ピンクの魔人と共に   作:クー(無課金勢)

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潜在能力解放

 視界には、一面赤が広がっていた。

 体中に焼けるような痛みが走る。

 四肢は溶け、手足の感覚はすでにない。

 自分の体が少しづつ液状になっていくのが分かる。

 それでも、オレの体が動くことはなかった。

 

 

 

 想定すらしていなかったマグマの巨人の口内から放たれた高エネルギーの砲撃。その攻撃によってマグマの海に沈められたオレは、灼熱のマグマの中でただひたすらに肉体を再生させ続けていた。

 

 マグマの海から脱出しようとも、先程までの攻防で気をかなり消耗したため、今のオレでは舞空術で体を浮かすことすらままならない。少し休めば回復するだろうが、この状況ではそれも不可能だ。肉体の再生に残った体力を持ってかれ、休むどころかどんどん消耗していく。

 

 そして何より、再生があるからといって、受けたダメージまで消えるわけじゃないことが辛いところだ。今もなお、オレの体には継続的に肉体をドロドロに溶かされるような強烈な痛みが走っている。その治まることのない痛みは消えることなくオレの体に蓄積する。

 

 生き地獄という言葉はこういう時に使うべきなのかもしれない。

 

 肉体を内側から溶かすような痛みの連続にオレは発狂することも、意識を失うこともできず、奇跡を望んで体を再生させ続けるが、そんな都合の良い展開が訪れるわけもない。だんだんと再生が間に合わなくなり、マグマによって体の六割ほどが溶けて消失した。

 

 いっそのこと、もう再生を止めて死んでしまおうか。

 

 あまりの激痛から、そんな弱気なことをオレが考え始めたその時、

 

 

 

『それでいいのか?』

 

 

 

「……ぇ」

 

 どこか聞き覚えがある声が、オレの頭の中に響いた。

 

『君にはやらねばならないことがあったのではないのか? 託された想いを忘れたのか? 君は一体、なんのために生きることを望んだ』

 

「オレが……生きる理由……」

 

 幻聴かと思えたその声は、再度オレに語り掛けてくる。

 

 その言葉を聞いてオレの脳内にとある記憶が駆け巡る。再開を願った幼馴染の少女のことを、遥か未来の人間に希望を託した男のことを、人類の敵であるにも関わらず、オレを救った魔人のことを。

 

『君の命は、君自身が考えるよりもずっと重い』

「オレの……い、のち……」

『そうだ。君の生存を望む者はこの世界に多くいる。君に救われたアンカジ公国の国民、君の生存を望む幼馴染である少女。君が命を賭けてまで助けようとした友人の少年、君が助け君を助けた魔人……』

 

 謎の声はまるで心でも読んでいるかのように、オレが頭に浮かんだ相手を上げる。

 

『……そして、私もその一人だ』

「ぁ……おまえ、は」

 

 すると、オレの目の前に薄っすらとピンク色の人型の煙のようなものが現れる。その煙はだんだんとはっきりとしたものへと形を変えていき、見覚えのある姿へと変化した。

 

 

 

「オスカー……オルクス……」

 

 

 

 それは、解放者にして【オルクス大迷宮】の主。そして魔人ブウに殺された人間の一人。オスカー・オルクスだった。

 

『だからこそ、私は君に力を貸そう。私程度の権限では制限された力の一部を解放することが精一杯だが、ナイズの試練なら、それだけでも十分だろう』 

「なに、を……いって……」

『それはすぐに分かる。今は試練を突破することだけに集中するといい。しかし、最後にこれだけは伝えておこう。()()はどんな時であっても君の味方だ。これだけは忘れないでいてくれ』

「ま……ってくれ。おまえは……いったい……」

 

 そのオレの言葉が届くことはなく、オスカーは先程のような煙となって消えていく。そして、その直後の事だった。

 

「っ!? な、何だ!?」

 

 突如、オレの気が異常なほどに膨れ上がった。

 

「違う。増えたんじゃない。なんだこれは……まるで今までが()()()()()()()()()みたいだ」

 

