ピンクの魔人と共に   作:クー(無課金勢)

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王都での休暇 前編

「おい、待てよ風磨! お前にはまだ言いたいことがあるんだ!」

「ちっ……面倒だな。おまえとの会話は疲れる。明日じゃダメか?」

「ダメに決まってるだろ!」

「いや、決まってはいないだろ」

 

 オレの正体と世界の真実、ついでに神の次の狙いについても説明し、他にも色々な事を話した会議(仮)は終わった。既にこの場には用はない。オレは善は急げとばかりに大結界の修復に向かおうとするハジメに便乗して王宮から出ようとした……が、天之河に呼び止められた。

 

 天之河に声をかけられる。その時点でもう嫌な予感をビンビン感じていたが、何故かキレ気味の勇者(笑)はオレを逃がすつもりはないらしい。仕方なく、ほんと~うに仕方なくオレは目の前のなんちゃって勇者と向かい合う。

 

「……で? オレになんの用だ。確かにオレは暇だ。でも、おまえのために時間を割くのはなんか嫌だ」

「ふざけるな! 檜山のことだ!」

「あー……うん。だろうと思ったよ……」

 

 想定はしていたが、案の定天之河の用件はオレがクッキーにして食った檜山についてだった。性善説を心から信じている天之河のことだ。裏切り者だとはいえ、クラスメイトを殺したオレを許せないとかだろう。

 

 いくらオレの精神がちょっとおかしくなり始めてるとはいえ、流石に人間を殺すことには抵抗感があった。それが裏切り者であるとはいえ、クラスメイトならば尚更だ。当然心の中では色々葛藤もあった。本当に殺すべきなのか? もっと他に穏便な解決方法もあるのではないか? そんな思考は山ほど出て来た。だがそれでも、檜山を殺すことに一切の躊躇いはなかった。

 

 どんな経緯があったにせよ、檜山がオレとハジメを奈落へ落とし、兵士と騎士達を殺し、クラスメイト達を全滅寸前まで追い込んだことは紛れもない事実だ。万が一改心する可能性があったのだとしても、オレがあいつを見逃すことはない。それだけは断言できる。

 

 天之河のことだからどうせまた身勝手なことばかり口走るに決まっている。『とりあえず話半分くらいに聞いておこう』と、真剣に聞くつもり百パーセントなしでオレは天之河の言葉を待つ。しかし次の瞬間、オレは思い知らされることとなる。

 

 天之河光輝という人間は、こちらの想像を遥かに超えるレベルで楽観的かつ愚かであったということを。

 

「もういいだろ! 檜山を元に戻せ! あいつももう反省してるはずだ! 死んだ風に扱うなんて可哀想だろ!」

「…………なんて?」

 

 告げられた言葉の意味を正しく理解できず、オレは首を傾げる。もしかしたら自分がおかしいのかと周りを見渡すも、檜山の話題が出てきたことで顔を青くするクラスメイト達も少し離れた位置で冷めた視線を向けていたハジメですら頭の上に疑問符を浮かべているからその可能性は低い。やばい、分からん。

 

 あの時、檜山は確かにクッキーにして食った。それはこの場にいる大勢が証人であり、その事実は覆しようがない。だというのに、目の前にいる馬鹿はまるで檜山が生きているかのようなことを言う。本当に何を言ってるんだこいつは? 殴られすぎて本当の意味で馬鹿にでもなったか?

 

「あー……えーと……悪い。ちょっとオレにはおまえの言ってることが良く分からん。まず確認しとくが、死んだ人間は生き返らない。これぐらいは分かるよな?」

「話を逸らすな!」

「!?!?」

 

 もうヤダ。なんなのコイツ。

 

 こっちは至って真面目に話してるのに、会話にすらならない現状に混乱して思わず天井を見上げてしまう。これまで何度も天之河の意味不明会話に付き合ってきたが、今日のは流石のオレでも無理だ。なんかしばらく会わない内に身勝手さに磨きがかかってる気がする。ハジメが白崎寝取った影響か?

 

「はぁ……おい、檜山は仁が殺したって言ってたが、一体どうやって殺したんだ? もしかしたら天之河がいつもの勘違いしてる可能性じゃないのか?」

 

 そんな身勝手な言い分に晒されるオレを憐れんだのか、王宮から出ていこうとしていたハジメが助け舟を出してくれた。やはり持つべきものは親友だ。

 

「勘違いも何……こいつらの目の前で食ったんだよ。あんま美味しくなかったけどな」

 

 腹をポンポンと叩きながら正直にそう答えると、他のクラスメイト達は檜山が食われたシーンでも思いだしたのだろう。更に顔を青褪め、ハジメも「マジかよ……」と少し頬が引き攣っていた。更にハジメのすぐ近くを見ればそこにいる女達も引いた反応を見せているし、畑山先生なんか白目向いてぶっ倒れている。

 

 やっぱり、食人行為はビビるか。それは分かってた上でやったから間違っているとは思ってないが、こうも避けられるとちょっと傷つく。そんなオレのことを気にかけた様子もなく、自分のことを無視されたと思い込んだ天之河は更にクソでか声を上げる。

 

「人が人を食えるわけないだろ!! どうやったか知らないけど、おまえの魂胆は分かってるんだ! 皆を怖がらせるのはもうやめろ!」

「うっせー……って、あれ? ああ、もしかしてそういうことか?」

 

 相変わらずの解読困難な意味不明セリフだが、脳をフル稼働させることでどうにか理解しようと心掛ける。さっきまで話半分で聞くつもりだったのに、何故オレはこんな真剣に天之河の言葉を理解しようとしてるんだろう。そんな冷静な思考に一時は辿り着いてしまったが、最終的に一つの結論にたどり着いた。

