ピンクの魔人と共に   作:クー(無課金勢)

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次回でジャネンバ戦は終わります。

最近、魔人ブウ(純粋)について色々調べていたら、YouTubeにて何故かブウが幻想入りした作品を発見。思ったよりハマり、2日で見終わってしまった。
やはり純粋ブウはカッコイイ。改めてそう思った。


VSジャネンバ(4)

 ――強い!

 

 ジャンネンバに幾度となく攻撃を打ち込みながらも、仁はその力の差を思い知らされていた。

 

 変身によって、姿こそ人間サイズに収まっているものの、一撃一撃の重さはむしろ増している。その上、速さやテクニック、知能、最初の姿では弱点でもあったそれらが改善されており。元から脅威であったパワーや学習能力に関してはこれまで以上の成長を遂げていた。もはや悪夢でしかない。

 

 先程の時間稼ぎの時点で分かっていたことであるが、仁とジャネンバの間にはあまりにも大きすぎる差があった。流石は全人類の悪感情を集めただけはある。

 

「ウガァァア!」

「おっと、あぶねっ」

 

 超速による急接近から放たれたジャネンバの突きを、仁は体をズラして躱す、

 

 ジャネンバがいかに強く、速かろうと、シアと視界を共有したことで未来を知れる仁は容易く躱し続ける。いつ、どこに、どんな攻撃が来るかを事前に把握できるという大きすぎるメリットは攻勢を優位に進めていた。

 

 幾度となく殴打や蹴りを打ち込んだ。ありったけのエネルギー弾を何度も直撃させた。攻撃直後の隙だらけの体を刃状の気で切り裂きもした。だが――届かない。

 

 効いていないわけじゃない。雄叫びに近い悲鳴は上げるし、痛みに顔を歪めもする。しかしそれが芯まで響くダメージに繋がっているかと言われれば、答えはノー。いつまで経っても決定的な一撃が決まらないでいた。

 

 仁の奥の手でもある"バニシングボール"ならばジャネンバにも通じる可能性は十分にある。だがいくら未来が分かるといっても相手は神代の怪物。あんな大技を放てる余裕などあるはずがない。

 

「ガァァ!」

 

 ジャネンバが腕を物理的に伸ばし、掴みかかってくる。余裕で躱す仁だが、躱した腕が視界の外でUターンし、奇襲を仕掛けて来る未来が重なる視界に映る。咄嗟に仁は伸びた腕にエネルギー弾をぶつけ、奇襲を妨害する。しかしジャネンバは怯まない。再び身体を分解してその姿を消した。

 

「――そこだろ」

 

 気配すら読ませないジャネンバ特有の転移手段だが、未来視から再構築位置を特定した仁は姿を現した瞬間を狙ってエネルギー弾を撃ち込んだ。奇襲を仕掛けたというのに逆に行動を先読みされ、狼狽える様子のジャネンバ。その隙を仁は見逃さず急接近して腹に肘を埋め込み、スピードを落とさないまま背後に回ってからの裏拳で後頭部を打ち抜いた。

 

 ジャネンバも後ろに裏拳を放ちながら振り返るが、仁は上半身を逸らすことでそれを躱し、ジャネンバの攻撃モーションが終わるよりも早くバク転しながら顎を蹴り上げる。

 

 敵の攻撃は一切当たらず、こちらの攻撃だけが一方的に届く。幾度となく繰り返されたその攻防から、仁が優勢なのは誰の目から見ても明らかだった。

 

 だが押されているのは仁の方。

 

 仁には一撃も当たっていないが、逆に言えば一撃でも貰えばそこでこの勝負は終わってしまうということでもある。――背負っているシアの死という形で。

 

 一方のジャネンバはとっくに100や200は打たれているだろうに、体力的な消耗は見られない。あと数千発くらい殴ればもう少し目に見えたダメージを見せてくれるかもしれないが、それまでシアと仁の魔力が持つかというのも希望は薄い。

 

 攻撃の当たらない仁と攻撃が通じないジャネンバ。傍から見れば仁の優勢でも、実際はその真逆であった。

 

 一方でハジメ達はこの攻防を少し離れた位置で見守りながら、各々が持つ遠距離攻撃で仁の援護に回っていた。かといってそれもあてにはできない。

 

 むやみに遠距離から援護でもすればそれこそ仁の邪魔になってしまうし、何よりもハジメ達の持つ手札ではあまりに威力が足りな過ぎる。多少動きを阻害するくらいにはなるだろうが、決定打にはなりえない。かといって近づいても仁のようにジャネンバの攻撃をいなす事など出来るはずもなし。

 

 仁が距離を取った隙をついてハジメがドンナーを、ティオが黒炎を、雫が斬撃を放つ――が、無傷。多少顔を歪めただけでジャネンバはすぐに加速し、仁との距離を潰して再び零距離で肉弾戦を繰り返す。

 

「どうなってんだあの化け物はっ。俺達の攻撃がまるで効いてねえ!」

「こちらをまったく気にかけず仁だけを狙っているあたり……妾達は敵とすら見られていないようじゃ。というより、先ほどより強くなっている気がするのは妾の気のせいか?」

「とにかく今は攻撃を続けるしかないわ」

 

 ハジメ、ティオ、雫は敵の強大さに旋律しながらも隙を伺い続ける。

 

 仁が振るわれた拳を掌で逸らしてから横腹に回し蹴り叩き込み、ハジメとティオが両側面から援護射撃を放つ。だがジャネンバはハジメとティオの攻撃など気にした様子もなく、両腕をクロスさせて突進。それを仁は跳んで回避し、頭に手を乗せて前方倒立回転。背後を陣取ると振り向きざまに背へエネルギー弾を放り投げた。

 

 背中から受けた衝撃に前のめりに倒れそうになったジャネンバは再び身体を分解、仁の背後に身体を再構築して現れた……が、振り向くことすらなく放たれたエネルギー波を顔面から受け、あまりの衝撃に後ずさった。

 

 ジャネンバは苛立ち気味に咆哮を上げる。そこに上空から雫が放った斬撃が頭部に直撃するが、通じない。樹海の魔物すら両断する斬撃は薄皮一枚を切り裂いただけで消滅し、そんな攻撃などそもそも気づいていなかったジャネンバは仁へ口砲を放つ。

 

 対する仁は右腕を前方にかざすとゲートホールを生み出す。すると迫りくる緑色の砲撃は仁が生み出したゲートホールに吸い込まれ、ジャネンバの背後に展開した別のゲートホールから送り返した。惜しくもそれは避けられてしまったものの、事前に回避先へ潜り込んでいた仁は足払いをかけ、後頭部から倒れそうになったジャネンバの顔面にエネルギー弾を直接押し付け、地面へ叩きつける。

 

「ウ、ウガァァァアア!」

 

 少しづつではあるが、ダメージが蓄積してきたのだろう。怒りだけではなくどこか焦りの表情を見せたジャネンバはすぐに立ち上がり、力任せに腕を連続で繰り出す。だがやはり当たらない。シアの未来視を利用してその全てを躱してみせた仁は、的確に隙をついてジャネンバにカウンターで返す。

 

 これまで何度かいい攻撃は入っているものの、状況が大きく改善することはない。それどころか、"シアの魔力切れ"という制限時間のある仁にとって戦闘が長引くことはむしろ状況が悪化することを意味していた。

 

 防御すらせずに回避に専念する仁と守りに一切意識を割かず、ひたすら攻撃を続けるジャネンバ。その攻防はいつまでも続いた。いつまで経っても思い通りに当たらない怒りに唸りを上げるジャネンバは益々攻撃が大振りとなっていく。そうなれば余計に仁の回避にも余裕は生まれ、攻撃する機会も増えた。

 

 攻撃が当たっているのに攻め切れない。ある意味矛盾した状況に仁は焦りながらも、冷静にジャネンバの攻撃を対処してみせる。しかしその時は唐突に訪れた。

 

