ピンクの魔人と共に   作:クー(無課金勢)

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別れ、そして伝わる言葉

 清水が旅についていくことを望み、それを了承した次の日、ウルの町を出てすぐの人目のつかない場所にオレはいた。

 

「さて、それじゃあここでお別れだな」

「……うん」

 

 わざわざ町の外にまで別れを言いにきたリンにオレはそう伝えると、告げられたリンは小さく俯く。

 

 

 

 ハジメ達とじゃれあったあの日から、なんだかんだで数日もの間ウルに滞在したオレ達だったが、この町へ来た目的はリンを母親であるルイの下へと送ることだ。それが達成された以上、次の目的は一刻でも早くメルとミュウを故郷であるエリセンに送り届けることである。

 

 だからこそ、清水が目覚め、最低限の旅の準備を終えたオレは、今日この町を出ることにした。

 

 念の為説明しておくと、清水が旅に同行することを望んだ後、色々と面倒なことが続いた。

 

 まず清水のことだが、ルイには昔の知り合いが大怪我してるから家に休ませて欲しいと言って家に泊めさせてもらったのだ。当然オレ以外は清水がウルの町に魔物を襲撃させた真犯人などという事実は知らない。

 

 もしこの秘密がバレでもすれば、いくらオレの友人とはいえ良い目で見られないことは確実だ。特に暮らす町を襲われたリンとルイからしてみれば清水は自分達を殺していたかもしれない人物となる。そう簡単に認められるはずがない。

 

 だから、オレはその事実を黙っていたのに……よりにもよって清水本人が口を滑らしやがった。

 

 流れとしてはこんな感じだ。

 

1. 清水が旅に同行することをメルとミュウに説明。

2. 二人は清水を怯えつつも了承。

3. 清水がミュウにいやらしい目線を向ける。

4. メルにめちゃくちゃ怪しまれる。

5. メルが明らかに慣れていないであろう色仕掛けを披露。

6. 清水が釣られてゲロる

 

 この時のオレの気持ちが分かるだろうか?

 

 確かに清水は隠し事が下手くそだ。すぐ挙動不審になるし、他人を無意識の内に威嚇する。それでもオレは必死に誤魔化そうとした。それをあの馬鹿は、ただ胸を抱えて『あ……あはーんうふーん♡(棒読み)』とかいう思わず腹を抱えて笑ってしまうくらいには下手くそな色仕掛けに引っかかりやがった。

 

 当然、オレはキレた。

 

 それでも、ボディブロー三発で許してやったオレはかなり優しいと思う。

 

 そんな訳で見事に悪事バレした清水だったのだが、予想通りあまり良い目では見られなかった……というか普通に嫌われてた。とはいえ、面と向かって罵倒するようなことがなかったのは、彼女達に感謝するべきだろう。

 

 そうして、そんなギスギスとした雰囲気は和らぐことなく、今になっても清水はオレ以外のメンバーとはまともな会話をできていない。恐らく、この関係を解消するには町を襲った大罪人というイメージを払拭するほどの善行をしなければ不可能だろう。

 

 そして面倒だった事がもう一つ。

 

 どうやら清水を救った一件以降、この町の警備、特に町の出入り口となる門の警備がやけに厳しくなっていた。それもただ人員が増えているとかではない。警備している人間の中には以前見た畑山先生の従者みたいになってる騎士達も混ざっていた。

 

 大方、オレと清水の捜索と畑山先生がいるこの町にさらなる脅威を寄せ付けないように張り切っているのだろう。こちらからしてみればいい迷惑だ。

 

 オレと清水は顔が割れているし、マントに付与された魔法も体色は変えられるが、顔自体を変えることはできない。強行突破でいいのなら余裕でいけるが、もしそれをしてオレ達の存在が認知され、万が一にもリンルイ親子との繋がりがバレでもすればその矛先はあの親子へと向く可能性がある。

 

 それだけはさせるわけにはいかない。助けた後のアフターケアをしてこそ、本当に助けたということになる。助けるのはその場限りで、それから後のことに関与しないのは天之川のやり方だ。あいつの真似事なんて死んでもやりたくない。