 

 それは、決して冷静でなくとも、まともな思考回路をしていれば辿り着くはずのない答え。オレでさえ、『まさかな?』と思いたくなる程に楽観的な考え方だった。

 

「天之河……おまえもしかして、オレが檜山を殺した()()をしたとでも思ってるのか?」

 

 その瞬間、周囲は静寂に包まれる。

 

 『いや、それはないだろ』という視線がそこらじゅうから痛い程刺さってくる。勿論オレもこれをガチで言ったわけじゃない。八割くらい冗談だ。でも今の天之河はオレ達の常識で計っていい相手ではない。

 

 絶対にありえないであろう都合のいい妄想をさも現実かのように語る。それが天之河光輝という男だ。しかも、ただでさえ面倒なその性格が悪い意味でレベルアップしている。もう常識に沿った考え方ではこいつを理解することはできない。本当に理解したければ、自分にそのイカれた思考をトレースするしかない。

 

 実際に死んだ場面を目の前で目撃したのだから、いくら馬鹿でもこれはないと思いたい。だが、先程の発言と天之河の思考をトレースした結果、何故かこの結論に至ってしまったのだ。ちょっと自分でもおかしなことを言ってる自覚はある。

 

「風磨……何を言ってるんだ……」

「だよな。流石にこれはない――」

「そんなの当たり前だろ!!」

「はい、アウトー」

 

 そして嬉しくないことに、オレの推測は的中してしまった。

 

 あまりにも馬鹿げた妄想に目の前にいる勇者お得意の現実逃避をしたくなる。この場にいる他の奴らも近くはなくとも遠くない感情を抱いたに違いない。誰もが信じられないといった視線を天之河に向ける。

 

 要するに、こいつはの頭の中ではこうなっている。

 

 まず、オレが檜山をクッキーに変えたところまでは正しく認識しているのだろう。魔法か技能のどちらかだと考えてるはずだ。だがオレが『クッキーになった檜山を食った』という事実に関しては完全に信じていない。

 

 どういう過程を得てその結果に辿り着いたかは定かではないが、天之河の脳内ではオレはクラスメイトを食った()()をして、他のクラスメイト達に恐怖感を与えることで、快感を感じる愉悦部なのだろう。だからこそ、いつまで経ってもクッキーに変えた檜山を戻さず、恐怖を振りまき続けるオレに怒り心頭なのだ。

 

 あの場面まで目撃しておいてまだ檜山が生きていると思い込んでいる理由に関しては、単に人が人を食うという行為を天之河の価値観が否定し続けているというのと、クラスメイトが死んだという事実を無意識の内に拒絶しているからに違いない。そんなぬるい性格だからこそ、こんな滅茶苦茶な妄想に至った。信じたくはないけど。

 

 オレは目元に手を当てて本気で呆れながら、周囲から刺さる困惑の視線に気づいていない天之河に真実を突き付ける。

 

「……一応説明しておいてやる。オレのビームは当てた相手の姿を思い通りに変えられる。それは一回見せただろ? それでその逆が可能かと言われれば、まあ不可能じゃない。姿を変えた相手を元の姿に戻すことも当然出来る。もし、お菓子にした檜山が今目の前にあったとしたら、すぐにでも戻すことも可能だ」

「だったら!」

「話は最後まで聞け。確かにその条件なら、オレは檜山を今すぐにでも戻してやるよ。でも今この場にお菓子に変えたあいつがいるか? いないだろ。いくらオレでも腹の中に入れた奴まで元に戻すのは無理だ。おまえだって一回胃に入れた食べ物をそのままの形で吐き出せって言われても出来ないだろ? おまえが言ってるのはつまりそういうことだ」

 

 冷静にそして分かりやすく、天之河にも通じるようにオレは一つ一つ解説していく。だがここまで説明しても、天之河が納得したような様子は見せない。むしろ、どこか怒りがヒートアップしているようにさえ思える。

 

「なんだよ、それじゃあ檜山が死んだみたいじゃないか!」

「"みたい"じゃなくて死んだんだよ。そろそろ下らない妄想を並べるのもいい加減にしろ。檜山は死んだ。もう帰ってくることはない。おまえは助けられなかった。これが現実だ! いい加減納得しろ!」

 

 多少イラついて少し声を荒げてしまったが、ここまではっきりと告げてようやく天之河の動きが止まった。オレの言葉の意味が理解できないとでも言いたげな様子で呆然とし、その場に立ち尽くす。

 

 そして数秒後、徐々に言葉の意味をかみ砕き、現実を受け入れ始めたのだろう。天之河は顔を青白く染め上げ、僅かに呼吸が荒くなっていく。

 

「う、嘘だよな……」

「こんな面白くもない嘘をついてどうする。いい加減オレの性格ぐらい把握しろ。そんなんでも幼馴染だろ。まだ白崎の方が察しはいいぞ」

「っ……風磨!」

 

 やっと状況を呑み込めたマヌケは顔色を更に青くし、ズンズンと近づいてきてオレの胸倉を掴み上げた。抵抗することもできたが、オレはため息を吐きながら無抵抗で受け入れる。勇者が怒り心頭で詰め寄ってきたのだ。普通ならば焦る場面だろう。しかし今のオレは、ようやく本題に入ることができて少し安堵すらしている。

 

「檜山が一体何をしたって言うんだ!!」

「オレとハジメにわざと魔法を当てて奈落に落っことした。兵士と騎士達を殺してこの国を混乱に導いた。中村と一緒に裏切っておまえらを殺そうとした。これだけじゃ足りないか?」

「くっ……!? だからって殺すことはないだろ!」

「もしも……あの場で白崎が殺されてても、おまえは同じことが言えるのか?」

 

