ピンクの魔人と共に   作:クー(無課金勢)

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ミレディ救出大作戦

 三つ目の大迷宮として挑戦した【ライセン大迷宮】。その主であり、同時に大迷宮のガーディアンでもあったミレディ・ライセンとの戦いにオレは勝利した。その後、裏で色々頑張っていた清水を回収し、隠されていた解放者の住処に合法的な不法侵入をしたオレ達がそこで見たものとは……

 

 満身創痍な状態で倒れた小さなゴーレムの姿をしたミレディ・ライセンだった。

 

 

 

 

 

 

「……風磨、どうだ?」

「体の方に異常はないな。もっとも、ゴーレムの体に異常があったとしても大して問題にはならないだろうけど。ヤバいのは魂の方だ。オレも専門家ってわけじゃないから確かなことは言えないが、多分そう長くはもたないぞ」

 

 オレはすぐさまミレディゴーレムを奥の部屋にあったベットまで運び、その体の状態を気を流して解析する。

 

 そこで分かったことは、ミレディの魂が崩壊寸前だということだ。精神系の魔法にある程度の知識があればもう少し詳しく調べられたかもしれないが、それはどちらかといえば清水の分野だ。

 

 その肝心の清水はこういう状況で役に立たないから、実質オレ達にこれ以上ミレディの現状を把握するすべはない。

 

「治せるのか?」

「……無理だな。肉体的なダメージならどうとでもなるが、魂の方の治療はオレの専門外だ。どうしようもない」

 

 そう、今のオレ達はこの状態のミレディを治す手段を持ち合わせていない。魂に関する神代魔法を手に入れていたならば、それも不可能ではないかもしれないが、残念ながら今までオレが手に入れた神代魔法にそういう系統のものは……

 

「……いや待て。そうか、神代魔法か」

 

 その瞬間、オレの脳裏にはとある考えが浮かんだ。比較的最近攻略した大迷宮【メルジーネ海底遺跡】。そこのクリア報酬として手に入れた神代魔法――"再生魔法"。これは名前の通りとして見れば治癒の魔法とも思えるかもしれないだろうが、その本質は『時』に干渉することにある。

 

 魂そのものに干渉することができなくとも、ミレディの魂に作用する『時』という概念を巻き戻せば、もしかしたらこの状態のミレディであっても正常な状態まで戻せるかもしれない。

 

「……だが出来るのか? 今のオレの技量で……」

 

 "再生魔法"は神代魔法の中でもかなり高度な魔法だ。時間というこの世界における絶対のルールに逆らう魔法なのだ。最近習得したばかりのオレがそう簡単に使いこなせるとは思えない。それも魂だけに作用する時間の反転などという難易度の高すぎる魔法を。

 

「いや、そもそもこいつを助ける必要あるか? 普通に敵だよな。助けても襲い掛かってくるなら別に助けなくても……」

「お前いきなり何言いだすんだ!? こいつに死なれたら神代魔法手に入らねぇだろ!」

「……確かにそうだな」

 

 清水に正論を言われるのは納得がいかないが、その通りだ。オレは兎も角、清水が神代魔法を手に入れるにはこいつの存在が必須だ。しかし、やはり上手くいく気がしない。むしろ、魔法が失敗して更に悪い状況に陥る気がしてならない。。

 

 そんな嫌な予感をどうしても拭えず、どうにか他の方法はないかとオレは脳をフル回転させる。

 

 そんな時だった。オレの頭の中に直接語り掛けて来るような声が響いたのは。

 

『大丈夫だ。今の君に不可能はない』

 

「……この声は?」

「風磨……どうかしたのか?」

 

 いきなり脳内に流れた聞き覚えのある声にオレは呆然とするも、その声はこちらの反応など関係ないかのように再度声を掛け続けてくる。

 

『失敗を恐れることはない。最悪を想定する必要もない。彼女の君に対する憎悪も今は忘れてくれ。ただ、君の思うままに行動してほしい』

 

「あの時と同じ……まさか、やっぱりそういうことか?」

「おい、さっきから一人で何言ってんだよお前……」

 

