ピンクの魔人と共に   作:クー(無課金勢)

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第四章
ブルックの町にて


 エリセンを旅立ってから二日が経った。大迷宮を探してぶらぶらと旅を続けていた仁と清水が最初に辿り着いた町は、ブルックという名の小規模な町だった。

 

 ブルックは仁が今まで訪れたことのある町とは異なり、冒険者が頻繁に訪れることもなければ、観光地として有名というわけでもない。

 

 門番が配置されるぐらいには町の設備は整っており、食料も装備品もまあまあ充実しており、旅の途中でしばらく宿泊するぐらいならば十分満足できる程度の『悪くはない』という評価がしっくりとくる町である。

 

 ならば、実際に訪れた仁はこのブルックという町をどう評価するのか? 彼は、間違いなくこう言うだろう。

 

 『変態共の町』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エリセンを離れてから二日、オレと清水はブルックと呼ばれる町に辿り着いていた。

 

 次の目的地として定めた大迷宮【ライセン大迷宮】が【ライセン大狭谷】にあることはオスカー・オルクスの記憶から既に知っている。しかし、その詳細な位置は不明。一応、【オルクス大迷宮】を出てすぐの時に【グリューエン大火山】を目指しながら探したため、少なくとも大陸の西側にはないとは思うのだが、それでも捜索範囲が異常に広いことには変わりない。

 

 それを覚悟していたからこそ、日を跨ぐ捜索を想定していたオレは【ライセン大挟谷】の近くで見つけたブルックの町を一時的な拠点とし、しばらくの間この町に滞在することにした。

 

 しかし、ブルックに訪れたオレを待ち受けていたのは……悲劇だった。

 

「「「仁ちゃん、俺と付き合ってください!!」」」

「よし、そこに全員並んで腕か足を選べ。好きな方を残してやる」

「やめろやめろ! 風磨のいう腕は上半身で足は下半身だろ! どっちにしろ死ぬって!」

 

 町に入るなり、冒険者風の男共に名前を聞かれたかと思えば、いきなり告られ。

 

「「「仁きゅん、私の旦那様になって!!」」」

「失せろ。俺は変態に興味はない」

「やべぇ。目の前で女に告白されてるのに全く羨ましくない」

 

 さらに町の奥へと進めば、血走った目をした妙齢の女共に求婚され。

 

「そんなダサい男より俺のほうがいいぜ!」

「そうよ、性別の壁なんて乗り越えましょ!」

「「「そうだそうだ」」」

「……あ?」

「やめてくれ! それは俺にも飛び火する!」

 

 時には、どういうわけか清水と恋仲と疑われ。

 

「……この町滅ぼそうかな」

「マジでやめろよ! せめて冗談っぽく言ってくれ!」

 

 もうこの町を人っ子一人残さずに、消し飛ばしてもいいんじゃないかと本気で思ってしまうくらいには、オレの気分は最悪だった。

 

 

 

 自分の容姿が女性に間違えられやすいということは大分前から分かりきっていたことだ。これまでも、結構な確率で女と間違えられ、色々と面倒な経験をしてきた。それでも、ここまで不特定多数から積極的にアプローチを受けたのはこれが初めてだった。

 

 これが同年代の可愛い女の子達ならどれほど嬉しかっただろう。日本では絶妙に女の子にモテなかったから、異世界に来て可愛い女の子に囲まれるのはちょっと期待していた。だが、先程から来る奴はゴリゴリの男共と下卑た視線を向けてくるババア……あとオカマだ。嬉しくなるどころか、気持ち悪くて吐き気がする。しまいには、清水とオレが恋仲? どこのどいつに需要があるんだよ。

 

「風磨、お前苦労してんだな……」

「同情するなら代わってくれ」

「……悪い」

 

 横で清水が苦笑いを浮かべながらオレの機嫌を治そうと声をかけてくるのだが、テンションが戻ってくることはない。むしろ、現在進行形で刺さる気味の悪い視線でさらに気分がだだ下がりとなる。

 

「もういい。さっさと宿屋に行こう。……次来たらおまえがなんとかしろよ」

「はあ!? 俺がか!!」

「嫌ならやらなくていいんだぞ。新鮮な死体が町に一つ増えるだけだ」

 

