ピンクの魔人と共に   作:クー(無課金勢)

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ついにジャネンバ戦! やっぱり戦闘シーンは三人称視点の方が書きやすいですね。

しかし、まさか『ドラゴンボールザブレイカーズ』で旧ブロリーを見れる日が来るとは……。
岩盤フィニッシュといい、パラガスの最期といい、もしや運営にはブロリストがいるのでは? もしくはブロリストであった少年少女達が長い年月をかけてドラゴンボールに関わる仕事に就いたか。
何はともあれ、めでたいです。


VSジャネンバ(1)

 巨大な体に純度100パーセントな悪の気。まさに神代の怪物の呼び名に相応しいジャネンバを前にして、仁は一切の恐怖も緊張した様子もなく笑みを浮かべていた。確かな余裕はありつつも、油断はなく、冷静に敵を見据えながら構えを取る。

 

 とはいえ、それは傍から見れば到底"構え"には見えないだろう。

 

 魔人ブウの肉体は硬く、柔らかく、変幻自在に形を変える。通常の人間とはかけ離れた構造であるからこそ、その戦術の幅も無限に等しい。ならば、人が人と戦うために生み出した"構え"という動作は仁の動きをむしろ制限させてしまう。

 

 故に、仁は構えを取らない。いや、構えを取らない状態こそが構えだったのだ。

 

 上半身を前方に傾けた猫背の体勢で、全身の力を抜き、両腕をダランと垂らした自然体。その姿からは、緊張感の欠片も感じられない。

 

 だがそれでいい。

 

 不死身の肉体がある以上、防御は最低限で構わない。思考の全てを攻撃に切り替え、相打ち覚悟でも敵を殴りにいく。些細な駆け引きなど必要ない。ただ敵を上から蹂躙するのみ。

 

 そんな仁の導き出した結論から生まれたのがそのノーガードの構えだった。

 

「ジャネンバァ?」

「さて、と……行くぜ」

 

 次の瞬間、仁は動く。

 

 助走も前動作もない。一瞬にして最高速度を出した仁は残像すら残すことなく、戦闘準備さえ整えていなかったジャネンバに触れられるほどの距離まで接敵する。

 

「!?」

「ハハッ!」

 

 目を丸くして驚くジャネンバだが、反応するよりも速く丸々と膨らんだ腹に拳がめり込み、続けて振り上げられた蹴りによってゴムボールのように地面を跳ねながら、奇怪な音を立てて吹き飛んでいく。

 

 楽しそうな笑みを浮かべる仁とは対照的にジャネンバの表情は変わらない。へらっとした笑顔のまま、避けようとも守ろうともせずに悲鳴を上げて吹き飛んでいく。その不気味さに違和感は感じつつも、仁は攻撃の手を緩めない。

 

 ジャネンバを追って加速し、吹き飛んでいる最中のジャネンバに追いつくと鞭のようにしならせた足で宙へと蹴り上げる。更に搔き消えたかのように一瞬で移動すると、飛んでいくジャネンバを追い越してダブルスレッジハンマー。頭部へと拳をめり込ませ、地面へと叩き落とす。

 

 10メートル以上もの巨体が勢いよく落下したとなれば、いかに頑丈なリューティリス作の"外界世界"であろうと無傷とはいかない。床は砕け、辺りには魔方陣の刻まれた鉱石の破片が弾け飛ぶ。

 

「はあああっ!」

 

 攻撃を受けているというのに、仰向けに倒れながらバタバタと手足を動かして楽し気に笑うジャネンバへ、仁は両手の付け根合わせてエネルギー弾を放つ。1発や2発ではない。数十発、数百発という流星群のようなエネルギー弾が数秒もの間に連続で降り注いだ。

 

 通常であれば、純粋な攻撃に加えて敵の逃げ場を塞ぐ目的で放たれた弾幕が、ジャネンバの巨体故に全てが命中する。頭に、顔に、首に、胸に、肩に、腹に、足に、腕に、次々とエネルギー弾が炸裂すること約10秒、仁は爆炎に包まれたジャネンバを見下ろしながら床に降り立った。

 

 1撃1撃が本来の肉体の持ち主であるリューティリスを容易く葬る威力を誇る連撃であったが、仁に慢心の色は一切ない。正しくジャネンバの強さを把握していた仁だからこそ分かる、目の前の敵がこの程度でやられてくれるような温い相手ではないと。

 

「この程度、ダメージに入らないだろ? ほら、さっさと起きろよ。もっとオレと遊ぼうぜ。それとも、死ぬまでサンドバッグになるのがお望みか」

「ジャーネン…バァァ!!」

「そう、それでいい」

 

 爆炎を引き裂き、体に乗っかった瓦礫を吹き飛ばし、ジャネンバは跳ね上がるように立ち上がる。その体は所々汚れているもののほとんど無傷。風磨仁どころか魔人ブウとしての記憶も含めても、疑いようのない"最強の敵"。その事実を改めて認識した仁は更に笑みを深くする。

 

 まだ戦いが始まったばかりでジャネンバは本気を出せていない。それどころか、これが戦いであると認識すらしていなかっただろう。だが今の一連の攻撃で少なからずダメージは与えた。ならば本当の戦いはここから。仁は己の内から湧き上がる興奮を抑えることなく、纏うどす黒い気を更に増大させていく。

 

