ピンクの魔人と共に   作:クー(無課金勢)

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決着?

「クッ……ハハ……クハハハハハッ! ハハハハハハハ!! ざまーみろ、偉そうにしやがって! だがこれで終わりだクソ人間ーっ!!」

 

 ドーム状に広がった青白い洞窟の中、巨大な真っ赤なイカが勝利の笑い声を上げる。その声は洞窟全体に響き渡り、壁には先程の戦闘の影響もあってメキメキと罅が入り、湖は大きな波を引き起こす。ただの笑い声だけで周囲を揺るがすこの異常な現象こそ、このイカが神代から生き続けている化け物だという何よりの証明である。

 

 ただ、体が大きいだけでは遥か昔のあの時代は生きていけない。高い戦闘能力と優れた魔法技術、それに加えて過酷な世界を生き残れる程の知性がなければ人間も魔物を現代に比べて強大な力を持っていたあの時代で生き残ることは難しい。

 

「むぅ……しかし、強敵だった。まさか今の人間にあれほどの実力者がいようとは。"壱の手"まで使ったのは四百年ぶりだったな。これは、しばらく体を休める必要がありそうだ。三十年も眠っていれば体力も回復するだろう」

 

 その全てを持ち合わせていた巨大イカ――オケノスはつい先程の風磨仁との戦闘で大幅に消耗した体力を回復させようと、自分が出てきた湖の中に潜ろうとする。いかに強大な魔物であるオケノスとはいえ、自分が今まで蹂躙してきた人間達とは比べ物にならない程の実力を持つ仁が相手では、体力的にも精神的にも酷く疲弊しているようだ。

 

 そのため、すぐにでも体を休めたかったのだろう。疲れた体を無理矢理動かし、少しでも早く湖の底にあるマイホームという名のただのほら穴に帰ろうとする。

 

 しかし、オケノスは一つ大きな勘違いをしていた。

 

 

 

「いやー……よくよく考えてみれば、オレがこの程度のぬるい攻撃で死ぬわけがないよな。弱体化したからって再生能力まで弱まったわけじゃないし。あーあ……焦って損した」

「……は?」

 

 まだ、戦いは終わってなどいない。

 

 

 

「さて、覚悟はいいかイカ野郎。ちょっとばかし本気でやってやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ありえん……間違いなく直撃したはずだ。手ごたえもあったぞ……」

「うん、当たったな。普通に痛かったし、体半分くらい吹き飛んだ。でも死ななかった。それだけの話だ。どうやらおまえの攻撃はオレにダメージを与える程度にはあるが、オレを殺すまでには至らなかったみたいだ。残念だったな」

 

 オレの生存に気づいたオケノスが見るからに動揺している。まあ、自分の奥の手が通じなかったのだ。そうなってもおかしくはない。

 

 確かにあの墨ビームが直撃する直前、本気で死ぬかと思った。弱体化していた状態でこんなの食らったらマズイと。だが、実際に攻撃を食らって理解した。「あ、コレ余裕で耐えられるわ」と。その予測は正しく、ダメージはゼロではないものの、再生で十分カバーが効く範囲で耐えられた。

 

「ただ、今の奇襲だけは褒めてやってもいい。いくら気を感じずらいからといって、完全に不意を突かれるとは思わなかった」

「あ……あ……う、嘘だぁ……」

 

 オレが生きてることにか、もしくは自分の攻撃が通じなかったことにか、どんな理由かは定かでないが、その顔を恐怖に歪めたオケノスは己の持つ全ての足を使ってまるで逃げるように後ずさる。

 

「どこへ行くんだぁ?」

「うぇ……ブヘェ!?」

 

 そんなオケノスを真下の地面から生えたオレの足が蹴り上げる。先程オケノスが触腕をオレまで伸ばした方法と同じだ。地面に足を突き刺し、物理的に足を伸ばすことで地中から相手を奇襲する。

 

 そしてすぐに空中に飛んだオケノスの背後に回り込むと、後ろから外套膜に蹴りを入れて吹き飛ばす。オレの体の十倍以上の大きさもある巨大な海洋生物はまるで水切りで投げられた石のように水の上を何度も跳ねながら反対側の壁にまで飛んでいく。

