ピンクの魔人と共に   作:クー(無課金勢)

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油断していた。まさか()がこのタイミングで現れるだなんて予想もしていなかった。

完敗だ。

束の間の平和に慣れ、恐怖を忘れ、万全だった守りに綻びが生じた。その隙を奴は見逃さなかった。たった一度の一瞬の油断。そこを突かれたのだ。きっと、このタイミングを何年もの間待ち続けていたに違いない。恐ろしい執念だ。もはや感服に値する。

奴の攻撃は見事成功し、私の体は弱り、時を奪われ、行動に制限をかけられた。これを敗北と言わずしてなんと言おう。

完璧なまでにしてやられた私だが、それでも一つだけ言いたいことがある。



コロナ……お前だけは絶対に許さない。


一騒動の終わりに

 ハジメとそのハーレム共との戦いは終わった。無事オレの勝利という形で。

 

 とはいえ、この結末は分かりきっていたことだ。確かにハジメ達は強くなった。トータスに現存する人類に限定するならば、その強さはナンバーワンと言っても過言ではないだろう。

 

 それでも、オレとハジメの間には何かのきっかけで覚醒したとしても埋めきれない力の差があった。ここまで力の差があってはむしろ負ける方が難しい。つまりこれは、『勝ちの確定したバトル』だったのだ。

 

 だからといって、この戦いに意味がなかったわけでもない。オレの方は兎も角、ハジメ達には見違える程の成長が見られたし、ハジメが遂にオレの正体に気づくというちょっと嬉しい展開もあった。

 

 あとは傷ついた(傷つけた)ハジメとハジメガールズを治療して、二人仲良く事情を説明してやれば誰もが疑いようのないハッピーエンドになる……はずだったんだけど。

 

 

 

「――まったく、これだから男ってのは……何、馬鹿なの? 正体が分からないからってすぐに殺し合いに発展するハジメ君もどうかと思うけど、相手がハジメ君だと分かった上で喧嘩を売る仁はもっと馬鹿よ。加減ってものを知らないの? ここら一帯もう更地よ。はぁ……本当に何やってるのよ貴方達……」

「……いや、それは仁が正体隠すから」

「……先に手を出したのはハジメだ」

「そこ、言い訳しない!」

「「はい……」」

 

 先程までバトっていた戦場で正座するオレとハジメ、そんなオレ達の前で腕を組んで仁王立ちする八重樫。重度の厨二男と全身ピンク色の男の()が剣道美少女にネチネチ説教を受けているという、感動の再会の次の場面としてはあまりにも不似合いな光景がそこには広がっていた。

 

 簡潔に経緯を説明しよう。ハジメとの喧嘩を終えたオレは当初の予定通り、"回復の術"でハジメとハジメの女共を治療していった(ハジメの腕と眼に関しては治療を拒絶されたため治していない)。小さな不調も含めて完全回復したハジメのハーレム達は当然混乱していたとも。先程まで殺し合っていた相手が実は惚れた男の親友でしたと聞かされ、とても面白い反応を見せてくれた。特にあの吸血鬼娘――ユエなんかはハジメの頭の心配をしていて笑いを堪えるので必死だった。

 

 それでも色々頑張ったおかげで(ハジメが)、どうにかオレという存在が風磨仁というハジメの友であると認めてくれはした……と思う。問題が発生したのはその後だ。飛んで行ったオレ達を追ってきた八重樫と白崎が到着したのを確認してから、オレはハジメと無理矢理肩を組んで「仲直りしましたー」と片手ピースしながら言ってみたのだが……それが悪かったのだろう。

 

 分かっている。ふざけている自覚はあったとも。だがこんなことになるとは思いもよらなかったんだ。

 

 直後、オレ達を襲ったのは八重樫の拳骨だった。

 

 痛覚もかなり鈍くなり、不死身にも等しい肉体を得たにも関わらず八重樫の拳は当たり前のようにオレの体へダメージを通してきた。正直困惑した。同様に拳骨を受けたハジメも自慢の高ステータスによる防御力を貫通されたようで、酷く混乱していた。これが覇気というやつなのかもしれない。

 

 その後はもうお察しの通りだ。強力な肉体を持つオレも性格がガラッと変わったハジメも八重樫の放つ謎オーラに逆らうことができず、自発的に正座をして説教を大人しく受け入れた。そうしなければマズいと本能で理解したからだ。

 

 そうしてから……もう一時間以上は経過している。

 

 これでもオレとハジメのステータスは文字通り人外レベルであるため、別に足が痺れて辛いということはない。ただ……説教の時間があまりにも長すぎる! いくら肉体的に最強のオレでも精神面には限界がある。それも八重樫から説教されるとなればその負担の大きさも更に増す。

 

「し、雫ちゃん……もうそろそろ……」

 

 あまりにも長時間説教され続けるオレ達を憐れに思ったのか、八重樫と一緒にこの場にやって来ていた白崎から助け舟が出された。オレの見間違いだろうか、白崎の背に天使の翼が見えてきたかもしれない。

 

「甘すぎるわよ、香織。この際だから、この二人にはもっとはっきり言ってやらないと」

「う、うん……そうだね……」

 

 どうやら背中の翼はオレの見間違いだったらしい。白崎はあっさりと引いた。この時のオレとハジメの心の声はきっと同じだっただろう。つまり、『もうちょっと頑張ってくれよ白崎(香織)!』といった感じだ。性格的に八重樫に強く出れないため仕方ないかもしれないが、ネチネチと言われ過ぎてこちらはそろそろ心が折れそうだ。

 

 しかし、救いの手は意外なところから出された。

 

「……無駄話はそろそろ終わりにして。そんなどうでもいいことよりもハジメに聞きたい。ソレが本当に仁って奴なの? きっと偽物。殺した方がいい」

 

 救いの手と呼ぶには少々……いや大分殺気に満ち満ちていたけれど。

 

