それと以前、ヒロインが雫だけと言った気がしますが、変わる可能性が出てきました。ハーレム系嫌いな方、本当にすいません。
ガハルドとの謁見は終わり。雫達と2、3話したリリアーナは、今夜のパーティーの準備のため、与えられた自室に戻りお付の侍女達と打ち合わせをしていた。
とはいえ、やっていることは主にドレスの選別でしかない。何十着も試着し、姿見の前でくるりと周り、周囲の侍女達から賛辞を受け取る。それを呆れるほどに繰り返し、ようやく婚約パーティーに着ていくドレスを決めたところで、部屋に躊躇いも遠慮もなくズカズカと大柄の男が入り込んできた。
男の名はバイアス・D・ヘルシャー。皇帝であるガハルドの息子であり皇太子。彼は父親によく似た極度の女好きでありながらも、次期皇帝として相応しい強さを併せ持つ。その上弱者や女を嬲ることに快感を覚えるという、人としての尊敬できる要素が何一つないカスみたいな男だ。
しかし同時に、バイアスはリリアーナの婚約相手でもある。
「ほぉ、今夜のドレスか……まぁまぁだな」
「……バイアス様。いきなり淑女の部屋に押し入るというのは感心致しませんわ」
「あぁ? 俺は、お前の夫だぞ? 何、口答えしてんだ?」
「……」
まともにこちらの話を聞いてくれるはずがないと分かっていながらも注意するリリアーナに、バイアスは鬱陶しそうな表情で答える。相変わらずの粗野で横暴な雰囲気に、リリアーナの背筋に悪寒が走る。
かつて、まだリリアーナが10にも届かない年の頃、その時からバイアスは今も変わらない舐めるような嫌らしい視線をリリアーナへと向けていたのだ。日本でそれをやれば確実におまわりさん案件である。
「おい、お前ら全員出ていけ」
突如、ニヤーと口元を歪めたバイアスは侍女や近衛騎士達にそう命令した。それが何を意味するか、分からない者はいないだろう。数分後……いや、もしかしたら数秒後には、この場でリリアーナの純潔が散らされるかもしれないということだ。
その意味を誰もが理解していたものの、反抗することはできない。現在、王国は帝国に助けを求めている立場であり、皇太子の機嫌を損ねることは王国にとっての負担に繋がる。どちらが上なのかははっきりしていた。侍女や近衛騎士達には大人しく部屋を出ていく以外の選択肢はない。
「ふん、飼い犬の躾くらい、しっかりやっておけ」
「……飼い犬ではありません。大切な臣下ですわ」
「……相変わらず反抗的だな? クク、まだ10にも届かないガキの分際で、いっちょ前に俺を睨んだだけのことはある。あの時からな、いつか俺のものにしてやろうと思っていたんだ」
「っ!? いやぁ! 痛っ!」
それから、リリアーナにとって、地獄の時間が始まろうとしていた。嫌悪感を抱くような笑みを向けられながら胸を鷲摑みにされ、床に押し倒され、ドレスを引きちぎられる。そして顎を掴まれ、無理矢理唇を奪われそうになった。
恐怖と羞恥で遂にホロリと流れた自身の涙にすら気づないまま、リリアーナはふと思った。
望んだ通りの結婚なんて有り得ないと覚悟していた。王女として生まれた以上は仕方のないことだと自分を納得させ続けていた。それでも、こんなのはあんまりだ。本当は、好きな人に身も心も捧げて幸せになりたか。っと、王女という鎧で覆った心から僅かに漏れ出た唯の女の子としての気持ちに目を向けてしまった。
そして同時に、帝国に来る少し前、雫から聞いた話を思い出す。
『――仁が人を助ける理由?』
『はい。南雲さんは良くも悪くも冷酷です。誰かを助ける時も、その人を助けたことで自分や自分の大切な人にどんな利があるのか、もしくは助けたことでどんな不利益が起こるのか、それを考えてから行動に移しているように思えます。しかし、風磨さんとの旅の話は清水さんに教えてもらいましたが、同じ"誰かを助ける"という行為でもハジメさんとはどこか違う気がするんです』
特に深い意味はない。ただ気になったから聞いただけの何気ない会話。まるで走馬灯にように、リリアーナの脳裏にはその時の雫との会話がイメージとなって流れていた。
『なるほどね。確かに南雲君と仁には強くて色んな人を助けてるって共通点があるけど、その過程は全然違うわ。どちらかと言えば、仁の方が行き当たりばったりで行動してる感じかしら?』
『やっぱりそうですよね。でも、風磨さんだって困った人を全員助けるわけでもないみたいですし。そこの基準の違いが南雲さんと風磨さんの一番大きい違いかな~って思ったんですよ。それを香織に相談してみたところ、風磨さんの事なら雫が一番知ってると言われ……』
『はぁ……香織もまた勝手なことを。でも、リリィが知りたがってる答えなら分かるわ。相手と状況にもよるけど、あいつには誰かを助けるための絶対的な線引きがある。別に珍しくもない、とても簡単なことよ。そう、本当に簡単な……』
何か嫌なことでも思い出したのか、雫は表情を暗くしながら、静かな声音でリリアーナの求めていた答えを告げた。
『"助けを求められた"……ただそれだけで、仁は苦しむ誰かを助けようとするのよ』
もし……もしそれが本当なら、今この状況で願えば、彼は自分にも救いの手を差し伸べてくれるのだろうか。リリアーナは、『何を馬鹿なことを……』と王女としての自分が嗤う声を聞きながら、それでも堪え切れずに弱弱しい声で呟いた。
そう、
「――助けて」と。
その瞬間だった。バンッ! 何かが勢いよくぶつかったかのような衝撃音が部屋の外から響くと同時に、仰向けに組み伏せられたリリアーナは自分に迫るバイアスが背後から飛んできた"何か"にぶつかって吹き飛んでいくのを目撃した。
「えっ……?」
