やっぱスーパーサイヤ人4はカッコいい! 個人的にはもうちょっとスーパーサイヤ人4になるまでの過程をしっかり見たかったけど、カッコいいからオーケーです!
ところでブウの登場は?
ヘルシャー帝国を象徴する帝城へ不法侵入することは至難中の至難だ。周囲を幅20メートル近くある深い水路と魔法的な防衛措置が施された堅固な城壁に囲まれ、唯一の入口である正門に続く巨大な跳ね橋にすら詰所が設置され厳しい検査を行われる。
だがそれでも、手段を選ばなければ侵入する方法など山程あった。帝国兵を全員なぎ倒したり、空を飛んで上から侵入したり、城壁をぶち壊したりなど、まあ簡単に思いつくだけでもこれぐらいはある。しかしそれでは、侵入ではなくただの強行突破だ。"暗殺"という今回の目的としては似合わない。
つまりは、非情に面倒であるものの、そういう力技を抜きにして、帝城へと侵入する。それがオレ達に課せられた今回の仕事だった。
そんな今更な事実を、橋の前にある門の前で入城検査の順番を待っていたオレは思い返していた。チラリと辺りを見渡せば、すぐ近くにハジメ達や天之河達もいる。帝城に侵入する手段として、ハジメが提案したものは実にシンプルだった。
姑息な手段を一切使わない正面からの入城。
これだけ聞けば『馬鹿かな?』と思わなくもないが、一応納得できるくらいの考えはあった。とはいえ、それほど小難しいことじゃない。単に、天之河を有効活用するだけだ。
分かっていることだが、オレ達は入場許可証なんて持っていない。本来なら門番に追い返されて終わりだが、天之河は"勇者"だ。オレやハジメからしてみれば足を引っ張る雑魚でも、世間一般的には対魔人族戦において神が遣わした人間族の切り札であり"神の使徒"。その存在を帝国側は無視できないだろう。
ちなみに、オレは最初この案を全否定した。何故かって? そりゃあ、天之河に頼るって事自体が気に入らないからだ。あいつに頼って上手くいったことの方が少ない。それでも、ハジメに『失敗した所で特に問題ない』と言われてしまえば、引くしかなかった。
「あー……そうだ、仁。
後ろに並んでいたハジメから声をかけられる。その視線はオレの両腕――正確にはそこに嵌められた黒を基調とした大きめの腕輪に向けられていた。
人間が大勢いる場所に向かう際、オレはこの人とは異なる姿を隠すため、普段身に着けている紫色のマントに付与された魔法を起動し、体色を変化させていた。だがそれには自分の正体を隠せるという利点こそあったものの、オレの気に耐えられず、マントごとぶっ壊れてしまうというデカすぎるデメリットがあった。
そのおかげで、オレが変装してる時は舞空術すら使えないし、やむを得ず戦闘になったことで正体がバレたこともあった。最初の頃はそれでも『なんとかなるだろ』と思っていたけれど、最近はいい加減そんなことに気を遣うのが面倒になってきた。
そこでオレはハジメに依頼したのだ。オレの気に耐えられる変装用アーティファクトの作製を。
オレも"生成魔法"にある程度慣れてきたため性能を上げた変装用アーティファクトぐらいなら多分作れるが、せっかく本職がいるのだから時間的にも性能的にもそっちに任せた方が効率的にいい。
そして現在、オレは今まで愛用していたマントを"宝物庫"の中に放り込み、ハジメが作ってもらった腕輪型アーティファクトを身に着けていた。マントでなく腕輪にした理由はハジメ曰く、『その容姿にマントは似合わない』とのことらしい。結構アレ気に入ってたんだけどな。
ハジメから疑問に答えるため、オレは腕輪に目線をやりつつ少しづつ気を解放させる。
「……悪くない。これなら3割くらいに力を抑えれば戦える」