 本来、風磨仁という人間は戦うことが好きじゃなかった。だが魔人ブウに吸収された影響でその性格がベースのものから僅かに変質してした。だからこそ、今の彼は心の底から戦いを楽しめてしまう。勝利に甘美な快楽を感じてしまう。

 

 最適解を進むならば、仁はわざわざジャネンバが立ち上がるのを待つのではなく、全力の一撃で終わらせてしまうべきだっただろう。今の仁にはそれが出来る力がある。それでも今の彼は、ジャネンバと全力で戦いたいという己の欲望を叶えようとした。

 

 世界の命運よりも自分の好奇心を優先したのだ。

 

 これは人間であった頃の仁であればありえないこと。その事実を自分でも分かっていながら、それを仁は受け入れた。『これはこれでアリ』だと。

 

「ジャッ♪ ネンッ♪ バアァ♪」

 

 未だにヘラっとした笑顔を崩さないジャネンバは砕けた床の破片をその巨大な手で触れる。一瞬、掌が僅かに輝いたかと思えば、次の瞬間にそこにいたのは元の瓦礫ではなく全長2メートルサイズのミニジャネンバの集団だった。

 

「おいおい、これも魔法か? それとも魔術か? まったく、魔力の流れだけじゃよく分からん。まあ……全部潰せば一緒か!」

「「「「「「「「「ジャネンバ、ジャネンバ!」」」」」」」」」

「……でもこれはちょっと多すぎない? 半額セールは……ない。あ、そう」

 

 迫りくる30は余裕で越えるであろうミニジャネンバ達。全員が全員にこやかな笑顔で子供のような高い声をあげながら近づいて来る光景はもはやちょっとしたホラーである。軽めに引いた仁は苦笑いを浮かべたまま、一切の躊躇いもなく黄色い集団へと向けて突っ込んでいく。

 

「はぁあああああッ!!」

「「「「「「「「「ジャネンバァァァ!!?」」」」」」」」」

 

 最も近くにいたミニジャネンバをボディブローで殴り飛ばし。その後ろに隠れるように迫ってきたミニジャネンバに掌底を放ち顔面を破裂させる。隙を突こうと背後から襲われれるも振り向くことすらなく後ろ回し蹴りで対処し、2体同時に迫ってきた個体は両方の頭を掴み互いの額をぶつけてから地面に投げ捨てる。また4体程、上から圧し潰そうと落ちて来たが口から火を吐いて消し炭にし、抱き着いて行動を封じようとしてきた別のミニジャネンバを気を放出するだけで弾き飛ばす。

 

 常に全員の動きを把握し、四方八方を囲まれて逃げ道を作られないよう確実に、だが慎重に仁はミニジャネンバの集団を処理していく。ただ敵の数があまりに多すぎる――というか、現在進行形で本体のジャネンバによって戦力増加中であった。

 

「チッ……厄介だな」

 

 飛ばしても、壊しても、殺しても、勢いは増すばかりで戦況はどんどん悪くなる一方。それをいつまでも分からない仁ではない。肉弾戦を止めると、後ろに飛んでミニジャネンバ達から大きく距離を取る。そして握り拳を作った右腕を真横へ水平に伸ばすと、一瞬で巨大化させた。その大きさは本体のジャネンバと同等。

 

「オレの(ゲンコツ)はちょっと重いぞ」

 

 巨大化させた腕を今にも迫るミニジャネンバの集団へ向けて振るう。敢えて分かりやすく例えるならば、ゴムゴムの巨人の銃(ギガントピストル)だ。

 

 しかし例え腕のサイズが増えたところで、仁の気そのものが増えたわけではないし、強くなったわけでもない。所詮は見かけだけの変化。だがそれでもデカイという事実は、それだけで有利に働くものだ。勿論攻撃範囲が広いというのもあるが、大きければ当然重い。そして重いということは掛かる重力も増して威力も上がる。その超重量から繰り出される攻撃は単純な気の大きさでは測れない脅威があった。

 

 ただ勿論、大きければ大きいほど隙が生まれやすく動きも遅くなるという致命的な欠点も存在するため、これは仁が好んで使う戦法ではない。それでも、こういう状況では十分効果的に働いた。

 

「「「「「「「「「ジャネンバァァァ!?!?」」」」」」」」」

 

 床を削りながら突き進む仁の拳は逃げようとするミニジャネンバ達を捉え、まとめて殴り飛ばす。続けて突き出した拳を横にスライドさせ、初撃から逃れたミニジャネンバをなぎ払う。それでも回避に成功してしまった逃げ足の速い個体は振り上げた腕を狙いを定めて落として押し潰す。

 

 まさにそれは蹂躙だった。片腕を動かしていくだけでミニジャネンバ達を葬っていく仁は満面の笑みを浮かべながら今なお増えていく速度以上の早さでミニジャネンバ達を狩り続ける。だがそれもいつまでもは続かない。しばらくして、逃げ惑っていたミニジャネンバ達が途端に逃走を止め、突撃してきたことで戦況は変わった。

 

 大量のミニジャネンバ達は巨大化した仁の腕に飛びつき、その黄色い体を眩いほどに輝かせると、まさかの自爆をしてみせたのだ。

 

「っ……そう来たかッ!」

 

 連鎖したかのような爆音が空間中に響き渡り、その度に巨大化した仁の腕が爆散、ピンク色の肉片が辺り一面に弾け飛ぶ。肉体的性質から痛みこそなかったものの、この状況はよくないと仁はすぐに右腕の肘から先を切り捨てる。

