ピンクの魔人と共に   作:クー(無課金勢)

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今回は楽しい楽しい迷宮攻略回です。


グリューエン大火山

【グリューエン大火山】

 

 アンカジ公国より北方に進んだ先、約百キロメートルの位置に存在しているソレは、見た目だけを見るならば、火山というよりはとんでもなく大きな巨石だった。いわゆる溶岩円頂丘のような平べったい形をしており、まさに巨大な丘という呼び名がピッタリと合う。

 

 ただ、その標高と規模から、七大迷宮の一つとして周知されているにも関わらず、オルクス大迷宮ほど冒険者が頻繁に訪れることはない。その理由は様々あるが、一番のものは、そもそも近づくことさえ困難であるからだろう。

 

 その原因こそ、

 

 

 

「おいおいおい、デカいとは聞いてたが、ここまでのは想定外だぞ」

 

 

 

 今、まさにオレの行く手を遮る巨大な砂嵐にある。

 

 その大きさはただでさえ巨大なグリューエン大火山の姿を完全に隠してしまう程であり、もはや砂嵐というよりは、巨大な動く壁といった方がしっくりとくる。

 

 加えて、脅威がそれだけではないというのが面倒な話だ。砂嵐の中にはまるで隠れているかのように巨大ミミズやその他の魔物がうじゃうじゃと潜んでいる。視界の確保すら難しいこの砂嵐の中で、奇襲を仕掛られでもしたならば、並の冒険者では太刀打ちできないだろう。

 

「これは……マジで地上を進まなくて正解だったな」

 

 アンカジにて、グリューエン大火山を覆う砂嵐の存在自体は教えられてはいた。所詮砂嵐程度だろうと高を括っていたが、実際に自分の目で見てみればその規模はオレの予想を遥かに超えていた。

 

 わざわざ視界の確保が難しい砂漠の中を歩くのが嫌だという理由で、巻き上がる砂よりも遥かに高い上空を舞空術で飛んでいたのが幸いした。もし地上を歩いていたならば、死にはしないにせよ、確実に足止めを食らっていたに違いない。

 

 とはいえ、ただ空を進むだけで攻略できるほどこの砂嵐も甘くはない。

 

「入口はなし。上空からの侵入も不可能。しかも、高度が高くなるにつれてどんどん強くなってやがる……めんどくさすぎるだろ」

 

 一通り砂嵐の周囲を調べてはみたが、見えるような所に通り道はない。それに高度が高ければ高いほど砂嵐の勢いは増している。なんの対策も無しに入れば、恐ろしく強いかまいたちに襲われたかのように、体がズタズタに切り刻まれるだろう。

 

 これはオレの推測だが、空から侵入する難易度と地上を進む難易度にはそれほど大きな違いはない。どうやら、この迷宮を作った主は余程正面突破で挑戦して欲しいようだ。

 

 しかし、それはなんだか相手の思惑に乗せられた感じがして気に入らない。それに、オレはどちらかといえば立ち塞がる壁は乗り越えるよりもぶっ壊して進むほうだ。

 

「……あ! そうか。壊せばいいのか」

 

 その瞬間、オレの脳がとあるアイデアを閃いた。。

 

「スゥゥゥゥゥ!」

 

 そのアイデアを実行すべく、オレは大きく空気を吸う。吸って、吸って、吸って吸って吸って……肺に入る限界まで吸って、体内へと取り込んだ空気を自身の気と混ぜ合わせる。そして、すべての空気を気と混ぜ合わせると、それを勢いよく吹き出した。

 

「ブウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 

 オレの口から吹き出された空気はまるで巨大な竜巻のように渦を巻いた形状となり、砂嵐へと衝突する。

 

 衝突する二つの竜巻。その威力はすさまじく、砂漠中に巨大な轟音が響き渡る。巨大な音に驚いたのか地中に眠っていた魔物達が勢いよく飛び出し始める。

 