 気が増えたというよりは、今まで無理矢理抑えていた気が解放されたかのような感覚。初めて経験する事態にオレは困惑する。例えるなら、今までは少量の水しか出せなかった蛇口がぶっ壊れて勢いよく水が吹き出したかのような感じだ。今も際限なく気が溢れ出てくる。

 

 それに、再生速度も今までとは比べ物にならないほどに速くなっている。マグマの中であるにも関わらず一瞬の内に溶けた四肢が再生し、体力もほぼほぼ100%回復した。

 

 しかもそれだけではない。肉体そのものが頑丈になったのか、先程まで体を溶かしていたマグマすら、ちょっと熱い程度にしか感じなくなっている。

 

 原因は不明だが、オレの体のあらゆる機能がレベルアップしていた。

 

 いきなり状況にオレの頭はついてはいけなかったが、それでもこれだけは確実に理解できた。

 

「これなら、勝てる!」

 

 

 

 

 

 

「すげぇ……体の底からどんどん力が湧き上がってくる」

 

 体の修復を終え、マグマの海から飛び出したオレは自分の体に起きた変化に純粋に感激する。今もなお、体の奥底から溢れ出る気。何がどうしてこのような現象が起きているかは分からないが、今はそこについてはさほど重要ではない。今知るべきは、オレがどれだけ戦えるかだ。

 

「さて、それじゃあ第二ラウンドといこうか」

 

 そう宣言し、オレは目の前の敵に目を向ける。

 

 そこにはマグマの海から飛び出してきたオレに再度斧を振り下ろそうとするマグマの巨人の姿があった。それでも今のオレに焦りの感情はない。気が爆発的に増えたことで心の余裕が出来たというのもあるが、先程と違って、その攻撃に全く危機感を感じなかった。

 

 マグマの巨人の動きが襲いことは先ほど戦いの時からも分かっていたが、今のこれは遅いという言葉で済ませていいものではない。例えるならばスローモーションビデオのように、その攻撃はオレにとってゆっくりとしたものだった。

 

「オスカー……使わせてもらうぞ」

 

 オレは振り下ろされる斧を右側に回避し、それと同時にとある魔法を左手で触れた斧に使用する。魔法が無事発動されたのを確認したオレはマグマの巨人から大きく距離を取る。

 

 直後、攻撃を外した斧は何度も見たように先ほどまでオレが沈んでいたマグマの海を切り裂いた。だが、今度はマグマ剣が生まれることはなく、飛沫となったマグマは蒸発したかのように煙となって消滅した。

 

 

 

「やっぱり、生成魔法による上書きは有効だったか」

 

 

 

 オレが使った魔法、それは【オルクス大迷宮】にてオスカーから使えるようにしてもらった魔法である生成魔法だ。

 

 生成魔法は鉱物に魔法を付与する魔法。本来ならば武器の強化などに使う魔法ではあるが、この状況であれば相手の弱体化にも使える。

 

 あの斧に生成魔法でマグマ剣を作る魔法が付与されていることは一番最初にマグマ剣が作られた時から理解していた。だからこそ、オレは付与された魔法に別の魔法を上から重ねて付与した。

 

 流石に一度付与された魔法を消すことはオレにも無理だったが、新たな魔法を上から重ねることで無力化することぐらいならできる。

 

 付与した魔法の効果は『マグマを気体化』

 

 たった今、思いつきで習得した魔法だったが、上手くいってよかった。

 

 斧に付与された魔法が上手く発動しないことにマグマの巨人は多少焦った様子を見せるも、今度は左手でマグマを掬い、三体のマグマ蛇を作り出す。

 

「それも知ってる」

 

 マグマ蛇を作れる数は最大で同時に三体。体内に魔石を所持していないからこそ再生能力はなく、長時間の体の維持も不可能。落ち着いて対処すれば、警戒するほどの敵ですらない。

 

「切り刻む!」

 

 右手にピンク色の刃状のエネルギーを纏わせ、襲い掛かるマグマ蛇達を手刀で切り裂く。文字通りの八つ裂きにしたマグマ蛇は体を再生することなく、マグマの海へと沈んでいく。そして、オレはそのまま刃状のエネルギーを纏わせたまま、マグマの巨人に向かって右手を大きく振り、巨大な斬撃を飛ばす。