 

 そういう訳で色々と作戦会議をした結果、メルとミュウが先に正式な方法で町の外に出てから、清水が警備している兵士の一人を洗脳し、操った兵士に町の外に連れていってもらうというかなり非合法な手段で落ち着いた。

 

 メルは人間を洗脳するという行為に嫌悪感を感じていたようだが、それが最も安全にこの町から出られるということと、洗脳は後で必ず解除することを説明してなんとか納得してもらった。

 

 実のところ清水に人間を洗脳できるか心配ではあったが、檜山対策として対人用の洗脳も練習していたから問題ないとのことだ。意識がある状態ならば長時間の詠唱が必要らしいが、そこはオレが声を上げる間もなく気絶させれば問題ない。

 

 

 

 そんな経緯があり、結局清水はオレ以外のメンバーと馴染めないまま、オレ達はウルの外でメルとミュウの二人と合流を果たしていた。リンとルイはウルから離れるオレ達の見送りだ。

 

「お兄さん……あの……」

「ん、どうした?」

 

 リンと別れの言葉を交わしていると、ズボンの裾をリンがギュッと握った。その様子を見たオレはしゃがんでリンと視線を合わせると、少し悲しそうな顔をしていた。出会ってから一週間も経っていないが、別れを惜しんでくれるのは気分的に悪くはない。

 

「お願いが……あります」

 

 期待するような視線がオレに向けられる。

 

「お願い……か。言ってみな。他ならぬリンの頼みだ。オレに出来ることなら、可能な限りやってみよう。世界征服でも、女の子らしく胸を大きくすることでもいいぞ」

「ち、違います! セクハラですよ!」

「お、おう。セクハラ判定厳しいな」

 

 あまりにもリンがおどおどとしているものだから、少し肩の力を抜いてやろうとちょっとした冗談を挟んでみたのだが、割とガチで怒られてしまった。とはいえ、ムッとした顔で睨まれても凄みが全くないから怖くはない。むしろ微笑ましいくらいだ。

 

 そんな風にリンがプンプンと怒るも、すぐにその怒りを治める。そして、気持ちの整理がついたのか、まっすぐとオレの顔を見つめて言った。

 

 

 

「……また、会ってくれますか?」

 

 

 

「え、そんなんでいいの?」

「……え?」

 

 様子を見るに、どうやらかなりの覚悟を持って言ったようだが、その程度のことわざわざ頼まれるまでもない。

 

「当たり前だろ。いつでも会いにきてやる」

「ほ、ほんと!」

 

 そう答えると、キラキラと眩しい笑みがオレに向けられる

 

「じゃ、じゃあ約束!」

 

 そして、リンはオレに向かって小指を立てて向ける。

 

 ウルに着く前、オレは日本では約束事の際に指切りをすると一度話したことがある。どうやら、それをリンは覚えていたらしい。期待するように小指が向けられる。勿論、それを拒絶する理由はない。オレは差し出された小指に自分の小指を絡ませる。

 

「ああ、約束だ」

「うん!」

 

 そうして、オレ達は誓いを結んだ。この時のリンの笑顔を……オレはきっと忘れることはないだろう。

 

 

 

「娘のこと……改めてありがとうございます。もし私の助けが必要ならば、どんなことでもおっしゃってください」

「もう既に頼んだんだがな。まあ、必要ないと思うが、その時が来たら手を貸してくれ」

「はい。お任せください」

 

 リンとの指切りを終え、別れを告げると、今度はルイがオレに声をかけてきた。個人的にはもう家に泊めてもらったし、それ以外にも何度か頼ってしまった。これ以上ルイの力を借りることなどないと思うが、気持ちだけは受け取っておこう。

 

「リンちゃん、またね」

「今度はもっと遊ぶの!」

「う、うん……次は私がミュウちゃん達の住んでる所に行きたいな」

 

 オレとルイがそんな話をしている間に、今度はメルとミュウがリンに別れを告げていた。特にミュウとリンは年が近いということもあってかなり仲が良かったようだ。お互い抱き合って悲しそうに別れの言葉を伝えている。ちなみに清水は少し離れたところで腕を組んでこちらに目線だけを向けている。ちょっとカッコつけているみたいでウザいから後で殴ろう。