 清水にはこの声が聞こえないのか、ぼそぼそと独り言を呟くオレを心配そうに、そして不思議そうに見つめて来る。だが清水のことなど今はどうでもいい。オレの脳裏には、この声に関する一つの推測が浮かび上がっていた。

 

『それと……これは私のただの我が儘であるから無視してくれても構わない。それでも、どうか聞いて欲しい。彼女を――ミレディを救ってくれ。私の……大切な仲間なんだ』

 

 それが最後の言葉となり、これ以上声がかけられることはなかった。どうやってオレに声を届けているのかは分からない。それでも、声の主が実際に出会ったことはないものの、オレがよく知る人物であるということは理解できた。

 

 こうして()と話すのは【グリューエン大火山】の時以来だ。あの時は物理的に脳が沸騰していたこともあって薄れている記憶もちょろちょろあるが、よく思い出してみればあれは幻覚でも幻聴でもなかった。

 

 そして同時に、今オレがするべき行動も確定した。

 

「……いいぜ、任された。オスカー・オルクス、おまえの頼みを引き受けよう」

 

 謎の声の主――オスカー・オルクスがミレディ・ライセンを救うことを望むのならば、オレはその期待に応えるまで。

 

 何故頭の中からオスカーの声が聞こえるのか? そもそも生きているのか? その疑問はまだ憶測の域を出ないけれど、今はそこについては放置でいい。優先するべきはミレディを救うこと。間接的にとはいえ、命の恩人であるオスカーに頼まれて、断るなどという選択肢はオレにはない。

 

 なんとしてでも、ミレディは救ってみせる。

 

 だがオレが覚悟を決めたところで、状況が改善するわけではない。オレに魂のダメージを癒す手段はなく、"再生魔法"を自在に扱える技量があるわけでもない。それでも、今もなおミレディの魂は刻一刻と消滅へと近づいている。

 

「手段がない。……それなら、作ればいい」

 

 "瞬間移動"の時と同じだ。"再生魔法"をベースに、オレが使いやすい技を作りあげればいい。ダメージや負傷を癒す『治癒』ではなく、時を遡って元の状態に戻す『復元』の効果を持つ全く新しい技を。

 

 イメージはビデオの逆再生だ。現在から過去に向かって時間の流れを反転させる。その効果範囲と時間を限定した上で、魔力ではなく気で発動可能とする。

 

 頭の中でイメージには成功した。後はそれを現実で再現するだけ。そう簡単にできることじゃないのは分かってる。だからこそ、賭けの要素は多くなる。それでも、出来るという確信がオレにはあった。

 

 ベットで横になるミレディの胸に手を置く。勿論、ゴーレムの体なのだから柔らかい感触はない。まあ元々そこまでサイズがある方ではなかったため、人間の体でも欲情はしないだろう。それにオレは上より下派だ。

 

 ミレディの体の内側に気を流し、魂に干渉する時間を感覚で掴む。そして、たった今脳内に浮かんだ技名を口から溢した。

 

「――"リ・バース"」

 

 その直後のことだった。ミレディの体がオレの気に包まれて桜色に輝く。そして同時に、ゆっくりとだが確実にビデオの逆再生のようにしてミレディの魂が修復されていく。成功だ。この土壇場でオレは運を味方につけた。

 

 しかし、都合のいい展開はそう長く続いてくれなかった。

 

「マズいな。……さっきの戦いで気を消耗しすぎた」

 

 気軽に使えるようにするため、全体量が魔力よりも圧倒的に多い気で発動できるようにしたこの技だが、どうやら想定よりも消耗が激しいようだ。

 

 しかも、先程のミレディとの戦闘で想定よりも多く気を消耗してしまっている。残った気はそう多くない。それに、この技は気を馬鹿みたいに消費するくせに修復スピードが遅すぎる。ハイコストローリターンとか最悪だ。

 

 それでも、今はこの燃費の悪い技に賭けるしかない。

 

「まだだ……あと少し……あと少しなんだ……」

 

 それから数分、気をゴリッゴリに削りながらも、オレはミレディの魂を修復し続けた。今回成功したからといって、次も上手くいくとは限らない。この一回で終わらせる。隣にいる清水もオレに余裕がないことを察したのか、黙って見守り続けている。

 

 そしてついに、その時は来た。

 