 打撃戦の最中、ほんの僅かにではあるが、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ……」

「……ぇ。な、なんで……。確かに今……」

「落ち着けシアっ。一旦下がるぞ!」

 

 仁の頬がパクリと裂け、ジャネンバが三日月のように裂けた笑みを見せる。

 

 動揺するシアに声をかけ、仁はジャネンバの顎を膝で打ちぬいてから大きく後ろに下がった。咄逃がすまいと走り出すジャネンバだったが、仁が距離を取りながらも地雷のように地面に設置していたエネルギー弾を踏み、爆発。接近を妨害される。

 

「ハジメ、作戦変更だ!」

『……何があった』

 

 離れた位置にいるハジメへ声をかける仁に対し、ハジメは念話で返す。

 

 一体何が起きたのか。それは一言で説明できる簡単なこと――未来視で見た光景とは()()()()()()()()()()のだ。

 

 未来視の使い手であるシアは経験にない状況を理解できずに焦りを浮かべているが、逆に使い手でないからこそ、仁はジャネンバが何をしたのかを把握していた。

 

「あの野郎、もう"未来視"を攻略しやがった!」

『は?』

「え……?」

 

 それに最も驚愕したのがシアだ。彼女自身、自分の未来視には絶対的な信頼を置いていたし、攻略する方法など仁が以前やって見せたように大量の未来を見せるぐらいしかないと思い込んでいた。だがジャネンバの取った手段はそれ以上に単純であり、かつ力技だった。

 

 未来視発動直後の攻撃修正。

 

 未来視はその時点で起こりうる最も可能性の高い未来を教えてくれる。その特性をジャネンバは学習し、対策した。()()()()()()()()()()攻撃の軌道修正を行うことによって。

 

 それを出来る者がいったいこの世界に何人いるだろう。仁でさえまだ不完全だ。本気で攻撃しようと思い、実際に打ち込み、その上で中断してから別の攻撃を放つ。そんな超高難度なことをコンマにも満たない一瞬の内にやってのけたのだ。理性がないという割には、あまりにも知能がありすぎる戦い方だ。

 

「ギィエへへ……」

 

 先程は掠っただけであるが、今度は当てられると確信したジャネンバは愉快げに笑う。その予測に関しては仁も同意見だった。ジャネンバの戦闘センスならば、2度目はないと覚悟を決める。

 

 だが第1形態の時にはなかった知能を得たジャネンバは、ふと視界の端に雫の姿を見つけ、最低最悪の策に思い至った。どんな弱者であろうと簡単に思い浮かぶ卑劣な手段を。

 

 直後、これまで仁に釘付けであったジャネンバは、突如仁を無視して雫へ狙いを変えた。。

 

「あの野郎……!」

 

 驚きのあまり一瞬だけ目を見開いた仁だったが、その目的を察すると咄嗟にジャネンバを追う。しかし戦闘を有利に進めていたのはシアの未来視あってこそ、単純なスピードはジャネンバの方が断然上。追いつくどころか距離を離されてしまう。

 

「やめろぉおお!!」

 

 聞いてくれるはずもない言葉を叫びながら仁は全速力で飛ぶも、結局仁は追いつくことが出来ず、一瞬で雫との間合いを潰したジャネンバは容赦なく拳を振り下ろした。

 

「ウガァ!」

「くっ……!」

 

 なんとかギリギリでその攻撃に反応できた雫は黒刀で受け流そうと構えるも、パワーが先程までとはまるで違う。受け流すどころか、黒刀の刀身は一時の耐久すら許されず粉々に砕け散り、ジャネンバの拳が雫の腕に触れる。

 

 その瞬間、まるで弾かれるように勢いよく雫は吹き飛んだ。

 

「かはっ?!」

 

 凄まじい勢いで吹き飛んだ雫は遥か遠くの壁に背中から叩きつけられ、肺の中の空気を全て強制的に吐き出さされると、全身が砕けたかのような衝撃に意識を飛ばす。そして雫は、そのまま地面に落ち、うつ伏せに倒れ込む。

 

 倒れた雫はピクリとも動かない。その姿は、まるで糸の切れたマリオネットのよう。生きているのか、死んでいるのかさえ他者から見れば分からなかった。

 

 しかし、ジャネンバの頭に容赦という文字はない。もう動くことすらできない雫へ向けて大きく口を開き、口からエネルギー波を放とうとしていた。

 

「がぁあああああ!」

 

 それを仁が止める。雫を傷つけられた怒りに雄叫びのような叫びを上げながらジャネンバの頭頂部に蹴りを叩きつけ、無理矢理口を閉じさせることで。口砲を暴発させた。

 

 いくらなんでも口の中まで頑丈ということはなかったのだろう。少しびっくりしたような反応を見せたジャネンバだったが、すぐに雄叫びを上げながら自身を踏みつけた仁の脚を掴み、地面に叩きつけた。そうして脚を掴まれたまま仁を打撃の連打が襲った。

 

 肉体の持つ高い伸縮性から、殴り飛ばされても脚を掴まれているがためにゴムのように戻ってきてしまう仁。そこをジャネンバは更に殴る。戻り、殴る。戻り、殴る。そんな一方的な暴力が仁を襲う。

 

 それでも脚をちぎって距離を取ろうと試みた仁だったが、気づいた時にはジャネンバの掌が腹に置かれ、一瞬の内に下半身が消し飛ばされる。

 

 人間であれば致命傷の傷だが、仁にとっては一秒も経たずに再生する程度のもの。大したダメージにはならない。だがこうも何度も見せられてはジャネンバの方も学習するというもの。地面に散らばっていた瓦礫をジャネンバが拾うと、その質量が増幅し肥大化、巨大な石柱となって仁を遥か遠くにまで突き飛ばした。

 

 邪魔者を排除したジャネンバは今度こそ雫にとどめを刺そうと視線を逸らす。だが先程まで倒れていた雫の姿がない。不思議そうに左右に視線を走らせると、まるでジャネンバから逃げるように雫を肩に担ぎながら走るシアを見つけた。

 

 未来視に対応された以上、シアと仁が共に行動するメリットよりもデメリットの方が大きい。それを瞬時に把握した2人は言葉すら交わさず、共有していた感覚を切断し、別々の行動を取ることを選んだのだ。

 

「ズァア!」

 

 獲物が逃げていることにようやく気づいたジャネンバは雫が落としていった刀身の折れた黒刀を拾うと、禍々しい両刃の魔剣へと作り替える。そして凶悪な笑みを浮かべながらそれを下から上に振り上げた。

 

 たったそれだけ。その程度の動作によって生まれた巨大な斬撃が、恐ろしい速度で雫を担いだシアへ向けて襲い掛かる。

 

「なっ……!?」

 

 その瞬間、"未来視"が発動。シアの脳裏には自身が真っ二つに両断される光景が映った。だがシアは止まらない――否、止まれない。一瞬でも足を止めれば、もう逃げられない。

 

 防御するために足を止めれば殺される。回避するために余計な動作を増やしても殺される。だからといって避けなければ未来視が教えてくれたように真っ二つ。その上、仁の救援は期待できない。最悪な状況に陥ったシアは一切の迷いなく()()に助けを求めた。

 

「ティオさん!」

「随分な無茶を頼んでくれるな、シアよ!」

 

 救いを求める声とまったく同じタイミング。恐らく呼ばれる前から動いていたのだろう。ティオが迫り来る斬撃とシアの間に割り込んだ。

 

 ティオは両腕に黒炎を纏うと、なんと素手でジャネンバの斬撃を掴みかかった。

 

 紫苑の斬撃と漆黒の炎がぶつかり合う。その衝突は近くにいるだけでも吹き飛ばされてしまいそうな衝撃波を発生させていたが、数秒の拮抗の末、勝利したのは驚くことに――ティオの方だった。

 

