特にとある原作キャラに関しましては少し酷い扱いをしていると感じるかもしれません。
アンチというほどではないと思いますが、原作を汚されたくないとお考えの方は多少は覚悟してお読みください。
【アンカジ公国】
グリューエン大砂漠の中にあるその国はオアシスの上に造られた国である。オアシスの水が幾筋もの川となって町中へと流れ込み、その瑞々しさは砂漠のど真ん中だというのに小船があちこちに停泊していることからも見て分かる。
町の北側には農業地帯があり、澄んだ水のあるアンカジだからこその多種多様な果物が育てられている。西側には他の家とは豪華さも大きさも比べものにならないほど上をいく宮殿のような建造物があり、おそらくこの国で最も権力の高い人間が暮らしているに違いない。
アンカジに初めて来るオレからしてみれば、まさに水の都と表現したいほどに美しい国だった。
そんな美しい国をオレは今……
「あのクソ門番、何がスカートだ。ふざけてんじゃねぇぞ。下半身と脳みそが直結してる猿がよ。それにおしとやかな喋り方だって? オレに貴族のお嬢様の真似事でもしろってのかよクソがっ。余計なお世話だっつーの。テメェの好みなんて聞いてねぇんだよタコが。ああクソ、思い出したらなんか腹が立ってきた。今からでも引き返してタコ殴りにしてやろうか。殺さない程度なら大丈夫だろ。うん、それがいいな。そうしよう。じゃあさっさと戻って……」
「……お、落ち着いてください! きっと門番のおじさんにも悪気はなかったんですよ〜」
ぶつぶつと文句を言いながら歩いていた。
きっとこれが現代の日本であったのなら確実におまわりさんのお世話になっていた自信がオレにはある。
事の発端はあのクソ門番だ。
ちょっとどころか大分オレの性別を勘違いしてる感じは出てはいたが、あの男はオレを女扱いするだけに飽きたらず、『自分の好みの女になれ』的な寝ぼけたことをほざいてきやがった。
オレの容姿が女に見える。それはまあ仕方ない。本人であるオレですらそう思う時があるのだから、初見で見破れという方が無理な話だ。だから百万歩譲ってオレの性別を勘違いしたことは見逃そう。だが問題はその後だ。あの男はオレに『男にモテるアドバイス』をしてきやがった。もし相手が本当に女だったとしてもあの発言はない。
それにあの下卑た視線。アレは完全にオレを性的な対象として見ていた目だ。思い出しただけでも寒気がする。ああいう視線はノーマルなオレにとって恐怖でしかない。一瞬でもまともな大人だと思っていた過去の自分を殴ってやりたい。
門番のふざけた発言にプッチンしちまったオレは怒りのあまり門番を殴って、そのまま逃げるように町へと入っていったのだが、落ち着いてくると怒りはだんだんとヒートアップしてきた。そうなってしまえば怒りを抑えるのは厳しく、オレのイライラゲージはどんどん上昇していった。
それはもうポポロがなだめてくれなければ、今すぐにでもUターンしてエネルギー波を撃ち込みたいくらいだ。しかし、今は個人的な感情よりもポポロの母親を救う方が先決だ。湧き上がる怒りの感情を無理矢理にでも抑えつけ、俺達は町の中を進む。
そんな感じでかなりの不満はありつつも、しばらく歩いていき遂に目的の場所にまで到着した。
「あっ! おそこです。あの店が僕の家です」
「やっとかっ……て、マジでデカいな。この国の中でもかなりの方じゃないか?」
そこには、アンカジにある通常の家と比べて三倍ほどの大きさはある三階建の建物が見えた。確かにポポロの親はビックな商人であると聞いてはいたが、この店を見る限り子供特有の過大評価というわけでもなさそうだ。
予想以上の大きさにオレは少し面食らうも、同時にそれ以上の違和感を感じた。
「一つ確認したいが……今この家にはおまえの母親しかいないんだよな?」
「はい? そのはずですよ。たまに母のお見舞いに来る人はいますけど、今日は誰もいないはずです」
「……そうか」
……それじゃあ、今家の中あるこの
現在、この建物の中には五つの気の反応がある。どれも人間のものだ。その中の一人には現在進行形で弱っている気も感じられる。単純な推測に過ぎないが、あと数日も経てば死に至るほどにその気は衰弱している。恐らくこの気がポポロの母親のものだろう。となれば、少なくともこの家にはポポロでさえ知らない人間が四人はいる。
