ピンクの魔人と共に   作:クー(無課金勢)

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ごめんなさい。まだジャネンバ出てきません。


快楽の試練

 ついに3度目となった魔方陣の転移によってオレ達が飛ばされた次なる場所は、最初の転移の時と同様、樹海の中だった。とはいえ、高さと広さは前回ほどじゃない。どうやらこの大迷宮は進めば進むほど狭くなっていく仕組みらしい。まるで先にいくほど狭まる樹の根のようだ。

 

 数多くの樹々に囲まれた樹海を見渡していると、奥に一際大きな樹がそびえ立っているのが見える。安直に考えれば、あれが新たな転移陣のある場所と考えていい。本当に安直で、罠の可能性を一切考慮しなければの話……だが。

 

「今回は全員いるみたいだな」

「良かったな。やっとまともなスタートってわけだ」

「それは同感だが油断するなよ。いくらお前でも足元を掬われるかもしれないぞ?」

「忠告感謝しとく。でもオレより気の抜けてる奴がいるんじゃないか?」

「……まあな」

 

 見渡せる限り見渡しても初手の嫌がらせはなく、偽物がいるわけでも姿を変えられたわけでも、変な夢を見せられてもいない。1度目と2度目の転移直後と比べれば随分と順調な滑り出しだった。気になることがあるとすればただ1つ……既に目標(ゴール)が見えてること。

 

 怪しい。あからさまに怪しい。まるで自己主張の強いミミックだ。普通なら避けた方がいいんだろうが、残念ながらそこ以外にゴールっぽい場所はない。そもそもオレ達には選択肢がなかったわけだ。

 

 魔物の襲撃やトラップに警戒しながらオレ達は進む……が、あからさまに暗い雰囲気を醸し出す奴が、2人。

 

「「……」」

 

 天之河と谷口だ。

 

 原因については大体想像がつく。さっき夢から目覚めた時の様子を思い出せば、谷口はまだ夢の世界に想いを寄せ、天之河はそんな夢を打ち払えなかったことを悔やんでるとかだろう。

 

 それ自体は別にどうだっていい。過去へ縋るのも、失態に後悔するもオレが否定することじゃない。だがオレやハジメが近くにいるとはいえ、いつ死んでもおかしくないこの現状で別のことを考える余裕がこの2人にあっていいはずがない。

 

「天之河、谷口……躱せ、死ぬぞ」

「え……うわぁあ!?」

「きゃぁあ!!」

 

 呆れたオレは2人の間を通り抜けるように指先から光線を放つ。

 

 元から当てるつもりなんてなかったが、至近距離を人体程度ならば容易く貫く光線が通り過ぎ、天之河と谷口は驚きのあまり尻もちをついた。あまりに情けない姿にオレが呆れていると、仲間想いではあるが短気な坂上が怒鳴りにも近い声を上げた。

 

「おい風磨! テメェなんでいきなり光輝と鈴を攻撃しやがった!!」

「黙ってろよ坂上。安心しろ、元から当てるつもりなんかないっての。ただなあ、まさかあんなぬるい攻撃を躱そうともしないとは……おまえら、やっぱ大迷宮ナメてるだろ?」

「なっ、そ、そんなわけないだろ!」

「そ、そうだよ!」

 

 天之河と谷口は揃って言うが、あからさまに動揺した様子を見れば真実は明らかだった。坂上でさえ目で追えてるのに、こいつらはそもそも反応すらできてない。それが何よりの証拠だ。

 

「実力が足りないことは責めない。生半可な覚悟で来たことも許そう。だがな、理由がどうあれ油断はするな。少しでも気を抜けば死ぬのはおまえらだぞ。それでも集中できないっていうなら邪魔だから先に帰ってろ。見ててイライラする」

「ま、まて、俺は……」

「どうせさっきの試練のことを未練たらしく引きずってんだろ。別にそこに怒ったりしないさ。勝手にしてればいい。反則技でクリアしたオレには文句を言う権利はないからな。ただ反省にしろ後悔にしろ、帰ってから1人でやれ。生きたいなら……いや、死にたくないのなら絶対に気は抜くな」

「……俺は」

「選べ。このまま足手纏いでもついて来るか、安全な地上にさっさと帰るか。安心しろ、どっちにしろオレはおまえ達に期待しない」

 

 【オルクス大迷宮】表層でさえ苦戦していた天之河達がオレ達の戦いについていけないなんてことは分かり切っていた。だからオレはそんな今更なことで文句は言わない。オレ自身、ブウの肉体がなかったらきっと谷口より弱い。だったら、それを自分の強さとして誇り、天之河達を弱者と嘲笑うのは間違ってる。

 

 だがそれでも、1秒先には死が待ち構えてもおかしくないここで、実力を弁えず油断するのは違う。それは強い、弱い以前の問題だ。そんな愚行は以前のオレでもしなかった。だからこそ、オレは腹が立っていた。

 

 自分から望んで死地にやってきたというのに、勝手にミスして勝手に落ち込む。失敗を失敗として受け入れた上で仕方ないことだと切り替えた坂上の方が遥かに好感が持てる。

 

「くっ……」

 

 辺りを静寂が包んだ。天之河はギリギリと歯を食いしばりオレを睨んでくる。その顔からは、後悔、屈辱、怒り……そして嫉妬の感情が見えた。自分自身への怒りは勿論あるみたいだが。今の天之河からはそれ以上にオレに対する拒絶が感じられる。

 