 その人物は、ハジメの連れているハーレムの中でも最も位の高そうな位置にいる女であり、オレ評価(白崎を除く)ではハーレムメンバー最弱の女、吸血鬼のユエだ。ユエは嫌悪感マシマシな顔をこちらに向けながら、殺気を帯びた睨みをぶつけてくる。

 

 オレは彼女に何かしてしまっただろうか。オレがやったことといえば、目の前で仲間半殺しにした挙句心臓を貫いて、散々舐め腐った態度を取った上で魔法パクって首トンで気絶させただけ……いや、十分だな。相当オレのことを嫌ってそうだ。

 

「大丈夫だ、ユエ。こいつにもきっと悪気があったわけじゃあ…………ないよな?」

「ふっ……この世は所詮弱肉強食。弱者であるおまえが強者であるオレに敗北した。それが摂理だ。恨むんなら弱い自分を恨むんだな」

「……よし。好きにしていいぞユエ」

「……ん、分かった」

「待て待て待て待て! 冗談だって! おいコラ、魔法撃つんじゃねぇ!」

 

 ハジメの許可が下った瞬間に放たれたユエの殺す気の魔法。避けるつもりのなかったオレは身体を空間ごと両断される。すぐ割れた粘土のようにくっつけて元通りにするも、次の瞬間にはまた別の魔法が放たれる。オレは仕方なく正座の体勢のまま上半身を骨格上不可能な位置まで逸らして躱す。

 

 いくら敵意を向けられているとはいえ和解? したはずの相手に反撃するわけにもいかず、オレが回避に専念していると、今度はお尻が弱そうな竜人族、ティオが声をかけて来た。

 

「まあ待て、落ち着くのじゃユエ。確かににわかには信じられんことじゃが。この男? には聞きたいことが山程ある。まず前提として、お主がご主人様の友を自称するというのなら、何故魔人ブウを名乗っておる。そしてどうしてその名を知っているのか教えてもらおう」

 

 ティオもティオでユエ程ではないとはいえ、オレを疑うような視線を向けている。それでもリーダーであるハジメが信じるならばと、自分の感情を一旦置いてユエを抑えてくれたらしい。やはり、見た目以上の歳であることは間違いなさそうだ。

 

「何やら今、馬鹿にされたような気が?」

「ははは、勘違いじゃね?」

 

 あぶねー。やっぱり女の年齢を探るのはダメだったか。

 

 そんなことよりも問われた内容の件だが、まあ当然だな。誰だってその疑問には辿り着く。正体を隠すためならわざわざ神代の魔人を名乗る必要はないし、それを知っていること自体も今の時代では十分異端だ。

 

 オレだってもし知り合いが似たようなことをやっていたら『何考えてんだこいつ?』ぐらいには怪しむ自信がある。まあ、別に教えてやってもいいだろう。ここまで来てそれを隠す必要もない。

 

「先に訂正しておくが、別に名前を偽ってたわけじゃない。詳しく説明すると長くなるから今は省略するけど、一言で言えば……今のオレは魔人ブウの肉体に風磨仁の人格が宿ってる状態だ。だから魔人ブウの名も風磨仁の名もある意味嘘じゃあない。どっちの名前もオレの名であることには変わんないしな」

「体と人格が別々だと……ミレディ・ライセンみたいな感じか。それなら、仁の本当の体はどこにあるんだ? その話が本当なら、お前の……人間としての風磨仁の肉体は別にあるはずだ。まさか、【オルクス大迷宮】に置いてきたとか言わないよな?」

「それこそまさかだろ。誰かあんな汚い場所に体捨ててくるか。っていうかそうか、ミレディとは会ってるんだったな。でも残念ながら今のオレとミレディは違う。自分でも百パーセントこの肉体を理解してるってわけじゃないが、多分風磨仁本来の身体は未だこの肉体の中で生き続けてる。確証はないけど、間違いない。あくまで人格だけが表層に出てる感じだと思う」

 

 胸に親指を押し当てて答えてやると、ハジメ達は体の中に体があるという意味の分からない説明に首を傾げた。しかしこれに関しては本当にオレもよく分かっていないのだ。ブウの体は不思議がいっぱいということで納得してもらうしかない。

 

 そこまで話すとユエ、ティオに続き今度は露出のエグイ青髪兎のシアが未だオレへの恐怖心を拭いきれないまま恐る恐る質問してきた。

 

「じゃ、じゃあ、なんで私達と敵対したんですか! 最初から貴方が事情を話してくれれば、私達があんな目に遭う必要はなかったじゃないですか! それを教えてくれませんと、とてもじゃありませんが信用なんてできません!」

「え……その場のノリだけど?」

「フンッ!!」

 

 ――直後、ハンマーに叩き潰された。

 

「うっわ! あぶねーな。オレじゃなかったら死んでたぞ」

「うっさいです! 死んでください!」

「おいおい、野蛮な女はモテないぜ。いや、なるほど。だからそんな負けヒロイン感満載なのか……」

「ムキィーー!!」

 

 まるでプレス機に潰された空き缶のようにぺったんこになってからすぐに復活したオレ目掛けて再度ハンマーが振り下ろされる。敵にしたら一番面倒であるが、どうやら煽り耐性の低さは天之川並みらしい。これは揶揄いがいのある良いオモチャになりそうだ。

 

 ちなみにシアの持つハンマー――"ドリュッケン"と呼んでいたそれは、オレの記憶が正しければ先程の戦闘中にぶっ壊したはずだ。どうやら、ハジメがこういう時を想定して予備を作っていたらしい。なんともまあ余計なことを。

 

 それはそれとして、"ドリュッケン"って確か……ドイツ語で"押し潰す"って意味だったか? なんというか、改めてハジメの厨二レベルが凄さを思い知った気がする。名前の意味も知らずに振り回してるシアが少し可哀想に思えて来た。

 

「……私に言ったあの言葉。あれはどういう意味?」

 

 何度も何度も振り下ろされるドリュッケンを指で弾きながら反応の面白いシアを煽っていると、今度はまたユエの質問タイムに突入した。

 

