「おぉー! 随分と派手にやるなぁ!」
「ぁ……ぃゃ…………」
厨二病男達と魔物の軍勢が戦闘を始めてから数分の時が経過した。現在、オレは地上から遠く離れた上空で真下で行われている戦い、というには一方的なその光景を見下ろしていた。
六万の魔物の軍勢に比べて戦っている人間の数はたったの五人。それほどの数の差がありながらも、圧倒しているのは厨二病男達の方だった。
厨二病男が二門のガトリング銃を扱って壁のように弾幕を張り、魔物達をなぎ払う。その左手側からは水色の髪のうさ耳巨乳女がどデカいハンマーから発射させたロケットランチャーっぽいなにかで魔物達を吹き飛ばし、更にその左では和服を着た黒髪の女がその手のひらから放った黒い極光や火炎で魔物達を焼き払い、厨二病男の右側にいる身長も胸も小さい金髪ロリっ子が重力でも操ったのだろう、空間ごと魔物達を押しつぶす。
その光景はもはや戦闘とはいえず、まさに蹂躙という言葉が相応しかった。
「いやー……にしてもバリエーション豊富なパーティーだよな」
「……ぉ……ぁ」
あの厨二病男は多分人間だが、それ以外の女達から感じる気は人間のものではない。
「兎人族に竜人族、それに吸血鬼か……この時代で見るのは珍しいな」
今のところオレは人間、魔人族、海人族それに加えて魔物の気しか感じたことはないが、なんとなくあの女達から感じる気がどの種族の気なのかは把握できた。理由は定かではないが、恐らく魔人ブウの記憶から当てはまる種族の情報が自動的に脳内に引き出されたに違いない。
「気に入らない点があるとするならば、あの男がハーレムを作ってることくらいだな」
男一人に対して女は三人、しかも女側の顔面偏差値は異様に高い。そんなパーティーはハーレムを純愛とは認めない派であるオレからしてみればあまりいい気分にならない。それになんとなく天之川を思い出して殺したくなる。
「なぁ、お前もそうは思わないか?」
「……く…………れ」
オレは先ほどから首根っこを掴むようにして持っていた一人の男にそう語りかける。
この男はオレがさっき見つけた
一度魔人族との戦闘経験があるオレからしてみれば、隠れてコソコソしている魔人族の気を見つけるなんて朝飯前だ。そして、こんな状況でこの場所に偶然魔人族が現れたなどあるはずがない。見つけ次第即拘束し、拷もn――少し『おはなし』した結果、ウルに魔物の軍勢をけしかけた犯人と繋がりがあることをゲロッてくれた。
そんな訳でもう聞くこともなくなったから、先ほどからこの魔人族に話の話題を振ってやっているというのに、まともな言葉が返ってきたためしはない。
唯一聞こえる意味のある言葉といえば、
「こ……ろしてく、れ……」
これくらいだ。
現状、この魔人族は四肢が欠け、両目は潰れ、体中をズタズタに切り裂かれている。一般人が見れば吐き気を催してしまうほどの姿だ……やったのはオレだけど。
ここだけ見ればオレが残虐非道な人間だと思うかもしれないが、オレもしたくてやったわけじゃない。どうやれば正直に話してくれるか色々考えた結果こうなったに過ぎない。
簡単に死んでもらっては困るからとりあえず肺と心臓にだけ"回復の術"を使い再生させ続け、意識を失わないように脳をいじり、手や足の先からじっくりと刃状のエネルギーで切り刻み続けただけだ。
つまり、さっさと喋らなかったこいつが悪いわけであってオレは悪くない。
「まあ、必要な情報は聞けたし……殺してやってもいいか」
より苦しめるために敢えてそこら辺に放置するというアイデアも浮かびはしだが、オレもそこまで鬼畜ではない。魔人族の胸に手を当て、首から下をエネルギー弾で吹き飛ばした。
「……まったく、こんなクズでもやっぱり殺すのは慣れないか」
以前アンカジで魔人族を殺した時にも思ったが、やっぱり人を殺すというのは気分がいいものじゃない。殺すことに躊躇いとかそういうのはないが、人を殺すという行為自体をオレが受け入れ切れていない。
きっと魔人ブウとオレの最大の違いがこれだろう。相手を殺すことを戦いの結果として楽しめるかそうでないか。これは大きな差だ。
「まあ、情けをかけるつもりはないけど」
でも、それはあくまでオレの一感情でしかない。殺さないことでオレやオレの知り合いが命の危機にさらされるならば容赦なく殺す。そこに関しては迷いはない。
もしそれが、オレの知っている人物であったとしても変わることはない。
「……あれ? あっちはもう終わりそうだな」
そんなことをしている間に、地上の戦場は厨二病男達がもうすぐ魔物達を全滅させるんじゃないかというところまで進んでいた。
「ん? あいつ、どこかで見たことが……」
その時、厨二病男に陰から襲い掛かろうとする一人の男が現れた。恐らくあの魔物達をウルへと仕向けた犯人だろう。強さ的には大した実力者ではない。せいぜいオレが知ってる時の以前の天之川と同じくらいだ。だが問題はそこではない。オレはその男に見覚えがあった。