 いつ襲い掛かってきても返り討ちにできる準備はできていたが、その後天之河は1度深呼吸をして、なんとか落ち着きを取り戻した。そして鋭い目つきでオレを見つめ返す。

 

「風磨。もう大丈夫だ。俺は先に進む! 足手纏いでも構わない!」

 

 気に入らないが、確かな返答を返した天之河にオレは納得し、今度は谷口へと視線を向ける。谷口は一瞬、ビクッと体を震わせたが直ぐに決然とした表情を見せると天之河と同様、こちらを真っ直ぐと見返した。

 

「鈴も行く。やる気十分だよ!」

「なるほど、それがおまえらの選択か。まあいい、勝手にしろ。足を止めさせて悪かったなハジメ。先に進もう」

「気にすんな。俺もこいつらの腑抜け具合にはイラついてた。仁が言ってくれなかったら俺が言ってた。謝る必要なんてねぇよ」

 

 順調に進んでいたというのに、この程度の笹事で足を止めたことに関してハジメに謝罪し、オレ達は再び歩みを進める。後ろの方では、天之河と谷口が坂上や白崎、八重樫に励まされていた。周りの助け。それがある内はとりあえず2人共大丈夫だろう。まあ、逆に言えばそれがなければ何をしでかすか分からないってことでもあるが。

 

 そうしてオレの忠告により、精神を持ち直した2人と共にオレ達は巨木を目指して真っ直ぐと進んだ。

 

 周囲はやはり大迷宮とは思えないくらい静寂で満ちている。魔物どころか、虫1匹姿を見せない。風すらもなく、葉擦れの音も聞こえない。辺りには、オレ達が草木をかき分ける音だけが響いていた。

 

「う~む、何だか嫌な感じじゃの」

「うん。何だか、オルクスで待ち伏せされた時みたい」

「確かに……魔物の気配も全く感じないな」

 

 ティオが眉根をしかめてポツリと零すと、白崎と天之河が嫌なことでも思い出したかのように同意し、緊張感と警戒心を更に高めた。前に八重樫から聞いた話によれば、天之河達勇者パーティーはかつて【オルクス大迷宮】にて魔人族に待ち伏せされ、全滅寸前まで追い込まれたことがあったらしい。

 

 その時はギリギリでハジメに助けられたようだが、その時の出来事が今の状況に酷似していたためトラウマとして呼び起こされたみたいだ。天之河と香織もどこか顔色が悪く見える。

 

 敵も罠もない。何もないからこそ逆に怪しく思えてしまう。恐らく、全員がその違和感に緊張していた様子だったが、ゴーレムを先行させていたハジメがこの先に異常はなく、感知系技能にも反応はないから今のところは問題ない、と断言すると皆がホッと息を吐いた。

 

「あー……残念、ハズレだハジメ」

 

 だがそれは違う。

 

「は? ……何がだ?」

「先行させたゴーレムが無事だから、感知に反応がないから。それだけで敵がいないと決めつけるのは早計ってことだ。……八重樫、分かるか?」

「えっ? えーっと……ごめんなさい。なんのこと?」

「……まあ、覚えたばっかだしそんなもんか。じゃあ、オレが正解を言っちまうけど――囲まれてるぞ」

 

 "囲まれてる"。その単語だけで天之河達を含めた全員が現状の危険性を把握し、全員の顔が強張る。そしてハジメ達を筆頭に各々が武器を構えた。

 

 最初にこの場に転移したその時、既にオレは気づいていた。気の扱いに慣れたオレでも集中しなければ見逃してしまうほど小さく、だが大量に潜んでいる魔物の気を。

 

「……来ない、のか?」

「まあ隠れてるしな。どうせ襲うタイミングでも計ってんじゃないか?」

「えっと、じゃあどうすればいいの風磨君?」

「うん? 襲ってきたところを殴ればいいじゃん」

「脳筋だ!?」

 

 敵に囲まれてるとは言ったものの、攻めてくる気配のない現状に天之河達は疑惑を感じたような顔を見せる。対してハジメ達は冷静だ。オレの言葉を信じ、常に警戒を張り巡らせてる。これが経験の差というやつだろう。

 

 ただ正確には囲まれてるというよりも、そこら中に敵がいるという認識の方が正しい。敵がこちらを狙って待ち構えてるんじゃなく、オレ達が敵の懐に潜り込んでしまったってわけだ。つまりは既にこの場は魔物のテリトリー。結果から言うと、迎撃を選んだオレ達は間違っていた。

 

「……ん? 雨か?」

「ほんとだ。ポツポツ来てるね」

 

 頭上に水気を感じる。まるで小雨が降ってきたかのような感覚であるが思い出して欲しい。ここは大迷宮という名の閉鎖空間。空など存在しない。

 

 当たり前なその事実にすぐに気づけたのはオレだけじゃない。ハジメ達や八重樫、天之河や谷口までもがその有り得ない事象に気づき、顔を見合わせ総毛立った。坂上は気づいてなかった。あのゴリラ……。

 

「チッ、ユエ!」

「……んっ、"聖絶"!」

 

 まさに阿吽の呼吸といったところか。異常をいち早く察したハジメの呼びかけに応じて、ユエがオレ達全員を覆うような巨大な障壁を展開する。その直後、オレ達へ向けて土砂降りの乳白色の雨が降り注いだ。

 

 ユエの障壁のおかげで、なんとかそれがオレ達へ直撃することこそなかったものの、障壁の表面をドロリと滑り落ちていく乳白色の粘体を見れば、それが唯の雨でないことぐらい誰だって分かる。加えて、雨自体から気を感じることからオレは確信を得た。

