ピンクの魔人と共に   作:クー(無課金勢)

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最強VS最凶 前編

 眩いばかりに輝く夜空に浮かんだ月。その月明りに照らされながら、二つの人影が静寂に支配された暗い空で向かい合っていた。

 

 一人はピンク色の肌をした女性のような容姿の男、風磨仁。余裕の笑みを浮かべながら、敵として目の前に立つ親友に対してどこか嬉しそうな、そして楽しそうな様子で重力を無視して宙に浮かんでいる。

 

 それに対するは、全身を真っ黒な外套で纏い、その手に鋼鉄の兵器を握る男、南雲ハジメ。今まで、あらゆる敵を容赦なく粉砕してきたハジメの戦歴に唯一黒星を付けた相手を前にして、彼は強大な怒りに震えつつも、冷静に最大限警戒しながら敵の隙を伺う。

 

 二人の間に会話はない。ただ強い風が吹き荒れ、二人の髪と服を激しく揺らすのみ。

 

「地上戦と空中戦……どっちがお得意だ?」

 

 先に口を開いたのは、仁だった。

 

 自分の実力が完全にハジメを上回っていることを理解している仁は、せめてもの情けとして戦いの場を選ばせようとしているのだ。そこには、強者である自分が弱者であるおまえに合わせて戦ってやるという意図がありありと見て取れる。

 

「……地上戦だ」

 

 普段のハジメであれば、ここで挑発の一つくらいは返しただろう。しかし、流石のハジメも仁との間に絶望的な力の差があることは先程の小手調べで嫌というほど思い知らされた。故に、少しでも戦況を有利に進めるため、その提案に敢えて乗る。

 

 実際、ただ空中に浮かぶだけでもハジメは一つの技能を使い続ける必要がある。それは確実にハジメにとっての足枷となるだろう。だからこそ、馴れている地上戦を選ぶのは必然だった。

 

 ハジメの返答を聞いた仁はニヤリと笑みを浮かべると、近くの障害物が少ない大地を親指で差し、首をクイッと向ける。それだけの動作で意図を理解したハジメは仁と共に指し示した場所に降り立つと、またしても向かい合う。

 

「サービスがいいな……。それとも余裕のつもりか?」

 

 そう言いながら、ハジメはドンナーとシュラークを両手に構え、戦闘体勢に移る。それを準備運動をしながら聞く仁は、依然として余裕の笑みを浮かべたまま答える。

 

「ふっ……こう見えてオレは優しいんだ。そうだ! もう一つとっておきのサービスをしてあげるか……。魔法を使わないでおいてやるよ。どうだ?」

「魔法を? 舐めすぎじゃないのか?」

 

 両手をぷらぷらと揺らしながら、そう提案する仁だったが、実質これはそこまでのハンデには至らない。

 

 ハジメからしてみれば、魔法とは苦手ではあるものの重要な切り札の一つとなる。当然、それを封じられれば大きな戦力ダウンに繋がるだろう。しかし、仁は基本的に肉弾戦での戦闘を好む。あくまで魔法はおまけで使うぐらいであって、使わなかったとしてもそれほど戦力ダウンには繋がらないのだ。

 

 そんなことを知らないハジメは舐められたと思い、腹の内から怒りが込み上げ、険しい視線を向ける。その視線の意味を理解した上で、まったく気にした様子のない仁は首をコキコキと鳴らし、屈伸運動を始める。

 

 そして準備運動を終えた仁は一息吐くと、ハジメと目を合わせた。

 

「さてと……いつでもいいぜ。かかってこい」

「ああ、それじゃあ遠慮なく……」

 

 再び、二人の間に静寂が流れる。だが向かい合う二人の空気はピリピリとひりつくほどに緊迫している。常人がこの場にいれば、瞬く間に意識を奪い取られていただろう。

 

 静寂を破ったのは、宣言通りハジメだった。

 

 シュラークの銃口が仁に向けられ、一瞬の内に三度引き金を引いた。轟音と共に三条の閃光がの頭部、心臓、腹部に向かって正確に撃ち込まれる。頭部が半分程消し飛ばされ、心臓と腹部にも大きな風穴が空く。

 