 今、オレの吐いたブレスは威力だけでいうならば、一つの国ぐらいは容易く平地にしてしまう程はあるだろう。それほどのものが直撃すれば、いくら巨大な砂嵐とはいえただで済むはずもない。事実、先ほどまでオレの前に立ち塞がっていた砂嵐はオレが吐いたブレスに巻き込まれるようにして、遥か遠くまで消えていった。

 

「目には目を、歯には歯を、風には風をってところかな?」

 

 大分脳筋的な考え方かもしれないが、こうして邪魔な砂嵐を吹き飛ばせたなら結果オーライだ。ついでに砂嵐の中に姿を隠していた魔物達も一緒にぐちゃぐちゃになって飛んでいったが、被害があるとすれば周囲が血の海になったぐらいでしかない。気にする必要はないな。

 

「おっと……そんなことよりも早く入口を探さないと」

 

 今は一時的に吹き飛ばしたが、この砂漠ではどうせすぐに新しい砂嵐が作られるだろう。それでもしばらくは火山を守る脅威はないが、急ぐことに越したことはない。オレはグリューエン大火山の入口っぽい物がある頂上へと降り立った。

 

 そこは、無造作に乱立した大小様々な岩石で埋め尽くされた煩雑な場所だった。尖った岩肌や逆につるりとした光沢のある表面の岩もあり、奇怪なオブジェの展示場にも思える。

 

 そんな奇怪な形の岩石群の中、群を抜いて大きな岩石がオレの目を引いた。

 

「……どう考えてもこっから入るんだよな?」

 

 それは歪にアーチを形作る全長十メートルほどの岩石。その下には『俺が入口だぜ!』と主張するかのような大きな下りの階段もある。オルクス大迷宮の時もそうだったが、意外にも入口が隠されていない。というより、むしろ目立っているような気さえする。元々解放者は隠れ家として七大迷宮を作ったらしいが、本当に隠れる気はあったのだろうか。

 

 そんな疑問が一瞬頭をよぎったが、今はそんなことどうでもいい。新たな砂嵐が形成される前にさっさと階段をおりてしまおう。

 

 

 

「よーし、それじゃあ行くか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グリューエン大火山の内部は、オルクス大迷宮以上にヤバい場所だった。魔物の強さとか難易度がどうこうとかいう問題ではない。内部の構造が何よりもキツイのだ。

 

 まず、どういう仕組みかは分からないが、マグマが宙を流れている。念のため言っておくが、オレの頭がおかしくなったわけじゃない。文字通りマグマが物理法則に逆らって、空中を川のように流れているのだ。

 

 少なくとも、オレの知っているマグマは浮かびなんかしないし、急にウネウネと動き出したりなんかもしない。改めて魔法がなんでもありだということを思い知らされた。

 

 それに当然ではあるのだが、通路や広間のいたるところにある普通のマグマにも注意を割かなければならない。ただまあ、これに関しては宙を浮かぶマグマに比べれば断然マシだ。

 

 問題はもっと別の所にある。

 

「っ……!? あっちぃ!! うわっ、マジかよ腕溶けてるじゃん」

 

 そう。このように壁のいたるところから唐突にマグマが噴き出してくるのである。本当に突然な上に、事前の兆候もない。それに生物じゃないから気も感じない。まさに天然のブービートラップだ。

 

 熱源感知の技能でもあれば、事前にマグマの噴出を察知できただろうが、今のオレではマグマが噴き出してから直撃するまでに気合で避けるとかいう反射神経に頼り切った方法ぐらいしか対応策がない。

 

 それでも、一回や二回ぐらいならまだなんとかなったんだが、十や二十といったようにバンバン来られてはいくらオレでも限界というものがくる。実際にさっきのマグマにも思いっきり直撃して左腕が一本溶けてなくなった。オレに再生能力がなかったら本当にヤバかったと思う。

 