 

「南雲君、周りがッ」

 

 空から降り注いで来たものが魔物であると八重樫も気づいたんだろう。それでも慌てることなく、冷静に目を凝らして障壁の外を注視していたからこそ、八重樫は誰よりも早くその異常に気づけた。オレやハジメ達はその声に従い、周囲に視線を送るとそこには、樹々、草、地面、あらゆる場所からにじみ出てくる乳白色の魔物の姿があった。

 

「スライムか? クソ、気配遮断タイプにしても、"魔眼石"にすら感知されないなんてどんな隠密性だよ」

「魔力の隠蔽はそれほど難しい技術じゃない。オレだって出来るし、魔力の直接操作が出来るハジメ達(おまえ達)だってやろうと思えばできるはずだ。それよりも警戒を解くなよ。下からも来るぞ!」

 

 ハジメが普段、眼帯で隠している"魔眼"は魔力を可視化できる機能が組み込まれてるようだが、魔力とは大雑把に区別してしまえば気と扱いはそう変わらない。使えば減るし、使い過ぎれば体に負担がくる。コントロールさえできれば、体から漏れる魔力を抑えたり解放することも不可能じゃない。恐らく、このスライム達は魔力を抑える技能でも持っていて、ハジメの魔眼から逃れたのだろう。

 

 余程スライムの隠密に気づけなかったことが悔しいのか、あからさまハジメがイライラしていると、オレが忠告した通り足元の地面からも乳白色のスライムが滲み出てくる。ユエの"聖絶"は球状の障壁であり地面の中まで展開可能だが、最初から内側に入っている部分の地面までは効果範囲外だ。

 

「きゃっ!」

「させると思うか?」

 

 その時、足元に潜んでいた乳白色スライムがドバッ! と飛び出し白崎を強襲する。完璧な奇襲だが、オレがこの場にいる以上、それも意味はない。すぐに白崎と乳白色ライムの間に割り込みスライムに回し蹴りを浴びせ、弾き飛ばす。

 

「あ、ありがと……」

「動けるなら戦え。こいつらの気配遮断は確かに面倒だが強さ自体は大したことない。こんな見た目(なり)で物理攻撃が効くくらいだ。おまえでも十分倒せる」

「う、うん。分かった!」

 

 スライムの典型的な攻撃といえば、その物理攻撃に強い特性を生かして接近し、体内に取り込んで溶かしてしまう、もしくは女の服だけ溶かすというものだが……触れた感じ溶解能力はそこまで高くはなさそうだし、物理攻撃に対する耐性も相当低い。それこそ、ヒーラーの白崎でも杖で殴って倒せる脆さだ。

 

「おらぁ! 引っ付くんじゃねぇ!」

 

 それでも中には、必要以上のオーバーキルをしたがる奴もいる。

 

 背後からガバッと体積を広げて覆い被さろうとしてきた乳白色スライムに坂上が拳を叩きつける。その威力はオレ程ではないとはいえ相当なもので、乳白色スライムは爆散したかのように飛び散った。

 

 当然、そこまで気合い入れて吹き飛ばせば、その被害は周囲にも及ぶ。

 

「ちょっ、バカ、龍太郎! こっちにも飛び散って来ただろう!」

「この脳筋! 思いっきり掛かったじゃない!」

「お? すまん、すまん!」

「うぇ~、ドロドロしてて気持ち悪いよぉ」

「……よし。坂上は後でマジビンタな」

 

 あまりに豪快かつ傍迷惑な倒し方にオレ、天之河、八重樫、谷口は抗議の声を上げる。スライムの飛沫がこちらまで届いたんだ。顔を服もスライムの粘液でベトベト。服が肌にねちょねちょと張り付く感覚が実に気持ち悪い。

 

「……」

 

 その瞬間、僅か1秒にも満たない刹那の間、オレの思考は高速回転を始めた。今のオレの姿は見た目だけならば女。それでいて体中にぶっかかったスライムの色は乳白色。オレは悟った。このビジュアルはマズイと。

 

 顔のいい女にドロリとした白濁の液体が全身に付着している。男ならば誰しも、その姿に不埒な妄想を膨らませることだろう。オレだってそうだ。確信できる。

 

 でもそれだけならばまだいい。オレならまだ大丈夫だ。自分の肉体を他人にどう見られようが、

気持ち悪いと思うだけで、初心な少女のような乙女心は持ち合わせていない。だが、女性陣――特に八重樫はよろしくない。

 

 完全にそう見えてしまうというだけの話だが、八重樫のやらしい姿など他の奴らに見せていいのか? いや、いいわけがない。

 

 オレは汚れた視線から八重樫を守る決意を決めた。

 

 この間、約0.3秒。

 

「全く、大丈夫か、しず……」

「食らえ。これがオレのジャン拳だぁああああ!」

「目が、目がぁぁぁぁ!」

 

 手始めに、八重樫に声をかけようとした天之河の目をチョキでプスッ! といく。まるで何処かの大佐のような苦悶の声を上げて涙を流しながら両手で自分の目を抑えつつ蹲る天之河の姿がそこに完成した。

 

 今この場において、最大の障害が天之河だ。ハジメは状況を察してこちらに視線を向けてないし、坂上はあの脳筋な性格上今の女性陣を視界に入れたとしてもそれがちょっとエッな姿だと気づくのには時間がかかる。

 

