船に乗ってGO
見渡す限りの青。
そう表現したい程の大海原のど真ん中に、オレはいた。
空は地平の彼方まで晴れ渡り、太陽の光は燦々と降り注ぐ。しかし、決して暑すぎるということはなく、気候は穏やかで過ごしやすい。時折、優しく吹くそよ風は何とも心地いい。ただ、周囲をどれだけ見渡しても、何一つ物がないのは少々寂しいところだ。
そんな大海の上でオレは今、
「お前……何者だ」
「……」
二十人ほどの海人族に囲まれ、槍を四方八方から突きつけられていた。
〇
時は遡り、数時間前。
大迷宮の内側からのショートカット用の出口である円盤に乗って【グリューエン大火山】を火口から脱出したオレは、少しの休憩を挟んでから、海へと出る西に向かって空を進み始めた。
次の目的地であり、【グリューエン大火山】からの距離が最も近い七大迷宮である【メルジーネ海底遺跡】は名前からも分かるように海の底に存在する。だが、いくらオレがオスカーの記憶を持ってるといっても、広大な海のどこに大迷宮があるのかは大体でしか分かっていない。
しかし、見つける方法は知っている。
大迷宮を見つける鍵は二つ。一つは【グリューエン大火山】のクリア報酬として手に入ったあのペンダント。もう一つは、夜空に浮かぶ月の光。この二つが揃わなければ、例え誰であろうとも【メルジーネ海底遺跡】へと辿り着くことはできない。
オレが【グリューエン大火山】の攻略を優先した理由の一つがこれだ。単純に近かったからというのもあったが、こっちの方が理由としては大きい。
そんなわけで、オレは大迷宮のある海に向かって飛び続けていた。
道中、マグマの巨人との戦闘で異常な程にパワーアップしていたせいで、スピードが上がり過ぎた舞空術を自分でも制御できず、想定よりも時間がかかってしまったものの、数時間程度で砂漠地帯を超え、海が見える場所にまでやってこれた。
きっと、このまま飛び続ければ、すぐに目的の場所にまで辿り着けるだろう。
だが、オレは敢えてその選択を取らない。
月の光が【メルジーネ海底遺跡】を見つける鍵となる以上、少なくとも日が暮れるまでは待たなければならない。オレに文字通り昼夜逆転の力でもあれば話は別ではあったのだが、あいにくそんなチート過ぎる力は持ちあわせていない。
だが、運の悪いことに、どうやらオレが【グリューエン大火山】で色々頑張っていた間に丸一日、時間が経過していたようで、朝から大迷宮に挑んだというのに今も朝だ。つまり、どこかで夜まで待つ必要がある。
別に、ただじっとしているというのも不可能ではない。こちとら【オルクス大迷宮】で長期間の野宿生活を送ってきたんだ。今更半日くらい大したことはない。ただ、いくらオレでも不眠不休で七大迷宮連続攻略RTAは精神的にキツイ。正直にいえば、どこかで宿をとって体を休めたい。
だったらどうすればいいか。その答えを既にオレは持っていた。
『海上都市エリセン』
そう呼ばれる海の上に造られた都市がこの先にはあるらしい。以前、ハジメと共に人魚にはどうすれば会えるかと必死に本を読み漁った結果、人魚ではないが、似たような種族がそこで暮らしていることを知った。
エリセンならば観光客も多いだろうから、宿の施設も整っているに違いない。そこに行けば、体を休めるくらいは十分に可能だ。
だが、少し問題がある。
エリセンに行くこと自体は簡単だ。だが、問題は行った後だ。
オレが装備しているマントにオレの体色を変えて、人間に近い姿へと変える魔法が付与されていることはもう何度か説明しただろう。そして、その最大の弱点は舞空術を使う程度の気ですら、解放すれば簡単に壊れてしまうことだ。
ここで今の状況を整理しよう。
1. エリセンは海の上にある