 そして何より厳しいのがこの暑さだ。いや、このレベルはもう熱さと言った方がいい。いたるところにマグマがあるから当たり前といえば当たり前ではあるのだが、外の砂漠なんかとは比べ物にならないくらい暑い。まるで熱したオーブンの中に放り込まれたかのような気分だ。

 

 

 

 そんな焼けるような暑さに耐え、ダラダラと皮膚を溶かし、天井付近を流れるマグマから滴り落ちてくる雫や噴き出すマグマをその身に受けながらも、オレは反射神経による回避と超再生による回復のごり押しで進んでいき、ようやく八階層へと続く階段を降りきった。

 

 アンカジで聞いた話では、ここから先の階層へ降りて生きて帰った者はいないらしい。この迷宮は文字通り死ぬほど暑いが、それでも十分な対策をしていればここまではそう苦労せずとも辿り着ける。だからこそ、オレはその話に疑問を感じていたのだが、その答えはこの階層に来てすぐに、知ることとなった。

 

 まさに八階層へと降りたその瞬間、強烈な熱風に煽られたかと思うと、突如の眼前に巨大な黒い火炎が迫って来た。

 

「うおっ、あぶな!」

 

 オレは反射的にエネルギー弾で黒く渦巻く火炎を迎え撃つ。最初こそ、その大きさに驚きはしたものの、どうやら火炎自体の威力はそこまで強力ではないようで、あっさりと相殺に成功した。そして、視界を塞いでいた火炎が消滅したことにより、射線上の襲撃者の正体が明らかとなった。

 

 それは、全身にマグマを纏わせ、鋭い二本の角を生やし、口から呼吸の度に炎を吐き出す雄牛だった。見た目から分かるように、そのマグマ牛には炎の耐性があるようで、足は思いっきりマグマの中へと突っ込まれている。このクソ暑い中でも平然としていられるなんて羨ましい体質だ。

 

 自身の攻撃を防がれたマグマ牛は、まるで怒り狂ったかのように足元のマグマをドバッ! ドバッ! と足踏みで飛び散らせ、オレに向かって突進を開始する。

 

「そらよっと!」

 

 しかし、その速度はオレにとってはあまりにも遅すぎる。気で感知するまでもなく、余裕で目で追うことすら可能だ。それに考えなしの直線的な攻撃程度、避けられないはずもない。ギリギリまでマグマ牛を引きつけて、オレはその突進を紙一重で回避する。

 

 どれだけ特殊な能力を持っていようとも所詮牛は牛。急ブレーキ機能などあるはずもない。マグマ牛は高スピードを保ったままオレの背後にある壁へと衝突した。そして、そのままマグマ牛は先程までの荒ぶっていた動きを止める。一体何が? そう思いオレが目を凝らしてよく見て見れば……角が壁に深く突き刺さってしまい身動きがとれなくなっている。

 

「……馬鹿かな?」

 

 思わずそんな言葉が漏れる。もし分かってやってるんだとしたら随分とお笑いが分かってる魔物だ。テレビに出しても恥ずかしくない。

 

 そんな場違いな感想をオレが抱いている間もマグマ牛は必死に角を抜こうとあがき続けているのだが、かなり深くまで刺さってしまったのか大分苦戦している。こんな状態の敵に攻撃するのも多少罪悪感を感じはするが、オレは躊躇うことなくエネルギー弾を放つ。当然、避けることも防御することもできないマグマ牛は完全に無防備な状態でエネルギー弾を受け爆散した。

 

「なんというか……七大迷宮の魔物がこれでいいのか……」

 

 期待外れ、というよりはなんか残念だった。強さではなく厄介さで考えれば、今のマグマ牛はオレの戦った魔物の中でも上位に食い込むだろう。ただ、同じ七大迷宮でもオルクス大迷宮の魔物の方が恐ろしさでは上だった。これからもあんな魔物ばかりが来るのだと考えるとちょっと気が抜けてしまう。

 

「いや、強すぎるよりかはマシか。さっさと神代魔法を頂いてこっから出よう」

 