 だからこそ、自分よりも先に女子の安全を確認し、その姿を見て性的興奮を感じてしまう程度には不健全な天之河を日頃の鬱憤を晴らす目的も含めて真っ先に処理した。とはいえ、一時的に視力を奪っただけだ。多分数分もすれば治る。

 

「ちょっ、仁! 貴方馬鹿なの。今は喧嘩してる場合じゃないでしょ!」

「……うん、八重樫。一旦、おまえは自分の体を見てみような。ちょっと凄いことになってるから」

「体?」

 

 この状況を喧嘩で片付けるのもどうかとは思うが、オレの言葉の頭にクエスチョンマークを浮かべた八重樫は不思議そうに自分の身体を見下ろす。そして一瞬石化したかのようにピシリと固まると、今度は恐る恐る髪に手を伸ばし始めた。ベチョッといった嫌な音が聞こえ、髪から離された掌には白濁色の液体。悲鳴すら上げることなく、八重樫は顔を蒼白させていく。

 

 見た目的にもそうだが、反応的にも絵面が非情にマズい。これでイカ臭いとかいう情報もプラスされていたら今頃八重樫は気絶していただろう。

 

「よーし、とりあえずそのまま動くなよ。その汚いの取ってやるから」

「……うん」

 

 オレはスライムからの襲撃を防ぐため、八重樫とついでに天之河がすっぽり入るほどの気のバリアで展開する。勿論地面から滲みだすスライムに対策は施した上でだ。そして八重樫に引っ付いたスライムを細胞一つ残さず慎重に消し飛ばしていく。

 

 普段の八重樫とは違い、傷心しているところを見るに、相当ショックだったのだろう。女子の心は謎が多いが、こんな姿誰にも見られたくないに決まってる。

 

 数秒が経ち、スライム除去作業を終えたオレがバリアを解いて周囲に視線を巡らすと、ユエやシア、白崎も全身に乳白色スライムを浴びてるのに気づいた。特にやばいのがティオだ。坂上と同じように雑なやり方でシアが乳白色スライムを吹き飛ばし、何故かその飛沫をバラエティのパイ投げのように顔面から浴びている。

 

 格好と雰囲気と年齢と性癖的に色々マズイ。しかもどういうわけかその状況にも興奮して、少し頬を赤らめて息を荒くしているのがもうマズイを通り越してヤバい。こちとら健全エリア(全年齢対象)なのだから、不健全行為(R18)は別の世界(小説)でやって欲しいものだ。

 

 逆に1番被害がないのが全身を覆うようにビリビリとした電撃を纏ってるハジメくらいのものだ。まあ、男相手にその心配は無用だろうけど。とりあえずあの技能はいい。後でパクろう(覚えよう)

 

 そうこうしている内に、障壁内の乳白色スライム掃討ミッションはあっけないほどあっさり終わった。八重樫の姿はなんとか見られて困らない程度には綺麗にしたし、他の女子メンバーの姿もハジメとユエが頑張ってなんとかしていた。天之河は必要な犠牲だったと割り切ろう。

 

 ただ解決した問題は内側のものだけ。未だ外は大量のスライムによって埋め尽くされている。オレは今や"聖絶"の外側をびっしり覆い尽くしている乳白色スライムに視線を向けた。

 

「うっわ、これじゃあ外の様子も探れないじゃん。流石にこの数だと気の感知もぐちゃってて上手く働かないし……さてハジメ、このクソみたいな状況、おまえなら一体どう切り抜ける?」

「1択だ。一切合切、全部焼き滅ぼしてやる」

「なるほどボンバーか。いいね、派手なのは好きだ。思いっきりやっちまえ。ああ、内側の心配はしなくていいぞ、オレがいる」

 

 おもむろに内壁に近づいたハジメが"クロスビット"と"円月輪"という遠隔操作可能の武器を障壁の外に転送して半ギレ気味に宣言する。どうやらハジメの方も、ユエにあんな汚いものを引っ付けられて頭にきてるようだ。

 

 オレもハジメが全力を出せるよう、ユエの結界に重ねて結界を張ることで耐久性を向上させる。これで単純計算で5倍は頑丈になったはずだ。

 

 そして数秒後、オレ達の視界に映った光景は、まさに"灼熱地獄"と表現する他ないものだった。

 

 留まることを知らない連続した絨毯爆撃。タールを無理矢理浸透させられたスライム達に降り注ぐクラスター爆弾の豪雨。地面そのものを焼き尽くす摂氏3000度の獄炎の海。上昇気流によっ築き上げられた緋色の尖塔。

 

「はははははは! おい、おまえら見ろよ、綺麗な花火だぜ!」

「わー本当だー……。凄いねシズシズ、悪魔って本当にいるんだね……」

「……冷静になりなさい、仁、鈴。あれはどう見ても花火じゃないし、南雲君もまだ人間よ」

「やべぇよ、光輝。あいつ、いつか絶対とんでもねぇことやらかすぞ」

「そう、だな、魔人族の方が人らしく見えるよ……」

 

 視界に映る火炎の海にオレはテンション爆上がりになり、谷口が無感情な笑顔を浮かべ現実から目を逸らす。そんなオレ達を八重樫はハジメから目を逸らしつつも注意し、坂上は未来のテロリストでも見るかのような戦慄の表情を浮かべ、目潰し攻撃から復活した天之河は「勇者として倒すべきなのはアイツなんじゃ……」と、ある意味間違っていないかもしれない言葉を溢す。

 

