ハジメ達と仁の二度目の戦いが幕を開けてから数分後。ハジメレディーズの永遠の二番手、兎人族のシアは分裂した仁の一体と戦いながら、その想像以上の強さに苦戦を避けられずにいた。
以前のようなただ狙われるだけの兎人族ではなく、ハジメ達と共に旅をしてきたシアには世界全体を基準に見てもトップクラスに強くなっているという自負があった。敵が誰であろうとも仲間と一緒なら勝てるという確信もあった。しかし、そんな今までの成長を否定するかのように目の前の
パワーもスピードもスタミナも判断能力も技術でさえ、シアが仁に勝るものはなかった。圧倒的なまでの格上。今まで真正面からぶっ潰す脳筋スタイルの戦い方をして、それ以外の戦い方を知らなかった彼女が、同様の戦術を取る上位互換である仁に対し、こうなるのはある意味必然でもあっただろう。
ただ、それでもシアはまだ戦いという形を保ってはいた。
本来ならば、初手の一撃でシアは敗北していたはずだった。それほどの実力差が今の二人の間には確かにある。にも関わらず、戦いが数分もの間続いていることには、とある要因があった。
その理由こそ、シアの固有魔法"未来視"。その新たな派生"天啓視"にある。
最大二秒先の未来を任意で見ることが出来るという一見"仮定未来"の劣化版のようにも思える"天啓視"であるが、その分魔力消費を抑えられるという利点があり、使い勝手だけで見れば圧倒的にこちらが上回っている。
その"天啓視"を、シアは戦闘中ずっと
いくら魔力の消費を抑えられるとはいえ、それでも総魔力がそこまで多くないシアにとって"天啓視"は何度も連発出来るものではない。長時間の使用などもってのほかだ。
だがそうでもしないと戦いにすらならない。それをウサミミで理解したのだろう。シアはその賭けにも近い選択を躊躇いなく選んだ。
シアにとっての幸運だったのは、戦闘の最中に天啓視が成長したことだろう。
今までの天啓視は、最大二秒先までの未来しか見ることができなかった。だがこの戦闘中、今までにない使い方をされた天啓視は自発的に成長し、その効果時間をコンマ一秒ごとに伸ばしていき、今では五秒先の未来までも見れるようになったのだ。
それでいて、長時間の使用に対応できるよう魔力の消費も大幅に激減した。この一種の進化ともいえる成長を見せたアップデート版天啓視によって、シアはなんとか戦いを続けられていた。勿論、その分シアの脳への負担は比べ物にならない程増える。だがそこは結局のところ脳筋思考のシアだ。気合いで耐えきっている。
つまり、今の状況を一言で説明するならば、シアは常に五秒先の光景を目にしながら、仁と戦い続けているのだ。
実力的には大きく劣るシアでも、未来を視て攻撃を一撃も受けなければ戦いは続けられる。そんな我武者羅な戦い方でなんとか仁に食らいついていた。とはいえ、これはあくまで敗北までの時間を引き延ばしているに過ぎない。全ての攻撃を避けられるからといって、敵を倒せるかどうかは話が別なのだから。
加えて、いくら魔力の消費を抑えたとはいえ、天啓視の常時使用による消費魔力は通常の魔法に比べて遥かに多く、シアの保有する魔力量は決して多くないという事実は変わらない。背中を預ける仲間であり同じ男に惚れた
恐らく、このまま戦っていれば、あと一~二分でシアの魔力は底をつくだろう。
まさに危機的な状況である。だが今のシアに焦りの感情はない。何か策があるというわけでも、仲間の助けを期待しているわけでもない。単に、そんな小さな感情を塗りつぶす程大きな怒りが、シアの内から沸々と湧き上がってきていたからだ。
「……いい加減に……してくださいっ!」
「ん? どしたん? 話きこか?」
突如、声を荒げたシアに仁は攻撃の手をピタリと止めて、対話の体勢に移る。
「さっきから、馬鹿にしてるんですか!」
