ピンクの魔人と共に   作:クー(無課金勢)

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 タイトルで分かるネタバレ要素……


汚い花火

「……やっぱり、間違いない」

 

 結局あの後、ビィズの計らいによりポポロの顔面パンチの件は許された。というよりも、ビィズが殴られてなどいないと言い張った。どう考えても頬に拳の後があるのだが、流石にここでポポロを訴えるほどクズではなかった。あの行動はオレも完全に予想外のことだからオレもかなり焦ったが、なんとかなって本当に良かったと思う。

 

 その後、オレはビィズを無理矢r……交渉の末にアンカジの水源であるオアシスまで案内させた。ポポロに案内させても良かったのだが、目を覚ました母親と積る話もあるだろう。ポポロは家に置いていった。

 

 オアシスは相変わらずキラキラと光を反射して美しく輝いているものの、その水を少量口に含んだオレはすぐにその異常を把握した。

 

「あの……何故、私達を連れてこられたのですか? そろそろ理由をお聞かせいただきたいのですが……」

「……安心しろ、すぐに分かる。それにこれは未来の領主としておまえも知っておくべきことだ」

「領主として?」

 

 ビィズはまだ気づいていないみたいだが、もうすでにアンカジの破滅へのカウントダウンは始まっている。この真実は特にビィズには知ってもらわなければならない。

 

「おい、そこの毒使い。おまえは"液体鑑定"を使えるか?」

「……え? わ、私ですか? 使えますけど……」

「それなら丁度いい。このオアシスを調べてみろ。面白いもんが分かるぞ」

「は、はあ……」

 

 ビィズの部下である暗殺者の男をオレは近くに呼び、オアシスに"液体鑑定"を使わせる。ポポロと母親を一緒にさせてやりたいという気持ちもあったが、オレがビィズを一緒にいた部下ごと連れてきた理由がこれだ。オレの推理を確かなものにするためには、飲み水となるオアシスを鑑定できる人間が最低一人は必要となる。そこに丁度よく"液体鑑定"を使えそうな奴がいたのは幸運だった。

 

 ビィズ達は頭上にクエスチョンマークを浮かべながら動向を見守る。オレの行動の意味が理解できないのだろう。いくらポポロの母親を救った人間であるとはいえ、何の説明もなしに連れてこられ、いきなりオアシスを鑑定させられれば困惑もする。

 

 しかし、"液体鑑定"を使った暗殺者だけはその真実に気づいた。

 

 

 

「っ……汚染されかけている」

「なんだと!?」

 

 暗殺者の言葉にビィズは驚愕の顔を露わにして反応する。

 

「それは本当か!? もしオアシスが汚染されたとなればこの国の危機だぞ!」

「ほ、本当です! 間違いありません! 何故このようなことが……」

「っ……今すぐ父上に連絡を! 調査チームの編成を急げ! オアシスは我々の生命線だ! なんとしても守らねばならない!」

 

 やはりオレの予想通り、アンカジのオアシスは汚染されていた。状況をすぐさま理解したビィズは護衛の兵士に領主の息子らしく的確な指示を飛ばす。

 

 しかし、少し焦り過ぎだ。人の上に立つのならばもう少し冷静になった方がいい。

 

「慌てるのは分かるが、少し落ち着け。『汚染されかけてる』ってことはまだ完全には汚染されてないってことだ。そうだろ?」

「はい。今はまだ人体に有害といえるほどのものではありませんが、これ以上となれば……」

 

 要するに今はまだ人が飲んでもそこまで問題はないが、これ以上汚染が進めばワンチャン命の危険があるってことだ。

 

「そうか、ちなみに原因とか分かるか?」

「そこまでは……ただ、魔力の暴走を促す毒素が含まれているようです」

「へぇ、やっぱりな……」

 

 これで推理は推理ではなくなり真実となった。そしてオレの反応を見たビィズはようやくオレがオアシスに連れてきた理由を理解する。

 

「まさか……あなたはこれを知っていたのか!? 今のオアシスの現状を!」

「まあそうだな。知ってたというよりは、その可能性が一番高かったって感じだけどな」

「一体何故……」

「そうだな。別に隠すようなことでもないし……いいよ。教えてやる」

 

 最初に違和感を感じたのは、ポポロの怪我を治した時だった。

 

