ピンクの魔人と共に   作:クー(無課金勢)

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樹海の大迷宮編 ラスト!

ほぼオリジナル展開で意味わからないことばかりだったと思いますが、今回の章はこれまでで一番頑張りました! 
楽しんでいただけたら嬉しいです。


片時の休息

 樹海。

 フェアベルゲンを守る鎧でありながら、魔物にとっては最大の狩場にもなりうるそこでは今、2人の少女達が戦っていた。

 

 1人は艶のある黒い髪をポニーテールで結び、その手には失った得物の代わりに一振りの木刀が握られていた。ここ最近で急激なパワーアップを遂げた風磨仁の幼馴染――八重樫雫。

 

 彼女が迎え撃つは、黄金の髪を靡かせた現代最強の魔法使いでありながら、奈落が生み出した化け物である南雲ハジメの最愛――ユエ。彼女の血のような深紅の瞳は力強く雫を睨み、情け容赦なく神代魔法すら取り入れた理不尽な魔法を幾度となく放つ。

 

 流星のごとく放たれた色とりどりの魔法。ただ敵を打ち滅ぼすだけではない、逃げ道を塞ぎ、確実に命中させるよう念入りに計算された軌道。膨大な魔力量と精密な魔力操作がなくては不可能なユエだからこそ可能な殲滅魔法だ。

 

 一撃一撃が大迷宮の魔物を殺しうる脅威的な威力。だが雫はそれを涼しい顔で躱し、避けきれないものは木刀で滑らせるように軌道を逸らす。見事な体捌きであるが、その魔法群ですらユエにとっては囮。雫の死角からは"雷龍"が口を大きく開けて迫ってきていた。

 

 ギリギリになってその攻撃に気づいた雫だが、迎撃は不可能。よって空へと逃げる。当然"雷龍"は追ってくるも雫は焦りを見せずに木刀を縦に振るう。すると気の斬撃が木刀から放たれ、大きく口を開けた"雷龍"を両断する。

 

 樹海の一角。ハジメが生み出した結界型アーティファクトによって一時的なセーフティーゾーンと化したそこでは、雫とユエによる1対1の高速戦闘が繰り広げられていた。

 

「疾っ!」

「っ……! "凍獄"」

 

 一息で距離を詰めた雫の一振りを後ろに飛んで皮一枚で躱したユエは、自分を中心に氷を発生させることで無理矢理雫に距離を取らせる。

 

 2人の間には大きな力の差がある。雫は確かに飛躍的な成長を遂げたが、ユエと比べてしまえば文字通り経験値が違う。そして、その差を埋められるだけの力を雫は所持していなかった。しかし、それでも近距離戦闘に特化した雫と魔法による遠距離攻撃を主体とするユエでは、相性というものがある。

 

 この場が樹海ではないただの平地で、ハジメが生み出したセーフティーゾーンという空間的制限がなければこの戦いはユエの圧勝だっただろう。しかしこの制限された空間で速さという長所を持つ雫は彼女にとって非常にやりずらい相手だった。

 

「――っ!」

 

 大きく後ろへ飛んで"凍獄"を躱した雫の動きを先読みしていたユエは"天灼"を展開。雫は上部に出現した雷球から逃れようとするも、続けざまに発動された"城炎"により逃げ場を炎の壁に塞がれる。

 

「だったら――こうっ!」

 

 追い詰められた雫の行動は迅速だった。雫は"天灼"を見たことがない。それでも天に浮かんだバチバチとスパークを纏う球体を目にすれば、あれから電撃が降り注いでくることなんて容易に推測できた。彼女はその手に持つ木刀を逆手に持ち替えると、空中に並ぶ6つの雷球の中心に生まれた一際大きな雷球へ投擲する。

 

 雷球へと突き刺さる木刀。だがそれだけで既に発動された魔法が破壊されることはない。それを分かっていた雫は投擲した木刀を追うように跳躍。突き刺さった木刀を掴むと、突き刺さった状態のままの木刀を振るい、雷球を両断してみせた。

 

 核としての部分を破壊された魔法は電撃を振り撒くことすらなく、霧散していく。だが他に選択肢がなかったとはいえ、空中へ逃げたのは間違いだった。

 