それに対して、シアは怒りのボルテージは更に上昇させる。それは、今までずっと感じていたとある違和感からだった。未来が視えるシアだからこそ、その違和感に気づけた。命を賭けた戦場において絶対に起こるはずの現象が未だ発生していないことに。
「どうして……私を殺さないんですか!!」
シアの固有魔法である"未来視"には
それはつまり、シアの意思関係なく"未来視"が発動した場合、視えた未来を回避しなければ確実に死ぬと断言しても過言ではない。
そういう場面に、これまでシアは何度も遭遇した。そしてその度に己の固有魔法に救われてきた。その経験があるからこそ、シアは未来視に絶対的な信頼を寄せている。しかし、今回はそんな今までとは全く状況が異なっていた。
シアは仁との戦闘中、一度として
その意味が理解できないという程シアもアホではない。仁程の敵が自分殺せる手段を持ち合わせていないなどという、楽観的な妄想などもするはずがない。ならば、それが指し示す答えはただ一つ。
仁はシアを殺そうとしていない。
「私が弱いから本気で戦う価値もないってことですか! 兎人族だから殺さないで奴隷にでもしようってんですか! ナメないでください!」
「……」
別にシアも死にたいわけではない。相手が油断しているのならその隙に殺せというハジメの教えを忠実に守るタイプである。だがそれはそれとして、ここまであからさまに手加減をされては流石に我慢ができなかった。
自分が他の仲間達に比べて弱いことはシアが誰よりも理解している。ハジメのような万能的な手札はなく、ユエのように強大な一撃も放てない。そして、ティオのようにいついかなる時でも冷静な判断能力を持ち合わせているというわけでもない。
それでも、弱者として扱われるのは嫌だった。
確かに少し前までのシアは特殊な固有魔法を持つだけのただの兎人族だった。それでも、ハジメ達と出会い、共に旅をし、多くを得た。その経験は間違いなく今のシアに繋がっている。すなわち、シアにとって自身の強さとはハジメ達と共に旅をした思い出でもあるのだ。
それ故に、自分を弱者として扱い、手を抜いて戦う
「……何か、勘違いしてるようだな」
そんな怒りの叫びを聞いた仁は、どう見ても煽ってるとしか思えなかった余裕の笑みを消してシアと向き合う。
「オレはおまえ達四人の中で、おまえを一番に警戒してる」
「……何を?」
その言葉にシアは信じられず唖然とする。しかし仁に嘘はない。実際、現在ハジメ達と戦っている四人の仁の中でもシアと戦っている仁が一番強い個体であるのがその証拠だ。
四体に分裂した仁であるが、当然実力そのままに増えたわけではない。体が四つに分かれたことで、その強さも四分割されている。パワーもスピードもスタミナも一体の時と比べて大きく落ちているのだ。具体的に万全の状態を十として表すならば、たった今シアと戦っている個体が四。ハジメと戦っているのが三。ティオと戦っているのが二。ユエと戦っているのが一といったところだろう。
こうして数字にして表せば、仁がいかにシアを警戒しているかが分かるはずだ。
「おまえ……やっぱり未来が視れるんだろ? まあ、これだけやって一発も当たらないんだ、それぐらいは分かる。素晴らしい力だ。正直羨ましいとも思う。そんな奴を、このオレが警戒しないはずがない」
未来が分かるというのは、それだけで凄まじいアドバンテージを発揮する。時にそれは、どんなに強大な力やどれほど優れた魔法よりも効果的に働くことすらある。その優位性を正確に把握していたからこそ、仁はシアを他の誰よりも警戒していた。
「まあ、別におまえをナメてるつもりはなかったんだがな。確かに今までのオレの戦い方は失礼に値したかもしれない。悪かったな」
「え……あ、はい」
仁は最初から、ハジメとその仲間達を殺すつもりなどなかった。誰だって、親友の彼女を殺したくはないだろう。だからこそ、決定的な隙があったとしても命を奪おうとはしなかったし、振るう拳もどこか鈍かった。それが、シアの目にはナメているように映ったことに気づき、仁は素直に謝罪の言葉を述べる。