驚きに目を見開きながらリリアーナはガハルドをふっ飛ばした物体が飛んできた方向に目を向けた。そして驚愕する。そこには、まさに今救いを求めた人物が立っていたのだから。
普段のピンク色の肌でなくとも、男性でありながら女性にしか見えないというその特徴的な容姿を間違えるはずがない。まるで何かを蹴り飛ばしたかのように足を上げた姿勢で固まった彼は姿勢を正すと、上体を起こして女の子座りのまま唖然とするリリアーナに近づく。そしてリリアーナと視線を合わせるように目の前でしゃがみ込むと、まるで幼い少年のようなニッとした笑顔を見せてから言った。
「おう、助けに来たぞ」
バイアスに襲われずに済んだ安堵と助けられたことのよる喜び、何故彼がこの場にいるのかという困惑や皇太子にこんなことをしてただで済むはずがないという恐怖がごちゃまぜとなり、上手く思考をまとめられなかったリリアーナだが、一つだけ確定したことを挙げるとすれば、
今日、リリアーナ・S・B・ハイリヒという一人の女の子は、まるで御伽噺の登場人物のように風磨仁という男に助けられた。
〇
「風磨さ、ん……どうしてここに……」
「いや、帝城を探検してたらそこの騎士達に呼ばれてな」
「え……」
目の前でエロい恰好のまま女の子座りしているリリアーナから僅かに目線を逸らしつつ、オレはこの場に至るまでの経緯を説明をした。
あの謁見の後、帝城を探検していたオレは何やら血相を変えたリリアーナの近衛騎士達に遭遇した。知らない仲でもないため声をかけたのだが、彼らはオレの存在に気づくと、何やら大慌てでリリアーナを助けて欲しいと頼み込んできた。
勿論それだけで事情も聞かずに駆けつける程オレも無鉄砲じゃない。情報があまりにも足りないからと、詳しい説明を求めた。そこで、まさに今帝国の皇太子が着替え中のリリアーナをレイプしようとしていると聞かされたのだ。
正直、自分の境遇を受け入れ、誰かに助けを求めようともしない時点でリリアーナに手を貸すつもりはなかった。ただ流石にそんな話を聞かされてしまっては見て見ぬふりをするわけにもいかない。
そんな経緯から近衛騎士達の先導のもとリリアーナと変態皇太子のいる部屋に向かっていたオレは、魔法によるジャミングがかけられていた部屋の中から少女の助けを求める声を聞き取った。
その時点で、もうオレがリリアーナを助けない理由は消えた。オレは躊躇うことなく外からいかにもな悪人面した皇太子目掛けて部屋の扉を蹴っ飛ばした。きっとオレにはサッカーの才能があったのだろう。
「そういうわけだから、あいつらにも感謝してやれよ。おまえ直属の騎士だと手を出せば問題になるが、第3者であるオレが次期皇帝をぶっ飛ばしたところで、知らぬ存ぜぬしとけば姫様に迷惑がかかることはないって、あいつらなりに考えた結果らしいぞ」
「貴方達……ありがとうございます。助かりました」
「「「……」」」
リリアーナからの感謝に、近衛騎士達は背を向けながら敬礼する。言葉ではなく、行動で忠誠を示すという意味なのだろう。ちなみに背を向けている理由については、オレが皇太子ぶっ飛ばした場面を『自分達は何も見ていない』という意思表示と、単にリリアーナの恰好がちょっとヤバくて視界に入れるわけにはいかない、といった忠義からだと思う。
目線だけ動かをし、リリアーナの身体を視界に入れて改めて思う……凄い恰好だ。ドレスを大雑把に破られ、14歳という可愛さと綺麗さを兼ね備えた絶妙な年齢の肌が惜しげもなく顕となっている。魔人ブウになる前のオレであったならば、襲い掛かっていたかもしれないくらいには扇情的な光景だ。
しかし幸いにもここはリリアーナの部屋。しかも先程まで着替えていたようだから変えの服はいくらでもある。オレは手を伸ばし(物理)、なんとなく目に入った漆黒のドレスを手に取るとリリアーナに投げ渡した。
「……?」
「さっさとそれを着な。ずっとその恰好のままってわけにもいかないだろ? おまえがそういう趣味なら気にしないけど……」
「っ……!?」
忠告され、ようやく自分がどんな格好をしているのか思い出したのだろう。すぐさま投げ渡されたドレスを体に押し当て、リリアーナは自身の肌を隠す。だがオレは思う。もう手遅れな上に中途半端に隠したことでそのエロさが更に酷くなっていると。
いくらなんでもこれ以上乙女の肌を凝視するのは助けた側の立場でもよくない。そう思ったオレは無言のまま振り向いてリリアーナから体ごと視線を外す。
数秒後、後ろからガサゴソと衣擦れの音が室内に響き始めた。それからしばらくの間、この部屋には気まずい時間が流れ始める。それと今更だが、皇太子はオレの扉シュートで完全に意識を飛ばした上で、その扉の下敷きになっているからしばらくは大人しくしているだろう。
そこから更に時は進み。リリアーナから「もう大丈夫です」と許可を出されたオレはゆっくりと振り向く。ちなみに、近衛騎士達は気まずい空気感に堪えられなかったのか、さりげなくこの場から逃げやがった。
「……見ました、よね」
「大丈夫だ、問題ない」
「それはどういう意味です?!」
勿論、バッチリ見えたがオレは理性を保てる大人なので大丈夫だ、問題ない。という意味だ。
そんなことを言ってしまえば、当然羞恥で顔を真っ赤にしたリリアーナが抗議してきたが、オレは耳を塞いで聞こえないアピールでやり過ごす。それがリリアーナの神経をさらに逆撫でしたようで、今度は怒りで顔を真っ赤にして詰め寄ってきた。
それでもオレが無視を貫いたからだろう。しばらくして、呆れたように溜息を吐いたリリアーナはそれ以上オレを攻めることを諦めた。どうやらこの勝負、オレの勝ちのようだな(ニチャァ)。