 

「驚いた。そのサイズの割に軽いんだな」

「ぐぎ……うぅ……"捌の手"!」

「それでこっちも軽いと」

「ごぼぁああああ!」

 

 壁にめり込んだオケノスにゆっくり近づくと、鉄のように変質した足で叩きつけようとしてくる。それをオレは手の甲で弾いて、真正面から顔面に正拳突きを放つ。イカの体は絶妙に柔らかく、まるでローションでヌルヌルになったクッションを殴ったかのようにオレの拳がめり込んでいく。

 

「コヒーッ……コヒーッ……"壱の「させねえよ」ぐぎゃぁあああ!!」

 

 先程のようにダメージを回復させようと右側の触腕を上げ始めたところで、オレは刃状の気を右腕に纏わせ、斬撃を放つことでその触腕を根本から切断する。回復するどころか、貴重な足を失ったオケノスから洞窟中に響き渡る程の悲鳴が上がる。

 

「よし、これで回復手段はなくなった。さあ、次はどうする?」

「……き、さま」

 

 笑みを浮かべてそう挑発すると、苦しみもがいているオケノスの方もどこか笑っているような気がした。そこで、次の攻撃を理解する。

 

「がぎゃぁああああ!! な、なぜだぁ!?」

 

 オレは背後に視線を送ることすらせずにエネルギー弾を放ち、気配を消して近づいていたもう一つの触腕を消し飛ばす。

 

「馬鹿かおまえは。オレがあんな不意打ちをそう何度も食らうわけがないだろ。確かに気の消し方は中々だが、完全に消せるわけじゃない。小動物程に小さくともそこに存在するのなら探知することは難しいことじゃない」

 

 あの二つ目の足からはほとんど気を感じないし、恐らく魔力も極限までに隠蔽しているのだろう。だが、それでも完全にゼロに出来るわけではない。集中して探れば、微かにだが気は感じられる。

 

 ならば、注意して気を探りながら不意打ちに警戒さえしていれば、先程のような無様な姿を晒すことはない。

 

「おのれぇええ! ならば我が最高の一撃を食らうといい!」

 

 回復手段は無く、唯一オレの命に届きうる可能性のあった弱体攻撃もたった今消えた。どう考えても絶望的な状況だろう。だが、それでもオケノスはオレに向かって襲い掛かる。まだ手札が残っているというわけでもない。ただのヤケだろう。

 

「"二萬佰陸十の手"!!!」

「バカが……ゼロを計算に入れろよ」

 

 残った六本の全ての足と漏斗から放出する墨のレーザーでオケノスは攻撃を仕掛ける。残された手段を全投入した文字通りの奥の手といったところだろう。しかし、今更こんな攻撃がオレに届くはずもない。

 

「すぅ……ハァ!!」

「ぬぅお!?」

 

 オレは今まで抑えていた気を解放する。すると、異常なまでに急上昇した気の余波によってオレを中心に衝撃波が発生する。その衝撃波は目の前まで迫っていたオケノスの足を弾き返し、墨のレーザまでもを掻き消していく。

 

「な、なんだ……それは……」

 

 全ての足を弾かれた勢いで体のバランスを崩したオケノスはまるで死んだセミのようにひっくり返る。だが、すぐに立ち上がりオレの姿を見ると怯えたように震えだした。

 

 今のオレは体全体を赤黒い気のオーラを纏い、溢れた気がバチバチと音を鳴らす電撃となって周囲に走っている。姿自体は先程から変わってはいないものの、気を僅かであっても感じられる者からすればその差は明白だろう。

 

 単純な気の総量で言えば今のオレは先程と比べてざっと十倍はあるだろう。最初から予測できていたが、オケノスは気を感じることができても大きさまでは理解できないのだろう。それでも、先程までのオレよりも圧倒的に強いことは本能で理解できたらしく、動揺を隠しきれていない。

 

「喜べ……おまえにはオレの全力をくれてやる」

 