2. 海の上である以上、舞空術の使用は必須
3. 舞空術の使用中は人間への擬態は不可能
4. 人間に擬態せずにエリセンへと入れば、確実に騒ぎになる
5. 困る
さて、どうしよう。
元々、国とか町とかの近くにある人気のない場所で魔法を発動させてから歩いて入ることを前提として作ったアイテムだったのだが。その場所が海の上となれば話は変わってくる。早くも調整する必要性が出てきた。
「……せめて、船でもあればな」
単純に飛ぶ以外の方法で考えると、真っ先に思い浮かぶのが船の存在だ。気さえ使わなければいいのだから、海を渡る手段さえあれば問題ない。要するに、エリセンに着いた時にマントに付与された魔法を発動してればいいのだ。
「"変化ビーム"で作れるか試してみるか……ん? あれは」
そんな感じで、オレが海を渡る方法について頭を悩ませていたその時、地上にとあるものを見つけた。
「漁船……か?」
そこには、今にも海岸から巨大な船を出航させようとしている人間の集団があった。船員の多くが釣竿らしき物を所持してることから漁船かただの釣り好き集団だと予想できる。その集団は現在、大人数で船に荷物を運んでいる。
「まさに、渡りに船ってやつだな」
それがエリセンへと向かうものであるかはまだ分からないが、まさに今、船を必要としているオレにとって好都合過ぎる状況だ。
あまりにもタイミングが良すぎることに対して少し不安はあったが、このチャンスを逃してはいけないと思いオレはすぐさま行動する。
慌ただしく動き回る人間達に見つからないよう、オレは地上に着陸する。そして、姿を隠してマントに付与された魔法を発動させると、いかにも今来ました。という雰囲気を出しながら一人の男に声をかけた。
「そこのおじさん。少しいいか?」
「んあ? おい、嬢ちゃん。親はどうした? ここは子供が一人で来ていい所じゃねぇぞ」
「じょ、嬢ちゃんって……まあ、いいか」
その集団の中でもリーダー的な雰囲気を醸し出す『the 漁師』って感じの恰好をした五十代くらいのムキムキのおっさんはオレの姿を見ると、目を細くして睨みつける。
ビィズのせいでちょっとした男性恐怖症になりかけていたオレは嬢ちゃんと呼ばれたことに嫌悪感を示すも、すぐに会話を再開させた。
「親はいない。少し訳があって一人旅をしてるんだ。ああ、安心してくれ。ある程度は戦闘に心得がある。あっちの砂漠にいる魔物程度なら負けはしないさ」
「その年で親を……そうか、大変だったんだな」
「いや、まあ大変ではあったが……って今はそんなことどうでもよかった。聞きたいことがあるんだ。あんたらはもしかしてこれからエリセンに向かうんじゃないのか?」
オレは『親は(今は一緒に)いない』的なニュアンスで言ったんだが、どうやら『親は(この世に)いない』的な感じで受け取られてしまった。ただこれを訂正するとなれば最悪の場合、異世界召喚関係の話までしないといけなくなる。
余計な話は早々に終わらせ、オレは本題へと入る。
「ああ、そうだな。ちょうど今から船を出すつもりだ」
「なるほどなるほど」
少し話を詳しく聞くと、この船に乗る者は全員エリセンに暮らす漁師のようで、今回は陸を挟んで反対側の海にまで漁に出ていたらしい。そしてたった今、数か月ぶりに家族や友人達が待つエリセンへと帰るところだという。
その話は、罠かと疑ってしまうほどにオレにとって望んでいた展開だった。目的地であるエリセンに余計な寄り道をせずに向かうというだけでなく、エリセンに暮らす人間であるから、余計な手続きとかもスルーできる可能性がある。
もうこの船に乗れと、神が言ってるような気さえ……いや、やっぱり勘違いだ。エヒトがそんなこと言うはずがない。