そんな仁の内心を知らないシアは、神代の魔人ともあろう者が当たり前のように謝罪した現状に戸惑いを隠せないでいる。しかし次の瞬間、シアは自身の発言を後悔することとなった。
「詫びといってはなんだが……少し見せてやるよ。オレの本気を――」
直後、薄く笑みを浮かべた仁の身体から先程までのものが生温く思える程の強烈なプレッシャーが放たれ、気の嵐が吹き荒れる。シアの持つ知識に気という概念は存在しない。それでも、野生に生きる亜人族の本能で何か膨大なエネルギーが仁から溢れ出していることだけは察し、冷や汗をかきながらドリュッケンを強く握り締める。
その瞬間、シアはあり得ない光景を目撃した。
「……ぇ」
シアの脳裏に映る。
本来、一度の"未来視"で見れる未来は一つだけ。今まではそれが当たり前であったし、そうでない可能性など考えもしなかった。しかし、たった今その制限を無視して、シアは複数の己の死に様を視せられていた。
頭を粉砕されて死ぬ未来。心臓を貫かれて死ぬ未来。体全体を消し飛ばされて死ぬ未来。チョコにされ、食べられて死ぬ未来。テレビ画面を分割したようにして映る様々な死の未来が、シアの頭を過る。
それはつまり、まだ未来が定まっていないこの状況で既に、シアが仁に殺されるという結末だけが確定したということ。
「うっ……おうぇえええええええ!?」
人生で初めて経験した複数未来の予知に、シアは耐えきれず嘔吐する。
何度も視ているとはいえ、自分の死というものは決して気分のいいものではない。特に精神面でそう強いとは言えないシアにとって、通常の"未来視"でさえも気分を悪くすることが今でも稀にあるのだ。
そんな彼女が、今まで経験したことのないほどの死を唐突に叩きつけられたのだ。精神的なショックと今の"未来視"による魔力のガス欠でこうなることはそうおかしなことではなかった。
しかし、それが今回の状況では幸運に働き、シアの命を救うこととなる。
「お……おお……その反応は想定外だった」
未来が見えるシアなら避けてくれるだろうという期待を込めて、本気で殺しにいこうとしていた仁だったが、もし本気で殺しにいけば、未来が視える視えない関係なくシアは攻撃を認識する間もなく死んでいただろう。
どれだけ先のことが分かっていようとも、それを知覚してから避けるまでの隙すらなく殺すことを可能としてしまう実力差が二人の間にはあった。
そのため、攻撃動作に移る前にシアが嘔吐し、仁が動揺して攻撃を中断したこの状況はまさに奇跡的だった。
「うーん……やりすぎはよくないのか? ギリギリ回避が成功するスピードで、それでいて殺さない程度のパワー。その二つを兼ね備えた上で全力で戦う。うん、矛盾してるな」
地面に四つん這いになりつつ、息を荒くするシアを見て仁は顎に手を当てて悩むように呟く。そして、「よし!」と気合を入れたように頷くとシアに掌を向けた。
その動作を攻撃のものだと思ったシアは咄嗟に回避しようとするも、自身の身体に何かが入ってきたことを感じ、口をポカンと開けて驚愕する。
「これは……魔力?」
「おっ、上手くいったか? 気の要領でやったけど案外やれるもんだな。ああ、説明して欲しいって顔だな。いいよ、簡潔に教えてやろう。おまえにオレの魔力を分けてやった。それだけあれば、また未来予知を使えるだろ?」
「なんっ……のつもりですか!」
先程感じた死の未来を未だに拭い切れないまま、シアは膝をガクガクと震わせ、小鹿のように立ち上がる。その表情には隠し切れない恐怖の色が見てとれる。
たった今戦っている敵に情けをかけられたような状況に、困惑と怒りの感情がごちゃ混ぜになりながらも湧き上がる。しかし、その後に仁から放たれた言葉によって、シアを更なる絶望へと追い込まれた。