 続けてクロスビットによる追撃をかけ、装填された炸裂スラッグ弾が凄まじい衝撃をばら撒くことで、仁の半身が消し飛ばされる。

 

 しかしそれだけの攻撃を受けたというのに次の瞬間には、既に仁の損傷した肉体は完全に再生して元に戻っていた。

 

「……どうした、それで終わりか?」

「んなわけねぇだろっ!」

 

 再生されることは既に分かっていたハジメは今度は"宝物庫"からオルカンを取り出し、十二発全弾を無造作に撃ち込んだ。その全てを仁は無防備に受け、かなり距離を取ったはずの王都にも響く程の爆音と爆煙が発生する。

 

 オルカンの凄まじい威力と範囲は誇るべきである。だが格下ならばまだしも格上相手に迂闊に視界を塞ぐ攻撃を放つべきではなかった。

 

「悪くない攻撃だ。だが火力が足りないな」

 

 爆煙に身を隠してハジメの背後に回り込んだ仁は後ろから顔を両手で挟み込むようにしてビンタを浴びせる。あまりの速さに背後に回られたことにすら気づけなかったハジメはその攻撃を無防備に受け、よろめいたところを後ろから蹴り飛ばされる。

 

「っ……!?」

 

 吹き飛ばされながらも、身体を捻り地面に足をつけることで体勢を立て直したハジメは、"宝物庫"から取り出したシュラーゲンを放った。紅いスパークが迸り、ティオのブレスすら正面から貫いた凄絶な破壊力を宿らせた超速の弾丸が一直線に目標()へと迫る。

 

 それに対して、仁は回避することなく、ただエネルギー弾を放つことで相殺した。自身の持つ切り札の一つがあっさりと無効化され驚愕するハジメだったが、まだ想定の範囲内ではあった。

 

 仁が弾丸を回避することを想定して配置されていたクロスビットが、炸裂スラッグ弾を至近距離で轟音と共に放つ。回避不能。だがそもそも回避するつもりのない仁はその衝撃をモロに受けた。それでも、ダメージが入った様子はない。本当に心の底から楽しそうな笑みを浮かべ、傷一つない体でハジメの前に仁は立ちはだかっている。

 

 それならばと、ハジメは一瞬の内に仁の懐に潜り込み、"震脚"によって、踏み込みの力を余すことなく左腕に集束し、ギミックの"振動破砕"と"炸裂ショットガン"、そして"豪腕"と膨大な魔力を注ぎ込んだ"衝撃変換"による絶大な威力の拳撃を連続で放った。

 

 まるでガトリング砲のような拳の嵐が仁を襲う。通常の相手であれば、この連撃を回避することは勿論、防御も容易く貫通されてしまうだろう。しかし今ハジメが戦っているのは打撃戦においてはスペシャリストとも言える風磨仁だ。パワーもスピードもテクニックもあらゆる面でハジメは劣っていた。

 

 まるで子供の攻撃をあしらうかのようにハジメの連撃を仁は全て片手で弾くと、最後に放たれた拳を掴んで引き寄せてからボディーブローを浴びせる。内臓を破壊されたのではないかと思う程の衝撃がハジメを襲い、口から血を吐き出す。

 

 それでも仁は止まらない。拳を掴んだまま、今度は何故か近くにあった岩盤に向かって投げ飛ばし、吹き飛んで行ったハジメを追って加速、容赦なくラリアットで岩盤に叩きつけた。その威力はあまりに恐ろしく、叩きつけた岩盤の方に巨大なクレータが出来てしまうほどだ。

 

 恐らく骨が何本も折れているだろう。"空力"を使う余裕すらなくなったハジメは岩盤を背にしたままズルズルと落ちていく。それを見下ろしたまま、仁も地面に着地し、四つん這いになって血を吐くハジメの前に着地する。

 

「あが……ごほっごほっ」

「……ほら、早く立て。まだ終わりじゃないだろ」

 

 指をクイクイと自らに向けて曲げながら、己を見下ろす仁を睨みつけながら、ハジメは立ち上がる。膝はガクガクで体中はボロボロ。どう見ても重症ではあるが、彼の戦意はまだ消えていない。

 