 確かに"焼き滅ぼす"とはいったが、まさかここまでやるとは思わないだろう。あからさまなオーバーキルだ。これぐらいの地獄ならオレでも簡単に作れるが、流石にスライム如きでここまではやらない。獅子は兎を狩るにも全力を尽くすとは言うが、いくらなんでもこれは限度を超えてるだろう。

 

 樹海はもう燃えてる所がないくらいに燃え尽き、これではただの環境破壊者だ。オレが言うことでもないが、ハジメはもう少し加減というものを覚えた方がいい。まあ、面白かったからいいけど。

 

 そんなハジメの思い切った殲滅方法にオレ達が各々な反応を見せる中、ハジメに惚れてるグループはというと、

 

「あぁ……ハジメ、素敵」

「ですねぇ~、こうキュンキュンきますねぇ……」

「ご主人様ぁ……はぁはぁ、一目でいいのじゃ。その眼を妾に向けて欲しいのじゃ」

「……ハジメ君……ゴクリ」

 

 こいつら、頭おかしいんじゃねーの?

 

 まるで推しのアイドルに出会ったオタクのようにウットリしているユエ達を見て、オレは思いっきり引いていた。オレからはどう見ても、ただの悪人面にしか見えないが、ユエ達から見ると頗る付きで心をときめかせる魅力があるらしい。常識人寄りだった白崎まで同様の反応をしてしまい、もういろんな意味で手遅れだ。

 

「香織は遠いところへ行ってしまったのね……」

「元からハジメの為ならなんでもしそうな節はあったけど……まさかここまでイカれるとはな……」

 

 八重樫と共に遠い目をしながらオレは呟く。元々、白崎は深夜にエグイ恰好でハジメの部屋に行くくらいには惚れた男にガチになるタイプだ。きっと、ユエ達に触発されてその部分が強化されたのだろう。断言しよう。あいつは一歩間違えればヤンデレになる。

 

 それからしばらくして、周りからすっかり乳白色はなくなり、外の様子は地面のあちこちが溜まったタールの残りを燃料に燃え盛っているだけとなった。これがあの美しい樹海であったなどとはもう誰も信じないだろう。

 

 スライムの全滅を確認したハジメだったが、慎重過ぎるその性格からか、地面と天井の全てを練成し2度とスライムが出てこれないようにするまで安心しきれないと、休む間もなく後処理を始めつ。だが流石に目標である巨樹まで練成するのには時間がかかるとのことで、オレ達は僅かな休息を取ることとなった。

 

 しかし、スライムの被害はまだ終わっていない。むしろこれからが本番だった。奴らは、とんでもない置き土産を残していったのだ。

 

「ぁ?……ッ!? 仁、私から離れて!」

「うぉっ! ……とととっ」

 

 突然、オレは背後から八重樫に突き飛ばされる。

 

「え、何? 急な裏切り? それとも遅めの反抗期……っておい、マジでどうした?」

 

 突き飛ばされたといってもそれほど力は入ってない。普通に体勢を立て直してからオレは振り向くと、そこには明らかに正常ではない様子の八重樫がいた。息は荒く、吐息は火傷しそうなほど熱い。瞳はうるうると潤んでいて、その体は身悶えするようにブルリと震えながら熱を帯びていた。こういう言い方はよろしくないが、まるで発情してるようにも見える。

 

 八重樫自身もそんな自分の異常に気がついているのだろう。オレの問いに答えることはなく、目を閉じ、グッと唇を噛みつつ正座の状態で何かに堪えていた。精神統一により心を鎮める。古臭い方法だが、それ故に効果的だ。

 

 想定から外れた八重樫の異常に、困惑しつつもオレは視線を辺りに巡らせる。そして見つけた。八重樫と同じように異変をきたした者達の姿を。

 

 ユエとシアはハジメに抱き着き今にもおっぱじめそうな雰囲気を漂わせ、坂上と谷口は惹かれ合うように這いよっている。そして見逃す事ができないのが、オレ達――というか八重樫を血走った目で見ながら手を伸ばす天之河。

 

「テメェ……どんな顔して八重樫に近づこうとしてんだ!」

 

 オレは両腕をドロドロの粘土状に溶かすと、天之河とついでに坂上に伸ばし、首から下をグルグル巻きにして拘束する。何をされたかは知らないが、うわ言のように八重樫や谷口、果ては白崎やユエ達の名前まで呼びながらジタバタともがく2人を見れば、同じ男として怒りよりも先に憐れみを感じてしまう。

 

 2人を拘束し、とりあえず一先ず安心かとも思われたが、今度は谷口が八重樫に手を伸ばし始める。その顔はもう親しい友人に見せるようなものじゃない。完全に性欲を満たす対象として相手を定めた獣の目をしていた。

 

「おまっ、そっち(レズ)もいけるのかよっ!」

 

 坂上を拘束していた腕を根本から引きちぎり、芋虫のように足掻く坂上を無視して新たに生やした腕で谷口も2人と同様に拘束する。

 

「ああもうっ、一体何が起きてる。ハジメ、そっちは大丈夫か! こっちは八重樫以外全滅だ。手を貸して欲しいなら貸すぞ! 文字通り腕1本まるごとな!」

「いや、大丈夫だ! ユエ達なら耐えられる。くそったれ。これがあのスライムの真髄かっ」

「そうかよ、頼もしいな。それに比べてこいつらは……」

 

 唯一ごく普通に正気を保っていたハジメの方に視線を向けると、ユエ、シア、白崎の3人に抱き着かれて押し倒されるギリギリで耐えていた。なんだろう。こんな状況だというのにタイプの違う女共に囲まれてるハジメに腹が立ってくる。