必至に記憶を掘り返す。ブウやオスカーの記憶ではない。オレ自身の記憶だ。
そして、その記憶は思いのほかあっさりと引き出せた。
「そうだ……あいつ清水じゃん。何やってんだよ」
その男はオレがそこそこの友好関係を持っていた数少ないクラスメイトの一人である清水幸利だった。あいつはあいつでハジメとはベクトルの違うタイプのオタクだったから、少なからず話す機会はあった。
清水は厨二病男に向かって短剣を手に襲い掛かり……そして返り討ちに遭う。
「そりゃあ、そうなるだろ……」
気を感知できる人間なら分かるが、清水とあの厨二病男では気の総量がざっと百倍以上はある。蟻が象に挑むようなものだ。どう考えても勝てるはずがない。
「んー……やっぱりどう考えてもあいつが元凶だよな」
厨二病男に軽くあしらわれながらも周囲の魔物と協力して襲いかかるその姿を見てしまえば、もう清水が魔物を操っているのは確実だ。このまま放置していればいずれあの厨二病男は清水を殺すだろう。
とはいえ、このまま見捨てるというのは友人(仮)としては良い気分ではない。
「しゃーない……助けてやるか」
〇
厨二病感満載の恰好と戦い方をする男、南雲ハジメはあっさりと魔物の大群を殲滅すると、何度も返り討ちにしたにも関わらず今だなお立ち上がろうとする目の前の男、清水幸利と相対していた。
「この厨二野郎が! なんなんだよお前! お前だよお前! 後ろ見てんじゃねぇよ!」
清水による信じがたい呼び掛けに、後ろを向いて『自分じゃない』アピールをしてみるも無駄に終わりハジメは心底嫌な顔をする。
「清水君、落ち着いて下さい。誰もあなたに危害を加えるつもりはありません……先生は、清水君とお話がしたいのです。どうして、こんなことをしたのか……どんな事でも構いません。先生に、清水君の気持ちを聞かせてくれませんか?」
膝をついて息を荒くしている清水に彼らの担任の教師である愛子は視線を合わせて落ち着かせるように声をかける。それに対して清水はぼそぼそと聞き取りづらい声で呟き始めた。
「そんなこと先生に分かるわけねえだろ。……あんたも他の奴らと同じだ。結局強い奴ばっかり気にかけて、俺達みたいな弱者のことなんて考えもしねえ。生徒が大事だとか言っておきながらなんにも分かってないじゃねぇか。あんたは俺達を大事に思ってんじゃねぇ……生徒を大事にしてる自分に酔ってるだけだ。そんな先生に俺のことが分かるわけねぇだろ……」
「てめぇ……自分の立場わかってんのかよ! 危うく、町がめちゃくちゃになるところだったんだぞ!」
「そうよ! アンタ頭がおかしいのよ!」
「愛ちゃん先生がどんだけ心配してたと思ってるのよ!」
反省どころか、愛子への不満を口にする清水に玉井や園部など生徒達が憤りをあらわにして次々と反論する。そんな怒りの声を無視して清水は愛子とハジメを睨む。
そんな清水の態度が気に食わないのか、更にヒートアップする生徒達の怒りを愛子が抑える。そして、なるべく声に温かみが宿るように意識しながら愛子は再度語り掛ける。
「そうですね。清水君の言う通りです。先生は君達を見ていませんでした。こうして今も清水君が苦しんでいることにすら気づけなかったダメな先生です。でも、まだ間に合います。だから教えてください。今はまだ分からずとも、これから理解したいのです。お願いします清水君。先生を信じてください」
頭を下げる愛子の姿に力が抜けたかのように反抗心を鎮めるも、清水には改心した様子は見えず、ただただ乾いた笑いを浮かべていた。
「は……はは……ちげぇよ先生。もう間に合わねぇんだよ。何もかも手遅れなんだよ」
「大丈夫です。清水君はまだ
愛子の言う通り、清水は未だ誰一人として人を殺してはいない。竜人族であるティオを洗脳していた際も相手を追い払う命令しかしていなかったため、ハジメが依頼で探しに来たウィルとその仲間達も重傷こそ負ったものの命を落とした者はいなかった。
しかし、愛子は清水の言った言葉の真の意味を理解していなかった。
「俺は……魔人族と手を組んだ」
「なっ!?」
清水の口から飛び出したまさかの言葉に愛子のみならず、ハジメ達を除いたその場にいる全ての者が驚愕を露わにする。清水は聞き取りにくさは相変わらずだが、先程までより力の篭った声で話し始めた。
「魔物を捕まえに、一人で北の山脈地帯に行ったんだ。その時、俺は一人の魔人族と出会った。最初は、もちろん警戒したけどな……その魔人族は、俺との会話を望んだ。だから俺は、そいつと……魔人族側と契約したんだよ」
「契約……ですか。それはどのような?」
自分達が呼ばれた原因の一つでもあり、人間族の敵である魔人族と自分の生徒がつながっていたという事実に愛子は動揺しながらも、きっとその魔人族が清水を誑かしたのだとフツフツと湧き上がる怒りを抑えながら聞き返す。