そんなことはさておき、オレは早速このおっさんに交渉する。
「それなら、オレもこの船に乗せてくれないか? 丁度オレもエリセンに行きたいと思っていたんだが、困ったことに海を渡る手段がない。そちら側さえ良ければ、エリセンまで同乗させて欲しい。勿論タダでとは言わない。運賃ぐらいは払おう」
「……なっ!?」
そう言ってオレは袋一杯に入った金貨を男に手渡す。怪しげな視線をオレに向けながらその中身を見た男は驚きのあまり目を丸くする。ちなみにこれはオレがアンカジを救った時に貰った報酬の三分の一くらいだ。普通の漁師の稼ぎのざっと二年分くらいはある。これだけ出せば断られることはないだろう。
そう、思っていたのだが。
「……悪いが、この金を受け取るわけにはいかねぇな」
「あれ?」
男は、なんと金貨の入った袋をオレに無理矢理押し返してきた。
一瞬、オレは何をされたのか理解ができず呆然とする。良くも悪くも、この世界の人間の多くは欲望に忠実だ。普通ならばこれほどの金銭を差し出されて受け取らない者はいない。少なくとも、オレはそう思い込んでいた。
「俺にもプライドってもんがある。どれだけ金を積まれても受け取るつもりはねぇよ。いいか、嬢ちゃん。いくら金があるからって、そう簡単に人間を思い通りに動かせるとは思わない方がいい」
「いや、でも船に乗せてくれるだけでいいんだが……というかそれ以外の目的ないし」
「それでもだ」
「えー……頑固すぎだろ」
「好きに言え。なんと言われようと、この金は受け取らねぇ」
どうやら金がどうこうとかいうよりも、他者から金とか権力の力で動かされること自体が気に入らないらしい。他人の意見を聞かないという点でいえば、頑固おやじというやつに近いのかもしれない。きっと断られる側がオレでなければ、好感を持てた相手だろう。
そんな、この世界では珍しい筋の通った人間だからこそ、オレもこれ以上粘るのを辞めた。
「はぁ、仕方がない。分かった諦めるよ。どうやら今のオレではあんたを動かすことはできないみたいだな。時間を取ってすまなかった。オレは別の方法を探すことにするよ」
「……待ちな。どこに行くつもりだ?」
「いや、だから別の方法を……」
「エリセンに行きたいんだろ? 早く乗りな」
「ンンン??」
これ以上この男と交渉をしても無駄だと理解し、早々に次の手段を探すべく背を向けたオレの肩を漁師の男はガシッと掴む。いきなりの状況に思わず振り向くと、男は後ろにある船を親指で差しながらそんなことを言ってきた。意味が分からない状況にオレの頭は疑問符で一杯になる。
「いや、さっき乗せないって……」
「俺は金は受け取らねえとは言ったが、乗せねぇとは言ってねぇ。それに、娘と同じ年ぐらいのガキをこんなとこに置いてく大人がいるか。だが、船に乗せる以上は働いてもらう。嬢ちゃんに船の仕事は難しいだろうが、戦えるんだろ。それなら、移動中の護衛くらいはしてもらう」
「……ツンデレかな?」
要するに、この男はこう言いたいんだろう。
『ガキが一丁前に交渉してねぇで、さっさと乗れ!』
なんというか、まあ、分かりずらい。多分、坂上やメルドと同様の熱血タイプだ。それに加えて素直になれないという男にあっても全くときめかない要素がプラスされてなんとも面倒な性格が出来上がってやがる。
娘がいると言っていたが、なんとなく娘のために頑張ってるのに『パパ嫌い!』と言われている姿が容易に想像できてしまう。
「それで、乗るのか乗らないのかどっちなんだ?」
「あ、はい。じゃあ乗せてもらいます」
とはいえ、乗せてくれるなら断る理由はない。漁師の言葉に甘え、オレは船へと案内された。
「あ、そういえば伝え忘れてたけど……」