 ティオは自他共に認めるドMであるが、ドMであるからこそ、その耐久力は常軌を逸脱している。加えてリューティリスの"昇華魔法"によってその耐久力は桁違いなまでの進化を遂げた。それこそ、ジャネンバの全力の一撃にすら耐えうるまでに。

 

「ぐっ……。これは、なかなか……」

 

 ただそれには、万全の状態かつ一度きりという制限もつく。一歩すら引かずに斬撃を受け止めたティオの両腕は肩までズタズタに切り刻まれ、使い物にならないレベルにまで壊れてしまった。想像を絶する痛みに絶叫を上げそうになるものの、ティオは雫のように痛みに慣れていないわけではない。血が流れるほどに歯を強く食いしばり、彼女は痛みに堪えて見せる。

 

 素晴らしい精神性であるが、この戦場ではそんなことに意識を配っている暇もない。気づけば追い討ちをかけるため横に飛翔してきていたジャネンバがティオの腹部へ拳を打ち込んできた。

 

「っ……!! まず――」

「――やっぱそこだよな」

「ギイッ――?!」

 

 しかし拳がティオを捉える直前、ティオの救援に来たハジメが"ポーラ"をジャネンバの両腕、腰、両足に絡みつかせて拘束する。

 

 "ポーラ"は空間そのものに固定することで相手の動きを封じるという反則じみた効果を持つアーティファクトであるものの、決して力技で破壊できないものじゃない。ジャネンバが相手となればそれは尚更、精々1秒時間を稼ぐのが限度だろう。

 

 リューティリスの昇華魔法によって仲間達と同様に強化を施されたハジメであるが、残念なことにその魔法とハジメの相性は非常に悪かった。存在を進化させるという効果によってハジメは確かに桁違いな強さを手に入れたものの、その効果がハジメのアーティファクトにまでは及ばなかったのである。

 

 そのためハジメのアーティファクト自体の効果は昇華魔法を付与される前と変わらず、ジャネンバは警戒どころか意識すらしていなかった。

 

 しかしハジメは、それを数で補う。

 

 動くことすらままならないティオを脇に抱え、距離を取りながらありったけのアーティファクトを起動した。

 

「おぉおおおおおおおっ!!!」

 

 ドンナー、シュラーク、シュラーゲン、メツェライ、オルカン、クロス・ビット、円月輪、閃光手榴弾、焼夷手榴弾、麻痺手榴弾、催涙手榴弾、破片手榴弾。現状使用可能なあらゆる武器、たった1つでも町や国を壊滅させられるそれらを、ハジメは全て使用し、ジャネンバを殺しにかかる。

 

 次々と命中するハジメの兵器達。例えジャネンバが恐ろしい耐久性を持っていたとしても、何度も食らわせれば少しくらいは効くはず。そう信じたハジメは何度も何度も弾丸を、手榴弾を、爆発と煙で既に姿を隠したジャネンバへ向けて放ち続けた。

 

 たった1つの誤算。それはジャネンバが想像する以上の怪物であったこと。

 

「キィィヤァアッ!」

 

 魔剣を振るって爆炎を両断し、姿を現したジャネンバはハジメへと一直線に飛翔して斬りかかる。それはどれだけ強靭な肉体であろうとも切り裂き、空間すらも寸断する魔の刃。回避は間に合わない。ハジメの脳裏に『死』の文字が浮かび上がった。

 

「ハジメ、下がれ!」

 

 だが剣先がハジメへと触れる直前、再び戦場に戻った仁が"サクラブレード"で迫る刃をハジメから逸らした。それだけではない。大振りで剣を空振ったジャネンバの隙だらけの顎を蹴り上げ、首を両手で挟むように掴んでから腕を捻りながら回してハジメとティオから遠ざける方向に投げ飛ばす。

 

「悪い、ちょっと戻るのに手間取った。八重樫は無事か?」

「今頃香織が治療してるはずだ。それよりもティオの方を治してやれ。こっちの方が重症だ」

「ああ……」

 

 香織の治癒魔法とは異なり、仁の"回復の術"は一瞬で相手の負った負傷を癒す。ならばわざわざ後方へ下がって香織の治療を受けるよりも、この場にいる仁に治して貰った方がティオの復帰は早い。そんなハジメの判断に従い、仁はズタズタに切り刻まれたティオの腕を治す。

 

「すまぬ。助かった」

「礼はいらねーよ。それより構えろ――来るぞ!」

 

 落ち着けたのも束の間。仁は遠くから残虐な笑みを浮かべながらゆっくり歩いてくるジャネンバに意識を向ける。ただ移動しているだけにも関わらず、その溢れるばかりの気の影響で床が砕けていく光景には圧倒されるしかない。

 

 迫る厄災。全員が勝利を信じてはいるものの、ハジメもティオも、仁でさえ勝ち筋を見いだせない。そうして、勝ち目のない衝突は再び始まった。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……雫ちゃん、大丈夫?」

「ええ、ありがとね、香織。助かったわ」

 

 仁達が再びジャネンバと衝突を始めた頃、雫は香織の"再生魔法"によって意識を取り戻していた。

 

 普通は再生魔法があったとしてもそんなすぐに目を覚ますはずがないのだが、順調に彼女も人外への階段を上り始めているようだ。先程まで全身の骨がバキバキに折られていたとは思えないまでに、雫はピンピンしていた。これは雫があまりに図太いのか、それともここまで違和感なく治して見せる香織が凄いのか。

 

 肉体的な痛みはもうない。それでもまだジャネンバに対する恐怖の記憶がこびりついているのだろう。雫は僅かに体を震わせながら、自身の体を抱く。

 

「……勝てる?」

「今のままでは、ユエさんが近づく隙を作ることもできません。理由は分かりませんが、あいつ……どんどん強くなってますっ」

 

 心を襲う恐怖と戦う雫を気に掛ける様子もなく、ユエとシアはハジメ達の戦況を分析する。まだ仁とハジメ、ティオが戦っているが、シアには既に勝敗が見えてしまっていた。このまま続けても勝つのはジャネンバであるという。

 

 仁の再生能力や無尽蔵の体力は確かに凄まじいが、それ以外のステータスが完全にジャネンバを下回っている。それでも仁の再生能力があれば殺されることはないだろうが、あくまで仁だけが死なないだけであって、ハジメやティオの死は避けられない。

 

 それはもう、実質的な敗北だ。

 

「恐らくだけど……ジャネンバとの戦いでこの世界が崩壊しかけてる影響ね。奴の弱体化はこの世界があってこそ。それが崩れているとあれば弱体化の魔法に綻びが生じても不思議じゃない。急いだ方がいいわ。ジャネンバが真の実力を取り戻してしまったらもう誰にも止められない……」

 

 これまで、ジャネンバは"外界世界"に付与された魔法の影響で本来の実力の4割程しか引き出すことができなかった。だがジャネンバと仁の戦い、その余波は外界世界にすらも影響を与え、ついには耐えきれず崩壊を始めてしまった。

 

 外界世界の崩壊に合わせて、ジャネンバを縛っていた弱体の魔法も効果を薄れさせていく。それは、これまで全力を発揮することの出来なかったジャネンバが徐々に力を取り戻しつつあることを意味していた。それが最初はまだ互角に近い戦いができていた仁達が攻勢を逆転された最大の要因である。

 

「っ……!! 私も戦ってきます!」

「そ、それなら私も――」

「ダメだよ雫ちゃん!!」

 

 リューティリスの忠告に焦りを感じたシアがハジメ達の救援に向かおうとし、それに反応して共に行こうとした雫の腕を香織が強く掴んで引き止める。それは"治癒師"としてのドクターストップだった。

 

 先程雫が受けた攻撃。あれは間違いなく雫の命に届きうるものだった。今雫が生きていることだって、運が良かっただけ。言ってしまえば(たま)(たま)だ。もしもう一度、同レベルの一撃を受けてしまえば、もう香織でさえ治療不可能な段階に陥ってしまう可能性だって十分にある。