「――さあ、戦いを続けよう!」
両手を大きく広げ、満面の笑みを浮かべて仁は宣言した。
完全に想定外な言葉にシアは意味が分からないといったように呆然とする。仁の思考がまったく理解できないのだ。だがそれが普通の感性だろう。倒れた敵に力を与えた上でもう一度戦おうなど、常人に理解できるはずがない。
仁がしたいことは、要すると手加減の練習だ。
全力を出した上で手加減する。明らかに矛盾しているその二つを両立させるための実験台として、ハジメパーティーの中で一番面倒そうだと思っているシアとの戦いを続けようとしているのだ。
「はぁああああああ!!」
そんな意味不明な思考回路を読めるわけもなく、シアはただただ何も分からないままドリュッケンを構える。そして恐怖に歪んだ表情のまま、雄叫びを上げてもう一度目の前に立ちはだかる
数分後、仁とシアが戦った戦場には、砕けたドリュッケンの破片と共に倒れるシア。そして、満足気な様子で立つ仁の姿があった。
〇
止まる事なく、それでいて驚く程速いブレスが人間状態のティオから放たれる。対する仁は無数に迫るその黒き極光を避けることも防御することもなく、その体で受け、不死身に近い特性を活かして瞬時に傷を再生させる。
二割パワー仁にタイマンの状態に持ち込まれ、ティオが真っ先に取った行動はただひたすらに攻め続けることだった。
ハジメの攻撃で仕留めきれなかった以上、ティオがどれだけ高火力な一撃を放ったとしても仁は殺しきれない。ならば、攻撃される隙を与えないほど攻撃を繰り返し、攻守交替などさせないまま押し切って倒す。そんな考えに至ったからだ。
仁がいくら不死身といってもいい肉体を持つとはいえ、ダメージを食らわない生物などこの世にはいない。それが例えほんの僅かなものであったとしても、塵も積もれば山となるという言葉があるように、何度も何度も攻撃を与え続ければダメージは必ず蓄積する。
そんな作戦を真っ先に思いついたティオはこの戦い方を選んだ。
ティオの突き出された両手から放たれたブレスが仁の腹部を貫き、更に横薙ぎに振るうことであたかも巨大な黒色閃光のブレードのように仁の身体を切断する。
「ぐわぁあああ! やーらーれーたー!」
「その騙す気のない演技をやめんか!」
「あ、そう……」
下手くそな演技力を指摘され、落ち込んだように切断部をピタッとくっつけた仁に構うことなく再度ブレスが放たれる。それを仁はまた抵抗することなく受け、身体に巨大な風穴を空ける。しかし、次の瞬間には空いた穴が塞がってしまう。
ティオと仁の戦いが始まってから、ずっとこんな展開が続いていた。いくらティオが攻めようとも、仁の痛覚は薄く、ダメージもほとんどないに等しい。
「ぐっ……もう少し疲れた様子を見せんか」
「へっへーん、オレ凄いだろ」
どれだけ攻撃しても変わり映えのない現状に、呆れにも近い感情を抱くティオに対して仁は腰に手を当てて、鼻を天狗のように物理的に伸ばす。このままでは、仁にまともなダメージが与えられるよりも、ティオの体力と魔力が尽きる方が先だろう。
誰が見てもティオが不利な状況ではある。もはやそれは覆しようがない。しかし、この状況を一変させる可能性がある手段をティオは所持していた。
"竜化"――竜へと姿を変え、ステータスを十倍程も上昇させるティオの切り札とも言っていい竜人族特有の能力。単純なステータスだけで見れば、ハジメすら超えることのできるそれを使えば、今以上に高火力な攻撃手段を増やすことができるだろう。
しかし、当然弱点もある。
中でも最大のものが、単純に姿が大きくなる分全体的なスピードが落ちてしまうことだ。
相手が自分より格下、最低でも互角であるならばまだしも、格上相手へのそのデメリットはあまりにも大きい。人間で例えるならば、小さくて硬くて速くて超強いハエが即死レベルの攻撃をしてくるような感覚だ。鬱陶しいを通り越してそれはもう恐怖でしかない。
