さて、とりあえず状況を分析しよう。こういうときこそ冷静にね。
オレの名前は風磨仁。色々あって魔人ブウに吸収されて、以降チートクラスの力を手にしてしまっただけのどこにでもいる一般人だ。三つ目の七大迷宮である【メルジーネ海底遺跡】へ行くために海上の町であるエリセンを目指していたところ、魔物に襲われ、海人族に襲われ、眼鏡が筋肉になり、色々とあった結果、オレは人間に攫われた海人族の娘を助けるために東へと向かった。そして、思いのほかあっさりと誘拐犯達を見つけたオレは華麗に男達を撃退し、かっこよく連れ去られた少女達の前に現れた……はずだったのだが。
「「「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」」
どういうわけか、今オレの目の前にはお互いの身を寄せ合いながらギャン泣きする。どこからどう見ても怖がっているようにしか見えない三人の女の子の姿が出来上がっていた。
「うん。一体どこで間違えた」
ちなみに、誘拐犯達は邪魔だったから海の方に向けて投げておいた。
それからしばらくして、必死の説得の末にオレはなんとか女の子達を泣き止ませることに成功した。
感想を言うとマジでキツかった。体力的にではなく精神的に。年が低くともそこそこ顔の良い女子複数人に顔面を見られただけで泣かれるのは男としてはかなり辛いものがある。
だが、問題はまだ残っている。
「はぁ、驚かせて悪かった。オレもそこまで怖がらせるつもりはなかったんだ。だから……少しくらいは話を聞いてくれないか?」
「「……」」
「うーん。全く信用されてない」
この流れで分かっていただけただろう。
先ほど説明した通り、確かに泣き止みはした。泣き止みはしたんだが……それだけだ。オレのことを信用してくれたわけではない。いや、正確には幼女二人に関しては警戒心はそこそこ薄れた。問題はオレと同年代くらいの少女の方だ。
黄金の髪に黒い肌、そして海人族特有の特徴である扇状のヒレのような耳、ちょっと黒ギャル感の強い海人族の彼女は先ほどからその吊り上がった瞳でオレを睨み続けている。つい先ほどまで攫われていたのだから警戒するのも分かるが、幼女二人をオレに近寄らせないように抱きしめながらじりじりと後ろに下がろうとするのはやめてほしい。
そんな時、この場で唯一の人間の幼女がその海人族の少女に声をかけた。
「メルちゃん……大丈夫。この人……悪い人じゃないよ」
それは、オレを擁護するような言葉だった。
「えぇ!? リ、リンちゃん!? ダメだよそんな簡単に信用しちゃ。見えてないから分からないと思うけどあの人の体すごいピンクだからね! あんないやらしい色した人なんて信じちゃダメだよ!」
いやらしい色って……随分好き勝手言ってくれるな。
「うっ……で、でも……あの人……悪い音しないから」
「……おと?」
その会話の内容から、やはりこの金髪の少女はマリクの娘であるメルだというのを確信できた。ひとまず救助する対象が間違っていなかったことにオレは安堵する。
ただ、どうやらそれとは別に新たな問題が浮き出てきた。
「はい。ちょっとストップ。『見えない』ってどういうことだ? さっきから目を閉じてるその子……もしかしなくても目をやられてるのか?」
「うん……病気、で」
「ふーん、病気ね」
元々海人族の少女二人を助けるためにここまで来たオレにとって完全に想定外なこのリンという少女。この場にいることから考えて、彼女も二人と同様に攫われて連れてこられたと考えるのが妥当だろう。
意識を失っているわけでもないのに、ずっと目を閉じているからもしかしたらとは思っていたが、案の定彼女の視力は失われていた。とはいえ、原因が病気だったのはまだ良かった。もし誘拐犯達に意図的に目を潰されたとかだったらさっきぶん投げた誘拐犯を追いかけて目玉を抉り取ってやるところだった。
ただ、彼女の今の状態は言い方としては悪くなるかもしれないが、利用できるかもしれない。
「えっと、リン……だったな。少し触れるぞ」
「え……あ、うん」
「ちょっと! 何するつもりですか!」
「見ていればわかる。安心してくれ。別に危害を加えるつもりはない」
警戒するメルをなだめつつ、オレはリンにゆっくりと近づき、その閉じた瞼に触れる。そして、"回復の術"を発動した。
すると、病気によって失われた視力が健康な状態へと治っていく。