 "あの言葉"とは、オレがユエに告げた"弱い"やら"期待外れ"やらといった侮辱というか……明らかに下に見た発言のことだろう。確かにシアやティオ、そしてハジメとは異なり、ユエと戦っていたオレはあからさまにやる気がなく、完全にユエを舐め腐っていた。

 

 一割の実力しかないとはいえ、あれは紛れもなくオレだ。言葉の裏に深い意味があるわけでも実はユエの冷静さを失わせるための戦術といったわけでもない。

 

 答えはもっとシンプル。

 

「どういう意味もなにも、言葉のまんまだ」

「っ……!?」

「オレはおまえのことを本気で弱いと思ってるし、あの時は完全に悪い意味で期待を裏切られた。それに、戦ってる最中にもおまえのことはなんとなく理解できた。あの態度はそれが原因だ。まあ、ぶっちゃけると――オレはおまえが気に入らない」

「あぁ?」

 

 ――何一つふざけてないのに、横からハジメに脳天をぶち抜かれた。

 

「……なあ、オレはサンドバックじゃねえぞ」

「オレの前でユエをディスったんだ。当然の罰だろ」

「ガチ惚れじゃねぇか。別におまえの恋路に口を出すつもりはないが、もうちょい白崎のことも見てやれよ。流石に憐れだぞ」

「……仁も八重樫みたいなこと言うんだな」

「なんか私に飛び火したんだけど!?」

 

 本当に白崎のことを思うと不憫に思えて仕方ない。日本にいた頃から積極的にアピールして、異世界に来てからもずっと味方でいて、生存を諦めずハジメを探し続けたのに、いざ再会してみれば探し人であるハジメはハーレムを作っていて、メインヒロインの座は既に埋まっていた。こんなのオレでも笑えないぞ。

 

 まあ、当の本人はその境遇をそこまで不満に感じてないみたいだから、オレが口を出すのも余計なお世話なのかもしれない。自分の立場だと絶対に共感できないが、相変わらず白崎はよく分からん。もしかしたら本人の中ではそこまで深刻な話でもないのか?

 

「……まあいい。少しくらいは真面目な話もしてやるか」

 

 いい加減のハジメ達からの攻撃が鬱陶しくなったオレは、そろそろふざけるのを止めて、シレッと正座を解いて立ち上がる。そして、その場にいる者達の間をゆっくりと歩きながら、彼女達の疑問に答える形で語り始めた。

 

「――ウルでおまえ達と戦った時、確かにオレは自分の正体を告げることもできた。もしかしたら、それで戦いを回避できた可能性もある。だがそもそもの問題として、真実を告げたところでハジメは信じたか? 姿も声も強さもあらゆる面で変わったオレを……南雲ハジメはなんの根拠もなく風磨仁だと受け止めきれるのか?」

「それは……」

「確かに姿はちょっと変わってるけど、中身が全然変わってないから大丈夫よ」

「……ちょっと八重樫は黙ろうか」

 

 八重樫は迷うことなくそう断言するが、あの場でオレの正体を教えたとしても、きっとハジメは信じない。むしろ、敵と即判断して銃をぶっ放してくるか、風磨仁の情報を探るために一時的に騙されたフリをするかの二択だ。それをハジメ自身も分かっているのだろう。オレの問いに言葉を詰まらせている。

 

 というか本当になんで八重樫は気づいたんだ? 今更だがちょっと怖くなってきた。

 

「加えて、あの時のオレの目的は清水の救出だ。敵には容赦しなさそうな今のハジメが敵だと認知した男を助けようとしたんだぜ。この時点で、あの時のオレ達には衝突以外の道はなかったんだよ」

「そういや……清水はお前が連れてったんだったな。生きてるのか?」

「ああ、多少脳をいじくられてたが、命に別状はない。ピンピンしてるよ」

 

 そう、あの日のウルでオレは清水を攫う敵としてハジメ達の前に現れた。洗脳されていたとはいえ、今のハジメが敵対した清水に情けをかけるわけがない。二度しか戦っていないが、そのくらいは分かる。だからこそ、あの戦いはどうあっても避けられなかった。

 

 勿論、純粋にハジメ達と戦ってみたいという意図やオスカーの家荒らしまくったことに対して一発殴ってやりたいという気持ちもなくはない。しかしそれはそこまで決定的な理由にはならない。和解した後でも十分できたことだ。

 

 オレがハジメ達と戦った最大の理由は別にある。

 

「勿論他にも理由はある。オレは、おまえ達に敗北を知って欲しかった。それこそが、わざわざ魔人ブウを名乗ってまでおまえ達と戦った最大の理由だ」

「敗北だって? どういうことだ?」

「神代魔法を持ってるってことは、少なくともこの世界の真実については知ってんだろ。おまえ達があのクソ神を殺したいのか? それとも別に目的があるのか? そこまではオレも知らない。だがこれだけは言える。今のおまえ達の実力じゃあ、神に勝つことはまず無理だ」

 

 断言するようなオレの言葉に、その場の全員が息を呑んだ。まさかここで、神の話題が出て来るとは思わなかったという反応だ。しかも、神に勝てないと告げられたハジメ達からは、驚愕よりも猜疑心の感情が強く感じられる。

 

 この反応を見る限り、今の実力で本当に神に勝てるとでも思い込んでいたのだろう。やはり、ハジメ達はどこか神を軽視している。あんなクズでも一応は一つの世界の神だ。そう名乗れる程度の実力は持ち合わせている。少なくとも今のハジメ達ではどうしようもない。軽くあしらわれ、適当に殺されるのがオチだ。

 

「神代魔法を求めるってことは、神に逆らうことも同義だ。おまえらの意思がどうであろうと、神に目を付けられることは既に確定してる。実際、使徒と()ったんだろ? だったら、どうして神が直接殺しに来ることを想定に入れていない」

「俺達が……負けるっていうのか……!」

「あまり感情的になるな。今のままだと負けるってだけだ。未来のことはオレにも分からない。確かにおまえ達は人間にしては強い。だがその強さに胡坐をかき、更なる強さを求めようとする気力がまだ足りてない。ウルの時の感じだといつか現れる神に殺される……運が良くて半殺しになるのは目に見えてた。だからオレが敗北を教えてやることで、上には上がいると教えてやるつもりだったんだよ」