 魔物に関しては多少思うところがあったが、別に悲観することでもない。最終的な目標が定まっている以上、今はこの迷宮の攻略を優先した方がいい。すぐさま切り替えたオレは最深部へと向かうため、下へと続く階段を探すために足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 その後は階層を下がる毎に魔物のバリエーションも増えていった。マグマの翼を持つコウモリ、めちゃくちゃ皮膚が熱いウツボ、火炎を纏う針を飛ばすハリネズミ、舌にマグマを纏わせたカメレオン、溶岩水泳部所属の蛇など……

 

 マグマを貫通できるほどの攻撃でなければ無効化してしまう上に、マグマを隠れ蓑に奇襲を仕掛けてくる。だが、この魔物達の一番厄介なところが……どれも戦闘能力自体は大した事がないくせに、マグマという安全地帯をすぐそばに用意してることだ。魔物側の奇襲を防いで、攻撃に移ろうとした時にはすでに逃げていたなんてことはもう数えきれない。

 

 砂嵐を突破できるだけの力をもった冒険者でも、魔物が出る八階層以降に降りて戻れなかったというのも頷ける。大した強さは持っていないが、不意打ちと退避を繰り返すヒット&アウェイの戦術は何よりも厄介だ。これに加えて、周囲のマグマにも注意を割かなければいけないのだ。よほどの実力がなければ集中力が続かないだろう。

 

 その上、個体での戦闘能力が高いわけでもないから手に入る魔石もショボいというのが余計に質が悪い。せいぜい、オルクス大迷宮でいう40層レベルの魔物が持つ魔石が手に入れば良い方だ。

 

 

 

 それでも、今のオレにとっては数だけは多いここの魔物の存在には意外と助けられていた。

 

 下の階層へと続いていくにつれて上がっていくのは魔物の強さだけではない。ただでさえ肌を焼くようなこの暑さが、さらに暑くなっていくのだ。そして、だんだんと上昇していく温度に少しづつ頭がおかしくなっていったオレは、自分でも気づかぬ内に魔物をアイスに変えて食べまくっていた。しかし、あながちその行動は間違いではなかった。

 

 体内に冷たいものを取り入れたことで、少しづつ冷静さを取り戻したオレは、それからも手あたり次第に発見した魔物をアイスに変えて食べることで、体を内側から冷やしていった。その効果もあり、快適とはいえなくとも、オレはこの焼けるような暑さの中でもスピードを落とさずに階層を下ることが出来た。

 

 

 

 

 

 

 それから、どれほどの階段を降りただろう。間違いなく五十階層以上は降りてきた気がする。そして何度目かも分からな階段を下った後、ようやくオレは最後っぽい場所にまでたどり着いた。

 

「……はあ、はあ。やっとゴールか。長かった」

 

 そこは、かつて見たオルクス大迷宮の最終試練の階層よりも尚、広大な空間だった。自然そのままに歪な形をしているため正確な広さは把握しきれないが、少なくとも直径三キロメートル以上はある。地面はマグマで満たされており、所々に岩石が飛び出して、僅かな足場を提供している。

 

 遥か高くにある天井には穴が開いていて、そこからは僅かだが空が見える。多分あそこから外に出れるんだろう。

 

 周囲の壁も大きくせり出している場所もあれば、逆に削れているところもある。空中には他の階層と同様に無数のマグマの川が交差し、そのほとんどが下方のマグマの海へと消えていく。灼熱地獄が本当にあるならきっとこんな景色なんだろう。

 

 そして、なにより目を引いたのがマグマの海の中央。そこには、海面から十メートル程の高さにせり出ている岩石の島があった。それだけならば、他の足場より大きいというだけのただの岩石なのだが、その島の中央は明らかに不自然なマグマのドームに覆われていた。

 

「どう考えても、アレが解放者の住処だよな?」

 

 あそこまで分かりやすければ誰だって分かる。それを理解したオレが一歩、階段からその空間へと入り込んだその瞬間だった。宙を流れるマグマからマグマそのものが弾丸のごとく飛び出してきた。