 

「AAAAAaaaaaaaaaa!!!」

「桃色ソード……いや、ダサいな。"サクラブレード"とでも名付けておくか」

 

 高速で飛んでいく幅二十メートルはあるであろうピンク色のエネルギーの刃はそのままマグマの巨人に直撃し、その左腕を根本から切断する。どうやらマグマ蛇とは違い、体の中までマグマで出来ているわけではないようで、マグマの巨人は切断面から滝のように赤黒い血を流す。

 

「まだまだ終わらねぇよ。さんざんやってくれたんだ。今度はオレの新技の実験台になってくれ!」

 

 鼓膜を破きそうなほどの悲鳴を上げ、痛みに苦しむマグマの巨人に追い打ちをかけるようにオレは手のひらを上に向け、自分の頭上に大量のエネルギー弾を生み出す。

 

 マグマの巨人へと飛ばすわけでもなく、頭上に浮かばせたエネルギー弾の形状をオレはゆっくりと変化させ、日本刀のような姿へと変える。その数はざっくり千本。先ほどまでマグマの巨人が散々やった攻撃をオレは気で再現させる。

 

「貫け、"千剣豪雨"!」

 

 刀の形をとった大量のエネルギーの塊を常人ならば視界で捉えることすら困難な速度で雨のように降り注がせる。マグマの巨人は斧を盾にして防ごうとするが、そんなことは想定内だ。放った気の刀の軌道を操作し、まるで刀に意思があるように斧を避けてマグマの巨人へと直撃させる。

 

 少なくとも先ほどの斬撃と同等の気が込められた大量の刀がマグマの巨人の体に次々と風穴を空ける。刀が突き刺さる度に巻き上がる血しぶきと頭に響く悲鳴。それは、間違いなくマグマの巨人にダメージが入っていることを意味していた。

 

「よし。それじゃあ次は……なんだあれ?」

 

 体中に風穴を開け、ボロボロと体を崩していくマグマの巨人。その体に異変が起き始めたのは、その巨大な右腕が崩れ落ちた時だった。マグマの巨人の胸のあたりから十メートルはあるであろう巨大な赤く輝く楕円形の宝石が剥き出して現れた。

 

「魔石……いや、違う」

 

 一瞬、魔石だと思ったが、あそこまでのサイズの魔石など見たことがない。それに、魔力感知の技能を持っていないオレでも分かるほどに、あの宝石からは膨大な魔力を感じる。

 

「魔力の結晶体……と考えるのが妥当か」

 

 完全な推測となるが、純度100%の魔力の塊、それがオレの予想するあの宝石の正体だ。証拠はないが、そう考えれば色々と納得するところもある。

 

 大量のマグマ剣を作り出す斧、マグマ蛇を生み出す左手、口から出るビーム、マグマの巨人が使う技はどれも膨大な魔力を必要とするはずだ。付け加えれば、目がないことから常時”熱源感知”も使っていただろう。分かっているものだけでも必要となる魔力量は膨大だ。

 

 最初こそ魔物だからそういうこともあるだろうと、特に根拠もない理由で納得していたが、その仕掛けがあの宝石にあると考えれば納得できる。恐らく、無尽蔵とも思えるほどの魔力が濁流のように宝石からマグマの巨人へと流れている。だからこそ、あんな馬鹿げた攻撃を可能にしていたのだ。

 

「……まあいい。どちらにせよ、アレが弱点であることに変わりはない」

 

 オレの予想通りだったとしても、予想が外れて魔石だったとしても、マグマの巨人にとってあの宝石が核のようなものであることには違いない。壊せば終わりだということは変わらない。

 

「ん? 何が起きてる」

 

 すぐさまあの宝石目掛けて攻撃を仕掛けようとしたその瞬間、剥き出しとなった宝石が激しく輝きだした。赤く輝く宝石は見た目は綺麗であるが、どうも嫌な予感しか感じない。

 