 

 それが全てではないとはいえ、その狙いは確かにあった。人は失敗や挫折、敗北を経験して成長する生き物だ。それはハジメ達も例外ではない。実際、ユエを除いた三人はこの戦いの中で大きな成長を見せた。

 

 戦闘力を分散させたとはいえ、オレに食らいついて見せたのだ。それを成長と言わなくてなんと言う。

 

「まあ、内一名は敗北を経験しておきながら大した成長も見せてくれなかったみたいだがな」

「くっ……!」

 

 ユエが奥歯を噛みしめてこちらを睨みつけてくる。ハジメ達からも多少の怒りの感情が込もった瞳で睨まれるが、これは事実だから謝ろうとも思わないし、否定するつもりもない、

 

「今後に期待ってところだな。さて、これでオレの話は終わりだ。他にも聞きたいことはあるだろうが、詳しいことは後で王宮でいくらでも話してやる。今は早く戻ったほうがいいじゃないか? オレやハジメなら兎も角、八重樫と白崎は心配する奴が多い。こんな場所にずっといるわけにもいかないだろ」

 

 最後にそう言って話を締めくくると、オレはその場に背を向けて王都に向けて歩を進める。今まで自分達こそが最強だと信じ続けていたハジメ達に非情な現実を突きつけたのだ。この場でオレの歩みを止める程の勇気ある者はいない。

 

「……待ちなさい」

 

 いや、いたわ。一人だけ。

 

 さりげなくこの場から去ろうとしたオレを、八重樫が低めの声で呼び止めた。そして、こちらに顔を向けることもなく告げてきた。

 

「何勝手に逃げようとしてるの? ハジメ君達との話は終わったみたいだけど、私の話はまだ終わってないわよ。さっさと戻って正座!」

「……クソ、ダメだったか」

 

 こうして、オレのなんかいい雰囲気で誤魔化して逃げよう作戦は失敗に終わった。なんだろう。さっきまでシリアスな雰囲気だったはずのに、ハジメ達からの視線が辛い。

 

 ちなみに、説教が終了したのはそれから三時間後のことだったとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さーて、それじゃあ改めて自己紹介だ。オレの名前は風磨仁。昔と色々変わってるだろうが、またよろしく頼む。こんななりだが性別は男だ。男子共はくれぐれも勘違いしないように、女子は大歓迎だ」

 

 八重樫の地獄の説教をなんとか耐えきり、魔人族進行の騒動が終わった翌日。オレはクラスメイト達や畑山先生、何故かあの場にいたリリアーナ王女やハジメ達、ついでに清水とメルド団長を王宮のとある部屋に集めて、大々的に自身の正体を明かした。

 

 檜山を食って中村を半殺しにしたあの場で既にネタバラシは済ませたはずだが、まだ信じていない奴が複数名いたため念のためもう一度というやつだ。魔人ブウ関連の部分は説明しても色々と混乱を招くだけであるため、そこはとりあえず端折って「色々あって姿が変わった」やら「それならハジメの方も変わってるだろ」っとはぐらかして素性をざっくりと話しておいた。

 

 ただ、それでも信じない奴らというのは当然現れる。特に男子共。どうやら、今のオレの見た目に少なからず男性本能が刺激されたようで、絶対に信じてなるものかという覚悟がマジマジと見て取れた。オレも見惚れた女が実は男だったとネタバレされれば……うん、認めたくないな。気持ちはよく分かる。でもこれが現実だ。

 

 こんなところで躓いてしまっては、これから先の説明にいつまで経っても進めない。オレは心を鬼にし、泣く泣く元の世界にいた頃に趣味の一環として集めたクラスメイトの恥ずかしい秘密を暴露した。結果、異世界人でなければ知るはずのない情報がバンバンオレの口から飛び出したことでクラスメイトや先生に関してはオレが風磨仁であると半泣きで納得してくれたよ。

 

 一応、オレが暴露した秘密をいくつか挙げるなら……メイド喫茶の女の子にガチ恋してるデレデレ斎藤。深夜に全裸徘徊してたネイキッド仁村。中学生時代の一人称が我だったダークネス園部。勇気を出した告白だが影が薄すぎて気づかれなかったミスディレクション遠藤。高校時代の制服を着てまでして学生限定パフェを食べにいった年齢詐称教師畑山。まあ、こんな感じだ。ちなみに、お姫様系ファッションにはまっているプリンセス八重樫については話している際中に口に黒刀を押し込まれて無理矢理黙らされた。

 

 とりあえず、そういうわけでオレに関する話は終了した。ハジメも他の奴らもまだまだ聞きたいことはあったそうだが、そこら辺の話はちょっと情報量が多すぎる。もう少し落ち着いてからの方がいいだろう。

 

 話を終えたオレは次に誰に話題を振るべきか一瞬悩み、こういう状況で最も頼りになる相手として八重樫に視線を向けた。

 

 これは想定であるが、きっとハジメはクラスメイトの奴らにまだこの世界の真実を伝えていないだろう。信じてもらえないだとか、面倒くさいだとか理由は色々あると思うがハジメは狂った神の真実をまだ皆に教えていないはずだ。事実、八重樫も先程までそのことを知らなかった。

 

 今まではそれでも良かったかもしれない。知っていても知らなくても、余計なことさえしなければ神に目をつけられることはないのだから。しかし、魔人族がこの国に攻めこみ、本格的に戦争が始まったこの状況では話が変わってくる。このまま何も知らない状態であのクソ神の思い通りにクラスメイト達を戦争に向かわせる程、オレも非人道的ではない。こちとらちゃんと道徳の授業は受けてるんだ。

 

 しかしここで、とある問題が発生する。知っている情報だけをただ並べても情報過多となって余計に混乱してしまうことだ。故に、ハジメ達が持つ情報とオレが持つ情報。それに加えて王国の現状。それら全てをいい感じに纏めて整理してから説明する必要があった。

