さっぱり意味が分からない。
そもそも、ここまで分からないことばかりだった。
最初は、もう何度か繰り返したように大迷宮へ挑戦して、敵を倒して、神代魔法を貰うだけの簡単な冒険なのだとばかり思ってた。それが、大迷宮内部からデカ過ぎるエネルギーが感じられるわ。その正体が神代に実在した怪物だと、夢の世界で初対面の女に教えられるわ。ようやくその怪物と対面できるのかと思えば現れたのはまさかの解放者。
これまではなんとか、『そういうものだから』と呑み込んでいたけど、本当にそれは呑み込んでいるだけ。咀嚼がほとんどできてない。ただ与えられた情報をそのまま記憶に放り込んでるだけの状態だ。
今まではそれでも良かったかもしれないが、とうとう限界がきやがった。だって、どう考えたってそれはおかしいだろう。
「……なあ、もっかい言ってくれないか?」
動揺のあまり額に手を当てて頭上を見上げたオレは問い返す。聞き間違いであって欲しかったが、その可能性は限りなく低いだろう。オレは残念なことに難聴系主人公じゃないし、いくらなんでもあんな聞き間違いをしてたら絶対に精神が病んでる。
「聞こえなかったのかしら? どうやら、性根だけじゃなく耳まで腐っているようね。ならもう一度言ってあげるわ。――わたくしを殺しなさい」
結果は残念。オレの耳は正常だった。
ミレディ同様、初対面で喧嘩売ってくるスタイルのリューティリスにオレは普通に引いた。だってほら、いくらなんでも殺してくれはないだろう。殺してくれは。それと、歴史的に仕方ないとはいえ、もう少し敵意を抑えて欲しい。
「ああ、クソ。……もうわけわからん」
「……なに躊躇ってるのよ」
リューティリスという存在が目の前に現れた時点で、いくつかの想定は立てていた。ミレディと同様本人が殺しに来る可能性。この世界にオレを閉じ込め、事実上封印状態にしてくる可能性。噂の神代の怪物とオレをぶつけて共倒れを狙ってくる可能性。
想定だけでも10~20通りのイメージはできていた。だがこれは想定外。というか、何をどう間違えれば解放者が敵の魔人ブウに死を懇願するなんて意味分からない状況になるのかこっちが教えてもらいたい。こんなん誰が予測できる。
はっきり言って超困る。オレには別にリューティリスを殺す理由も、殺してやる必要性も、殺したい感情もない。というか普通に嫌だ。それでも、こうして
肺の中にある空気を全て吐き出すような、大きなため息をオレはこぼした。
「まったく……まず何がどうしてそんな馬鹿馬鹿しい結論になったのかを説明しろ。話はそれからだ。悪いがオレはおまえの知ってる魔人ブウと違って殺しが大好物ってわけじゃないんだよ。必要になれば手も汚すが、今のところおまえを殺す気はない。だから話せ、殺してやるかどうかはその後オレが決めてやる」
「……はい?」
「あんだよ。なんか文句あるか?」
「いえ……あれ? えぇーと、貴方ってそんなタイプじゃなかったわよね? 姿だけならもう別人にしか思えないし、私が"
決して的外れなことを言ったわけじゃなく、至極全うな意見を返したにも関わらず、リューティリスは繋がれた鎖をジャラジャラと鳴らしてあからさまに驚いた反応を見せる。まあ言いたいことはよく分かる。要は、『おまえ本当に魔人ブウ?』ってことだ。
ただ素直に話したところで信じてもらえるか。実際ミレディは全然信じてくれなかったし、今回もあの時のようになる可能性は全然ある。あと普通にめんどい。
「こっちにも色々あるんだよ。どうせオレの言ったことなんざ信用しないだろ。だったらとりあえず、昔の魔人ブウと違って話が分かる奴になったとでも思っとけ。それにオレが変わってたところで、おまえに不都合なんてないはずだ」
「それもそうだけど……話が分かる魔人ブウって、それはもう魔人ブウではないわ」
「やめろ、自覚はある」
というわけで、オレはこちら側の事情を説明せずに疑問の答えを催促した。ただ、それだけで納得してくれる程リューティリスも単細胞じゃない。拘束され身動きが取れない状態にも関わらず、不満を隠そうともせずに何度も口撃を仕掛けてきた。
しかし結局、最終的に根負けしたのはあちら側だった。
「ああ……もういいっ! まったく、魔人ブウとまともな会話をしようと思ったこと自体が間違いだったのね。構わないわ、本題に入りましょう。幸いにも、
諦めたというよりは、どうでもよくなったに近いだろう。オレとの小競り合いが無意味だと察したリューティリスは、呆れたような視線をこちらへ向け、頬を膨らませながら、ゆっくりと語り始めた。
「わたくしの大迷宮に正式な手順で踏み入ったということは、貴方は既に4つ以上の大迷宮を攻略したということ。なら、大迷宮には"解放者の隠れ家"や"神代魔法を手に入れる試練場"とは別に、ある目的があって作られたことも知ってるかしら?」
「そりゃあな。あんだけモリッモリに殺意盛って殺しに来られたら流石に分かる。