「……っ!? 嘘だろ。大迷宮ごとオレをぶっ壊す気かよ!」

 

 そして、その予感は的中した。

 

 オレの第六感が正しければ、今までマグマの巨人の体へと流れていた魔力を全て宝石の中央の一点に集中させている。一体何をするつもりかは分からないが、どんな形のせよこのままあの魔力を解放させれば、【グリューエン大火山】は崩壊する。

 

 今のオレならば、崩れた火山に潰されたところで死ぬことはないだろうが、大迷宮を破壊されるのは非常に困る。

 

「おい! 壊すのは勝手だが、神代魔法は置いていけ!」

 

 そんなオレの叫びも虚しく、さらに輝きを増した宝石は電流の走る赤黒い光線を放った。どう考えてもさっきの口砲の十倍以上の火力はあるであろう光線。こんなものが大迷宮に直撃すれば、ただでは済まない。

 

 避けるのは簡単だ。だが、避けた場合は間違いなくこの迷宮は崩壊する。そうなればオレの今までの努力は水の泡だ。さらに高火力の攻撃で押し返すという方法も可能ではあるが、それをしてしまえば、今度はオレの攻撃で大迷宮が崩壊する危険がある。というか多分そっちの方が被害はデカい。

 

「クソッ……受け止めるしかないか!」

 

 だからこそ、オレには防御以外の手段はなかった。

 

「すぅー……はぁ!!」

 

 両手を前に突き出し、襲い来る赤黒い光線を素手で受け止める。手のひらから焼けるような痛みが走り、皮膚がどろどろと溶けていく。だが、消滅するよりも速く再生させ、これ以上の光線の進行を食い止める。

 

「はあああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 火力はあるが、防げない程ではない。オレはそのまま押し返してやるほどの勢いで力を込めて光線を抑える。そうして、どれほどの時間続いただろう。おそらく数秒しか経っていないであろうが、体感では十分ぐらいには感じられた。

 

 そして、それは遂に終わりを告げた。

 

 

 

「……はぁはぁ、終わった、か」

 

 手のひらを襲う衝撃が無くなり、周囲は先ほどまでの戦闘が嘘だったかのように静まり返る。視線を向けてみれば、マグマの巨人の胸にある赤い宝石はその輝きをなくし、数秒後、パキンッと音を立てて砕け散った。

 

 おそらく、貯蔵されているすべての魔力を今の攻撃に注いだのだろう。心臓部である宝石が砕けたことにより、マグマの巨人の体は纏っていたマグマごと灰のように白く染まり、ボロボロと崩れていく。

 

「魔力切れ……か。まさに、最後の切り札ってやつだったな。それにしても、まさか迷宮をぶっ壊そうとしてくるとは。少し前のオレのだったら大分ヤバかったぞ」

 

 原因不明の急成長をした今のオレだからこそなんとか耐えられたが、もし前のオレが相手だったら普通に殺されていた気がする。

 

 しかし、そこにオレは違和感を感じた。

 

 オスカーの記憶を覗いた限りだと、七大迷宮は挑戦者を試すための試練の場であって、殺すための戦場ではない。だからこそ、大迷宮の魔物が挑戦者を殺そうとするのが当たり前だとしても、迷宮を破壊しようとする魔物がいることには驚いた。

 

 試練を与える者が、試練の場である迷宮を潰そうとするという行為は少しどころか、かなり異常だ。それに、マグマの巨人からは道連れにしてでもオレを殺してやるという殺気を感じた。

 

 そこで、一つの推測が浮かぶ。

 

「まさか、オレのためだけの特別仕様とか……ないよな?」

 

 あのマグマの巨人が大迷宮の挑戦者の試練用ではなく、魔人ブウを迎え撃つためのガーディアンだと考えれば辻褄は合う。

 

 【オルクス大迷宮】の時は、オスカーとブウとの間に色々とあったからそういうのはなかったが、普通に考えれば解放者にとってブウの存在は自分達の命を狙うめちゃくちゃ強い奴なのだから警戒しないはずがない。

 