 

 そんな時だった。

 

「むぅ、ご主人様、それに風磨仁よ。やはり無事だったか? どうやら、あの魔物の粘液が強力な媚薬になっておったようじゃな」

 

 ごく自然に、何事もなかったかのように、ティオがしっかりとした足取りと平然とした表情で歩み寄って来た。

 

「「……うん?」」

 

 そう、あのティオが。

 

 思わず首を傾げるオレ達の心境を知ってか知らずか、ティオはさも当たり前かのように話を続ける。

 

 ティオの話によると、あのスライムの体は強力な媚薬に似た効果があるらしい。溶解能力が普通のスライムに比べて弱かったのはその効果があるから、溶解能力は必要なかった。といった所だろう。

 

 迷宮全体から視界を埋め尽くす程のスライムに襲われ、倒して飛沫を浴びてしまっても戦闘が長引けばそれだけで全滅。生き残っても仲間が正気を保てなければ本能を惑わされ、仲間を性的な目でしか見れなくなる。間違いなくその後の関係に罅が入る厄介極まりないトラップだ。まるで思考が性欲に直結したエ〇漫画脳が考えたような罠だ。

 

 快楽に耐えて仲間と共に困難を乗り越えられるか、それとも快楽に負けてもなお絆を保ち続けられるか。それがこの大迷宮の狙いであるとティオは語る。頭の隅で『これ挑戦者全員男だったらどうなるんだろう?』という疑問が生まれはしたが、きっとそれは考えてはいけないとすぐに思考を振り払う。

 

「……なぁ、ティオ」

「む? なんじゃ、ご主人様よ」

 

 オレとハジメはティオの推測になるほどと納得する。だが実際はそんなことよりもおかしなことがオレ達の目の前で起こっている。そしてついに我慢の限界を迎えたハジメが自分にベッタリと引っ付くユエ達を見つつ問いかける。

 

「あの粘液がこの事態を引き起こしてるって推測は納得できる。俺もそう思うからな……だが、だがな。何でお前は平然としてるんだ? 俺の記憶が確かなら、お前が一番あの粘液を浴びていたと思うんだが」

「というかこれまで一緒に旅してきた感じだとおまえが誰よりも性欲に忠実な感じがするけどな……」

「確かに、妾の体も粘液の効果が発揮されておる。事実、体を駆け巡る快楽に邪魔されて魔法がまともに使えんからの。じゃがのぅ、舐めてくれるなよ、ご主人様よ。妾を誰だと思っておる」

「ティオ……」

「ほぉ……」

 

 フッと不敵な笑みを浮かべながら胸を張るティオを見て、オレは嬉しい誤算に思わず口角が吊り上がる。ティオの話を信じるならば、強烈な快楽に犯されていながらも意志の力だけで正気を保ってるってわけだ。なんとなくこういう搦め手には1番弱いと思っていたが、こんなんでも遥か昔から生き続ける誇り高き竜人族。この程度の魔物の毒素に……

 

「妾はご主人様の下僕ぞ! この程度の快楽、ご主人様から与えられる痛みという名の快楽に比べれば生温いにも程があるわ!! 妾をご主人様以外に尻を振る軽い女と思うてくれるなよぉ!!!」

「そうっすか」

「あー……これ笑った方がいいやつ?」

 

 眼をクワッ!! と見開き、拳を天に掲げてそう力説する駄竜に、ハジメが汚物を見るような眼差しを向ける。さっきまでの期待を返して欲しい。こいつだけ多分ギャグの世界に生きてるのかもしれない。いや、もしかしたらオレが知らないだけで竜人族全員がこうなのかもしれないな。もしそうならそんな種族滅ぼした方が世界のためだ。

 

「それよりも、妾にとってはお主が無事なことの方が驚きじゃ、風磨仁。ご主人様には毒への耐性があるから説明もつくが、お主の方はどうして粘液の効果が出ておらぬ?」

「え? ああ、そういえばそうだな」

 

 まだこちらは切り替えきれていないのだが。そんなことはお構いなしにティオはさっきのふざけた顔から急変して、真面目な雰囲気で問いかけてくる。

 

 言われてみれば確かにそうだ。オレはただ毒を受けても死なないだけで、ハジメと違って毒耐性なんて持ってない。なんとなく『大丈夫だから』という理由でスルーしていたが、普通に考えればオレに八重樫達のような症状が出ていないのは変だ。

 

 具体的な理由は分からない……だが推測はできる。

 

「多分……だけど、考えられることがあるとすれば、風磨仁としての魂なら兎も角、この魔人ブウの肉体には性欲なんかないからじゃないか? 極論で言えば性欲ってのは子孫を残すどの生物も持つ本能の1つだ。でも逆に考えれば、個体で完成した魔人ブウって生命体にとって子孫を残す機能は必要ない。証拠も何もないけど、これなら筋は通るだろ?」

「性欲がない……じゃと!? なんという勿体ない! まさか、お主に同情することになろうとは……」

「……ほっとけ」

 

 ブウにはそもそも寿命という概念がなく、どんな攻撃を受けたとしても基本死ぬこともない。己がいつまでも生きることが可能な以上、種を残すという生物の共通目標は彼にとってはなくてもいいもの。だからこそ、ブウから性欲という欲求は消失した。いいや、もしかしたら最初からなかったのかもしれない。それに、ブウが三大欲求の1つである食欲が人一倍強いのも、足りない性欲の分を補ってるという考え方もできる。