 

 ちょうどその時だった。先程まで仁と直接つながっていた右腕に全てのミニジャネンバ達が群がり視界を塞ぐほどの大爆発が発生したのは。きっと腕を切り捨てる判断が少しでも遅れていれば、今頃その衝撃は仁にまで届いていたことだろう。

 

「うぐっ……」

 

 想定を遥かに超えた爆炎に仁は冷や汗を流しつつも、自分の元までやって来た黒き煙を再生した右腕を振るうことで裂くように払う。だが煙が明けた先にあったのは……()()()()

 

「ンバァ!」

「あがァ……ッ!?」

 

 勿論それが壁であるわけがない。仁が見たそれは超至近距離にまで迫ってきていたジャネンバの腹部だった。気づいた時には既に遅く、仁はジャネンバのタックルをそのまま腹から受け、ポヨンッというまったく痛くなさそうな音と共に弾き飛ばされていく。

 

 衝撃音に似合わず首が変な方向に曲がっていた仁だったが、吹き飛ばされながらも膝を丸め、縦に後方回転して勢いを殺し、地面に両手両足を着けて着地。そして体とは反対方向に向いていた首を元に戻すと、己を吹き飛ばしてくれたジャネンバに再び目を向ける。

 

 そこには、両手と両足を大きく広げ、大の字のポーズを取ったジャネンバ。

 

「パパパパァ!!」

「どうなってんだその面白い身体は……」

 

 奇怪な雄叫びと共にジャネンバの身体中に空いた穴から放たれたのは、大量のエネルギー弾だった。

 

 ポンポンポンッという軽快な音と共に絶え間なくエネルギー弾が生み出されていく。あまりに想定外の発射位置に仁も一瞬目を丸くして驚愕するものの、「いや、オレも大差ないな」と勝手に納得してからすぐに迎撃へと移った。

 

 そのエネルギー弾の威力、発射速度、同時展開数はどれも仁に匹敵、もしくは上回るものだったが、扱いに関して粗末としかいいようがない。まるで全弾に弱めのホーミングが付与されたような追尾性能を誇るが、最終的な着弾点が分かっているならば対処は容易い。

 

 迫りくる大量のエネルギー弾を仁は裏拳で逸らすように弾いていく。

 

 当然気の総量が大きければ大きいほど、放たれるエネルギー弾の火力も増す。それが膨大な気を持つジャネンバが撃ったとあればその威力は想像を絶するものとなるだろう。素手で触れるどころか、近くで爆風を受けることすら超人でも死に繋がる。しかしそれを、仁は顔色一つ変えずに軽々と弾き続けて見せる。

 

 しかし最後のエネルギー弾を弾いたその時、隠し弾の要領で姿を隠しながら頭から突っ込んできたジャネンバの頭突きが額に直撃。あるのかすらも分からない脳が揺さぶられ、意識が飛んだ。

 

「っ〜……オラァ!!」

「ジャネンバァ?!」

 

 通常、一度意識が飛べばしばらくは戻ってこれはしない。だが仁は普通などという言葉とは程遠い場所にいる。一瞬で意識を繋ぎ直し、自分の体よりも大きいジャネンバの額へ頭突きをし返す。体のサイズこそ違えど、その内に内包する気の総量は仁の方が上。空間中に鈍い音が響き渡り、激しい衝撃波と共にジャネンバは額を抑えながら後ずさった。

 

「ジャ、ジャネンバァ!」

「クソッ……まったく、多彩な奴だな」

 

 痛みからか目元に涙を浮かべたジャネンバは今度は口から火炎放射を放つ。その範囲、威力共に以前敵対したヒュドラなんかとは比べものにならない。だが仁は津波のように押し寄せる炎を躱そうともせずに"サクラブレード"――刃状の気を右腕に纏わせると、頭上に掲げてから一気に下へと振り下ろす。

 

 たったそれだけ、その程度の動作で仁の右腕からは巨大な斬撃が放たれ、迫る火炎の波は両断したのちに霧散する。以前よりもパワーアップした自分の力を実感し、満足気な笑みを浮かべていた仁だったが、気づいた時には背後から物理的な何かに()()()()()()

 

「なんッ――!」

 

 姿すら見えず、意味も分からないまま殴られた仁だったが、少なくとも自分が殴られたという事実とそれを行ったのがジャネンバであるということだけは把握していた。だが問題はそこじゃない。知るべきことはどうやって(How)だ。

 

 ジャネンバと仁の間には距離があった。それが一歩で詰められてしまう程度の短い距離であったとしても、その一歩を仁が見逃すはずがない。

 

 背後からの衝撃により強制的に向かい合っていたジャネンバの元まで飛ばされた仁は巨大な黄色い右手に掴まれる。咄嗟に抜け出そうとするも間に合わない。そのまま上に放り投げられた仁をジャネンバはその巨体でまさかのオーバーヘッドキックを放つ。

 

「っ……」

 

 避ける暇もなく、再び吹き飛ばされながらも仁は空中で体勢を立て直そうとするが、今度は真上から殴られ、無理矢理叩き落される。しかも床に叩きつけられる寸前で今度は真下から殴られ、再び天井へ向けて打ち上げられた。

 

「そう…いうことかッ!」

 

 初撃は見逃した。2撃目で微かに捉えた。そして3撃目ではっきりと仁は見た。殴られる直前、空間が歪み、光り輝く膜のようなものが生まれると同時に、そこからジャネンバの拳が飛び出してきたことを。