 完全に気を解放したオレは"舞空術"でオケノスを見下ろせる位置にまで上昇すると、片手を上げて気を集中させる。すると、掌の上に気が凝縮され、赤黒い色の巨大なエネルギー弾を生み出す。その大きさは直径二メートル程で"イノセンスキャノン"と比べると小さいが、込められた気の量と破壊力は比べものにならないレベルでこちらの方が大きい。

 

 今のオレが使える最大火力の攻撃。本能的に理解した魔人ブウの切り札の一つ。どういうわけか、封印される前のブウが使うことのなかった技であるが、オレはその技を敢えて劣化させることで制御を可能とした。

 

 本来の威力の半分どころか三分の一程度の威力しかない技だが、目の前のイカを殺すにはこれで十分、むしろ過剰と言ってもいい。

 

「なぬぅ! その気は……まさか魔人ブウの!?」

「これは驚いた。ブウのことを知ってたのか。流石長生きしてるだけはある。まあ、オレがその魔人ブウであるという考えには至らないのはやはりマヌケだがな」

「な、なんだと……」

 

 その巨大なエネルギー弾からオケノスはブウの気を感じ取ったのだろう。目を剥き出しにして驚いている。やはり、オレの推測通りオケノスは最低限ではあるが気を感じることを出来たらしい。ただ、ブウの気を知っているというのには少し驚いた、

 

 それは、過去に少なくともブウの気を感じれる程まで近くにいたことがあるということだ。遥か昔から生きているのだから、ブウのことを知っていてもおかしくない。だが、ブウの気を感じられる程近くにいて未だ生きているというのは正直驚きだ。

 

 しかし、その長く生きた時ももう終わりだ。今のオケノスではこの攻撃を躱すことも防ぐ手段もない。

 

「じゃあな、これでおまえとの戦いも終わりだ」

「…………

 

 オレは完成したエネルギー弾を振り下ろすように放とうとする。だが、その次の瞬間、オケノスは想定とは真反対の方向でオレを驚かせる行動を取った。

 

 

 

「ま、まいったーーーー!!!」

 

 

 

 降参したのだ。

 

「塵一つ残さず消し飛ばしてや…………なんだって?」

 

 突然の降参宣言に流石のオレも困惑し、たった今作ったエネルギー弾を霧散させて、気の粒子に変化させる。

 

「……もう一回言ってくれ。多分オレの聞き間違いだと思うが「まいった」って言わなかったか?」

「まいった、降参だ! 頼むから命だけは助けてくれ!!」

「えぇ……」

 

 一瞬本気で聞き間違いかと思えたそのセリフだったが、残念ながらオレの耳は正常だった。オケノスは残った全ての足を海面にペタリと置き、頭を湖にバシャバシャと上げたり下げたりして、情けなく土下座っぽい仕草を繰り返している。

 

 元からこのイカにそこまで威厳とかそういうものを感じていなかったが、今の行動で確実に地に落ちた。なんかもう、殺すのすら馬鹿馬鹿しくなってくる。

 

「おまえ……それでいいのかよ。そんなんでも一応大迷宮のガーディアンだろ。もう少しプライドとかないのか?」

「プライドなどより命の方が大事に決まっておるわ! それに、ワシはこの迷宮を守っているわけではない! 昔会った人間にここに住んでいいから、代わりに侵入者を撃退してくれと頼まれただけだ!」

「いや、意味的には同じだろ」

 

 大迷宮で生まれたのではなく、外から大迷宮へとスカウトされたと否定してくるオケノスだが、経緯が違うだけで結果的に与えられた役割は変わらない。

 

「そもそも、ワシは貴様に名を聞いただろ! 何故そこで魔人ブウだと名乗らなかった! くだらぬ嘘など吐きおって! 最初にワシを騙したのは貴様だろうがぁ!!」

「嘘じゃねぇって。魔人ブウも風磨仁もオレの名前だ。オレとブウは別人だが同一人物なんだよ。それを理解できないおまえが悪い」

「そんなのワシは聞いておらん!!」

「……」

「すいませんでした!!」

 

 命乞いをする立場だというのに逆ギレするオケノスの頬スレスレに無言でエネルギー弾を放つと、ダラダラと冷や汗を流しながら再度土下座の体勢をとる。

 

