それでも途中放棄するつもりはないので、こんな文章を読んでいただける皆様はこれからもよろしくお願いします。
「ふふふっ、あなたの体、今日こそじっくりねっとり見させてもらうわ!」
満ちた月が時折雲に隠れながらも、健気に夜の闇を照らす。今日もまた、空から町を見下ろす月は地上にある建物を照らし出す。月光が照らす建物の一つ。そこには、建物の壁を外側からハンマーで慎重に破壊している一人の少女がいた。
「この日のために解体屋の先生に弟子入りして教わった解体術その他! まさかお風呂の壁に穴を開けられているとは思うまい。ククク、さぁ今まで隠してきた貴女の全て、この私に晒しなさい!」
ハァハァと興奮したような気持ちの悪い荒い呼吸を繰り返しながら、壁に開けた小さな穴から風呂場を観察するこの少女。何を隠そう、ブルックの町"マサカの宿"の看板娘ソーナちゃんである。明るく元気で、ハキハキしたしゃべりに、くるくると動き回る働き者。美人というわけではないが、野に咲く一輪の花のように素朴な可愛さがある看板娘だ。町の中にも彼女を狙っている独身男は結構いる。
そんな彼女は現在、持てる全てを駆使して、とある客の〝覗き〟に全力を費やしていた。その表情は、彼女に惚れている男連中が見れば一瞬で幻滅するであろう……エロオヤジのそれだろう。
「くっ、穴が小さすぎたかしら。よく見えないわ。もう少し幅を広げて……」
「ほう、それなら別のところにも穴を開けてみたらどうだ? 数を増やせば見える範囲も増える。まあ、その後どうなるかは知らんけど……」
「いい案ね。採用だわ。……それにしても静かね? まだ入ってないのかしら? もうお風呂の時間になって三十分は経つはずだけど……」
「もしかしたら、寝てて風呂の時間を忘れてるのかもな?」
「はっ!? それは大変だわ! つまり、今は無防備。なら今すぐ部屋に凸れば……ふふふっ、鍵を閉めた程度で私を止められると思わないことね! 私のピッキング技術があれば宿屋の鍵程度………………」
繰り返すことになるが、辺りは暗く、月の出ている時間帯で場所は外だ。その上ソーナは闇に紛れるローブを身に纏い、遠くから目視しても余程目が良い者でもなければ気づくことはない。つまり、真横から声が聞こえるということ自体が有り得ない。
ソーナは滝のような汗を流すと、ギギギという油を差し忘れた機械の様にぎこちない動きで横に顔を向ける。
そこには……
真横の地面に胡坐をかいて腰を降ろし、にっこりとした笑みを浮かべる仁がいた。
「ち、ちがうんですよ? お客様。これは、その、あの、そう! 宿の補修です!」
「こんな時間に、人も雇わず宿屋の娘である君がか?」
「そ、そうなんですよ~。ほら、人を雇っちゃうとお金がかかっちゃうじゃないですか。それに、夜中にちゃちゃっとやってしまえば、昼に補修しているところ見られずに済むじゃないですか」
「なるほどな、節約と評判のためか」
「そうですそうです」
「ところで、噂になってるから知ってると思うが、オレは男を女にすることができるんだ」
「あー……はい。聞きましたね。す、凄いですね、そんなことができるなんて……」
「……だろ。でも実はその逆も可能なんだ。つまり、女を男にすることもできる。さて、そこのところについてはどう思う?」
「は、ははは、スゴイデスネー……」
仁とソーナは顔を見合わせると「ははは」「ふふふ」とお互いに笑い始めた。但し、仁の愉悦めいた笑みとは対照的にソーナは小刻みに震えながら汗をポタポタ垂らしている。既に己の未来を悟ったらしい。
「――男になっちゃえ♪」
「ひぃーー、やめてーー!!」
笑顔のまま仁の指から放たれた"変化ビーム"がソーナの体を包む。ジタバタともがきながら悲鳴を上げるも、ソーナ自身がアーティファクトによって仕掛けた"消音結界"によって助けがくることはない。みるみる内にソーナの体は筋骨隆々の男性へと変わっていく。
ソーナはただの覗き魔だ。それに対するお仕置きにしては少々やりすぎなのではと思うが、これが初犯なら、まだ見逃されていただろう。仁も男である。そこそこ顔の良い女の子に覗かれて悪い気はしない。しかし、裸を見られるということはマントも脱ぐため、仁の人間とは異なる体も見られてしまうということだ。それはお互いにデメリットしかない。