 ここまで圧倒的な力の差を見せられてもなお、まだ諦める様子の無いハジメに嬉しそうな反応を見せる仁はニッ、と笑うと自らの腹を千切って放り投げた。その肉片はドーナッツの輪のようにハジメの周囲に纏わりつく。

 

「な、なんだ……!」

 

 すぐに離れようとするハジメだったが、大きなダメージを受けた体では素早い動きはできない。その場から飛び除こうとするも、身体から力が抜け、再度膝をつく。

 

「ギュッ!!」

 

 そうして手間取っている間に、仁が奇妙な声をあげると同時に肉片がハジメを縛った。動きを封じられたハジメを仁はタックルで倒すと、マウントポジションを取って、そのまま両腕が動かせないハジメの顔面を右へ左へと殴り始めた。

 

「ぐ……ぐはっ! がはっ! こ……の、野郎!」

「ほらほらほら、どうした。オレを殺すんじゃなかったのかよ!」

 

 力任せに拘束を引きちぎる程の力はなく、"宝物庫"から武器を出す暇もない。抵抗することすらできず、ひたすらにハジメは殴られ続けた。

 

 それでも口先だけは強気でいるが、ハジメの体には着実にダメージが蓄積されていく。仁の重く速い拳が突き刺さり、その意識を刈り取ろうとしてくる。

 

 そして、意識が完全に飛びそうになったその瞬間だった。

 

「ハジメからッ……離れろ!!」

「……わぁお、ドラゴン」

 

 突如、仁は視界の外側から現れた雷の龍に襲われ、噛みつかれたまま遥か遠くまで吹き飛ばされていった。

 

 仁が遠くまで吹き飛んでいったことでようやく連撃が止み、意識をギリギリで繋ぎとめたハジメの元に三人の人影が現れる。

 

「……ハジメッ!」

「大丈夫ですか!? ハジメさん!」

「ご主人様、しっかりするのじゃ!」

「ユエ……それにシア、ティオも」

 

 それはハジメを愛する女達であった。三人ともそれぞれの戦場で戦っていたのだが、突然空から降り注いできたエネルギー弾の雨をなんとか回避、または耐えきった所、王都の外まで吹き飛んでいくハジメの姿を目にしてすぐさま追いかけてきたのだ。

 

 ティオに関しては愛子と共にいたはずだが、今この場にいない所を見ると王都は安全であると判断してどこかに置いて来たのだろう。

 

 ユエ達はハジメを縛っている肉片をちぎると、神水を飲ませて傷を癒す。気絶寸前まで追い込まれていたハジメだったが、流石は不死の霊薬とも言われる神水である。あっという間に戦闘で負った傷は癒され、蓄積したダメージまでもが完全に回復した。

 

「はぁはぁ……助かった」

「気にしないでください。それよりも、あれって魔人ブウですよね。なんでここにいるんですか?」

「そんなの俺が知りてぇよ。なんかいたんだよ」

「なんかいたって……」

 

 シアの疑問の声に苛立ち気味に答えるが、実際ハジメからしてみればそうなのだ。大量に降り注ぐエネルギー弾を目にして、その発生地である香織達の元へと向かってみれば……なんかいた。

 

「あの野郎は正真正銘の化け物だ。何発撃ち込んでもすぐに再生しやがる。再生能力はユエの上位互換だと思った方がいい」

「……本当?」

 

 ハジメの言葉に自分の再生能力の利点をよく理解しているユエがらしくもなく呆然とする。再生と回復は似て非なるものだ。一時的なものであるが強力な治癒を施す回復は効果こそ素晴らしいが、いついかなる時でも使えるといったものではない。対照的に再生は効果自体は低いものの、自動発動(オート)が可能という大きなメリットがある。

 

 分かりやすく言えば、ターン制バトルゲームのリジェネを想像してもらうと分かりやすい。回復は一ターン使ってHPを大きく回復させるが、再生の場合はそのターンの間に何をしてもHPが回復するのだ。その恩恵の差は大きい。これを仁に当てはめると、ボスのHPが毎ターン全回復しているようなものだ。紛れもないクソゲーである。

 

 事実、ユエも自身の持つ再生という力には何度も命を救われてきた。その上位互換の能力がただでさえ面倒な魔人ブウに宿っているなど、考えるだけで恐ろしい。

 