「おう、どうした?」
「オレ……男だから。そこんところ間違えないように」
「……………………そうか」
そんなこんなで色々ありながらも、エリセンへと向かうこととなったオレだったが、その道中は精神的にかなりキツイものだった。
この船の船員はオレが最初に声をかけたおっさん、マリク・フィルキンスのような結構な年のおっさんばかりだった。勿論、中には女性や若い男もいるにはいるが、ごく少数だ。そんな船に子供、しかも女性? が乗っていれば嫌でも注目を引く。
ここであからさまに避けてくれれば、ある意味楽ではあったんだが、船員の反応はその真逆だった。
『どこから来たのか?』とか『年はいくつなのか?』とか『恋人はいるのか?』とか、興味津々な様子だった。陰キャという程、人付き合いが苦手というわけではないが、天之河クラスの陽キャでもないオレにとっては、この状況はかなり辛かった。。
周りを親ぐらい年の離れたおっさん達に囲まれ、終わることのない質問攻めを受ければ、肉体はともかく精神は疲弊する。そしてついに、限界が訪れそうになったその時だった。
奴らが襲ってきたのは。
「な、なんだあぁ!?」
「うぉ!? 襲撃か!」
「何が起こった! 何かにぶつかったか、それとも魔物か!?」
「魔物だ! 真下から来てる!」
「ちんたらしてんじゃねぇ! さっさと動け、船を守るぞ!」
最初にオレ達を襲ったのは船全体を揺らすほどの大きな衝撃だった。長年の経験から船員達はテキパキと迎撃の準備を始める。
本来ならば、大砲などを装備させていないこの世界の船では、魔法による攻撃が戦闘の主軸となる。だが、今この船に乗る船員に魔法を使える者はいない。普段は海人族の護衛を雇っているらしいが、今回は一度船を降りて地上を進むため雇わなかったらしい。
だからこそ、船員達は各々の武器を手に甲板へと走り出していく。もし相手が弱い魔物だったならば、それでも問題なかっただろう。しかし、どうやら相手が悪かった。
「なんだよ……アレ」
一人の船員が海から姿を現した襲撃者を見て思わずそう口にする。
それは、海から伸びてきた三本のうねうねとうねる、吸盤の付いたタコとかイカに似た真っ赤な足だった。見える範囲だけでも十メートルくらいはあるその足によって締め付けられた船がギシギシと悲鳴を上げる。
「ボケッとしてないでさっさと動け! あの化け物を船から引き剥がさないと俺達が死ぬぞ! 武器を使える奴はあの足をひっぺがせ! それ以外の奴は避難しろ!」
想定外の魔物を相手に呆然としている船員達をマリクが怒鳴りつける。その威圧感のある声に船員達は続々と再起動して攻撃を開始するも、サイズ的な違いも大きいためダメージが入った様子はない。
このままでは、船の沈没は免れない。間違いなく船員達は死ぬだろう。
「まずいな。せめて海人族がいれば……いや、それでもあのサイズは無理か。とはいえ、オレが戦えばそれはそれで面倒なことになる」
アンカジに引き続き、よりにもよって人目が多いところでばっかそこそこ強い奴が襲い掛かってくる。本当についてない。きっとここ最近の星座占いは牡牛座が下位をさまよってたに違いない。
「嬢ちゃ……じゃないか。坊主、災難だったな。こんな日に限ってあんな化け物と遭遇しちまって。俺達もそうだが……坊主も相当ツキがないみてぇだな」
「ああ、オレもちょうどそう思ってたところだ」
「悪いが守ってやれる余裕はねぇ。怪我したくなければ下がってな」
「下がったところでこの船をやられたらおしまいだろ」
「……その時は諦めてくれ」
冷や汗を流しながらも、なんとか冷静を保ちながらマリクはオレに声をかける。ほぼ確でダメなのが分かりきってるにも関わらず、こうしてオレを落ち着かせようとするのはせめてもの大人の意地なのだろうか。