「特に名前は決めていなかったけれど、その認識で合ってるわ。貴方への対策として何を用意するかは皆別々に考えたけど、魔人ブウを命と引き換えにしても殺す。それがこの大迷宮が作られた3つ目の理由」
【グリューエン大火山】のマグマの巨人。【メルジーネ海底遺跡】のオケノス。【ライセン大迷宮】の人造人間
そしてこれはハジメから聞いた話であるが、オケノスを除いてそいつらがハジメ達の前に現れることはなかった。つまり、奴らの出現条件の鍵はオレ。そこに辿り着きさえすれば、大迷宮にオレを殺すための機能が組み込まれていると確信を得るのは十分だった。例外がそもそもブウを味方に引き入れるつもりだったオスカーの【オルクス大迷宮】くらいしかないのも根拠の1つと見ていい。
しかし、【ハルツィナ大迷宮】ではまだそういった存在は確認できていない。いや、あのG共がそうだと言われれば納得するしかないんだが、流石に違うだろう。いくらなんでも弱すぎる。あれでは心を殺すのが精一杯だ。
「そうね。貴方の考えてる通り、わたくしの大迷宮にはそれがない。でも、それはわたくしにそこまでの魔法技量がなかったとか、貴方に温情をかけたとかでは決してないわ。
「奴……」
「かつて、わたくしが作ってしまった魔人ブウすら超える最強の生物……そしてわたくしの罪そのもの――」
顔に影を差し、神妙な面持ちでリューティリスは語る。その姿からは、まるで罪を告白する罪人のような印象を感じられた。
ブウすら超える最強の生物。その単語にオレの脳裏には1つの推測が成り立った。少し前までのオレであれば、辿り着くはずもなかったであろう答えを。だが今のオレは知っている。あの強大な邪気を。近寄りたくないと本能で感じてしまうような恐怖を。
「――奴の名は"ジャネンバ"。恐ろしく強い、邪悪な悪の化身よ」
その名を、オレは"理想世界"で1度聞いていた。全盛期のブウに匹敵する力を持ち、世界中にあらゆる厄災を呼び寄せ、リューティリス・ハルツィナによって封印された神代の怪物。
無関係ではない。そうは思っていたが、まさかリューティリスが自分で作り出したものだとは。想像もしていなかった展開にオレは内心驚いて言葉も出ない。こう言うのは悪いが、いくら解放者とはいえ、ブウに匹敵する存在を作り出せる力がこの女にあるとは思えなかったからだ。悪く言えば、オレはリューティリスをナメていた。
驚愕のあまり呆然とするオレは無視して、リューティリスは話を続ける・
「ジャネンバは憤怒、苛立ち、悲哀、悔悟、慚愧、恐怖、寂寥……世界中のあらゆる種族が抱える負の感情を集め、凝縮し、意思を与えた生命体よ。まさに世界の悪そのものといっても過言じゃないわ」
「なんかもうこの時点でまともじゃない化け物しか生まれなさそうな気がするんだが? というか、なんでよりにもよって
「必要なことだったのよ。わたくし1人の力では魔人ブウを超えることはできない。世界中から力を集めるくらいしか"最強"を作り出す方法は思いつかなかったわ。それに、あの時代の人々が抱えていた悪感情はあまりに多すぎた。それこそ無意識の内に外へ漏れ出してしまうくらいにはね。だからわたくしは、それを利用したのよ」
人が無意識の内に漏れ出した負の感情。1つ1つに大した力はないだろうが、どれだけ小さな力でも世界規模で考えればそれは莫大なものとなる。自分の力だけでオレに挑んでくるよりかはよっぽど現実的な作戦だ。
しかし感情そのものに意思を与える……か。それがどれだけ高難易度なことか、魔法知識の浅いオレには分からない。というかそもそも概念に命を与えるだなんて普通は思いつきもしないはずだ。その手段に辿り着き、実行に移せるだけの実力があるだけでもリューティリスの才能は相当のものだったのだろう。
だとしても世界規模の負の感情なんて、まともな戦力になるはずがない。何かしらの問題が起こることくらい、オレでも容易に想像できる。
「ええ、その危険性はわたくしも承知していたし、勿論対策を怠るなんてこともなかったわ。どれだけ強大な力があったとしても所詮は感情の塊。肉体がなければ何もできない。わたくしは奴を完全な支配下に置くまで、肉体を与えず拘束しておく予定だった」
「ああ、なるほど。いくら強くても実体がなきゃ意味ないって話か。そりゃそうだ。参考までに、完全に支配下に置いてたらどうするつもりだったか聞いてもいいか?」
「適当なゴーレムや魔物の死体にでも受肉させるつもりだったわね。ジャネンバが乗り移った肉体はその凶悪な力に耐えられるよう最適な形へ変化を遂げる。そういう予測は立ててたから肉体自体はなんでもよかったのよ」
確かにリューティリスの言う通りだ。あまりにも普通に話しているから忘れていたが、肉体構成要素の100%が非物質の奴が外に干渉できるはずがない。どんなに強力な銃を持っていようとも引き金を引けなければ意味がないのと同じように、その力を十全に発揮できる状態でなければ、ただそこにいるだけでしかない。
