ〜〜〜〜〜〜!?」

 

 まさにオレ達が空へと逃げたその瞬間、先程まで立っていた地面からまるで飛び出すかのように新たな巨大ミミズが大口を開けて現れた。抱えている少年はどこか痛みに耐えるような顔をしている。もしかしたら力加減を間違えてどこかを痛めたのかもしれない。

 

 だが、今は安全の確保が先決だ。少年には我慢してもらうしかない。

 

「そんなに食事をしたいなら、いいものを食わせてやるよ!」

 

 真下で馬鹿みたいに大口を開けてオレ達が落ちてくるのを待っている巨大ミミズ。しかし、オレは跳んだのではなく飛んだのだ。どれだけ待っても落ちるはずがない。それを知らずに口を開き続ける巨大ミミズに向かってオレはエネルギー弾を放り投げる。

 

ボンッ!

 

 一体自分の口の中に何が入ってきたのかすら分かっていないのだろう。巨大ミミズはエネルギー弾をパクッと飲み込むと、一瞬の間を置き、派手に体の内部から爆発した。辺りの砂地には血肉が飛び散り、赤く染め上げられていく。

 

「うっ……」

 

 手っ取り早く倒すために効率的な手段だとはいえ、まだ小さな子供にこのグロシーンはきつかったのか少年は顔を青くしている。早く決着をつけた方がよさそうだ。

 

「悪い、もう少し我慢してくれ。秒で終わらせるから」

 

 オレの言葉にコクコクと頷き少年は目を閉じる。

 

 そんな言葉を交わしている間も巨大ミミズ達は空中に浮かぶオレ達を襲おうと砂地からさらに上半身を出して迫りくる。

 

「自分から来るとか……おまえらやっぱ馬鹿だろ。まだ砂に潜って奇襲された方がやりずらかったんだがな」

 

 オレはまず少年抱えている左側から襲い掛かろうとする巨大ミミズの体の中心に向かってエネルギー波を放つ。避けれない、というより避けることなど頭にない巨大ミミズは真正面からエネルギー波に直撃し、その巨大な体に直径二メートルほどの大穴を開ける。

 

 そして、一方の巨大ミミズを対処した際に出来た隙を狙って反対側から突進してきた巨大ミミズを素手で止め、至近距離からエネルギー波を放つ。当然耐えることなどできず、その体は全てただの肉片となって吹き飛んだ。

 

 戦闘にかかった時間はだいたい五~六秒くらいだ。約束通り秒で終わらせた。

 

「さて、一応終わったが……あー、もうちょい目は閉じたままでいろ」

「……は、はい!」

 

 巨大ミミズ自体の討伐は終わって、危険はもうないのだが……周囲の光景は砂漠には似合わないほどの血の海。当然、視覚的だけでなく嗅覚的にも酷い。こんなところでゆっくり会話なんてよほどのサイコパスぐらいじゃなきゃできそうにない。オレは少年を抱えた状態で場所を変えることにした。

 

 

 

 

 

 

「よし……ここまで来ればもう大丈夫だよな。おい、もう目を開けてもいいぞ」

 

 ざっくりと十キロ程場所を移ったオレは脇に抱えていた少年を下ろす。まだ恐怖が抜けきれていないからか、足がふらついたままではあるものの何とか少年は自分の足で体を支えた。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 まだ立っているのも辛いのだろう。膝をガクガクさせている少年は顔を青くしたままの状態でオレに感謝を伝える。

 

「ああ、どういたしまして。どこか怪我はないか?」

「はい。大丈夫でっ……!?」

「はあ、大丈夫じゃないんだな」

「うぅ……す、すいません」

 

 あからさまに痩せ我慢をしている少年にオレは近づき、庇っている脇腹を手で触れ確認する。やはりあの時抱えた際に力加減を間違えてしまったのだろう。医療の技術がないオレだが、気の流れから骨が折れているのが分かった。

 

「すまなかったな。加減をするのは苦手なんだ」

「そ、そんな! あなたが謝ることなんてないですよ! 咄嗟に動けなかった僕が悪いんですから!」

「とりあえず、その怪我治すからじっとしていてくれ」

「えっ……」

 