 雫は仁と違って武空術を使えない。正確には武空術を使える土台こそ出来上がっているものの、仁からやり方を教わっていないのだ。つまり彼女は、空中戦の経験どころか手段すら持ち合わせていないということである。

 

「!! しま――」

「遅い」

 

 宙で隙だらけの身を晒した雫は突如自身の体に圧し掛かった重みによって地面へと叩き落される。なんとか受け身こそ取れたものの、彼女にかけられた重力は立ち上がることを許さず、雫は地面に押し潰され続けていた。

 

 ユエの"重力魔法"だ。その効果はただ上から下へ打ち落とす。たったそれだけだ。だがそれだけのものであっても、ユエが使えば必殺に届く一撃へと早変わりする。もし仁と再会する前の雫であったならば、その一撃で命を落としていたかもしれない。

 

 うつ伏せに地面に倒れ、立ち上がることすら封じられた雫は辛うじて顔を上げる。そこには、いつの間にかすぐ近くにまで近づいていたユエの姿。

 

「……ん。私の勝ち」

「あいたっ!」

 

 身動きの取れない雫へ放たれたデコピン。

 

「ううっ……参ったわ、降参よ」

 

 その優しい一撃を止めとして、ユエと雫の()()()は終わりを告げた。

 

……

……

……

 

「はぁ……はぁ……やっぱり、まだユエさんには敵わないわね。まさか一度も当てられないなんて……」

 

 ユエとの勝負に負けた雫は、地面の上に大の字で倒れこみ、激しい呼吸を繰り返していた。

 

 雫には自信があったのだ。仁の修行を受け、大迷宮を攻略し、神代魔法を手に入れ、何よりも神代の怪物(ジャネンバ)との戦いにすら勝利した。短期間でありながら、十分な経験を得たと思っていた。少なくとも、勝てなくても善戦くらいは出来るという想定だった。

 

 しかし現実は、一度も木刀を当てることすらできずに敗北。これが実戦であったならば、とっくに雫は死んでいただろう。とはいえ、逆に一撃でも当てていたならば勝者と敗者の関係は逆転していた。結果は別として、この戦い事態は拮抗していたのだ。

 

 寝転ぶ雫の近くに1人の少女が駆け寄る。

 

「お疲れ様、雫ちゃん。凄いよ! もう少しで勝てたんじゃない!」

 

 雫と同じ黒い髪の少女。幼馴染の香織だ。

 

 香織は雫に治癒魔法を施しながら倒れた雫へ瞳をキラキラと輝かせながら今の勝負の感想を告げる。

 

「すぅ……はぁ……ええ、ありがと香織。でもまだまだよ。手加減してるユエさん相手に全力で戦ってここまで圧倒されるなんて情けないわ。それに"昇華魔法"を使う隙さえなかった。これじゃあ宝の持ち腐れね」

 

 【ハルツィナ大迷宮】を攻略して5日が経過した。

 

 大迷宮から帰還した一行は、未だ意識の戻らない仁とティオ。そして過酷な戦いに疲弊した体を休めるため、早々にフェアベルゲンにて休息に入った。

 

 あの日以降、意識を失った仁は未だ目覚めていない。再生魔法の力をもってしても、限度を超えた限界突破による副作用を癒すことはできなかったのだ。仁同様に意識を失ったティオはとっくに目覚め、ハジメにご褒美(意味深)を強要しまくっているが、それに関しては彼女が異常なだけだ。

 

「いや、ユエ相手にこんだけやれたなら十分だろ」

 

 香織に続いて近づいてきた男が雫に声をかける。

 

「いくら手加減してたって相手はユエだぞ。たかだか神代魔法1つ手に入れた奴が敵う相手じゃねぇよ。あれか? 仁に修行つけてもらって人間でもやめたか?」

「それ貴方だけには言われたくないセリフね……」

「でも本当に凄いですよ。ハジメさんの言い方はちょっとアレですけど、ユエさんと"戦える"って相当ですからね」

「……んっ。あそこまで動けるのはちょっと想定外」

 

 仰向けに倒れこむ雫を見下ろす男――ハジメはシアを後ろに連れ、純粋に雫の戦闘能力を称賛する。そこに体力の回復したユエも話に加わった。

 