「――よし、これでいい。目を開けていいぞ」
「なにか、したの?」
「いいから。さあ、早く」
オレの言葉にリンは困惑しながらも瞼を開けると、まるで信じられないとでもいいたげな表情で周囲を見渡す。
「……ぇ……あ……み、見える。目が……見える!!」
今まで見た事のなかった光のある景色を目にしたリンは感動のあまり大粒の涙を流す。そして、そんな彼女の様子を見てありえないといった表情を見せる少女がもう一人。
「な、なにを……したんですか」
目の前で起きた現象を理解できていないメルがそうオレに問いかけた。
「それに関しては後で説明しよう。だからもう少し警戒を解いてくれないか? 彼女の目を治したから信用しろ……というわけではないが、せめて話だけでも聞いて欲しい」
実際のところ、目の見えないリンに純粋に同情したという気持ちは当然ある。だが、リンの目を治せばメルの信用も得やすくなるかもしれないという意図も少なからずある。
しかし、それを口にすれば印象は確実に悪くなるだろう。だからこそ、オレはそれを悟られぬようにうまい具合にそれっぽい言葉を並べて説得する。
「……わかり、ました」
その言葉が刺さったのか、メルは少しの間考え込んでからオレに対して肯定を意味する言葉を発した。それを聞いたオレは心の中でガッツポーズを決める。
とはいえ、こんな状況ではのんきに話もできない。
視力の回復に涙を流し続けるリンと会話に入ってこないと思っていたらいつの間にか眠りについていた海人族のミュウと呼ばれる幼女。もはやまともに会話に参加できるのはメルしかいない。
子供とはいえ、二人を省いて話すわけにもいかないだろう。それに、話をするならこんな奴隷運搬用の馬車なんかではなく、外の方が気分的にもマシだ。
そのため、ひとまず説明は二人の幼女がまともに話せる状態になるまで待ってからということになった。
〇
「――さて、地図を見る限りはもうそろそろ町が見えてくるはずなんだが……」
「はぁはぁ……やっとですか。私は早く休みたいです。疲れた……」
「だからメルもおぶってこうかって言ったのに。遠慮なんかするから……今からでも乗るか?」
「乗りません! 年下の女の子におぶってもらうだなんて恥ずかしすぎます!」
「いや、年は同じだろ。それにオレは男だ。何度も説明したと思うんだが……」
「嘘です! じゃあなんで私より可愛いんですか! その顔と声で男なんて詐欺です!」
「オレだって好きでこんな見た目になってるわけじゃないんだが……いや、最近この姿が気に入り始めてるから文句は言わねぇけどよ」
「んー……全然見えないの。お兄ちゃん、もっと大きくなるの! 遠くまで見えないの!」
「ミュ、ミュウちゃん!? それはいくらお兄さんでも出来ないんじゃないかなぁ?」
「お兄ちゃんなら出来るの。ほら、早く大きくなるの!」
「えぇ……そうかなぁ……」
「君達は君達で好き勝手言ってくれるな。まあ出来なくはないけどさあ……やらないけど」
少女達を救ったあの日から二日後。
現在、オレ達はとある町へと向かい足を進めていた。
リンが泣き止み、ミュウが目を覚ました後、オレは三人に彼女達を助けるに至った経緯について説明した。リンの目を治したという事実もあるからだろう、最初は警戒していたメルも、父親のことを説明していく内に少しづつオレの事を信用してくれるようになった。そのため、話は意外にもスムーズに進んだ。
しかし、オレにとっての想定外はその後に起きた。
とりあえず三人をエリセンにまで連れて行こうとしたのだが、それを言うとメルとミュウは自分達より先にリンを家に送って欲しいとオレに頼み込んできた。
話を聞くと、リンはメル達よりも先に捕らえられていたらしく、当然囚われていた期間も二人に比べて長い。だからこそ、いちはやく親の元へと返して欲しいというのが二人の希望だった。
オレは最初、その願いを聞き届けるつもりはなかった。
リンには悪いが、優先度的にはメル達をエリセンに連れていく方が高い。単純のマリクへの恩があるというのもあるが、時間がかかりすぎれば本当にオレが誘拐犯にされてしまう可能性がある。
だから、リンを家に帰すのは後回しにするつもりだったのだが……リンのあの期待するような目で見つめられては、断ることなどできなかった。
そんなこんなで、リンの家族が暮らす町へと向かっていたのだが、その道中には障害にならない程度の問題が少々発生した。