残りの四人は別に気が衰弱しているというわけではないが、何故かポポロの母親の周りでうろうろしている。一体何が目的なのかは分からないが、様子を見るに今すぐポポロの母親の命が狙われるような事態にはならないだろう。それに殺すことだけが目的ならば、とっくに殺されている。
「どうかしたんですか?」
「……いや、なんでもない」
「はあ? じゃあ入りますよ」
別に命の危険がないならば、余計な情報を与えてポポロの精神状態を不安定にさせる必要はない。オレはポポロに家の中に他人がいることを伝えずに家へと入る。一階の部屋はまさに王道ファンタジーにありがちな道具屋といった感じで見た目だけでは何に使うのかすら分からない道具がそこら中に置いてある。
次にオレ達は複数の人間の気が感じられる二階へと向かう。そしてニ階にある最も大きな部屋であるポポロの母親の部屋の扉の前にまでオレ達は来た。近くに来てより鮮明に感知できたが、やはり中からは五つの気を感じられる。
「ポポロ、オレが先に行く。後ろにいろ」
「お兄さん?」
感じられる気の強さからオレの敵ではないとは思うが、もしかしたら実はめっちゃ強い系の相手である可能性も否定しきれない。オレはポポロを守るようにして扉をゆっくりと開く。
その先には、
「……おや、君達は」
部屋の中には五人の人物がいた。まずはベットの上で静かに眠る女性、そして豪華な衣装に身を包んだ二十歳半ばの青年。その青年に付き添うように立つ三人の男。部屋に入って来たオレとポポロの存在に一番最初に気づいたのは豪華な衣装を身に包んだ男だった。
その声に反応して三人の男がオレ達に気づき、その中でも特にガタイのいい男が青年を守るようにオレ達の前へと立ちはだかった。ガタイのいい男はオレを観察するように睨む。すぐに襲ってこないところを見るに、盗人とかそういう輩ではないのだろう。もっとも、オレが不審な動きを見せればすぐに腰に刺してある剣で切りかかってくるとは思うが。
「あ……あなたは!?」
そんな緊迫した空気の中、声を上げたのはポポロだった。視線を向けると青年の顔を見て驚いたような反応をしている。もしかしなくても知っている相手だったらしい。
そんな様子のポポロを見た青年はニヤリッと自信に満ち溢れた笑みを浮かべると、自慢げに言った。
「そちらの子は私を知っているようですが、自己紹介をさせてください。私の名は、ビィズ・フォウワード・ゼンゲン。アンカジ公国の領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲン公の息子です」
その正体は……まさかの国の超重要人物だった。
「ふむ。そうか、君は彼の息子さんだったか」
「父を……知っているのですか?」
「勿論だ。彼には感謝してもしきれない程の恩がある」
あの後、まさかの人物の登場にポポロだけではなく、オレも内心めちゃくちゃ驚いていたのだが、ポポロの母親が眠っている部屋では落ち着いて話すことなどできないだろう。という自分の家でもないにも関わらずビィズが提案したことにより、一階の客室まで移動してから、互いの事情について話し合った。
今はポポロがビィズ達に茶を出し、そのついでとしてオレもいただいている。
話を聞くかぎり、ビィズの目的もオレ達と同じようだった。
どうやらポポロの父親はマジで凄い人らしく、アンカジ公国の危機を何度も救った過去があるらしい。それは本当に商人なのか? とは思ったが、実際に救われた経験のあるビィズから直接父親の武勇伝を聞いて、目を輝かせているポポロの前でそれを言う度胸はオレにはなかった。
そんなアンカジにとって救世主である人物の家族が命の危機に陥っていると知ったこの国の領主であるビィズの父親であるランズィの指示によってビィズは王宮に仕えている優秀な医者を引き連れ、ポポロの母親を助けるべくこの家に来た。
しかし、ポポロの家へと入り(どうやって入ったかは不明)、彼女の容体を医者に調べさせた結果は残念ながら『原因不明』。いきなり壁にぶち当たってしまい、困っていたところでオレ達が現れたらしい。
「父上から任されたにも関わらず、この体たらく。恩人の家族すら救えないとは……情けない!」
悔しそうに力を込めて自身の膝に拳を叩きつけるビィズ。その様子を見たポポロは王宮の医者ですら原因が分からなかったという事実に今までよりも更に表情を曇らせる。