 これが実戦でない以上、ユエも殺さないよう加減していた。それは事実。だがそれを踏まえたとしても、ハイリヒ王国で平和な毎日(ハジメ視点)を送っていた雫がユエとこうして戦闘と呼べる戦いをしていること自体が異常と言える。【ハルツィナ大迷宮】での戦いからなんとなく察してはいたが、雫もしっかり人外の領域に片足を突っ込んでいるのがハジメには分かった。

 

「それにしても、まさか八重樫がユエと戦いたがるなんてな。それもあんな挑発までして」

「そうだよ雫ちゃん。いきなりびっくりしたんだからね!」

 

 ハジメが呆れたように、香織が怒ったように倒れた雫を覗き込むように見る。

 

 そもそも何故、雫とユエというあまり見ない組み合わせが戦っていたのか?

 

 今朝、ハジメとユエ達が寝泊まりしている部屋へ訪れた雫は、唐突にユエに手合わせを申し込んだ。とはいえユエも(ハジメといちゃつくので)忙しい。その提案はあっさりと断られてしまった。しかしそれにあっさりと納得した雫の言葉が、ユエに火をつけた。

 

――そう、ユエさんが一番()()()()()()()()()()()……それなら仕方ないわ。突然ごめんなさい。

 

 ユエは当然「……は?」となった。

 

 彼女は仁にプライドを1度はへし折られたものの、ハジメの全肯定により失った自信を取り戻しつつあった。そんな彼女に対し、『やりやすい』などという舐めた発言をすれば、機嫌を損ねるのは当たり前のこと。安い挑発に乗っかったユエは額に青筋を浮かべながらその手合わせを受け入れた。

 

 そんな経緯があったからこそ、思った以上に雫が動けたため、少し焦った場面もあったことをユエは絶対に口にはしない。

 

 しかしその一連の流れはユエやハジメ達から見てのことであって、雫的にその言葉は挑発でもなんでもなかった。

 

「ふふ、何言ってるのよ2人とも。あれが挑発なわけないじゃない」

「……はあ?」

「でも確かにそうね。少し言葉選びを間違えたのかも」

 

 ユエが挑発として受け取った『やりやすい』という言葉。だがそれは雫の思惑とは違う。

 

 今更改めるようなことでもないが、ハジメ達は強い。それこそ、香織を除いては単体で国を滅ぼせるくらいには彼ら1人1人は強力な力を持つ。そんな彼らに対して、雫の強さは非常に微妙なところにあった。

 

 勇者である光輝と比べれば全然強いが、ハジメ達からしてみればまだまだ。そんな中途半端な強さであったため、格上であるハジメ達の誰かと手合わせをすることで自身の強さを再認識する必要があると彼女は考えたのだ。そこで生まれてくるのが、その相手に誰を選ぶか。

 

 まずハジメは論外。実際に指南を受けたハウリア達のおかしさを知っている雫からしてみれば、そもそも候補にすら入っていないのがハジメだった。

 

 またシアもよくない。彼女は人格的には素晴らしい人物であるが、単純に手加減が苦手だ。最悪、ただの手合わせで殺される可能性すらある。それではもう修行ですらない。

 

 となればあとはユエとティオだったのだが……最終的にはティオの性癖がアレであったため雫は関わりこそ少ないがユエに手合わせを申し込んだ。だからこその『やりやすい』という言葉であり、そこに侮りの意味は一切なかった。

 

 そのことについて呼吸を落ち着かせた雫が語ると、煽られていたと思ってたユエも含めて全員が曖昧な表情を見せる。誰もが口にしなくとも思っただろう『言葉が足りないッ!』と。

 

 少し休憩を挟んだ雫はゆっくりと体を起こし、今回の戦闘で自分が使っていた得物を見つめる。

 

「……やっぱりダメにしちゃったわね。後で謝らないと」

「そんなのでユエの魔法を正面からぶった切ろうとするからだろ。当然だ」

「むしろ原型保ってる方がおかしいですよね……」

 