 

 実際に治癒した人間であるからこそ、香織はそれがよく分かっていた。

 

 ハジメならば、ユエならば、シアならば、ティオならばまだ大丈夫だった。だが仁によって急ピッチで強くなった雫には肉体的な強度と痛みへの耐性があまりに足りなかった。それは特殊な例外を除いて経験でしか得られないものであるから。今の雫にはどうやっても手に入るものじゃない。

 

「仁君を助けたい気持ちは分かるよ。私だって、こうして安全な所でハジメ君を待ってるだけなんて嫌だもん。でもね、雫ちゃんだって分かってるでしょ。今の私達とハジメ君達じゃあ、同じ場所で戦えない。足を引っ張るだけ。それに――」

 

 静止の言葉を受けてもどこか納得いかなそうな雫へ、香織は現実的かつ最も残酷な言葉をかける。

 

「――剣を持たない剣士に何が出来るの」

「っ――」

 

 雫は俯き、悔し気に歯を食いしばる。

 

 仁のおかげで強くなったのだとしても、雫は剣士だ。攻撃も防御も、回避にだって剣を使う。逆に言えば、剣を持たない雫の実力は万全とは程遠い。そんな状態で仁の援護に向かったとしても、再び返り討ちにあって迷惑をかけるのが関の山。

 

 当たり前過ぎるその事実に雫はようやく気づかされた。

 

 武器を扱う者の最大の弱点がそこにある。これは雫にだけ当てはまることではない。例えハジメであったとしても、アーティファクトなしではシアにさえ劣るだろう。それほどまでに、武器というのは戦況を大きく左右する。ましてや今回のように相手が格上であった場合は、特にその特徴が顕著に表れるはずだ。

 

「ええ……そう、ね。ごめんなさい。少し冷静じゃなかったわ」

 

 己が戦力として役立てないことを改めて理解させられた雫は、大人しく香織の忠告を受け入れる。だがそれは口先だけ。歯を食いしばり、皮膚に食い込むまでに拳を強く握りしめた姿からは、嫌でも悔しさが伝わってきた。

 

 力になりたいのに、力が足りない。助けたいのに、助けられてしまう。無力な自分へ向けられる激しい怒り。そんな雫の心境を誰よりも共感していた香織は、膝をついた雫をそっと抱きしめた。まるで全てを受け入れる聖女のように。

 

「雫、そこまで……」

 

 慰め合うような2人の姿に、近くでそれを見ていた光輝は悪い方向へ覚悟を揺さぶられていた。

 

 一応勇者パーティーの中では、雫と香織の次に戦力として数えられる光輝であるが、その性格と戦闘スタイル、ついでに単純な実力からハジメに「出来ることないから後ろで援護でもしてろ」と、戦力外通告を受けていた。

 

 あの光輝がそんな指示に納得できるはずもなかったが、状況が状況であるためハジメもゆっくり光輝を説得するつもりはなく、有無を言わさぬプレッシャーによる力技で無理矢理納得させていたのだ。

 

 最初はまだそれでよかったかもしれないが、ついに彼も我慢の限界を迎えた。親友である龍太郎の負傷。どんどんと悪くなっていく戦況。役に立っているのかすらも分からない自身に与えられた遠くから悪口を言うというだけの役割。そして、大切な雫が命に関わるダメージを負ったことをきっかけにして。

 

 だからこそ光輝は覚悟を決めた。例えハジメの指示に逆らうことになったとしても、それが()()()選択であると信じて。

 

 冷静な状態の光輝であれば、もう少しまともな判断も出来ていただろう。しかし今の彼は雫が傷つけられたことで頭に血が昇っており、かつリューティリスの昇華魔法によってその身体には溢れるばかりの力が湧き上がっていたことが仮初の自信を漲らせていた。

 

「雫、香織、安心してくれ!」

「え……光輝君?」

「光輝? あんた何を――」

 

 突然声を上げた光輝に、その場にいるリューティリスを含めた全員の視線が集まる。そうして彼は意気揚々と宣言した。

 

「――俺が、あの怪物を倒してみせる!」

 

 まさかの言葉に、全員が唖然として何も言えなかったのは言うまでもないことだろう。

 

 

 

 

 

 

 ジャネンバと仁、ハジメ、ティオの戦いは再び仁達の劣勢に追い込まれていた。

 

 それも仕方ない。仁は先程のような"シアの未来視"という大きなアドバンテージを失ったにも関わらず、ジャネンバの方は"外界世界"が壊れゆくに連れて本来の実力を取り戻しつつある。苦戦を避けられるはずがない。

 

「シェアッ!」

「アギィ……?!」

 

 ジャネンバが横薙ぎに魔剣を振るい、その一振りで仁はサイコロステーキのようにバラバラに切り分けられる。瞬時にくっついて復活したものの、その直後には口砲を受け、左半身が消し炭になった。

 

 すぐに再生できる怪我ではある。だが再生するよりも速くジャネンバは仁の右腕を掴み、そのまま何度も何度も地面へと叩きつけ始めた。

 

「はぁはぁ……行くぞティオ!」

「ううっ、はぁあああ!!」

 

 何としてでもジャネンバの意識を逸らさなければ、仁がまともに戦うことすらできない。声を張り上げ、2人は何度も攻撃を受けてボロボロになった体に鞭を打ち、仁を圧倒するジャネンバへ突撃する。

 

 そんなハジメとティオの無謀な特攻も、ジャネンバにとっては想定の内だったのだろう。近づくハジメに仁を投げつけ、反対側から迫っていたティオには伸ばした腕でボディーブローを浴びせる。

 

「ゴホッ……」

 

 衝撃が骨を砕き内臓を破壊する。その一撃にティオは口から大量の血を吐き出し、意識を飛ばしてうつ伏せに倒れた。だがジャネンバはもはや抵抗する力も残っていないティオの後頭部を上から踏みつけ、敢えて潰さないよう加減しながら地面に擦りつける。

 

 意識がないながらも、しばらくそうして苦しむティオの姿を楽しんでいたジャネンバだったが、やがて飽きたのかとどめを刺すため、剣を心臓へ突き立てようと逆手に持ち替えた。しかし直後、背後から嫌な気配を感じ取ったジャネンバは焦った様子で振り返る。

 

「食らぇええええ!!」

 

 そこには、ピカピカと輝く剣を振り上げた光輝(雑魚)がいた。光輝は雫と香織に無謀な宣言をした直後、誰の静止にも耳を貸さずに突っ込んできたのだ。

 

 パワーが足りない。スピードも遅い。剣に込められた魔力だって強化されてないハジメの弾丸の半分以下。避ける必要も、わざわざ防御する必要もないあまりにお粗末な攻撃。一瞬で光輝の攻撃をそう見定めたジャネンバは相手にする価値もないと、まるで虫を払うかのように聖剣を素手で振り払おうとする。

 

 だがそれが油断であったと、すぐに思い知らされた。

 

「ウガァ!?」

 

 光輝の聖剣とジャネンバの腕。単純な硬度と総魔力量の両方を考慮しても剣が折れて終わるはずだったその衝突を制したのは、信じられないことに光輝だった。

 

 僅かではあるものの聖剣はジャネンバの皮膚を切り裂き、振り払った腕の方が弾かれる。

 

「おぉおおおお……ブヘッ!?」

 

 追撃を仕掛けようと叫び声をあげながら再び聖剣を振り上げる光輝を軽く尻尾で弾き飛ばしたジャネンバは、切り傷のついた己の腕を見て目を見開く。仁レベルの強者からダメージを受けるのは構わない。理性こそなくとも、ジャネンバは仁を敵として認めていた。だが光輝は違う。

 

 恐竜とアリ以上に力の差があるゴミの分際で自身の身体に傷を付けた。それがジャネンバの肉体だけでなくプライドをも傷つけた。

 

「……ウゥゥゥアアアアアア!!」

 