「まったく貴方は……もういいです。私も恩人にこんな態度を取るのは不本意です。それに、貴方に助けていただかなければもっと酷い目に遭っていたでしょう。今回はそれに免じて特別に許します。いいですか! と・く・べ・つ・に、です!」
「あーはいはい。不可抗力とはいえ反省してますよ。というか、文句の前にオレに言うことがあるんじゃないのか?」
「うっ、それは……」
女のあんな姿を見てしまったオレも悪いとはいえ、わざわざ助けてやったのに感謝よりも先に不機嫌のなられるのは納得がいかない。別にその程度でキレ散らかすほど器は小さくないが、少しイラッときてもそれは仕方ないことだろう。
そんな不満をオレが遠回しに告げると、どうやらリリアーナの方もその自覚はあったのだろう。あからさまに、ついあんな反応をしてしまって引っ込みがつかなくなったみたいな感じで狼狽え始めた。
そして再び顔を真っ赤に染めてから、こちらをチラチラ見ながら恥ずかしそうに呟く。
「あ、ありがとうございます。嬉しかったです……」
なんか思ったのと違った。
個人的には羞恥心を感じながらも、助けられた感謝を言わなくてはならない"くっ殺展開"を期待してたのだが、なんか妙に甘酸っぱい感じで返って来た。
こうなんというか……普段は凛とした女の子の弱い部分を見たような。ギャップを感じる何かが今のリリアーナにはあったのだ。だからだろう、想定外の反応にオレも「あー……どういたしまして」としか返せなかった。
「まあ、そんなどうでもいいことは兎も角、姫様には個人的にも聞きたいことがあったんだ。時間少し貰えるか?」
「どうでもいいって風磨さんが強要したんじゃないですか。もう、貴方って人は……。それで、何が聞きたいんです? パーティーまで時間もありますし、しばらくは大丈夫ですよ」
「おっ、そりゃあ助かる。じゃあ早速聞くが……」
これ以上は流石に気まずいため、オレは無理矢理にでも話題を変える。とはいえ、これも嘘じゃない。帝城の探検のついでではあるが、リリアーナに聞きたいことあったのは本当だ。まさかレイプ未遂の現場に遭遇するとは思いもしなかったけど。
オレがわざわざ何を聞きたいのか? そんなもの決まっている。
「さっき話してた"破滅の巫女"ってのは……一体なんだ?」
「それは……」
こちらの問いに対し、リリアーナは押し黙った。もしかしたら聞いてはいけないことだったのかとも思ったが、先程ガハルドが大人数の前で口にしていたのだからそれは考えられない。
「それが何かは知らないが、話の流れ的にオレの容姿に関係するものなんだろ? だったら教えてくれ。オレは自分自身のことをあまりにも知らなさすぎる。どうして自分がこんな顔をしてるのかも分からないくらいなんだ。この顔が嫌ってわけじゃないが、何かしらのヒントをおまえが持ってるなら教えて欲しい」
「……そうですね。分かりました、話しましょう。ただ、この話を聞いても風磨さんの求めるものではないかもしれませんし、そもそも真実かも分かりません。それでもいいですか?」
「話半分ってことだな。オーケーだ。そういうの得意だから任せとけ」
「そこに得意不得意ってないですよね……」
先程までの羞恥が完全に収まり、冷静さを取り戻したリリアーナは、少し迷いを見せつつもオレの望む答えを返してくれた。
「"破滅の巫女"は、この世界に広く伝わっている御伽噺の一つです。過去に実在したと言われる一人の王族。神の祝福を受けながら、神を裏切った少女。その生涯を物語としたものです――」
そしてリリアーナは語り始めた。とある少女が深く関わった神話の物語を。
〇
むかしむかしの大昔。まだ魔法という力がトータスに広まり始めたばっかりで、神と人間が今よりも身近な関係にあった時代のお話です。
とある国に、アルドロメアという美しいお姫様がいました。
アルドロメアはとても美しい少女です。その美貌は男女問わず世界中の人々を魅了し、「自分こそが彼女の夫に相応しい!」と求婚者が絶えることはありませんでした。
中でも、貴族や王族といった尊い身分の人達は、特別彼女に惹かれていました。アルドロメアを手に入れるためには手段を選びません。賄賂を渡し国そのものを手に入れようとする者、恋敵を殺害し続けた者、勝手に夫を名乗り彼女を自国へと連れ去ろうとする者、挙句の果てには戦争を仕掛け奴隷でも構わないと力づくで手に入れようとする者まで現れました。
しかし、アルドロメアは誰が相手でも結婚を受け入れることはありません。なぜなら、彼女は既に次期国王に選ばれていたからです。
アルドロメアには3人の兄姉と1人の弟がいます。ですが、年齢や性別よりも王としての器を最重要視するアルドロメアの家系は家族でありながら同時に、その誰もが次期国王の座を狙う
最初の次期国王最有力候補は長男である第一王子でした。しかし、アルドロメアが物心つき始めた頃、その才覚を発揮することで立場はあっという間に入れ替わりました。まだ幼いにも関わらず、勉学、戦闘技術、容姿、性格、その全てが兄弟達の中でずば抜けていたのですから。
まさに【神に愛された子】と、国王はアルドロメアを次期国王にすると宣言した際、民の前でそう口にしました。
とはいえ、幼いアルドロメアに国の未来を任せることを不安に感じる民も少なくありません。しかしそんな不安も、彼女の国に対して献身する姿を一度でも見てしまえば、考えを変える他ありませんでした。
いついかなる時も己より国を優先し、民の不満や要望を実際に対面して聞き入れ、未来の国王という責任ある立場に相応しい実力を身に着けるため勉学を怠らない彼女の姿は、民達に確かな希望を与えました。
勿論、だからといってアルドロメアが国王となることに不満を持つ者が消えるわけではありません。その筆頭として、次期国王最有力候補であった第一王子は実の妹に刺客を差し向けることすらありました。されど、アルドロメアの実力はその刺客を身一つであっさり撃退してしまう程のものだったのです。