きっとビィズは本気でポポロの母親を助けたいと思い、それができないことを心の底から悔しがっているのだろう。そんなことは見れば分かる。しかしそれだけではない。あくまで推測でしかないが、オレはそうとしか思えなかった。
「話に割り込むようで悪いが、オレからも少し聞きたいことがある。……大丈夫か?」
「貴殿は……確か仁殿だったな。勿論だとも。私が知っている範囲であればなんでも話そう」
「へぇ……言うねぇ」
出来れば『なんでも』って単語は可愛い女の子から聞きたかったが、今は別にそんなことどうでもいい。男に二言はないともいうしな。ビィズには一度吐いた言葉の責任はちゃんと取ってもらおう。
「聞きたいことはただ一つ。おまえは一体何を隠している」
「ッ!?」
あからさまに驚いたような反応。ここまで分かりやすい反応を見せてくれれば、やはりオレの推測は正しかったということだ。
ビィズは何か、重要なことを隠している。
「私は、何も隠してなど……」
必死に誤魔化そうとしているが、嘘が下手すぎる。メンタリストでないオレにすら何かを隠しているというのがバレバレだ。それほどまでにその秘密は隠したいことなのだろう。まあ、オレの予想通りならば隠したい気持ちも分かる。
「言いにくいなら、オレから言ってやろうか?」
「なに……を……」
まだ確証はないが、この場にいる人間と状況から考えれば推測は難しくない。ビィズが連れている三人の男。この男達の内、どこか清潔な雰囲気を漂わせた白い服を身に纏った男は医者だ。先程ビィズ自身がそう紹介していたから間違いない。
では残りの二人は?
単純に考えられるのは護衛だろう。領主の息子が外出するのだ。護衛の一人や二人いてもなんら不思議ではない。実際に男の内一人は鍛え上げられたゴリラのような体に腰に刺されているそこそこの値段がしそうな剣から王宮の兵士なのだと予測できる。
それじゃあ最後の一人は何者か。
ガリガリの体にローブを纏ったその男はぱっと見、魔法使いのようにも見える。しかし、魔法使いにしては杖を持っていないし、魔法陣も持ってはいるが戦闘用ではない。それに魔力自体もそこまで多くない。どう考えても魔法で戦うようなタイプには見えない。
ここまででは、あの男が何者なのか分からないとは思うが、オレはその正体を初対面の時から既に見抜いていた。あの体中から匂う鼻が曲がりそうなほどの悪臭。あれは間違いない。毒の臭いだ。この世界において毒を扱う者自体は珍しくないが、王宮に所属している毒使いと考えれば答えはすぐにでる。
つまりは……暗殺者。
ここまで説明すれば、オレが何を言いたいのかを理解した人もいただろう。
「おまえ、ポポロの母親を殺すつもりだろ」
「えっ……」
オレの言葉に反応を見せたのは……ポポロだけだった。ビィズもその後ろにいる人間もだんまりを決めこんでいる。無言は肯定を示すとも言うが、まさに今の状況にはその言葉がピッタリと当てはまる。
「う、嘘……ですよね。殺すなんて……そんな。ねえ、何か言っくださいよ。ねぇ……ねぇ……っ……何か言えよ!!」
あまりにも信じられないオレの言葉にポポロは困惑しながらもビィズに問う。しかし返答はない。その様子から信じたくない事実が現実味を帯びてしまい、今まで丁寧な口調を徹底していたポポロが初めて声を荒げる。
その言葉は到底領主の息子に使っていいものではないだろうが、母親の命の危機にそんなことを気にする余裕はまだ子供のポポロにあるはずがない。
そんな冷静さを失いかけているポポロに対する、ビィズの返答は、
「すまない……」
謝罪だけだった。
それを言ってしまえば、もう認めてしまったようなもの。ポポロの怒りはさらにヒートアップする。
「なんで……なんでそんなことするんだよ! あなたのことは信じていたのに! このひとごr「待て」ング!?」
「ポポロ……それ以上はいけない。そっから先は言っちゃダメだ」
「……お兄、さん」
ついには言ってはいけない言葉を吐きそうになるほどまでにヒートアップしそうになったところで、オレはポポロの口を手で塞ぐ。支配される側の民が支配する側の領主を罵る。それはたとえ領主側が
「これはただの推理でしかないが……多分そこの領主の息子さんはおまえの母親の病気が伝染病であることを危惧したんだろうな」
「でんせんびょう?」
「……人から人に移る病気のことだ」
一度ポポロを落ち着かせるためにもオレの考えをゆっくりと話す。
どこから感染したのか、どうして体調に悪影響を及ぼしているのか、どうすれば治るのか、あらゆることが分かっていない原因不明の病。それがもし他者へと広まる可能性のあるものだったのなら。
