「……そう、ですか。明日には旅立つんですね。寂しいですけど、仕方ありません」
時刻は日本時間で考えれば丁度昼休みの時間帯。海上の町エリセンにあるミュウとレミアが普段暮らす家で、オレは机一つ挟んでメルとミュウの二人と向かい合っていた。
話の内容は旅をする人間にとって避けては通れないもの。数々の偶然によって出会いが発生するように、それは必ず存在する。まあ、要するにお別れの挨拶だ。明日の内には旅を再開するからエリセンを離れる。そう二人に伝えていただけだ。
二人は寂しそうな顔をしながらこちらを見つめてくるが、予定を変更するつもりはない。
「ああ、残念だがオレにはやるべきことがある。そう長い間、一つの町に留まってもいられないんだ。急で悪いな」
【メルジーネ海底遺跡】を攻略し、"瞬間移動"でエリセンに即帰還したあの日から、既に三日が経過していた。この三日間、オレと清水は、エリセンを出ることもなく、ずっと、ミュウとレミアの家に世話になり続けている。
ちなみに、オレがエリセンに戻ってきた時、町の一部がボロボロで清水がボコボコであったが、そこに関しては"回復の術"と"変化ビーム"と"念力"を使いまくって数時間以内には完全修復させた。
少しどころか大分現代日本の知識を取り入れたため、修復した所だけ違和感があるほどメタリックな感じになってしまったが、最終的にはこっちの方が便利だと気持ち悪いくらい感謝されたため、結果オーライということで良しとしよう。
元々、清水にメル達を攫った真犯人を倒させ、それを監視させたマリクに都合の良い噂を広めてもらうことで、エリセンでの信頼を手に入れるまでがオレの作戦だった。ある程度の被害ならば、簡単に治せるように少し練習はしていた。あれを『ある程度』の枠に納めていいかは悩みどころであるけれど。
想定外の事態があったとすれば、何故かエリセンのほぼ全ての住人が清水を監視していたことと、真犯人があの筋肉バカだったことぐらいだ。前者に関しては最終的に怪我人ゼロというメリットに働いたから良かったものの、後者に関しては本当に焦った。
『どうせ雑魚だろ』という軽い気持ちで清水に任せたのだが、まさかあいつだとは思わなかった。確かにハイツなら清水があそこまで重症を負ったのも納得できる。これは完全に憶測になるのだが、あいつは頭は弱いくせして、肉体的にはメルド団長の三倍は強い。もし清水に"魔力操作"の技能を残していなければ、勝敗は逆転していただろう。
常識的に考えれば、清水の傷の治癒や町の修復のために一ヵ月はエリセンに滞在する必要があったに違いない。ただし、オレの技能とか魔法でそれらの後処理をサクッと終わらせた結果、二日後には旅を再開できる準備が整った。
だからこそ、このタイミングで二人に別れを告げたのだ。勿論、早く次の大迷宮を攻略しに行きたいという気持ちもある。しかし、他にも出発を急ぐべき理由があった。
それは、これ以上エリセンにいてしまえば、きっとオレも清水も離れるのが辛くなるというものだ。
たった数日であるものの、この町で暮らし、この町の人々に触れ、正直居心地はかなり良かった。最初こそ、オレと清水を警戒していた住人はいたものの、今となってはその気配はない。歓迎ムード全開となった観光地程住み心地が良い場所はないのだ。
最悪の場合、ここでの生活に順応しすぎて『神殺しとかめんどくせー。誰かやってくれるっしょ』とかいうクズの思考回路にすらなりかねない。
清水の方も、エリセンの住人から好待遇を受けるようになってから、この町から離れがたいという気持ちが僅かに生まれていたようで、オレの考えに賛同した。元から拒否権など与えるつもりはないが、こうしてオレ達の意見は一致したわけだ。
ちなみに、その清水なのだが、マリクに異様なまでに気に入られた結果、泊めてもらっているミュウとレミアの家に散々凸され、酒を反強制的に飲まされ、現在二日酔いでぶっ倒れている。後で頭から水をぶっかけておこう。
オレの話を聞いたメルは、最初からいつかはそういう時が来るとは覚悟していたのだろう。すぐに納得してくれた。しかし、まだ幼いミュウの方はそう簡単に受け入れてはくれなかったようだ。
口を開かず、着ているワンピースの裾をギュッと握りしめ、ただ辛そうな表情で俯いている。オレ達と別れること自体は覚悟していたようだが、まだその覚悟が固まりきっていなかったらしい。