国王として相応しい性格と知力を持ち、武人として名を上げられるであろう戦闘能力もありながら、なおかつ努力を怠らない。そんな彼女が国民達に認められるのはもう時間の問題だと誰もが信じていました。
ですから、アルドロメアは他国の王族に嫁ぐということができなかったのです。
国王となる彼女は国を離れるわけにはいきません。他国に嫁ぐなどもってのほか。『王妃にする』のではなく、『王配になりたい』者でなければ彼女と結婚する資格すらありませんでした。
されど、彼女に結婚を求める者は例外なく、傲慢にして強欲な王族ばかり。中には既に正妻がいる国王すらいました。そんな彼らが、自国での立場を捨てて婿としてアルドロメアの家系に入ることを許容するはずがなかったのです。
将来国王として国を導かなければならないアルドロメアとアルドロメアを自国に妻として迎え入れたい王族とでは、意見が重なることはありません。それが、アルドロメアがいつまでも結婚を受け入れなかった理由でした。
それから時は進み、アルドロメアが17歳の時、事件は起きました。なんということでしょう。国一つを軽々破壊できるような巨大な怪物が、彼女の暮らす国に襲い掛かってきたのです。
怪物を倒すため、多くの者が戦いました。その中には歴戦の戦士や名を馳せた兵士も少なくありません。しかし、怪物には敵いません。どれだけ強力な魔法を放とうとも、どれだけ優れた武器を振るおうとも、お城よりも大きな怪物には手も足も出なかったのです。
なすすべはありません。数多くの民家や施設が破壊され、数えきれない民達が命を落としました。
そして怪物はひとしきり暴れ回った後、とある言葉を残して去っていきました。
"この国で一番の美女を生贄として我に捧げろ。そうすれば、これ以上この国に手出しはしない"
国一番の美女、それは疑いようもなくアルドロメアのことだと誰もが理解しました。なんと怪物はアルドロメアを捧げさえすれば国を見逃すと言ったのです。
普段の国民達であれば、そんな条件受け入れるはずがありません。アルドロメアがどれだけ国のために尽くしてきたか、それをよく知っているからです。ですが、国中が破壊され、多くの戦士達を失った人々に反抗できる勇気はありませんでした。
誰も口にせずとも、誰もが思いました。
"アルドロメアを生贄にしろと"
唯一抵抗したのは、国王と王妃でした。次期国王を失うわけにはいかないという使命と、親として娘を守りたいという感情が2人を動かしたのです。しかし、もうどうしようもありません。娘を怪物に捧げなければ、もう一度怪物はやってくる。そして今度は迎え撃つ戦力もない。今度こそ国は滅びてしまうでしょう。
娘を怪物に捧げる冷酷さはなく、国と最期を共にする覚悟もない。王といえど、彼らはとても人間でした。笑い、泣き、喜び、嫉妬し、驕る、どこにでもいる人間だったのです。そのせいで、愛していた国民達が困り、国がなくなろうとしているというのに選ぶこともできません。
だからでしょう。アルドロメアはごく自然に彼らに告げました。王の娘として、たった一つしかない国を救う方法を。
"悩む必要はありません。私を怪物に捧げてください"
これには両親も言葉を返せませんでした。国に命を捧げる。ある意味『理想の王』ともいえる姿を娘に重ねてしまった彼らは、本当の意味で理解しました。アルドロメアが、王になるべくして生まれた娘だということを。
その一言がきっかけとなって、アルドロメアは生贄として怪物に捧げられることが決定しました。
それから更に数日が経ちました。
身を清め、真っ白な服に身を包み、逃げられないよう手錠をかけられたアルドロメアは怪物が生贄の捧げ場所として決めた場所に向かいました。勿論、守ってくれる人なんていません。一人っきりです。
しばらくして、約束通り怪物はやってきました。その大きな体がゆっくりと動き、ズシンズシンという足音がどんどん近づいてきます。逃げることはできません。戦おうだなんて考えてすらいけません。アルドロメアは、全て諦めて覚悟を決めました。もう助からない。それは彼女も分かっていたことでしょう。
しかし、奇跡は起きたのです。
突如、一人の青年がアルドロメアと怪物の前に現れました。不思議な青年でした。次期国王である彼女ですら見たことのない綺麗で豪華な衣装に、対面しただけでも感じられる王族以上の圧倒的な気品。アルドロメアは青年が何者であるかは分からずとも、只者ではないと分かったはずです。
そして青年はまだ世界に浸透しきっていない強大な魔法を容易く扱うと、あっという間に怪物を倒しました。これにはアルドロメアも驚いたでしょう。驚きのあまり、腰を抜かしてしまったくらいです。そんな彼女に青年は優しく手を差し伸べ、手錠を破壊すると、自分の素性を語ります。
青年の名はトルジュエ。驚くことに、彼は"神の使徒"だったのです。
当時、トータスではあらゆる国々で、数多くの神やその使徒が姿を見せることがよくありました。トルジュエもその一人――"最高神エヒト様"の使徒であると名乗りました。
彼の目的はただ一つ。人でありながら、神に仕える"巫女"の天職を持ったアルドロメアを守ること。
その時代はまだ"天職"という概念すらはっきりしておらず、天職とは異なる職を極めようとする者も少なくはありません。それでも、巫女という役職が神に仕えるものであるということだけは、アルドロメアも知っていました。