 

(原理はハジメのゲートみたいなもんか。一瞬で自分とオレまでの距離をゲートで繋いだ上で、拳だけ転移させて殴る。まさか"空間魔法"をそんな風に使う奴がいるとはな)

 

 魔人族のフリードやハジメのゲートキー&ゲートホール。ゲート介して空間を繋げるその魔法は特別難しいものではないが、ジャネンバはそれを攻撃のために使っていたのだ。一瞬で自分と仁までゲートで繋げ、そのゲートに向けて拳を放つことで遠くにいる仁にもパンチを当てる。そんな高等技術を復活してそう間もないにも関わらずジャネンバはやってのけた。

 

 それからまたゲートから飛び出した拳に殴られ、飛ばされた先にまたゲートが生まれ殴られる。そんなことを何度も繰り返しながら、仁はジャネンバの能力について整理していた。

 

 何度も殴られた影響で体中がグチャグチャに歪み、あらゆる箇所に歪な凹みが出来ているものの、仁にとってはどうせ1秒で戻る傷でしかない。構わずに脳をフル回転させて突破口を見出そうとする。

 

 無詠唱魔法を可能とするハジメやユエでも数秒かけて発動する魔法をコンマでしかも連続で発動し続ける。それだけでもジャネンバが桁外れな力を持ってることが分かる。

 

(でも違う。あいつの本当にヤバい所はそこじゃない)

 

 次に自身を狙うであろう拳から逃れるため、エネルギー波を放ち強制的に吹き飛ぶ方向を調整した仁だが、それをまるで分かっていたかのように展開されていたゲートからジャネンバの腕が飛び出し再び殴り飛ばされる。

 

「ッ……」

(これだ。……あの野郎、この短い戦闘でもうオレの動きを見切りやがった)

 

 仁がジャネンバとの戦いで最も脅威に感じたものは、多彩な攻撃手段でもその高火力な打撃や気による攻撃でもない。

 

 真に恐ろしいのは、その"学習能力"。

 

 煙で身を隠して迫ったり、エネルギー弾で仁の視界を塞いで強制的に死角を作り出したり、今のように完璧なまでの先読みをすることで的確に打撃を浴びせる。それはどう考えても知性なき獣には出来ない戦い方だった。

 

 ジャネンバに理性はない。意味のない言語しか口にしていないのがその証拠だろう。だが、その戦闘スタイルは天才的であった。それこそ、本来の魔人ブウに匹敵するほどに。

 

 だからこそ、仁の動きはこの短い攻防の中で既に把握されていた。きっと今のジャネンバには仁の次の行動が手に取るように分かっているのだろう。しかしだからといって仁に勝ち目がなくなったことにはならない。動きを読まれたならば、それを前提とした動きをすればいいだけのこと。

 

「……2…1…ここ!」

「ジャッ!?」

 

 自分の動きを相手が完全に読んだ上で、己ならば次はどこから攻撃を仕掛けるか。そうしてゲートの出現場所を予測した仁はジャネンバが拳を繰り出すよりも速く、展開されたゲートにエネルギー弾を放り込んだ。

 

 ゲートによって空間が繋がっているならば、勿論仁の方からの攻撃もジャネンバには届く。今にも拳をゲートに突きこもうとしていたジャネンバはゲートの中から飛んできたエネルギー弾を顔面に受け、その顔を真っ黒こげにし驚きのあまり瞼をパチパチと開閉する。

 

「うっし、ビンゴ」

 

 狙い通りの展開に、仁はボロボロにされた肉体を瞬時に再生させてガッツポーズをとる。だが喜びも一瞬、すぐに意識を切り替え、仁は虚空へと向けて拳を振るった。その先にジャネンバの姿はない。しかしその代わりかのように、そこには光り輝く膜があった。

 

 直後、犬のように体をぶるぶるさせて顔の汚れを振り払ったジャネンバの顎が仁の拳に打ち上げられる。

 

「おまえに出来る……なら、オレにも出来るだろ?」

 

 仁にとって魔法は得意分野ではない。だが気だろうが魔法だろうが関係なく、ブウの肉体を持った仁は"()()"という技術に優れていた。技能でも魔法でも魔術でもない。ただの才能でしかないそれは0から1を作り出すことこそできないが、完成した見本さえあれば大抵のものはコピーできるという極めて反則的なものだった。

 

 その上、ジャネンバが先程見せた空間転移パンチは"空間魔法"の応用。それを既に習得してる仁ならば、模倣できないはずがない。

 

「たぁああああ!!」

 

 その後も仁は連続で自身の周囲に作り出したゲートにパンチやキックを繰り出し、動揺するジャネンバの周囲に繋げたゲート越しに打撃を与える。ジャネンバの先読み能力は恐ろしいものであったが、戦闘センスならば仁も劣りはしない。何故なら、彼の肉体はあの魔人ブウのものなのだから。

 

 最後に背中から回した足を自身の腕で抱え、体をボールのように丸めると、仁は自らゲートの中へと入り込み、その先で怯むジャネンバへ突進する。四方八方から乱舞し、とどめと言わんばかりにその巨体を吹き飛ばした。

 

 ポンッポンッとやはりゴムボールのように飛んでいくジャネンバを見つめながら仁は丸めた体を戻し、地に足を着けると、吹き飛んでいったジャネンバにエネルギー波を放つ。

 