「大丈夫だ。奴の不死身ぶりには驚かされたが、殺し方は分かった」

「……んっ、流石……」

「だから三人には奴の動きを止めて欲しい。……ッ!? 来るぞ!!」

 

 "魔力感知"から感じた反応にハジメが声を張り上げた直後、四人の前に仁が空から勢いよく降ってきた。その体にはユエの放った"雷龍"を真正面から受けたというのに、傷一つ見当たらない。まったく効かなかったのではない。効いた上で再生したのだ。

 

 それを目の当たりにし、ハジメの言ったことが真実であったと理解した三人は警戒態勢に移る。

 

「んー……なんだまたおまえらか。前と一緒のパーティーじゃん。別にこれは試合とかじゃないし、四対一でもオレは全然かまわないけど……その程度の強さで勝てるつもりか?」

「……勝つつもりなんじゃなくて、勝つんだよ俺達はな!」

 

 ニヒルな笑みを浮かべながら、ハジメが宣言する。そしてハジメの前にユエシアティオの三人が戦闘態勢に移った状態で出てくる。三人の顔に油断の色は一切ない。目の前の敵を今まで相対した中で最強の敵だと認め、それでなお愛する男を信じて笑みを浮かべる。

 

 自分達の後ろには南雲ハジメ(愛する者)がいる。ならば負けることはありない。そう心に刻んで彼女達は仁と向かい合った。

 

「……何か策でも思いついたか? 面白い。やってみろ」

 

 そんなハジメ達に対して、仁も気を解放して先程よりもギアを一段階上げる。しかし、まるで押しつぶされそうな程のプレッシャーを真正面から受けながらも、ハジメ達が怖気づくことはなかった。その事実に仁の笑みは更に深くなる。

 

「一秒だ。それだけ奴の動きを止めてくれれば……俺が殺す!」

「んっ!」

「はいっ!」

「任せるのじゃ!」

 

 ハジメの宣言と共に、三人は仁へと同時に襲い掛かかった。シアが至近距離で近接戦を仕掛け、ティオがそんなシアをサポートするような形で魔法で仁の動きを妨害し、二人の背後からユエが極大の一撃を放つ。

 

 これは以前、仁に負けた反省を踏まえてハジメ達が生み出した対格上用の戦術だ。今まで、彼女達は自分より圧倒的に上の実力者との戦闘経験がなかった。その理由は単に、彼女達が強すぎるからだ。強すぎるから、適当に戦っても勝てる。工夫して戦うなど彼女達には必要がなかった。

 

 しかし、魔人ブウという強者に敗北したことで、彼女達はその考えを改めた。格上に勝つ為にはただ火力の高い攻撃を与えるだけでは勝てない。味方と協力し、自分の実力が一番発揮できるポジションで戦闘を行う。それが必要だった。

 

 そこで参考としたものが、人間の冒険者達の戦い方だった。彼ら彼女らは実力だけで見ればハジメ達の足元にも及ばない。それでも、弱者である人間が強者である魔物や魔人族と戦うために生み出した戦術は、とても有用なものであった。

 

 今まで、所詮弱者のすることだと認識すらしていなかったユエ達はその戦いを学習し、自分達の成長に繋げた。

 

 こうして生み出されたものこそ、このオーソドックスな戦い方だった。基本に忠実といえば、どこかハジメ達に合わない言葉であるが、一人一人が強大な力を持つハジメパーティーが堅実な戦い方をするからこそ、その効果は絶大に発揮される。

 

 この戦い方を学んだことで、ユエとシアとティオは三人だけでハジメすら圧倒できる程上手く戦闘を回せるようになった。これは飛躍的な変化だ。ここに更に万能役のハジメと回復役の香織が加われば、その安定性は比べ物にならない程に上昇する。

 

 だが何事にも限度というものはある。どれだけ洗練された軍隊であろうとハジメ一人で殲滅できるように、圧倒的な力の前ではそのような細かな戦術など無意味と化す。

 

 そして、今この状況もそうだった。

 

「あはははははっ! なんだその程度か! もっともっといけるだろ!」

「ふっ……ざけないでくださいっ!」

「なんというパワーにスピードじゃ! あれを一秒じゃと!」

「……強いッ」

 