その危険性を正確に把握した上で、問題ないと判断し、それを実行した様子のリューティリスだが、このまま順調に行くはずもないだろう。もし上手くいってれば、ジャネンバが暴れ回ったという歴史が残っているわけないし、現状のリューティリスがこんな感じになってるのもおかしい。
「でもわたくしは、ジャネンバを侮っていた。奴の学習能力は想像以上だったわ。ジャネンバは独学で外に干渉する力を生み出し、そして……」
腰かけた椅子のひじ掛けに握りしめた拳を振り下ろし、悔しさを動きで表現したリューティリスは己の最大の誤算を口にする。
「奴は最も近くにいた生命体――つまりはわたくしの体を乗っ取った」
「……は?」
流石に"嘘だろ?"と言いたくなる最悪な状況の変化に、口から自然と困惑の声が漏れる。
ついオレの口から『それでは辻褄が合わない』というセリフが出そうになったくらいだ。オレが最近知った歴史でば、リューティリス・ハルツィナがジャネンバを封印したとなっていたが、当の本人が第1被害者となれば、その前提そもそもが覆る。
「それから先は、まるで地獄のようだったわ」
違和感はある。だが現状を振り返り、まだ話の展開は変わると判断したオレは"聞き"の姿勢に戻る。もしそのままの最悪の展開を進んでいけば、とっくにこの世界は終わっているからだ。そうなっていないということは、何か良い意味で状況が覆るということ。
「わたくしの肉体を手に入れたジャネンバは体を自分の都合の良い形に変化させ、この大迷宮を破壊して地上へと出たわ。その後はもう滅茶苦茶よ。ジャネンバは地上の自然や動物達を破壊して、魔物、人間問わずに殺戮を繰り返し、目につくもの手当たり次第に力を振るった。今はもう思い出せないけれど、それで滅んだ国だっていくつもあったはずよ」
オレはそのジャネンバと呼ばれる怪物を実際に目にしたことがない。だが、それが魔人ブウに匹敵する存在だってことは聞いた。だったら、それは当然の結末だろう。ブウレベルの存在が地上で
しかしそれを乗っ取られた体の内側から見ていたリューティリスはどんな気持ちだったのかと思うと、恐怖する。自分の体が、自分の意志に反して大勢の人々を殺しまくったんだ。その中にはきっと、
まともな精神状態でいられるはずがない。
「いえ、何より最悪だったのは……ジャネンバに体を乗っ取られた影響が心にまで及んでいたことよ」
「心まで? どういうことだ?」
「破壊や殺戮を行う度に歓喜するジャネンバの感情がわたくしの心に直接流れ込んできたのよ。しかもどういうわけか、あの時のわたくしはそれを自分自身の感情だと誤認していたわ」
「……精神の同期。なるほど、1つの体に別々の魂が宿ったことで肉体そのものが心を統一させようとしたってわけか」
「ええ、まさかこんなことになるだなんて思いもしなかったわ。自分でもどうかしてることは分かるのに、あの時のジャネンバの行いを内から見ていたわたくしは本気で高揚していた。そしていつしか、それが本当に自分の感情へと移り変わってしまうのがとても恐ろしかった」
肉体に心が引っ張られ、最適な精神状態を保とうとする。その感覚はオレにもあった。元々、普通の人間だったオレの魂が魔人ブウの肉体の中に入ったんだ。心の方に影響がないわけがない。
戦いを楽しむようになったり、人を殺して快楽を感じるようになったり、他人の死に心を痛まなくなったり、親友であるハジメをボコボコにしても楽しめた。それらはその影響によるものだ。他人の感情がダイレクトに流れ込み、自身の心が変質する。それは経験したものにしか味わえない恐怖だろう。
しかもリューティリスの場合はオレより酷く、なにより悪質だったはずだ。それこそ、根っからの善人を快楽殺人鬼に変えてしまうまでに。そんな経験を経てなお、今の状態でいれることにオレは純粋な気持ちで感嘆した。
「わたくしは運が良かった。ジャネンバが亜人達に何かを言われて怯んだところで、なんとか肉体の制御権を取り戻せたわ。そしてすぐに命を断とうとした」
「うわぁ……判断が早すぎるし、覚悟決まりすぎてやがる」
「当然でしょう。あのまま放置していればまたすぐに体を乗っ取られて同じことが繰り返されていたわ。それに、あんな最低な感情を共有するくらいなら死んだほうがマシよ」
「いやまあ、そうなんだが……
「……そうね。簡潔に言うと、あの時自害しても死ぬのはわたくしだけだったのよ」
「それは、おまえだけが死んでジャネンバは生き残るって意味か?」
「っ……その通りよ」
悔し気な様子のリューティリスを見ながら、オレは顎に手を添えて考え込む。
リューティリスの肉体を得て受肉したのなら、いくら強力な力を持っていようとも肉体的な死には逆らえないはずだ。肉体があるということは外に干渉できる代わりに、外からも干渉を受けるということ。そればかりは避けようがない。
しかしリューティリスは断言した。己を殺してもジャネンバは死なないと。ならばそこにはあやふやなものではない確かな理由が存在するはずだ。
思考の渦へと沈むオレを見たリューティリスは、コホンッと咳払いをして注意を引き付けてから解説を続ける。