「あそこまでやってまだ3割か。仁の頼みだから貴重な材料まで使って作ったんだ。絶対に壊すなよ。壊したら弁償しろ」
「お、おう。気をつける」
ハジメは錬成師としての力をフル活用して、このアーティファクトを作ってくれた。だがそれでも、オレの全力に耐えうる性能とまではいかなかった。正直ガッカリしたが、ハジメでもが無理ならこれ以上を期待するのは諦めた方がいいだろう。
それに、変装中に戦力ダウンすることは免れなかったものの、たかが3割でも戦えるようになったことは大きい。3割もあれば、ハジメにだって勝てる。
「次ぃ~……見慣れない顔だな。……許可証を出してくれ」
そんなことを話している内に、ついにオレ達の順番が回ってきた
それから15分。
散々オレに問題を起こすなと小言を呟いていたハジメが帝国兵の一人にシアが因縁ふっかけられたことに対してキレ気味に挑発したことを除けば、オレ達はこれといった問題もなく城内に入ることに成功した。殺し合いに発展しなかったからセーフということなのだろうか。
「それで?」
そして、帝城の一室に案内されたオレ達を待ち構えていたリリアーナの第一声がそれだった。
顔は笑顔のくせして目が一切笑っておらず、声音は部屋の温度が下がったのではないかと思う程に冷たい。額に青筋が浮かんでいることからキレている事だけはよく分かる。
なんとなく状況は察せる。王族という立場的に帝国側との協議でマジで死ぬほど多忙なのだろう。そんな時に、厄介事しか持ってこないハジメ達(オレは除く)が来れば、きつく当たってしまうのも仕方ないといえば仕方ない。肯定的に捉えれば、こんな態度を取っても許してもらえると信頼されてると言えなくもないが。
「一体全体どうして皆さんがここにいるのですか? 納得の出来る説明を求めます。ええ、それはもう強く強く求めます。誤魔化しは許しませんからね! 特に、風磨さんと南雲さん! 絶対、元凶は貴方達でしょう! ちょっと風磨さん! さらっと部屋から出ていこうとしないで下さい! 南雲さんも何で他人事みたいにシアさんのウサミミをモフってるんですか!」
こっそり脱出を計ったオレとユエと一緒にシアをモフモフムニムニしているハジメをリリアーナがキッ! と音が鳴りそうな勢いで睨んでくる。
普通に考えれば、その結論にたどり着くのも自然だろう。あくまで天之河達はハジメに付いてこさせてもらっている立場。目的地も方針も基本的にはハジメに合わせなければならない。唯一口出しできる奴といえば、それこそ実力的にハジメを上回ってるオレくらいだ。まあそれ以外にも、オレ達がいる所には問題が起こるみたいな変な図式が脳内で出来上がっていそうだが。
とりあえず、オレをハジメと同レベルのトラブルメイカー扱いはちょっとやめて欲しい。流石あそこまで振り切れてない。
リリアーナから矛先を向けられ、オレはチラッとハジメに視線を向けるも、案の定構うことなくシアを甘やかして宥めていた。どうやら、さっき帝国兵に絡まれたことが原因で情緒が不安定になってるらしい。それが恐怖によるものであったならまだ可愛かったのだが、今のシアの様子的に殺意が溢れて堪えるのが大変といったところだろう。なんともハジメの女らしい。
「声がでかいって、姫さん。しょうがないだろ? 今のシアは、ちょっと不安定なんだ」
「不安定……ですか? どこか具合でも……」
事情を知らないオレ達へ、ハジメは掻い摘んで先程の帝国兵とシアの関係性を話す。ちょっと長かったのでざっくり解説すると、シアはハジメと出会う前のまだ弱かった頃、フェアベルゲンから家族ごと追放され、帝国兵に追われる時を過ごしていたという。そしてその時ハウリアを追い回し、シアの家族を大勢殺した帝国兵のリーダーが先程因縁ふっかけてきた男だったのだ。