 雫がこれまで使っていた黒刀はジャネンバに奪われ、再び見つけた時にはボロボロに崩れ去っていた。その代わりとして、雫はフェアベルゲンにあった木刀を借りていたのだ。勿論ハジメとは違って許可を得て。

 

 ただそれはごく普通の木刀であって、特殊な材質でなければ魔法が付与されているわけでもない。本当にただの木刀。そんなものが雫とユエの戦いについていけるはずもない。全体的に亀裂が入り、焼け焦げ、もう一振りでもすれば崩れてしまいそうなまでにボロボロな状態であった。

 

「まぁ、でもちょうどいいか。ほら、受け取れ」

「え……これは? 前のとは違うみたいだけど?」

「新しい得物だ。これからも低レベルの武器を使うわけにもいかないだろ」

 

 借り物をボロボロにしてしまい申し訳なさに沈んでいた雫にハジメは鞘の入った刀を投げ渡す。

 

 雫は受け取った刀を抜刀する。形状は以前の黒刀や光輝の聖剣を改造して作った聖なる刀(仮)と同様に小烏丸造りと呼ばれる刀に酷似しており、雫からしてみれば扱いに慣れた形状であった。

 

「悪いが、そいつはアーティファクトって呼べるほどの代物じゃない。どうにもお前と仁が使う"気"と"アーティファクト"は相性が悪いみたいでな。あんまり乱用すると付加してる方の魔法が壊れちまう」

「あー……そういえば仁がそんなこと言ってたわね」

「だからそいつは、滅茶苦茶頑丈で気持ち悪いくらいに切れ味が良い。ただそれだけの刀だと思ってくれればいい」

「それ以上に貴方は刀に何を求めてるのよ。ちょっと怖いわ。でも、ありがとう。遠慮なく受け取っておくわ」

 

 立ち上がり、刀を一振り。それだけで遠くの樹々が切り裂かれたのを目にした雫は驚きつつも、どこか納得したように頷いてから鞘へと戻す。今の雫の戦闘スタイルにあったものであるからか、妙にしっくりとくる感覚に雫の口元は微かに緩む。

 

 ただ、1つだけ気になることが、

 

「で、この色は何かの嫌がらせかしら?」

 

 ハジメの渡した刀は……持ち手も、刀身も、鞘も例外なくピンクに染め上げられていた。以前の黒刀とは正反対の派手すぎるカラーリング。意図的にこの色にしてあるのは明確だった。雫の頬がピクピクと引き攣る。

 

 雫の抗議に、ハジメはやれやれと肩を竦める。まるで聞き分けのない子供に対するような態度に雫はこいつが確信犯であると悟る。

 

「いいか八重樫、お前のように普段キリッとしたクールビューティータイプは、実は可愛らしいものが好きというのが定番だ。故に、わざわざ気遣ってピンクにしてやったんだ。感謝しろ」

「な、なんという決めつけ……わ、私、別に可愛いものなんて……」

「あっ、当たってるよ、ハジメくん! 雫ちゃんの部屋ぬいぐるみで一杯だもん」

 

 ハジメの決めつけを咄嗟に否定する雫だったが、そこでまさかの裏切り。香織が雫の趣味を暴露する。雫の頭の上に"!?"のマークが飛び出した。

 

「それにピンクといったら仁のイメージカラーだ。あいつの隣で戦う奴がピンクじゃなくていいのか? いいや、そんなわけがない。お前もピンクキャラになるべきだ」

「ご、強引過ぎるし話の前後に繋がりがない……」

 

 不服も不服。雫は異議を申し立てたい気持ちしかなかったが、見た目は別としてこんな良いものをタダで貰っておいて今更突き返すわけにもいかない。耳まで赤くなりながら、雫は律儀に刀を腰に挿した。

 

 ちなみに、ハジメのこの行動は単なる八つ当たりであったりするのだが、それを理解している者は隣で若干呆れたような眼差しを向けるユエしかいない。

 

「おーい皆ーー! 風磨君が起きたよー!」

 

 今日の仁の介護を担当していた鈴から、そんな報告が届いたのはそんな時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不思議な感覚だった。まるで夢の中で夢を見ているような感覚。

 