 

 発情状態のことを性欲が限界近くまで高まった状態と捉えるならば、元からないものをいくら引き上げたところで効果はない。0は何倍しても0なのだから。もし媚薬が人格であるオレに干渉するものであったならまだ効果があったかもしれないが、この肉体にどれだけ媚薬を盛ったとしてもオレにはノーダメージってわけだ。

 

 オレの推測に可哀想なものを見るような視線がティオ、そしてハジメから突き刺さる。少し前から察してはいたが、やっぱりハジメは大人の階段を上ったのだろう。クソッ、裏切り者め。

 

 そんな2人からおおよその状況を把握し、もはや話す必要はないと視線を外したオレは未だ精神統一を続ける八重樫を見やった。きっと今の精神上、オレが近くにいることすらよくないだろう。それでも、オレは八重樫であれば……オレが惚れた女であるならばこの程度の壁など乗り越えられると信じ、囁くように声をかける。

 

「八重樫、話は聞こえてたな。今のおまえは魔物の媚薬で発情状態にある。でもオレならこの程度のデバフを取り除くくらい楽勝だ。ただそれをすると、おまえは試練のクリア判定を貰えないかもしれない。さて、どうする? 耐えるか。それともまたオレに助けられたいか。あ、最悪耐えられなかったら襲われてやってもいいぜ、八重樫みたいな顔の良い女が相手なら大歓迎だ」

 

 最後のはもちろん冗談だが、オレは八重樫に選択を迫る。だが答えなんて決まってる。彼女が、そのような甘い誘惑に乗っかるはずがない。

 

 声に反応した八重樫は目を薄っすらと開く。頬を真っ赤に染め、絶え間なく熱い吐息を漏らし、歯を食いしばりながらも顔を上げて確かな意思を感じさせる眼差しを返してきた。

 

 やはり八重樫はティオ程とはいかなくとも、快楽に抗うことができていた。最初にオレを突き飛ばしたのも、1番近くにいた異性であるオレを快楽に支配されて襲ってしまう可能性があったからだろう。

 

 最悪の可能性に瞬時に辿り着き、自分からオレを遠ざけるくらいには正気を保てていたのだ。もしかしたら、精神的な強度ならユエやシアをも上回っているかもしれない。ただまあ、もし八重樫が理性を保てなかったら襲われていたと思うと、ちょっと惜しいような気もしなくない。

 

 挑発にも近いオレの物言いに、熱に浮かされながらも八重樫は薄く笑みを浮かべる。『馬鹿にするな』とでもいいたげな顔だ。

 

「笑わせ、ないで。言ったでしょ……私はもう、守られるばかりの女じゃない……」

 

 こちらを見つめ、そう確かな意志を込めて断言した八重樫は腰に差した黒刀を引き抜いた。

 

「おい、何するつも……まさか!?」

 

 その僅かな動きでもう八重樫が何をしようとしているのかを察したオレは咄嗟に止めに入ろうとするも、まったく躊躇いのない八重樫の行動はオレが動くよりも早かった。

 

 黒刀を逆手に持ち替えた八重樫はあろうことか、地面に置いた自身の手の甲を刀で貫いたのだ。

 

「痛ッ――!!!」

「お、おい! 大丈夫か!?」

「っ……はぁ、はぁ。どう? 乗り越えて見せたわよ」

「おまえ…………はぁ、まったく相変わらず覚悟決まりすぎだろ。あんまヒヤヒヤさせんな」

 

 痛みで無理矢理快楽の波を揉み消す。容易かつ効果的な手段だが、それをなんの躊躇いなく行動に移せる人間がこの世界に一体何人いるか。オレみたいな再生持ちなら躊躇う理由なくいけるかもしれないが、八重樫は普通の人間だ。それ相応の覚悟が必要なはず。黒刀が貫き、血が溢れ出す八重樫の手は見るからに痛々しい。

 

 どうやらオレでも予想できないまでに。オレの幼馴染は精神的な成長を遂げてたらしい。そこにどこか危うさを感じてはいるものの、心の中ではそれを嬉しく思うオレもいた。

 

「ああもう、とりあえず動くなよ。その傷治したら発情効果の方も一緒に治しちゃってワンチャン試練クリア判定剥奪されるかもしれないから"回復の術"は使えないけど、応急処置ぐらいはしといてやる」

「ううっ……助かるわ。本音をいうと凄く痛くて……」

「だったらやるな馬鹿! 自業自得だ、本当に無茶しやがって。八重樫なら別にここまでしなくても耐えきれただろ」

「耐えるだけじゃ……ダメなのよ。この程度、乗り越えられないようじゃ仁の隣には立てないから……」

「……おまえ、そういうの無自覚で言うの本当に良くないと思う」

「……?」

 

 火照っていた体から熱を逃がし、再び規則正しい鼓動を繰り返す八重樫に魔法に頼らない応急手当を始める。医学の知識はないが、怪我の治療くらいはできる。ちなみに拘束していた天之河達はそこらへんに捨てといた。

 

 それから、そう時間もかけずに処置を終えると、八重樫を立ち上がらせてから周囲を見渡す。天之河達は完全アウトだが、ユエ達に関してはハジメの協力もあってか今のところはなんとか耐えられている。どうやら、問題なくこの試練も乗り切れそうだ。オレと八重樫は静かに試練の終わりの時を待ち続けた。

 

 

 

 

 

 