それから少ししてから、少量の涙を流しながら、絞り出すような声でミュウは呟いた。
「……もう、会えないの?」
メルもそうだが、ミュウも時間的に言えば、そこまで長い時間を共に過ごしたわけではない。普通ならば、信頼関係を築けたとしてもここまで別れを惜しんでくれることはない。そんな短い時間でさえも、オレはミュウに大分気に入られていたということだ。
その事実を嬉しく感じつつも、同時に別れが辛くなるならばあまり仲良くなるべきではなかったと考える冷静なオレもいる。だが、子供にこう言われ『え、もう会わないけど……』などと言える程オレは鬼畜でも、度胸があるわけでもない。
「会えるよ……絶対に」
疑問形ですらない。そう定められているかのようにオレは言った。その声を聞いてすぐに、ミュウはガバッと勢いよく顔を上げて反応する。その瞳には僅かに希望の色が見える。
「ミュウもオレの瞬間移動は知ってるよな? ミュウにとってこの世界は無限に続く大地のように広いかもしれないけど、オレにとってはそう大した距離じゃない。いつ、どんな時、どんな状況でもミュウがオレに会いたいと望むなら、いつでもパパッと会いにきてやる」
「ホントに……ホントに会いに来てくれるの?」
「当たり前だろ。そうだな……少なくともオレの旅が終わったら、エリセンにもう一回来よう。約束だ」
先程までの暗かった空気がだんだんと変わっていく。それと同時にミュウの瞳にも輝きが戻っていく。ようやく、いつも通りの彼女に戻り始めてきたのだ。それを察し、オレはとりあえず一安心する。
やはり、ミュウには悲しむような顔よりも笑顔が似合っている。
「そういえば……リンとも似たような約束をしたな。ちょうどいい、今度はリンも一緒に連れて、この町に来るってのはどうだ? きっと楽しいぞ」
そこで思い出すのは、少し前に二人と同じように別れたリンのことだ。彼女ともまたいつか会おうと約束した。この年で指切りまでしたんだから、記憶にはよく染みついている。
「……!? リンちゃんともまた会えるの!」
「なんだ、嫌か?」
そんなわけがないと分かっていながら、ちょっとした意地悪な意味も込めてオレがそう聞くと、ミュウはふるふると首を素早く横に振る。もう先程までのしんみりとした空気は完全に鳴りを潜めた。今のミュウは満面の笑みを浮かべ、ピョンピョンと飛び跳ねながら喜びを表現している。
それほどまでに、オレやリンとまた会えるという事が嬉しいのだろう。ミュウからしてみれば、メルを除けばオレやリンは『友達』の括りに入っているはずだ。始めてできた友達とまた会いたいと思うのは彼女の年齢から考えればそうおかしなことではない。
「それなら、いい子で待てるな。もう危ないことはするなよ。ちゃんとメルの言う事を聞いて、勝手にどこかに行かないように。間違っても、変な恰好した清水みたいなヤバそうな奴にはついていったりしちゃダメだからな」
「はいなの!」
「よし、じゃあそんな良い子のミュウにはコレをあげよう!」
元気のよいミュウの返事を聞き、オレは自分の手首を引きちぎる。勘違いしてほしくないが、別に頭がおかしくなったわけではない。ちゃんと理由はあるのだ。
ミュウの横で優しそうな笑みを浮かべていたメルがギョッとした顔で見てくるが、気にしてはいけない。オレが腕くらいなら取れてもすぐに生えてくるのは、エリセンに戻るまでに何度も目撃したメルとミュウは知っている。そのため、別に驚くべきことでもないはずなのだが、やはり目の前で手首をちぎるこの行為は少しショッキングだったらしい。
メルの『え、何やってんの?』という視線を無視して、オレはちぎった手首をもう片方の手で放り投げるように机の上に置く。
二人が視線が机の上に集中する中、置かれたオレの手首はぴくぴくと切れたトカゲの尻尾のように動きだしてから、アメーバ状に溶け、その形を変化させ始める。かなりホラーな光景なのだが、ミュウはそれを気にした様子もなく、瞳を輝かせてワクワクとしている様子だ。
そして、オレの肉片はやがて、とあるものへと変化した。
「わあー! ちいさいお兄ちゃんなの!」
「……え、なんですこれ?」
それは、全長十五センチくらいのオレだ。