 あの時オレは回復の術を使ってポポロの怪我を治したのだが、何故か別の何かも治しているような感覚があった。その時は初めてあの魔法を使ったということもあり、勘違いだったと思って無視してはいたが、今思えばあれはポポロが飲んでいたオアシスの水に含まれた毒素を無毒化した感覚だったのだろう。

 

 二つ目の違和感は、ポポロの母親を治した時に感じた。

 

 治すこと自体は一瞬であったが、その際に気の巡りを調べて体の異常を探ると、魔力の異常が見つかった。その時もまだ情報が不足していたからビィズが連れていた暗殺者が毒を飲ませたものだと思っていた。

 

 しかし、その考えは三つ目の違和感であるポポロが入れてくれたお茶を飲んだ時に間違いであると悟った。

 

 あの茶にはほんの僅かではあるが、毒素が含まれているのを自分自身の体で理解した。感覚的に説明するならば体の内側からムズムズと何かが湧き上がってくるような感じだ。あの時のポポロにはビィズどころかオレに毒を盛る理由なんてない。それにあの茶はポポロ本人も飲んでいた。もしポポロが毒を入れたのだとしたらあり得ない行動だ。

 

 そこまで分かれば答えは一つ。

 

 

 

 水の供給源そのものに毒素が含まれている。

 

 

 

 そう考えれば全てが繋がった。医者がどんな病気か分からなかったのも無理はない。そもそも病気ではないし、まさか自分達も飲んでいる水に毒素が含まれているなどとは普通ならば考えもしなかっただろう。

 

「――これがオアシスが汚染されたという推測を導きだした過程だ。納得してくれたか?」

 

 

 

 そこまでの話をオレは出来るだけ詳細に伝えると、ビィズは顎に手を当てて考え込む。

 

「確かに……オアシスの水は今も私達は普通に飲んでいる。人体に害があるなどとは思いもしなかった。しかし、それならば何故彼女にだけ症状が現れたんだ? まだ汚染はそこまで進行してはいないのだろう?」

「そこに関しては完全な推測になるが、彼女は元々肉体性能に比べて魔力が通常よりも多い体質だったんじゃないか? 元からギリギリの状態で魔力を抑えていた肉体ならば、普通の人間が誤差程度にしか感じない魔力の暴走ですら耐えられなかったとしてもおかしくはない」

 

 これをポポロに言ったら怒られるかもしれないが、ポポロの母親が最初に症状が出たことはある意味ラッキーだったと思っている。もし症状が出ていなければ、誰にも気づかれぬままオアシスは完全に汚染されていた。そうなれば被害者の数はもっと多くなっていたに違いない。

 

「なるほど……彼女には悪いが、被害者が増える前にこの事実を知れたのはまさに幸運と言ってもいい。ただ……」

「これから先、オアシスの水を飲めば魔力が暴走する危険がある。とはいってもこの水はアンカジの人間が生きるためには必須だ。他の国から水を貰ってくるにしても、時間と費用がかかり過ぎるから現実的ではない。問題はこのくらいか?」

「その通りだ。今私達からオアシスが失われれば、アンカジはどちらにせよ破滅の道を辿るだろう。"静因石"があれば魔力の暴走は抑えられるだろうが、国民全員分の静因石を用意するなど……不可能だ」

 

 いつのまにか、すぐそばまで迫っていたビィズはアンカジの危機に苦虫を噛み締めたかのような顔をしている。"静因石"というものが何かは知らないが、名前からして特殊な効果のある石なんだろう。どうやら数はそこまでないみたいだが。

 

 それならむしろ、オレがこのタイミングでアンカジに来たのは本当に奇跡なのかもしれない。

 

「ビィズ、オレから一つ提案がある……」

「提案?」

 

 このままでは遠くない内にアンカジは存続の危機に直面する。だがそんなことは神が許そうともオレが許さない。せっかくポポロの母親を助けたんだ。ついでに国ごと救ってしまっても構わないだろう。

 

「オレならこの汚染を食い止めることができる。そう言ったらどうする?」

「なっ……そんなことが可能なのか!?」

 

 あまりにも信じられなかったのか、オレの言葉を聞いたビィズは目が飛び出るんじゃないかというぐらいには驚いている。

 

「勿論だ。ただし条件がある」

「……………………呑もう。たとえどんな条件であっても私は受け入れる」

「おっと、話が早い。そういう奴は嫌いじゃないぜ」

 

 こちらが条件を提示するよりも早く、ビィズはオレの提案を受け入れた。後々やっぱ訂正と言われるかもしれないが、こちらはポポロの母親の件で弱みを握ってるのだから問題はない。