それを考慮して、仁はソーナ相手に己の胸を触らせてまで性別が男であるとちゃんと説明してやったのだが、【ライセン大迷宮】から帰還した次の日、再び宿に泊まった夜から毎晩、あの手この手で彼女は覗きを続けていた。
そうなればいい加減、手加減の配慮も薄くなるというもの。ちなみに、それでもこの宿を利用しているのは、そのマイナスがあったとしても宿として優れているからである。正確には、ここ以外の宿屋が軒並み大したことがないのだ。
もう女ですらなくなり、ちっさいクリスタベルのようになったソーナを首トンして気絶させてから、仁は溜息を吐きつつ脇に抱える。
「さて、一応二十四時間で戻るようにはしといたが、流石にこの姿のままなら覗きはしないよな」
そして、仁は女装筋肉男となったソーナを母親の元まで届ける。彼女の母親にはちゃんと後で戻ることは伝えているため、仁に対して謝罪しかしてこなかったが、やはり男となった娘を見て驚愕していた。
「……明日が楽しみだ」
仁はそう楽しそうに今のソーナの姿を見てほほ笑む。きっと、翌日の朝食時には、ムキムキ男となった自分に絶望した涙目のソーナを見ることができるだろう。因果応報とはいえ、ナチュラルに人をイジメて楽しむ仁であった。
〇
ソーナを母親に引き渡し、そのまま風呂に入ることなくオレは宿屋にある自分の部屋にまで戻った。そして、既に部屋の中で待ち受けていた客人に目線を向ける。
「待たせたな……それで、オレに話ってのはなんだ? 清水」
「ああ……」
そう声をかけると、部屋に備え付けてある椅子に腰かけた清水は慎重そうな面持ちで頷いた。ソーナに制裁を与えるために風呂へと向かう少し前、清水が話があるとわざわざオレの部屋までやって来ていたのだ。
オレは清水が座る椅子の対面にあるベットに腰かけ、清水と向かい合うような形で座る。
「……大迷宮で神代魔法を手に入れてから、ずっと分からないことがあった」
「分からないこと……ね。おまえが何に悩んでるかは知らないが、それはオレに相談して解決できるようなものなのか?」
「ああ、多分……」
「分かった。じゃあ話してみろ……」
そうして、清水はゆっくりと話し始めた。自分が神代魔法を求めた理由を。
今まで考えたこともなかったが、どうやら清水にとってオレという人間はそうとう理解不能な存在らしい。天之川のように正義感が異常に高いわけでもなく、ハジメのように非情とも言える程の現実主義者でもない。
楽観的な考えを持ってるわけではなく現実を客観的に見ることができ、メリットとデメリットを正しく把握できる判断能力もある。なのに時と場合によっては、情に任されて明らかにデメリットでしかない行動を恐怖心もなく取ってしまう。それが、清水にとってのオレの評価であり、同時にどうしても理解できない点だという。
事実、死にかけていた清水を助けたことも、メルやミュウ、そしてリンを人攫いから救ったことも、やる必要がないといえばそうだ。あれは本当に情に流された結果に過ぎない。清水のその考え方は間違っていない。
そんな生き方をする理由を清水は『強い』からだと考えたという。強いから、そんな本来やらなくてもいい余分な行動を取れる余裕がある。そんなオレの思考を少しでも共感したかったようで、『強さ』を欲した清水は神代魔法を求めた。
そんな話を終えると、最後に清水はとあることを聞いてきた。
「神代魔法を手に入れて……少しは強くなった自信がある。たった一つで、しかも適正は普通だ。それでも、この魔法がとんでもないくらい強力だってことは使ってみてよく分かった。勿論お前からしてみればまだまだ弱いんだろうけど、それでも今までに比べれば段違いに強くなったと思う。それでも、俺は俺のままだった。弱者としての思考を捨てきれない。やっぱり、俺には風磨みたいな生き方はできないんだ。……だから教えてくれ、風磨はどうしてそんなに強くいられるんだ」
本気さが伝わってくる声色でそんな事を言う清水を思わず茶化しそうになるも、この状況はそういう空気でないと我慢し、オレはこれだけは間違っていないと自信を持って言える言葉を告げた。