 オレは少年の腹部に触れ、"回復の術"を使用する。魔人ブウになってすぐの時は魔力不足で使えなかったこの技能は名前の通り傷を癒す能力だ。しかし、この技能は白崎のような治癒師が使う治癒魔法とは根本的に違う。通常の治癒魔法が『怪我や病気を負う前の状態まで戻す』であるならば、オレの"回復の術"は『健康な状態に変化させる』だ。結果は似たようなものではあるが、その過程に大きな違いがある。

 

 その最大の違いは、治癒魔法では治るはずのない生まれつきの身体的障害や不治の病であっても治すことができることだ。

 

 

 

「あ、あれ、痛みが……」

 

 折れた少年の脇腹の骨は一瞬の内に治り、あっという間に痛みがなくなったことに少年はポカンッといった表情をする。

 

「え? 治ってる?」

「ふっ、すげぇだろ。どんな怪我でも病気でも治せる、オレの使える数少ない自慢の魔法さ」

「どんな、病気も……それって本当ですか!?」

「うぉ!? どうしたいきなり!?」

 

 やけに『病気』という単語に強い反応を示した少年はいきなりオレの服にしがみつくと、目尻に涙を浮かべた必死な形相でそう問いかけてきた。

 

「とりあえず落ち着け。なにか事情があるんだな?」

「っ……は、い」

「分かった……まずは話してみてくれ。質問に答えるのはそれからだ」

 

 

 

 

 

 

「なるほどな。母親が病気で死の淵をさまよってると……」

「……はい」

 

 それからオレは少年に何があったのかを聞いた。

 

 この少年、ポポロはオレが向かおうとしていた砂漠の中にある国【アンカジ公国】の国民だったようだ。母親が正体不明の病に侵されて、国中の医者も治癒師もみんな匙を投げ、もうダメかと思われた時、いかにも怪しい人物に砂漠に万病に効く薔薇があるという話を聞き、一縷の望みに賭けて砂漠を歩き回っていたらしい。

 

 ポポロ自身も言っていたが、あまりにも胡散臭過ぎる。本当にそんな薔薇が存在するのかは謎でしかない。

 

「念のため言っておくが、確かに『どんな病気でも』とは言ったが、おまえの母親の病気がどんなものか分からない以上、確実に治るという保証はないぞ。それでもいいならおまえの母親を治しに行ってやる」

「はい。それでも構いません。少しでも母が治る可能性があるならば僕はそれに賭けたいんです!」

「うーん。期待がクソ重い」

 

 まさに藁にでも縋り付きたくなるほどに母親の病状というのは酷いのだろう。そんな事情があるならば、あそこまで必死になるのも無理はない。オレだって血の繋がった家族が命の危機にさらされているとなれば居ても立っても居られない。

 

「……分かった。一応やってはみる。でも期待はしないでくれ。自分で言うのもなんだが、アレはあんまり使ったことがないから自分でもどこまで効くか分からないんだ」

「本当ですか、お願いします!」

「うわー、いい笑顔……はあ、それじゃあさっさとアンカジまで行こうか。オレは土地勘が無いから案内してくれると助かる」

「あ、はい。そのくらいならお安い御用です」

 

 自分の身を削ってまで母親を助けようとする子供の頼みだ。断るつもりはない。それに長期的な目線で見れば原因不明の病を治したという実績は役に立つのかもしれない。オレはポポロの案内でアンカジまで向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 道中、オレとポポロは様々な会話をした。

 

「お姉さんは、もしかして魔人族ですか? 本で読んだ魔人族とは少し違う気がするんですけど……」

「今更か……普通その話題は一番最初に出るはずなんだがな。まあ、そんなことはいいとして、二つ訂正しておく。確かにオレは魔人だ。でも魔人族とは一緒にはするな。あんな奴らと同様に扱われるのはオレにとって最大の侮辱だ。それと、お姉さんじゃなくてお兄さんだ。今度間違えたらぶっ殺すぞ」

「……あ、すいません」

 

 今更ながら、オレの容姿について聞いてきたり。

 

 

 

「お兄さんの天職はなんですか? 治癒師だと思いましたけど、戦ってるときに手からビームを出してましたよね?」

「ポポロ、よく覚えておけ。一流の武闘家は手からビームを出す」

「何それ凄い」

 

 子供特有の純粋さを利用してつい間違った知識を与えたり。

 