「はあ……まあ、オレも不必要な殺しをするつもりはない。おまえがそうやって戦う意思がないことを証明するのなら、情けをかけてやってもいい」

「ほ、本当か!?」

「ただし、ただで助けてやるわけじゃない。こちとらよく分からない難癖つけられていきなり襲われたんだ。それなりの誠意は見せてもらう」

「っ……な、何が望みだ」

「そうだな……オレの命令に絶対服従なんてどうだ? それを守れるなら、おまえの命は奪わないし、無意味に傷つけることもない。勿論オレに逆らえば殺すし、勝手な行動を取っても殺す。つまり、オレに従順に生きるならばその命を見逃してやる」

 

 冷や汗っぽいなにかを流しながら頭を下げるオケノスを見下ろしてそう告げる。もし相手が人間だったならば、人権を完全に無視したクソ野郎の発言だ。たが、少なくとも人間を『下等生物』と判断して下に見るこのイカには人権は作用しない。それに、こういう地味にプライドが高い奴にとってこれは屈辱だろう。

 

 そう、思っていたのだが、

 

「分かった! ワシは貴様に従おう!」

「……マジか。気持ち悪いくらいに躊躇いがないな」

 

 オレの予測を裏切って即答で返事が返ってきた。

 

「これよりワシの主人は貴様じゃ! だから命だけはっ!!」

「いや……おまえ本当にそれでいいのかよ。ブウの存在を知ってるってことは一応神代から生きてるんだろ。人間に従うことに抵抗感はないのか?」

「そんなプライドはそこらのタコにでも食わせておけ! ワシは生きるためならばなんだってやってやる! それに貴様は人間ではないだろ!」

「今更か……」

 

 その発言を聞いて、本当に色々と残念な魔物だと理解したオレは額に手を当てる。どうしてこの大迷宮の主はこんな情けない魔物を大迷宮の最後に置いてしまったのかマジで理解ができない。オスカーの記憶では解放者の中でもまだマシな方だったと思うのだが。

 

 そんな感じで、少しどころか大分複雑な気分ではあったものの、オレはラスボスを『討伐』とは別の形で【メルジーネ海底遺跡】最後の試練をクリアした。

 

 

 

 

 

 

「言っておくが……ワシのゲソは美味くないぞ。これはフリじゃないからな。分かったな。間違っても食べようだなんて考えるなよ!」

「食うわけないだろ。何言ってんだおまえ……」

「そ、それならいい」

 

 『神代の魔物』であり『大迷宮のガーディアン』という明らかに名前負けした魔物を手下に加えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オケノスの降参宣言を受け入れてから数十分後、オレは周囲を海水で満たされた神殿のような場所にまでオケノスに案内させて、辿り着いていた。

 

 本来、オレがこの【メルジーナ海底遺跡】に来た目的は神代魔法の入手だ。しかし、オケノスにとどめを刺さなかったことで、通常なら開くはずの解放者の隠れ家までのルートが出現しなかった。

 

 それをオケノスに説明すると、殺されるとでも思ったんだろう。顔を真っ青にしながらオレをこの場所にまで焦って案内し始めた。

 

 詳しい年月は忘れてしまったようだが、オケノスはこの迷宮に数千年以上も暮らしているらしい。だからこそ、大迷宮のどこに何があるかは【メルジーネ海底遺跡】を作った解放者以上に理解しているとのことだ。そのため、オレが探している場所にも心当たりがあった。

 

「なるほど……ここがメイル・メルジーネの住処か」

「ああ……そういえばそんな名前だったような……」

「いや、覚えといてやれよ。おまえをスカウトした相手だろ」

「そう言われても……ワシには人間の顔の区別などできんのだ。人間などワシより強いか弱いかが分かればいちいち記憶に入れる必要などないしな」

「それが分からなくてオレに負けた奴がよく自信満々に言えるな」

「うぐっ……」

 

 初めて対面した時から、オケノスは人間とは異なる体をしたオレをずっと人間として扱っていた。そこに違和感を感じていたが、どうやらオケノスにとっての人間の基準は人の形をしているかどうからしい。恐らく、この調子では魔人族や亜人族も例外なく人間という種族として認識するだろう。ある意味人種差別をしない存在とも言える。

 