 ジャネンバとの戦いの後、オレは"限界突破"の副作用によって気絶した……はずなのだが、どういうわけかオレの意識は起きている時と大差ないまでに明瞭としていた。目を開いていないのに皆の表情が細やかな所まで見える。耳は音を捉えていないにも関わらず、会話の内容を脳が処理していく。

 

――お菓子として食べられたものの、ブウの温情によって体内で生き続けていたオスカーが肉体の主導権を奪って現れたこと。

 

――リューティリスが本当の意味での死を迎え、ハジメ達がそれを見届けたこと。

 

――無事大迷宮を攻略し、天之河、坂上、谷口を除いた全員が神代魔法"昇華魔法"を手に入れたこと。

 

――全員が大迷宮からの脱出に成功し、フェアベルゲン出禁を食らってるオレとそんなオレを看病してくれる奴を除いてフェアベルゲンで休息を取ることになったこと。

 

 その全てをオレは把握していた。だが意識が浮上してくれる気配は一向になく、オレの意識はまるで全身に重りを付けられた上で海の底に沈められたかのように、深く深く沈んだ場所から上がれずにいた。

 

 例えるなら、機械の強制シャットダウンに近いだろうか。文字通り限界を超えた肉体がこれ以上の被害を抑えるため、強制的に意識を落とした。まあ体の危険信号のようなものだと思えばいい。

 

 つまりはこの状態のオレは、まさしく再起動の時を待つ装置といったところだろう。

 

 それほどまでに、オレの限界突破は代償が大きかった。まあ分かってはいた。ハジメ達とは基礎的な強さのレベルが違うオレがあんなドーピング技を使って無事でいられるはずがない。しかも今後更に実力を身に着ければ、その副作用も比べ物にならないものへと変わっていくはずだ。最悪死ぬ可能性だってある。ああ、億劫だ。

 

 とはいえ覚めない夢はない。オレの意識がようやく浮上を果たした時には、既に5日の時が経過していた。

 

 とりあえず、ちょうどこの時間帯にオレの看病をしてくれた谷口には感謝の意味も込めてこう告げておこう。

 

「――ごめん、チェンジで」

「寝起き早々、すっごい失礼なこと言われた?!」

 