汚くなった体を洗いたいと言った三人のために近くの川へと寄り道したまではよかったが、オレを当たり前のように女だと勘違いした三人が目の前で服を脱ぎ始めたり。
子供に歩かせるわけにはいかないとリンとミュウを肩に乗せた結果、二人……特にミュウが元気過ぎて落とさないようにするのが大変だったり。
どうせ町に行くのだからとマントの魔法を使って人間に擬態したはいいものの、オレの容姿がメルの女としてのプライドを傷つけたらしく、謎にブチギレられたり。
お腹を空かせたミュウにそこらへんの魔物をチョコレートに変えて食べさせたらメルとリンに異常な程ドン引かれ、そのままの流れで服もそこそこ綺麗なものへと変えるようにねだられたり。
近くの岩山を粘土のして、即席の家を作って寝泊りさせたのだが、意外にも最年長であるメルが一番我儘でベッドやら風呂を要求してきたり。
そんな感じでちょっとしたイレギュラーはありつつも、問題なく目的な場所へと向かって進んでいたオレ達はついにその場所へと辿り着いた。
「————ぁ……見えた」
「えっ!? あっ……ほんとだ!」
「えーと……アレかな? 仁さんどうですか? 見えますか?」
「ああ、見えてるさ。間違いない。アレが湖畔の町……ウルだ」
〇
「……変だな」
ウルとは、『湖畔の町』という名の通り水源が豊かな町であり、稲作が盛んであることから、観光地としてこの世界ではかなり有名な町である。
しかし、
「どうして町から出る奴が大勢いるのに、外から町に入る奴が一人もいないんだ?」
「え、そういえば……」
どういうわけか、必死の形相で今すぐにでも町を出ようとする人間は山ほどいるくせに、外から町の中に入ろうとする人間が一人も見当たらない。オレ達が入ろうとした時も門番に引き返すことを勧められたぐらいだ。理由は教えてもらえなかったけれど。
オレの疑問の声にメルもそれに気づいたようで辺りを見回す。
ウルはアンカジのような辿り着くこと自体が厳しい場所とは違い、近くに大きな町があることからも比較的簡単に行ける場所だ。それに加えて米料理があるから評判も良く、オレもこの町の存在を知った時にはいつかは行こうと決めていたぐらいだ。
そんな町に外から入る人間がいないのは普通に考えておかしい。
しかも、さっきから何度も見かける町から出る人間達はやけに焦っているようにも見える。その様子はまるで町から逃げているかのようだ。
どう考えても異常事態だとしか思えない。
「何かあったんでしょう?」
「だろうな。理由はどうあれ、楽し気なもんでないことは間違いないな」
別に深く考える必要もない。町から人が逃げるってことはそれほどのナニカがこの町にある、もしくは来るかだ。どっちにしろ、状況は悪い方に傾いている。
こういう時にすべき最善の行動。そんなもの一流のRPGプレイヤーのオレにとっては難題でも何でもない。
つまり答えは、
「おい、あんた。今この町で何が起きてるんだ?」
聞き込み調査だ。
新しい町に来たらまず誰かから話を聞く。これはRPGの常識だ。オレは門の方へと速足で歩く一人の男に声をかけた。
「あ、あんたら……こんな時にこの町に来たのか? ツイてないな。悪いことは言わねぇからさっさと帰った方がいい。もうこの町はおしまいだ」
「そこまで言うってことはやっぱりなにかあったんだな」
「ああ……さっき魔物の軍勢がこの町に進軍してるって報告が入ったんだよ。早ければ明日の朝にでも四万を超える魔物が町を襲ってくるってよ」
「……魔物?」
「ああ、そのせいで町中大騒ぎだ。俺も今から逃げるけど、あんたらもさっさと逃げた方がいい。死にたくはないだろ」
「なるほど、そういうことだったか……分かった。オレ達も用事を済ませ次第すぐに避難しよう。引き止めて悪かったな」
話を終えた男はよほど急いでいたのだろう、門の方へと走っていく。
「それにしても……魔物ときたか」
話を聞いたオレはすぐさまウル周辺にいる生物の気を探る。一度魔物と人間の気を区別して探知したことがあったからか、スムーズにここら辺一体に存在する魔物の気を探ることには成功した。
そして見つけてしまった。近くにある森の奥の方から迫ってくる大量の魔物の気を。
「……どうやら、本当みたいだな」
「「「……」」」
男の話に嘘はなかった。それを確信した言葉をオレが口にしたことで、メル、ミュウ、リンの三人は暗い表情を見せる。やはり、戦闘能力の低い彼女達からすれば魔物の存在は恐怖の象徴そのものなのだろう。