 

 

「元々僕は山奥にある小さな村で過ごしてたんです。でも父がアンカジにお店を建てたので、母と共に引っ越してきたんですよ」

「ふぅん。オレは金関係の話はよくわかんないけど、アンカジは砂漠を横断するための中間地点だから結構人が来るはずだ。かなり儲かるんじゃないか?」

「そうですね。そこのところは僕も詳しくは教えてもらえてないんですけど、引っ越してからは父の食費は以前よりも増えた気が……」

「……あー、うん。そうか」

 

 ポポロの家族について教えてもらったり。

 

 

 

 そんな風に砂漠という過酷な環境に似合わない和やかな会話をしながらオレ達は歩いていた。当然普通ならばありえないことではあるが、オレが気を膜状にしてオレとポポロを覆い、バリヤーのように張ることで砂埃や太陽の熱を遮断し、快適に進めている。

 

 そのおかげもあってか、あっという間に目的の場所にまでたどり着いた。

 

 

 

 

 

 

 アンカジ公国という国は乳白色の外壁に囲まれた都だった。外壁の各所からは光の柱が天へと昇り、ドーム状の結界が張られている。簡単な推測でしかないが、アレで砂の侵入を防いでいるに違いない。

 

「ポポロ、少し待っていてくれ」

「えっ……どうしましたか?」

「おまえも分かってるとはおもうが、オレは今の姿のままじゃ多分人間の国には入れない」

 

 まだあちら側からはこっちは認識されていないようだが、オレの視界は既にアンカジに入るための門にいる門番を収めている。すぐさまマントに魔力を通し、魔法を発動させる。

 

 子供であり、オレに救われたポポロだからこそ今のように仲良くできてはいるが、大人が相手ではそう上手くはいかない。どれだけ無害であることを訴えたとしても受け入れられる可能性は低い。

 

 無事問題なく魔法は発動し、みるみる内にオレの体の色は変わっていく。そして一秒もかからない内に普通の人間と遜色ない姿へと変化した。少し目立つ点があるとすればちょっとルックスが良すぎるくらいだ。まあブスよりは可愛いほうが全然いいけど。

 

「凄い……そんなこともできたんですね」

 

 姿を変えたオレを見て、ポポロは顔を丸くする。わざわざこんな魔法を使う人間や魔人族はいないからかなり珍しかったんだろう。

 

「できれば面倒事は避けたいからな。ポポロもオレの正体については黙っていてくれ。国の中で戦闘とかするはめになったらばれるかもしれんが、そんなことは絶対にないから大丈夫だ。オレが保証してやる」

「あの……それはフラグって言うんじゃ……」

「……マジか、この世界にもフラグの概念があるのかよ」

 

 ポポロを安心させるために言ったのだが、むしろちょっと不安にはなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 そんな感じで多少の不安は抱えつつも、変装を終えたオレはポポロと共に門に向かって歩きだす。すると、人影に気づいた門番はオレ達を呼び止める。

 

「止まってくれ。ステータスプレートと……って! お前ポポロじゃねえか! どこ行ってたんだ! みんな心配してたぞ!」

「ん? 知り合いか?」

「あ、はい」

 

 どうやらポポロの知り合いであった門番の男にポポロはこれまで起きた出来事を説明する。勿論オレの正体については伏せた上でだ。

 

 

 

「なるほどなぁ…………ってこの馬鹿野郎! 母ちゃんを助けてぇのは分かるが、おまえが死にそうになってどうすんだ!」

「うぅ……ごめんなさい」

「まったく……おい、あんた。こいつを助けてくれて感謝するぜ。このガキは大人ぶってるくせして中身は見た目のまんまだからな。あんたには……おぉ、すっげぇ美人」

「……おい、途中までいい感じだったろ」

 

 話を終えると、門番の男はポポロの頭に拳骨を落として説教をする。そして、オレに感謝の言葉を伝えた。とはいってもそれは途中までの話。オレの顔を視界に入れた途端にだらしない表情に変わる。

 

 オレは初対面だが既にこの男が嫌いだ。おっさんに視姦されてる女子高生はこんな気分だったのかと、嫌な感覚を理解してしまった。普通にキモイ。

 