 

~~~

 

 

 谷口がハジメ達を呼びに行くと言って飛び出したのを見送り、オレは体を起こし、ベットから降りる。周りを見渡せば、そこにあるのはとても樹海の中とは思えないインテリアの数々。

 

 ここはハジメの作った特殊なテントの内側。どうやら"空間魔法"で内部の広さ調整が可能のようで、外から見たら1人用の小さめなテントであるが、入れば数十人程が暮らしても不快さを感じさせない夢の魔法テントとなってるらしい。

 

 鈍った体をほぐすため、軽いストレッチをしていると、外から慌ただしい声が響いてくる。谷口が他の奴らを引き連れて戻ってきたのだろう。

 

「仁、起きたの!?」

「おっ、おはよ。やえが――うおぉ?!」

 

 テントの入り口を勢いよく捲り、入ってきたのは八重樫だった。

 

 何故かボロボロの恰好で焦ったように駆け寄ってきた八重樫はしがみつくかのようにオレの胸へと飛び込んでくる。そして無事を確認するかのように体をペタペタと何度も触れる。

 

「ああ、無事なのね良かった……仁、体はどう? 違和感はない?」

「大丈夫……そこは大丈夫なんだが……精神的にマズイ……」

「そんな……まさかあの戦いの後遺症が……」

「違うそうじゃない」

 

 羞恥で死にそうになっているオレに見当違いな心配をする八重樫だが、無理に引っぺがすことは簡単だ。でも目の端に涙を浮かべながら悲しそうな顔でこっちを見つめてくる彼女にそんなことができるようなら、オレは惚れてなんかいない。

 

 そこへ、遅れてやってきたハジメ達が到着。どうやら八重樫だけが一足早くオレの元に駆けつけてくれたようだ。その気持ちは嬉しい。嬉しいんだが、ちょっと気まずい。知ってるか? この女これでオレに惚れてないんだぜ。

 

「ほら八重樫。オレは大丈夫だからもう落ち着け。ハジメ達も見てるからよ」

「えっ…………きゃあ!」

「……なんて理不尽」

 

 こちらの様子を見るなり、ニマニマするハジメ達を睨みつつ、オレは八重樫の説得を試みる。そこでようやく自分の客観視に辿り着いた八重樫は顔を真っ赤にしてオレを突き飛ばした。

 

 普通そこは自分が離れろよ。なんでオレの方を飛ばした。永い眠りから目覚めたばかりの男だぞこちら。

 

「おいおい、いちゃつくのはおしまいか? 俺達のことは気にするな。もっとやれ」

「それで続けられる馬鹿がいるか。というか、人前で女とイチャイチャできるのなんてハジメぐらいだ。おまえはもうちょい自重しろ」

 

 八重樫に突き飛ばされ倒れたオレはハジメに差し出された手を掴み、補助を受けながら立ち上がる。そんなオレへ、ハジメは真剣な顔で問いかけた。

 

「さて、起きたばっかで悪いが、お前に聞きたいことがある……んだが、その前にあの後何があったか教えた方がいいよな?」

「いいや、寝てたけど大体外の状況は把握してるから問題ない。オスカーの野郎がこの体の主導権奪ったこととか、新しい神代魔法の神髄とかな」

「……驚いたな。それもその体の影響か?」

「さあな、知らね。初めての経験な気もするし、前からそうだった感じもある。どっちにしろ、今気にすることじゃないだろ。睡眠学習ができて便利くらいに思っとけばいい。それでまあ、ハジメが聞きたいことってのは……」

 

 情報はある。推測もできる。その結論に辿り着くのはあまりに簡単なことだった。

 

「――『元の世界に戻れるか?』ってことでいいか?」

「ああ……」

 

 一緒にいた八重樫や白崎も、オレの言葉に息をのむ。

 

 当たり前といえば当たり前なのだが、他のクラスメイト以上にハジメが故郷へ帰ることに執着してるのは少しの間だが一緒に旅をしてよく分かった。そして今回手に入れた"昇華魔法"。それは間違いなくその目的へと繋がる重要な鍵となる。

 

 ユエがダメだった。だったら、次の選択肢としてオレが上がるのはある意味必然だろう。王道的な魔法使いがダメでも、例外的な怪物ならばいけるかも。どうせそんなところだ。

 

「だったらまず羅針盤を貸してくれ。場所が分かんなきゃどうしようもない」

「それもわかってるのか。ちょっと待て…………ほらよっ」

「ぉ……っと。おまえ躊躇いないな。一応聞いとくけど、ハジメはもう試したのか?」

「まあな。とりあえず今の俺達じゃあどうにもならないってことは分かった」

「ほう……」

 

 壊されるかもしれないという考えもないのか、躊躇いなく放り投げられた【ハルツィナ大迷宮】の攻略の証――"導越の羅針盤"をオレは受け取る。

 