 

 この場にいる人間でそういうことに最も向いているのが八重樫だ。仮にも、ガキの頃からあの天之河を制御していた女だ。相手の気持ちを考え、混乱しない程度に分かりやすく説明する能力は多分教師である畑山先生をも超えている。

 

 立場的にはリリアーナ王女や天之河、もしくは畑山先生の方が相応しいんだろう。ただリリアーナ王女は単純に親しくないから話しかけづらいし、天之河に至っては論外だ。先生には別に任せてもいいかもしれないが、それなら八重樫に任せた方がいい。

 

 そんなオレの意図を、視線だけで正確に把握してくれた八重樫は仕方ないと言わんばかりに肩をすくめて頷くと、手を二度叩いて周囲の注目を引いた。

 

「皆、一旦私の話を聞いてくれるかしら。先生はハジメ君から聞いてるみたいだけど、これは私達全員が共有しておくべきことよ。きっと驚くと思うけど、どうか慌てずに最後まで聞いて……――」

 

 その場にいる全員の視線が八重樫に集まる。八重樫にはこの世界の真実について説教の最中に教えている――というか無理矢理吐かされた。衝撃の事実を知った八重樫は最初こそ驚きのあまり絶句していたものの、すぐに頭の中で整理を終えたのか落ち着きを取り戻した。相変わらず呑み込みが早くて助かる。

 

 その話を八重樫はいい感じに纏めてその場にいる全員に話した。狂った神の真実やハジメ達とオレの旅の目的。そして、ハジメから聞かされた畑山先生が攫われた事や王都侵攻時の総本山での出来事を。

 

 その最中、魔人ブウや解放者についての話題が出て来たため、オレも割り込んで補助説明を挟んだのだが、それに対する反応のほとんどが『何言ってんだコイツ』みたいな感じだったから、とりあえず殺気をぶつけておいた。

 

 そして全ての話が終わり、真っ先に声を張り上げたのは……やっぱり天之河だった。

 

「なんだよ、それ。じゃあ、俺達は、神様の掌の上で踊っていただけだっていうのか? なら、なんでもっと早く教えてくれなかったんだ! オルクスで再会したときに伝えることは出来ただろう!」

 

 非難するような眼差しと声音がハジメにぶつけられる。怒りを隠そうともせず立ち上がる天之河だが、ハジメは面倒そうに「どうせ教えても信じない」と返した。その予想はきっと正しい。日本にいた頃でさえハジメの言葉をまともに受け入れなかった天之河がヘイトの高まった今のハジメの言葉をすんなりと信じるわけがない。

 

 しかし、それで納得してくれればオレも八重樫も苦労していない。何度も説明すれば自分も納得したはずだとハジメに迫ったり、世界を救う気のないハジメに力があるのだから正義のために使えと、自分勝手な要求を天之河はぶつける。

 

 そんな天之河の反論は、酷く現実的な言葉によって返された。理想論ばかりを詰め込んだ穴だらけの理論を完膚なきまでに論破され、殺意を向けて迫る天之河は押し黙るしかなかった。

 

 それでも天之河は何か反論しようとしていたが、それよりも早くがハジメがオレに声をかけてきた。

 

「仁、お前はどうなんだ?」

 

 今度は、天之河含めたクラスメイト達全員の視線がオレに集まる。ハジメの質問の意図は、オレが世界を救うことに賛成か反対かということだろう。

 

「あー……ハジメには悪いが、神を殺したいっていう点に関してはひじょーに認めたくないが、天之河と同意見だ」

「なに?」

「……風磨!」

 

 ハジメはオレも同じ神殺し否定派だと思ったのだろう。意外そうに眉を吊り上げる。そして同時に、天之川は希望を見つけたような瞳でオレを見つめて来る。何故だろう。無性に殴りたい。

 

「別にハジメの考えが間違ってるなんて言うつもりはない。おまえにとって、この世界はそこまで必死になって守る程の価値がないんだろ? だったら好きにすればいい。他人に迷惑をかけないならオレは何も文句はいわん。でもオレはおまえのように非情にはなりきれない。この世界で新たに得た縁もある。そう簡単にはこっちの世界も見捨てられない。神とは個人的な因縁もあるしな」

「風磨……お前……」

「はぁ……だからといって勘違いするなよ天之河。オレはおまえみたいに善人悪人関係なく誰彼構わず救おうだなんて微塵も思っちゃいない。ましてや救いようのないクズなんて助けるつもりは最初からない。当然、中村も殺すつもりだ。……檜山のようにな」

「ッ……! 風磨ッ!!」

 

 天之河に同類と思われるのだけは勘弁であったため、敢えて天之河がキレそうな話題に触れる。そんなオレの言葉に檜山を食われ、中村を半殺しにした場面でも思い出したのだろう。天之河は逆上し、他のクラスメイト達は緊迫した空気に震え上がる。

 

 怒りのあまり掴み掛かろうとしてくる自称勇者(笑)だが、"念力"を発動すればあっさりとその動きは止まった。こちらの苦手な魔法だというのに、実力差があればここまで簡単に動きを封じられるんだな。オレは必死に身体の自由を取り戻そうと足掻く天之河を無視してハジメに視線を移す。

 

「それと、念のためハジメに伝えておくが、元の世界に戻るにしても、どうせ神との衝突は避けられないぞ」

「あん? どういうことだ?」

「なに、簡単なことだ――」

 

 ハジメはどうせ、日本に帰ればトータスとの関わりは完全に消えると思い込んでいるのだろう。一度帰還すればこの先永久に関わることがないのだがら、この世界の未来を気にする必要もないと。

 

 そのくせトータス出身の女共を日本に連れて行こうとしているのは、自分の愛する者だけを匿う臆病者のような感じがして気に入らないが、それはオレ個人の感想だ。気に入らないからって拒絶する必要もない。

 

 ただ一つだけ言える確実なことがある。それは、ハジメの考えが甘すぎるということだ。

 