 

 しかし、そんな感動的なシーンもそろそろ終わりの時間だ。

 

「二人共、そろそろ行こう。長話を続けて兵士に見つかるわけにはいかないからな。別れが辛いのは分かるけど、納得してくれ」

「あれ? もうそんな経ってましたか?」

「えぇー!?」

「我儘言わない。話したいことがあるなら次に会った時まで取っとけばいいだろ」

「うーん……分かったの!」

 

 オレがそろそろ出発することを告げると、メルは想定以上に時間を押していた事に気づき、ミュウは明らかに不満そうな声を上げる。とはいえ、また会えると言ったらすぐに機嫌を治すのは純粋なミュウらしい。

 

「それじゃあ二人とも、またいつか会おう」

「……バイバイ」

「はい、お元気で」

 

 その言葉を最後に、オレ達はウルの町から離れた。

 

 別れ際、リンはオレ達に向けてずっと手を振り続けていた。その姿はオレがウルの町から遠く離れてもずっと続けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仁達がウルの町を去ったその日の夜。

 

 神話に語られる魔人の登場という予想外過ぎる異常事態はありつつも、数万という魔物の大群に襲われ、町も人も無傷という。起きた事態に対してまさに奇跡としか言いようのない結果は、直ちに避難した住民達や周辺の町、王都に伝えられた。

 

 避難するために町を離れた住人達も戻り、ウルの町はさながらお祭りのような喧騒に包まれていた。町の周囲にはハジメが残していった防壁がそのまま残っており、この戦いは神話の語り部のごとく語られていた。

 

 その結果、町の人々は、未だにハジメ達のことを"豊穣の女神"が遣わした御使いだと信じており、ハジメの防壁は"女神の盾"と名づけて敬われた。また、白髪眼帯の少年の事を"女神の剣"あるいは"女神の騎士"と呼び、同じく敬った。後に、その二つ名を聞いた仁が腹を抱えて笑うのは別の話だ。

 

 ちなみに、その"女神の剣"であるハジメは仁にボコボコにされた後、町に運ばれた後で愛子達の目の前で"神水"を使って傷を癒すと、すぐさまウルの町から去っていった。その時のハジメの憎悪に染まった表情を愛子はこの先一生忘れることはないだろう。

 

 そんな感じで、愛子の名声と人望は鰻登りだった。町を歩けば視線が集まり、中には「ありがたや~」と拝み始める人まで出始める。少なくとも、ウルの町では既に聖教教会の司教よりも愛子の言葉の方が重みを持っている事は間違いないだろう。

 

 その愛子はというと……町の復興支援やら重鎮達への対応を無難にこなしつつ、それでも親しい人には丸分かりなくらいあからさまに心ここにあらずという有様だった。

 

 原因は言わずもがなだろう。戦いの前にハジメから伝えられた数々の衝撃の事実のこともあるが、何よりも清水が魔人ブウに連れ去られた光景が、愛子の脳裏から離れず心を蝕んでいるのである。

 

 魔人族に攫われた者でまともに生きて帰ってきた者はいない。ほとんどが殺されるか、戻って来たとしても正気を失っているかのどちらかである。清水を攫った魔人は自分のことを他の魔人族とは違うと言うが、愛子のその不安が拭えることはなかった。

 

 その日も愛子は一日の役目を終え夕食時となり、ウルの町一番の料理店である"水妖精の宿"でいつものように生徒達や護衛隊の騎士達と共に食事をとっていた。しかし、愛子は機械的に料理を口に運びつつも、どこかボーっとした様子で会話の内容にも気のない返事をするばかりだった。

 

「愛ちゃん先生……やっぱり、愛ちゃん先生の魔法は凄いですよね! あんなに荒れてた大地もどんどん浄化されていって……あと一週間もあれば元に戻りそうですもんね!」

「……そうですね……よかったです」

 