 シアがどれだけドリュッケンを振り回そうとも、単純な力で押し返され。ティオの魔法を軽々と相殺し。ユエの魔法を真正面から受けてフィジカルで耐える。理不尽としか表現できない仁の戦い方に三人は翻弄され続けていた。

 

 それでもまだ戦いになっていたのは、仁が手加減していたからだろう。仁にとってハジメは親友である。それは豹変してしまった今でも変わらない。元より、ハジメも一緒にいる女達も殺すつもりは全くなかった。だがそれはそれとして、親友の成長具合を知りたいというのと、強敵との戦いを楽しみたいという欲求から、仁はほどほどの実力で戦っていた。

 

 だから敢えて手加減する。そっちの方が楽しめるから。

 

 そんな仁の油断とも言える戦い方がユエ達に一筋の幸運をもたらした。

 

「……ふぇ?」

 

 どんな攻撃も真正面から耐えられてしまうことに焦ったユエが精神系の魔法を発動した。発動した魔法はそう高度なものではない。【オルクス大迷宮】にいたヒュドラが使っていたような、相手にトラウマといった見たくない幻覚を見せるものだ。

 

 通常、精神系の魔法は格上相手には通用しない。しかし、攻撃バッチコイスタイルであった仁は躊躇いなくその魔法を受け入れた。そう、受け入れてしまった。

 

 結果、僅かな時間とはいえ仁の動きは確かに止まった。それは本当に僅かな時間。数値にするならば()()()

 

「今だ、離れろ!」

 

 その隙をハジメは見逃さなかった。

 

 ハジメの合図と共に仁の近くからユエ達が飛び退いた直後、空から放たれた直径五十メートルはあるであろう光の柱が仁の体を呑み込んだ。

 

「お前を殺すには、二度と修復できないよう……粉々に吹っ飛ばすことだ!!」

 

 ――天より降り注ぐ断罪の光。

 

 そう表現する他ない天と地を繋ぐ光の柱。触れたものを、一切合切消し去る無慈悲なる破壊が大気を灼き焦がし、闇を切り裂いて、昼間のような太陽の光で仁に襲い掛かった。

 

 仁が油断していなければ、相殺することぐらいは余裕だっただろう。しかし、ハジメ達が自分を殺せる技を持ち合わせていないと決めつけてしまったことが防御という選択肢を無意識の内に消していた。その結果、独特な咆哮を響き渡らせて大地に突き立った光の柱は真下にいる仁の全身を吹き飛ばした。

 

 しばらくして光の柱が霧散するように虚空に消えて残ったものは、焼き爛れて白煙を上げる大地と強大なクレーター。そして、バラバラになって地面に散らばる仁の肉片だけだった。

 

「やった。やりましたよハジメさん!」

「流石はご主人様じゃ! あんな隠し玉を持っておるとは!」

「……ん、ハジメ。おつかれ」

「ああ、上手くいったみたいだな……」

 

 これにはハジメ達も勝利を確信した。

 

 実は先の光の一撃は試作品段階の兵器であり、今の一発で壊れてしまった。それが分かっていたからこそ、絶対に回避させるわけにはいかなかった。これを除いて、今のハジメが魔人ブウを倒せる手段はないからだ。

 

 絶対に当てなければならなかったからこそ、仁相手に一秒もの時間を稼ぐというハジメ一人ではできない高難易度な難題をユエ達を信じて任せたのだ。そして、ユエ達は見事その難題を成し遂げた。ならば、ハジメもたった一度のチャンスを逃すわけにはいかなかった。

 

 どちらか一方でも失敗すれば、この結末には至らなかっただろう。これは、愛する者を信じた男と、その男の期待に応えるため全力を尽くした女達の想いが生んだ結末である。

 

 ただ……一つ忘れていることがあるとするならば。

 

 ハジメはここで、感知系技能を使って仁の反応が完全に消えたか確信を得るべきだった。

 

「「「「「うんしょっと……」」」」」

 

 突如、そこら中から小さく、そして高めの声がハジメ達の耳に入った。不思議に思い声の聞こえた方向に視線を向けると、そこには信じられない光景が広がっていた。

 