話を聞いた者達は一様に悲痛そうな表情となり、次いで、天之河達は当然の如く憤り、リリアーナは暗い表情で俯いてしまった。リリアーナのことだからどうせ、自分は亜人族の奴隷化をこの世界の常識として容認して来たことだから、自分が憤るのは筋違いだなんてくだらない思考にでも至ったのだろう。
以前も思ったが、リリアーナはどうでもいい事を無駄に深く考える節がある気がする。世界がどうであれ、立場がどうであれ、嫌なものを嫌と言うことに間違いなどあるはずがない。生まれと環境がそうさせたんだろうが、オレが嫌いな考え方の一つだ。一番嫌いなのな天之河の全人類善人理論だけど。
押し黙るリリアーナは、怒りをあらわにするメンバーに「大丈夫ですよぉ~」といつもの笑顔を振りまくシア(何故かオレにだけは視線を合わせなかった)を眩しげに見つめながら、ハジメに話の続きを促した。
「それで、なぜこちらに来たのですか? 樹海での用事は? もうそろそろ、ガハルド陛下から謁見の呼び出しがかかるはずです。口裏を合わせる為にも無理を言って先に会う時間を作ってもらったのですから、最低限のことは教えてもらいたいのですが」
「まぁ、そう慌てるなよ、姫さん。夜になれば全部わかる。俺達のことは……用事が早く片付いたから、遠出する前に立ち寄った……くらいに言っておけばいいさ」
「そ、そんな適当な……夜になれば分かるって、それだけじゃあ信用できません。分かっているのですよ! 貴方が問題しか起こさないことぐらい!」
「そうカリカリするなよ。ハゲるぞ、姫さん」
「ハゲませんよ! 女性に向かって何てこと言うのですかっ!」
「王女様がストレスハゲって……字面だけでもう面白いな」
「風磨さん?!」
どうやらハジメはリリアーナに詳しい事情を話す気はないようだった。まあそれに関してはオレも同じだ。余計な情報を与えても混乱するだけだろうし、オレ達に協力した共犯者というよりも利用された被害者という立場の方がリリアーナ的にも今後迷惑はかからない。
とはいえ、これでは流石にリリアーナが不憫だ。ぞんざいな扱いを受けた本人も「王女なのに……」と面倒な落ち込み方を見せている。
「ハゲの話はともかく、嘘をつくにしてももうちょいマシな嘘にしとけ。そうだな……旅先で魔人族が不自然な動きを見せてるって情報を手に入れたから姫様とついでに帝国に警告に来たとかでいいんじゃないか? これならわざわざ帝城に来る理由にもなるし、外側の警戒が強くなったところでオレ達に影響もないだろ」
「そうか? じゃあそれでいい」
「嘘って隠すつもりすらないんですね。もういいです……」
元よりこの程度の言い訳はなんだって良かったのだろう。ハジメはあっさりとオレの提案を受け入れ、リリアーナはもう『なるよ~になぁ~れぇ~』と投げやり気味な感じに諦めた。
その後、落ち込むリリアーナから聞き出したところ、どうやら既に皇帝のガハルドには、聖教教会の末路や狂った神の話が伝えられたようだ。
しかし、流石は実力至上主義の国のトップ。それなりの衝撃はあったようだが、どちらにしろ今までとやることは変わらないと不敵に笑ったという。すなわち、敵あらば斬る、欲しいものは力で奪う、弱者は強者に従え! という脳筋的思考だ。
傲慢にして強欲。なんでもかんでも暴力で解決して敵には一切の情けもない。その上気に入った女は自分のものにするから妻が沢山おり、普通に強いから実力で負かすことも出来ない。
これだけの情報を聞いてオレは「なんだその劣化版ハジメは?」と口にしたのだが、ハジメとそのハーレム共に「一緒にするな!」と怒鳴られた。何故だろう、これだけは間違ってる気がしない。まだ出会ってないが、ハジメとガハルドはなんだかんだ気が合うんじゃないだろうか?