「どうやら、わたくしの意識が表層に出ている間はジャネンバとわたくしは別存在として扱われるようなのよ。だから、わたくしが自らの体を傷つけても魂にダメージが届くのはわたくしの方だけで、ジャネンバの魂には傷1つつかないわ」
「肉体共有してるのに魂は別扱いなのか? 随分とクソな設定だな。というかあれか、もしおまえが自害してたら、今頃おまえの死体を乗っ取った怪物が世界ぶっ壊しまくってたって可能性もあったってこと?」
「まあそうなるわ。仮に、わたくしが体を粉々に吹き飛ばせたとしても、別の人間の体を乗っ取るだけで同じことが繰り返されていたでしょうけど」
「厄介な性質だな。じゃあそのジャネンバを倒すにはどうしたらいいんだよ」
肉体の死と魂の死の関係性は必ずしもイコールとはならない。だが通常の生物であれば肉体のダメージは魂にも影響を及ぼすはずだ。例外があるとすれば、魂と肉体の関係性を分離しているミレディくらいのもの。
そのはずだったのだが、都合の悪いことにリューティリスの肉体はジャネンバとリューティリスを別人だと判断し、意識が表に出ている方の魂に肉体的異常の影響を及ぼす作りに変わってしまったらしい。そして先程の話からして、ジャネンバは死体にも乗り移ることができる。
これではリューティリスが自殺なんてしたら、それこそ無駄死にだ。
しかし、これだけ分かれば倒す手段も自然と導き出される。オレは答えを分かっていたが、念のためリューティリスから正解を聞き出す。
「ジャネンバを殺す手段は1つ。奴の意識が表に現れている状態のわたくしを殺す。それだけよ」
意識が表層に出ている時にしか殺せないのなら、ジャネンバに再びリューティリスの体の主導権を奪わせ、それから殺す。まあ考えられるのはそれくらいしかなかった。
そしてここに来て、オレはようやく最初の謎発言について分かってきた。つまりこいつは……
「だから、わたくしはジャネンバの力を利用してこの"外界世界"を作り出し、自らを封印したわ。唯一ジャネンバを上回る可能性のある存在――魔人ブウがわたくしの元へ現れる時を待って……」
オレに
体の制御権を奪ったジャネンバを殺すということは、少なくともジャネンバに勝てる強さがなければ不可能。だが神すら超える怪物を倒せる奴なんてそうそういない。というか候補が1択しかない。それが魔人ブウだった。
バケモンにはバケモンをぶつける理論の考え方だが、実際それしか世界を救う方法がないっていうのが残酷なところだ。もしあの時代でそれが起きていたならば、どっちが勝ったにしろ人類は滅んでいただろう。
「これがわたくしの生涯、わたくしの罪よ…………っ~~!!」
「お、おい、大丈夫か?」
その瞬間、伝えることは最低限伝えたと、話を締めようとしたリューティリスが突如痛みに耐えるかのように苦しみだした。そして同時に、リューティリスの体からこれまで以上の邪悪な気が溢れ出す。
その気の巨大さにオレは咄嗟に身構えるも、リューティリスの身動きを封じる青白い半透明の鎖が輝き、漏れ出ていた邪悪な気を完全に封じ込めたことでその必要はなくなった。
「今のは……」
「はぁ…はぁ…ジャネンバが、わたくしの封印を力づくに破壊しようとしてるのよ。今まで耐え続けてきたけど、どんどん力が増してる。もうこの封印が破壊されるのも時間の問題だわ」
リューティリスの発言を聞き、オレはその体を拘束する鎖に目を向けた。魔力の流れからして、あれは拘束対象者から魔力を強制的に吸い取り、その相手が死ぬまで封印の魔法を発動し続けるといったかなりえげつないアーティファクトだった。
本来は苦痛を与えた上で死に至らしめるはずのアーティファクトだろうが、きっとリューティスの内にいるジャネンバの魔力量は人間とは比べ物にならない。どんなに魔力を吸い取ろうとも、それを超える回復速度で魔力が回復され続けたら相手を殺しきることなんてできるはずがない。だからこそ、あの鎖には本当の意味で封印の効果しかないのだ。
そして先程の現象は、内側から封印を破ろうとしたジャネンバの力を抑えるため、リューティリスが一時的に鎖を魔力で強化したってところか。たかがアーティファクト程度でブウレベルの化け物の力を抑えるだなんて流石は解放者だ。
とはいえ、さっきの様子を見る限り、これもそう長くは続かない気がする。
「ふぅ……これで事情は分かったわよね。なら早く
「……おまえは、それでいいのか? 死ぬんだぞ」
「その質問は遅すぎるわ。死ぬ覚悟だなんて、神に逆らうと決めたあの日からとっくに出来てるわよ」
「そうか……」
焦りの感情を隠しきれていないリューティリスに、オレは再び悩む。
正直に言えば、殺したくはない。ミレディの時と同じだ。オスカー・オルクスに命を救われたオレにはあいつの仲間である解放者を殺したくはないという感情がある。しかし、ここでそんな甘っちょろいことを言えば、それこそ天之河と同じだ。目に入る全て助けられるとは限らない。それにリューティリスの覚悟を踏みにじることにもなる。
ならば、オレのすべきことは1つ。