「ジャネンバァ!!」

 

 耳を劈くような衝撃音と同時に高い絶叫の声が響き渡る。エネルギー波の着弾地点には爆煙が上がり、その姿は見えなかったものの、ジャネンバはすぐに煙を払いのけて姿を現した。その顔からは先程と変わらずゆるキャラのようなものであったが、明確な怒りを感じられる。

 

「ジャネンバァァァ!!」

 

 そしてついに、ジャネンバは今までの楽しむような声とは真逆の怒りの雄叫びを上げた。

 

 その雄叫びにはジャネンバの怒りの気も上乗せされ、物理的な破壊力すら備わっていたものの、正面から受けた仁はまるでかまいたちを受けたかのように体が僅かに裂けた程度で動じた様子を見せない。それどころか、ようやく"遊び"ではなく"殺し合い"になるのだと察し、残虐性のある深い笑みを浮かべる。

 

「お互いもう体は温まっただろ? もう様子見はなしでいこう」

 

 開いた右の掌に左の拳を軽くぶつけ、仁はこれまで以上に気を高める。あまりに激しい気の高まりに周囲の空気が振動を始める。そして爆発するかのような光が体から溢れ、光が収まるとそこには……ドス黒い邪悪な気を纏わせ、不適に笑う仁がいた。

 

「じゃあ殺し合おう! オレ達の得意技だろ」

「ジャネンバァァ! カァーーッ!」

 

 その言葉をきっかけに、再び2人は動き出す。今度は加減も油断も一切ありはしない。戦いは更に激化していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場面は変わり、仁救出へと向けて動こうとしていたハジメ一向は、そもそもの致命的な問題に直面していた。

 

「ところで南雲君。これから鈴達が風磨君を助けに行くっていっても、一体どこに行けばいいの? だって風磨君、魔法で飛ばされちゃったんでしょ?」

「そうじゃのぉ、わざわざ転移させるくらいならば、歩いて行けるような場所でもなかろう。というより、そもそもこの大迷宮に転移されたのかすら分からぬ現状。そこのところ、ご主人様はどう考えておるのじゃ?」

 

 仁を助けに行く。その結論は全員が納得する形で決定した。だがそもそもの問題として、ハジメを含めたこの場にいる誰もが、仁が今現在どこにいるのかが分かっていなかった。

 

 先程仁を連れ去った魔法陣を解析しようにも、あの一瞬では流石のユエも解析は不可能であったし、とっくに消えてしまい今はもう調べられない。

 

 どこにいるかも分からない相手を助けに行く。これほど困難なこともそうないだろう。その上、仁が全力で戦っている(推測)にも関わらず、大迷宮内にいるハジメ達にはその戦闘音すら耳に入ってこない。つまり、この大迷宮にいない可能性すらあった。それも含めてティオは最初から反対派だったのだが、結局彼女は流れで賛成派に押し込まれてしまった。やはり不憫だ。

 

 どうやって助けるか? の前にまずは探さなければならない。最初の壁にはとっくに突き当たっていたことに今更気づいた光輝達やユエ達は揃って黙り込む。だがそんな中、ハジメだけはその壁を突破する術を持ち合わせていた。

 

「ああ、それならコイツを使うつもりだ」

「……"ゲートキー"? でもそれは……」

 

 ハジメが"宝物庫"から取り出したのは掌サイズの金属プレート。以前帝国に囚われたカム達を救出する際に使おうとしたものの、仁の活躍により出番のなかった鍵型アーティファクト"ゲートキー"である。"空間魔法"と"生成魔法"のコンボで作られたそれは、ゲートを介した超遠距離移動を可能とする。

 

 しかし、ユエは気づいたようだが、ゲートキーはそれ単体では機能しない。対となった鍵穴型アーティファクト"ゲートホール"が行きたい場所になければゲートを開くこともできないのだ。故に、それを知っていたユエ、シア、ティオ、香織は疑問に思う、何故今それ出したのかと。

 

 不思議そうに首を傾げる彼女達の様子を見て、ハジメはいたずらが成功した子供のようにクスリと笑ってから、その疑問に対する答えを告げる。

 

「ユエ達の考えてる通りだ。確かにこいつ()()じゃ仁の所には行けない。でもそいつは……"仁がゲートホールを持ってなかったら"の話だろ?」

「え、それってまさか!」

「ほう……」

 

 ハジメの言葉にシアとティオが目を丸くして驚愕する。未だゲートキーとゲートホールの仕組みをよく分かってない光輝達は話についていけず、未だ頭の上に疑問符を浮かべているが、ハジメは構うことなくどんどん話を進めていく。

 

「王国にいた時、仁が自分で作ったマントよりも性能いい変装用アーティファクトが欲しいって強請(ねだ)ってきてな。まあ俺も暇だったから作ってやったんだ。覚えてるか? あいつが付けてた腕輪?」

「ああ、そういえばあのダサいマントいつの間にか付けてませんでしたね。あれアーティファクトだったんです?」

「そういえば……仁君がやけに大きな腕輪着けてたような……」

 

 王国に滞在中、仁が変装用に作った体色を変えるアーティファクトであるマントに性能的な限界を感じ、ハジメに新しいものを作ってもらったというのは個人間でしか知らない話だ。誰かに話すようなことでもなかったし、話すような場面もなかった。ハジメと仁以外がこの話を知らなくとも無理はない。

 