そしてガハルドは、リリアーナの話からとある2つの事柄に対して神の真実よりも興味を強く引いたらしい。
どうやって帝国に来たのか、そしてどうやって魔人族の軍勢を殲滅したのかだ。
一つ目は、王国襲撃の顛末はわかったが、それからリリアーナが帝国にやって来るまでの期間が早すぎたからだ。帝国としても王国との連携については直接的な協議の必要性を感じていたようでむしろ助かったらしいが、いくら何でも襲撃の1週間後に帝国に到着するのは有り得ないと。
もう一つに関しては、神の話をしてしまった以上、魔人軍を殲滅させた攻撃手段を持つ奴がいると言ってしまったようなものだ。どうやらそれが、ヘルシャー帝国皇帝としても、一個人としても看過できなかったらしい。
オレとしては別に隠す必要もなかったので、事前にリリアーナに喋っていいか許可を求められた際、「おまえの弟をオレに近づけさせないと約束できるなら構わない」とOKを出した。そういうわけで、リリアーナは特に困る事もなくオレやハジメのアーティファクトのことを話したようだ。
しかし、オレ達が帝国に来て状況が変わってしまった。遠く離れた場所で旅をしていたなら何も起こらなかったはずだが、帝国の懐に入ってしまえば、強欲で豪気なガハルドからのちょっかいは避けられない。そして最も恐ろしいことが、それに対してオレ達がムカついて反撃した場合だ。
最悪の場合、帝国はこの世界の地図から消える。
それを心配して気が気でなかったリリアーナは、普通なら先にガハルドと謁見するところを、色々手を回して先に面会できるようにしてもらったという。
色々苦労させてしまったリリアーナには悪いけれど、オレ達も本当の目的を告げるつもりはない。それがリリアーナのためであるというのもあるが、立場的に彼女はオレ達を止めなければならない。それこそ無駄な争いだ。ハジメの方は……単に説明するのが面倒なだけだろう。
それでも最低限の情報交換は必要と、リリアーナから帝国側との協議内容についてある程度聞いたところで部屋の扉がノックされた。
〇
通された部屋は、縦長の大きなテーブルが置かれた、ほとんど装飾のない簡素な部屋だった。そのテーブルの上座の位置に、頬杖をついて不敵な笑みを浮かべる男――ヘルシャー帝国皇帝、ガハルド・D・ヘルシャーはいた。その背後には、この世界基準で見ればそこそこの強さの男が2人。
しかも、姿こそ見せないが、壁の裏に2人、天井裏に4人、閉まった扉の外に2人、計8人が隠れている。警戒こそしてるが、王族の護衛と考えれば少ないくらいだ。よほど、ガハルドは自分の力に自信があるんだろう。
「お前が、南雲ハジメか?」
ガハルドの第一声はそれだった。先頭にハジメがいたこともあるが、一応は代表である天之河への挨拶をすっ飛ばしてプレッシャーを叩きつけてきた。天之河達は後退りしているが、大迷宮の魔物にすら届かないお遊び半分の威圧でしかない。オレやハジメ達にとってはそこらのチンピラがガン飛ばしてきたようなもんだ。何事もなかったようにハジメは返答する。
「ええ、俺が南雲ハジメですよ。御目に掛かれて光栄です、皇帝陛下」
「ぶふぉ!?」
「「「「「!?」」」」」
その瞬間、オレは吹いた。あのハジメが礼儀正しい動作と共に絶望的なまでに顔に似合わないことを言いだしたのだ。こんなんもう笑うしかない。
周りを見れば、天之河達も『お前、誰だよっ!』と目で訴えている。リリアーナなんか特に酷い。口をポカーンと開けて愕然としてしまった。
だが確かにハジメの対応は人として間違ってはいない。帝城に用があるというのに、皇帝の機嫌を損ねては意味がない。天之河の勇者パワーもどこまで保つか分からないし、最低限でも礼を示すのは当たり前だ。間違ってはいない……のだが、
ヤバい。死ぬほど面白過ぎる。
「ククク……思ってもいないことを。普段の傍若無人な態度はどうしたんだ? ん? 何処かの王女様が対応の違いに泣いちまうぞ?」
ただハジメが珍しくTPOを弁えた意味はなかったらしい。チラリとリリアーナを見ると、ぷいっ! とそっぽを向けられる。大方、目上の人間に対する扱いがなっていないとか愚痴っちゃったんだろう。
「似合わねぇ喋り方してぇねぇで、普段通り話しな。俺は、素のお前に興味があるんだ」
「……はぁ、そうかい。んじゃ、普段通りで」
「くく、それでいい。それで、さっきから後ろで無言で大爆笑してる奴が、風磨仁か…………なに?」