「……終わったー!」

 

 気の残量が二割を切ったところで、なんとかミレディの魂を手遅れとなる前の状態までに戻すことができた。その後ついでにゴーレムの肉体を軽めに修復して、ミレディの治療は完了した。

 

 今までで一番集中力を使った作業を終え、オレは全身から力を抜いてその場に座り込む。多分、日本にいた頃によくやっていた一人神経衰弱の時よりも疲れた。

 

 そして治療が完了したのと、ベットで眠る彼女? が目を覚ましたのはほぼ同時だった。

 

「ん……んん……あれ、私どうして……」

「なんだ。もう目が覚めたのか?」

「っ……!?」

 

 分かりずらいが眠そうな顔のまま目を開けたミレディはオレを視界に入れた瞬間、寝ぼけていた脳が覚醒して自分の身に何があったのかを全て思いだしたようだ。顔を青くして立ち上がろうとする。

 

 ここで抵抗されたらたまったもんじゃない。オレは腕を伸ばしてグルグル巻きすることでミレディの身動きを封じ、その腕を引きちぎることでミレディを輪っか状の肉片で縛った。

 

「暴れんな。こっちはおまえの治療で疲れてんだ。はぁ……オスカーからの頼まれごとだから全力を尽くしたが、かなりの無茶だったな」

「何を言って……」

「説明は全部してやる。質問はその後にしろ」

 

 身動きのできない状態であっても、仮面の表情を変えてオレを威嚇するミレディを無視し、オレはこちらの事情を一方的に説明した。

 

 

 

 

 

 

 死にかけていたミレディの治療を済ませてから、しばらくの時間が経過した。オレは警戒心と憎悪たっぷりの視線を見て見ぬふりをして、多くのことを話した。

 

 オレとブウの関係性。オスカーの最期。今のオレの目標。これまで攻略した七大迷宮。そして、死にかけのミレディをどう助けたかなど。とりあえず、解放者の生き残りである彼女には教えるべきであろう事は全て話した。その中には、清水にさえ話していないこともあり、清水も多少は驚いた反応を見せていた。

 

 説明している間、ミレディは一応耳を傾けながらも、拘束から逃れようと絶え間なく暴れていた。今のミレディの身体能力は先程オレと戦った時とは比べ物にならない程低い。そこらへんの魔物にギリギリ勝てるかどうかというところだろう。当然、拘束を解けるはずがない。

 

「――これでオレが話せることは全部話した。質問はあるか?」

 

 そうして、オレが話を終えると、ミレディはこちらを睨みつつ言った。

 

「……ダウト」

 

 思わずため息を吐く。きっとそう来るだろうとは思っていたが、あまりにも想定通り過ぎてもう驚くことすらない。だから、次にオレの口から出る言葉も最初から用意していたものだ。

 

「……何が不満だ」

「不満も何もありえないんだよ。魔人ブウを封印したあの部屋には私達以外誰一人として入れない仕組みになってるの。もし本当に、お前が言ったみたいに普通の人間が偶然近くに来たとしても、あそこに入ることはできない! つまり、その作り話は最初から矛盾している! はい論破ァ!」

「ああ、それかぁ……」

 

 肉片にグルグル巻きにされた情けない姿のまま、自信満々にそんなことを変な顔芸と共に言いだすミレディを呆れたように見つめ、オレはあの封印部屋のことを思い出す。

 

 ブウが封印された玉はその上から更に強固な封印を施され、そこから更にまるで金庫のような厳重な管理をされた部屋に隠されていた。確かにあの部屋の入口は登録された人物以外が入れないような仕組みとなっている。

 

 ただ……

 

「……なあ、もしかしておまえ。最後にあの部屋に入った時に入口から入って、"空間魔法"で帰らなかったか?」

「はあ? それがどうし………………あっ……」

「思い当たる節があるようだな……」

 

 オレがあの部屋に偶然落っこちた時、既に入口は開いていた。

 

 特定の人物以外が入れない仕組みの入口が開いていた理由は簡単だ。家に玄関から入って鍵を閉めないまま裏口から出ていくように、入室を許可された特定の人物が入口を開けっぱなしのまま別の方法で出ていったのだ。

 