 

「内容はシンプルだ。オレがこの以上の汚染の進行を止める。そのかわりおまえ達はこれからこの場で起きる事を他言するな。それだけだ」

「そ、そんな事でいいのか?」

「いいんだよ。報酬は名誉で勘弁してやる」

 

 予想していた以上にオレが出した条件が緩かったからか、ビィズは呆気に取られたかのような反応を見せる。しかし、オレからしてみればかなり重要なことだ。

 

「さて、それじゃあ契約は成立ということで……やるか」

 

 この汚染の進行を止めること自体はオレならば余裕だ。ただ一つの問題があるとすれば、それは気を解放せざるを得ない状況になること。気を解放するってことはつまり一度は変装を解かなければいけない。そのための条件だ。

 

 オレはマントに仕掛けた魔法をOFFにする。すると肌の色が肌色からピンク色へ、目の色も元の色へ、人間のような見た目から本来のオレの見た目へとあっという間に戻っていく。その変化を目の前で見せられたビィズ達は顔をどんどん青くする。

 

「「「なっ!?」」」

「その、姿は……」

 

 四人はそれぞれ声を上げる。ビィズは目を丸くし、兵士と暗殺者は警戒の体勢をとり、医者に至ってはあまりの衝撃に気を失っている。

 

「失礼な奴らだ。少し姿が違うだけでこの対応とはな。分かってると思うが、このことを誰にも話すなよ。もし先ほどの言葉を無かったことにするようなら……分かってるな」

「っ……は、い」

 

 脅すような口調でそう告げると、息を飲み込みながらもビィズは頷く。

 

「普通の旅人ではないと思っていたが、まさか魔人族だったとは……驚いた。だが、これも民を守るためだ。私は自分の吐いた言葉の責任は取ろう。たとえ悪魔にだって魂を捧げる覚悟はできている」

「魔人族とか悪魔とか……好き勝手言ってくれる。これは忠告だ。次オレを魔人族と同じように扱えば、命は無いものと思え」

「す、すまない!」

 

 先に脅したのはオレだが、随分と失礼なことを言うビィズにちょっとイラッときた。まあ、『よくも騙したな』とか『犯人はおまえだ』とか言われたら普通に半殺しにしてたから、それに比べたらまだマシだろう。

 

「まあいい。ちゃっちゃと終わらせよう」

 

 一応言っておくが、オレには水の汚染を解決できるような高度な魔法は使えない。

 

 オレに出来ることと言うならば、

 

 

 

 この汚染を引き起こしている犯人を排除するくらいだ。

 

 

 

 案内されこの場所に来たその時から気づいてはいたのだが、目の前にあるこのオアシスの底からは魔物の気が感じられる。これほど巨大なオアシスならば、魔物の一匹や二匹住み着いていてもおかしくないかもしれないが、それにしては不自然なほどにサイズが大きい。

 

 オレの予測が正しければ、この魔物こそがオアシスを汚染させた犯人だ。

 

 未だビィズ達四人が冷静になりきれていない中、オレは汚染されかけたオアシスを落ち着いて見下ろす。エネルギー弾を撃ち込めば魔物の一匹くらい容易く消滅させられるだろうが、それだとオアシスへのダメージが大きい。魔物一匹を倒すための代償が水源一つというのはあまりにも割に合わなすぎる。

 

 オレはオアシスの底にいる魔物に向かって手のひらを向け、"念力"を使う。

 

「ほう、抵抗するか。……無駄だけどな」

 

 対魔法用の技能でも持っているのだろうか、魔物はオレの"念力"に抵抗を見せたが、込める魔力を増やして無理矢理にでも拘束する。そして完全に身動きを封じたことを確認すると、一気に持ち上げる。

 

 "念力"によって持ち上げられた水底にいた魔物は水面を押し上げながら、重力に逆らい続けてせり上がる。そのまま盛り上がった水面は五メートル以上の高さまで上がった。

 

 

 

「なんだ、これは……」

 

 

 

 オアシスより現れたそれは、体長五メートル、体に纏わせた水を無数の触手のようにウネウネとくねらせ、赤く輝く魔石を体の内側に持つスライム……それが一番分かりやすい表現だろう。とはいっても普通のスライムはこんなにデカくないし、周囲の水を触手として操る力なんてもっていない。どう考えても上位種か異常種だ。

 

「なんだ……この魔物は一体何なんだ? バチュラムに似ているが……」

 