 当然そんなこと気にもしていなかったメンバーは各々が仁の姿を思い浮かべ『そういえば、なんか着けてた』ぐらいにぼんやりと思い出し始める。

 

「あの腕輪は変形してゲートホールになるよう改造してあってな。このゲートキーはそいつに繋がってる。つまり、仁がどこにいようと俺達にはすぐにでも向かえる手段があるってわけだ。まあ、あいつが腕輪ぶっ壊してたらちょっと話は変わるけどな」

 

 手に持つゲートキーを指の先でクルクルと回しながらハジメは説明を終える。それを聞いた者達は、ある者は感心し、またある者は驚愕に息を呑む。手掛かりすらなかった状況にも関わらず、ハジメはポンッと途中式をガン無視して答えを提示してみせたのだ。

 

 その用意周到さには誰もが舌を巻くしかない。この場にいる誰一人として、このイレギュラーな状況を事前に予測できる者などいなかったのだから。

 

「す、すげぇな南雲。まさかこうなることが分かってたのかよ」

「いや、ただの嫌がらせだな」

「え、嫌がらせなのか……」

 

 『俺、バカだからよくわかんねぇけどよ』でお馴染みの龍太郎がアーティファクトの性能もよく分からないまま、ハジメが凄いことだけ理解して驚愕に震える。とはいえ、真実はそんな驚くことでもない。

 

 実際のところ、腕輪にこっそりゲートホールの機能を付けたのはユエ達をボコボコにされた報復として、プライベート中に手榴弾でも放り込んでやろうというハジメのささやかないたずら心がきっかけだった。

 

 当然こんなイレギュラーなんて想定していなかったし、ハジメ自身もこんな状況で役に立つなどとは微塵も思っていなかった。だからこそ、これはただ『運が良かった』それだけの話でしかない。

 

「龍太郎、そんなこと今はいいわ。それよりもハジメ君、"仁のところに行ける"。そう思っていいのよね?」

 

 雫はゲートキーとゲートホールの性能など知らない。だからこそ、端的に――『仁を助けに行けるか、否か』という結論のみを問いただす。荒ぶる心を抑えつけ、あくまで冷静を装って。

 

「ああ、そうだ」

「なら行きましょう。今すぐに」

「……はぁ、少しは落ち着け八重樫。らしくねぇぞ。仁が心配なのは分かるが、そう焦んな。安心しろ、あいつがそう簡単に死ぬはずない。それは俺よりもお前の方がよく分かってるはずだろ?」

「っ……私は別に焦ってなんて……」

「だったら最後まで聞け。俺の話はまだ終わってない」

「……そう、ね。ごめんなさい、少し冷静じゃなかったわ」

 

 それでも隠し切れない焦りをハジメに見抜かれ、雫は悔しそうに引き下がる。彼女自身も分かっていた。仁がいなくなったことで自分が不安定になっていることを。

 

 常に一緒にいなければ我慢できないというレベルのメンヘラ気質ではないが、無事が確認できなければ途端に不安定になる。それくらいには雫にとって仁の存在は大きくなっていた。ここまで来てどうして恋愛感情は抱いていないと断言するのか、それはハジメや仁にも分からない。

 

 ただ普段の雫であれば、ハジメに焦りを勘づかれることもなかっただろう。それほどまでに自分を偽れることが出来るのが彼女の特技である。だが今回は状況が悪かった。

 

 見知らぬ所で仁が行方不明になったとしても『どうせすぐに戻ってくる』と信じれただろう。親友であるハジメの口から死んだという報告を受けても『そんなはずがない』と拒絶できただろう。しかし目の前でそれが起きてしまった今、雫はどうしても"あの日の【オルクス大迷宮】"を重ねてしまう。

 

 精神的な不安定に陥った理由はそこにあった。心の歪みに気づいた雫はこのままではいけないと、頬を叩き、一度大きく深呼吸をして心を落ち着かせていく。

 

 その様子を見て、『もう大丈夫だな』と判断したハジメは話を再開させる。

 

「とりあえず、あいつの所まで行く手段は今言った通りだ。だが一番の問題はそこじゃない」

「どうしてだ南雲。雫の言う通りすぐにでも風磨を助けに行った方がいいだろ? はっ……もしかしてお前、風磨を見捨てるつもりか!?」

「……アホかお前は。相変わらずお前の思考回路がどうなってんのか俺には分からん。少しは冷静に考えてみろ。このまま無策で仁のとこに行ったとしてどうなる?」

 

 いい加減ゲートキーを使って転移した後のことを話したかったハジメだが、そこをまったく考えていない光輝の主観の強過ぎる発言にストップされ、こめかみに指を当てあからさまな苛つき示す。

 

 しかし残念かな。光輝はいまいちハジメの言いたいことが通じていなかった。既に光輝の脳内イメージでは転移した先で仁と戦っている怪物を自身が颯爽と倒し、仁に涙を流して感謝され、雫や香織達にちやほやされる己の姿が鮮明に浮かび上がっていた。

 

 なんとなくそれを悟ったハジメは凄くウザそうな視線を光輝へ向けながら大きなため息を吐く。そのあからさまに馬鹿にされたと分かる反応に機嫌を悪くした光輝が突っかかろうとするも、それよりも早くティオが未だハジメの考えを理解していない自称勇者の代わりにその答えを告げる。

 