 

「っ……そりゃあくるよな」

 

 ここがグリューエン大火山の最下層である以上、オルクス大迷宮と同様にラスボスがいてもおかしくない。オレは頭上より迫るマグマの塊を同数のエネルギー弾で相殺する。しかし安心したのも束の間、マグマの海や頭上のマグマの川から先ほどの倍以上の数の炎塊がマシンガンのごとく撃ち放たれた。

 

「クソッ、場所が悪いな」

 

 今、オレの立っている足場は他の足場よりは大きいが、それでもこの数の炎塊を避けきれるほど動けるスペースはない。オレは地面を勢いよく蹴り、足場から離れる。その直後、先程までオレがいた足場には凄まじい物量の炎塊が直撃する。少しでも逃げるのが遅れていればきっとハチの巣にされていただろう。

 

 だが、安堵している余裕はない。炎塊の勢いは増すばかりで収まる様子はなく、今も空中に浮かぶオレに向かい襲い掛かってくる。これほどの数が相手では一つの場所にとどまるのは悪手でしかない。

 

「……きりがないな」

 

 飛んでくる炎塊よりも、オレが飛ぶ速度の方が速いからだろう。縦横無尽に飛び回ることで今のところは炎塊は回避し続けている。足場は少なくとも、ここの空間自体が広いのは運が良かった。足場を必要としないオレにとっては相性が良い。

 

 だからといって、逃げてるだけじゃあどうにもならないというのも事実だ。しかし、そもそも倒すべき敵がどこにも見当たらない。

 

「少し、調べるか……」

 

 このまま逃げ回っても埒が明かない。それならあからさまに怪しい場所を調べようと、オレが中央の島に乗り込もうとしたその瞬間、

 

「……お? このタイミングで来るか」

 

 マグマの海の中から突如出現した魔物の気がオレに向かって接近してきた。そう簡単に近づかせてくれるはずもないとは思っていたが、やはりその推測は正しかった。このまま迎え撃ってもいいが、何が来るか分からない以上警戒は必要だ。オレはその場から離れて様子を伺う。

 

「ゴォアアアアア!!!」

 

 直後、数秒前までオレがいた場所に全身がマグマで纏われた巨大な蛇がバクンッ! 口を大きく開けて噛みつくようにして現れた。完全な奇襲を受けていたら危なかっただろうが、事前に気を察知していたオレからしてみれば脅威でもなんでもない。隙だらけマグマ蛇の頭に一発エネルギー弾をぶち込んでやった。

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 普通の魔物ならこれでおしまいだっただろう。だが、やはり最深部のボスだ。一筋縄ではいかなかった。

 

 エネルギー弾で頭を吹き飛ばされたはずのマグマ蛇は当たり前のように動き出し、オレに体当たりを仕掛けてくる。動き自体は遅いため、回避は難しくないが、頭を吹き飛ばされても普通に生きている生物がオレ以外にいるとは思わず少し動揺してしまった。

 

「本体じゃない……ってわけじゃないな。体そのものがマグマで出来てるのか」

 

 そう推測しながらも、オレはマグマ蛇から再び距離を取る。そんなオレに追撃をかけるように今度は次々と第二第三のマグマ蛇がマグマの海から飛び出してくる。

 

「ははは、この数は少々骨が折れるかもな」

 

 流石、中央の島を守るガーディアンだ。単体では大した強さはなくとも、数でその欠点をカバーしている。しかも、いつのまにか頭を吹き飛ばしたマグマ蛇の頭が元通りの状態に戻っている。再生能力ももっていると考えた方がいいだろう。

 

「跡形もなくなるまで吹き飛ばすか、魔石を破壊するか……どっちかだな」

 

 魔物である以上、体のどこかには必ず魔石が存在する。魔石は魔物にとっての核のようなものだ。魔石さえ破壊してしまえば、どれほど強力な魔物であっても死は避けられない。

 