 反応をみる限り、そのやらかしをしたのはミレディで間違いない。

 

 解放者の中で最も長く生き、同じく解放者でもあるナイズと関わりがあるため"空間魔法"を使えても不思議ではない。そしてなにより、ブウの封印を管理できる程の責任感を持つ。そう考えれば、当てはまる人物は必然的にミレディに絞られる。

 

 そのやらかしをした張本人であるミレディは何年ぶりかは知らないが、ようやく自分の凡ミスに気づき、顔色をどんどん悪くする。ゴーレムがまるで人間のように顔を青褪めるこの光景は見ていて面白いものだ。

 

「そ、そうだ。確かあそこには私達が作った強力な魔物がいたはず……」

「ヤコンのことか? あいつなら理性失いかけて自分の役目も忘れてたみたいだから、かなり警備ゆるっゆるだったぞ。まあ、最後にはおまえらのこと思いだしたみたいだが……普通に倒しちゃったしな。あ、安心してくれよ。ちゃんと生きてる」

「嘘でしょ!?」

 

 すると、今度はあの封印部屋の入口を守るガーディアンである爬虫類のような異形の魔物であるヤコンを思い出し、希望に縋るようにミレディは顔を上げた。だがヤコンがオレと出会った時にはほぼ理性が失われ、野生の魔物に近い状態となっていたことを知り、その額には冷や汗が流れ始める。

 

 この事実にミレディはかなりショックを受けているようだが、魔物とはいえまともな知性を持つ生物が、数百~数千年以上もたった一人で何もない空間に閉じ込められればそうなってもおかしくない。むしろ、その孤独に耐えられるミレディの方が異常なのだ。本当にガーディアンとしての機能を望むならば、理性など与えるべきではなかった。オケノス? あいつは例外だろ。

 

「え、じゃあなに……もしかして魔人ブウ復活したのってもしかして私のせい?」

「まあ……三割くらい?」

「えぇ……嘘でしょ……」

 

 自分が鍵を閉め忘れたせいで世界を破滅へ導く魔人が復活したのだと知り、ミレディの仮面はあからさまに落胆した表情を見せる。一応本人が目の前にいるのだが、この女にそういう空気を読むことを求めること自体間違ってる。

 

「まあまあ落ち着け。オレが復活したことは別におまえらにとっても悪い話じゃないぞ。今のオレは世界を滅ぼすつもりなんて毛頭ない。むしろ、積極的に神殺しもしてやる。個人的にもあいつは気に入らないからな。おまえは認められないかもしれないが、文字通り世界のためとして受け入れてくれ」

 

 確かにミレディの防犯意識はガバガバだが、最終的にブウを復活させてしまったのはオレだ。そこまで気に病むことでもないだろう。それに、オレは本気で世界の破滅などに興味はない。いちいちそんなことで警戒しても疲れるだけだ。

 

 しかし、それでもミレディはオレの話を信じるつもりはないらしい。そこで、妥協案を提案してきた。

 

「だったら、何か証拠を見せてよ。そしたら、私もここは引いてあげるし、神代魔法も特別にあげてもいいよ」

「いや、オレはもう"重力魔法"使えるけど……いやでも、清水には必要だな。証拠……証拠かあ……」

「やっぱり、嘘なんじゃないの~?」

 

 証拠を見せろと言われて、「はい、これです」とそう簡単に出てくるものがあるわけない。というか、神を殺そうとしている証拠を出せと言われても何を出せばいいんだ。あのクソ野郎の手足の人形共の死体でも持ってくればいいのか?

 

 とはいえ、それをやるのはかなり面倒だし時間もかかる。オレが別の方法を考えていると、それを見て余裕が出てきたミレディが煽るように仮面の表情をコロコロと変化させる。

 

 その反応に多少イラっとくるも、やっぱりオレが解放者の敵ではないと今すぐ証明する方法は見つからない。

 

「……降参だ。この場でおまえの敵じゃないと証明するのは無理だ。どうせ、おまえの命を救ってやったことはそれには含めないんだろ。そういう性格の悪い女だもんなおまえは」