ハジメの面白い対応に腹を抱えつつ、順にオレ達が席に着くと、ようやくハジメから外れたガハルドの視線がこちら側に向けられる。だがオレに視線が映った途端、ガハルドはピシリと固まったかのように動かなくなった。
突然の異変にオレ達も控えていた男達も困惑するも、すぐにガハルドは再起動を始める。そして、突然意味の分からないことを言いだした。
「――驚いた。お前、
冗談を言うような雰囲気ではなく、本当に心の底から驚いたように目を丸くしたガハルドは間違いなくそう口にした。オレが"王族"であると。
「いや、違うが」
「嘘つけ。俺には分かる。お前は間違いなく王族の血を引いてる。その顔がそれを証明してんだよ。先祖返りって奴か? どこの国の人間かは知らんが、王女様もまた面白い客を連れて来たもんだ」
「はあ……顔? オレの顔がどうしたって?」
意味が分からず、オレは首を傾げながらリリアーナの方へ視線を向けると、リリアーナも同様に首を傾げていた。しかしそれから数秒して、リリアーナは何かを思い出したかのように「あっ……」と言葉を溢してから呟いた。
「破滅の、巫女……」
「ああ、
"破滅の巫女"。聞き覚えのない単語だ。オレの記憶にもブウの記憶にもオスカーの記憶にもない。だがそれが何を表すものかは分からないが、リリアーナやガハルドにとって重要なものだというのはなんとなく察した。
それがなんなのか。どんな意味を持つ言葉なのかは当然気になる。オレはオレがどうしてこの顔になったのかを分かっていない。魔人ブウでもない。風磨仁でもない。最初はオレの理想の女の子の顔になったのかとも思ったが、よくよく考えればそれはありえなかった。だってオレには、惚れてる女がいる。その推測が正しければオレの顔はポニテのクール美人になっていたはずだ。
ブウに吸収された直後からこの顔であったため、『そういうこともあるだろ』と受け入れていたが、よくよく考えてみれば十分おかしかった。なんでオレはこんな女っぽい顔になってんだ?
「おまえらの言ってることはよく分からん。だから今から事実だけを言う。いいか、オレは王族じゃなくて、元はただの学生だ。この世界に召喚されて無理矢理勇者パーティーに押し込められて、今ではもう人間ですらなくなったどこにでもいる魔人だ。おまえらの言う破滅の巫女? とやらは知らないし、聞いたこともない。ほら、質問あるか?」
「本気でそれを言ってるのか? その顔で、王族とは無関係だと。冗談にしても笑えねぇぞ」
「嘘でも冗談でもない。事実だけを言うって言っただろ。オレとしては、むしろなんで顔だけでそこまで断言できるのか理解に苦しむな」
「ほぉ、なるほど。クク、どうやら本当に何も知らないらしい。だったら質問を変えよう……」
オレの返答に満足したのか、ガハルドは興味深げにオレをジロジロと観察してから、ニヤリと楽しげな笑みを浮かべた。
「――風磨仁、王族になるつもりはないか?」
「興味がない」
迷うことなくオレは答える。何を言うかと思えば、まさか王族になれとは。確かにそういうお年頃の男子として優雅な生活を送りたい気持ちはあったが、リリアーナの仕事ぶりを見てしまえば、そんな胸の内にあった憧れは呆気なく崩れ去った。だってブラック企業レベルに多忙じゃん。
「クククッ、即答かよ。だがお前の意思は関係ない。お前は王族になるべきだ。本当にあの"破滅の巫女"と関係があるかどうかはもうどうでもいい。初対面だが、俺はお前を気に入ったぞ!」
「それはどうも。別に嬉しくないけどな。というか、王族になるってそう簡単なもんじゃないだろ。あんま滅茶苦茶なことは言わない方がいいぜ。もしオレが肯定してたらどうするつもりなんだよ」
「いや、そんな難しい話じゃない。簡単なことだ――」
そうして更に笑みを深めたガハルドは、次の瞬間恐ろしいことを口にした。
「風磨仁、俺の妻になれ」
「「「「「!?」」」」」
「………………何言ってんだこいつ」
同性、しかもおっさんからの突然のプロポーズに全身が気持ち悪い感覚に襲われ、オレは嫌悪感を何一つ隠すこともなく引いた。その反応はオレがおかしいのではなく、あの天之河やハジメですらガッツリ引いていた。
「なんだ、不満か? 皇帝の妻になればお前は真の意味で王族の仲間入りだ。どこに断る要素がある。俺を愛し、俺に愛される。お前はそれだけしていればいい。王女から聞いた話によれば男らしいが……その容姿なら大した問題じゃない。俺が愛をくれてやる。どうだ、悪くない話だろ?」
「うわぁ……きっも。今決定したわ。おまえはオレが天之河の次に嫌いなタイプだ。もう金輪際近寄ってくんな。キモイ。マジキモイ」