 "望んだ場所を指し示す"アーティファクトである導越の羅針盤。その使い方なら知ってる。ただ探したい場所を思い浮かべ、起動する。それだけの簡単操作。すぐさまオレはそれを【地球】を探すために起動した。

 

 途端、長時間睡眠によって蓄えられていた魔力がごっそりと持っていかれた。なんとなく察してはいたが、やっぱり目的の場所が遠ければ遠いほど魔力が大量に持ってかれる仕組みらしい。だがやっぱり寝まくったことが大きい。魔力が枯渇することなく、オレは導越の羅針盤の起動に成功する。

 

 同時にオレは手に入れた情報から確信と理解を得る。

 

「――遠いな」

「だろ?」

「でもそうだな。多分……帰ろうと思えばいける……」

「は…………それは本当か!?」

 

 ダメもとでの提案だったのだろう。ハジメはオレの言葉に喜びよりも信じられないといった驚きの反応を見せた。ユエや八重樫達も似たような反応だ。だが期待を持たせたことは悪いが、それだけが結論じゃない。

 

「ただな……オレのやり方だと帰れるのはオレ1人だけだし、超時間かかる気がする。おまえら全員を連れ帰るのは普通に無理だと思うぜ」

「そう、なのか? ちなみにそのやり方ってのは?」

「教えたところで馬鹿馬鹿しいって一蹴されるだけだな。とりあえず、少なくともオレみたいな特別な肉体を持ってないと普通に死ぬとだけ言っておく」

「だ、ダメじゃねーか……」

 

 ハジメだけじゃなく全員が落ち込んだ様子を見せられ、オレはちょっとした罪悪感に襲われる。やはり、最初に希望を見せたのは間違いだっただろうか。

 

「……期待させて悪かったな」

「いや、気にすんな。自分だけ帰れる手段があるのに、それをしないのは仁が俺達のために力を貸してくれるからだろ? それだけでもありがたいってもんだ。それに、どっちにしろ残り1つの神代魔法を手に入れればいいだけだ。目的は変わらねぇ」

「そうか、じゃあオレは今後ともおまえらのために力を貸してやるよ。ありがたく思え」

 

 少し感情が前のめりに出ていたようだが、すぐに落ち着きを取り戻したハジメは覚悟の決まった顔で笑みを浮かべる。友がこう言ってるんだ。オレがこれ以上この話を引き摺る必要もない。

 

「そういうわけで、オレはこれからもハジメ達の旅に同行することになったわけなんだが、おまえらはどうする?」

 

 ならばこれでこの話は終了! っと強制的に話題を変えるため、オレはあからさまに話しかけるタイミングを見計らっていた谷口へと視線を向ける。それに釣られて、ハジメ達も谷口の方へと顔を向けた。

 

 先程から、どこか緊張した様子でそわそわしていたのが丸わかりだったのだが、それはハジメも気づいていたらしく、怪訝な顔を浮かべている。そんなハジメに谷口は正面から向き合い、一歩前に進み出た。

 

「南雲君、風磨君。あのね、次の大迷宮に鈴も連れて行って下さい。お願いします!」

 

 ガバッと頭を下げながら谷口が頼み込んでくる。それに対して、驚きの反応を見せたのは八重樫と白崎。どうやら、誰に相談するわけでもなく、100%自分の意志による決断らしい。

 

 この手の頼みをしてくるのは八重樫か天之河あたりだと踏んでたから、これにはオレもちょっと驚かされた。でも谷口がそれを願っていること自体は最初から知っていた。多少の驚きはあれ、慌てふためくほどのことじゃない。

 

「鈴、それって……」

「うん、シズシズ。ごめん。やっぱり鈴は恵理を諦めきれない」

 

 その発言の意図を悟った八重樫が反応するが、谷口は一切の迷いなく断言する。そこでオレも理解する。これはパーティー全員を代表しての頼みではなく、谷口個人の要望であると。

 

「そいつはまた何でだ? 別に付いて来なくても日本には連れ帰ってやるし、強くなりたいのだとしても俺がアーティファクトを強化してやれば大して問題ないだろう?」

「うん、確かにそうだよ。でも、南雲君は…………恵里のことまで手を貸してくれるわけじゃないよね?」

「……中村か……まぁ、そうだな。あいつが裏切ったってのは聞いたが、元々交流があるタイプでもないしな。どうでもいいってのが正直な感想だ。というか、中村は仁にボコられたんだろ? 生きてんのか?」

「うん? ああ、生きてるよ。どうやって生き延びたのか知らんが、魔人族の領土からあいつの気がまだあるのはとっくに把握済みだ。オレなら今ここからでも殺せるぜ。言っとくが谷口、オレはあの女に情けをくれてやるつもりはない。もし次目の前に現れたらチョコレートパフェにして食ってやる」

 