 中村の計画は天之河を殺して自分好みの死体に仕立て上げることだった。その計画に檜山が手を貸しているというなら、あいつにも相応の報酬があったのだろう。そしてそれは、『檜山大介を愛する白崎香織』を手に入れることだというのは、容易に想像がつく。

 

 ならば、あの場でオレが助けに入らなければ、白崎が命を落としていた"もしも"も十分にあり得た話だ。まあ八重樫がそれをさせるとは思えないけど。

 

 その件については事前にクラスメイト達にも説明していたため、天之河も分かっているはずだ。だからこそ反論しようとしても、言葉が出てきていない。それを確認し、もう天之河が吐ける言葉はないと判断したオレは「話は終わりだ」と胸倉を掴む腕を力づくで払いのけ、背を向けて王宮の外に向かって歩き出す。

 

「オレはおまえに期待しない。別に今更その生き方を矯正しようとも思わない。だから、おまえもこれ以上オレのやり方に口を出すな。どうせオレ達は一生分かり合えない」

 

 最後に、クラスメイトが死んだという事実を受け入れ切れずに膝をついた天之河に視線すら向けずにそう告げて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天之河を論破して劇的に膝を着かせてから数時間後。

 

 適当に王都で買い食いしながら暇を潰し(金はファイトマネーとしてハジメから奪った)、王宮に戻ってきたオレは驚きの光景を目にした。

 

 そこにはなんと、優雅にティータイムと洒落込んでいる八重樫にジト目で文句を言うハジメの姿があったのだ。その場にはハジメの第一の女であるユエもおり、人前にも関わらずいちゃつく二人を八重樫が青筋を浮かべながら無言で見つめている。

 

 八重樫との付き合いがそこそこ深いオレだからこそ分かる。あれは相当頭にキテる顔だ。この調子だとあと二段階くらい変身する。というかハジメの奴学べよ。八重樫怒らせてオレらがどうなったのか忘れたのか?

 

「おーい……何してんだおまえら? まあとりあえず八重樫は落ち着こうか。な? ほら、プリンあげるから」

「ふぅ……ありがと。これは仁が作ったの?」

「おう、食堂にあったよく分からないデザートっぽい何かに"変化ビーム"撃ってちょちょいのちょいだ。元の食べ物がよく分かんねーから味の保証はできないけど」

「それはそれで不安ね……」

 

 少し怯えながらも、プリンをスプーンで掬い口にした八重樫からは「美味しい……」という言葉が漏れる。

 

 それに対して反応を見せたのはハジメとユエだ。トータスには存在しないプリンという食べ物。しかもちゃんと冷えたやつ。八重樫のご機嫌取りに渡したそれをユエは珍しそうに、ハジメは懐かしそうに見つめてくる。言葉にしなくとも分かる。その顔には『食べたい』という文字がでかでかと書かれていた。

 

 仕方なく、オレはもう一つ持ってきていたプリンを宝物庫から取り出し……十分に見せびらかしてから口に放り込んだ。

 

「「……」」

「性格悪いわよ」

 

 二人からの無言の殺意がぶつけられる。きっと清水あたりだったら恐怖にちびっていた所だろう。八重樫は呆れたような視線を向けて来るが、これは元々オレがオレの為に作って持ってきたプリンだ。文句を言われる筋合いはない。

 

「んで? 何があったんだよ」

 

 ぶつけられた殺意の波動をスルーし、オレはハジメに事情を聞く。プリンの恨みは相当強いらしくとてつもなく渋っていたが、「小さい男だな」と煽ってやったら悔しそうにしながらもハジメは答えた。

 

 オレ達と別れて大結界の修繕に向かったハジメは、そのチート錬成師としての才能を存分に発揮して速攻で任された仕事を終わらせたらしい。王都全体を覆う結界を秒で修復したのだ。まさにチートと言っていい。しかし事件はその直後に起きた。ハジメによる大結界修繕の場面を目撃したハイリヒ王国直属の筆頭錬成師とその部下達がハジメの凄まじいまでの技量に感激し、弟子入りを懇願したという。

 

 以前のハジメならばともかく、今のハジメがそんな面倒なことを引き受けるわけがない。当然断った。しかしハジメの想定以上に彼らはしぶとく、言葉と肉体的な説得のどちらも効果がなかった。何度追い払おうとするもゾンビのようなしぶとさで立ち上がり、逃亡を図ったとしても王都中の職人ネットワークによって追い回される。遂にはハジメVS王都の全職人という地獄の鬼ごっこが繰り広げられた。その逃亡劇はリリアーナが来てくれなければ収まらなかったとハジメは疲れた様子で語った。

 

「ああ……やけに騒がしかったのはそれが理由か」

 

 買い食いしている最中、王都の色んな所から騒ぎ声が聞こえていたため、不思議には感じていた。ただ邪悪な気は感じなかったため、調べようという考えにまで至らなかったのだ。そんな面白おかしいことが起きてたなら見に行けばよかったとオレは少し後悔する。

 

 ハジメの苦労話に対してそんな失礼な感想を抱いていた時、突然オレ達のいる部屋の扉がノックもされずにバンッ! と音を立てて開け放たれた。

 

「お前か! 香織を誑かしたという下衆はっ! し、しかも、香織というものがありながら、そのような! そ、そのよう……な………………」

 

 オレ達が扉の方へ視線を向けると、そこには十歳くらいの金髪碧眼の美少年が、キッ! とこちらを――というかハジメを睨んでいた。話の内容から察するに、日本にいた頃と同じだ。いつも通りの白崎の被害者ということだろう。あいつもあいつで変わってないな。

 