 特別深い知識を持っているわけでもない人間が複数種の蟻を見たとしても、『蟻は蟻だろ』と悩むまでもなく決めつけてしまうようなものだ。あまりにも小さく、その違いも分かりずらいためオケノスからしてみれば人間は認識しても、わざわざ個体名まで覚える必要はない種族なのだ。

 

「……全部で五つか」

 

 神殿やその周りを色々調べると、神殿の中央の一つ、そして神殿から伸びる四本の通路の先にある円形の足場に一つづつ、合計五つの魔法陣が見つかった。恐らく、正式な手順で迷宮をクリアした場合は通路の先にある魔法陣に転移されるのだろう。

 

 そこに関してはどうでもいい。今オレが注意すべきは神殿の中央にある魔法陣。これこそが、オレが求めていたものに違いない。

 

「これが貴様の言う神代魔法とやらを与えるのか? 名前の割に随分と地味な魔法陣に見えるが」

「……ちょっと黙ってろ」

「イエッサー!」

 

 余計なことを口にするオケノスを黙らせ、オレは魔法陣へと足を踏み入れる。それと同時に今までの迷宮と同様に記憶が読み取られる。そして、オケノスと戦う前に見せられた幻覚での記憶によって迷宮攻略者と認められ、脳内に神代魔法が刻まれる。

 

「"再生魔法"か。オレが使う機会はなさそうだな」

 

 手に入れた魔法の名は"再生魔法"。名前からは回復の魔法にも思えるが、どちらかといえばこの魔法は復元に近い。傷を治すというよりは、傷のつく前の状態まで戻すという感じだ。だが、オレは肉体そのものに再生の機能がついているため、あまり活躍はしなさそうだ。

 

 しかし、この魔法を手に入れた目的は他にあるため問題はない。

 

 これから先に挑戦するであろう【ハルツィナ樹海】にある大迷宮には、この"再生魔法”がなければ入ることすらできない。わざわざ、海まで潜ってこの大迷宮に来たのにはそんな理由がある。

 

 手に入れた神代魔法について解析を終え、魔法陣の輝きが薄くなっていくと同時に、今度は床から祭壇のような直方体がせり出てきた。その祭壇は淡く輝いたかと思うと、次の瞬間には光が形をとり人型となった。どうやら、オスカーと同じくメッセージがあるようだ。

 

 人型は次第に輪郭をはっきりとさせ、一人の女性となる。祭壇に腰掛ける彼女は、エメラルドグリーンの長い髪と扇状の耳が特徴的な白いゆったりとしたワンピースを身に纏った美しい女性だった。彼女こそ、海人族と吸血鬼のハーフである解放者、メイル・メルジーネだ。

 

 彼女は、オスカーと同じく、自己紹介をしたのち解放者の真実と神と魔人ブウに対するアンチコメントを語った。憂いを帯びつつも柔らかな雰囲気を纏っている彼女はやがて、オスカーが告げたような語りを終えると、最後に言葉を紡いだ。

 

「……どうか、神に縋らないで。頼らないで。与えられる事に慣れないで。掴み取る為に足掻いて。己の意志で決めて、己の足で前へ進んで。どんな難題でも、答えは常に貴方の中にある。貴方の中にしかない。神が魅せる甘い答えに惑わされないで。自由な意志のもとにこそ、幸福はある。貴方に、幸福の雨が降り注ぐことを祈っています………………あと出来ればあの魔人ぶっ殺して

 

 なんか最後に物騒な言葉が聞こえた気がしたが、そう締め括ると、メイル・メルジーネは再び淡い光となって霧散した。直後、彼女が座っていた場所に小さな魔法陣が浮き出て輝き、その光が収まると、そこにはメルジーネの紋章が掘られたコインが置かれていた。

 

「あの人間……そんな目的でここを作ったのか……」

 

 メイルと面識のあるオケノスが懐かしそうにそう言葉にする。ここに来るまでに聞いた話であるが、どうやらオケノスは神代の時代にブウと戦った経験があるらしい。オレの時と同様、よく分からないイチャモンをつけて喧嘩を売って返り討ちにあったとのことだが、その際に自分の足をタコ焼きならぬイカ焼きにして献上することで、命は見逃されたという。