「おいおい、そう照れるなよ。神による帰還が叶わない以上、まだこの世界にいるんだろ。時間をかけて口説いてやるよ。クク、覚悟しろよ、仁」
「名前呼ぶな。キモイんだよ」
ハジメのように相手が皇帝だから最低限の礼は尽くそうというオレの中にあった僅かな思考は弾け飛んだ。『このキモイ男を殺せ!』そう本能が警報を鳴らしまくっている。
側近達は側近達でキモイキモイ言いまくるオレに殺気をぶつけてくるが、それならいっそのこと武力行使に移ってくれた方がありがたい。そうすりゃあ正当防衛権を使ってあの皇帝にエネルギー弾をぶち込んでやれたのに。
リリアーナを含めた全員から憐れみの視線が向けられるのが分かる。欠片もドキドキしない告白イベントをどうにか乗り切ろうと必死に殺気を抑えながら思考を高速回転させていると、またもやガハルドは爆弾を投下してきやがった。
「近いうち、雫も俺の妻になる予定だ。雫はどうやらおまえを気に入ってるみたいだしな。安心しろ、2人纏めて愛してやる」
「……あんだって?」
きっとそれはオレの聞き間違いなのだろう。八重樫を妻にするとかいう虚言が聞こえてきた気がした。
オレはガハルドに向けていた顔をギギギと油を差し忘れた機械のように回し、八重樫に口パクで確認を取る。
『ど・う・い・う・こ・と・?』
しかしその疑問に八重樫は答えてくれない。ただ何かに呆れたように溜息を吐いてから、澄まし顔で口を開く。
「前言を撤回する気はありません。陛下の申し出はお断りさせて頂きます」
「つれないな。だが、そうでなくては面白くない。元の世界より、俺がいいと言わせてやろう。その澄まし顔が俺への慕情で赤く染まる日が楽しみだ」
イラッ
「そんな日は永遠に来ませんよ。……というか、皇后様がいらっしゃるでしょう?」
「それがどうした? 側室では不満か? ふむ、正妻にするとなると色々面倒が……」
イライラッ
「そういう意味ではありません! 皇后様がいるのに他の女に手を出すとか……」
「何を言っている? 俺は皇帝だぞ? 側室の10や20、いて当たり前だろう」
イライライラッ
「ぐっ……そうだったわ。と、とにかく、私は陛下のものにはなりません。諦めて下さい」
「クク、やはりお前は一筋縄ではいかないな。だからこそ堕とす価値がある。覚えておけよ雫、お前は絶対俺のものにしてやる」
よし、殺そう。
オレは激怒した。必ず、かの邪知暴虐の王を除かなければならぬと決意した。他の誰でもないオレ自身の幸福のために。
あまりにふざけた言動のせいで本心を隠せなくなりそうだが、会話の流れ的にあの男はオレにしたのと同じように八重樫にも妻になれと迫ったのだろう。しかも面倒なことに奴は相当八重樫を気に入っている。諦めるつもりなど微塵もなさそうだ。今もその視線はガッチガチに八重樫をロックオンしてやがる。やっぱ殺すか。
惚れてる女が口説かれているというだけでも怒りが込み上げてくるが、数少ない幸運は口説かれている側の八重樫が全く気にした様子もなく、心底嫌そうな表情でそっぽを向いてることだ。ここで少しでも八重樫が悪くない反応を見せていたら、きっと皇帝ぶち殺し&八重樫と心中コースが確定していただろう。
だって考えてもみてくれ。しばらく会っていなかった幼馴染が金持ちでハーレム作ってて身分も高い俺様系のおっさんに求婚されてたんだぞ。まるでバットエンド確定のNTR漫画のような展開じゃないか。オレはハピエン村出身なんだ。胸糞悪いバットエンドはお断りに決まってる。
そこで、ふと思い周りを見渡すと、天之河と坂上を除いた同行メンバー全員がサッとオレから目を逸らした。なるほど、こいつら知ってやがったな。八重樫がガハルドに求婚されてること。
時期的に考えて、ちょうどオレがフェアベルゲンで入国禁止令を食らってた頃だろう。そしてオレがそれを知ったら躊躇いなく皇帝を殺しにいくと考え、話し合わずとも団結して黙秘権を行使した。そんな感じだろう。まったく、オレのことをよく分かってやがる。ハウリアの件がなかったらこんな城消し炭にしてた所だ。
しかし、天之河と坂上が無反応なのはともかく、谷口が反応したことには少し驚いた。つまり、谷口にはオレが八重樫に惚れてるってことがバレてたのだろう。ああ見えて意外に他人のことをよく見ているのか、白崎からリークされたかだな。
それにしても、視線を逸らしたメンバーもそうだが、さっきからやけにこの場にいる奴らからの注目が集まってる気がする。オレに――というかこれはオレよりちょっと上か?