まあ、どうであろうと顔に似合わない性格である男だというのは確かだ。こういうタイプは面倒ではあるが、単純だからこそ好感を持ちやすい。
だからこそ敵には回したくないし、死なせたくない。そう思うオレの気持ちは確かにある。
「ああもう、仕方ない。ここで船を沈められるのはオレも困るしな。最悪の場合は記憶消去(物理)で何とかすればいい!」
「……坊主?」
色々悩んでも、正解はオレには分からない。それならいっそのこと今やりたいことをやろう。
「なあおっさん。オレが船に乗る前……言ったよな」
「なに……」
避難する様子を見せないオレに危機感を抱いたのか、少し戸惑っているマリクにオレは落ち着いて声をかける。多分この男的にはそういうことは好まないだろうが、この状況ではそれが最適だとしか思えない。
「忘れたのか? オレに護衛を頼んだだろ。その約束を果たしてやるよ」
「なっ!? 坊主それは……」
「分かってる。本気で言ったんじゃないんだろ。あんたはそういう性格の男だ。短い付き合いだがそれぐらいは分かる。でも、オレならあのタコだがイカだかよく分からない足をぶっ飛ばせる」
「は?」
マリクはオレの言葉を聞き絶句する。それもそうだろう。今もなお、大暴れしているあの巨大な足相手にオレが勝てるといっているのだ。信じられないのも無理はない。
「だが、オレが戦うとなれば、あんたらにオレの秘密を知られることになる。だから約束しろ。たとえオレの秘密を知っても絶対に口外しないことを。この船の人間の代表として誓え」
「一体……何をいって……」
「決断は急げ。さっさとしないと仲間が死ぬぞ。目の前には自分達では勝てない敵がいて、今ここにはこの状況を打開できるオレがいる。あんたならオレみたいなガキを戦わせるのは嫌かもしれないが、ここで取れる選択は一つしかないと思うぞ」
最初こそ、オレのいきなりの提案に困惑していたマリクだったが、話を聞いていく内にだんだんとオレの言葉の意味を理解していくと、悩むように顎に手を当てる。
「本当に……勝てるのか?」
「余裕だ。ただ、戦闘中にあんたの仲間を守れるかはちょっと自信がない。退避させてくれると助かる」
「……」
補足説明を加えると、マリクは目を閉じて数秒間思考する。しかし、それを敵は待ってくれなかった。
「うわああぁぁぁぁ!?」
突如激しく動き出した魔物の足に一人の船員が捕まった。体を魔物の足でグルグルと巻かれ、締め付けられた船員は悲鳴を上げる。ギシギシと骨がきしむような音がこちら側にまで響いてくる。
「さっさと決断しろ! 間に合わなくなるぞ!」
「ッ————————頼む!」
マリクがやっとオレを頼ることを決めたと同時に、オレはすぐさまマントの魔法を解除し、元の姿へと戻る。
「っ!? なるほど、そういうことか。おい、おまえら! 死にたくなかったら、今すぐそこから離れろ!」
姿が変わったことで、オレの隠したがっていた秘密のことを理解したマリクは、仲間を救うために魔物の足を攻撃し続けている船員達に指示を飛ばす。
船員達はいきなりの避難命令に困惑しつつも、こちらを見向きもせずにすぐさまその場を離れる。それほどまでにマリクと船員達との間には強い信頼関係が築かれているのだろう。
「よし、行くか」
まだ全員が避難したわけではないが、それを待ってられるほどの余裕はない。舞空術で一瞬の内に接敵したオレは至近距離からエネルギー波で足の魔物の海上から出た根本部分を吹き飛ばして、船員を拘束から解放する。
「あ……あれ? 俺は……ひぃ!?」
「黙れ、喚くな、あと死ぬな。……おらよ!」