巫女は幼き頃からあらゆる才に恵まれ、努力を怠らず、その才を磨き続けた者だけが神に仕えることを許される特別な天職です。しかし稀に、神に仕えるに相応しき巫女が悪しき者によって命を奪われることがあります。そんな巫女を神の代わりに守護する。それが神の使徒の役目であると、トルジュエは語りました。
自分が神に仕えることのできる人間だと聞いたアルドロメアはとても嬉しかったことでしょう。怪物が倒されたこと、トルジュエが神の使徒であること、自身が巫女であることを伝えるため、彼女はトルジュエを連れて国へ帰ることになりました。
その日の国は大騒ぎです。だって、もう帰ってこないと思われていたアルドロメアが戻ってきたのですから。しかもそれだけでなく、一緒にいるのは使徒様で、怪物は使徒様に倒され、アルドロメアは神に仕えることを許された人間で……誰もが混乱を避けられませんでした。
ですが、国民達はアルドロメアの無事を喜んでいました。これだけは間違いありません。
それから更にしばらくの年月が経ち、アルドロメアの暮らす国には平和が訪れました。
怪物が倒された後、アルドロメアは本来の予定通り、国王になりました。女性の王というのは初めてでしたが、誰も反対する者はいません。誰もが彼女が強く、優しく、誇りある王族であると知っていたからです。
ですが反対する者が出なかった理由はそれだけではありません。昔と違い、アルドロメアには支える者がいました。トルジュエです。なんと、アルドロメアはトルジュエと結婚したのです。
あのアルドロメアの夫です。他国の王子の中にはそれを認めようとしない者もいましたが、それが"エヒト様の使徒"であると分かれば、誰も文句は言えません。そして彼は王族ではありませんが、気品があり、自分の支配する国があるわけでもないので安心してアルドロメアは国王としての役目を果たせます。彼女にとっても、国にとっても、国王を夫として支える相応しい相手だったのです。
そんな二人の結婚式は前国王も盛大に祝い、国中が盛り上がった記念日の一つになりました。いつの日か、アルドロメアが巫女として神様の世界に向かう時、2人は国から去ってしまうでしょう。それが分かっていながらも、2人の幸せを願わない者は誰一人としていません。
優秀な国王のおかげで豊かになり、使徒様から直々に広められた魔法によって国は更なる発展を見せ、国全体に張られた結界で国外の敵意に襲われることもなく、誰も傷つくことのない幸せな平和。それが国にはありました。
しかし、悲劇とは唐突に訪れるもの。
それはちょうどアルドロメアとトルジュエの間に子供が生まれ、国中がお祝いの準備をしていた日の夜のことです。
"エヒト様"が天から降り立ちました。
そしてエヒト様は驚きのあまり呆然とする国民達へ告げました。
"お前達の王、アルドロメアは許されざる罪を犯した。夫であり、私の使徒でもあるトルジュエの不意を突き、命を奪ったのだ。これは許されざることではない。命をもって償うべきだ。そしてそれはアルドロメアを王と従うお前達も同罪、天罰を下さねばなるまい"
それは国王であるアルドロメアが神の使徒であるトルジュエを殺害したことに対する怒りの言葉でした。あの優しいアルドロメアが夫を殺すとは誰もが信じられませんでしたが、エヒト様が嘘をつくはずがありません。国民達は泣き叫び、祈りを捧げ、救済を求めます。中には、アルドロメアに対して怒りを向ける者もいたはずです。
神の使徒を殺害する。それは許される行いではありません。国ごと滅んでも仕方のない罪です。しかし、エヒト様はとても優しいお方。国民達の声に耳を傾け、一度だけチャンスを与えてくれました。
"お前達の気持ちはよく分かるとも。私も罪を犯していない大切なお前達を殺したくはない。そこで一つ、贖罪の機会を与えよう。日が昇る前に、大罪人アルドロメアを殺し、その首を私の前に持ってこい。そうすれば、お前達の罪を許すと約束しよう"
エヒト様が与えてくれた機会に、国民達は喜びの雄叫びを上げ、王城へと攻め込みました。目的は決まっています。あれほど国に尽くしてくれたトルジュエを殺害し、今なお国を滅ぼそうとしているアルドロメアの命を奪うためです。
迷いは誰にもありません。きっと、今まで国民達に優しかった彼女の姿は全て嘘だったのでしょう。卑劣で極悪、それがアルドロメアの本性だと信じて疑いませんでした。――だって、エヒト様が嘘を吐くはずがないのですから。
そしてその気持ちは国民だけでなく、お城の兵士、アルドロメアの兄弟、前国王と前王女も同様の感情を胸に抱きアルドロメアを探しました。
全国民が探しているのです。勿論アルドロメアに逃げ場などありません。すぐに見つかり、国民達は正義を為すために各々が武器を手に襲い掛かりました。
ですがどういうことでしょう。アルドロメアは罪を認めて受け入れるどころか、抵抗してエヒト様の元へ向かおうとしたのです。国を巻き込んだ罪を犯したというのに、反省するつもりもない彼女の行動に誰もが怒り狂いました。
それからアルドロメアと国民達の戦いは続きました。罪人ではありますが彼女の天職は巫女、普通の人間の何倍もの強さを持っています。一人、また一人と国民達が倒されていきます。どうしてか命を奪うことはしませんでしたが、きっとその余裕がなかったのでしょう。
普通の国民どころか兵士すら軽々と倒すアルドロメアでしたが、相手の数がやはり多かったのでしょう。出産してからそれほど時も経っておらず、肉体が衰えていたことも理由の一つですが、彼女は徐々にですが押されていきました。それでもアルドロメアは倒れません。
魔法を体中に浴びせても、腕を斧で切断しても、眼球に槍を突き刺しても、心臓を矢で射抜いてもなお、アルドロメアは戦い続けたのです。もはやその姿は化け物で、国民達は憎しみよりも恐怖で顔を歪めたはずです。