 自分の隠れ家に専用のトラップを用意するのも、自分の力を渡すぐらいならば迷宮の壊してでも殺そうとするというのも納得できる。

 

「信じたくはないが……その可能性は十分にある。それなら、他の迷宮も似たような仕組みになってると考えた方がいいな。はあ、オレがブウになった以上は仕方ないことだとはいえ、面倒だな」

 

 そんな風にオレがこれからの迷宮攻略に不安を募らせていると、先程まで中央の島を覆っていたマグマのドームがなくなっていることに気づいた。そこには漆黒の建造物と、その傍らに浮遊する円盤の姿があった。円盤の方は外へと続く天井へのショートカット用出口だろう。

 

「あれはもしかして……いや、このタイミングで出てくるってことは確実か。とりあえず達成報酬は貰っておこう」

 

 確証はない。だが、現れたタイミングと火山に似合わないその形状から、あの建造物が解放者の住処であると判断したオレは、中央の島へと降り立ち、扉も何も無いただの長方体に近づく。

 

 すると、七大迷宮を示す文様の刻まれた壁が、まるで自動ドアかのようにスッと扉が開いた。魔法で再現された現代技術にオレは少し驚きつつも、中に入ると再び、スっと音もなく扉が閉まる。

 

 一瞬、新手の罠かと焦ったが、それが間違いであることはすぐに悟った。

 

「なるほど。どうやら正解みたいだな」

 

 その部屋に入ってすぐに、複雑にして精緻な魔法陣を見つけたからだ。この魔法陣は全く同じものではないが、【オルクス大迷宮】で似たようなものを見たことがある。試練を突破した者に神代魔法を与える魔法陣だ。

 

 危険がないことは分かっているものの、オレは多少警戒しながら足を踏み入れる。

 

 その瞬間、記憶が勝手に溢れ出し迷宮攻略までの過程が脳内を駆け巡る。そういえば、オルクス大迷宮の時にも似たようなことがあった気がする。あの時はただ思い出しただけだと思っていたが、どうやらこれが迷宮をクリアしたかどうかの採点方法らしい。

 

 そして、マグマの巨人ではなく、マグマ蛇を全て討伐したことで攻略を認められたようで、脳内に直接神代魔法が刻み込まれる。

 

「"空間魔法"……ね。移動に便利そうだ」

 

 習得した魔法は空間魔法。文字通り空間に干渉する魔法だ。まだ習得したばかりだから、完璧には理解できていないが、その気になれば空間転移すら可能にするだろう。随分と使い勝手がよさそうな魔法だ。

 

「しかし……こっちの方はなんの問題もないんだな。てっきり魔法陣の方も魔人ブウ専用に弄られてるんだとばかり思っていたが」

 

 マグマ蛇達を倒したことで迷宮攻略を認められたならば、あのマグマの巨人がオレ専用の裏ボスであるという推測にさらに現実味が帯びる。だからこそ、きっと神代魔法を刻む魔法陣にもなにかしらの細工があると警戒していたのだが、どうやらその不安は杞憂に終わった。

 

 そんな感じに思考を巡らせていると、魔法陣の輝きが収まっていく。すると、カコンッと音を立てて壁の一部が開き、更に正面の壁に輝く文字が浮き出始めた。

 

 

 

"人の未来が 自由な意思のもとにあらんことを 切に願う"

 

                          

"ナイズ・グリューエン"

 

 

 

「……え、これだけ?」

 

 そのメッセージを見て、オレは思わず呆気にとられた。オスカーは記録映像まで残してそれっぽいこと色々言ってくれたのに比べて、まさかの一言コメントだった。

 

 よく周囲を見渡してみれば、この部屋もグリューエン大火山の創設者の住処にしては、かなり殺風景な部屋だ。本当に、ただ魔法陣があるだけの部屋でしかない。

 

「ナイズは……ミニマリストだったのか」

 

 オスカーの記憶からもナイズ・グリューエンの印象は良い言い方をすればストイック。悪い言い方をすれば遊び心のない人物だ。

 