「――壊滅……もしくは足手纏いとなった上での全滅。こんなところかのう、ご主人様」

「そうだ。そうなんだが……ティオ、お前どうした? お前が一番常識ある奴に見えて気持ち悪いぞ」

「っ!!!!? なんというさり気ない罵倒ッ! はぁはぁ、この仕打ち……たまらん!」

「あー……やばいな、なんかもうこの状態に安心感を覚えてきやがった」

 

 ハジメとティオの特殊性癖は置いておくとして、ティオの答えはまさにハジメが危惧していたことそのものだった。

 

 仁の救助に向かうにあたって戦うであろう敵は、控えめに見積もっても仁クラス。すなわち、ハジメ、ユエ、シア、ティオが4人がかりで戦っても軽くあしらわれる相手だとハジメは仮定していた。そこにヒーラーの香織や強くなった雫、おまけの天之河達がプラスされたところで、その強大な力の前では本当に猫の手程度の変化でしかない。

 

 実際に仁と戦い、その力の差を肌で実感したからこそハジメは確信していた。今の自分達ではただ無意味に殺されて終わりであると。

 

 2度に渡って仁にボコボコにされた経験は確かに活きていた。以前までのハジメであれば自分の強さを疑わず、光輝のように大した考えもなく突っ込んで死んでいたことだろう。だが今の彼は己の弱さを知った。自分の弱さを認める。その成長が今ここでハジメを踏みとどまらせていたのである。

 

「濁さずに言うが、今の俺達が仁の戦ってる敵に挑んだところで勝てる見込みはない。100%負ける。これは絶対だ」

「それはハジメ君も……なんだよね」

「……ああ。仁みたいに相手に殺意がないんだったら生きてられるかもしれねぇが、それはまずないだろうな」

「そう……」

「だから――」

 

 とはいえ、南雲ハジメという人間は超のつく頑固でもある。一度決めたことをそう容易く覆すことはないし、勿論ここで親友を見捨てるなどという選択肢もない。

 

 それ故に、ハジメは全員に問う。

 

「誰でもいい。どんな手段でも構わない。仁レベルの敵を殺せる考えがある奴がいたら教えてくれ」

 

 怪物退治の方法を。

 

 ハジメも一応何通りか作戦は考えていた。だがそのどれもが、成功率が低い上に不確定要素が多過ぎる。上手くいくかもしれないが、失敗するリスクの方が高い。そんなものばかりだった。

 

 だから、ハジメは仲間を頼ることにした。これまでのハジメの思考回路ではその発想に至るにはもう少し時間が掛かっただろう。しかし今のハジメは仲間の大切さを深く理解している。頼ることに躊躇いも恥じらいもありはしなかった。

 

 ハジメの選択は正しい。自分だけでは出来ないことに対し、仲間の力を頼るのは当然のこと。そう、正しい……のだが今回の要求に関しては少々難易度が高過ぎた。

 

 ハジメの問いに返ってくる言葉はない。そもそも『人外レベルであるハジメを超える化け物を殺す方法を教えてくれ』などという提案そのものに無理があるのだ。まあ正確には、光輝が何か言おうとしていたのだが、案の定皆で頑張ればなんとかなる理論であったためハジメはガンスルーを決め込んだ。

 

「まっ、そりゃそうか……」

 

 無理な相談だというのはハジメ自身もよく分かっていた。自分の作戦に自信がなかったから一応聞いただけであって、別に誰の意見もないならないで構わない。

 

 それならばと、当初の予定通り自分が考えた何通りかの作戦を共有し、賛成が多かったものを採用しようと口を開こうとしたハジメだったが、それは彼の最愛によって止められることとなる。

 

「……ハジメ」

「ユエ?」

「んっ……私に考えがある」

 

 ユエは1歩前に足を踏み出し、ハジメに近づく。その顔には自信に溢れた笑みに満ちていた。それはいつもハジメやシア達に向けられているような優し気な微笑みではなく、この場にはいない誰かを見返してやろうという強い意志が込められた笑み。

 

 ユエは胸の前で握り拳を作り、自信ありげに宣言する。

 

「……私が()()()新しい"神代魔法"……それを使う」

 

 

 

 

 

 

⚪︎

 

 

 

 

 

 

「……おいおい、これは違うだろ」

 

 作戦会議が終わり、『いざっ!』と覚悟を決めてゲートを繋げ、仁の元へと転移してきたハジメは、そこで目にした光景に呆然とする他なかった。

 

 敵が自分を上回る強さを持つことは当然のように覚悟していた。そしてそんな怪物と戦う仁も同様に人外クラスなのであると理解していた。だがそれでも……それでもまだ甘かった。()()()()()()だとは思わなかった。

 

「だぁあああああああ!!」

「ジャネンバァァァ!!」

 

 燃え盛る異様な雰囲気が漂う空間。絶え間なく飛び交う無数のエネルギー弾。そして、その戦場の中心で音速すら超えた速度で何度も何度も衝突し合う2つの影。

 

 1つは、その特徴的な色からすぐに仁であると分かった。そしてもう1つの大きな黄色い影こそ、仁に匹敵する神代の怪物なのだとハジメは瞬時に悟る。

 

 しかし問題はもっと別にある。

 

 仁と怪物の戦いは、まるで災害だった。拳と拳がぶつかるだけで空間が爆ぜ、周囲を巻き込み破壊していく衝撃波が発生し、エネルギー弾が着弾した箇所には例えハジメであっても容易く消し炭にされてしまうであろう大爆発が生じる。唯一マシだったのは、僅かながらにも2人の姿が目で追えていることだろう。ただそれが出来るのも、ハジメとシアくらいのもの。それ以外の者達には、あまりの高速戦闘に何が起きているのかすら把握できていない。