「よーく考えてみろ。まず前提として、オレ達をこの世界に連れて来たのは神だ。それはつまり、神は少なくとも異なる世界に干渉できる魔法が使えるってことだ。だったら、こういう可能性もあるだろ。異世界から誰かを連れて来ることができるのなら、その逆――自分が異世界に行くことも可能。そうは考えなかったのか?」

 

 オレの推測に、クラスメイト達はざわざわと騒ぎ始めた。それは、冷静さを貫いてきたハジメ達やキレにキレて子供のような暴言を浴びせてくるまでにおかしくなっていた天之河も例外ではない。

 

 その場にいる全員が最悪を想定してしまい、顔を青褪める。

 

「おい……それってまさか!?」

「やっぱり考えてなかったか。オレは結構早めに気づいたんだけどな。だったらはっきり言ってやる。あのクズは必ず来るぞ。――日本……いや、地球に」

 

 完全な推測だが、この推測はきっと間違っていない。神の下僕として生きたブウの記憶と神の最大の被害者である解放者のオスカーの記憶を所有しているオレだからこそ、奴の考えは手に取るように分かる。

 

 というか、神は規模がデカいだけでその思考回路はやんちゃなクソガキとそう変わらない。それさえ理解していれば、奴の思考など容易に想像がつく。

 

「多分、オレ達を連れて来たのは次に侵略する異世界を決める目的もあったんだろうな。『そろそろこの世界で遊ぶの飽きたから、そろそろ別の世界に行くか』みたいな感覚でルーレットでも回してたんだろ」

「そんな新しいゲームに手を出すみたいな……」

「まあ、あいつはこの世界をゲームみたいなもんだと思ってるし、その感想は間違ってはいない」

 

 ただ戦争を長引かせるだけであるならば、他にいくらでもやりようはあったはずだ。例えば、フリードのように人間側にも神代魔法を与えたり、それこそフリードを殺せば人間と魔人族の戦力は再び拮抗する。それをしなかった理由こそ、興味本位で異世界に手を出したからだろう。

 

 あのクズのことだから、異世界の人間を実験材料に使うことぐらいなんの躊躇いもないしな。

 

「そういうことだから、この世界を救うにしても元の世界に帰るにしても、どっちにしろ神とは殺し合うことになる。違いがあるとしたら場所と時期だけだ。まあ、その前にオレが奴を殺せれば話は別だろうがな」

「……確か、仁の言う通りなら、今の俺じゃあ神には勝てないんだったな」

「そうだ。奴の強さは控えめに見ても今のオレと同等。もしくはそれ以上だと考えた方がいい。今まで無双してきたからって、これからも同じだと慢心だけはするなよ」

「……」

 

 オレの未来予知に近い推測を聞き、ハジメは無言で考え込む。今まで、神の存在は邪魔してきたら殺そう程度に考えていたんだろうが、自分の故郷に攻め込んでくる可能性がある以上、放っておくことはできないに決まっている。

 

 自信過剰な性格になっているようだが、一応元のハジメの性格もちゃんと残っているようで、弱者の視点から強者である神に対しての対策はしっかり考えているのだと思う。いや、そう信じたい。ちなみに、他のクラスメイト達は神がハジメすら勝てない敵だと知って震え上がっていやがる。情けない奴らだ。

 

 不穏な空気感の中、オレとハジメに近づく人影があった。

 

「……貴方達の事情は分かりました。新たな神代魔法を手に入れるために一刻も早くこの国から出なければならないというのも納得できます。しかし、その上でお願いしたいことがあるのです。王都の防衛体制が整うまでで構いません。どうかこの国に滞在していただけませんか?」

 

 そう願い出たのはリリアーナ王女だった。

 

 未だ、混乱の中にある王都において、オレやハジメのような単体で世界を揺るがす強者の存在はどうしても手放したくなかったらしい。相手の総大将らしきフリードは、オレが心臓抜き取ったから今頃死んでると思うが、魔人族共がその復讐に来ないとも限らない。

 

 フリードといえば、奴を殺した事をハジメ達に告げたのだが、なんかユエとシアが一気に不機嫌になった。話を聞くに以前襲われた際にハジメを傷つけられたらしく、めちゃくちゃ殺したかったようだ。これに関してはオレまったく悪くないと思う。

 

「悪いがオレは無理だ。魔人族に襲われたばかりなのに、見た目コレが国を守ってくれるって言われても信用されないだろ? だったらオレに頼るのはやめとけ」

「俺も無理だな。神の使徒と本格的に事を構えた以上、先を急ぎたいんだ。二日もすれば出発する予定だ」

 

 こればっかりは仕方ないとはいえ、オレ達の返答にリリアーナが見るからに肩を落とす。それでも諦めるつもりはないようで、「そこをなんとか!」と食い下がってきた。王族のプライドがあるというのに、頭を下げる彼女の姿にオレとハジメはどうするべきかと無言で顔を合わせる。

 

「しゃーない。困った時の()()で決めるか」

()()か。やるのは久しぶりだな」

 

 そうしてオレ達は互いに顔を見合わせ、オレ達の間で決めたとあるルールに従うことにした。

 

 日本人ならば誰もがしたことのあるあの儀式。

 

 その名は――

 

「「じゃんけん…………ポンッ!」」

 

 じゃんけんだ。

 

 オレとハジメは同時に手を出す。しばらく会っていなかったが、どうやらハジメの方も忘れていなかったらしい。オレ達は日本にいた頃、よくどうでもいい悩みでぶつかり合うことがあった。どの道で帰るか? とか突っかかってきた天之河をどっちが対応するか? とかそんな感じだ。その際の解決方法が『じゃんけんで勝った方に従う』といったものだ。

 

 中には絶対にこちらが折れられないものもあったが、そういうことはちゃんとお互い真面目に話し合っていた。だが正直そこまで悩むようなものでもないことは大抵じゃんけんで決めていた。

 

 今回のリリアーナの悩みもそうだ。オレ達からしてみれば『大したことではない』部類に入る。だからこそのじゃんけんだ。今回の勝負内容は『負けた方が王国の問題を解決する』といった所でいいだろう。