 園部優花が、愛子の心ここにあらずな様子に気がつきつつも、殊更明るい様子で話しかける。愛子の変調の原因を理解しているために何とか励ましたいのだ。しかし、園部の明るさを含んだ言葉にも、愛子はまるで定型文をそのまま言葉にしたような気のない返事しか返さない。園部が「まだ、だめか~」と肩を落とす。

 

「愛子……今日も町長や司教様から何か言われたのか? 本当に困ったら俺に言ってくれ。例え、司教様が相手でも愛子を困らせるような真似は俺が許さない。俺が、愛子の騎士なんだからな。何時でも、俺だけは愛子の味方だ」

「……そうですね……よかったです」

 

 デビッドが、励ましたいのか口説きたいのかよくわからない言葉を愛子に贈る。神殿騎士でありながら司教に楯突くという発言はかなり危ないのだが、既に愛の戦士と成り果てているデビッドには関係ないのだろう。

 

 しかし、そんなデビッドのさり気ないアピールは某お昼の長寿番組の相槌の如き同じ言葉であっさり流された。聞いていたかも怪しいところだ。生徒達と一部の騎士が肩を落とすデビッドに「ざまぁ~」という表情をする。

 

 そんな生徒達や騎士達のやり取りにも気がついていないのか、愛子は特に反応することもなく淡々と食事を続ける。

 

(……私が、もっときちんと清水君とお話が出来ていれば……あの子の思いにもっと早く気がついていれば……そうすればこんな事にはならなかった。南雲君にも辛い思いをさせて……一体いつ間違えたの……南雲君に頼んだ時……それともこの町に来たと決めた時……いやもっと前……そもそもあの時……戦争に参加することを無理にでも拒んでいれば……)

 

 今の愛子の心の内は、後悔と自責を延々と繰り返している状態だった……あらゆる責任を自分に押し付け、どうしようもない現実に絶望してしまっている。

 

 このままではダメだと一度思考を振り切るも、再び最初の思考に戻るということを繰り返していた。考えることが多すぎて、考えたくないことも多すぎて、愛子の心は、まるで本棚が倒壊した図書館の様に整理されていない情報が散乱しグチャグチャの状態だった。

 

 

 

 そんな時、スっと心に響くような穏やかで温かみのある声音が愛子に届いた。

 

 

 

「愛子様。少しお時間よろしいでしょうか?」

「ふぇ?」

 

 声の主は"水妖精の宿"オーナーのフォス・セルオだった。彼の声はそこまで大きいとは言えないが、この宿にいる者でフォスの言葉を聞き逃す者はいない。彼の深みがあって落ち着いた声音は、必ず相手に届くのだ。

 

 今も、思考の渦に囚われていた愛子に言葉を届け、その意識を現実へと回帰させた。愛子は変な声を出してしまった事に気がつき、少し頬を染めつつ穏やかに微笑むフォスに視線を向ける。

 

「すいません、ちょっとボーっとしてました。それで、何かご用でしょうか?」

「いえいえ、お気になさらず。実は私の旧知の友人が是非とも愛子様にお会いしたいとおっしゃりまして。時間は取らせませんので、少しお呼びしてもよろしいでしょうか? もちろん愛子様がご迷惑でなければですけど……」

「は、はい。そのくらいでしたら……」

 

 唐突の提案に愛子は多少驚くも、すぐに了承の言葉を返した。この町の住人が愛子に会いたいと望むことは日常茶飯事であり、いつもは生徒達や騎士達が愛子に近づかせないが、他ならないフォスの頼みならばと愛子は暗い気分のまま受け入れた。

 

 そんな愛子の返答にフォスは「ありがとうございます」と人の良い笑顔で礼を述べると外に出ていく。そして、戻って来た彼の後ろには一人の女性がいた。腰まで伸びた赤みがかった髪に紫色の瞳、そしてどこか妖艶さを感じられる整った容姿。その美しい容姿に騎士達と男子生徒達は見惚れてしまっている。

 

 

 

「初めまして。私はルイ・テーテイといいます。貴女が畑山愛子様でよろしいでしょうか?」

「……は、はい! そうでちゅ!」

 

 

 