ミニサイズのオレを見て興奮しているミュウと、対照的に思いっきり引いているメル。まったく異なる二つの視線がミニサイズのオレに刺さる。
これは"肉体分離"と"肉体操作"を合わせて作り上げたオレの分身だ。小さいからせいぜい前戦った時のハジメよりも少し弱いが、目的は戦うことではないのだからそこに関しては問題ない。
「サイズも強さもミニマムだが、こいつは紛れもなくオレ自身だ。しばらく一緒にいてやれないだろうからな。ミュウには特別にプレゼントとしてこいつをあげよう。好きに使ってやってくれ。他でもないオレが許す」
「プレゼント!? じゃあ、このお兄ちゃんとはずっと一緒にいれるの!」
「もちろん……いや、オレが死んだら消えるのか? 自分の体のことながらよく分からん」
このミニ分身体の役割はミュウのお世話兼遊び係だ。
あくまで分身体であるため、本体であるオレとの違いはもちろんある。強さとかが一番分かりやすい違いだ。それでも、思考回路はほとんどオレと同様のものだ。今だって机の上でフィギアスケートっとぽいなにかをしているのがその証拠。本当になんとなくであるが、オレも同じ状況だったら同じようなことをするという確信がある。自分のことながら本当によく分からない。
オレと別れることを惜しんでいるというのなら、ミニ分身体がいれば、ミュウも大丈夫だろう。それに、万が一の時にはミニ分身体からオレにSOSの連絡が入るようにしてある。ミュウやメルに危険が襲えばすぐさまオレが駆け付けられる仕組みだ。
「これはもしもの話だが、どうしても寂しさに耐えられなくなったり、攫われた時みたいに危ないと思ったらすぐにこいつに『助けて』って言え。他の全てを差し置いてでも、すぐにオレが駆け付ける」
「うん、ありがとうなの!」
ミニ分身体を形が変わるんじゃないかというぐらいにギュウゥと抱き締め、満面の笑みを浮かべるミュウにオレも無意識の内に笑顔が零れる。その光景に、先程まで冷たい視線を送っていたメルも釣られて頬が緩んでいる。彼女も彼女でミュウの気持ちに整理がついたことを嬉しく思っているのだろう。
それから、オレ達は修学旅行中の学生のように深夜まで語り合い、翌日、オレと清水は、多くの人達に見送られながら、海上の町エリセンを後にした。
〇
時は少し遡り、仁が【メルジーネ海底遺跡】を攻略した次の日。
【オルクス大迷宮】のある町、ホルアドでは、天之河光輝を筆頭に八重樫雫や白崎香織を含めた勇者一行はとある人物との再会を果たしていた。
当初、彼ら彼女らは普段通り、【オルクス大迷宮】を下っていた。その勢いは凄まじく、本来の大迷宮ではないとはいえ、もうすぐ百層にまで到達しようとしていた所だ。
仁やハジメの攻略スピードを基準に考えれば、かなりのスローペースだと思えるかもしれない。だが、それはあの二人が異常なだけであって、一般的に考えてみれば勇者パーティーの成し遂げたことは歴史に名前を残してもおかしくないほどの偉業である。
これまで数百年をかけて人類が【オルクス大迷宮】を攻略できた最大の階層が六十五階層。それを基準に考えれば、この短い期間でここまで到達することができた彼ら彼女らはまさに勇者の名に相応しいだろう。
しかし、彼らの順調な迷宮攻略もここまでだった。
九十層に到達した彼らの前に、魔物を従えた魔人族が現れたのだ。
魔人族の目的は勇者パーティーの勧誘。当然、自称正義の味方である光輝が人類を敵に回すその提案に乗るわけがなく、交渉は決裂、すぐに戦闘が始まった。
光輝達はここで戦闘という選択を選んだが、ここで彼らが取るべき行動は逃亡だった。普通の人間基準ではトップクラスの実力を持つ彼らであっても、強力な魔物を従えた魔人族の前では戦いにすらならなかった。
彼らの不運はそれだけではない。魔人族とはあくまで種族が異なるだけであって、人間であることに変わりはない。光輝達と同じように、家族や愛する者、守らなければならない者も存在する。それを知らずに魔人族をただの喋る魔物のようなものだと考えていた光輝は、千載一遇のチャンスで魔人族の命を奪うことを躊躇った。
結果、勇者パーティーは壊滅寸前にまで追い込まれてしまった。
しかし、そこで彼らを助けに入ったのが、仁の親友であり、香織の想い人でもある南雲ハジメだった。