「うん。そうだね~」

「だったら、別の事で代用してやる。おまえが何かオレに望むことがあるのなら言え。可能な限り従おう」

「じゃあ、し「死ねとか言ったら今度こそ殺すからな」――ちっ」

 

 やっぱり死んで欲しいと言おうとしやがったなこの女。今のオレはかつてブウが解放者を殺しまくった罪悪感を少しは感じてるからミレディに対してそこまで邪険に扱うつもりはない。それでも、あまり調子に乗られればこっちもそれ相応の態度を取らせてもらう。

 

 雰囲気からそれを察したのか、ミレディは今度こそ真剣に考える。ブウの力を持つオレに何か命令できるということはそれほどのものなのだ。肉片に拘束され、仮面に書かれた表情をコロコロ変えるその姿は大分コミカルだけれど。

 

 それからしばらくの間悩み続け、やがてミレディは口を開いた。

 

「じゃあ、これちょうだい。新しい人造人間作る素材にするから」

 

 顎っぽい部分で自分を縛るオレの肉片をクイッと指しながら、ミレディはそう言った。

 

「おまえマジか……」

 

 その発想にオレは純粋に驚愕する。確かに自分のクローンからあれほどの人造人間を作れるミレディならば、オレの細胞を使って更に強力な人造人間を作れるかもしれない。だが、それはかなり危ない橋だ。魔人ブウの体をそう簡単に制御できるわけがない。

 

 オレだって、自分がどうしてここまでデメリットなしでこの体を扱えるのかよく分かっていないんだ。ミレディの提案は少し受け入れがたい。

 

「……自殺行為だぞ」

「大丈夫だよぉ。昔もやろうとしたことあったから対策はバッチリでぅぇ~す……失敗したけど」

「最後ので一気に不安になったな。まあ、それぐらいでいいなら構わない。ほれ、これでいいか?」

 

 絶対に上手くいくとは思えないが、それで死んだらミレディの自業自得だ。オレはミニゴーレムの体を縛っていた肉片ほどいてサッカーボール程の球体状に丸めてから、拘束から解放したミレディに投げ渡す。

 

「うわぁ~……なんかブニブニしてる。キッモ……」

「文句言うな。それよりも、これで約束は守れよ」

「……分かったよ。私はお前と違って清廉潔白なプリティーゴーレムちゃんだからね。約束は守る。でも、その前に一つだけ聞かせて。これはお前……君が魔人ブウとかどうとかじゃなくて、大迷宮に挑戦してきた人達皆に聞いてるんだけど……」

 

 そして、ミレディはらしくもなく真剣っぽい雰囲気で問いかけてきた。

 

「――君は何のために神代魔法を求めるの?」

 

 その疑問に対して、オレは悩むまでもなく答えた。

 

「そうだな……神をボコしたいとか、元いた世界に帰りたいとか色々あるが、やっぱり一番は……」

 

 

 

「――『強さ』が欲しいからだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミレディ・ライセンとの交渉の結果、なんとか神代魔法の譲渡を承諾してもらい、オレは清水を連れてミレディの案内の下、神代魔法を与える魔法陣のある部屋にまで移動した。

 

「それじゃあ根暗君。ほら、さっさとそこに立つ!」

「お、おう……」

 

 オレはミレディとの戦闘中に"重力魔法"を自力習得したため、わざわざ譲渡してもらう必要はないが、清水は別だ。ミレディの判定では清水はこの大迷宮の【クリア条件】を満たしていないみたいだが、特例ということで許してもらった。

 

「うっ……」

 

 小さなゴーレムの体をちまちまと動かし、ミレディは魔法陣を起動する。そして、清水が魔法陣の中に入ると、直接脳に神代魔法の知識や使用方法が刻まれたらしく、小さくうめき声を上げながら体を震わせた。

 

 外野から見れば陰キャ男が急に体をビクビクさせているだけだ。普通に気持ち悪い。それから数秒して、刻み込みは終了したようだ。

 

「お……おおお……!! 力が……力が……!!」

「そんな分かりやすい変化があるわけないだろ。あんまり遊ぶな」

「そうだね~。君の適性は高くも低くもない……うん、普通だね! 修練すれば周囲の重力をちょっと弄るくらいならできると思うよ」

「う、うう……分かってた……分かってたけどやっぱり……」

 