前回の戦いでは冷静さを失ってしまい、その弱点を理解しないまま仁に挑んだ結果、ティオはあっさりと返り討ちにあった。あれが竜化による敗北かどうかは怪しいところではあるものの、その弱点を突かれたことは間違いない
同じ失敗を犯すことを防ぐため、ティオは今まで人間形態で戦っていた。強力なステータスと竜化することによるデメリットを天秤にかけて、人間形態のまま戦うことの方がまだ勝機があると判断したからだ。だが今のままでは到底仁に勝つことなどできない。
「……一か八か。やってみるかのう」
勝機がないことを大分前から察していたティオは以前から考えていた奥の手を使う覚悟を決める。
それは、
以前までのティオであったならば絶対にその考えには至らなかったであろう。しかし、仁に敗北し、己の無力さを思い知らされ、力を追い求めた末ににティオはその一見矛盾した手段に辿り着いた。
"竜化"による強化を受け入れた上で、その身体を人型のまま維持し続ける。もしそれが成功したならば、竜化形態によるデメリットはほとんど消えたと言ってもいい。だがそう簡単に成功するはずがない。というか、それが簡単に出来ることであるならば、今までのティオの長い生涯でとっくにその領域には至っている。
それが不可能に等しいことであったからこそ、今までどんな竜人族も思いつきすらしなかったのだ。それに実際に思いつきはしたものの、ティオ自身が実現に成功したことは一度たりともない。
それでも、今ここで成功させなければ――死ぬ。
それほどまでに追い詰められたことで、ティオは躊躇うことなく未完成な力を使うことを選んだのだ。問題は今も攻撃を無防備に受け続けている仁が"竜化"する隙を与えてくれるかどうかであるが、そこに関してはティオに考えがあった。
「……一つ。提案があるのじゃが?」
「ほう? どうしたいきなり?」
ずっと攻撃しかしてこなかった相手から突然対話を望まれ、仁は不思議に思いながらも別に切羽詰まった状況でもないため普通に受け応える。その反応から、仁が油断していると分かりティオは内心笑みを浮かべる。
「今から妾は……変身する」
「………………あ、はい。どうぞご自由に」
ここで戸惑ってしまったのは仁の方だ。戦闘中に敵から声をかけられたかと思えば、唐突に変身すると告げられたのだ。『好きにすればいいじゃん?』という心の声が思わず漏れそうになる。ただティオの本題はここからだった。
「話は最後まで聞け! ふぅ……実は、妾の変身には多少時を必要とする。お主ならば、その隙に妾の命を奪うことも可能であろう?」
「まあ、できるかできないかで言えば……余裕で出来るな」
「……やはりそうか。故に、頼みがある」
そして、ティオは至って真剣な顔で告げた。
「――見逃してくれ」
「……はい?」
思いもよらない提案に、仁は呆然とした。それも仕方ないだろう。ティオの要求はどう考えても戦闘中に、しかも敵にするものではない。これから自分が強くなることを告げ、その弱点を提示した上で、弱点を狙わないでくれと言っているのだ。当然これはルールの決まった試合ではない。戦場においてこんな提案を受ける方が馬鹿げている。
もし、これを提案されたのがハジメであったならば、提案を受け入れたフリをして容赦なく変身中に攻撃を仕掛けていただろう。しかし、ティオには仁がこの提案に乗ってくるという確信があった。
この短い戦闘の間ではあったものの、ティオは仁に対する分析を進めていた。その結果判明したことが、仁が強敵との戦闘そのものを楽しんでいるということ。それはティオにとって納得しがたい在り方ではあったが、理解は出来た。そして同時に思いついた。強者との戦いを望むならば、自分が強くなる機会も見逃してくれるのではないか……と。
そして、そんなティオの推測は見事的中した。