かつての無能であったハジメと異なり、世界を憎むほどの絶望と一手間違えれば命を失いかねない強敵との戦いの連続により強さを手に入れたハジメは光輝達を救い、勇者パーティーを圧倒した魔人族を従えた魔物ごと殺戮したのだ。
それから先、魔人族とはいえ、人間を殺したことに光輝がハジメを非難するという事態はありつつも、ハジメは光輝達を地上まで無事に送り届けた。
こうして、勇者一行の危機は去った……はずだったのだが、光輝にとっての危機はこれからだった。
なんと、香織がハジメの旅についていくと言い出したのだ。
雫からしてみれば、ハジメに重すぎる想いを寄せている香織がそう言いだすことは想定していたことだが、光輝からしてみればそうではない。
光輝の視点から見たハジメは、種族や年齢関係なく色々な女の子を無理矢理侍らせ、コレクションかのように周囲に見せびらかすことで優越感を得て、強力な武器を自分のためだけに使い、他者の命を奪うことに快感を感じるクソ野郎なのだ。
そんな男に自分に好意を抱いている香織が連れてかれそうになっているのだ。
どうしてそんな考えに至ったとツッコミたくなる気持ちも分かるが、天之川光輝とはこういう男なのだから仕方ない。その場に仁がいたのなら、きっと『キッショ、なんで分かんねぇんだよ』と言って嫌悪感を剥き出しにしていただろう。
こんな感じで、意味のない正義感を剥き出しにした光輝はハジメに決闘を挑んだ。
結果は言うまでもない。強力な力を持つとはいえ、ただの強者でしかない光輝と正真証明人類最強のハジメでは戦闘能力に差がありすぎる。田舎のガキ大将とプロボクサーが戦えば結果が分かりきっているようなものだ。
落とし穴にボットンされて、色んな効果のある手榴弾でボーンッされた光輝は死ぬことはなくとも、無様に敗北した。この光景の姿を仁が見れば、腹を抱えて笑っていたことだろう。
その後、今度は檜山達が騒ぎ出すも、ハジメに睨まれた瞬間、怯えた子犬のようにビビり散らかして退散したり、雫がハジメに香織を女として見てくれなければ厨二感満載な二つ名を世間に広めるという精神的にダメージを与えるやり方で脅しをかけたり、ハジメが練習用に作った刀を雫に渡したりと、色々ありつつもハジメは次の目的地である【グリューエン大火山】を目指そうとした。
そんなハジメを呼び止め、雫はずっと気がかりだったことを問いかけた。
「南雲君……あいつは――仁は無事なの?」
その言葉にハジメは黙り込み、香織は俯き、他の生徒達も暗い顔へと変わる。
仁と雫はクラスの中でもそこそこ仲の良いことで有名であり、雫がどれほど仁の生存を望んでいたかは近くにいた香織が誰よりも理解していた。当然、ハジメも仁と雫の関係を分かっているからこそ、返答に迷う。
しかし、この場で風磨仁の存在を知らないユエ、シア、ティオだけは頭の上にクエスチョンマークを浮かべていた。そんな三人にハジメは説明する。
「仁は……俺の親友だ。あの日、俺と一緒に奈落に落とされたな……」
その言葉に三人は驚愕を露わにする。日頃から自分と自分にとって大切な人以外はどうでもいいと言っているハジメが『親友』とまで呼ぶ相手がいることに純粋に驚いたのだ。
それは、少なくとも仁がハジメにとっての『大切な人』に含まれているなによりの証拠だった。
それから少しの間、静寂の時間が続き、ようやくハジメは口を開いた。
「俺は……あの日から、大迷宮を攻略してる時も、地上に出てからも仁を探した」
あの日……それは二人が奈落へ落とされたあの日のことだろう。クラスメイト達の脳裏にあの時の光景が流れ、恐怖が蘇る。
「でも、あいつは見つからなかった。姿どころか、痕跡すら見当たらない。八重樫には悪いが……諦めた方がいい」
ハジメは歯を食いしばりながらも、残酷な真実を告げる。ハジメだって信じたくはない。だが、最初に落ちた階層を隅々まで探して見つからず、他の階層や解放者の住処も調べ上げ、地上に出てからも色々な相手から話を聞いて捜索した。これほどまで探して手がかりすら見つからなかったのだ。そう考えてしまうのも無理はない。
その真相は、誰にも見つからないよう隠蔽された魔人ブウの封印部屋で吸収された影響で仁がグースカピースカ寝ていただけなのだが、そんなことをハジメは知らない。
ハジメから告げられた事実に雫は少し暗い表情を見せながらも、
「……分かったわ」
そう一言呟いた。