そんな時間がしばらく続き、四肢を全て切り離し、魔法や武器で体中に穴を空けたところで、アルドロメアの動きはようやく止まりました。そんな状態にも関わらず、未だ生きていた彼女にとどめを刺そうとしたその時、終わりを知らせる声が届きます。
"残念だが、もう時間だ。お前達の努力は評価するが、どうやらその女は余程お前達を道ずれにしたいようだ。本当に申し訳ないが、お前達には天罰を与えなければならない"
外を見ても、まだ日は登っておらず暗いままでしたが、きっとエヒト様には日の光が見えているのだろうと、誰もが絶望しました。
膝をつき涙を流す者、全てを諦めて意識を手放す者、もう動かなくなったアルドロメアの首を断ちエヒト様に掲げて助けを乞う者、様々の者がいましたが結果が変わることはありません。
数秒後、エヒト様によって放たれた光の魔法によって国は国民諸共破壊されました。
こうして、長い歴史を紡いだ一つの国が終わりを迎えました。今では、その国の名前もあった場所も誰も知りません。それでも私達は忘れてはいけないのです。愚かにも神に逆らった一人の王族の物語を。
どんな形であれ、彼女の存在は語り継がれることでしょう。
国を破滅へ導いた神に仕えるはずだった王族。
『破滅の巫女』――として。
〇
「――と、大まかにはこんな感じです」
まるで台本があるんじゃないかと思えるくらいに、スラスラとその物語を語ったリリアーナは、そう締めくくって話を終えた。
御伽噺であるというのに、ハッピーエンドで終わらない。そんな『破滅の巫女』の物語にちょっとした新鮮さを感じつつも、仁は派手な反応を見せることもなく顎に手を当てて考え込む。そして数秒後、真っ先にその感想を口にした。
「結構長かったな」
「……はい?」
笑顔をまったく崩さず、額に青筋を浮かべてリリアーナは仁を睨む。間違いなく怒っているということは仁にも分かった。だがその反応も当然だ。自分から聞かせて欲しいと頼んだにも関わらず、いざ話せばクレームを入れられたのだ。彼女には怒る権利がある。
「悪い悪い、冗談だよ。そんなに睨むな」
女がキレたらとりあえず謝る。過去に八重樫を怒らせた経験から即座に謝罪を選んだ仁は間違っていなかった。とはいえ、仁の言い分にも共感できる所があるのも事実だろう。確かに自分から求めたくせに長いからと文句を言った仁が100%悪いが、口頭で語るにしてはその物語は実際長かった。
勿論、そこに理由は存在する。彼女の語った『破滅の巫女』は世界全体で見ればそこそこ有名な御伽噺の一つでしかないが、王族にとっては少し特別な意味を持つ。
この物語は書籍として現代に受け継がれており、主に教会が新たに生まれた王族へ"エヒト神の偉大さを示す物語"として贈られることに使われている。
それはつまり、この物語が実際に起こった歴史であると教会が保証し、興味がなくとも王家に生まれた者は幼い頃から『破滅の巫女』を教え込まれるということだ。神に逆らった過去の王族の末路を。未来の王族にその恐怖を植え付けるように。御伽噺に興味がなさそうなあのガハルドですら知っていたのだから、王族限定でその知名度は相当のものだったのだろう。
リリアーナも王族の一人である以上、『破滅の巫女』は幼い頃から読まされていた。ただ彼女の場合は無理矢理読まされていたというよりは、純粋のその物語を楽しでいたのだ。まあ、愛読者というやつだ。
とはいえ、リリアーナも夢見る少女の一人。ハッピーエンドでない物語自体はそれほど好みではなかった。では何が彼女の興味をそそったのか。それは、主人公であるアルドロメアの王族としての生き方に他ならない。
高貴な身分に生まれ、才能に恵まれながらも努力は怠らず、女であるというのに王の座へ着いたアルドロメア。王族で女という共通点を持つリリアーナにとって、彼女の生き方はラストを除けば、理想そのものだった。
故に、リリアーナは『破滅の巫女』を読み込んだ。それこそ、内容を丸暗記してしまうくらいには。
ここで最初の何故リリアーナの話が長くなったかについて戻るが、まあよくいるだろう。自分の好きな分野の話になると、長文かつ早口で語り出す奴。要するにリリアーナはそれだったのだ。自分の好きな物語について聞かれ、つい内心ウキウキとして語りすぎてしまったのだ。
そんなことは勿論知らない仁は「それよりも――」と無理矢理に話を本筋へと戻す。
「一体この話がどうオレに繋がるんだ? ガハルドやおまえがオレの容姿を見てその物語を連想したってことは、どこかにオレの容姿に関する何かがあるってことだろ。今のところ、そういうのはなかったみたいだが?」
元々、仁がリリアーナに『破滅の巫女』について尋ねたのはガハルドとの会話から自分の顔が変わってしまった理由を知る為でもある。しかし、語られた話は矛盾点があまりにも多く、神に都合の良すぎる展開であったものの、仁は当然として魔人ブウの登場シーンすらない。
「そうですね。直球に言いますと、似てるんです。破滅の巫女であるアルドロメアと風磨さんが……」
「なんだって?」
想定を裏切る返答に、仁は訝しげにリリアーナを見つめる。
「これは王家に連なる者と教会関係者しか知らないことですが、実はアルドロメアには肖像画が残されているんです」
「肖像画が残ってたらそれはもう御伽噺でいいのか……」
教会が王族に贈る『破滅の巫女』は市販されているものとは異なり、かつての時代にアルドロメアに魅了された者の一人が残した肖像画の写しが表紙として使用されている。当然、それを実際に所有しているリリアーナはそのことを知っていた。
だからこそ、以前リリアーナは仁の顔を見て違和感を感じたのだ。どこかで見たことがある顔だと。