「ああぁぁぁぁ……ぐへっ!」
魔物から解放された船員に"念力"を使って落下を防ぐ。自分の身に何が起きたのか理解できていない様子の船員だったが、オレを視界に入れた途端に小さく悲鳴を上げた。仕方ないとはいえ、ちょっとその反応にイラついたオレは船員を甲板の方にぶん投げた。
なんか凄いヤバそうな声はしたが、きっと死んではいないだろう。
「ん? おっと、タゲチェンか。こっちからしてみればやりやすいから別にいいけど」
足を吹き飛ばしたことで、この足の本体が何かしら反応をしたかどうかは分からないが、残った二本の足が標的を船そのものからオレ単体へと移す。
「さあ、派手にぶっ飛べ!」
目の前から迫る二本の足に向かってオレは腕をなぎ払うようにして、広範囲にエネルギー弾を飛ばす。
それは襲い掛かる魔物に真正面から直撃し、激しい爆発を引き起こす。
そして、爆発によって生じた煙が消えると、そこには……先ほどまで船を襲っていた魔物の姿は跡形もなく消滅していた。
「倒した……のか?」
「倒したというより、撃退に近いな。多分本体は死んでない」
オレが船へと着地し、周囲が静寂に包まれる中、ただ一人マリクだけがそう声をかけてきた。あくまで足を破壊したでけであるため、本体は死んでいないと思うが、新しい足が出てこないということは撤退したという判断でいいだろう。
今はそれよりも先ほどの約束についての話が先だ。
「分かってると思うが、この姿については秘密にしてくれ。別に人間の町で問題を起こすつもりはないが、バレると色々と面倒なんでな」
「勿論だ。そういう話だしな。お前らもそれでいいな! オレはこのまま坊主をエリセンまで送る! 文句はある奴は出てこい!」
その威圧感のある声に気圧され、異議ありとする者は現れない。だからといって納得できるかどうかの話は別らしく、船員達はザワザワと騒ぎ始める。その視線からはオレに対する不信感を感じられた。
「はぁ、一番上の人間が言ってもやっぱりこうなるか。アンカジみたいにそう上手くはいかないな……さて、どうするべきか」
やっぱり考えが浅すぎた。いくらこの船に乗ってる奴らがマリクに強い信頼を置いているからといって、なんでもかんでも信頼するわけではない。ここでオレに対する信用を少しでも上げておかなければ、第三者にオレの秘密を漏らす可能性は十分にある。
焦った様子をなんとか顔には出さず、オレが思考を巡らせていたその時だった。
「ん? これは……」
いつの間にか船を囲むような複数の気をオレが感じた次の瞬間、周辺の海からザバンッと何かが飛び出るような音と共に、海から何者かが飛び出してきた。
人間のような姿にエメラルドグリーンの髪、そしてヒレのような形状の耳。その特徴は以前本で読んだ海人族のものと一致していた。
船の上に着地した海人族達は、すぐさまオレを取り囲むと先が三股になった槍を突き付ける。周囲の船員達が状況についていけず、ざわめきが大きくなる中、一人の海人族がオレを睨みながら言った。
「お前……何者だ」
「……」
そうして、時は現在へと戻る。
オリジナルキャラクター紹介
名前 : マリク・フィルキンス
年齢 : 51歳
身長 : 198.4cm
体重 : 99kg
一人称 : 俺
性格 : 頑固・ツンデレ
海上都市エリセンで暮らす漁師の男。曲がったことが大嫌いだが、素直になりきれないという面倒な性格をしている。十歳程年の離れた妻と仁と同じ年齢の娘を家族に持ち、家族を養うためよく遠出の漁へと出かける。エリセンへと帰ろうと船を出す準備をしている最中に仁に声をかけられ、船に乗ることを承諾する。仁に対してはよく知らないけど多分悪い奴ではないくらいの認識。最近の悩みは娘の反抗期。