クラスメイト達は仁の死を確信し、空気が今までに比べてズンッと重くなる。特に香織の内心は穏やかでなかった。自分だけが生存を望んだハジメと再会し、喜びを感じていた時の雫の心情を察し、仕方がないこととはいえ強い罪悪感を感じていた。
しかし、雫の決意はこの程度で揺らぐ程ヤワではない。彼女は、あの仁と共に育ってきた幼馴染なのだ。心の強さに関していえば、勇者パーティーの中で随一と言ってもおかしくない。
「ありがとう南雲君。辛いのに教えてくれて。でも、私は仁のことを諦めるつもりはないわ。あのバカはいっつも人の心配をなんでもないかのようにケロッと現れるんだから。今回もきっと今までと同じよ」
「八重樫……お前は……」
「別にヤケになったわけじゃないわよ。何も見つからなかったってことは、死んだとも言い切れないでしょ。それならまだ希望はあるわ」
雫の言っていることは間違いではない。確かに死体も血痕もないのなら、生存している可能性もゼロではない。それよりも圧倒的に肉片すら残さず魔物に喰われた可能性の方が高いだけだ。
それを理解しているからこそ、ハジメは仁の生存が絶望的だと判断したのだ。そして、そんな簡単なことを雫が理解していないはずがない。それでも、仁の生存を諦めるつもりのない雫にハジメは何も言葉が出てこず、黙ってしまう。
「雫ちゃん……」
その気持ちは香織も同じであり、なんと言っていいのか分からず、ただただ雫を同情したように見つめる。
「もう、そんな辛そうな顔しないで。私のことは気にしないで香織は南雲君と行ってらっしゃい。今までずっと我慢してきたんだから、もう我儘になっていいのよ」
香織の視線からその心情を察した雫は困ったような笑みを浮かべながら、香織の頭を撫でて、優しく語り掛ける。
「……うん……ありがと」
心を落ち着かせるような優しい雫の声に、荒れていた精神が落ち着きを見せた香織は気持ちを持ち直し、今度こそハジメ達と共にホルアドの町を後にした。後にその場に残ったものは、まるで葬式のような暗い空気だけだった。
しかし、彼ら彼女らは知らない。
ハジメはこの後に訪れる『アンカジ公国』で衝撃の事実を知ることとなり、雫も帰還した愛子から仁の生存報告と同時に性転換疑惑という、どう反応すればいいか分からない情報を告げられるということを。
忘れてるかもしれないので、【オルクス大迷宮】内での時系列解説。
・奈落に落ちた直後
ハジメも仁も同じ階層にはいた。ただ、仁は偶然ヤコンが支配してる暗闇エリアに落ちて来たため、外界から隔離された状態だった。
・仁がブウに吸収され、おねむ中
ブウに吸収されたショックで仁は眠っていたが、この期間に既にハジメはラスボスのヒュドラを倒してユエと一緒に解放者の住処に辿り着いていた。
仁を見つけられなかった理由はブウの封印部屋が解放者の魔法によって隠蔽されていたため『元から知っている』or『偶然入る』の二つの入り方しかできない。
・仁が大迷宮攻略中
ハジメは解放者の住処でユエとイチャイチャしてる。
・仁が【オルクス大迷宮】攻略
ハジメはちょうど仁がヒュドラと戦っている時に大迷宮から出ていったため、入れ違いの形となった。
どうして仁はそんな長期間眠っていたのか?
ブウに吸収され、メインとしての人格が仁になったため、ブウとしての記憶や知識、体の使い方などを仁の脳内に送り込んでアップデートするために安全性のため一時的に意識をシャットダウンした。
原理的にはハジメとユエが原作で七つの神代魔法手に入れてぶっ倒れた時と似たようなもの。
ハジメは檜山が自分を奈落に落としたことに気づいてない?
Yes。
あいつならやりかねないという疑惑は持っているけれど確証はない。多分気づいたら仁の仇ということで檜山はもう死んでる。
後に香織からそれを知らされることになるのだが、それはもう少し後のことなので、次見かけたら殺してやる程度にしか考えていない。
メタ的なことを言うと、檜山の処罰は仁にやらせたいので、ハジメには手出しさせない方向で。
Q. 雫が仁の生存を諦めない理由
A. なんとなく。
ドラゴンボールでもブウ編でビーデルがなんとなく悟飯生きてると確信してたから、まあ、愛のパワー的な感じで。
メルとミュウの今後登場予定
多分最後にチョロっと出るくらい。実質的に二人の出番は終了。