 

 それを言葉にせずともハジメは理解してくれたらしく、迷うことなくじゃんけんに乗った。

 

 結果は……

 

 オレがグーでハジメがチョキ。

 

「オレの勝ち。なんで負けたか、明日までに考えといてください」

「……お前、もしかして俺の手の動き読んだか?」

「あっ、スゥーー……」

「やっぱりか、こんなことでガチになるなよ」

 

 オレが発達した動体視力に任せてハジメの手の動きを読んでからグーを出したことがバレたが、ハジメは呆れたような顔をしながらため息を吐き、用意された茶を一口飲んでから呟いた。

 

「……出発前に、大結界くらいは直してやる」

「南雲さん! 有難うございます!」

 

 パァ! と表情を輝かせたリリアーナを無視して、これでいいだろ? とハジメはオレに視線を向けて来る。それに対して「がんばっ」と親指を立てて答えてやると、青筋を浮かべたハジメに飲んでた茶を投げつけられた。まあ、コップごと食ってやったが。

 

「さりげなく人間辞めんなよ。まったく……そういえば、仁はこれからどこに向かうつもりだ? お前も神代魔法を手に入れるつもりなら目的は一緒のはずだろ? 俺達はこのまま東に向かって樹海にある大迷宮に行くつもりだ。どうせなら一緒に行かないか? お前がいてくれるなら正直心強い」

「へぇ、それはいい案だな。ちょうどオレも樹海に行きたかったところだ。鍵である再生魔法も手に入れたことだし。オーケーだ。おまえについていこう。というか、ハジメは再生魔法持ってるのか? あそこはそれないと入れないの知ってる?」

「問題ない。【メルジーネ海底遺跡】は攻略済みだ。……あのイカ野郎には逃げられたことは少し心残りだが……というか仁、なんであんな化け物手懐けてるんだよ」

「……ん? ああ、オケノスのことか。驚いた、真面目に仕事してんだなあのイカ」

 

 それからオレとハジメは今後の予定について話し合い、とりあえず共に樹海の大迷宮にまで行くことに決定した。ハジメの周りにいた女達は未だオレに嫌悪感が残っていたようだが、こっちを睨んでくるだけで反論する気はないらしい。

 

 そんなオレ達の話に、何か思いついたような表情を見せたリリアーナがまた割り込んできた。

 

「樹海へ? では、もしかして帝国領を通るのですか?」

「あー……そういや道中にあったような……どうだっけハジメ?」

「帝国の場所くらいちゃんと把握しとけよ。はあ、そうだ。ここから樹海に行くには帝国を通んなきゃならねぇ」

「でしたら、私もついて行って宜しいでしょうか?」

「ん? なんでだ?」

「今回の王都侵攻で帝国とも話し合わねばならない事が山ほどあります。既に使者と大使の方が帝国に向かわれましたが、会談は早ければ早いほうがいい。南雲さんの移動用アーティファクトがあれば帝国まですぐでしょう? それなら、直接私が乗り込んで向こうで話し合ってしまおうと思いまして」

 

 どうやらハジメは移動用の車型アーティファクトを持っているらしく、リリアーナのお望みはそれで帝国まで送ってもらうことのようだ。なんかタダで乗れるタクシーのように扱われている気もするが、ハジメは通り道に降ろしていくだけなら手間にもならないと、了承の意を伝えた。勿論会談には付き合わないと釘を刺して。

 

 ハジメが持つというアーティファクトは速度的にはオレのダッシュより全然遅いくらいなのだが、大人数で移動する前提ならば確かに便利だろう。この国は現状が現状だから少しでも急ぎたいというのは王族として正しい判断だ。

 

 だがそこで、ハジメに女が近づくこと絶対に許さないマンの天之河が再び発言する。

 

「だったら、俺達もついて行くぞ。この世界の事をどうでもいいなんていう奴にリリィは任せられない。道中の護衛は俺達がする。それに、南雲が何もしないなら、俺がこの世界も地球も救って見せる! そのためには力が必要だ! 神代魔法の力が! 南雲と風磨に付いていけば神代魔法が手に入るんだろ!」

「……」

「……」

「なあハジメ、姫様を送ってくのはいいが、オレちょっと帝国の貴族洗脳して牢獄にぶち込んだから、できれば関りたくないんだけど」

「お前何やらかしてんだよ。ああいや、帝国兵殺したことあるから俺もお前のこと言えないか。安心しろ。さっきも言ったが帝国に入るつもりはない。あの国と関ってもメリットはないしな」

 

 勝手に盛りがって妄言をまき散らす天之河に視線すら向けず、オレはハジメとの会話を続ける。久しぶりに再会したが、こいつの意味不明ぶりは健在だった。どう考えても人に頼む態度としては間違っている天之河の発言に、オレもハジメも本気で呆れて一瞬フリーズしてしまった。

 

「仁、南雲君、お願いできないかしら。一度でいいの。一つでも神代魔法を持っているかいないかで、他の大迷宮の攻略に決定的な差ができるわ。一度だけついて行かせてくれない?」

「えー……普通にイヤなんだけど……」

「俺も仁と同意見だ。それに寄生したところで魔法は手に入らないぞ? 迷宮に攻略したと認められるだけの行動と結果が必要だ」

 

 天之河断固拒否の姿勢を取るオレ達に、八重樫が一つだけ神代魔法を手に入れる助力をして欲しいと懇願する。オレは当然却下する。八重樫達は【オルクス大迷宮】の表層をギリギリクリアできるかできないか程度の実力だ。本来の七大迷宮を無事に攻略できるとは思えない。いくらオレでもミレディレベルの敵が出てきたら守りきれるかどうか怪しい。

 

 しかし、八重樫はこういう時に限って諦めが悪いのもよく知ってる。これでも幼馴染だしな。オレの内心などまったく通じていないかのように、食い下がる気配を見せない。

 