 今日何度目か分からない驚愕を浮かべたビィズはそう呟く。バチュラムとはスライムに似た魔物……というよりはこの世界風のスライムだと思ってもらえればいい。

 

「簡潔に説明すれば、こいつがオアシスを汚染させた犯人だ。きっと毒素を出す技能でも持ってるんだろうな。どうやってアンカジに入って、どうしてオアシスに住み着いたかまでは知らないが、そこに関してはそっちで適当に調べてくれ」

「確かに、そう考えると妥当だ。だが、倒せるのか?」

「誰に言ってんだよ。余裕でいける」

 

 オレ達が会話している間もスライムは触手を振り回して暴れようとしているが、念力で抑えつけているため身動き一つ取る事も許されない。

 

 そのままオレは空高くまでスライムを持ち上げる。どうやら水場からの距離が離れれば離れるほど操れる水は少なくなるようで、体に纏っていた水のほとんどはオアシスへと戻っていった。空中でもがき続けているスライムの体は大分小さくなり、もう二メートル程度の大きさしかない。

 

 そんなスライムにオレは人差し指と中指をくっつけた状態でピシッと向け、極小のエネルギー弾を発射する。大きさで言えば数ミリ程度しかない小さなエネルギー弾は体のほとんどが水分で構成されるスライムの内側へと入り込み、更にその先にある魔石へと埋め込まれる。

 

 そして、

 

「爆ぜろ!」

 

 その言葉を合図にして、エネルギー弾を爆破させる。

 

 

 

「……汚い花火だ」

 

 

 

 核である赤い魔石を内側から粉々に爆破されたことにより、スライムの体を構成していた水分は力を失いただの水へと戻る。かなり上空で爆破したからか、まるで雨のように大量の水がオレ達へと降り注ぐ。

 

「もう……終わった、のか?」

「ああ、気は完全に消えた。これで少なくとも、オアシスの汚染がこれ以上進むことはない」

 

 アンカジを存亡の危機に陥れる可能性のあった魔物があっさりと撃破されたことにより、まるで狐につままれたような気分になっているであろうビィズ達。それでも、元凶が目の前で消滅したことは確かなので、オレを警戒しながらも暗殺者は水質の鑑定を行う。

 

「……どうだ」

「……ダメです。浄化されたわけではありません」

 

 期待したような声でビィズが確認するも、返答は望んだものではなかった。オアシスから汲んだ水で作ったお茶も汚染されていたから、それも当たり前ではあるのだが、分かっていても落胆は隠せていない。

 

「そう気を落とすな。オアシスを汚染させる元凶は倒したんだ。今よりも状況が悪くなることはないだろ。それに今のオアシスのままでもポポロの母親みたいな例外でなければ、十分飲料水として機能はするし、新鮮な水なら地下からいくらでも出るんだろ? それならそう遠くないうちに元のオアシスは取り戻せるはずだ」

 

 このまま大の大人がうじうじとしてるのを見ていても腹が立つだけなので、オレは慰めの言葉をかけてやる。自分でも少しらしくないとは思ったが、オレの言葉を聞いたビィズは気を取り直し復興に向けて意欲を見せ始める。

 

「……しかし、これで仁殿には大きな借りができてしまったな。先ほどの彼女の件もそうだが、我々が気づかなかったオアシスの汚染まで解決してくれるとは……一体どうやってこの恩を返したものか」

 

 気を取り直したビィズは救国に対する礼についてもう考え始めている。今も『一度父上にご相談して……』とか呟いているし。個人的には秘密を守ってくれることが一番なのだが。

 

 

 

「そこまで難しく考えなくていいだろ。さっきの条件さえ守ってくれれば、オレは無理に報酬を求めたりはしない。だからそこまで大事にする必要は……っ!?」

 

 

 

 色々と面倒なことになっても嫌だから、無難な落としどころを提案しようとしたその時、いきなり背後から殺気を感じたオレは瞬時に体を横にずらす。

 

 しかし、その動作は少し遅かった。

 

 

 

 背後から振り下ろされた剣によって、オレの右腕は宙を舞った。




おまけ

とある親子の会話

「ねぇ、ポポロ。そういえばあなたが連れて来てくれた旅人さん。凄く綺麗な人だったわね。将来あんな人がポポロのお嫁さんになってくれるとお母さん嬉しいんだけどなー」
「……お母さん。お兄さんは、男の子です」
「…………ぇ?」
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