 少年の視線はまずハジメに標準を定め、ハジメの膝上に乗っかるユエに移り、そしてオレに向けられた所で停止した。

 

「ぽけ……」

「な、なんかとてつもなく嫌な予感がする……」

 

 突如現れたこの少年の正体はこの国の王子、ランデル・S・B・ハイリヒなのだが、今はそんなことはどうでもいい。ランデルの視線はまっすぐオレに向けられ、一瞬呆気に取られたような反応を見せてから一気に顔を真っ赤に染めてあわあわとし始めた。

 

 オレは男がこの顔をする瞬間をよく知っている。昔のオレも鏡で自分がこの顔をしているのを見たことがあるし、直近ではブルックの男共に見たくもないのにこの顔を見せつけられた。

 

 そう、この顔はつまり……

 

「……惚れた?」

「ええ、間違いなく惚れたわね」

「あー……仁、どんまい」

「頼む、誰か嘘だって言ってくれ!」

 

 周りが目を背けたかった現実を突きつけて来る。

 

 そう、今のランデルの顔は完全に男が恋に落ちた顔だ。女なら兎も角、男が恋に落ちた顔なんて見たくもない。オレは思わず頭を抱える。そういえば、アンカジでもビィズが国を救ったという吊り橋効果(バフ)があったとはいえ、性的に襲い掛かってきた。もしかしたら、この容姿には王族特攻でも付与されているのかもしれない。

 

「よ、余はハイリヒ王国王子、ランデル・S・B・ハイリヒである! 其方の名を、教えていただきたい!」

「……ハジメ、パス」

「おい、百パーお前が原因の問題を俺に丸投げにするんじゃねぇ」

 

 名前を名乗れば高確率で覚えられる。覚えられるということは、すなわちめんどくさい方向で関わってくる可能性が大いに高い。すぐさまそれを理解したオレは、無言のままポロリと気合で涙を流し、無理矢理従わせられてる風の可哀想な女を装ってハジメの背後に隠れた。面倒だからハジメに全部任せちゃおう作戦だ。

 

 随分と雑な作戦だとは思うが、どうやらこの王子様は天之河に匹敵するレベルの馬鹿だった。

 

「なっ……貴様、彼女に何をした!? 香織というものがいながらなんという卑劣な男だ! 許さん、絶対に許さんぞ!」

「……仁、後で殴る」

「おう、いいぞ。すぐ再生するし」

 

 オレの思惑に簡単に引っかかったランデルは、想定どおりオレのことをハジメに無理矢理近くに置かれた憐れな女だと勘違いし、更にヘイトを増してハジメへと襲い掛かった。拳を強く握り締め「うぉおおおお!」と雄叫びをあげながら勢いよく向かって駆け出す。殴る気満々だ。

 

 その結果は……いや、説明しなくても分かるだろう。ハジメの圧勝だ。

 

 魔王に挑む勇者のように勇敢に突貫したランデルはハジメの角砂糖シュートを受けて悶絶し、そんなランデルを追ってきた老人や護衛っぽい男達も同様に角砂糖シュートでダウンした。事態に気づいたリリアーナ王女がやってきたのは、丁度そんなタイミングだった。

 

 リリアーナ王女から詳しい事情を聞くと、元凶はやっぱりあの天然女だった。白崎はランデルが自分に惚れているとも知らず、メスの顔でハジメとの思い出を語ったようだ。そこで、真の敵が誰なのかを悟った彼は無謀にもこの厨二に挑んできたのだ。というか、白崎に惚れてるならオレに気を移すなよ。

 

 まあ、確かに惚れた女が別の男との惚気を始めたら、かなりキツイ。しかもその相手はハーレムを作ってると来た。オレだって八重樫が天之河といちゃつき始めたら……うっ、頭が!?

 

 リリアーナから事情を聞いていると、扉の近くでは角砂糖シュートを受けて肉体的に大きなダメージを負ったランデルが後からやって来た白崎に持ち前の天然さを活かされ、精神的な追撃を受けていた。

 

 今のは酷い。まさか、恋愛感情どころか異性としてすら見ていないことをあっさりと告げるとか、やっぱり白崎はもうちょっと恋愛を勉強した方がいい。

 

 だが驚くことに、この王子様そこそこタフだった。ガッツでライフをギリギリで維持し、必死の形相で立ち上がる。そして、最後の希望に縋るようにオレを見つめて来た。いや、こっち見んな。

 

「そ、其方はどうなのだ。余を男としてどう見る!? 其方が望むのなら、余の妃にしてやってもよいぞ!」

「うわぁ……そこでオレに来るか……」

 

 どうやら、今のランデルの中では白崎からオレの方に大分気持ちが傾いてるらしい。だから白崎の無自覚精神攻撃も致命傷に抑えられたのだろう。その儚い希望が実を結ぶことはないけど。

 

 今にも泣きだしてしまいそうなランデルの様子にオレはとてつもなくめんどくさくなり、そこまで女に見えるのかと内心ショックも受ける。そんなオレの頭を八重樫が撫でて慰めてくれているのは唯一の救いだ。子供の頃にイジメを受けて母親に慰められていた時を思い出す。

 

 とりあえず、この目移りが激しい王子様をこっ酷くフッてやろう。そう思ったのだが、実行に移すよりも早く白崎の天然無慈悲攻撃が再度ランデルを襲った。

 

「ふえ? 何言ってるんですか殿下。彼は男の子ですよ。もう、悪い冗談はやめてくださいよー。確かに女の子みたいですけど、ちゃんと殿下と同じ男の子ですからね」

 

 その瞬間、ランデルは真っ白になった。

 