「まず一つ言わせろ……おまえは馬鹿なのか?」
「は、はあ!? 俺は真剣に!」
「分かってる。おまえが本気で悩んで本気でそんなふざけた質問をしてきたのは十分理解してる。その上で言わせてもらう。おまえは馬鹿だ」
この返答が余程想定外だったのだろう。清水は口を開けて呆けている。
「そんな簡単なこと最初からオレに聞けばよかっただろ。それで分かることをわざわざ遠回りに理解しようとしやがって。オレとおまえは同郷だが、全く違う生き方をした別の人間だ。……人間? まあいい。つまり、そう簡単に相手のことが分かるわけないだろってことだ」
「それでも、俺は……」
「おまえの考え方も分からなくはない。だがそれでも、命をかける程のものでもないだろ。だから何度でも言ってやる……おまえは馬鹿だ」
本気でオレはそう思った。
他人のことを知るためだけに命を賭けるだなんて行為は馬鹿のすることだ。分からないなら本人に聞けばいい。勝手に理解された気になられる方が余程迷惑だ。結局のところ、人の気持ちなんて本人にしか分からない。周りがいくら分かった気になったとしても、それはただの思い込みだ。真の意味で理解できたとは言い難い。
だからこそ、オレは厳しくそう告げる。清水は自分でもこの程度の事で命を賭けたことが自分にとってなんの利にもならないことぐらいは最初から気づいていたのだろう。見るからにしょぼくれてる。
「まあいい、くだらない説教はこれくらいにしておいて、今はおまえの質問に答えよう。まず最初に言っておいてやるが、おまえのオレが強いという評価についてだが……それは勘違いだ」
「は……勘違い?」
「そうだ。確かにオレは肉体的な性能だけで見ればトータスで上から一~二番ってところだろうな。だがおまえの言う強さは精神的なものだろ? それなら、オレという存在に『強い』という評価は間違ってる」
そう、オレは清水の言うようなそんな凄い人間じゃない。いつだって捨てたはずの甘さが抜け切れていないだけの、底の浅い人間だ。
「少し昔話をしてやるよ。オレがまだ未熟だった頃の話をな……」
オレの言葉を信じられないとでも言わんばかりに疑うような目線を向けてくる清水にオレは今までハジメにだって告げなかった過去を話す。
これはまだ……『オレ』が『僕』だった頃の話。
「――おまえも知ってる通り、オレは天之河達とはガキの頃からの付き合いだ。あいつらは昔から今みたいな感じでな、天之河は相変わらず善人気取りで、坂上も野生の勘と筋肉に頼って生きてた。白崎も男女関係なく優しくしてたからクラス中の男子が惚れてたな。こうして振り返ると、あいつらは本当に変わってない。でもオレと八重樫だけは違った」
「違うって……どうだったんだ……」
「
「おい、それって……」
そこまで説明して、清水はすぐにオレの言いたいことを理解したようで、目を見開いて驚愕に染まった表情を見せた。この世界に来る前のハジメと檜山の関係を知ってる奴なら誰だって想像できる簡単なことだ。
「イジメを受けてたんだよ……オレも八重樫もな」
「う……そ、だろ……」
「本当だ。殴られたり蹴られたり、物を隠されたことも何度もあった。上履きに画鋲やら犬の糞が入ってたことなんて数えきれない。酷い時でいえば、トイレに連れてかれて便所に頭を突っ込まれたり、昼食った後に腹を蹴られて吐いた吐瀉物を食えなんて言われたこともあった……」
全て事実の出来事で偽りも話を盛ってもいない。本当に辛い日々だった。鬱になる寸前までいってたと思う。そんな話を聞いて、清水はみるみるうちに顔を青くする。きっとガキだった頃のオレの姿でも想像してるんだろう。
「八重樫の方もオレ程じゃないみたいだが、大分酷かったらしい。だからオレ達はずっと一緒にいた。イジメられっ子同士で慰め合うみたいにな。情けないだろ。でも……オレがまだ小学生くらいの時、あるやらかしをしちまった」
「やらかしって……お前がか?」
「そうだな。あれはある意味オレのせいでもあるし、八割くらい天之河のせいとも言える。あの日、ついに限界が来たんだろう。八重樫が「助けて」って言ってきたんだ。あの時のオレは酷く未熟でな、八重樫を助けたい一心ですぐに行動した。……当時からかなりの発言力を持ってた天之河を頼るなんていう最悪な方法でな」