最悪の場合、アンカジに住む全ての人間の命が失われる可能性すらある。それほどまでに伝染病というものは恐ろしいのだ。現代社会で暮らしていたオレはそれをよく知っている。
おそらくビィズの父親はその恐ろしさを少なからず理解していたのだろう。だからこそ被害を最小限に食い止めるための最終手段として一番最初の感染者を手っ取り早く殺すことで病気が広まる経路を絶とうとしたに違いない。
その際に毒殺という方法を取ったのはせめてもの情けとして安楽死させたかったからだろう。それを肯定的に取るか否定的に取るかは今のところはノーコメントということにさせてもらおう。
きっとビィズがポポロの母親を助けられないことをあそこまで悔やんでいたのは、それを知っていたからこそだ。助けられなければ殺さなければいけない。大方非情になりきれないまま今までも同じように殺してきたんだろう。そういう人間に限って罪悪感は人一倍強い。だからこそあそこまで悔やんだし、ポポロの言葉にも反論をしない。
「――と、ここまでがオレの推理だが、間違ったことがあれば教えてくれ」
「いいや、何も間違ってはいないさ」
そうしてオレが話を終えると、ビィズは全てを諦めたかのように天井に顔を向け、薄っすらと笑みを浮かべる。後ろに立っている兵士が何かを言おうとしたのか前に出ようとするも、その行動はビィズの手によって制される。
「君の言う通りだ。治療方法が見つからない場合の最終手段として……殺害は許可されている。これも全てアンカジ公国の平和のため。仁殿にはお見通しだったようだが、このやり方は今回だけの話ではない。今までも私は……いや、私達は領主の立場でありながら多くの民の命を奪ってきた。それによって実際に救われた命があることは間違いないからこそ後悔はしていないが、やはり正しいことではなかったのだろうな」
その姿はまるで罪を告白する罪人のようだった。オレも先ほどまで冷静さを欠いていたポポロでさえも今は黙ってビィズの言葉に耳を傾ける。
「君達にとって私達の行動は到底は許せるものではないだろう。より多くを救う代わりに少数の犠牲を許容する。そんなものは領主として間違っていると。しかし、他の国よりも砂漠という悪環境の中にあるアンカジの平和はそうでもしなければ守ることなどできなかったんだ。理解してほしいとは言わない、だが知っておいて欲しい。この国の平和は多くの屍の上に成り立ってることを」
ビィズはまるで最期の言葉かのようにオレ達にそう告げる。正直言って理解できる部分もなくはないが、納得は全くできない。
「なるほどな。おまえが言いたいことは分かった。その上で聞くが、おまえはまだこいつの母親を殺す気はあるか?」
「……」
場を静寂が包み込む。
その時間が数秒続き、ビィズはゆっくりと口を開く。
「いいや、そのつもりはない。というよりも、君がそれをさせないだろう? もし私がそれを肯定すれば、君は今すぐにでも私を殺す。違うか?」
「ん? まあ間違ってはいないな」
確かにビィズがまだポポロの母親を殺すつもりだったなら、オレも容赦するつもりはなかった。流石に殺すつもりまではなかったが、少し殺気をぶつけ過ぎたのかもしれない。
「それに、彼女はもう長くはないだろう。先ほど医者に見させた状態でもかなり酷い状態だった。恐らく……今夜が山だ。私達が君達が来るまでに彼女に手を下さなかったのはそれが理由だ」
「なっ!? そ、そんな……」
「……へぇ」
その言葉はポポロにとってはまさに絶望的だっただろう。だが、オレはそれを逆に幸運だと捉えていた。それこそ奇跡と言ってもいい。
なぜなら、
「――だそうだ。もう出てきてもいいぞ」
「は? 一体何を言って……」
病でも人為的にも生涯を終えることなく、運良くオレが間に合ったのだから。
ビィズはオレが何を言っているのか分かっていないような様子だったが、その表情は一瞬の内に驚愕の一色に染まる。
「――話は聞かせてもらいました。貴方達が私にしようとしたことも、貴方達が今までしてきたことも」
先ほどまではなかった一人の女性の声が二階へと続く階段から響き渡ることによって。
現在、この家には女性は一人しかいない(当然オレじゃない)。だが、それはこの場にいるオレ以外の人物にとっては信じられないことだ。
「お母、さん」
「そんな……馬鹿な!?」