 多分、ハジメがそれを言ってもランデルは信じなかっただろう。しかし、少し前にフラれた(フラれてすらいない)とはいえ白崎は一度惚れた女。心ではどう思っていようともそういう相手の言葉というものは無条件に信じてしまうものだ。そしてそれはランデルも例外ではなかった。

 

「で、殿下ぁ~!」

「も、もうやめてくれ! 殿下のライフはもうゼロなのだ!!」

「急いで医者を呼べー!」

 

 二度に渡る失恋によってとある有名なボクサーのように真っ白となったランデルを抱え、おっさん達は全力疾走で医務室に向かい走っていった。医者に見せてどうにかなるものでもないだろうに。恋の病を治療できる医者がいるとすれば、もうその技術は神の域に達している。

 

「なんというか、随分と騒がしい王子様だったな。あれが次期国王か。この国ヤバいんじゃ……ん? どうした王女様。オレの事そんなに見て。なんか面白いか?」

「い、いえ、すいません。あの、少しおかしなことを聞くかもしれませんが……私、風磨さんと以前お会いしたことありましたっけ?」

「何言ってんだ? この世界来た時に顔合わせくらいはしてるだろ?」

「あの、そういうわけじゃあ……いや、なんでもありません忘れてください」

「そうか? ならいいけど」

 

 最後にリリアーナに変なことを聞かれたが、こうして襲撃者ランデルは無事撃退された。その後、白崎とユエがハジメをめぐって争い合い、それを見た八重樫が白崎の成長に親目線で感動するとかいう意味不明な展開が続いたりしたものの、そこに関しては今は気にしないでおこう。

 

 

 

 

 

 

「さてと、それじゃあオレもそろそろ本題に入るかな……」

「本題? なんか俺に用でもあったか?」

「用っていえば、確かにそうともいえるな。ハジメに頼みたい事と渡して貰いたい物があるってだけだ」

 

 ランデルが去り、部屋に残されたリリアーナがハジメに対して王都の現状を伝え、戻っていったのを確認してから、オレはハジメと向かい合うように座って話を切り出す。オレからの要求だからか、ハジメとユエの顔は少し強張る。

 

「ああ、そう難しいことじゃないからそんな気を張らないでくれ。すぐに出来る簡単なことだ。もっと気楽に行こう。まず頼みたい件についてなんだが、ハジメとあの竜人娘、ついでに畑山先生は【神山】で神代魔法を手に入れたんだろ。それを何度か見せて欲しい」

「神代魔法を見せるだって? どうしてだ。"魂魄魔法"が欲しいなら大迷宮を攻略すればいいだろ? 【神山】の攻略は難しくないし、仁に限って失敗するわけがない。サクッとクリアして手に入れればいいだろ。というか見せることに何の意味があるんだ?」

「ふむ、どう説明するべきか……」

 

 ハジメ、ティオ、畑山先生が【神山】の大迷宮で神代魔法を手に入れたという話は本人達から聞かされた話だ。そして同時に、大迷宮の攻略条件が『神に靡かない確固たる意志を有すること』だというのも教えてもらった。

 

 その点()()で見るならば、確かにオレはハジメの言うように攻略条件を余裕で達成している。自慢じゃないがこれでも神に対するヘイトにはかなり自信あるつもりだ。そこに関しては問題ない。要するに、問題は試練とは別にある。

 

 【グリューエン大火山】のマグマの巨人。【メルジーネ海底遺跡】のオケノス。【ライセン大迷宮】の人造人間M(ミレディ)。一番最初に攻略した【オルクス大迷宮】を除いて、これまでの大迷宮には試練とはほぼ関係ない対魔人ブウ用の戦力が用意されていた。

 

 ならば【神山】にもこれまでと同等、またはそれ以上の強敵が控えていると考えた方がいい。流石に今のオレよりも強い奴が出て来るとは思えないが、それでも相当な強敵であることには違いない。ハジメの言うようにサクッとクリアできるかどうかは正直怪しい。

 

 そういうわけで、オレはハジメに【神山】で手に入れた神代魔法を見せて欲しいと頼んでいるのだ。今のオレなら、【ライセン大迷宮】で"重力魔法”を習得したように何度か観察すれば神代魔法の模倣(コピー)も不可能じゃない。

 

 神代魔法の入手方法としては黒寄りのグレーかもしれないが、安全と時間を優先して避けて通れるならばそちらの方を選ぶべきだ。勿論模倣に失敗する可能性もあるにはあるが、多分できる。勘だけど。

 

「今のオレの体は不思議でな。たとえ神代魔法でも、何度か観察すれば自分のものにできる。ユエ、おまえは実際に真似られた側だから分かってるだろ? あれを神代魔法でやるだけだ。もしそれが上手く行けば、わざわざ大迷宮になんて行く必要はない。ハジメも先を急ぎたいならわざわざオレが大迷宮を攻略するのを待ってるのも面倒だろ。ここはコスパ重視で行こうぜ」

「ユエ、その話は本当なのか?」

「んっ……"五天龍"パクられた」

「マジかよ……」

 

 ユエの発言からオレの説明の信憑性が格段に上がったらしく、ハジメは目を見開いて呆然とする。それだけ、魔法の模倣というのは衝撃だったのだろう。まあ、魔法や技能はそう簡単に習得できるものじゃない。それが他人のオリジナル魔法であればその難易度も増すはずだ。昔のオレがこの話を聞いていたら、今のハジメのように驚愕していたはずだ。

 

 とはいえ、正直に言えば【神山】にいるオレ用に用意された敵とも戦ってみたいという感情はある。せっかく解放者が生涯かけて用意してくれた強敵なのだから、戦わなければむしろ失礼というものだ。だが今はそんなにのんびり七大迷宮の攻略を進めてる場合でもない。二日後にはこの国を出るハジメと共を再開すると決めたのなら、オレの個人的な事情で出発を遅らせるわけにもいかない。