 問題があるとするならば、外側からではマグマ蛇のどこに魔石があるのかぱっと見で分からないってことだ。魔力感知の技能があれば容易に見つけることも可能だろうが、残念ながらオレはそんな便器技能は持っていない。

 

 だからこそ、オレがその結論にたどり着くのは必然だった。

 

 

 

「やるなら派手に、ぶっ飛ばそう!」

 

 そんなオレの言葉と、総数二十体のマグマ蛇が一斉に襲いかかるのは同時だった。

 

 マグマの海を移動しながら、いつの間にかオレを取り囲んでいたマグマ蛇達は、口から炎塊を飛ばしながら急迫する。360度、全方位からの一斉攻撃。逃げ場はない。だが……避ける必要もない。

 

「みんな纏めて、消えちまえ!」

 

 体の内側から気を高め、その気を全方位へと放出する。すると、オレを中心に広範囲に渡って大爆発が発生する。エネルギー弾すら耐えられないマグマ蛇が高めた気の爆発を防げるはずもなく、その強力な爆発を至近距離で食らったマグマ蛇達は跡形もなく消し飛ばされていく。その体のどこに魔石があったとしても、間違いなく破壊できただろう。

 

 しかし、これで終わってくれるほど試練も簡単ではなかった。

 

 気による爆発でマグマ蛇達を消し飛ばした次の瞬間には、きっちり二十体のマグマ蛇が揃っていた。

 

「おいおいおい……どういうことだ? 確かに手ごたえはあったぞ」

 

 間違いなくさっきのマグマ蛇は殺した。にも関わらずこうして目の前に存在しているということは、今現れたのがさっきとは別個体であるか、もしくは蘇生すら可能とする化け物か。可能性でいえば前者の方が高い。というかもし後者だったら勝てる気がしない。

 

「ん? あれは……」

 

 その時、ふと中央の島に視線を移せば、岩壁の一部が拳大の光を放っているのに気がついた。先程は気がつかなかったが、どうやら岩壁に埋め込まれている鉱石からオレンジ色の光が放たれている。

 

 よく目を凝らして確認すると、かなりの数の鉱石が規則正しく中央の島の岩壁に埋め込まれているのが見えた。鉱石が並ぶ間隔と島の外周から考えると、ざっと百個ぐらいの鉱石が埋め込まれているだろう。そして今光を放っている鉱石が二十個……ちょうどオレが消滅させたマグマ蛇の数と同じ。ここまでヒントを貰えれば、結論はすぐに求められる。

 

「なるほど、そういうことか。回数制限があるならやりやすい」

 

 

 

 あの鉱石の数がマグマ蛇の残機。つまり、後百回殺せばオレの勝ちだ。

 

 

 

 ただでさえ暑さと奇襲により疲弊している挑戦者を、最後の最後で長時間かつ高い集中力を保ちつづけなければならない状況へと追い込む。七大迷宮の名に相応しいいやらしさだ。勿論、オレもここまで降りてくるのにそこそこ疲弊はしたが、体力の消耗でいえば微々たるものだ。ゴールが見えているならばそう苦行ではない。

 

 その仕組みをオレが理解するのと同時に、再びマグマ蛇達が襲いかかってきた。マグマの塊を豪雨のごとく、大質量のマグマ蛇が不規則な動きを以て獲物を捉え焼き尽くさんと迫る。

 

 しかし、慌てる必要はない。オレはマグマ蛇の攻撃を空中を飛び回りながら躱し、反撃を与えていく。

 

 時には、襲い掛かってきたマグマ蛇にカウンターでエネルギー波を撃ち込み。

 時には、天井スレスレから雨のようにエネルギー弾を降り注がせ。

 時には、固まっているマグマ蛇達をイノセンスキャノンでまとめて吹き飛ばし。

 時には、変化ビームで無害なものへと変化させてからマグマの海へと投げ捨て。

 時には、アンカジにいたスライムのように内側から粉々にし。

 時には、体の一部をあえて食わせたうえで自爆させ。

 時には、最初にやったように広範囲に大爆発を引き起こす。

 