 人の目さえなければ、あんなクズ共はアンカジにいたビィズのように容赦なく半殺しにしていたが、ここは思いっきり町中だ。人目がない場所の方が珍しい。

 

 流石に大通りで問題を起こすわけにもいかず、オレはそれからも厄介なブルックの住人達から逃げるように、時には清水に押し付け、メインストリートを進んだ。何人か、物理的に襲いかかってくる奴もいたが、そういう奴らは清水に洗脳させて、価値観を美醜逆転させて町に解き放っておいた。

 

 それからしばらくして、オレ達はついに目的の宿屋にまで辿り着いた。

 

 宿の名は"マサカの宿"。この町で暮らす人間の中でもまだマシな部類の門番に薦められた宿屋だ。聞いた話によれば、多少割高だが、美味い料理に風呂付き、しかも防犯設備もバッチリだという。コレだと思ったオレは迷うことなく今日の宿をそこに決定した。町の人間を見て一気に不安になったけれど。

 

「いらっしゃいませー! ようこそ"マサカの宿"へ! 本日はお泊りですか? それともお食事だけですか?」

「宿泊したい。頼めるか?」

 

 そこそこ綺麗に整備された扉を開け、オレと清水が"マサカの宿"に入ると、もはやお約束のように清水の存在など始めから無視されてオレに視線が集まる。それらを見て見ぬふりをして カウンターらしき場所に近づくと、受付してくれるであろう十五歳くらい女の子が元気よく挨拶しながら現れた。

 

「大丈夫です! 何泊のご予定ですか?」

「食事、風呂付きで二……いや、三泊だな。頼めるか?」

「はい。お風呂は十五分百ルタです。今のところ、この時間帯が空いてますよ」

 

 ルタとは、トータスの北大陸共通の通貨のことであり、驚くことに貨幣価値は日本と同じだ。不思議に思わないこともなかったが、特別不便にも感じることもなかったため、今ではそういうものだと納得できている。

 

 女の子が見せてくれた時間帯表を確認すると、意外にも時間はガラガラに空いている。今までにも薄々感じてはいたが、やはりこの世界の人々は風呂という文化にそこまで積極的ではないのだろう。風呂という行為自体は禁忌しているわけでもないし、どちらかといえば気に入っているんだろうが、金を払ってまで入るものじゃないと感じているのかもしれない。

 

「時間は結構余裕があるな。清水はどうする? オレは三十分あればいいけど……」

「俺もそのくらいでいい。元々そんな積極的に入ってた訳じゃないしな。ゲームのイベント中は入らない日もあった」

「おっけー。じゃあ、二人別々に入るとして……この時間に一時間頼む」

 

 清水と相談しつつ、そう風呂の時間を予約すると、何故だか女の子はあからさまに残念そうにため息を吐いてから、宿泊手続きを進める。どうしてか、無性に腹が立ったが敢えてスルーしておこう。

 

「お部屋はどうされますか? 一人部屋と二人部屋が空いてますが」

「そうだな、贅沢に一人部屋二つでいくか」

「いいのか? ここってそこそこ高いんだろ?」

「問題ない。オレは基本食費を抑えられるから、金は溜まってく一方なんだよ。こういう時に使わないと勿体ないだろ」

 

 旅の途中で、魔物に襲われてる人を(清水に)助けさせたりすることで、お礼にといくらか金を貰ったり、喧嘩ふっかけてくる馬鹿を返り討ちにして金銭を奪うようなことがよくある。しかし、オレは腹が減ることはあっても食事をしなければいけないわけではなく、睡眠もトイレも必要ない。

 

 実質、この身一つで旅ができるオレにとって金はある分には嬉しいが、別になくても特に困ることはないのだ。そうなると必然的に金を消費するのは清水だけであって、オレの分の金銭は溜まっていくばかりとなる。

 

 オレ的にはそういう意図で答えたのだが、どうやら周囲には違う意味で捉えられたらしい。宿屋の食事スペースにいる客達、特に男連中が清水に向かって『ざまぁ!』という表情を向けたのだ。その反応でオレも清水も客達が何を考えているのかすぐに察し、頭を抱える。