「最初にあの姿を見てしまってすぐには気づけませんでしたが、皇帝陛下に言われてようやく納得がいきました。何しろ昔の話ですので色はありませんが、間違いなく彼女の顔は風磨さんと酷似しています」
リリアーナが今の仁と初めて出会った瞬間、それはまだ裏切ったとは知らない恵理が殺されようとしていた瞬間だった。王国は魔人族に襲われ、傀儡となった兵士や騎士達が裏切り、クラスメイトは倒れ、もう色々と大変な状況であったあの時のリリアーナに、仁の容姿のことなど考えている余裕などあるはずがない。
それに加え、初対面時のピンクの印象があまりに強く残り過ぎていたことも、違和感の正体に気づけなかった理由の一つだろう。
「一応聞くけど、その肖像画を今持ってたりしない?」
「すいません、今は……」
「ま、そうだよな。王国の危機で帝国との婚約パーティーだ。そんなもん持ってくるわけがないか」
状況的にありえないとは分かっていたが、それがすぐに手に入る物でないと分かると、仁はあからさまにガッカリとした反応を見せる。自分の秘密を知れるチャンスを逃したのだから仕方ない。せめて、王国にいた時にこの話題が出ていれば話は違ったのだろう。
口にしなくとも、その動作から仁が落胆していると分かったリリアーナはある提案を切り出す。
「よろしければ、私からガハルド皇帝陛下に『破滅の巫女』を貸していただけるよう頼みましょうか? また王国に戻るのも手間でしょう」
「んー……それが出来れば一番だけど、あの皇帝がタダで貸してくれるとも思えないんだよな。それにオレあの変態嫌いだし。悪いが却下で頼む」
「ははは、あんなことがあれば仕方ないですね……」
結構本気で嫌がっている仁に、先程の謁見での会話を思い出したリリアーナが苦笑いを浮かべる。確かにあの対応は自分でもやられたら嫌だとでも思ったに違いない。
「まあ、別に急いで知りたいってわけでもないから、また王国に寄った時にでも見せてくれ。ちゃんと礼はするからよ」
「別にお礼はいりませんが……いえ、そうですね。貰えるものがあるのなら貰った方がいいですよね。今更風磨さんに遠慮するのもおかしな話です」
「そういうことだ。何を礼にするかは考えておくよ」
こうして二人の話が纏まり、「さて、これからどうしよう」という展開に入ろうとしたところで、仁とリリアーナは近くから聞こえる「んん……」という男の唸るような声を耳にした。
「あっ……」
「そういやいたなこいつ……」
そこで二人は思い出す。この部屋にいたもう一人の存在を。というかぶっちゃけ、仁がここに来るに至った元凶を。
破壊された扉の下敷きとなり、ようやく意識が浮上し始めたのか痛みで唸り始めた男――皇太子のバイアスである。完全にバイアスの存在を忘れて話し込んでいた2人は、気まずそうな顔で下半身を扉に潰された男に憐れな視線を向けている。
「なあ姫様、コレどうする?
「こんなのでも一応この国の次期国王ですのでやめてあげてください。それにしても、どうしましょう。このまま何もなかったことにするわけにもいきませんし」
多少リリアーナの言葉にも遠慮がない気はするが、2人はバイアスに近づき、どうやって仁のことを黙らそうかと頭を悩ます。そうこうしている内に、ついにバイアスが意識を浮上させていき目を開けた。
「っ…………は? なんだこれ。足が挟まって……っ!? おい、リリアーナ! これはどういうことだ、説明しろ! いや、それよりも早く俺を助けろ!」
「なんというか、憐れな男だな。こんなのがおまえの婚約者なのか。やっぱり王族っていうのも大変だな。あの皇帝の誘いを断ってマジ正解だったぜ」
「あまり言わないで下さい。私が悲しくなります」
「無視するんじゃねぇ! 俺は皇太子だぞ、お前はただ俺の命令に従ってればいいんだよ! そっちの女もだ! さっさとコレをどかせろ! 所詮は女なんて、子を孕むただの袋だ。俺の役に立てることを光栄に……思っ……て…………」
頭でも打ったのか、混乱しているバイアスは下半身に乗っかった扉をどかせと助けを求める立場だというのに仁とリリアーナを怒鳴りつける。しかし、仁に視線を移してその顔を視界に入れた途端、いきなり呆然として部屋は静まり返った。
なんとなく、本当になんとなく仁にはこの先の展開が読めた。というかもう慣れてしまった。いつもの
「はっ、随分といい女じゃねぇか! おい女、俺を助けてやったら特別に妻にしてやっても――あぎゃぁ!?」
「あーはいはい。分かった分かった。この展開ね」
さっきまでの怒りを収め、ニヤニヤとした笑みを浮かべるバイアスの顔面を仁は正面から掴んで握りしめる。仁にとってはもう何度もやった展開だ。王族とは皆こうなのかと溜息を吐きながら力を強める。
少ししゃがんだ体勢でバイアスの頭を掴む仁と、ミシミシメキメキと鳴ってはいけない音が頭から鳴り始めて悲鳴を上げるバイアス。そんな2人を見て、流石にこれ以上は危ないとリリアーナが止めに入った。
「風磨さん、これ以上はいけません! 王族殺しは重罪ですよ!」
「安心しろ、殺すつもりはない。今からするのはただの"実験"だ」
「え……はい? 実験?」
悲鳴を上げるバイアスを見て憂さ晴らしは済んだのか、仁は少し力を弱めると、ある"
「ぐぁああああ……っ!!」
「な、なにをしてるんですか……」
直後、バイアスの悲鳴が部屋中に響き渡る。だがそれは痛みよるものではなく、何かに恐怖したことが原因の悲鳴だった。それが仁によって引き起こされていることはリリアーナもすぐに理解できた。むしろそれ以外には考えられない。しかし、何をしたのかがまったく把握できずに戸惑いを隠せずに狼狽えてしまう。