「おい、それって……」
そうだ、あの時の未熟なオレは当時憧れていた天之河に縋ってしまった。あいつなら何とかできると本気で思い込んでいたし、幼馴染である自分達の味方になってくれると心の底から信じていた。
結果は……最悪だった。
「あいつはイジメてた奴ら相手に「皆で仲良くしよう」なんてふざけたことを言いやがったんだ。後は分かるだろ。オレと八重樫のイジメは嬉しくもないランクアップを迎えて、オレは天之河に頼ったことで八重樫に責められた。「余計なことするな」ってビンタされたよ。いやー痛かったなあれは……」
あの日のことを思い出すようにオレは頬に手を添える。確かにあれは痛かった。子供であるとはいえ剣道を習っていた八重樫の力は当時のオレの倍はあった。でもそんな痛みよりも、自分のせいで八重樫が苦しんだと知った時の心の痛みの方が数千倍も痛かった。
良かれと思って行動した結果が最悪の形で返ってきたのだ。あの事実は当時のオレには耐えられなかった。
「その後オレは天之河を責めたさ。らしくもなく声を荒げてあいつの胸倉を掴んでキレ散らかしたよ。自分でもあの時何を言ったのかよく思い出せないが、そうとう酷い事言ったってことは覚えてる。そしたら、あいつ何て言ったと思う? オレの言ってることを何一つ理解してない感じで「皆仲良くなっただろ?」って自信満々で言いやがったんだよ。それを聞いて、ようやく目が覚めた。あんな奴に憧れてた自分自身に吐き気がしたよ」
「……その後風磨はどうしたんだ?」
どうあっても天之河は天之河だ。今も昔も変わらない。正義の味方を自称するくせに、誰かを助けた自分に酔ってるだけの勘違い男だ。結局、本当の意味であいつに助けられた奴なんていない。
だから、オレは自分の『弱さ』を押し殺すことにした。
「あの日から、オレは変わろうとした。……今までみたいに他人におんぶに抱っこの自分を捨てて、誰の力を借りずとも一人で生きられる強さを求めた。一人称も口調も変えて、上辺だけとはいえ性格も変えた。それが今の『強くて明るい風磨仁君』だ」
「……それが、あの変なキャラの原点か」
「……え、変だったの? まあ今ではこっちの性格に慣れ過ぎてもうどっちが本心なのか自分でもよく分からなくなってきてるけどな。そんなことはさておき、イメチェンしたオレはまずイジメっ子達に復讐することにした。……最低なやり方でな」
きっとあの時のオレは相当頭に血が上っていたのだろう。そうでなきゃ、復讐などという手段をそう簡単に選ぶはずがない。もはや黒歴史だ。
そんなことをしても八重樫は喜ばない。そんなことは最初から分かっていた。だからこそ、復讐の理由に八重樫は使わない。復讐する理由は全てオレのもの。ただの我が儘だ。
間接的にとはいえ、オレが八重樫に嫌われる原因を作ったのだ。今までの鬱憤を晴らすかのように怒りをぶつけた……イジメっ子と関係のある第三者に。
「当時のオレは同級生と喧嘩したら百パー負けるクソ雑魚だったからな。怒りを向ける相手を自分より弱い相手に絞ったんだ。イジメっ子の下の兄弟とか仲の良い友人とか飼ってるペットとか幼馴染の女とか、そんな奴らに対して肉体的にも精神的にも暴力を振るった。今思い出しても……あのやり方は最低だったな」
「それは……八つ当たりじゃないのか?」
「八つ当たり……か。確かにその表現が一番しっくりくる。オレはただイジメてきた奴と関係があるってだけで赤の他人に八つ当たりしたんだ。それで、傷ついたそいつらの様子をカメラで撮ってイジメっ子達に見せた。「またなんかやってきたら、こいつがどうなっても知らないぞ」ってな。あのやり方が一番効く方法だとは今でも思ってるが、やっぱりあのやり方はなかったな」
イジメっ子と関わりがあるってだけでまったくの他人に手を出す最低な行為に手を染めたオレの過去を知って、清水は先程オレと八重樫がイジメを受けていたと聞いた時以上に驚いていた。やっぱり、こいつはどこかオレを過大評価しすぎている。本当のオレなんてその程度の人間だ……いや、今は魔人か?