 

「ほんとマジで……この町の人間共は……」

「……嘘だろ。俺と風磨が……うぇぇ……」

「やめろ想像するな。吐くぞ」

 

 きっと清水を嘲笑っていた奴らにはオレ達の姿は休憩という(てい)でラブホテルに女を誘おうとした地味男とそれをあっさりと断った美女のように見えているのだろう。

 

 そういう風に見られていたという憶測はしてたが、流石にこれはキツい。感覚でいえば、ただの男友達と遊びに行ったら、他人にそういう関係だと誤解されたような感じだ。気持ち悪くて吐き気がする。

 

 そんなオレ達の様子を知ってか知らずか、先程まで元気な女の子だとばかり思っていたカウンターの少女が急に鼻息を荒くし、頬を赤く染め、明らかに興奮した雌の顔で捲し立てるような早口で話しかけてきた。

 

「え、遠慮しなくても、お二人でご一緒の部屋に泊まってくれても良いんですよ! 男女の二人旅で色々溜まっていることでしょうし、私はなにも気にしません! ですので、大胆な行為に移って頂いても一向に構いません! むしろハッスルしてください! 勿論覗きなんてしません! ええ、本当にしませんからね! ぜっっったいにしませんからね!」

「――なぁ、君……」

「なんでしょう! 予約の変更ですか、それともお風呂の時間の延長ですか! どちらもオーケーですよ! いや、両方もアリですね!」

 

 なんとなく、そんな気配は薄っすらとしていた。オレを見る目線が町中で散々絡んできた奴らと同じ目線をしていたからもしかしたらと。案の定、この女の子はむっつりなタイプの変態だった。

 

 目をバチバチにして興奮している少女に対して、オレは精一杯軽蔑したような目を向けながら、真実を告げる。

 

「オレは男だ」

 

 その瞬間、宿屋の女の子はピシリとまるで石化したかのように動きを止める。同時に、宿屋で食事をしていた男女問わずの客達もオレを見つめたまま動きを止めた。中には食事中の料理を落とす者すら現れる。

 

「……う、そ……ですよね」

「本気だ。ほれ……」

「え……な、ない!?」

 

 数秒して再起動した女の子の手を掴んで、オレの胸に手を当てさせると、そこに女性ならばあるはずの膨らみがないことに女の子は驚愕する。そこでようやく、女の子は真実に気づき、錯乱したかのように瞳をグルグルとさせる。

 

「そ、そんな……俺様系の女の子がフツメンの男に抵抗しながらも調教されるアプノーマルは……最初はイヤイヤしてても最後には甘えちゃう可愛いところは見れないの……それじゃあ、格好つけて普段はズボン穿いてても命令されてスカート穿いちゃうのも……我儘言っちゃって後でお仕置きプレイされるのも……心の底まで女の子にされて最終的には自分のことを『わたし』って言っちゃうのも……全部見れないの……」

「……これは重症だな」

 

 女の子はなにやら危ない方向にトリップしていた。見かねた女将さんらしき人がズルズルと女の子を奥に引きずっていく。代わりに父親らしき男性が手早く宿泊手続きを行ってくれた。ただ、その眼には『この子が男? いや、男の()?』という動揺の色が宿っている。絶対、後で家族会議が開かれる気がする。

 

 もう何を言っても面倒な事態になる予感しかしなかったため、急な展開に呆然としている客達を尻目に、オレは清水と共に三階の部屋に逃げるように向かった。しばらくしてから、止まった時が動き出したかのように階下で喧騒が広がっていたが、もうそこにオレはいない。

 

 その後、自分の部屋に入ると、耳を引きちぎって聴覚を一時的にカットしてから、部屋で一人でゆっくりとくつろぐことにした。

 

 

 

 

 

 

 それから、食事のために一階に降りたら宿の女の子に謝罪されたり、五分程風呂に入ってから出たところで覗きに来た宿の女の子と鉢合わせしたり、頼んでもいないルームサービスで宿の女の子が何度も部屋に来たりと……

 

 休むために宿に来たのに、アホな従業員のせいでろくに休めなかった。むしろ、警戒した分余計に疲れた。どうやら、オレの男としての部分を上は確かめたが、今度は下を確かめるつもりらしい。