 そういう男だということ自体は知っていたが、ここまでだとは思わなかった。やはり、他人の記憶だけでは真実は分からない。一番最初に攻略した迷宮がここだったならば、きっと言葉の真意が何も伝わっていないだろう。

 

 少し予想外ではあったが、オレは気を取り直して先ほど開いた拳サイズの壁に近づく。そこにあったのは、意匠を凝らしたサークル状のペンダントだった。

 

 オルクス大迷宮の宝物庫と同様、迷宮を攻略した証だろう。オシャレアイテムにしてはそこそこの物だとは思うが、戦闘する際には邪魔であるため宝物庫に放り込む。

 

「これで神代魔法と攻略の証を手に入れた。よし、出るか」

 

 グリューエン大火山でやるべきことは全て終わった。もうこの迷宮に用はない。オレは魔法陣のある部屋から出て、すぐ横にある円盤の上に飛び乗る。

 

 すると、円盤に刻まれた魔法陣が輝き、いい感じに体に負担をかけないくらいの速度で天井に空いている穴まで上昇し始める。このままいけば無事に迷宮から出られるだろう。そう判断したオレは円盤の上に座り込み、ほっと一息ついた。

 

 

 

「……そういえば、あの時出てきたオスカーは結局なんだったんだ?」

 

 

 

 今さらながらに、そんな疑問を思い浮かべて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは、どのにあるのかも分からない濃いピンク色の壁に囲まれた謎の空間。ところどころに赤い球体が浮かび、空間全体には壁と同じような濃いピンク色の粘糸のような物が無数にみられる。その上、その場にいるだけで人体に有害な影響を与えてしまうほど汚染された空気。常人ならば数分もすれば発狂し、死に至るだろう。

 

 そんな場所に、一人の男が立っていた。

 

「どうやら彼は本当に君の力に適応しているようだ。一つだけではあるが、枷を解いたにも関わらず未だ正気を保ち続けている。いいや、それだけではないな。新たに得た力をすでに自分の物にしている。本当に規格外だ」

 

 黒いローブに身を包んだその男は、何も存在しない空間に声をかける。

 

「まだ私に与えられた範囲でしか力は解放させていないが、それでも普通の人間では気が狂う程に大きな力だ。最初は信じられなかったが、実際に彼をこの目で見た今ならば信じられる。君達が彼を気に入る理由もよく分かったよ。あのような人間は私が生きていた時代にも存在しなかった」

 

 男は返事を返さないナニカと会話するかのように、話を続ける。

 

「分かっているさ。私達は基本不干渉。彼が己の力で強くならなければ意味がない。今回の件については反省しよう。だが、結果的には間違っていなかった。彼は命を落とさず、強力な力に適合した。実際に()()だって彼が負けそうになってあたふたしていたじゃないか。それに免じて不問にはしてくれないか?」

 

 そう苦笑いを浮かべながら男が言った直後、男の足元にピンク色のアメーバ状のなにかがへばりついた。

 

「なるほど……ダメか」

 

 諦めたかのような表情をして、肩をすくめる男の体はどんどんアメーバ状のなにかに覆われていく。

 

 

 

「一つ目の枷は外された。残る枷はあと二つ。もう私は手を貸すことはできない。これから先は、君一人の力で頑張ってくれ。期待しているよ。風磨仁」

 

 

 

 その言葉を最後に男、オスカー・オルクスはピンク色のナニカに完全に包まれ、姿を消した。




必殺技紹介

『サクラソード』
手刀に刃状のエネルギーを纏わせ、敵を切り裂いたり斬撃を放つ。マグマ蛇を倒し、マグマ巨人の腕を切り落とす際に使用。気の消費が少ない割に高い殺傷能力を持つ。イメージはサウザーのサウザーブレードやゴクウブラックの気の刃。

『千剣豪雨』
千本の刀の形を取ったエネルギーの塊を雨のように頭上から降り注がせる。マグマの巨人に攻撃する際に使用。気の消耗が少ない代わりに高い殺傷能力を持つ技だが、気の形状変化とその後の操作に集中力が必要なため、あまり連続では使えない。
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