「はぁ、そんなことよりもオレ達をさっさと通してくれ。ちなみに目的はこいつの母親を治すことだ」

「あんた……医者なのか?」

「そうじゃない。ただちょっと特殊な治癒魔法を使えるってだけだ」

 

 少しの間、観察するようにジロジロとした目で門番はオレを見る。その顔は最初は真面目だったのだが、だんだんとやらしい顔に変わってきたため、睨むと門番は誤魔化すように視線を逸らす。やっぱり顔も変えるアイテムを作った方がいいかもしれない。

 

「おじさん……」

「うっ、わ、分かってる。じゃあステータスプレートを見せてくれ。いくらポポロの命の恩人といっても部外者だからな。最低限それだけは確認させてくれ」

「……ほらよ」

 

 ポポロのジト目によって門番としての仕事に戻った門番はステータスプレートを要求する。

 

 それに対してオレはオルクス大迷宮を出る前に作っておいた平均的なステータスに偽造した偽のステータスプレートを門番に手渡した。そこまでは良かったのだが、今度はこの門番、受け取ったプレートをじっくりと舐めまわすように見始めた。幸い、「おい」とちょっと怒った感じで脅してやったらすぐに返ってきたからよかったけど。

 

「もう大丈夫だ! 通っていいぞ!」

「はあ……マジうぜぇ。さっさと行こうぜポポロ、早くお前の家に案内してくれ」

「ははは……分かりました。こっちです。僕について来てください」

 

 少し嫌な気分にはなったが、アンカジに入ることが許可されると、案内を頼まれたポポロは歩き出す。そんなポポロについて行こうとしたその時、またこの門番が引き止めてきやがった。

 

 無視してやっても良かったが、こんなんでも一応兵士だ。余計な揉め事は起こしたくない。

 

「なあ、本当にあの子の母親を治せるのか?」

「……さあな。確証はない。でも助けられるとオレは思ってる」

「そうか、あの年で母親を失うのは辛いだろうからな。俺からも頼む。どうかあの子の母親を助けてやってくれ!」

 

 しかし、意外にもまともな言葉が飛んできた。確かにポポロは見た目だけで考えればオレよりも年下だ。そんな子供が親を失うのは見ている側からしても辛い。それはこの門番も同じようでオレに頭を下げる。

 

 オレは正直に言うと初めてこの門番がまともに見えたことに驚きを隠せなかったが、それでも何とか冷静を保ちながら返答する。

 

「さっきも言ったけど絶対に助けられる確証はない。ただまあ……最善は尽くす」

「そうか、それだけ聞ければ十分だ。なんとなくあんたならあの人を助けられそうな気がする」

「随分と根拠のない自信だな」

「ふっ、俺の勘はよく当たるからな」

「……兵士とか騎士ってそんなんばかりなのか?」

 

 この瞬間でオレが思いだしたのは奈落に落ちる前に世話になったメルド団長。あの人も結構勘とかで生きてた人間だ。ただ、人間としてはこのおっさんはどう考えてもメルド団長以下だけどな。

 

「それと俺の勘が言ってる事がもう一つ。最後に教えておこう」

 

 ちょっと面倒になってはきたが、これで最後らしいので我慢してオレはその言葉を待つ。

 

 

 

 だが、この言葉を聞いたオレは確実に後悔した。

 

 

 

「可愛い顔してんだから、もっと女らしい恰好をした方がいい! 例えばスカート! そう、スカートを履いてみるのはどうだ! きっと似合う! それとそんな野蛮な言葉遣いもやめてもっとおしとやかな喋り方を! そうすればきっともっとモテるし! 俺も嬉しい! どうだ、お互いに利益しか「死ね!」ぐはぁ!?」

 

 とりあえず殴った。




オリジナルキャラクター紹介

名前  : ポポロ
年齢  : 12歳
身長  : 149.9cm
体重  : 42.5kg
一人称 : 僕
性格 : 真面目

 商人の両親の元に生まれた一人息子。親の影響で同年代よりは大人びているが、心の中ではもっと親に甘えたいといつも思っている。母親の病気をきっかけに砂漠へと足を踏み入れるも、魔物に襲われ仁に助けられる。仁に対しては助けられた恩もあるため絶対的な信頼を向けている。とあるゲームの四番目の勇者と共に旅をした商人の息子に似ているが、別人である。
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