 

 とんでもないくらいの貧乳だと思われたのか、それとも上半身は男で下半身は女の珍生物だとでも思ったのか、余程あの女の子はオレの裸を見たいらしい。

 

 流石にオレも会って一日も経っていない異性に裸を見せる程変態じゃない。問答無用で部屋から追い出してやったが、この生活が後数日も続くとなれば、かなり憂鬱だ。

 

 そんな感じで、初日から酷い不安を感じながらも、全く休めないままブルックでの一日は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は少し戻る。

 

 仁と清水がエリセンでの事件を完全解決し、新たな旅へと出る準備を進めていた頃、新たな仲間として香織を迎えたハジメ達は【グリューエン大砂漠】の中にある唯一の国、アンカジ公国に辿り着いていた。

 

 美しく活気に満ち溢れたアンカジを見て、美しい都だとハジメ達は感嘆する。アンカジは観光的にも冒険者的にも重要な町であり、そんな町を支える人々の様子はまさに今生きていることを全力で楽しんでいるかのような姿だった。

 

「……アレなに?」

 

 そんな時、ハジメが連れている女の子の中でも最も愛する女であるユエがとある集団を指差した。

 

「銅像……なのか? もしかしたら、ここの領主の像かもな」

「いや、違うじゃろうな。そのような己の権力を示すものは、大抵国が完成した時に作るはずじゃ。この国が生まれたのはかなり昔のはず、その可能性は低いと思うぞ」

「そういうものなんですか?」

「うむ。それでも、あれほど巨大な像であるならば、この国にとって重要人物であるのは間違いないじゃろうが……」

 

 その集団の中心には、ぱっと見、作りかけの人型の銅像のような物が立っていた。壊れている物を修繕しているのではなく、それが新しく作られているものだということは錬成師を天職に持つハジメにはすぐに理解できた。

 

 しかし、ティオの話を聞けば、それはこの国にとって重要人物であるだろうが、領主のように昔からこの国にいた人物でないという。まだ作りかけであるため、それが誰のものかは不明なのだが。

 

「私……ちょっと聞いてくるね!」

「お、おい香織! はぁ……仕方ない、俺達も行くか」

 

 そこまで話を聞いて、気になった香織がその集団に向かってハジメの静止も聞かずに元気よく走っていく。普段ならもう少し大人しい彼女も、ようやく再開できた想い人と初めて町を訪れたということで、ちょっとしたデート気分で浮かれているのだ。

 

 それが、ハジメと香織の二人だけであれば可愛らしいだけの行動であったのだが、他の女を三人も侍らせているとなると第三者から見れば少し複雑だ。

 

「おっ、あんたらもこの像について知りたいのか?」

「ああ、目立ってたからな」

 

 香織を追って銅像の周囲に集まる人だかりまで近づいたハジメは香織と話してデレデレしている気の良さそうな三十代くらいの男性に声をかけられた。

 

 どうやら、彼はこの銅像を作っている人間の一人のようで、これから自分達が作る銅像について自慢したくて仕方ないらしい。胸を張り、鼻息を荒くして今にも語りたいという雰囲気を醸し出している。

 

 男の話が少し長くなりそうなことを察したハジメは苦笑いを浮かべるも、完全に善意で語ろうとしていて、こちらから聞いたのも事実であるため、大人しく話を聞く体勢に移る。

 

 しかし、男の放った言葉はハジメの今までの冷静さを吹き飛ばした。

 

 

 

「これ像はな、アンカジを魔人族の魔の手から救ってくださった英雄……風磨仁様の銅像だ」

 

 

 

「……は?」

 

 『風磨仁』

 想定すらしていなかった名前の登場にハジメは思考が完全にフリーズする。今まで探してきたものの、手がかりすら見つからなかった親友の名がここにきて現れたのだ。すぐさまハジメは脳を再起動して、目の前にいる男の肩を強く掴む。

 

「おい、どういうことだ! 仁がここにいるのか! どこだ!!」

「な、なんだよあんた。いきなりどうした!?」

 