「ぷっ……あははははは! おまえマジかよ! 敵相手にその交渉はないだろ普通! …………いいぜ、大サービスだ。約束してやる。オレはおまえの変身を妨害しない。その代わり、おまえもオレを失望させてくれるなよ?」
「ふっ、その余裕……今崩してみせてよう!」
大爆笑して提案を受け入れる仁。一番の問題であった変身中の妨害をこうして解決したティオは、すぐさま"竜化"を行った。
ティオの体が内側外側含めて激しく変化しようとする。力を抑えた人の体から本来の竜の体へと。それを咆哮を上げながら気合いで無理矢理抑え込み、強制的に人の体に留めようとする。
「ほう、気がとんでもない勢いで上昇してるな。これは凄い」
気で相手の強さが分かる仁は、見た目に変化がなくともその内側に多大な変化が起きているのを見逃さなかった。一体どれほどまで気が上昇するのか期待を胸に笑みを浮かべて約束通り変身が終わるのを腕を組んで待つ。
余裕そうな仁とは裏腹にティオは体かなりギリギリの状態だった。今のところはまだ人間形態を保てているものの、気合いだけでの維持はそろそろ限界を迎えようとしていた。内側から溢れる力に意思に反して肉体の方が適応した身体へ変貌しようとする。
「っ……これ以上は……やはり厳しいか!」
元々、ここまでは練習でも出来ていた。だがこれ以上"竜化"しようとすると、肉体がティオの指示を無視して竜の身体へ強制的に変化してしまう。今回もそれは同じだった。危機的な場面で覚醒するなどという主人公補正を所持していない彼女に練習で出来ないことを成功させるなど、そもそも無理な話だったのだ。
だが助け舟は意外なところから出された。
「……なるほどな。デカすぎる力をおまえ自身が完全に使いこなせていないのか。面白い。少し手を貸してやる」
「な、なにをする!? 手は出さないとっ……」
「安心しろ。攻撃するわけじゃない。オレの気を少しおまえに分けてやるだけだ。手を貸してやるからその力を制御してみせろ」
「っ……!? この力は……ウグッ、後悔してもしらぬぞ!!」
突如仁が掌をティオに向けれると同時に、ティオの体に理解不能な力が流れこんだ。自分の身体に自分以外のナニカが入り込んでくる気持ち悪い感覚にティオはそれを一瞬拒絶しようとするも、突如力が溢れ、漲ったことに気づき、不快な感覚に耐えてそのエネルギーを受け入れ始める。
自分の力を制御できず、中途半端に"竜化"しようとしていたティオに見かねた仁が気を分け与えたのだ。人間形態の肉体が"竜化"の力に耐えきれず、強制的に変化してしまうのならば、肉体そのものを強化してしまえばいい。そんな感じの考えからだろう。
無理矢理他人の、しかも仁の邪悪な気を入れられたティオが感じる不快感についてはまったく考えていなかったようだが。
仁が手を貸したことによって、竜化形態に移る準備を始めていた肉体は未だに人としての形を保ち、そのままの状態で"竜化"を続ける。
それから数秒の時が経過し、ついにティオはその領域に足を踏み入れた。
「――なんと……まさかこれほどとは!」
人間形態を維持したまま竜化状態の力を完全に引き出すことに成功したティオの体からは黒いオーラが溢れ出し、長い髪は僅かに逆立つ。勿論変化は見た目だけではない。その力も桁違いに強化され、竜化状態でなければ扱うことのできない膨大な力を凝縮したことで、その戦闘力は本来の"竜化"すら上回る。
名付けるならば――"竜人形態"とでも言うべきだろうか。
「これなら……勝てる!」
「面白い。ああ、本当におまえら面白いな! さあ、全力で来い! 今度はこっちも手加減はなしだ!」
そして、二人の戦いは再度幕を開けた。今度は仁の方も受けるばかりではなく、積極的に攻撃に移り、ティオを倒すために本気で戦う。そんな仁に対抗するかのように、ティオも新たに手に入れた形態を駆使して挑む。