 

 

 そんな感じで様々な方法を試しながらマグマ蛇を殲滅していると、気がつけばマグマ蛇は最後の一匹になっていた。本格的な戦闘が始まってから、まだ十五分程度しか経っていない。きっとオルクス大迷宮を攻略する前のオレであったなら倍以上の時間がかかっただろう。こうして自分の成長を実感できるのは久しぶりだから少し嬉しい。

 

「必殺、ロケットパーンチ!」

 

 そして、最後のマグマ蛇に向かってオレは自分の右腕を引きちぎって投擲する。投げられた腕は真っすぐとマグマ蛇に向かって飛んでいく。その速さはオレが全力で投げたというのもあるが、肉体操作によって腕だけの状態でも舞空術の使用が可能となり、更に加速する。

 

 そのままオレの右腕はマグマ蛇の体の中へと入り込む。高温のマグマの中ではあるが、気で腕を覆えば数分ではあるが、溶けることなく耐えることができる。そして、マグマ蛇の体の中にある魔石を切り離した腕で掴み、握り潰す。

 

 もはやロケットでもパンチでもないが、魔石を潰されて体を保つことのできなくなったマグマ蛇は体を崩して絶命する。そして、中央の島の岩壁を確認すると、規則正しく埋め込まれた全ての鉱石が発光していた。

 

「クリア……でいいのか?」

 

 オルクス大迷宮の時に比べてなんともあっけないボスだったこともあり、あまり実感は湧かないが、一応クリアでいいのだろう。もうマグマ蛇の気は感じないし、隠れている気配もない。ヒュドラのような第二形態もないはずだ。

 

 

 

 そう油断しきっていたオレの前に、そいつは現れた。

 

「……っ!? 新手か!」

 

 それは、マグマの海の上に広がった直径五十メートル程の巨大な魔法陣。この形状の魔法陣は何度も見た。ベヒモスやヒュドラの時と同じ召喚の魔法陣。

 

 つまり、これから何かが召喚されようとしている。

 

 魔法陣はどんどん輝きを増していき、遂に弾けるように光を放った。咄嗟に再生させた腕で目を潰されないよう守る。そして光が収まった時、そこに現れたのは……

 

 

 

「マグマの……巨人」

 

 

 

 推定体長五十メートル、マグマの海から上半身のみを見せ、その右手には二十メートルはあるであろう巨大な斧。埴輪のような光のない目と口を付けた顔はオレへと向けられており、その体には大量のマグマを纏わせていた。

 

 まさに、マグマの巨人と呼ぶにふさわしい姿の化け物がそこにはいた。




今回使った必殺技

『フレイムシャワーブレス』
口から気と混ぜ合わせた強烈な息を吹き出す。グリューエン大火山を覆う砂嵐を破壊する際に使用。火力はあるが、大地に必要以上のダメージを与えられないように考慮された技。対人では雑魚処理ぐらいにしか使えないが、国や町や自然現象を掃除する時には便利。
『ドラゴンボール』では魔人ブウが街を吹き飛ばす際使用した。

『アングリーエクスプロージョン』
高めた気を周囲に解放し、広範囲に大爆発を引き起こす。大量発生したマグマ蛇を撃退する際に使用。火力、範囲ともに強力ではあるが、発動に多少時間を必要とするのが欠点。
『ドラゴンボール』ではベジータとの戦闘中に使用した。

『ロケットパンチ』
腕を投げて急所を掴んで潰す。最後のマグマ蛇討伐に使用。普通に自分で移動した方が速いし強いため、テンションが上がった時の魅せプ以外に使い道はなし。



今回から登場した技についての説明を加えていこうと思います。ほとんど『ドラゴンボール』の技をそのまま持ってきているので、小説本文の説明だけでも分かる人はいるとは思いますが、念のためです。
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