「覚悟は出来てるわ。神のことはこの際置いておくとして、帰りたいと思う気持ちは私達も一緒よ。死に物狂い、不退転の意志で挑むわ。だから、お願い。今は、貴方達に頼るしかないの。もう一度だけ力を貸して」

「鈴からもお願い、風磨君、南雲君。もっと強くなって、もう一度恵里と話をしたい。だからお願い! このお礼は必ずするから鈴達も連れて行って!」

 

 そんな八重樫に感化され、ずっと黙っていた谷口まで頭を下げ始めた。どうやら、中村の事で色々考えているようだ。流石は元親友といったところだろう。あの感じから、一度や二度話した程度じゃあ中村が改心するなんて絶対ないと思うが、その意思は固いように見える。というか谷口いたんだな。なんか出番が少なかったから忘れてた。

 

 とはいえ、オレも許可を出すつもりはない。十中八九、今のこいつらの実力では大迷宮の攻略は不可能だ。それに、もし神代魔法を手に入れたとしても使いこなせるとはとてもじゃないが思えない。最悪の場合、死ぬか後遺症が残る。

 

 これは断るのに苦労しそうだ。オレがそう思ってため息を吐くと、突如近くにいるハジメから小さめな声でとある疑問を問われた。

 

「なあ仁、神の使徒のことは知ってるか?」

「うん? そりゃあ魔人ブウの記憶持ってるわけだし、勿論知ってるぞ」

「そうか。なあ、あいつらってもしかして複数体いるんじゃないか?」

「そりゃあ神の使徒ってのは個体名じゃなくてグループ名みたいなもんだしな。複数って規模じゃすまないぞ。あいつらは神の魔法でいくらでも作れる量産型だ。確かブウの記憶の中だけでも数千体はいたはずだ。なんならこの国に来る前にも三体殺したし」

「やっぱりそうか……」

「どうした?」

 

 何故いきなりこんな質問を? という疑問は抱いたが、その後すぐハジメは顎に手をあてて少し考え込んでしまいこちらの質問を挟む暇はなくなった。それからしばらく悩んだ後、ハジメが放った言葉にオレは驚かざるを得なかった。

 

「分かった。ついてきてもいいぞ」

「はい?」

 

 それは、まさかの天之河達の同行了承を意味する言葉だった。

 

 天之河達を連れていくということは、スピード的にも戦力的にもストレス的にも必ずデバフに働く。非効率的としか思えないその選択を今のハジメは絶対拒絶するはずだと思っていたオレにとって、その言葉は大きな衝撃だった。

 

『いいか、仁。よく聞け』

「え、ハジメの声が頭の中に…………なにこれ気持ち悪っ!?」

『黙って聞け!』

 

 ハジメの発言に対して、八重樫が危険な目に遭うこと反対派のオレは咄嗟に考え直すように言おうとするも、突如頭の中に流れ込んできた声によってその言葉は口から出ることはなかった。そして同時に感じたのは、目の前にいるハジメの声が頭の中から聞こえてくるという絶妙に気持ちの悪い感覚。

 

 流れ込んできた声はやはりハジメのものだった。どうやら、"念話"という技能で声をかけているとのことだ。知らぬ間に随分と器用なことができるようになったみたいだ。戦闘能力的にはオレに大きく劣るが、小手先の技術は随分成長しているように思える、

 

 それからハジメは語った。これから先、オレ達に対して神の使徒が多数送り込まれることは十分に考えられる。そこそこ実力はあるくせに自分から手を出すことがほとんどないあの(チキン)ならば、手下を大量に投入してもおかしいことではない。それはオレも考えていたことだ。

 

 そこでハジメが考えた作戦が、八重樫達に力を持たせておいて、神の使徒共にぶつけるといったものだった。雑魚には雑魚をという感じの、酷いくらい情の欠片もない効率重視な作戦だ。

 

 強くなればこっちの戦力は増えるし雑魚の処理も任せられる。他にも、オレ達が守らなくても死亡率は減るだろうから楽が出来る。まさに一石三鳥なアイデアだとハジメは言ってのけた。

 

 それに対するオレの感想はただ一つ。

 

 ……こいつクズか?

 

 自分を襲ってきた敵を他人に押し付けるとか普通に鬼畜行為だ。まあ、天之河とかは神と戦う気満々だから問題なさそうだけど、他の奴らはほとんど巻き込まれ事故みたいなものだろう。だからこそ、オレはハジメの計画にあまり乗り気にはなれなかった。

 

 しかし、いくら説得しても八重樫達は諦めず、結局オレはそんなハジメのアイデアを渋々了承するしかなかった。八重樫達の間に安堵の吐息と笑顔が漏れ、天之河からは気合いに満ち溢れた声が漏れる。

 

 その様子を見ながら、オレは過去の天之河のやらかしを思い出し、拭いきれない不安を感じ続けていた。




八重樫雫
何故か説教系キャラに転身した仁の幼馴染。
精神的な成長が凄いため、世界の真実を知ってもすぐに受け入れた。愛子先生の立ち位置を奪ってクラスメイト達に神の本当の姿を話した。
精神的な強化がある分、肉体的にも強くなってはいるが、まだ戦力的には全然弱い。一応この作品のメインヒロインであるため、修行させて強くする予定。出来ればユエくらいには強くなって欲しい。少なくともビーデル以上の才能があったら嬉しいな。

天之河光輝
安定の勘違い系勇者。
目覚めてすぐ檜山を殺した仁に突っかかろうとしたが、雫に止められて大人しくしていた。ちなみに、未だに檜山は死んでいないと思い込んでいる。どうして?
光輝は相手の強さとか測れない系の残念キャラであるため、仁との力の差が分かっていない。だから光輝の中での評価は
光輝<乗り越えられる壁<仁<神代魔法あれば乗り越えられる壁<ハジメ
といった感じ。考えが甘すぎる。
いっそのこと裏切ってくれた方が扱いやすいキャラ。

リリアーナ
この後帝国で苦労するお姫様。
特に深い理由はないけどこの先、ハジメヒロインから脱落します。でもどうしよう。このキャラ多分誰かに惚れないと救済されない気がする。
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