「あー……仁、気づいてないみたいだから言うが……煙、出てるぞ」
「煙? え、なに煙って?」
「頭だ。というか、マジで気づいてないんだな」
「頭……なんだこれ?」
ハジメに指摘され頭に触れると、確かに頭皮にいくつかの小さな丸い穴が開いて、ぷしゅう~と情けない音を上げながら煙を漏れ出している感覚があった。
意味の分からない現象にオレはかなり困惑したが、なんとなく、これも魔人ブウとしての機能の一つだと理解した。そして同時に、イライラしてくると出て来るものだということも感覚で分かった。どうやら、オレはオレが思う以上にガハルドにキレてるらしい。うん、これはやっぱり殺さないと気がすまないな。
例えでも何でもなく文字通り頭から煙を沸かして注目を浴びはしたが、気合で頭の煙をなんとか抑える。そんなオレを見てガハルドは豪快に笑いだした。
「はっはっはっ、人間じゃないとは聞いてたがどうなってんだそれ! 面白い、尚更気に入ったぞ! 風磨仁、やはりお前は俺の妻になれ!」
「いや、なにがどうしてそうなる。というかなんで行けると思った。オレも八重樫もおまえの女になるつもりは一切ない。いい加減その下らない妄言も終わりにしろ」
「ほぉ、さりげなく自分だけじゃなくて雫も加えたな。なんだお前。もしかして雫とデキてるのか?」
「んなっ!?」
鋭い視線をこちらに向けながら、至って真剣な表情でガハルドはとんでもないことを聞いてきた。質問の内容が内容であるだけに、オレが動揺して答えを見つけ出せずにいるとオレ達の会話に割り込むように八重樫が席から勢いよく立ち上がり声を上げる。
「ちょっ、陛下! いきなり何を言いだすんです! 私と仁がそんな関係なわけないでしょう!」
「ぐはっ!」
それは食い気味の否定だった。無自覚な言葉の暴力によってオレに不可視のダメージが通る。しかし、八重樫の追撃がまだ続く。
「仁とはただの幼馴染です! それ以上でもそれ以下でもありません! 変な勘違いしないでください!」
「うっ……!」
「それにあり得たとしても精々弟です。異性としてなんか見れません!」
「ごぷっ!」
「そもそも、私は陛下のものではありませんし、仁に惚れるとかもありませんから! いい加減、この話題から離れて下さい!」
「あ、あはは……」
「……もうやめてやれよ。仁の奴オーバーキル食らってるから」
あまりに無慈悲な言葉の暴力の連撃に、オレは机に突っ伏して涙を流す。見えてるわけじゃないが、ハジメ達から憐れみの視線を感じた。確かにオレと八重樫は恋仲じゃないが、いくらなんでも強めに拒絶し過ぎだと思う。せめて照れ隠しであればよかったのだが、あれは違う。結構マジなトーンだった。
小さい声で「鈍感って怖いな」とハジメが口にしていたが、おまえが言うなと声を大にして言ってやりたい。きっと顔を上げたら白崎あたりが絶句している光景を目にすることができるだろう。
「お、おう。わかった。そうムキになるな。過剰な否定は肯定と取られるぞ?」
「ぬっぐぅ……」
流石の皇帝でも八重樫の圧には勝てなかったということだろう。ガハルドはたじろぎながらも八重樫を宥め始める。勘違いか、先程までの傲慢さがやや薄れてる気がした。
そしてガハルドの物言いに八重樫が呻き声を上げてドカッと座り直したところで、ようやく口撃は止む。そんな八重樫を谷口が苦笑いを浮かべながら宥め、天之河は何故かこちらを睨んでくる。どうしてオレを慰めてくれる奴はいないんだろう。
オレと八重樫が黙ったのを確認すると、今までこちら側にばかり視線を寄越していたガハルドの目が再びハジメに向けられる。もはや当たり前とばかりに天之河の存在をスルーして。
「念の為言っておくが、南雲ハジメ。仁と雫に手を出すなよ? こいつらは俺のものだからな」