 いきなり豹変したハジメの様子に銅像について語った男だけでなく、ハジメの女であるユエ、シア、ティオも慌てふためいている。いつものハジメであるならば、考えられない乱れ方だからだ。

 

 ハジメはいつだって冷静に物事を考え、常に現状の最適解を導き出す男だ。それが、ここまで冷静さを乱す姿はユエでさえ見たことがなかった。唯一、香織だけはハジメの豹変にすら気づかず、仁の名を聞いて未だ呆然としている。

 

「早く答えろ! あいつはどこにいる!」

「ハジメ……落ち着いて……」

「ッ……!?」

 

 しかし、ユエに服の裾を掴まれ、そう声をかけられたことでハジメは今の自分を客観的に見て、自身の暴走を自覚する。周囲を見渡せば、ハジメの怒声によって多くのアンカジの住民達が「なんだなんだ、喧嘩か?」と集まってきていた。

 

 そんなアンカジの住民達を見て、ハジメは完全に冷静さを取り戻す。そして、目の前の男を掴んでいた手を離し、頭を下げた。

 

「いきなり怒鳴って悪かった。俺にとってその名は特別でな。よければ、あいつ……風磨仁のことについて教えて欲しい」

「……まあ、いいけどよ」

 

 それから先、ハジメ達は最初に声をかけた男だけでなく、アンカジに暮らす多くの住民から仁について聞いて回った。ユエ達は仁がハジメにとっての親友という情報しか知らないため、そこまで必死な様子に少し困惑していたが、自分達が信じた男に従って多くの人から情報を集めた。

 

 

 

 

 

 

 そして一時間後、ハジメ達はアンカジのとある飲食店で情報を整理していた。

 

「それじゃあ情報を整理するぞ。風磨仁はアンカジに神として現れ、汚染されたオアシスを浄化し、死んだ人間を神気で蘇らせ、アンカジを襲った魔人族を連れていた二十メートル以上もある竜ごと撃破して、誰の目にも触れずに天へと帰った…………女性って話だったよな」

「「「「……」」」」

 

 これがハジメ達が多くの人から聞いて集めた情報の結果だ。ところどころ、誇張されている気がしなくもないが、大まかな事実は間違っていない。

 

 勿論、ハジメもこの情報を丸々信じているわけではない。所詮噂であるため、話半分に聞いた感じだ。それでも、少なくとも仁がこの町に来たことは事実であるとハジメは断定する。そうでなければ、異世界の住人が『風磨仁』という日本風の名を知っているはずがない。

 

 聞いた話を全て整理し、少なくとも一週間以上前には仁がこの町から消えたor出ていったのだと推測してハジメ達はひとまず情報を落ち着いて見直すべきだと考え、この飲食店に訪れたのだ。

 

「なんか、凄い神っぽいことしてたり、竜が出てきたりとか、色々ツッコミたいところはあるが……香織、一ついいか?」

「……うん」

 

 何を聞かれるのか分かっているようで、香織は凄く嫌そうな顔で質問を待つ。

 

「仁って……女だったのか?」

「違う……はず」

「……だよな」

 

 この中で一番仁との付き合いが長い香織はそう自信なさげに答える。信頼関係はハジメの方が強くとも、実際に仁と幼馴染として一緒にいた期間が長かったのは香織である。そんな彼女でも、仁が男だとは断言できなかった。

 

 当たり前であるが、女の香織が男であるはずの仁の裸など見た事あるわけがない。香織よりも付き合いが深い雫ならば断言できるかもしれないが、証拠がない今の香織では、仁が男装女子という可能性を否定しきれない。これは、元より仁が童顔であることも悩ませる要因の一つだった。

 

 ハジメ達の間にはなんともいえない微妙な空気が流れ始める。ハジメの唯一の男の親友である仁が生存していたことだけでも驚くべきことなのにも関わらず、その仁が常識外れの偉業を成し遂げ、しかも女性である可能性まで出てくるという多すぎる情報にハジメはどう反応していいのか分からないのだ。

 

 奇遇にもこのような空気を少し前にウルで愛子も経験していた。きっと、同じ感情を抱いた者同士、ハジメと愛子は仲良くできるに違いない。

 