 もはや何故光輝の攻撃が届いたのかすら考えず、ジャネンバは怒りのままに咆哮を上げ吹き飛ばした光輝を睨む。

 

 悪魔のような顔を更に凶悪にし、光輝へ斬撃を放とうとするジャネンバ。だがそれが行動に移るよりも早く肉体の完全再生を終えた仁が隙を突いて懐に潜り込み、至近距離から巨大なエネルギー弾(イノセンスキャノン)を直撃させ、後方へと弾き飛ばす。

 

「仁! ティオは……!?」

「まだ息はある。傷も治した。ただ完全に意識が飛んでるな。残念だがこいつはここでリタイアだ。白崎にでも預けとけ」

「そうか……」

「それよりも、今のはどういう原理だ? なんでオレ達の攻撃をフィジカルで耐えるあいつにあんな"眩しいだけの剣"が効くんだよ」

「知るか。むしろ聞きたいのは俺の方だ」

「まっ……だよな。じゃあ考えろ。きっとそこが【鍵】だ」

 

 気絶したティオを回収してきた仁はそれだけ言葉を交わすと、ハジメにティオを渡してから吹き飛ばしたジャネンバを追って飛翔していく。

 

 ジャネンバは光輝の攻撃が自身に通じたことに動揺していたが、それが想定外であったのは仁やハジメも同じ。彼らは光輝の攻撃がジャネンバに通じるなどとは微塵も考えていなかった。

 

 何故かって? 弱いからだ。

 

「理由は何だ……俺やティオの攻撃がほとんど効いてないのに、よりにもよってどうして天之河が……。どこが違う。必ず理由はあるはずだ」

 

 少しでも勝率を上げるためならば、ハジメも仁と共に追撃に移るべきである。しかしこれまでの戦いで分かったように、ジャネンバの強さは仁を凌駕している。ならば意識のないティオを抱えて2人で攻めるよりも、先に光輝の攻撃が通じた理由を把握して打開策を練った方がまだ勝機はある。そう判断したからこそ仁は再び戦いに向かい、ハジメはその場で脳をフル回転させていた。

 

 これまでのジャネンバに与えた攻撃と今の光輝の攻撃。それら1つ1つを比較し、光輝の放った攻撃にのみ該当する"ナニカ"を導き出す。

 

 威力、魔力、技能、ステータス……ハジメは己が持つ知識を総動員し、あらゆるものと比較検討を続けた。そして、

 

「……待てよ……まさか!」

 

 ――ついに1つの推測に辿り着いた。

 

「ハジメさん、死んでませんか!」

「物騒なこと言うんじゃねーよ……」

 

 ハジメがそこに至ったのと、シアがハジメの元に戻ってきたのはほぼ同時だった。今更シアが戻ってきたところで戦力の大した足しにはならないだろうが、ハジメにとっては好都合。

 

「ティオがかなりマズい状態だ。早く香織のところに連れていってくれ」

「あの~……私は怪我人運ぶ係じゃないんですけど……」

「頼む、シア」

「っ~~~?! わ、分かりましたよ! すぐにティオさんを運んで戻ってきます!」

 

 先程雫を香織の元へ運んできたばかりにも関わらず、今度はティオの運搬を任されたシアは複雑な心境であったものの、彼女がハジメの"お願い"を断れるわけがない。意気揚々とティオの首根っこを掴んで引き摺りながら香織の元まで走っていった。雫より酷い怪我を負ったにも関わらずこの扱い。ティオには同情していい。

 

「さて、それじゃあ俺は……」

 

 シアが香織の元へダッシュしていったのを見送ったハジメは己が辿り着いた答えを実証すべく、自分がこれまで受けた攻撃に比べれば大した威力じゃないというのにあっさりと気絶している光輝に近づき……

 

「起きろ、アホ勇者!!」

「アバババババババババッ」

 

 "纏雷"を浴びせて無理矢理目覚めさせた。同じ気絶にしてもティオとは酷い扱いの差である。

 

「な、何するんだなぐ――」

「さっさと立てッ!」

 

 そしてハジメは光輝の首根っこを掴んで無理矢理立たせた。

 

 内心、ハジメは相当イラついていた。事前に後方で悪口でも言ってろと命令したにも関わらず、光輝はそれを無視して勝手に突っ込んできたからだ。そういうことをする奴だとは分かっていたつもりだったが、いくらなんでもこの危機的状況での作戦無視は許せない。もはや当たり前のように思い通りに動かない光輝に対し、ハジメが苛立ちを隠すつもりはない。

 

 非情に気に入らないが、それでも光輝が逆転の可能性を持っていることは事実。罰は後回しにして、ハジメは文句の絶えない光輝の口元を鷲摑みにして黙らせると、簡潔に命令を下す。

 

「いいか、仁に向かって"天翔閃"を撃て」

「んんっ?!」

「あいつなら大丈夫だ。お前程度の攻撃で死ぬわけがない。分かったらやれ。いいな?」

 

 それだけ伝え、ハジメは光輝の口元から手を離す。だがまだ甘い。天之河光輝という男はとことん物分かりが悪いのだ。

 

「そんなことできるわけないだろ! あんな奴でも風磨は仲間だ――」

「俺の聞きたい返事は"はい"か"イエス"だ。それ以外を口にしてみろ。どうなるか分かってるな。あぁ?」

 

 これにはハジメの額にも青筋が浮かび、ドンナーの銃口を光輝の額にゴリゴリと押し付ける。現状、いつ仁が身動きできない状態にされ、ジャネンバがこちらを襲いに来てもおかしくない。そんなことも分かっていない光輝にハジメの苛立ちがピークを迎えるのも仕方ないだろう。まあ、言い方は完全にヤクザだけど。

 

 懇願ではないあからさまな脅迫。これにはいくら光輝であろうと逆らえない。

 

「わ、わかった……」

 

 物凄い渋々であったが、光輝はその命令を了承する。

 

 ろくな説明もなく、味方を攻撃しろなどという納得のできない指示だったが、ハジメに逆らえば冗談抜きで殺される。それぐらいはこの旅で理解したのだろう。()()()()()()()()。光輝は詠唱を行い、依然としてジャネンバと戦っている仁へ向けて()()()"天翔閃"を放った。

 

 曲線を描く極太の輝く光の斬撃がジャネンバと戦う仁へ向けて飛んでいく。このままでは、後数秒もしない内に光輝達に背を向けた仁は綺麗な真っ二つになってしまう。焦りを感じた光輝が顔色を悪くして何か言おうとするも、その前にハジメが声を上げた。

 

「今だ仁! 掴んで投げろ!」

「無茶苦茶なこと言うな、ハジメ!!」

 

 光輝には通じずとも、ハジメの作戦をその短い指示で理解した仁は戦いながらも声を大にして反論する。

 

 だがそれでも仁はハジメの期待に応えて見せる。背後から迫る斬撃を振り向くことすらなく素手で掴み取り、気を混ぜて形状を槍のように変化させると、それをジャネンバへ向けて投擲した。そう、斬撃を()()()()()()のだ。

 

 仁の気を混ぜたとはいえ、光の槍の大部分は光輝の魔力で生成されている。そう大した威力はない。しかし光の槍はジャネンバの腹に吸い込まれていくように直撃し、仁のエネルギー波すらも耐える皮膚を突き破り、貫通。腹部に大きな風穴を開けた。

 

「ァ、ガァ?!」

「……マジか」

 

 あまりにも容易くジャネンバの肉体を貫いた攻撃に投げた仁も受けたジャネンバも驚愕する中、ハジメだけは何か確信を得たように口元を吊り上げて笑みを浮かべた。

 

 ハジメは確信したのだ。自身の推測が的中したことを。

 

「やっぱりな、悪の弱点は聖なる力ってわけだ」

 