 

 それを説明すれば、意外にもハジメは容易く了承してくれた。オレが魔法を見ただけで覚えられるかどうかは未だ疑わしいが、見せても特に困ることはないから問題ないということだろう。ただハジメの魔法適正は悲しくなる程酷いため、後でティオに見せてもらうよう頼んでくれるらしい。

 

 まあ、ティオはユエやシアと違ってまだ会話が成立するタイプだから、正直言ってこちらも助かる。あの二人は……オレに対するヘイトが凄過ぎてハジメがいないとすぐ殺しにくる。まったく迷惑な女共だ。ちょっと半殺しにしたぐらいであそこまでキレなくてもいいだろうに。

 

「これで一つ目の用件についてはいいな。じゃあ、もう一つの『渡して貰いたい物』ってのは何だ? こう言うのもなんだが……仁が今更俺に要求するものなんざ分からん。俺がお前にしてやれることなんて、専用のアーティファクトを作ってやれるくらいだぞ?」

「それはそれで気になるが、その話はまた今度にしよう。今はオレの要求を優先して欲しい。どちらかといえばこっちの方が本題だしな」

 

 そうして、【オルクス大迷宮】を攻略したあの時から、ハジメと再会したら必ずすると決めていたもう一つの要求を口にする。

 

「ハジメ……おまえ、【オルクス大迷宮】でオスカーの隠れ家滅茶苦茶に荒らしただろ。その時、隠し金庫ぶっ壊して中身に持ってったよな? オレが欲しいのはその中身だ」

「そういえば……そんなのもあったな。って、なんで仁はそんなの欲しいんだよ」

「あそこには、魔人ブウに関する研究記録と強力なアーティファクトが入ってたはずだ。理由はそれで十分だろ。研究記録の方の見た目は球体型の記憶媒体。アーティファクトの方は短剣みたいな形をしてたはずだ。おまえが盗まなければ、わざわざこんな頼みをする予定はなかったんだけどな……それに、あれにはパスワードがかかっててオスカー本人かオレじゃないとまともに使うことも無理だ。どうせ使えないんだからオレにくれ。上手くいけば、ハジメも今よりもっと強くなれるぞ」

「盗んだって……人聞き悪いな。俺はただ、攻略報酬として貰えるものは全部貰っただけじゃないか。至って正当な要求だろうに」

「それを正当と言えるおまえの価値観はどうかしてる。……あー、これはオスカーの口癖だな。移ったか?」

 

 ハジメのくだらない言い分はどうでもいいとして、オレは再度その要求を口にする。しかし、どうやらハジメはオスカーの家から物を盗りすぎて、一体どれのことだかよく把握できていない様子だった。片腕を宝物庫の中に突っ込んでガサゴソと探るもそれっぽい物が出て来る気配はない。

 

 オレがハジメに告げた要求。それは忘れてるかもしれないが、【オルクス大迷宮】の最深部にあるオスカーの住処で厳重に保管されていたもののことだ。ただ、保管していた金庫はオレが見つけた時には既にハジメに破壊されて中身を持っていかれた後だった。

 

 だから、ハジメと再会したらそのアイテムを回収することは目標の一つだった。

 

 要求する物の一つは、オスカーが人生をかけて調べ上げた"魔人ブウの研究記録"。そしてもう一つは、あらゆるものに『鉱物』という概念そのものを付与するアーティファクト。アーティファクトの方にはパスワードが設定されているため無断使用は不可能だし、研究記録の方もオスカー自身が記憶を抹消しているため植え付けられたオスカーの記憶にはないが、何かしらの対策はしてるだろう。

 

 つまり、ハジメ達が持っていてもあれらはただのお荷物だが、オレにとっては超重要なアイテムということだ。どちらも、今の時代を基準に考えれば格段に高性能なキーアイテムであるということも理由の一つである。

 

 元々オスカーの物であったのだから、『貰う』という表現は少しおかしいかもしれないが、どんな過程を経たにせよ今の所有者がハジメである以上、オレは与えられる側でしかない。最悪、力づくでもという手段もあるがそれは出来れば避けたいところだ。まあ、どうせ使用方法の知らないハジメじゃあ使えないから大丈夫だろ。

 

 オレが今のオレを超えるために、それは絶対に回収しなければならない。その貴重性と重要性を分かっていたからこそ、こんな要求をしたのだ。しかし、形状や色などを詳しく説明してもハジメはどこかパッとこない表情を見せる。少しづつだがオレのイライラゲージが溜まっていくと、突如ハジメの膝の上に乗っていたユエがチョンチョンとハジメをつついた。

 

「……ハジメ、これ?」

「あ……」

 

 ユエがその手に持って見せたのは、首にかけたネックレスだった。

 

「おい、ちょっと待て。まさか……まさかだよな?」

 

 ここで追加説明をしておこう。オレが求める物の一つである『鉱物』の概念を付与するアーティファクトは先端が二股になった銀の短剣のようなフォルムをしている。それを対象にぶっ刺してから魔力を流すと効果が発動して、『鉱石』の概念が付与される仕組みだ。

 

 そして、問題のたった今ユエが見せたネックレスは……オレが欲するアーティファクトがデフォルメされたような形状をしていた。

 

 何故だろう。無性に嫌な予感がしてならない。頭の中ではその真実に気づきつつも、きっと何かの勘違いだろうと目を背けたオレに、ハジメはどこか気まずそうな表情で現実を突きつけてきた。

 

「そういや……魔力通しても動かないアーティファクトがあったから、壊れてると思って練成で形変えてユエにネックレスとしてプレゼントしたんだったな……」

「んっ……綺麗」

 