 

 仁を助けるどころか、近くに立っているだけでも辛い。ハジメですらそんな弱音を吐きそうになるほどの壮絶な戦いがそこにはあった。それは他の仲間達も同じであり、特に鈴なんかは仁とジャネンバの邪悪な気の影響を受け、酷い吐き気に襲われてしまっている。

 

 ハジメを含めた全員の眼に恐怖の色が浮かぶ。本当に自分達はここに来るべきだったのかと先程までの覚悟が崩れ去っていく音すら聞こえていた。だがもう遅い。既にハジメ達は来てしまった。

 

 後戻りすることは、許されない。

 

「……ッ! ハジメ、ゲートが!」

「なっ……!? 転移魔法を阻害してんのか! クソッ、一体どういう仕組みだ!」

 

 ハジメがユエの声に反応して振り向くと、そこにはまさに今、自分達が通ってきたゲートが縮小している姿があった。縮小はかなり進んでおり、もうバスケットボール程度の広さしかない。そこから更にゲートの縮小は進み、数秒もしない内に先程までいた大迷宮との繋がりは絶たれていた。

 

 リューティリスが作った"外界世界"は『来るもの拒まず、去るもの許さず』というある意味残虐な性質を持つ。分かりやすく言えば、外からの侵入は容易だが、内からの脱出が不可能に近いというわけだ。それ故に、この空間は内から外への転移を完全にシャットアウトする。

 

 ハジメは大迷宮側に残してきたゲートホールと繋がるゲートキーを取り出し、空間に突き刺すも、まるで錆びついているかのように固まり、まったく捻ることができない。"外界世界"の魔法がそれを妨害しているのだ。

 

 これは相当強力な魔法だが、絶対性はない。少なくとも、この世界を構成する魔力を上回る魔力でゴリ押しすれば再びゲートホールを開くことも可能であろう。だがそれほどまでの膨大な魔力はユエが何人いればいいか分からないくらいであり、ハジメは舌打ちを鳴らしてゲートキーと元仁の腕輪であったゲートホールを"宝物庫"に収納する。

 

 こうして退路は断たれた。

 

「やるしかない……か」

 

 冷や汗を流しながら、ハジメは仁と怪物の戦いに再び目を向ける。帰る手段は消えたが、この空間を解析すれば脱出する方法くらい見つけられる。自分ならばそれが出来るという確信がハジメにはあった。しかしそれにも時間がいるし、恐らくユエや仁の手を借りる必要にもなるだろう。

 

 ならば、今ハジメ達が生き残るための選択肢は1つしかない。

 

 ――仁と協力して怪物を倒す。

 

 それだけがハジメ達に残された唯一にして最善の道。最初の目的であったそれは、気づけば残されたただ1つの手段へと変わっていた。

 

 そうは分かってはいても、あの怪物同士の戦いに手を出さなければならないかと思うと、いくらハジメも怖気づいてしまう。それでもやるしかない。後ろで顔色を悪くする愛する者(ユエ)を守るためにも。

 

「はっ……まるで地獄だな」

 

 覚悟を決めたハジメは自嘲気味に笑う。恐怖を殺し、躊躇いを捨て、意識を全て戦闘へと切り替える。目の前でぶつかりあう人間ではどうしようもない災害へと、立ち向かおう意思を固めた。

 

 

 

 ハジメ達へ向かって流れ弾が飛んできたのは、その数秒後の出来事だった。




ジャネンバ
リューティリスの体を乗っ取った悪の化身。
外見は原作ドラゴンボールに出て来たものと全く一緒。素体となったリューティリスの性別が女であるため、女っぽくしようとも悩んだがちょっとキツかったのでボツ。
多彩な技を扱うものの、原作の謎能力とは異なり、ちゃんと世界のルールに乗っ取って魔法として発動させている。
基本「ジャネンバ」としか喋らない。理性はないのに、戦闘センスだけで滅茶苦茶戦い方が上手いとかいうふざけた敵キャラ。魔人ブウも人のことは言えない。
これでも"外界世界"によるデバフを受けた影響で実力の半分も出せていない。これぐらいだったら、仁でも勝てるのだが……

風磨仁
内心めちゃくちゃジャネンバとの戦いを楽しんでる戦闘狂ボーイ。
これまで同格以上との戦闘経験がなく、最終的に追い詰められたことはあれど、実際は余裕で勝ってきたため、正直全力で戦いたいストレスが溜まりに溜まっていた。
やったね仁君、強い敵だよ。あれ? ジャネンバの様子が……
多分最初から本気で戦っていればワンパンで勝てたが、どうやら彼にも舐めプの才能があったらしい。
仁の戦闘の構えは、ドラゴンボール原作でブウ(純粋)が立ち寝していた時のポーズに近い。実際のところただの猫背。

チームハジメ
自ら戦場へと乗り込んできた死にたがり集団。
仁の攻撃に巻き添え食らえば死ぬ。ジャネンバの攻撃を一撃でも受ければ死ぬ。戦いの余波を受け続ければ死ぬ。というかかなり遠く離れてても仁とジャネンバの邪悪な気の影響受け続ければそう遠くない内に死ぬ。ただし、仁にとっては守る対象。
仁「お願いだから帰って?!」
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