そんな愛子に、清水は衝撃的な言葉を口にした。
「…………畑山先生……あんたを殺す事だよ」
「……え?」
愛子は、何を言われたのかわからなかったようで思わず間抜けな声を漏らした。周囲の者達も同様で、一瞬ポカンとするものの、愛子よりは素早く言葉の意味を理解し、激しい怒りを瞳に宿して清水を睨みつける。
生徒達や護衛隊の騎士達のあまりに強烈な怒りが宿った眼光に射抜かれ、清水は一瞬身を竦めるものの、視線を振り切るように話を続けた。
「何だよ、もしかして自分が魔人族から目をつけられていないとでも思ったのか? ある意味、勇者より厄介な先生を魔人族が放っておくわけないだろ。"豊穣の女神"であるあんたを町の住人ごと殺せば、奴は俺に力を与えると言った。それがどんな力かは知らないが、強くなれるんならなんだっていい。実際、超強い魔物も貸してくれた……結果はこの様だがな」
なにもかもが思い通りに行かない現実にもう怒りを通り越して呆れてしまった清水は、空を見上げながら乾いた笑みを浮かべている。その姿はまさに罪を白状する罪人のようだった。
この世界において、人間の敵である魔人族と手を組んだという事実は単に人の命を奪うことよりも重い罪となる。反論の余地なく死刑にされるだろう。異なる神を信仰する魔人族と交流を持つということは人間にとってそれほどの罪なのだ。
だからこそ、清水はもう手遅れだと言ったのだ。魔人族と関わりを持ってしまった時点で清水には勝利する以外に生き残るすべはなかった。そんな自分の生徒の現状に愛子はどうするべきか悩んでいたが、そんなことはどうでもいいハジメは空気を読まず、清水にとあることを問いただした。
「お前はなんでそんなに強くなりてぇんだよ。強くなって何がしたい」
強力な力を手に入れるためとはいえ、その代償として大量殺人気の称号を手に入れることはどう考えても割に合わない。ハジメ自身もオルクス大迷宮で生き残るために力を欲したことはあるが、ハジメと清水では状況が違う。
今のハジメに比べれば清水の強さは本当に大したことないが、それはハジメ基準での話だ。一般人からしてみれば勇者パーティーの一人である清水はチート級の強さを持っている。力が無ければ死んでいたハジメと新たに力が無くとも地位も名誉も手に入る清水では環境が違いすぎる。
ならば何故そこまで力を欲するのか?
その疑問は必然だった。
「はあ、そんなの決まってんだろ! 俺はなぁ! 俺は……俺、は……なにを……したかったんだ?」
「……は?」
しかし、清水の返答は想定していたどの答えとも異なり、ハジメは怪訝そうな顔をする。だが、それに一番驚いていたのは他の誰でもない清水自身だった。
「力を手に入れて、強くなって……あれ、その後は? 俺はなんで強くなりたいんだ……あぁ、そうだ、あいつを殺さないと……あいつって誰だ? なんでだ、分からねぇ。なんで俺は強く……殺さないと、先生を? 違う、先生じゃない。別の奴だ……あれ、そもそもなんで俺は先生を殺したいんだ? 俺達を見てくれないから……俺達? いや違う。そんなわけない。でも殺さないと……どうして? だって先生は……死ななきゃいけないから……あれ? なんで殺さなきゃいけないんだっけ。そうだ……強くならないと……なんのために? あいつのために殺さないと……誰のために? 分からない。なんでだよ。なんで分からないんだよ……」
虚ろな目をして自分に言い聞かせるようにして呟く清水の姿に愛子達だけではなく、ハジメも困惑した。狂ったように俯きながら不気味に呟き続ける清水に愛子が近づこうとするも、それをハジメが手で制する。
「先生……下がれ。何かがおかしい」
「……ハジメ君」
ハジメが感じた違和感、それは清水から感じられる魔力からだった。どういうわけか、清水がおかしくなり始めてから、清水の魔力がどんどん膨れ上がり、変質している。
その変質していく魔力をハジメが分からないはずがない。恐らくこの世界に来てハジメが最も多く相対した敵が持つ魔力なのだから。
「ハジメ……」
「分かってる、ユエ。これは……魔物の魔力だ」
その言葉にその場にいる全員が驚愕する。ハジメ自身もどうして清水から魔物の魔力が感じられるかは分からないが、今の清水は魔物になりかけているということだけは理解していた。
「そうだ……殺して、強くならないと……たくさん殺して、もっと強く……殺さないと殺さないと殺さないと殺さないと殺さないと殺さないと殺さないと殺さないと殺さないと殺さないと殺さないと殺さないと殺さないと殺さないと殺さないと殺さないと殺さないと殺さないと……」
「っ……!? 避けろ!」
急激に魔力が膨れ上がり、清水の影がゆらゆらと揺らめいて巨大化していくのを確認すると、ハジメはそう叫んだ。
その直後、
キュゥワァアアア!!