 これはハジメの知らないことではあるが、ジャネンバは全人類の"悪"という感情を凝縮させて生み出された生命体である。つまりは悪に染まった者ではなく、生まれたその時から彼は悪だったのだ。だからこそ、勇者の持つ"()()()()()()()()()"とは致命的なまでに相性が悪い。光輝の攻撃がジャネンバへ通じた理由はそこにあった。

 

 要するに、光輝は属性相性的にジャネンバに有利だったのだ。

 

「聖なる力……」

 

 詳しい原理について理解できなくとも、己の力が必要とされていることだけは光輝もハジメの呟きから理解する。

 

 『南雲ハジメも風磨仁も倒せない敵を倒せるのは自分だけ』そんな自分中心の解釈で現状を受け止めた光輝は、全身を満ち始める高揚感と共に闘志を燃やす。もはや彼の中にジャネンバへの恐怖はない。脳裏には、勝利した後、皆にもてはやされるイメージが鮮明に浮かんでいた。心なしか、その手に握る聖剣の輝きも普段より幾分か増しているような気さえする。

 

 ただ……やっぱり光輝がそんな都合の良い展開になるはずもない。

 

「よし、南雲! 俺に任せ――」

「ちょっと聖剣(それ)寄越せ」

「は?」

 

 やる気に満ちた光輝の横からヒョイと、ハジメは聖剣を掠め取る。

 

 "聖なる力"はジャネンバに絶大な特攻効果を持つ。しかしハジメの持つアーティファクトに聖なる力を宿すものはない。なぜなら彼が生み出したものは、聖なる力とは正反対の破壊を及ぼすものばかり。そんな綺麗な力が宿るはずがないし、必要ともしていない。

 

 ならばハジメに出来ることはないのか? いいや、それも違う。

 

 持ち合わせがないならば、新たに作ればいい。

 

 元よりハジメの天職は"錬成師"。戦う者ではなく作る者。手札が足りないのであれば、新たな手札をその場で用意する。常に自分を有利に進めるための道具を生み出し、相手の弱みを突いて勝利する。それが彼本来の戦い方だ。

 

 加えて運の良いことに、今この場には聖なる力をたっぷり宿した"聖剣"がある。必要なものは光輝そのものじゃなく聖なる力。ならば、やる事は一つ。

 

「――"錬成"」

「なっ、おい!! 何してるんだ南雲っ。俺じゃないと勝てないんだろ!」

「そんなこと言った覚えはないな。黙って見てろ」

「うぐぅ……」

 

 "宝物庫"からいくつかの鉱石を取り出し、聖剣を分解、合成していく。今必要なのは聖剣に宿った聖なる力を増幅させつつも、強大な攻撃力を誇る兵器。脳内でイメージを構築し、ハジメは実行に移す。

 

 冷静かつ合理的なハジメの行動であるが、聖剣の所有者である光輝からしてみれば堪ったものではない。自分の武器を勝手に改造され、活躍の場も奪われようとしているのだ。躊躇うことなく聖剣に練成をかけるハジメの腕を掴み、必死に止めにかかった。

 

 対してハジメは、掴みかかってきた光輝をアッパー1発で沈め、何事もなかったかのように錬成を続ける。

 

 この短時間ではハジメが普段使いしているような高性能なアーティファクトの作成は不可能。だがそれでいい。必要なものは、聖剣本来の力を強く引き出した武器。形状はなんであれ構わない。

 

 リューティリスの"昇華魔法"によって"練成師"として大きな進化を遂げていたハジメは10秒もしない内に練成を終えた。

 

 そして生み出されたのは、2種類の武器。

 

 1つは……2発の弾丸。全体は黒く、弾頭だけが純白の輝きを見せる先端が鋭く尖ったライフル弾。勿論ハジメ用の武器だ。元となった聖剣に比べ、遥かにサイズは縮小されているものの、そこに凝縮された聖なる力は天之河が持つ勇者の力を大きく上回る。

 

 数は少し心許ないが、ハジメはそれで十分だと判断した。予備など必要ない。自分が外す訳がないのだから。

 

 2つ目……これはハジメの武器ではない。単純な力技で相手を圧倒するのではなく、属性という弱点を突いて戦う以上、使用者はある程度の技術と練度を持った者でなければならない。それを加味した上で、ハジメは貴重なリソースを裂いてでも()()に武器を与えるべきだと判断し、生み出した。

 

 その一振りの刀を。

 

 

 

 

 

 

 何度も何度も繰り返し衝突し合う仁とジャネンバ。相も変わらず仁が一方的に殴られている光景を見続けながら、雫は己の無力さに打ち拉がれていた。

 

(結局、私じゃ(貴方)の役には立てないのね……。はぁ、昔となにも変わらない。1人だと何もできなくて、誰かに助けてもらってばっか……我ながら情けないわ)

 

 目の前では先程の雫や龍太郎以上に酷い怪我を負って意識を失ったティオがシアに運ばれ、香織に看病を受けているというのに、雫は一言身を案じるような声をかけただけでそれ以上はなかった。ティオのことは勿論心配しているし、不安だ。だがそれ以上に雫は今自分がこの場にいること自体が苦痛だった。

 

 もっと強ければ良かった。強ければ……今も仁の隣に並び立つハジメ()のように、役に立てた。

 

 もっと弱ければ良かった。自分に力が何もなければ、もっと簡単に諦められた。

 

 弱くはないが、強くもない。一番中途半端な強さを持っていた雫だからこそ、そんな『もしも』を考えずにはいられない。

 

 助けたい/でも私は弱い。

 

 戦わないといけない/武器もないのにどうやって。

 

 役に立ちたい/今の私はただの足手纏い。

 

 諦めたくない/諦めなさい。

 

 感情を理屈が否定する。自分自身へ問いかける度に、他でもない自分自身に否定された。今の自分に出来ることはないと突き付けられ、雫は無意味に拳を握り締める。

 

 その時だった。

 

「ぇ……きゃあっ!?」

「うおっ!」

「ひぃぃ! なんなの!」

 

 前方から恐ろしい速さで飛んできた棒状の物体が雫の眼前の地面に突き刺さった。

 

 思わず声を上げてしまった雫と同様、両隣にいた龍太郎と鈴からも驚愕の声が漏れる。ユエやシア、香織も多少の驚きはあったようだが、彼女達はそれが誰から飛んできたものであるかを察し、すぐに危険ではないと落ち着きを取り戻す。

 

「……刀?」

 

 それは抜き身の刀だった。

 

 ハジメから貰った黒刀と形状こそ酷似しているものの、その刀身は淡い白銀色をしており、溢れんばかりの純白色のオーラを纏っている。

 

 アーティファクトにそれほど深い知識を持っていないが、それが刀であったからこそ雫は理解する。この刀は確かに素晴らしい一振りだが、名刀と呼べるほどのものじゃない。それでも、この刀には特殊な何かが込められていると。

 

「八重樫!」

 

 遠くから、ハジメの声が届く。刀に魅入られていた雫が咄嗟に顔を上げると、大分距離はありつつもハジメが振り返ってこちらに視線を向けているのが見えた。

 

「そいつは奴を殺せる武器だっ。……使え!!」

 

 ハジメは雫の心境など知らない。それに興味もない。まだ戦意が消えていないかもしれないし、ジャネンバへの恐怖に既に死を受け入れているかもしれない。だがそれでも、ハジメはそう告げたのだ。

 

 すなわち、『お前の心境なんて関係ないから戦え』と。

 

 聖剣を改造して生み出された武器は、驚異的なパワーよりも巧みな技量によってその本質的な効果を引き出される。だからある意味、光輝は聖剣の使い手でありながら聖剣を使いきれてはいなかったのだろう。彼の戦い方は、あまりに力技過ぎていた。

 

 同様にシアにもその適正はない。彼女も彼女で基本的な戦闘スタイルはパワーこそ強さといった感じだ。今回ハジメが作り出した武器とは最も相性が悪い。

 