 

 "舞空術"やブウの気について知っていたのも、実際に戦った経験があったからだろう。

 

 遥か昔からプライドというものが欠片もないということにオレは再度呆れてしまったが、どうやらその時の話が無駄に大きくなり、『魔人ブウと戦い、撃退した強力な魔物』として当時のオケノスの知名度は想定外の方向に広がっていったという。

 

 その噂を聞きつけたメイルがこの迷宮に魔人ブウ対策としてオケノスをスカウトしたのが、大迷宮で住み着くことになったきっかけらしい。その噂は完全に大き過ぎる尾ひれがついた話ではあるのだが、そこで訂正しないというのがこのイカだ。調子に乗ってそのスカウトを受けたオケノスはその時からずっと【メルジーネ海底遺跡】で好き勝手し続けてきた。

 

 ちなみに、ブウ対策として大迷宮に来たオケノスだったが、どうやら魔人ブウ専用というわけでもなく、普通に迷宮挑戦者の対応もしているらしい。オレ以外にも数人程オケノスのところまで辿り着いた者はいたが、実際に負けたのはオレが初めてだという。

 

 大方、オケノスに勝てる程の強さがなければブウに勝てないとでも思ったんだろう。メイルはかなり他人に厳しい性格みたいだ。ただ、迷宮攻略者のとして認められる条件にオケノスの討伐が入っていなかったあたり、オケノスがちゃんと大迷宮を守るという役目を果たしてくれるかどうかは信用されていなかったに違いない。

 

 実際、何十年間も寝ていたり、気分でなかったら迷宮挑戦者の前に現れることすらしなかったようだから、その判断は間違っていない。

 

「彼女も……まさか、おまえがここまでヘタレだとは思わなかったんだろうな」

「な、いきなり何を言って……恥ずかしいではないか~」

「……いや、どうして褒められたと思えるんだよ」

 

 謎すぎるオケノスの感性を不気味に思いながらも、オレは迷宮攻略の証であるコインを宝物庫に放り入れる。すると、突如神殿が振動を始め、周囲の海水が水位を上げ始める。

 

「なるほど、クリア(イコール)即退出って感じね」

「お、おい! 大丈夫なのか!?」

「安心しろ。この程度で死ぬほどヤワじゃない。それに脱出方法はある。でも、ここでおまえとはお別れだ。分かってると思うが……」

「わ、分かってるわ! ワシだって死にたくない。貴様の命令は守る」

「……それならいい」

 

 凄まじい勢いで増加する海水。きっとそのまま大迷宮から流し出すつもりなのだろう。呼吸を必要としないオレにとってはそこまで深刻な問題でもないが、普通の人間が相手ではそうはならない。メイルは見た目は清楚そうに見えたが、かなり雑な性格なのかもしれない。

 

「このまま流れに身を任せても帰れるだろうが……また服が濡れるのは嫌だな」

 

 危険性はほぼないだろう。だが、このまま流されて服がビチョビチョになるのは少々面倒くさいし、気分的にもよくない。それに幸いにも、今はエリセンに帰る手段がある。

 

 オレは額に指を当て、特定の気を探る。

 

「……いた」

 

 そして、目当ての気を発見すると、

 

「じゃ、オレは帰るわ。何度も言うようだが、絶対にオレの言いつけを破るなよ。破ったら無理矢理タコ焼きにしてでも食い殺すからな」

「だから分かっておるわ!!」

 

 最後にオケノスに念を押し、"瞬間移動"を発動させた。

 

 

 

 

 

 

 そして、"瞬間移動"した先でオレは目にした。

 

「なぁにコレ?」

 

 何故かボロボロになっているエリセンの町、そして何故か重症を負ってぶっ倒れ、おっさん達に滅茶苦茶心配されている様子の清水の姿を。




次回は清水sideの話です。

正直、清水は戦力としてはクソ雑魚なのでいつかクラスメイトと合流させたら戦力外通告して置いてく予定ですが、一応活躍の場は与えときます。
念の為追加説明しておくと、この小説の清水は現状原作より二割程強いです。強化イベントを全てこなすと光輝を超えます。
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