不思議な音色の叫び声と共に、清水の影から巨大な竜が現れ、ハジメ達に襲い掛かる。その現象に最も驚いたのは、竜人族であるティオだった。
「まさかあれは……妾じゃと!?」
その姿をティオが見間違えるはずがない。竜は竜でも……その姿は自分自身のものなのだから。
「アレは魔力で作られた偽物だ。ティオ本人じゃない」
狼狽えるティオを落ち着かせるように冷静にハジメは説明する。とはいえ、内心ハジメもかなり焦っていた。竜となったティオと一度戦ったことがあるからこそ、その危険性をよく理解していた。そして、この場で愛子達を守りながらあの偽ティオを倒すことがどれだけ厳しいのかも。
攻撃の体勢に移されたらマズイと、ハジメはすぐさまドンナーとシュラークを連射し、影から現れた偽ティオを打ち抜く。
本物のティオならばこの程度の攻撃などその鱗によって容易に弾かれるが、本物ほどの防御力はないようであっさりと弾丸はその体を貫通する。この低い防御力こそが影から現れたティオが偽物であるなによりの証拠だ……単純にドMであるティオがこの程度で耐えられないわけがないという残念な理由でもあるが。
しかし、体中に穴を開けられた偽ティオはすぐにその傷を再生し、ハジメ達へと再度襲いかかる。
「ちっ……」
噛みついてきた偽ティオを避け様に再度、ドンナーとシュラークによってその体を打ち抜く。しかし、また何事もなかったかのようにすぐに再生する。
「ハジメさん! どうするんですかこれ!?」
「……問題ない」
慌てるシアにハジメは冷静に返答する。あの再生能力は清水の魔力によるものだ。そもそもあの偽ティオ自体が清水によって作られたものなのだから、再生というよりは欠損している部分に新しい体を作ったといった方が近い。
そこでハジメが考えた偽ティオを倒す方法は二つ。
一つは清水の魔力切れが来るまで偽ティオを攻撃し続けること
偽ティオの後ろで白目を向きながら気絶している姿から、清水の意思関係なく強制的に魔力を吸い続けられている。そう推測したハジメは清水の魔力が切れるまで偽ティオを攻撃し続ければ時間はかかるが確実に倒すことができると考えた。
その場合、恐らく生命力を魔力に変換して供給してるため、最終的には清水の命は尽きるだろう。
そしてもう一つは……清水を殺すこと。
魔力で動いているならば、その魔力の供給源を破壊してしまうのが一番手っ取り早い。今の清水は無防備であり、殺すことはそう難しい事ではない。問題があるとすれば、ハジメが愛子に恨まれるくらいである。
どちらを選んだとしても清水の死は避けられない。だからこそ、ハジメは迷うことなく後者を選んだ。
「先生……悪いな」
「っ!? ダメェ!」
ハジメが愛子に向けた視線から、言葉の意味を瞬時に理解した愛子は血相を変えてハジメを止めようと飛び出した……が、ハジメが行動に移す方が圧倒的に早かった。
ドンナーから放たれた弾丸は意識を失っている清水の額に向かって直線的に飛んでいく。残り一秒も経たない内に清水はその生涯を終える。その場にいる誰もがそう考えた次の瞬間、
ドォォォォォン!!
清水の目の前に何かが上空から落下し、大きく砂埃を上げた。
「……誰だ」
魔力感知から落ちてきたものが生物だと判断したハジメは強く警戒した状態で武器を構える。
そして砂埃が晴れた先に現れたのは、
そこには……ピンク色の肌にインド風の衣装を纏い、黒い白目に赤い瞳という異常な色合いをした目。どう見ても人間でない色合いをしていることを除けば、絶世の美女とも思えるほどのナニカが立っていた。
次回 『ハジメ死す』(嘘)
というわけで、ハジメと仁の感動の再会です。ちなみに、この話でハジメの無敗伝説と愛ちゃん先生のハジメサブヒロインルートが消失しました。