覚悟を決めたオレは答えを待つリューティリスへ向けて告げた――。
〇
時は少し遡り、リューティリス・ハルツィナが発動した"空間魔法"によって仁が転移された直後の【ハルツィナ大迷宮】深部。
そこには先程まで仁がいた場所を見つめ、静まり返るハジメ達の姿があった。
「っ……また、間に合わなかった」
虚空を掴む己の手を見つめながら、雫は悔し気に歯を食いしばる。彼女にとって目の前で仁がどこかへ行ってしまった経験はこれが初めてではない。忘れもしない運命の日。あの日、雫は奈落へ落ちる仁に手を伸ばし、届かなかった。
奇しくも、今の状況はあの日と似ていた。今度こそ助けると誓ったにも関わらず、以前と同じ失敗を犯した雫は己の不甲斐なさに腹を立てる。例え仁が自分よりも強く、無事であるという確信があったのだとしても、その感情だけはどうしようもない。
そしてもう1人、あの日のことを思い出していた人物がこの場にはいた。
「仁の奴……俺を庇いやがった……」
ハジメだった。あの日、仁はハジメを助けようとしたせいで、巻き添えのような形で奈落へと落ちてしまった。悪いのは檜山であるとハジメも分かっている。だがその罪悪感はどうしたって消せるものじゃない。あれから相当の時が経過したとはいえ、未だそれは彼の中で解消しきれずに残り続けていた。
その上、今回は前回よりも酷い。だって、助けられてしまったのだから。
共に犠牲に遭うよりも、自分だけが助かった方がより強く罪悪感が残ってしまうのは、未だ心のどこかに残るハジメ本来の優しさ故だろう。それを喜ぶべきか、それとも悔やむべきか。それは誰にも分からない。
「クソッ、また俺は……」
仁に助けられた。その客観的事実を受け入れたハジメは罪悪感を感じていたものの、それ以上の怒りも同時に感じていた。仁を連れ去った敵にではない。たとえ1人でも生き残るため強くなったというのに、また同じ相手に助けられてしまった自分自身に対する憎悪にも近い怒り。
やり場のないその感情を抑えるため、ハジメはただその場で拳を握りしめる。爪が皮膚を食い破り、掌からはポタポタと血が垂れ落ちる。きっと【オルクス大迷宮】で豹変したばかりの彼であったならば、このまま無意味な八つ当たりをしていたことだろう。
だが今のハジメは1人ではない。隣で支え、共に悩んでくれる存在が彼にはいる。
「……ハジメ」
優しく語り掛けられると共に、ハジメの強く握りしめていた拳をユエがその小さな両手で包み込んだ。「はっ……」とそこでようやくハジメは自分が冷静さを失いかけていたことに気づくと、隣にいる最愛の恋人へ目を向ける。
ユエはそれ以上何も口にはしない。小さな笑みを浮かべてじっとハジメを見つめる。ただそれだけだった。だがたったそれだけで、ハジメの中にあった黒い怒りの感情は鳴りを潜め、激しく鼓動していた心臓は落ち着きを取り戻す。
「ははっ……」
つい、ハジメの口から笑みが零れた。
ユエに正気に戻してもらい、先程までの自分の発想が馬鹿馬鹿しくなったのだ。また仁に助けられた? 自分1人では生きられない? そんなもの今更だった。元よりハジメには、いざという時に助けてくれる頼れる仲間達がいた。
ユエ、シア、ティオ、香織、そして仁も。今の南雲ハジメは、そんな多くの人達に助けられてここにいる。辛いことはあった。地獄も経験した。だがそれが全てではない。仲間とは、支え合うものなのだから。
そんな当たり前な事実に、ハジメはようやく気づかされた。
「ありがとな、ユエ」
「んっ……」
大切なことを気づかせてくれたユエの頬にハジメは笑顔を浮かべながら手を添える。本心を言えば、ユエへの愛情が猛烈に爆発しかけているハジメは今すぐにでもキスしたかったが、流石に親友が自分を庇った直後に恋人と熱烈なキスをするのはなんか雰囲気的に最低であったため、必死に堪えていた。
それから少しして、落ち着きを取り戻したハジメは顔を上げて周囲に視線を送る。そこには、ハジメといちゃついていたユエに嫉妬するシア、ティオ、香織。仁が消えてしまった現状にお通夜のような雰囲気を醸し出す光輝、龍太郎、鈴。そして傷心しきっている雫がいた。
「さて……」
そんな彼ら彼女らへ向けて、ハジメは声をかける。
「色々状況は変わっちまったが、とりあえず全員俺の話を聞け。そうだな……まずは仁が――いや、仁
今まで、大迷宮内での転移はその場にいる全員を対象に行われていた。しかし、今回は違う。あからさまに仁だけを狙い、意図的に発動されたものだった。ハジメも仁に突き飛ばされていなければ今頃仁と共に転移していただろうが、それは所詮ハジメが偶然近くにいただけのこと。あの魔法は間違いなく仁に狙いを定めていた。
そして今のハジメには、その答えに辿り着けるだけの情報と冷静さがあった。思い出すのは、"理想世界"から帰ってきた仁がハジメ達に告げた夢の中での話。
それは【ハルツィナ大迷宮】のどこかに封印されているであろう神代の怪物について。