 しばらくして、スライムの発情粘液による試練は終わりを告げた。ユエ、シア、白崎の3人は正気を失いかねないほどの媚薬効果が消失したことで落ち着きを取り戻し、既に媚薬効果を抑え込んでいた八重樫とティオもどこか曇りが晴れたかのような表情を見せている。

 

 その後は女性メンバーは発情の影響でちょっと変えの服が必要になっている者も多いため、とりあえず全員がハジメの用意した簡易更衣室の中で汚れと着替えを済ませることとなった。まあオレだけは1回自爆したら再生の際に服も綺麗な状態で戻ってきたため着替えタイムなかったけど。

 

 汚れを落とし、着替えを済ませ、簡易更衣室からさっぱりした様子で出てきたメンバーだったが、案の定、快楽呑み込まれ組(天之河、坂上、谷口)の落ち込みようは物凄かった。まるで、10倍の重力でも掛けられているかのように項垂れ、どんよりした暗雲を纏わりつかせてる。

 

 どうにも媚薬効果で正気を失っていても自分がしたことの記憶は残るらしい。面倒な酔っ払いとはタイプが違うみたいだ。快楽地獄の果ての人間関係、仲間内の絆を試すというものだろうというのがティオの推測だったが、その推測の正しさを証明するように天之河達は凄いギクシャクしていた。

 

 お互い顔を合わせることなく微妙な距離をとっているし、あの元気馬鹿の谷口が耳まで赤く染めたまま俯いて八重樫の陰に隠れている。忘れてるかもしれないが、谷口が2回目に襲おうとしたのは八重樫なのだが、その自覚はあるのか?

 

「鈴……忘れましょう? あればっかりは仕方ないもの。最後の一線は越えなかったのだし、あんなの忘れてしまうに限るわ。誰だって、思い出したくない思い出の1つや2つあるわけだし……」

「……シズシズ」

「ほら! 私なんて、そうとは気づかずにエッチなゲームコーナーを彷徨ったあげく、商品を物色してしまったことがあるのよ? それはもう真剣に! 周囲の男性客が、あの時、私をどんな目で見ていたのか……思い出しただけで欝になるわ……」

「……シズシズ、エッチなゲームに興味があるの?」

「ないわよ! あれは、そう、不幸な事故だったのよ」

「……ふ、くふふ、真剣な顔でエッチなゲームを吟味するシズシズ……ぷくく」

「鈴、笑うのは流石にひどいわ……」

「ああ、そういえば前に八重樫に気づかれないよう18禁コーナーに誘導したことあったな。あれのことか?」

「……ちょっと待ちなさい。その話詳しく教えてくれる?」

「やっべ墓穴を掘った」

 

 額に青筋を浮かべながらこちらに迫る八重樫からジリジリと距離を取るオレ。実にアホらしい状況だが、そんなオレ達を見て谷口は笑みを浮かべた。それを見た八重樫もどこかホッとしたような表情を見せる。

 

 流石は八重樫だ。どんな慰めも効きそうになかった谷口のために封印していた黒歴史まで解禁するとは。そのやり方を真似ることは一生ないだろうが、純粋に凄いとは思う。数秒後、オレは殴られた。

 

 そんなオレ達の様子を見て俯いていた天之河が顔を上げてこっちを見つめて近づく。

 

「……風磨、その、面倒を掛けた。止めてくれて感謝するよ」

「ああ、そうだった。助かったぜ、風磨。マジでありがとよ」

 

 勇者とゴリラからの感謝の言葉にオレは思わず唖然としてしまう。坂上はともかく、あの天之河がオレに礼を言うとは……人とは学ぶものだ。まあ、礼すら言わなかったら殴ってたけど。

 

「ああ、気にすんな。元からオレかハジメが手を貸すことになるだろうとは思ってたからな。言っただろ、別に期待なんてしちゃいない。まあ、悪いと思ってるならもう2度と同じようなミスはしないでくれ。次はうっかり殺しちゃうかもしれないからな。オレ手加減苦手だし」

 

 軽い脅しも混ぜてオレは天之河と坂上に告げる。それを聞いた2人は盛大に頬を引き攣らせていたが、言い返す元気もないようで、無言の頷きが返ってくる。もっとも、今ので多少は気まずさがほぐれたようだが、これはオレのファインプレーでいいだろう。

 

 そうこうして、オレ達はそれから乳白色スライムに襲われることもなく順調に荒地を進み、遂に巨樹のもとへたどり着くこととなった。そして、案の定今回も洞が出来上がり、同じ展開に呆れつつオレ達はその中に入り転移したのだった。




快楽の試練
原作同様、白いスライムが上から降って来て発情させるエ〇漫画にありそうなトラップ。
パーティー内に異性がいればいるほど後の関係が怪しくなるかなり性格悪めな罠。きっと考えた奴はミレディを超えるレベルで性格が悪い。
メンバーに男性しかいなかった場合BL展開に発展する。

被害報告
仁:効果なし(肉体に性欲がないため)
ハジメ:効果なし(毒耐性で無効化)
ティオ:粘液の発情効果が物足りなかったため異常なし
雫:性欲が暴走しかけるも、痛覚で無理矢理揉み消して無効化
ユエ、シア、香織:暴走してハジメを襲おうとするも、ハジメに諭され耐えきることに成功
光輝、龍太郎、鈴:アウト

雫の快楽への対処手段のモデルはワンピースのメロメロ甘風(メロメロメロウ)を受けた時のモモンガ中将です。あのシーンすっごい好き。
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