「お兄さん……大丈夫?」
リンは目尻に涙を浮かべながら心配そうにオレを見上げる。
とはいえ、事態はそこまで絶望的ではない。
気を探った時に分かったが、どうやらこの町にはたかが数万程度の魔物を撃退するにしては過剰過ぎる戦力が揃っている。オレからしてみれば大したことのない強さだが、一人でも魔物の群れを全滅させられるくらいの実力者が合計四人。
そして、何よりこの町にはオレがいる。万が一などあるわけがない。
だからこそ、オレはリンの頭を撫で、出来る限りの笑顔を浮かべて言った。
「大丈夫だ。オレを信じろ」
「……うん!」
まるで天之川が言いそうな中身のないセリフだが、その言葉を聞いたリンは先ほどまでの不安な顔からホッと安心したかのような表情へと変わる。
リンは漫画とかアニメでよくいる目が見えない代わりに耳が異常に優れているタイプのようで、相手の声色や心臓の音などからその人物がどんな人間なのか、嘘をついているのか、などといったことが分かるらしい。
オレはその技術を純粋にカッコいいと思ったが、それは目が見えないからこそ得てしまったという喜ぶべきか悲しむべきか分かりずらい特技だ。しかし、今はその発達した聴覚のおかげで、オレの言葉が本心からのものだと分かったからこそリンは安堵している。
「唯一の懸念点はリンの母親がいるかどうかだが……」
そう、それだけがオレが心配してるところだった。リンがウルへと帰る途中で母親とはぐれたと言っていたから来たというのに、この状況は完全に想定外だ。もしかしたらリンの親はすでに避難してしまっている可能性すらある。
その予想が的中してしまえば、リンの親を探す手がかりはもうない。
「ひとまず、リンの家に行ってみるか。場所は分かるか?」
「……うん。大丈夫」
「よし、それじゃあ行くぞ」
「……ハズレだな」
リンの案内を元に町の中を進み、多少道に迷いはしたもののそう時間をかけずにリンの家には到着した。
しかし、残念ながらオレの予想は当たってしまった。
窓から見える室内の電気は消え、扉には鍵が掛けられ、ノックをしても応答する気配はない。それに、家の中からも気は感じない。中に人がいないことは明らかだった。
「お兄……さん。私……どうすれば……」
今にも泣きだしそうな顔でリンはオレを見つめる。そんなリンにメルとミュウの二人が励ましの声をかけてはいるが、それほど効果はないように思える。
ここまで関わった以上、この場でリンの家族を探すことを諦めるわけにはいかない。とはいえ、もう残った手段といえば手当たり次第の聞き込みか避難した人間から虱潰しに探すしかない。あまりにも効率が悪すぎる。しかも、時間が経てば経つほど探すのは困難になる分こうして考える時間も勿体ない。
そんな風にオレが思考を巡らせている時、背後から一つの声が響いた。
「――リン?」
慌ててオレ達は振り向く。
そこには、
腰まで伸びた赤みがかった髪に紫色の瞳、どこか大人びた雰囲気を醸し出す、リンをそのまま大きくしたかのような女性が立っていた。
次回、久しぶりに彼が登場します。
オリジナルキャラクター紹介
名前 :メル・フィルキンス
年齢 :17歳
身長 :158.0
体重 :49.8
一人称:私
性格 :人見知り・ツンデレ
マリクの娘であり人間と海人族のハーフの少女。幼い頃から仲間に守られて暮らしていたため、人との関わり合いが苦手。しかし、一度でも好感を抱いた相手にはすぐに心を許してしまう。要するにチョロい。人攫いに攫われていたところ、仁に救出させた。仁のことは最初こそ不審に考えていたが、数日一緒に過ごして完全に信用した。信頼度は80%。親への反抗期から髪を金髪に染め、肌を焼いている。
名前 :リン・テーテイ
年齢 :5歳
身長 :106.2
体重 :17.3
一人称:私
性格 :臆病・神経質
ウルの町で暮らしていた盲目の幼女。生まれつき目が悪く、杖がなければまともに歩くこともできない。目が見えない代わりに聴力が発達しており、心臓の音だけでも善悪を見分けられる。その分、人一倍他者に対する警戒心が強く、町の人間でも信用している人の方が少ない。ウルの町へと買い物に行く途中に魔物に襲われ、親とはぐれ、人攫いに攫われたところを仁に救出された。耳に伝わる情報から仁のことは善人だと理解しており、初対面の時点で既に信用していた。嫌いなものは口笛。