 あまりの美しさと大人びた雰囲気に愛子はガチガチに緊張し、思わず噛んでしまう。そして、恥ずかしさのあまり顔を真っ赤に染めると、先程とは打って変わってその場にはほんわかとした空気が流れ始める。

 

「ふふっ……いえ、すいません。笑うつもりはなかったのですが……」

 

 その空気にはルイも巻き込まれ、不意に笑みがこぼれる。それを見た愛子はさらに顔を真っ赤にする。

 

「そ、それで、ルイさんはどのようなご用件で私の元へいらしたのですか!」

「えぇ、すいません。その話をするのが先ですよね」

 

 あまりに恥ずかしい空気感に堪えられなかった愛子は無理矢理にでも話題を変えようとする。今までの流れでは、ここで魔物を倒した武勇伝やら、女神からのお告げ的なことを求められるのだが、ルイの言った内容はそのどちらとも異なるものだった。

 

 

 

「私は……風磨仁さんという方から貴女宛の伝言を伝えに来させていただきました」

 

 

 

「……ぇ」

 

 その言葉を聞いた愛子は先ほどまでのループしていた思考が完全に吹き飛び、頭の中が真っ白に染まった。それは愛子だけではなく、この場にいる他の生徒達も同様のようで、皆の食事をする手がピタリと止まる。状況が理解できていないのは騎士達ぐらいである。

 

 風磨仁はハジメや清水と同じく、愛子の生徒だ。しかし、その名が出ることは愛子にとってありえないことだった。

 

 なぜなら、彼はハジメと同様【オルクス大迷宮】の奈落へと落ち、命を落としている。少し前に再会したハジメも仁の捜索はしていたものの、その姿どころか手がかりすら見つけられなかったと言っていた。生存の可能性は極めて低いと愛子も考えていた。

 

 そんな仁の名前が出たことで周囲にはあからさまに動揺が走る。

 

「それでは伝えさせていただきます」

「……あっ! いや、そのちょっと!」

 

 しかし、そんな混乱を無視してルイは話を続ける。無視して、というよりは愛子達が何故動揺しているのか分からないといった感じであるけれど。

 

「『先生、オレは大丈夫なので探さないでください。それと清水なら回収したから大丈夫です。ちゃんと生きてるし、洗脳も解除しておきました。最後に……魔人ブウを復活させたのはオレです。てへぺろ♪』……とのことです」

 

 

 

「……なんですって?」

 

 再度、愛子の思考は吹き飛んだ。

 

 それは、伝言の内容があまりにも異常すぎたということもあるが、そんな重大な情報を軽く報告してくるというある意味仁らしい言動に愛子の脳内はパニック状態に陥ったのだ。

 

「それでは私はこれで。貴重なお時間を頂きありがとうございました」

「ちょちょちょ、ちょっと待ってください! どうして貴方が風磨君の事を知っているのですか! それに清水君は本当に無事なんですか! あと洗脳ってなんのことですか! どうして彼があの魔人を復活させたんですか! なんで最後が『てへぺろ♪』なんですか!!」

 

 そんな愛子を放置してルイはそそくさとこの場を去ろうとする。彼女も伝言を伝えに来たはいいものの、やはり子供のいる年齢で『てへぺろ♪』と言うのは恥ずかしかったのだろう。耳を赤くしてすぐにでもこの場から逃げたがっている。

 

 しかし、流石にそれを見過ごすことは出来ない。愛子は湧き上がる疑問を次々とルイにぶつける。その疑問はこの場にいる全ての者の心の声を代弁していた。しかし、返ってきた返答は望んでいたものではなかった。

 

「申し訳ありません。私は貴女にこの言葉を伝えて欲しいと頼まれただけですので……詳しい事情については知りません。それに、私も娘を救っていただいたというだけで、あの方のことを詳しく知っているわけではないのです。ですので、残念ながら貴女の知りたいことについては答えられません……」

「そ、そうですか……」

 

 そんなルイの言葉を聞いた愛子は謎が謎のまま終わり落胆する。しかし、この感情の落差によって逆に冷静になった愛子は一つ、これだけは聞いておかねばならないことを思い出した。

 

「あ……で、でも、それを貴方に伝えたということは、風磨君は生きているのですよね!」

「はい? それは……そうですけど?」

 