 バツの悪そうな顔を見せるハジメとプレゼントを貰った時のことでも思い出しているのかウットリとした表情を見せるユエ。

 

 そんな二人の舐めたような雰囲気にオレは怒りが沸々と湧き上がり……

 

「おまえら、馬鹿じゃねぇの?」

 

 ――まさかの怒りを通り越して呆れた。

 

 勝手に盗んでおいて、使えないからといって改造する。オレの知るハジメはここまで考え無しじゃなかったはずだが、どうやら変貌した影響はこういう所にもあるらしい。十分な強さを手に入れてしまったから、正体不明のアーティファクトにもそこまで興味を抱かなかったとかそんな感じだろう。

 

 あれを手放すとか、もう愚行としか思えない。

 

「いいかハジメ。おまえはそれがどれだけ貴重な物なのか分かってない。あれは気体だろうが液体だろうが、生物だろうが例外なくこの世界の全てに『鉱物』っていう概念を付与することができる。つまりこの世界の全てに"生成魔法"や"練成"を使えるってことだ。練成師のおまえならそれがどんだけヤバいのか分かるだろ?」

「概念の……付与だと? おい、それってマジか!?」

「大マジ。もっと早く気づいてれば良かったな。もしそれが完全な状態でハジメクラスの練成師が使ったなら、クソ神に対する切り札も作れたかもしれなかったのにな。おまえはその可能性を自分の手で潰したんだ。もっと反省しろ」

「くっ……」

 

 『概念』そのものに干渉するアーティファクトなど、例え今のハジメであっても作れるわけがない。そんなこと、オレでも分かる。ハジメのような練成師が干渉できる物は『鉱物』に限定される。当然、火や水といった『鉱物』とはかけ離れた存在に干渉して何かを作りあげるなどできるはずがない。しかし、そんな問題もこのアーティファクトがあれば解決できてしまうのだ。

 

 火や水はおろか、空気や光、やろうと思えば人体にすら『鉱物』という概念を付与することができる。高性能のアイテムを作ることが本職である練成師にとって、これほど理想的な道具はない。それをこともあろうに、一番効果を引き出せる練成師の天職を持ったハジメが恋人へのプレゼントなどという浅い理由で貴重さも理解しないまま加工してしまったのだ。

 

 とんでもないミスだ。今は限界を超えて逆に冷静になってるが、多分この怒りは後からやってくるだろう。

 

 アーティファクトの効果を知ったハジメは自身の軽率な行動で切り札を潰してしまった事実に奥歯を噛みしめる。その後、八重樫が慰めてくれたこともあり多少は落ち着けたのだが、それでも精神的なショックは大きい。

 

 ダメもとではあるが、オレはユエからネックレスを借りて観察する。

 

 形を無理矢理変えられようとも流石オスカーの作った最高傑作。僅かに機能が残っていることは確認できた。だが所詮はそれだけ。アーティファクトとしての機能は九割程失われ、これでは本来の機能はとてもじゃないが期待できない。これをゼロから作りあげたオスカー本人なら修復できるかもしれないが、少なくとも記憶があるだけのオレでは完全修復は不可能だ。それほどまで代物なのだこれは。

 

「っ……悪かった」

 

 そこでハジメは意外にも頭を下げた。オレがこのアーティファクトを回収したとしてもハジメに使わせるつもりだったことを理解したのだろう。オレの善意を無碍にしてしまった罪悪感と自身にとって有益なアイテムを己の手で壊してしまった後悔が混ざり合っているように見える。良かった。多少は悪いと思ってるらしい。むしろ何も後悔してなかったら殴り飛ばしていたところだ。

 

 例えるならば、今のオレの心境は目の前でRPGの勇者が勇者の剣を叩き折ったような感じだ。とても複雑で、言語化するのが非常に難しい。

 

 とはいえ、やってしまったものは仕方ない。無くなったものは返ってこないし、壊したものがあっさりと元通りになるなどという都合の良い展観が起こるわけでもない。"リ・バース"で時間を戻そうにもこれほどのアーティファクトに魔法をかければ変な暴走をしてしまう可能性もある。オレは大きくため息を吐いてからハジメに頭を上げさせると、ユエにネックレスを返した。

 

「もういいや……ちなみにもう一つの方はあるか? 今度はアクセサリーになってないことを祈ってる」

「それはー…………ちょっと待て。えーと……あれでもないこれでもない」

 

 次に、オレは要求したもう一つの品。魔人ブウの研究記録に関してハジメに問う(殺気を添えて)。すると、ハジメは顔を多少青くしてから四次元ポケットを探る青狸のように宝物庫の中をあさり始めた。きっとハジメのことだ。宝物庫の中は綺麗に整理整頓されているのだろう。その全てを把握できているかどうかについては別として。

 

 それから数分。ちょくちょく変な武器やら魔物の死体やらが出てきて不穏に感じる時間が続くも、遂にハジメが歓喜の色を帯びた声を上げた。

 

「おっ、あったぞ!」

「本当か!?」

「お、おう仁……ちょっとは落ち着けよ……」

 

 その声が聞こえた瞬間、オレは一瞬の内にハジメに接近し、その手に持つ物を奪い取るように……というか奪い取った。また加工されちゃかなわん。

 

 視界に入れたそれは……黒い球体状の鉄の塊だった。確証はないが、これはきっとオレが求めた物に間違いない。だが確信を得るため、オレは球体をジッと見つめながら自身の魔力を流す。もしこれが本物ならば、これで起動するはずだ。

 

 そんなオレの推測は正しく、僅かにだが漆黒の球体は赤い光を帯び始めた。

 

「……ビンゴ」

 