「……おいおい、頼むから誰か夢だって言ってくれよ」

「…………ありえない」

「嘘……ですよね。もうどうやったら倒せるんですか!」

「まさか本当に不死身……なのか?」

 

 なんと、バラバラにした肉片の一つ一つが全て小さな仁の姿を取って、起き上がったのだ。

 

「よーし、合体だー!」

「「「「「わー!」」」」」

 

 起き上がった無数のミニ仁達は歓声をあげながらベタベタとくっついていき、大きなピンク色の塊が出来上がっていく。その数、合計四つ。

 

 そして全てが合わさった時そこにいたのは、完全に元通りとなった状態でなお、四体に増えている風磨仁の姿だった。

 

「よっし、復活!」

「いやー、しかし今のは驚いたな」

「うんうん。まさかあんなビーム撃ってくるとは……」

「今のは、痛かった……痛かったぞーーっ!!」

 

 四体の仁はそれぞれ異なる表情を浮かべながら、独立した思考回路を持っているかのように話し始める。その様子をただ見つめていたハジメ達は、顔を青くして渇いた笑みを浮かべるしかできない。

 

「ご主人様……一応聞いてみるが、何か策はあるかのう?」

「……あったら良いんだがな」

「そうか。つまり、万事休すということじゃな」

 

 ティオが冷や汗を流しながらそう状況の分析を終える。口にはしないが、ハジメは仁の殺し方についてある程度検討がついていた。バラバラにしても再生するならば、跡形もなく消し去ってしまえばいい。というか、それ以外に方法はない。

 

 しかし、今のハジメにはそれを実行に移すだけの実力も武器もない。まさに手詰まりだ、そんなハジメ達の状況を分かっていて、嘲笑うかのように仁は告げる。

 

「さて、それじゃあ第二ラウンドを始めようか。オレはイタイ恰好をした男の方と()るからおまえらは好きにしていいぞ」

「ん~……じゃあオレは負けヒロイン感満載の兎だな」

「それならオレはいかにも後ろ(ケツ)が弱そうなドラゴン娘を殺すか」

「えー……じゃあオレの相手は貧乳ロリかよ。気分乗らねぇなあ」

 

 仁が四体に分裂した理由。それは簡単だ。相手が四人ならばこっちも四人に増えようという、普通の人間ならまず思いつかないであろうそんな考えからだ。戦闘を最大限楽しむために多対一も悪くはないが、タイマンを好んでいる仁はそういう選択をとった。

 

 身体を四つに分割した分、仁の気も四分割されるわけなのだが、四対一の状況ですら全力の半分も出していないため、余程のことがなければ負けることはないと考えたのも理由の一つだろう。

 

 やけに的確な指名にハジメ達はイラッとした反応を見せるものの、次の瞬間には襲いくるであろう仁に対して構える。

 

「「「「さあ……始めようか!」」」」

 

 そして、人類最強パーティーと最凶の魔人との戦いが始まった。




太陽光集束型レーザー ヒュベリオン
太陽光を宝物庫にチャージして、重力魔法が付与された発射口から集束した太陽光をレーザーにして放つ大軍用の殲滅兵器。
原作では、魔人族の軍隊を殲滅するために使用したのだが、この作品では仁が人外絶滅ホーミング弾で全滅させたため、壊れることなく仁相手に使用できた。
単純な火力自体はそこそこであるが、範囲が広いため防御するつもりがない仁の体くらいなら余裕で吹き飛ばせた。ただし再生された模様。

風磨仁
戦闘大好きマン。
元々、戦闘自体は好んでいたが、ミレディとの戦いで人型相手との戦いの楽しさを知った。敢えて手加減してハジメとの戦いを楽しむくらいには戦闘狂になりかけている。ただ敵相手には容赦するつもりはないようで、殺そうと思ったら容赦なく殺す。
もしハジメが正体バレしてなかったら、ウルの時点で死んでいる。

ハジメパーティー
一度仁にこっぴどくやられたことで、チームプレイを学んだパーティー。
この時点で原作時よりも多少強くなっている。それでも、仁が強すぎて相手にならない。ドラゴンボールのキャラを他作品に入れると原作キャラが強くなりがちな気がする。
この後一人一人タイマンでボコされる予定。
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