 想定はしていたが、やはり清水では"重力魔法"の知識等を刻まれても十全に使いこなせる程の才能はなかったらしい。本人もふざけてはいたが、そこらへんについてはちゃんと理解していた。それでも、適正ゼロではないのが数少ない救いと言えるだろう。

 

 落ち込む清水を尻目にオレは更なる要求をミレディに突きつける。といってもあまり理不尽なものではない。迷宮を攻略した以上は必須のものだ。

 

「それじゃあミレディ、攻略の証を貰えるか? それが樹海の大迷宮の鍵なんだろ」

「……それもオーちゃんの記憶から知った情報? まあいいけどさ……でも、私が持ってるアーティファクトとか鉱石はもう在庫が少ないからあげないからね」

「ん? いや、ないなら別にいらねえよ。オレは別に武器作りが趣味ってわけでもないし、殴った方が楽だしな。というか、大迷宮の主がそういう素材の在庫が足りないって変じゃないか? なんかあったのか?」

 

 大迷宮を管理し続けるには、相応の鉱石やアーティファクトが必要なはずだ。ふざけた性格とはいえ、真面目なミレディがアイテム不足に陥ったとすれば、相応の異常事態があったのだろう。

 

 そんな疑問を感じたオレが問うと、何故かミレディの仮面が泣き顔になって、嘘なのか本当なのか分かりずらい涙を流し始める。

 

「……少し前に来た子達がね……まるで強盗みたいなやり方で私の"宝物庫"ごと奪ってこようとして……なんとか追い返すことには成功したけど、その過程で色々盗られちゃって本当に色々足りないんだよ。大迷宮の修復に必要な鉱石すら足りなくて……」

「なんだそのヤバい奴は………………ああ、ハジメか」

「え、もしかして知り合い!?」

 

 要するに、ミレディは大迷宮の前回攻略者にあまり良い思い出がないらしい。ミレディの言う人物像を聞いて、随分常識がない奴がいるものだと他人事のように思ったが、そういえばオレはそういう男を知っていた。

 

 まさに今のミレディの状況は酷い荒らされ方をしたオスカーの住居と似たような感じだった。そういえば、ハジメのお気に入りの女が"重力魔法"っぽい魔法を使ってたからウルで遊んだ時にはもう【ライセン大迷宮】を攻略してたんだろう。改めて考えてみれば、今のハジメなら確かにミレディを脅してでも所有物を全部奪うだろう。

 

 それを理解してしまい。オレはため息を吐きつつ、目元を手で覆う。

 

「……オレの人間時代の親友だ。……オスカーのとこもかなり荒らされてたからな。次会ったら殴っとく」

「あー……君も苦労してるんだね……」

 

 初めてミレディに同情のような視線を向けられた。あの野郎マジで豹変しすぎだろ。それから更に話を聞くと、どうやらハジメがこの大迷宮を攻略した時のパーティーはあの吸血鬼娘と兎人族の三人で挑んだらしい。『人造人間M(ミレディ)』を出さなかったとはいえ、ビッグサイズミレディを倒す程度の実力はあるようだ。

 

 そうして試練を突破したまでは良かったのだが、どうやらその後に煽りまくったらぶちキレられ、"宝物庫"を奪われそうになるわ、色々破壊されるわ、しまいにはこの部屋に爆弾投げ込まれるわでかなり大変だったらしい。

 

 その話を聞いてオレは決めた。

 

 あいつに今度会ったらもう少し対人関係の常識というのを叩き込んでおこうと。

 

 

 

 その後、"重力魔法"についての最低限の説明を受け、オレと清水はこの大迷宮から去ることにした。迷宮の修復についてはあまりにも不憫だったため、少しくらいは【オルクス大迷宮】で集めた鉱石を譲った方がいいかと言ったのだが、オレの手を借りることはやはり抵抗感があるらしくきっぱりと断られた。

 

「それじゃあ、オレ達はもう行く。ほら、清水もいい加減立ち直れ!」

「お、おう……」

 

 余程、"重力魔法"の適正がノーマルだったことがショックなのだろう。ハジメ達の話を聞いている最中もずっとテンションが低かった清水を無理矢理立ちなおさせる。

 