 そんな異様な空気感の中、ユエはいつものように小さな声でポツリと呟いた。

 

「つまり……敵?」

「違うよユエ! 仁君は違うからね!」

「女の心は誰にも分からない。その仁って女も……きっとハジメのことを……」

 

 ハジメの親友というポジションでも男ならば問題なかったが、その相手が女となれば話は変わる。要するに、ハジメのヒロインポジションを争う強敵として、ユエは姿を知らない仁相手に意味のない敵意を向け始める。

 

「いや、無いだろ」

 

 しかし、その可能性は親友であるハジメが切り捨てる。

 

「あいつは八重樫に惚れてるからな。それに多分……男だから、俺に惚れることもない」

「え……仁君って雫ちゃんのこと好きなの!?」

「……気づいてなかったのか」

 

 そう、ハジメは仁が雫に想いを寄せていることを知っていた。日本にいた頃から絶妙に分かるか分からないかといったアピールを仁がよく雫にしていたからだ。仁とずっと一緒にいたハジメだからこそ気づけた些細なことであるのだが、そのハジメよりも二人と長い付き合いのある香織が相変わらずの鈍感さを見せ、つい苦笑いを浮かべてしまう。

 

「だからそれはないが……なんであいつ女になってんだ?」

「結局……そこだよね」

 

 ハジメも自信を持って仁が男であると言える。しかし、伝わっている性別は女。もし、ここでとある商人の息子から正確な情報を得てさえいれば、もう少し真実に近づけたのかもしれないが、今彼らが持つ情報ではそこに辿り着くことはできない。

 

 加えて、領主の命令として仁が通常の人とは異なる肌の色をしていることはアンカジの住人全員が口止めされている。魔人ブウとの関連性も考えられなかったのもこのような事態になってしまった原因だろう。

 

 そうして、結局真実は謎のまま、彼らはアンカジを離れていった。次の目的地は【グリューエン大火山】。そこで、彼らは神代魔法を手に入れた魔人族と遭遇することになるとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、銅像が完成したのはそれから一ヵ月後のこと。完成した銅像はビィズの指示によって王宮内に置かれることになったとかどうとか。




ブルック
仁と清水が訪れた町。原作ではハジメ達が【ライセン大迷宮】を探すために訪れている。
基本的にブルックに暮らす住人は愛に飢えている男と女、ユエによって増やされたオカマばかり。ハジメ達のせいで、美人相手にはとりあえず特攻という考えが生まれた結果、仁が苦しむ羽目となった。
一応、中にはマシな部類もいるにはいるのだが、宿屋に寄るためだけに来た仁の元にはナンパ目的の奴しか近づいてこない。

マサカの宿
ブルックの中でも特におすすめと言われる宿屋。むっつりスケベ看板娘ソーナちゃんが働いていることも人気の一つ。
ハジメとユエ、シアのせいで性癖を壊されたソーナちゃんは宿屋に男女が泊まりにくると、興奮→覗き→説教という一連の行動が息をするように当たり前のこととなった。もはや、ブルック内では『マサカの宿に男女で宿泊すると覗かれる』と噂になるまでに至っている、
ナンパの名所の一つとしても有名。

アンカジ公国
仁がハジメ達が来る前に色々あって救済した町。
仁の活躍を後世に語り継ぐために銅像を建てようとしているところをハジメが発見、仁の生存を知ることとなった。ただ、情報が混雑していて真実には辿り着いていない。
この小説でのビィズは仁に完全に惚れているため、香織に惚れることはない。どちらにしろ、彼の恋は叶わないけれど。

風磨仁の銅像
仁「やめて、壊して! 黒歴史になる!!」

ハジメパーティー
この後魔人族と一戦交える現状人類最強パーティー。
何故か仁に殺されたアンカジを襲った魔人族と清水を洗脳した魔人族をハジメの仕業と間違えられるため、この後身に覚えのない怒りをぶつけられる。
仁の生存を知ってハジメは喜ぶが、あまりにも付加情報が濃すぎて純粋に喜べなくて困っている。多分、真実は知ったら知ったでブチギレる。まあ、恋人をハートキャッチされてるから仕方ないかもだけど。

畑山愛子
この後攫われます。
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