 とはいえユエとティオはそもそも積極的に武器を使うタイプではないし、仁に関しては多分殴った方が強い。ある程度の強さを持ちながら、武器をメインに戦い、なおかつ高い技量を持つ。それにこの場で最も合致するのが雫だった。

 

 だからこそ、ハジメは雫を選んだ。

 

「……」

 

 ハジメの言葉を聞き、床に突き刺さった刀を見つめながら立ち尽くす雫を、香織は不安そうな表情で見つめる。

 

 本心を言えば、香織はこれ以上雫に戦って欲しくなんてなかった。確かに雫は強く、優しく、頼れることのできる親友だが……それ以前に彼女は普通の女の子なのだ。ユエやシア、ティオ達とは違う。本来は戦場などに身を置くことなんてなかったどこにでもいる可愛いものが好きな普通の女の子。

 

 そんな雫が戦い、傷ついていく姿をこれ以上見たくなんてなかった。例え愛するハジメの頼みであっても、その刀を手に取って欲しくない。もし本当にそれが最善の手であったのだとしても、それだけは香織の紛れもない本心だった。

 

 しかし同時に共感してしまう。雫の立場に。

 

「ごめんなさい、香織。私はまた貴女を心配させてしまうと思う。でも私だって今まで貴女の我儘に振り回されたのよ。だから――」

 

 自分の大切な人が危険な場所にいて、少し手を伸ばすだけで助ける力が手に入る。それなら、きっと彼女はその力に手を伸ばしてしまう。だって、他ならない香織自身が同じ立場であったなら、同じ行動を取ってしまうと確信していたのだから。

 

「――ちょっと私も我儘になるわ」

 

 結果は、香織が想定していた通りのものだった。優しい笑みを浮かべながら雫は香織の心配を裏切るような己の行為に対する謝罪を口にし、純白のオーラを纏った刀に手を伸ばす。そして力強く柄を握ってから、刀を勢いよく床から引き抜いた。

 

 そこには……一切の躊躇いも、恐怖も、後悔もない。あるのはただ、『大切な人を守りたい』という、1人の少女の覚悟だけだった。

 

 

 

 

 

 

「はーっ、はーっ……ハジメ達はまだか! ちょっとヤバいぞこいつは!」

 

 顔面を肘で打ち抜かれ、よろけながらも反撃を試みる仁……しかし届かない。ハジメが打開策を練るための時間稼ぎとしてジャネンバと戦っていた仁は、圧倒され続けていた。仁はまるで()()()()かのように荒い呼吸を繰り返す。

 

 現在、仁に悪い意味での変化が訪れていた。。

 

 これまで、仁はその不死身に等しい再生能力と体力でジャネンバの猛攻からなんとか生き延び続けてきたものの、ここに来てそこに限界が見え始めてきたのだ。

 

 本来、魔人ブウという生命体は何度攻撃を受け、再生し続けようとも、体力が減ることはないし、ダメージが蓄積するなんてこともありえない。しかし今、その肉体の制御権は風磨仁にある。今回はそれが悪い方向へと働いた。

 

 仁の人格に合わせて弱体化したブウの肉体には、これまで通り驚異的な再生能力と理不尽なまでのスタミナを有していたが、そこには本来存在していなかったはずの底が生まれてしまったのだ。

 

 それでも普通の人間からしてみれば化け物染みた能力なのだが、相手が同レベルもしくは格上の化け物であれば話も変わる。

 

 要するに何が言いたいのかと言えば、『疲れてきた』のである。

 

 精々3割程度体力を消耗したくらいのものだが、それでも体力の消耗を実感したことは事実。このままでは先に限界を迎えるのは仁の方。そうなってしまえば、もう死は避けられない。

 

 ジャネンバは魔剣を横薙ぎに振るい、仁の胴体を切断。上半身と下半身が綺麗に別たれた。

 

 もはや何度目になるだろう。いい加減こうして体を切断されるのにも仁は慣れてきた。切断面をピタッとくっつけて元通りに戻ると、仁は剣を振り切ったままの体勢で固まるジャネンバの腕を掴み、もう片方の掌に生み出したエネルギー弾を顔面へ押し付ける。

 

 直撃して、爆破――するよりも早くジャネンバは身体を分解して回避。仁の攻撃は空を切った。気の感知ですら上手く反応しない奇妙な転移手段だが、こうも何度も見せられれば仁だって学ぶ。まだ完全には分解しきれていなかった足元を狙い、その手に持つエネルギー弾を放った。

 

 背後から爆音。同時に中途半端に身体の再構築をしたジャネンバが煙を上げながら姿を現した。耐久力が著しく下がった肉体の再構成中にこそ、ダメージは受ける。仁はこの戦いの中でその欠点に気づいたのだ。

 

「へへっ、当たり」

 

 とはいえ、所詮はそれが分かっただけ。続けて突き出した拳をあっさりと掴まれ、腹に一撃。全身をコマ切れにされた上で口から吐いた炎で消し炭にされてしまう。

 

 肉片1つ残っていない煙の状態からでも復活できるのは流石ブウの肉体といったところだろう。ただその表情からは焦りの感情しか読み取れない。先程、光輝の天翔閃を利用してダメージを与えた後も、仁には何度か攻撃を当てる機会自体はあった。そのため、ジャネンバが見た目通りのノーダメージなんてはずはない。

 

 だがそれでも恐ろしいのがジャネンバの先読み能力。徐々に強くなっていくにつれて、ジャネンバはもう仁の動きを完全に見切っていた。

 

「ブァアアアアアーーッ!!」

 

 全身から暗緑の気が溢れ出し、これまでとか比べ物にならない高火力の砲撃がジャネンバの口から放たれる。まともに受ければただではすまない。飛んで回避した仁だったが、直後にはその動きを読んで待ち構えていたジャネンバがダブルスレッジハンマーを後頭部に打ち込み、仁を叩き落とす。

 

 地面に両手両足を着いて着地。すぐに立ち上がろうとしたが、加速しながら落下して来たジャネンバの膝が頭部に直撃し、仁は体を頭から床にめり込ませた。そこから更にジャネンバは仁の女のように長い髪を掴みながら何度も何度も踏み潰す。

 

 轟音と共に仁の頭部がぐちゃりと潰れた。それでも容赦のない踏みつけは続く。ジャネンバとて理解していた。目の前の生物が頭を潰したくらいで死ぬような雑魚ではないと。

 

 首を潰し、腕を潰し、脚を潰し、股を潰し、胴を潰す。

 

 もはや原型をとどめないまでにぐちゃぐちゃな肉片と成り果てた仁へと向け、とどめとばかりに魔剣を振り下ろした。しかしその刃が仁へと届くことはない。

 

「……ァァ?」

 

 代わりに、ジャネンバの腕がその手に握る魔剣ごと斬り落とされていた。

 

 直後、斬撃の雨が降り注ぐ。少し前まではそんなもの気にも留めなかったジャネンバであったが、光り輝く斬撃から感じられる嫌な気配に咄嗟に飛び除いた。これまでの戦いで初めて、ジャネンバが自らの意志で逃げたのだ。

 

 大したエネルギーが込められていないにも関わらず、嫌な気配を感じる斬撃に苛立ちを隠さないまま、ジャネンバは切断された腕を再構築しながら先程まで自分が立っていた場所に優雅に降り立った白銀の刀を握る黒髪の女に睨みを効かす。

 

 仁が止めを刺される直前に割り込んだのは雫だった。彼女は両手で握った刀を構えながら、スライム状になった仁を守るようにジャネンバの前へと立ち塞がる。ジャネンバは雫の気を感じ、大した強さを持たないことにはすぐに気づいていた。だからこそ、『こんな女に腕を斬り落とされた』その事実に怒りを爆発させ、咆哮を上げる。

 

「仁、無事! 大丈夫って言いなさいっ、ほら早く!」

「……お、おう」

 