 まるで言っている意味が分からないといったように首を傾げてルイは答える。それもそのはず、彼女は仁の過去に何があったのかを知らない。そんな彼女からしてみれば、伝言を伝えたにも関わらず、生存を疑われる理由が分からないのだ。

 

「そう、ですか……生きてるんですか……風磨君が……良かった」

 

 とはいえ、それはルイから見ての話。ハジメと仁が奈落へと落ちていった事実を知っているメンバーからしてみれば、その事実だけでも十分驚くべきことだった。他の情報がそれ以上に信じられないものであったため忘れていたが、普通に考えればそれですら奇跡なのだ。

 

 それを踏まえて愛子は冷静に仁の伝言について思考を巡らす。

 

(風磨君はきっと南雲君と同じようにこの世界の真実を知ってるんでしょう。だから、目立つことを避けてルイさんに伝言を託した。それに、私達の下へと戻ってこないのも教会を警戒してるからだと考えれば辻褄が合います。清水君を回収したと言っていましたが、これはもしかしたらあの魔人と戦って清水君を取り返したのかも? もしそれが本当なら、風磨君は南雲君よりも……いえ、そういえば風磨君があの魔人を復活させたと……これは今度お仕置きですね)

 

 目を閉じて微動だにしないまま愛子は考え込む。周囲の者はそんな愛子を心配そうに見つめる。

 

 しかし、愛子は気づいていない。色々と考え込んではいるが、そのほとんどが勘違いだということを。

 

 確かに仁はハジメと同様で神の真実を知っているし、比較的目立つことも避けている。ただ、仁にとっての敵は神ただ一人であり、その他の有象無象についてはそこまで慎重に考えていない。

 

 せいぜい、敵対されたら蹴散らすぐらいにしか考えていないのだ。

 

 また、ハイリヒ王国に戻ってこないのは自分の姿が以前とは大きく変わっているから、清水を回収したというのは本当だが、誰から回収したとは言っていない。さらに、魔人ブウを復活させたことも事実であるが、その後自分が魔人ブウになったことまでは説明していない。

 

 こんな勘違いを誘うような伝言を仁が残したのは勿論意図的なものである。きっと愛子の思考を仁が知っていたら笑みを浮かべてこう言っただろう。

 

『嘘は言ってないぜ』

 

 確かに嘘は言っていない。ただ限りなく黒に近いグレーというだけだ。勿論、清水の事を伝えて愛子を安心させるという目的も少なからずあったのだろうが、ついでに反応が面白い愛子を揶揄おうと作り出されたのがあの伝言だ。ちなみにルイは何も知らない。彼女はこの場で一番の被害者である。

 

 そんな仁の悪戯にまんまと嵌っていく愛子はゆっくりと目を見開き、まるで女神のような笑顔をルイへと向ける。

 

「ありがとうございます、ルイさん。おかげで、私の中にあった迷いも晴れました」

 

 あの日以降、愛子はずっと清水のことで頭を悩ませ続けていた。謎は多いとはいえ、その清水を仁が保護したということを知って心の底から安堵する。

 

「よろしければ、貴方から見た風磨君がどんな人だったか教えてもらってもいいですか?」

 

 だからこそ、愛子は清水の事は一旦置き、仁について聞いた。あの大人しかったハジメですら姿も性格も豹変したのだから、仁も自分の知っている人物とは大きく変わっているのかもしれない。

 

 昔のままでいて欲しいという希望は勿論あるけれど、たとえハジメのように冷酷な人物になってしまったとしても仁を受け入れようと愛子はルイの返答を待った。

 

「そうですね……そう長い時間一緒にいたわけではありませんが……」

 

 しかし、ルイの返答は愛子を想定とは別の方向で驚かせることとなった。

 

 

 

「それでも……とても強く、優しく、少し男らしい口調でしたが、思いやりのある……美しい()()だと思います」

「そうですか、あの子が…………女性?」

 

 

 

 そしてまた一つ、今度は仁ですら意図していない形で新たな勘違いが生まれそうになっていた。




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凄いありがたいです。
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