「良ければ地上まで送ってあげるよ~」

「いや、遠慮しとく。帰る手段はある。それに、どうせまともな方法じゃないんだろ?」

「ちぇ~、つまんな~い!」

 

 ミレディのことだ。どうせ、最大限嫌がらせをした上で死にはしない程度の地上までのルートを用意してるに決まってる。それなら、"瞬間移動"でサクっと地上に出た方が早い。幸い、ここの真上には多くの魔物がいる。移動先の気なら山程ある。

 

「それじゃ、オレ達はこれで」

「ハイハイ……もう来ないでよ~」

 

 最後にそう別れを告げ、オレは【ライセン大迷宮】を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……どっかで見たことあるんだよね~」

 

 仁が"瞬間移動"を使い迷宮を去ってからしばらくして、解放者ミレディ・ライセンは自身の"宝物庫"の中をポケットの中身を整理できていない青い猫型ロボットのように漁っていた。

 

「どこだっけかな~。確か昔読んだ本にあったと思うんだけど……」

 

 何故ミレディがこんなことをしているのかといえば、それは仁の容姿に関係していた。

 

 現在の仁の容姿は本来の魔人ブウのものでも、吸収された風磨仁のものでもない。全く異なる容姿をしている。そうなった原因については仁本人にも分からなかったが、ミレディはその容姿に僅かながらも見覚えがあった。

 

 とはいっても、ミレディはとんでもないくらい昔から生きている。それがいつ、どこで、誰のものであるかなど覚えてるはずがない。故に自分の過去の情報が多く残っている"宝物庫"を手あたり次第に調べていたのだ。

 

「……ん~あっ……これだ!」

 

 そして、"宝物庫"の中を漁ること数時間。ようやくミレディは自分の探していたものを見つけだした。

 

 それは、一冊の本だった。

 

 かなり年期が入っているようで、ボロボロな状態ではあるが、その表紙には祈りを捧げる一人の少女が描かれていることが分かる。描かれた少女は、モノクロで色合いこそ分からないものの、その姿は現在の仁に酷似していた。

 

 ミレディが手にしたその本のタイトルは……

 

 

 

「『破滅の巫女』か……また、懐かしいおとぎ話が出てきたね」




リ・バース
仁が再生魔法をモデルとして作り出した新技。
対象の時間を少しづつ戻すというタイムパトロールに目をつけられそうな強力な技であるが、燃費が酷い。魂の時間を一秒戻すたびに全力かめはめ波一発分くらいの気を消耗する。戻す対象と範囲によって気の消費量が大きく変化する。

オスカー・オルクス
何故か仁の頭の中に界王様のように声をかけてきた不審者。
生きてるのか死んでるのか、そもそもどこにいるのかも不明。ただ、ドラゴンボールGTを見ていた人なら多少の想像はつく。

敗北者ミレディ
仁に負けて、命まで救われちゃった女の子。
まだ仁とブウを完全に別人とは認識しきれていないし、憎悪も抜けてはいない。それはそれとして、勝てないし、世界の味方をするというのだから見逃してくれた。
性格はふざけてはいるものの真面目。一見交わるはずのない二つに思えるが、仁はそんなミレディのことを意外と気に入っている。
なんか、魔人ブウの細胞使って人造人間造ろうとしてるみたいだけど大丈夫かな?

ちょっとずつ強くなる男 清水
重力魔法を手に入れて以前より少し強くなった男。
これでもまだ光輝以下の戦闘力であるため、次の強化イベントに期待するしかない。ちなみに、凄く頑張って爆弾処理したのだがミレディからは脳筋過ぎると評価され、大迷宮クリア判定は与えられなかった。あれはイマジナリーハイツのせいなのに。

盗賊王ハジメ
また仁にボコボコにされることが決定した哀れな男。本当に二人は親友に戻れるのか?

破滅の巫女
ミレディが最後に取り出した本のタイトル。
表紙に仁そっくりの人物が描かれているため、今後も重要人物として再度話題に出て来ることもある。
完全オリジナル要素。勿論この人物が21号のような経歴があるわけでもない。ただの重要人物。ただ仁を男の娘化させるためだけに出したオリジナルキャラ。
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