この大迷宮の底には、かつてリューティリス・ハルツィナが封印した魔人ブウに匹敵する怪物がいること。その封印が近い内に破壊され、怪物が復活するのは時間の問題だということ。そして、仁がそれを倒すことを夢に現れた誰かに頼まれたことを。
結局あの後その話が話題に出ることはなかったが、あの仁が一緒に来られたらハジメでもマズイ。そう判断したならば、考えらえる要素はそこしかない。ハジメはそう確信していた。
勿論、他にも根拠はある。
まず、何故リューティリスが怪物の封印場所に大迷宮を選んだのか。最も信頼できて、警備が厳重だということは勿論だが、それだけでは理由としては弱い。ハジメはもし自身が解放者であったらと仮定し、思考する。そして解放者にとっての理想的な未来を導きだす。それは、
――神代の怪物と魔人ブウの共倒れ。
世界最大の巨悪同士が勝手に潰し合い、そしてどっちもやられてくれれば、解放者にとってこれほどのハッピーエンドはないだろう。だってその2体のどちらかを殺す方が、神を殺すことよりもずっと大変なんだから。
そしてリューティリスは、その可能性を作れる立場にいた。怪物が封印されている大迷宮の管理者であったリューティリスであれば、いつの日か自分を殺しにくる魔人ブウを強制的に怪物と戦わせるシステムを大迷宮内に取り入れることだって出来る。
つまりハジメの推測はこうだ。先程仁を転移させた魔法陣は生前のリューティリスが魔人ブウと神代の怪物を同士討ちさせるための特殊なトラップで、まさに今、仁は神代の怪物と殺し合っている最中だと。
そんな満点でなくとも正解に限りなく近い推測を、仁とした話も踏まえてハジメはユエ達に語った。その推測には誰もが目を見開き、特に神代の怪物の件すら聞いていなかった光輝、龍太郎、鈴は異様なほど混乱してみせた。
「じゃあ、なんですか。あの人は……今もどこか戦ってるってことですか? それも1人で……」
「絶対にそうとは言いきれねぇが、まあそうだろうな」
「そんな! 早く助けにいかないと!」
シアが信じられないといったように呟き、光輝が助けに行くべきだと進言する。たとえ相手が気に入らない仁であっても、天之河光輝は正義の味方。敵だろうが、悪だろうが、狂人だろうが、クズだろうが、恋敵だろうが、味方だと思い込んでいれば構わず助けに向かう。きっと、光輝のその考え自体は善なのだろう。
だが光輝は理解できていない。仁が死ぬかもしれない怪物を前に、自分が戦力にすらならないという事実を。
光輝にとって、仁は確かに自分よりも強いが、高く見てもハジメと同じくらいであると思い込んでいた。だが実際は光輝とハジメには天と地ほどの力の差があり、そんなハジメですら比べられないレベルで強いのが仁なのだ。光輝程度が混じったところで援軍にすらならない。
強さの土俵が違い過ぎるあまり、その力の差をまるっきり分かっていない光輝にハジメは呆れながらも、全員に向けて語り掛ける。
「今俺達にある選択は2つ。1つは、天之河が言うように仁の助けに向かうこと。まあ間違いなく戦闘になるだろうし、生きて戻ってこれる保証はない。最悪仁も含めて全滅だ。もう1つは、このまま最下層へ向かって大迷宮の攻略を続けること。仁の戦いは仁に任せて、俺達は先に大迷宮を攻略してあいつの帰りを待つってわけだ。勿論こっちの方が断然安全だし、仁もそれを望んでるだろうな」
命を賭けて仁を助けに向かうか、仁が生きて戻ってくることを信じて大迷宮攻略を続けるか。かなり大雑把ではあるが、ハジメ達が選べる選択はこの2つだけだった。
「そこで聞くが……」
ハジメは強いプレッシャーを放ち威圧しながら、全員に問う。
「お前達はどうしたい。助けに向かうか、待つか。今ここで決めろ」
先程までハジメといちゃついていたユエも含めて、全員が緊張に冷や汗を流す。ハジメの視線からは、嘘は許さないという固い意思が感じ取れた。誰もが黙り込み、迷う中、1番最初に声を上げたのは雫だった。
「私は助けに行くわ。もう待ってるだけは嫌なの」
強い意志を込めた瞳でハジメを見つめ返し、己の覚悟を口にする。戦うことが好きではない雫が、傷つけることが好きではない雫が、仁を助けるために自分の意志で戦いに向かうことを決断した。その強い覚悟は雫から放たれる雰囲気からも察せられ、異を唱えることのできる者はいない。
「雫ちゃん……うん、そうだね。ハジメ君、お願い。私も仁君を助けに行きたい」
「香織……ありがと……」
続いて雫の言葉に感化された香織も仁救助の覚悟を決める。香織は仁がいなくなり悲しむ雫の姿を誰よりも近くで見てきた。置いて行かれる者の恐怖、待ち続ける不安。それは同じ経験をした彼女だからこそよく理解している。戦うことに恐怖はあれど、助けに行くことへの躊躇いはもう香織にはなかった。
「2人が行くなら俺も行く! もう風磨と南雲ばかりに頼ってなんてられない!」
「ああ、そうだな光輝! ここまでいいとこなしだからな。いっちょ暴れてやろうぜ!」
なんだか目的がズレているような気もする光輝と本能に従った