 間違いない。これが、これこそがオレの求めていたもの。魔人ブウの研究記録の内容を保存した記憶媒体だ。

 

 かつてのオスカー・オルクスは魔人ブウの研究を終える度に、そこまでの記録をこの記憶媒体に保存していた。しかし、その中身がどんなものであったかは、オスカー本人が記憶を読み取られる可能性を警戒し、己の記憶すらも消していた。恐ろしい程の徹底ぶりだ。

 

 そのため、記憶しか受け継いでいないオレはその研究がどのような過程を経て、どのような結果に至ったのかを知らない。

 

 だからこそ、この記憶媒体が必要なのだ。これを起動させれば、オレはオレでさえ知らない魔人ブウの情報を知ることができる。

 

 オレは無言で記憶媒体に視線を送る。次の反応を見逃さないためだ。それに釣られるようにハジメやユエ、八重樫までもがオレの手の上に置かれた球体を覗き込んできた。

 

 やがて、漆黒の球体にはジワジワと焼け付くかのように赤い文字が浮かび上がってきた。

 

"生体認証――魔人ブウと確認"

 

"属性――中立 善" エラー。情報を修正します。

 

"生命エネルギー確認 魔力確認 遺伝子確認 オールクリア"

 

"登録情報と一致します"

 

"アーティファクト "記憶再現球" 起動します" 

 

「ほう? 中々面白い仕組みだな」

 

 どうやらこの記憶媒体は流した魔力から起動者の情報を取得し、登録された情報と一致しなければ起動できない仕組みらしい。どうやってオスカーがオレ……というかブウの肉体の情報を手に入れたかは知らないが、それもこれを使えば分かるはずだ。

 

 しかし、その直後だった……

 

「ッ……!?」

「おい、仁どうした!? 大丈夫か!」

「こ、これは随分と強引なやり方だな。もうちょっと手加減しろよ。オスカーの野郎」

 

 球体に浮かび上がった文字を全て読み終えたその時、突如オレは意識が大きく揺さぶられるような衝撃を受けた。このままではそう遠くない内に無理矢理意識を持ってかれるというのはすぐに分かった。恐らく、それがこの漆黒の球体――"記録保存球"の正しい使用方法なのだろう。

 

「悪い、ハジメ。少し寝る。オレの体は空いてる部屋にでも放り込んでくれ」

「待て、話を勝手に進めるな! 何が起きた」

「ぅ……すまん。ちょっとマジで説明してる時間は……な……――」

 

 そして、オレの意識はまるで海の底に潜っていくかのようにゆっくりと闇に包まれていった。




最強の勘違い系勇者 光輝
あまりに滅茶苦茶な理論に仁を驚かせたまさかの男。
仁がわざわざ檜山を殺したふりをして、クラスメイトを怯えさせたという謎の妄想に辿り着いていた。ただそれは、人間が人間を食べるはずがないという常識に囚われた思考とクラスメイトが死んだという事実を受け入れられない個人的感情によって生まれたもの。
檜山を殺し、恵理も殺そうとした仁のことを許すつもりがないらしく、仁に対してはハジメに匹敵するヘイトを向けている。この性格を治さないと大迷宮攻略では足手まとい確定。

ショタ王子 ランデル
原作通り香織の現状に怒りハジメに挑もうとしたものの、その場にいたピンク魔人に一目惚れした哀れな王子様。一日で二度失恋するというある意味レアな体験をしてしまった。
初恋は超鈍感天然女子。二度目の恋は男の娘。悉く恋愛運が悪い。もう少しまともな恋をしなさい。

【神山】
「逃げるな卑怯者!! 逃げるなァ!!!」

概念付与のアーティファクト
ネックレスに改造されたオスカーの最高傑作。
本来の効果は有機物、無機物問わず、あらゆるものに『鉱物』という概念を付与することのできる練成師にとっては喉から手が出る程欲しいアーティファクト。液体や気体にすら鉱物の概念を付与できるため、高レベルの練成師であればあるほどその効果は大きい。
例えば、ブウの肉体を武器にすれば壊れない強力な武器が作れるし、一応神である魔王の身体を武器に改造してしまえば神の力を扱うことも不可能ではない。
最初に思いつきで考えてはみたが、よくよく考えてみたら大分ぶっ壊れ性能かもしれないと思い、ハジメに壊してもらった。今ではユエお気に入りオシャレアイテムの一つ。仁はキレた。
初期案では、この話で完全な状態で手に入る予定だった。

記憶再現球
オスカーが生涯をかけて調べたブウに関する情報が刻まれている記憶媒体。
見た目は、手のひらサイズの黒い球体。情報を登録された人物が魔力を流すことで起動し、起動者の魂を半強制的に記憶再現球の中へと連れ込む。
内側には保存された記憶から再現された一体の人工人格が暮らしており、求められた情報を無条件で公開してくれる。
事前にオスカーがブウの千切れた肉片を使って情報を登録していたため、仁の魔力にも反応した。

おまけ
ティオと仁と魔法教室
ティオ「ご主人様から話は聞いておる。"魂魄魔法"を習得するために実際に見せて欲しいということじゃな。だが甘く考えない方が良いぞ。この魔法は妾でも制御が難しい。大人しく【神山】の大迷宮を攻略した方を薦めておくぞ」

~数分後~

仁「よし、覚えた。ありがとな」
ティオ「……え、キモ」

―追記―

リリアーナの仁に対する呼び方
訂正前「仁さん」
訂正後「風磨さん」
という風に直しました。原作ではハジメのことを最初は「南雲さん」と呼んでいるので、知り合って間もない仁をいきなり名前で呼ぶのはリリアーナのキャラ的に馴れ馴れしい気がしたので。
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