「そんなことを繰り返していく内に、気づけばオレと八重樫をイジメてた奴らは別の学校に転校していった。事実を知った担任の教師はオレを責めたけど、元々イジメがあるのを知ってた上で見て見ぬふりをしたクソ野郎だ。教師に暴力を振るわれたって交番に駆け込むと脅してやったら、大人しく事実を伏せてくれたよ。あの時代でもそういうのには厳しいからな」
きっと、正攻法でもっと傷つく人を少なくして解決することもできただろう。まだガキの頃のオレとはいえ、そのくらいの解決案は導き出せたはずだ。それでも、あの時は自分の欲望を優先して『相手を苦しめる』という手段を率先して取ってしまった。
「それからは、八重樫達との距離感が微妙な感じになって、中学、高校と上がって今に至るっわけだ。とまあ、こんな長々とつまらない昔話をしたわけだが、結局のところオレが何を言いたいかといえば、簡単なことだ」
過去の話を終え、オレは最初の話題である清水からの質問に戻した。
「オレは強いわけじゃない」
そうだ。オレは別に強いわけじゃない。弱さを隠しただけであって、それは強者になったわけではない。もはや自分の性格を偽り過ぎて元々の自分がどんな性格だったか忘れかけているけれど、それだけは自信を持って言える。
「清水の言うように、オレは楽観的じゃなし、リスク管理もできてるとは自分でも思う方だ。ただ、それは身近に楽観的でリスク度外視で自分の理想ばかりを押し付ける
天之河光輝とは異なる人間になる。そんな目標を掲げている内に、いつの間にかオレはこんなつまらない奴になってしまった。今思い返してみれば、ハジメと関わりを持つきっかけになったのも天之河が嫌っているからという理由が多少ではあるがあった気がする。
それでも、どうしても変えられないものはあった。
「多分、オレがただ天之河に反抗して生きてただけなら、超絶リアリストになってただろうな。だが未だにオレの中にある『みんな幸せなハッピーエンドを迎えたい』っていうくだらない理想だけは捨てられなかった」
それはきっと、強さを求める上で必要のない余分に違いない。それでも、オレはこの感情を捨てられなかった。
「……だから、オレは弱者じゃないが、強者の域には達してない。これを捨てられればオレは精神面でも強くなれるんだろうが、これだけはダメだった」
この感情を捨ててしまえば、オレの中にある大切なナニカも一緒にごっそりとそぎ落ちてしまう気がした。だからこそ、捨てられない。
自虐するような笑みを浮かべるオレに、清水は同情するような目を向けて来た。こんなちょっと重い話をされればそれも仕方ないだろう。普段なら同情するなと叱責していたところだが、オレは気づかなかったフリをして話を終える。
「――これがおまえの求めてた答えかは知らないが、オレに言えるのはこのくらいだ。満足したか?」
「……なんとなくだが、分かった」
「そうか、構わなければ感想を聞かせてもらってもいいか?」
話を全て聞き終え、何かを掴んだような顔をした清水にはどこか曇りが晴れたような雰囲気を醸し出していた。
「……悪いが、まだ言葉にできる段階じゃねぇ。機会があったら教える」
「そりゃ残念だ。自分を客観視できるいい機会だからな。また今度教えてくれ」
「あ、ああ……」
そうして、オレ達は会話を終えた。
既に話を始めてから大分時間が経っている。もう完全に深夜だ。これ以上何かを話す気分にもお互いなれなかったため、清水は自分の部屋に戻るために部屋の扉を開ける。そして、最後に部屋を出る直前、清水は一度振り返って言った。
「俺はそれでも……お前が強いと思ってる」
その言葉には、何か確信めいたものが宿っているような気がした。
仁の過去(光輝のやらかし編) 簡略版
1. 仁と雫が小学校時代にイジメを受ける。
2. 雫が限界迎える。
3. 雫が仁を頼る(ここで雫は話を聞いて欲しかっただけ)。
4. 仁が雫のイジメを何とかしてもらうために光輝を頼る。
5. 光輝が「ナカヨクシヨーヨ」を発動…………ミス!
6. 仁ブチギレ、光輝のダメな性格にやっと気づく。
7. 仁の性格変貌(性格:光輝アンチに固定)。
8. 八つ当たり脅迫戦法でイジメっ子を精神的に追い詰める(仁は自主休学中)。
9. イジメっ子転校。
10. 仁と雫の距離微妙な感じになって終了。
何故だろう。清水の方がハジメより親友感出してる気がする。初めて仁の過去を知った相手でもあるし。