「皆……鈴は、怖いよ。怖い。でも、ここで逃げたらダメだよね。1人で戦ってる友達を助けにいけない鈴が、恵理ともう1度友達になれるわけない! 鈴も行かせて!」
恐怖はある。不安もある。それでいてこの場で誰よりも弱い。それを自覚していながらも、鈴も覚悟を決める。もう何も取りこぼさないために。己の弱さを克服するために。
勇者パーティーであった彼ら彼女らは決断した。その決断を肯定することも否定することもなく、ハジメは続けて自分を愛する彼女達へと視線を移す。
ユエ、シア、ティオの3人は仁との直接的な戦闘経験があり、その力の差を正確に把握している。だからこそ、彼女達は光輝達のように容易く首を縦には振れない。その決断が、己の死へと直結していることに気づいていたから。
しかし、
「あの人のことは嫌いです。いきなり現れて私達のことをボコボコにして……あと何回も負けヒロインって馬鹿にしてきました。でも悪い人じゃなかったです。それに、あの人には父様を助けてもらった借りがあります。ハジメさん、私も
恐怖を押しのけ、シアは助けに行くことを決断した。彼女は仁を認めていない。だがそれでも仲間であるとは許容した。だから助ける。かつて、出会ったばかりのハウリア族をハジメが助けてくれた時のように。
ここまで全員が助けに行くと決断し、場の流れは出来上がっていた。だがそこにストップがかかる。
「……私は反対。もし本当に話に聞いた怪物があの魔人に匹敵する強さなら、私達が助けに行ったところで足手纏いになるだけ。ううん、きっと足手纏いにすらならないで終わる。大人しく待った方がいい」
ユエが反対の声をあげたからだ。それはユエが仁のことが嫌いだからではない。いや、それもあるだろうが戦力的に無理だと判断したからだ。
実際に仁と戦った経験のあるメンバーの中でも、ユエはその実力差を誰よりも実感させられた。自身の持つあらゆる手札をもってして、手加減した仁にすら敵わなかった。その程度の自分達やそれ以下の光輝達が仁レベルの怪物に太刀打ちなんてできるはずがない。
ただ殺されるだけならまだいい。しかし味方の足を引っ張って勝機を逃しでもすれば、ユエは死んでも死にきれない。
「ユエの言う通りじゃ。皆冷静に考えてもみよ。もし妾達が助けに向かったとして、恐らくあの男は妾達を守りながら戦うはず。短い付き合いだが彼奴がそういう男じゃと妾は思う。そんな状況で妾達の誰かが人質にでも取られみよ、勝てる戦いも勝てなくなるぞ」
戦力的な分析と仁の善性を信用したユエの判断にティオが同意する。彼女はこの場の誰よりも冷静に、今ある2つの道の分析をしていた。そして分かっていた。自分達の手助けなど本当に猫の手程度にしか役に立たないことを。例え冷酷と蔑まれようとも、少しでも勝機の高い方に彼女は賭けることにしたのだ。
本当に何故お前はドМなんだ。
こうして全員の意見が出揃い、再び沈黙が場を支配する。自然と全ての視線がハジメへと集められた。結局のところ、誰がなんと言おうが最終決定権はハジメにある。瞼を閉じ、暗闇の世界へ引きこもったハジメは思案する。
雫の覚悟を知った。シアの想いに共感した。ティオの分析に納得した。ユエの意見に賛同したかった。全員の意見が頭の中を駆け巡り、やがてハジメの脳裏には仁が最後に告げた言葉が流れる。
『わりぃ、ハジメ。後は任せた』
「ふざけんな。勝手に任せんじゃねーよ」
目を見開き、この場にいない仁へと悪態をつく。そして南雲ハジメは決断した。
「ごめんな、ユエ。俺はどうやらあの馬鹿な親友を助けたいらしい」
「……」
ユエは何も言わない。
「多分足手纏いになるだろうし、あいつも怒る。でも、ここで引けば俺はあいつの親友以前に仲間ですらなくなっちまう」
「……」
ユエは何も言わない。
「だからユエが間違ってるってわけじゃない。間違ってるのは俺の方だ。でもその上で頼みたい。俺と一緒に仁を助けてくれ。俺にはユエが必要だ。ついてきてくれるか?」
「んっ……」
何も言わず、ユエはハジメに抱き着く。その身長差からまるで大人の腰に抱き着く子供のような感じになっているが、今の2人にとってそんなことは関係ない。ユエは顔を上げ、ハジメの顔を両手で挟み込むと、ホロリと表情を崩して微笑んだ。
「……ふふ。当たり前。私はどこへでもついていく」
その一言がきっかけとなり、ここに全員の意見が1つに固まった。そして彼らは踏み込むことになる。人外達の領域に。そして知ることになるだろう。世界最大の"悪"を。
「ちょっと待てぃ! 妾も、妾もご主人様の頼みとあればどこへでもゆこうぞ! コラッ、ユエ! ご主人様の耳を塞ぐでない!」
そんな中、1人だけスルーされ、悲しみの声を上げる竜人族もいたとか、いなかったとか。
〇
「準備はいいかしら」
「ああ、バッチリだ、いつでもいける。おまえこそいいのかよ。最期の言葉くらい、聞いてやってもいいんだぜ」
「貴方に聞かれるくらいなら何も言わずに死んでいった方がマシだわ。デリカシーってものがないのね」
リューティリスの依頼を承諾したオレは軽く準備運動したのちに、気を解放して戦闘準備を整えていた。