ポポロもビィズもそれ以外の者も目の前の光景に唖然とする。もはや起き上がることすらありえないと思われていた人間が目の前を支えもなしに歩いていたらそれは驚くだろう。それこそ奇跡でも起きなければ助かるはずがないと思っていたのなら尚更だ。
そんな奇跡を起こした者は誰か? 勿論オレだ。
あの時、ビィズ達とオレ達が部屋を移ろうとしたあの一瞬で、すでに回復の術でポポロの母親の体は治していた。その後は簡単、タイミングを見計らって彼女にオレ達の話を盗み聞きするようにと書いたメモを残しただけ。
ドッキリの結果は大成功。彼女はオレの想定通りの動きを見せてくれた。
「ごめんなさい、ポポロ。心配かけたわね。……もう大丈夫よ」
「あ……あ……本当に、大丈夫な……の……」
「ええ、それもポポロが旅人さんを連れてきてくれたおかげね」
「う……う、うわああぁぁぁん!!」
今の今まで助からないと思われていた母親の回復にポポロは年相応の子供のように泣きじゃくる。そんな家族の感動的な再会の中、ビィズ達は未だ現状を把握できずにいた。実際に死ぬ寸前まで衰弱している姿を確認したからだろう。そう簡単には現実を呑み込めていない。
「一体、何が……」
「ああ、そういえば言ってなかったな。そもそもオレがこの国に来たのは、彼女を助けることが目的だ。オレはちょっと変わった治癒魔法を使えてな。原因不明の病程度なら容易に治すことができる」
「貴殿が、彼女を救ったというのか……」
「客観的な事実だけを述べるなら……そうなるな」
ビィズはオレの話を聞いた後でさえも信じ切れていないようだが、抱き合うポポロとその母親の様子を眺めている内に少しは冷静さを取り戻せたらしく、ポポロの母親の元まで近づき、頭を深く下げる。
「私達の話を聞いていたならば分かると思いますが、私は病に侵される貴方の命を奪おうとしました。許してもらおうなどという甘い考えは持っていません。必要ならばこの命を使ってでも償います。ですが、どうか謝罪の機会をいただきたい。……申し訳ありません」
絞る出すように声を出すビィズに対して、ポポロの母親からの返事はない。目を閉じ、何かを考えるような仕草を見せてから数秒、その沈黙は破られた。
「そうですね。正直に言いますと、私は貴方達を許すつもりはありません。どんな理由があったにせよ、貴方達が私の命を狙った事は事実です。勿論、この事はあの人にも報告させてもらいますし、貴方達にもそれ相応の対応は見せてもらいます」
「……はい。勿論です」
ポポロの母親が放つ厳しい言葉にビィズ達は暗い顔をする。最初から許してもらえるなどとは期待していなかっただろうが、実際に言葉にされると辛いものがあったに違いない。
彼女の次の言葉を聞くまでは。
「ですが、それは今すぐでなくとも構いません」
「はい…………え?」
予想外であったその言葉にオレ以外の全員が一瞬凍ったかのように動きが止まる。
「たとえ貴方達が国民に見せる笑顔の裏でどれほど暗い行いをしていたとしても、今のこの国には貴方達が必要不可欠です。聡明な貴方ならばこのタイミングで領主が国民からの信用を失うという事実がアンカジにとってどれほどの危機か分かっているはずです」
そう、今は人間と魔人族の戦争中。そんな中で内側から勝手に壊れる国など魔人族からしたら格好の餌でしかない。彼女はそれを分かっているのだ。だからこそ、罰を受けるのは戦争が終わってからでもいい。そう提案してきたのだ。
ビィズもそれを理解したのかハッ! とする。きっといつもの冷静な状態の彼だったのならこの程度のことが分からないはずはなかった。きっと本人も罪悪感が積み重なり、心のどこかで罰を求めていたに違いない。
「理解できましたか? 貴方が本当に罪の意識を持っているのなら、全てが終わった後に処罰を受けてください。それと、先程『命を使ってでも』とおっしゃっていましたが、それは償いではありません。命を捨てることは逃げることです」
「貴方は……民を裏切っていた私に生きろと。そう仰るんですか?」
「なに当たり前なこと言ってんだ。死んで満足する奴なんて死んだ本人しかいない。むしろ生きて罪を償い続ける方が罰としては辛いはずだ。それにおまえには罪を償う以上にやらなきゃならないことがあるだろ?」
「……やらなければならないこと?」
「なんだ、分かってないのか? じゃあ教えてやる。おまえの一族が今までやってきた汚いこと、それをおまえの代で終わらせる。それがおまえが出来る一番の償いだ」