 ジャネンバがブチ切れていることよりも雫にとっては仁の無事が最優先なのだろう。圧倒的な威圧感を放っている敵が目の前にいるにも関わらず、ガン無視で人としての形状を保っていない仁の生存確認を行った。

 

 それには流石の仁もどん引きしてしまい、顔だけ再生させて苦笑い気味に返答する。ただ雫からしてみれば、仁がどこまで再生できるかだなんて分からない。あれほどグチャグチャにされてしまえば、()()()()()()()彼女が不安を感じてしまうのも仕方ないだろう。

 

「あんまりにも遅いもんだから待ちくたびれたぞ。それで、そいつがハジメの秘密兵器ってことでいいか?」

「半分正解……だな」

「……へぇ。なんだ、おまえら全員で来たのか?」

 

 すぐに全身を再生させた仁の問いかけに、後ろから返答が返ってくる。チラリと仁が視線を移すと、そこにはユエとシアを連れたハジメがまるで遅れたヒーローの登場シーンのようにゆっくりと歩いてきていた。仁は思う『走れよ』と。

 

「戦力は少しでも多い方がいいだろ。流石に香織達まではついてこれないだろうが、ユエとシアなら大丈夫だ。安心して背中を任せられる。それに、奴への特攻武器を持たせたからって、八重樫と仁にだけ任せるわけにもいかねーだろ。俺にももっと活躍させろよ」

「特攻武器……か。悪くない。ま、天之河にもたまには同情してやるか」

 

 雫がジャネンバの腕を切断した瞬間を仁は潰されながらも目にしていた。当然雫程度の気でそんな芸当ができるはずもない。すぐに何か仕掛けがあると仁は考えていた。そしてハジメの発した言葉と先程の光輝の攻撃を思い出し、結論に至る。

 

『あ、こいつ天之河の剣奪って改造したな……』と。

 

 きっと、ハジメがそれを聞けば『借りただけだ、一生な』といったジャイアニズム的発言が返ってきていたことだろう。

 

「さて、それじゃあ聞くが勝率は?」

「上手くいけば50%ってとこだ」

「よし、なら勝てるな」

 

 可能な限り準備は整えた。それでもハジメは五分五分の状況であると口にする。だが仁からしてみれば、5割も勝機があればもう100%のようなものだ。何故なら、南雲ハジメも風磨仁もそれより低い確率を引き続けてこの場にいる。たかだが50%、引けないはずがない。

 

 そしてそれはハジメも同意見だった。

 

「シア、無理に攻撃を当てる必要はない。未来を視て嫌がらせをたっぷりしてやれ。あのミレディですら引くレベルでも構わないぞ」

「え~……いくらなんでもアレを超えるのは無理ですよぅ。まっ、ハジメさんが言うならやりますけどねっ」

 

 シアがドリュッケンをクルクルと回し、肩に担ぐ。ウサミミをピンと立たせ、そのやる気は十分だ。

 

「ユエは"破壊魔法"の発動にだけ意識を集中すればいい。チャンスは俺達で作る。合図したら撃て」

「……んっ」

 

 冷静に意識を研ぎ澄ませながら、ユエは短く答える。

 

「仁、八重樫、お前らはとにかく攻撃を続けろ。今俺達の最高戦力はお前らだ。絶対にしくじるなよ」

「おおっと、これは期待が厚い。だったら本気で行くが……ついて来れるか? 八重樫」

「馬鹿言わないで。仁が私について来るのよ。今まで通り、ね」

 

 仁が全身の力を抜いた構えを、雫が刀を真正面に向けた中段の構えを取ってから、お互いに気を解放する。仁の邪悪な赤黒い気と雫の清廉な純白の気が蒸気のように吹き上がった。

 

 最後に、ハジメがシュラーゲンに聖剣を改造したことで生み出した弾丸を装填し、全員の戦闘準備が完了した。そして雫を警戒して攻めてこれなかったジャネンバへ銃口を向けつつ、ハジメは宣言する。

 

手札(カード)は揃った……勝ちにいくぞ!!」

「応!」

「ええ!」

「はいッ!」

「……んっ!」

 

 ハジメ、仁、雫、シア、ユエが一斉に動き出す。同時にジャネンバも動き出し、正真正銘世界の命運を賭けた最後の戦いが今、幕を開けた。




・リューティリス・ハルツィナの昇華魔法 個別強化情報(ざっくりとした解説です)
ハジメ:全ステータス微量UP、"練成"の技術強化
ユエ:魔力極大強化、魔法精度の向上
シア:身体強化魔法の強化、"未来視"の消費魔力が半減
ティオ:全ステータス強化、防御力超強化(痛覚は変化なし)
光輝:カリスマ性が強化、笑うと周囲がキラキラする
龍太郎:よりゴリラに……
鈴:全ステータス微量UP、"魔力操作"習得、結界系魔法強化
雫:気の総量上昇、俊敏極大強化&防御力低下、剣装備時全ステータス極大強化
香織:治癒魔法&再生魔法強化、魔力増大

・今回出番のなかったハジメの悲しきアーティファクト達。
パイルバンカー:第一形態戦闘時に仁が破壊
ヒュベリオン:太陽光がないため使用不可
グリムリーパー:火力不足
大盾:防御力不足
その他:作者の勉強不足によって登場なし

・外界世界 解説
リューティリスのジャネンバ封印&撃破のために生み出した別世界。ただ仁とジャネンバが派手に戦い過ぎた影響により現在崩壊中。同時に、ジャネンバへの弱体化効果も弱まりジャネンバ強化中。このままではいずれ原作レベルにまで強くなるかもしれない。
外界世界「やめて!? 皆仲良くして!」

・テンションハイモード光輝
リューティリスの昇華魔法によってハジメよりも強くなったと本気で思い込んでいる勇者(笑)。その内心は、完全体セルに挑む前のムキンクスに近い。

光輝「――俺が必ず、あの怪物を倒してみせる!」
聖剣『よっしゃ行こうぜ相棒。いつもより光パワーもマシマシだ!』
ハジメ「あ、それ借りるぞ。一生な」
聖剣『ヤ、ヤメロォオオオオ! キャー! 改造するなぁああああ(変えられるぅうううう)!!』
雫「ごめんなさい光輝……剣借りるわ!」
聖剣『な、なんだこの娘。俺好み過ぎる。しかも()を大事に扱ってくれるだとぉ! ダ、ダメだ。俺には相棒が……くっ殺せ!』

・戦闘カットシーン
仁「コーヒーキャンディーになっちゃえー!」
ジャネンバ「ぎゃぁああああ!?!?」
仁「よっし、あとは食べちまえば――」

ジャネンバ……コーヒーキャンディーのまま肉体分解→再構築して元の姿へ

仁「……」


・ジャネンバの弱点
原作において、ジャネンバの弱点は"悪口"のみだったが、それは決定打にならないというのと、流石に弱体化しているとはいえ、ジャネンバがトータスでは最強過ぎた故のオリジナル設定。
あとは光輝も少しくらいは活躍させてあげようかな~っと思いまして。

・new武器
聖なる刀(正式名称なし)
ハジメが聖剣を改造して作り出した雫用の武器。
元となった聖剣ほどの頑丈さこそないものの、そこに宿る"聖なる力"は比べ物にならないまでに増幅しており、対ジャネンバ用に特化したアーティファクト。
力ではなく、技で戦う雫用に作られているため、光輝や仁、ハジメが使ったとしてもその本領を発揮させることができない。まさに雫のための武器。
何故かピカピカ光る。

聖なる弾丸(正式名称なし)
ハジメが聖剣を改造して作り出したハジメ用の武器。
雫に作った刀とは違い、相手にダメージを与えることよりも殺すことに特化したアーティファクト。
込められた聖なる力は元の聖剣を大きく上回り、一発当てただけでも"悪"相手であれば致命傷を与えることが可能。
材料の量的に2発しか作れなかったことが欠点。
何故かピカピカ光る。
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