ジャネンバを倒す。その頼みは勿論達成するつもりだが、そのためにはまずリューティリスが肉体の制御権をジャネンバに引き渡す必要がある。そうでなければ、死ぬのは意識を表に出している彼女だけ。
「今から、封印を解くわ。そうなればきっともう2度とわたくしが戻ってくることはない。失敗は許さないわ。ここで貴方が負ければ、世界は終わる。その覚悟を持って戦いなさい」
「世界を救えって……魔人ブウには絶望的に似合わない言葉だな。まあいい、救ってやろうじゃないか、世界」
「じゃあ、後は任せたわ……」
そして、リューティリスの体を拘束していた鎖が1本、また1本と砕け散っていく。鎖が砕ける度に苦しそうに呻くリューティスだが、そこに情けをかけてはならない。例え魂が別物だとしてもこれからオレが殺す相手なのだから。
「あー……そうね。やっぱり、最期に解放者らしいこと言ってみようかしら」
残りの鎖が1本となったところで、オレを再度見つめたリューティリスは自嘲するように口を開いた。
「自由な意志のもと、貴方の進む未来に幸多からんことを祈っているわ」
「は、思ってもないこと言ってんじゃねーよ」
「ふふ、ちょっとした……冗談……よ……」
最後の鎖が砕け散る。その瞬間、リューティリスの雰囲気がガラっと変わった。同時に、その体からどす黒い煙が湧き上がり、リューティリスの全身を覆い隠す。やがて煙が晴れたその先にいたのは、
まさに異形へと化そうとするリューティリスの姿だった。
顔の半分が人間のもでなくなり、腹、左足、右腕と徐々にその肉体が変貌していく。やがて派手な煙を巻き上げる大爆発が発生し、再びリューティリスであった者の肉体が煙に包まれる。そしてオレが再びその姿を見た時には……
「ジャネンバ、ジャネンバ♪」
そこにはもうリューティリスの姿はなかった。
黄色い肌に、全長10メートルはありそうな肥満体型。その顔はまるでゆるキャラかのように敵意を感じさせず、それでもなお凶悪な邪気を放ち続けていた。
「これが……ジャネンバ」
無邪気な子供のようにはしゃぐ様子からは危機感を薄れさせてくるが、あの絶大な気を僅かにでも感じてしまえば、そんな余裕は容易く掻き消された。ほんの少し前のオレであれば、勝ち目がないと、戦う事すらせずに負けを認めていたかもしれない。
「なるほど、確かにバカデカい気だ。ブウに勝てるってのも課題評価じゃない。アレを放置すれば、間違いなくトータスは終わる。いや、もしかしたらそれ以外にも影響あるかもしれないな。だが――」
しかし、その恐怖が今のオレにはない。ただ冷静に相手と自身の気の総量。そしてこれからの戦いで起こる微細な変化。それを計算し、予測した上で断言する。
「――この戦い、オレの勝ちだ」
勝利の確信を。
フラグ君「呼んだ? 呼んだよね? 今、呼んだよw」
歴史の真実(真)
1. リューティリスが魔人ブウに対抗してジャネンバ作る
2. ジャネンバがリューティリスの肉体を奪う
3. ジャネンバ、地上出て大暴れ
4. 隙を突いてリューティリスが肉体の制御権を取り戻す
5. 自分の体ごとジャネンバを封印
6. 魔人ブウが自分殺しに来るまで待機
リューティリス・ハルツィナ
ジャネンバを生み出したことで全ての運命が変わった解放者。
原作において、彼女は既に故人となってはいるものの、トータスの世界に魔人ブウが現れたことによってより強大な戦力が必要となってジャネンバを生み出した。
その肉体はジャネンバに一度乗っ取られた影響によって変化しており、生命力や魔力が人外レベルにまで跳ね上がり、寿命という概念を破壊したことで死にたくても死ねない体になってしまった。
唯一、ジャネンバを殺せる可能性のある魔人ブウを大迷宮の深部で待ち続けるも、そこへ現れたのは何故か常識を持って弱体化したブウである風磨仁だった。
仁への好感度は結局のところ魔人ブウであるため最低値。ただあまりにも容姿と性格がかけ離れているため同一視に苦労していた。
仁を転移させた際は「え、もうそんな下層まで来てるの? ヤバいこのままじゃあ大迷宮を攻略されて帰っちゃう! よし転移しよう!」という感じでかなり大雑把な転移をしたため、ハジメがあのまま魔法陣の中にいたら本当に仁と一緒に飛ばされていたかもしれない。
外界世界(new)
リューティリスがジャネンバの魔力を強制的に利用して作った世界から切り離された別世界。
見た目的にはめちゃくちゃ広いだけの出口のない四角い部屋。部屋中に魔方陣が刻まれ、それが空間の維持とジャネンバの封印、加えて復活したジャネンバの弱体化の役割を担っている。
文字通り"世界を作る魔法"であるため、後に出て来る"概念魔法"にすら勝るとも劣らない強力な魔法。
魔法発動者がなんらかの事情があって世界から消える事態が発生すれば、この世界も共に消滅する。
決して、『〇〇しないと出られない部屋シリーズ』との関連性はないし、リューティリスが実はそういう趣味の持ち主とかでもない。ないったらない。