リリアーナも勇者パーティー程ではないとはいえ、魔法の扱いには長けている。そんな彼女だからこそ分かった。今、仁が魔法を発動しているわけではないということを。それでもバイアスの身に起こる異変は続いていく。
「心の内にある邪心を利用し、意のままに操る。まずは第一段階成功ってところか。そうだな。ついでに、秘めてるパワーを限界を超えて引き出してやろう」
「うわああああ……!!」
バイアスはその体にどす黒い"気"のオーラを纏わせ、雄叫びを上げながら自身を潰していた扉を筋力だけで吹き飛ばす。その突然の異変にリリアーナは「きゃあ!」と悲鳴を上げて倒れそうになるも、仁がバイアスに魔術を仕掛けたまま腕を伸ばして抱き寄せたことで転倒を防ぐ。
仁に抱き寄せられたリリアーナは顔を真っ赤にして口をパクパクと開けたり閉じたりを繰り返している。その顔はもう完全に乙女の顔だ。
普段であれば、皇太子がこれほどの悲鳴を上げれば帝城にいる兵士が即座に飛んできてもおかしくない。しかし、バイアス自身がリリアーナを襲うために用意した部屋の仕掛けによってこの部屋の音は非常に漏れにくくなっている。彼は自ら助けを呼ぶ機会を潰したのだ。まあたとえ兵士が来ようとも、相手が仁ならば意味はないだろうが。
それからバイアスの叫びがしばらくの間、部屋中に響くと、突如バイアスの動きが不自然に止まった。それを確認して、仁はニヤリと笑みを浮かべてから掴んでいた手を離す。
「風磨さん……一体何を……」
「まあ見てな」
困惑するリリアーナに一言かけ、仁は荒い息を繰り返すバイアスに告げた。
「跪け」
次の瞬間、リリアーナは唖然とした。なぜなら、あのバイアスがまるで仁の命令に従うように無言で跪いたからだ。信じられない光景に言葉を発することもできない。
だってあのバイアスだ。傲慢という言葉に相応しい性格であり、誰かの下につくことなど考えもしないあの男が……見た目だけならば女の仁に忠誠を誓う騎士のような体勢を取っている。それはきっと、親のガハルドですら驚愕するものだろう。
「さあ、おまえは何者だ。嘘偽りなく答えろ」
「はあああ……分かり、ました……」
仁の問いかけに応えるように、バイアスは顔を上げる。その姿は以前とは見違えるほどに変化していた。髪は色素が抜け落ちて真っ白に染まり、体中の筋肉は膨れ上がっている。息は荒く、頭の血管が浮き上がり、まともな状態でないことは誰にだって分かるだろう。
「私の名はバイアス・D・ヘルシャー――」
そして何より、
「
その額には、不気味な"ℳ"の文字が描かれていた。
破滅の巫女~簡易バージョン~
アルドロメア「私は世界一の美人です。将来王様になるために頑張ってます!」
怪物「グへへ、おっ、なんかこの国に凄い美人いるみたいじゃん、頂戴。くれなかったら国滅ぼすから」
アルドロメアパパン&アルドロメアママン「「やっべ、どうしよう……」」
アルドロメア「しゃーない、私が生贄になったる!」
トルジュエ「怪物倒しました。お姫様助けました。私はお姫様守るために来た神の使徒です。結婚しましょう」
アルドロメア「トゥンク……」
~しばらくたって~
エヒト「あの女俺の部下殺したから罪人ね。ついでに国の奴らも全員連帯責任だから殺すね。生きたかったらアルドロメアの首を朝までに持ってこい」
国民達「「「「「アルドロメアぶっ殺す!!」」」」」
アルドロメア「なんか国民達襲ってきたんだけど、とりあえず反撃しよ」
エヒト「まだ朝になってないけど、とりあえず全員殺すか」
~終わり~
なんか色々とツッコミどころ満載な御伽噺。ちなみに出版社は教会とのこと。
ヒロイン入り? リリアーナ
仁に救われた原作サブのサブなヒロイン。
放置していてもハジメ君の蜘蛛で救出されていたが、偶然近衛騎士達が仁に助けを求めたことで運命が狂ってしまう。元から、危機を救われれば惚れてしまうようなチョロインなので、結構サクッと惚れる。まだ仁には完全に惚れてはいない。ただ時間の問題だろう。
一国の姫で、戦いも可能、しかも14歳という異世界系のヒロインとしては悪くない設定なのだが、惚れた相手が悪く原作ではハーレムの隅っこにいるキャラに。同情した作者がハジメヒロインから外そうとは考えたものの、「あ、こいつ誰かに惚れさせないと絶対ハジメに惚れるな」という思考から仁に押し付けられた。
初期案では、清水とくっつけるルートもありはしたが、これ以上清水を連れるのは少し大変であったためボツとなった。
ハジメの代わりにリリアーナを助けたことで、少し面倒な状況に近づいているオリ主。
『破滅の巫女』の話を聞きに来ただけなのに、リリアーナを助け、部屋の扉を壊し、皇太子を吹っ飛ばし、なんか下僕をゲット。本人が一番「なんでこうなったんだっけ?」と思っている。
ハーレムになるか、誰か一人を選ぶかはまだ未明。作者的には一途で頑張ってほしい。
仁が人を助ける理由
雫は『助けを求められること』と断言したが、正確にはこれは満点ではない。仁は確かに助けを求められれば基本は助けるが、普通に嫌いな奴は見捨てることもある。例:恵理
また清水のように助けを求められてはいないが、助けを求められる状況にない知り合いも普通に助けることはある。
他にも、自らの手で問題を解決しようとするハウリア達のような場合は、その覚悟を認めて手を貸してやることに躊躇いはない。
ぶっちゃけ、ただのお人好し。
それでもリリアーナのように助けを求められる立場にありながら、自分の中で抑え込んで我慢している者の場合、自己責任として仁が積極的に助けにいくことはない。そこで動いてしまえば、天之河と同レベルになってしまう考えているから。
不憫皇太子 バイアス
額にオシャレなℳのタトゥーがついた皇太子様。
多分死ぬ。