「ッ……!?」
オレが補足するようにしてそうビィズに伝える。ここまで言われてしまっては、もう先程のような甘えた発言は許されない。というかさせるつもりもない。ビィズもそれを理解したようでその表情は険しいものへと変化する。
そして、ビィズは自分自身にも言い聞かせるように宣言した。
「……承知しました。このビィズ・フォウワード・ゼンゲン。必ずやアンカジを守って見せましょう。そしていつの日か、我が一族の暗き歴史をこの私が終わらせることを今ここに約束しましょう!」
その宣言に異議を唱える者はいなかった。被害者であるポポロの母親がその行動を促したのだ。ならば誰にも文句を言うことはできない。だが、口には出さなくとも納得できてはいない者はいた。
それは実際に母親を殺されそうになったもう一人に被害者であるポポロだ。彼からしてみれば、自分の母親を殺そうとした殺人未遂の犯人が捕まらず、制限のない執行猶予を与えられているようなものだ。その心境は複雑だろう。今もどこか納得していないような表情でビィズを睨みつけている。
「ポポロ、やっぱり納得できないか?」
「……はい。母がああ言うんですから我慢しなければいけないというのは分かっているんです。それでも、僕は……」
「そうだな。それは人間として当たり前の感情だ。でも、無理矢理にでも納得しなきゃいけないってことは分かってるんだろ?」
「はい……」
「そうか、偉いな」
やはりポポロは見た目以上に大人びている。まだ日本でいう中学生くらいだというのに、自分の気持ちを抑えなければならない状況だということを理解している。
「でも、僕はあの人のことを許せるとは思えません」
「今は別にそれでも構わない。たとえあいつがこれから先どれだけの善行を積んだとしても、今日起きた事実を消すことはできない。それならいっそのこと恨むだけ恨んじまった方がおまえにとってもあいつにとっても気が楽だろ。我慢はした方がいいが、我慢のし過ぎはポポロの心がもたないぞ」
「……え?」
『復讐など誰も望まない』とアニメや漫画ではそんな綺麗事をよく耳にするが、オレからしてみればそれこそあり得ない話だ。人間に憎悪や憤怒という感情がある限り、少なくともそれを行う当人にとっては復讐は望んだ行動だ。
そういう感情は大抵長年による貯め込んできたものが爆発して発生する。それならいっそのこと、日常的に発散させてやればいい。実際、誰かを恨むのにも体力を使う。ポポロにとってビィズへの恨みがどれほどのものかはオレには分からないが、日常的に発散し続ければ、いつかは必ず疲れて限界がくる。
「恨むだけ恨む……そう、ですよね。悪いのはあっちなのに僕が無理に我慢するのっておかしいですよね。わかりました、そうしてみます」
「おう。そうしろそうしろ」
オレのアドバイスによってなにかがふっきれたのか、ポポロはどこかすっきりとした表情となり、顔を上げる。
「じゃあ早速やってみます」
「おう。そうしr……ぇ」
しかし、どうやらオレはふっきれさせ過ぎたのかもしれない。
思わず賛同してしまったが、なにか嫌な予感がしたためポポロに声をかけようとするも、どうやら判断が遅すぎた。
なぜなら、
「食らえ、僕の怒りー!」
「ぇ……ゴバァ!?」
「「「ビィズさまーー!?」」」
「何やってるのポポロー!?」
声をかけようとした時には既に、ポポロの拳がビィズの顔面にめり込んでいた。
顔面を襲う痛みに悶絶するビィズ、そんなビィズを心配して駆け寄る部下達、いきなりの息子の暴走に絶叫するポポロの母親、そしてガッツポーズを決め『やってやったぜ!』とでも言わんばかりなドヤ顔でオレを見つめるポポロ。
それを見たオレの感想は一つだった。
「やっべぇ……オレもしかしてやらかした?」
結果だけみればハッピーエンドのはずなんだが、最後の最後のやらかしたことでどうにも締まらないラストになってしまった。次からはもう少し考えてから言葉を口に出そう。オレはこの時からそう自分に誓った。
この作品でのビィズは殺人経験があることから、原作の彼よりも精神的に成長しています。
これから先の展開のためビィズに出会うことは必須だったのですが、ちょっと自分でもやり過ぎたと思う程の無理矢理な展開になってしまいました。
ただ、個人的にも好きな「大を救うために小を犠牲にする」的なセリフを言わせられたため後悔はしていません。