「興味の欠片もねぇから、安心しろ。つか、ホント無駄話しかしないなら、もう退出したいんだが?」
「無駄話とは心外だな。新たな側室……あるいは皇后が誕生するかもしれない話だぞ? 帝国の未来に関わるというのに……まぁ、話したかったのは確かに2人のことではない。わかっているだろう? お前等の異常性についてだ」
「……ああ、やっと本題入れるのか」
そこでようやく真面目な話をする気になったのか、ようやくオレと八重樫へのキモイ発言は治まりガラリと雰囲気を変えたガハルドはハジメと向き合う。
本来ならば、オレもこの話には真面目に参加するつもりであった。一応オレも魔人族の軍隊全滅させた張本人だからだ。だがおっさんからの求婚と惚れた女に男として見られていないという真実を突き付けられ、メンタルブレイクして世界の全てがどうでもよくなったオレはほとんどの話を右から左へと聞き流す結果となったのだった。
それからしばらくして、謁見の時間は終わった。
内容はどちらかと言えば謁見というよりも事実確認のような感じで、基本的にハジメがガハルドからの質問に適当に答えるだけの作業的な時間だった。途中、オレも何度か問われたが、どうせハジメも雑に答えているのだからと何も考えずに「ソダネー」と返答していたらなんか殺気を向けられた。まあお返しとして全力の殺気をプレゼントしてやったけど。
とにかくだ。暴力沙汰にはなることはなかったと喜んでおこう。
後からハジメに詳しい話を聞けば、どうやら帝国側はオレ達の実力を認め、無用な争いを避けるために手を出さないということになったという(こっちが危害を加えないとは言ってない)。加えて、何故かリリアーナの婚約パーティーが夜にあるため、それに参加することにもなったとか。
少し引っかかる所もありはしたが、オレは特にその内容に不満もなかったため受け入れた。そして婚約パーティーが始まるまでは自由時間と聞かされたため、オレは自身のメンタルケアも兼ねて普段なら絶対に入る事がなかったであろう帝城の探検(無許可)に向かうのだった。
ガハルド・D・ヘルシャー
現ヘルシャー帝国皇帝。
美人の女を侍らせ、敵対する者には容赦なく、普通に強くてしかも傲慢という劣化版ハジメと呼ぶに相応しい性能の皇帝。ハジメと仁が帝国に訪れた時点でもう色々と終わることが確定した。
仁の王族特攻(仮)がまたもや大暴走。ガハルドは『こいつなら正妻にしてやってもいい』と本気で思い始めている。性別と種族に関しては目を瞑りながら。
初見で、仁の容姿から王族だと思い込んでいるようだが、結論から言えばただの勘違い。一応ちゃんとした理由は存在する。
とりあえず雫を口説いた罪で痛い目に遭ってもらおう。
ハジメ作 変装用腕輪(Newアイテム)
仁の新装備。体色を変えて魔人ブウ特有のピンクの肌と不思議な色合いの瞳を隠すマントに変わるハジメ製の腕輪。
性能は仁が作ったマントの上位互換であり、気への耐性も上昇しているため仁が少し気を解放するぐらいなら魔法を発動したままでも壊れることのない特注品。ただあくまで耐性があるだけであるため、仁が全力で気を解放したら速攻で粉々に砕け散る。
見た目は、ドラゴンボールで(悪)以降の魔人ブウが両腕に身に着けている大きめの腕輪。
Q. どうして仁が人間状態(見た目)を維持したまま全力で戦えるようにしないのか?
A. せっかく魔人ブウの肉体持ってるのにイメージカラーであるピンクを消すのはもったいないから。
破滅の巫女
やっと回収できたフラグの1つ。
この世界に古くから伝えられてきた御伽噺の一つで、王族に深く関わっている。次回軽く説明を挟む模様。
作者は思う。やっぱこの設定いらなかったかもしれないと。
ちなみに、この単語の初登場は55話の最後にミレディが取り出した本のタイトルとして出てきました。