まるで天変地異でも起きているかのような壮絶な二人の戦いは数分もの間続いた。
ティオは確かに今までとは比べ物にならない程に強くなった。数少ない"竜化"の欠点を克服し、この形態ならば今のハジメにすら容易く勝利するだろう。それほどまでの力を手に入れたのだと断言できる。
それでも、仁との実力差は大きなものだった。
「う……うぐ……ここまで至ったというのに……まだ届かんのか……」
「……惜しかったな。おまえは確かに強い。でも、経験が足りなかったな。慣れない変身におまえ自身が対応しきれてない。結構隙だらけだったぜ。次に
二割の実力しか出せない仁の全力を引き出せはした。だが今のティオではそれが限界だった。
地面に四つん這いになり、荒い呼吸を繰り返しながら、仇を見るような瞳で仁を睨む。"竜人状態"も既に保てなくなり、体に保っていた黒いオーラは消失していた。もう戦える力は残っていない。もはや、彼女に出来ることはただ自身を負かした敵を睨むことだけ。
「……む、無念」
魔力も体力も尽き、限界を迎えたティオは最後にそんな言葉を吐くとうつ伏せの状態で地面に倒れた。いくら彼女がドMであるとはいえ、初めて自分の限界をも超える形態になったことで、疲労感が一気に襲い掛かってきたのだ。
こうして、ティオは同じ相手に二度目の敗北を与えられた。
シア&ティオ 脱落!
シア
未来見える系ウサミミ少女。
未来が視えるというチート能力を強化して、更に強くなった。使用者本人の魔力がそこまで多くないという欠点さえ除けば、近接戦で全ての攻撃を避けることすら可能。近接戦だけならば、多分ハジメにも勝てる。
今はまだそれほど強力にも感じないかもしれないが、成長するにつれてヤバさが段々と大きくなる系のキャラ。
フィジカル強いのに、未来が視えるのははっきり言ってズルいと思う。原作を読んでいて作者はそう思いました。
アップデート版天啓視
本来の天啓視は二秒先までの未来が視えるものだったが、強化されたことで五秒先の未来まで視ることができるようになった。しかも消費魔力が減ったというおまけ付き。発動し続けることで、常時少し先の未来を見ながら戦うことも可能。
欠点としては、使用者の魔力量が少ないことと、脳に多大な負担がかかるため長期戦には不向きであるということ。
近接での戦闘だけに限定すれば、未来視よりもこちらの方が使い勝手はいい。
この後シアが強くなるにつれて効果時間が更に延び、消費魔力ももっと減る模様。ぶっちゃけチート。
ティオ
フィジカルゴリラドラゴン娘。
元から単純な性能だけで見れば、身体能力、魔法適正、思考速度共に高水準に位置していたが、竜人形態という新たな変身を手に入れたことで更に強くなった。
竜化形態の時点で既にステータスはハジメを越えていたが、それが更に上昇し、単体で宝物庫を解放したハジメをも余裕で超える実力を手に入れた。
ただしハジメがこの後覚醒しないとは言ってない。一応彼は原作主人公なので。
竜人形態
人間形態のまま竜化の力を引き出した状態。原理的には人間状態のまま大猿の力を引き出す新ブロリーみたいなもの。つまりティオはブロリー?
単純にステータスを上昇させるだけではなく、魔法や技能も含めてあらゆる面でレベルアップしている。ドМレベルもアップしているため注意が必要。
初めて竜人形態になったため、ティオは完全に扱いきることができなかったが、それでも、ニ割の実力を出した仁と互角に戦えるレベル。成長の予知はまだまだある。
当初は、スーパーサイヤ人4のように人間サイズのまま竜っぽくなるのを考えていたが、それだと人間の見た目でナッパみたいに口からビーム吐いたり、爪でひっかきまくるといった野性味溢れる戦い方になりそうだったので、ティオのイメージには合わないかな~と。そういうわけで、新ブロリーみたいに見た目上の変化はオーラと逆立つ髪だけでただ戦闘力が上がる変身となりました。