 断言するオレに谷口は困ったような笑みを浮かべる。

 

「そうだよね。でも、鈴はもう一度、恵里と会ってお話がしたい。その為には力がいる。だからね、大迷宮にもう一度挑戦したいんだ。それで結果はどうなっても、生きて出られたら……そのまま魔人族の領土に行こうと思う」

「鈴っ、それはっ」

「まあ待て八重樫。せっかくこいつが覚悟を決めたんだ。とりあえず最後まで聞いてやろうぜ」

 

 単身で魔人族の領土に行こうなどと親友として許容できなかったんだろう。思わずといった様子で八重樫が谷口の肩を掴もうとし、そんな八重樫の肩をオレが掴んで止めた。

 

 谷口の意志はもう固まっている。今更何を言ったって無駄だ。様子をみればそれくらい分かるだろうに、それでも八重樫は止めずにはいられなかった。相変わらず心配性なやつだ。

 

 一方で、ハジメはなるほどと納得した様子を見せている。次に目指す大迷宮【氷雪洞窟】は南大陸中央にある魔人族の国ガーランドのお隣の【シュネー雪原】にある。

 

 中村を説得して連れ戻すにしろ、改めて決別することになるにしろ、一度王都に戻るよりオレ達に同行して【氷雪洞窟】に挑んでから、そのまま中村がいる魔人族の本拠地――いわゆる魔王城に乗り込んだ方が効率的だからだろう。

 

 感情的な話を抜きにしても、谷口の話には確かな現実性がある。それにわざわざ中村なんかのためにハジメが帰還の時を調整してくれるわけもないし、最悪和解は決裂、ハジメが谷口を置いてそそくさと帰還なんてことも十分ありえる。今のハジメならそれをやりかねない。

 

 要するに、谷口には心と時間の余裕がないのだ。

 

 谷口はオレとハジメに一度視線を交差させると、必死さの滲む声音で更に頼み込んだ。

 

「それでね、それで、もし、もし恵里を連れて来ることが出来たら……その時は、恵里も一緒に日本へ帰して欲しい。お願い! お願いしますっ!!」

「……」

 

 オレもハジメも答えない。なれば当然、ユエやシア、八重樫や白崎も口を開こうとはしない。そのまま誰も何も言えず静寂が降りた。

 

 正直に言うと、オレはもう中村に殺意を抱いてはいない。この肉体の影響か、オレは怒りや憎悪という感情を継続するのが苦手らしい。ブウから受け継いだ神に対する怒りこそ未だ残ってはいるものの、それはどちらかといえばブウが怒ってるからオレも怒ってるのであってオレ由来の感情ではない。

 

 だからまあ、あんな害虫1匹程度見逃してやってもいいんだが……オレにはあいつが改心して、和解できる未来がまったくイメージできなかった。

 

 谷口が中村を助けたい。そう思うのは自由だし、その感情からどんな行動を取ろうとも、自己責任ってことで構わない。でもその結果、関係ない犠牲が生まれるんだったら話は別だ。その時オレは、中村だけじゃなく谷口にも責を求めなきゃならない。

 

「「その話、ちょっと待った!!」」

「っ……!?」

「光輝君に龍太郎君!?」

「あんた達……何やってんのよ……」

 

 と、そんな時、天之河と坂上がテントの入口をバサッと開き、勢いだけの宣言と共に入ってきた。

 

 オレもハジメもとっくに気づいていたが、谷口に話を振る少し前あたりから、こいつらはずっと外で聞き耳立ててやがった。

 

 いつ入ってくるんだと頭の片隅で考えてはいたが、特に理由もない派手な登場にオレもハジメもつい「えぇ……」と軽く引いた反応をしてしまう。こいつらは異なるタイプの馬鹿共だ。何をやらかすか分からないというものはそれだけで厄介でしかない。

 

「南雲、風磨、俺からも頼む。恵里の目的は俺だ。俺も、いや、俺こそがあいつと話をしなきゃならないんだ。鈴を1人で魔人領に行かせるわけにはいかないし。それに……」

 

 以前までに陽気さは鳴りを潜め、随分と暗い雰囲気を纏うようになった天之河がグッと唇を噛み、拳を握り締めて吐き出すように言った。大方、実際に大迷宮攻略を経験した上で、神代魔法を手に入れられなかったから自信を失ってるとかだろう。

 

 これで自分の無力さを理解し、諦める……もしくはこれまでの考えを改めるとかだったらまだ良かったんだが、長い付き合いのオレには分かる。こいつはそう簡単に自分の弱さを認められる人間じゃない。

 

「このままじゃ、終われないんだ。雫だって神代魔法を手に出来たのに、俺はっ。次は、次こそは必ず力を手にしてみせるっ! あんな精神攻撃ばかりしてくるような卑劣な場所でなければ、俺だって攻略できたはずなんだ! 今度行く大迷宮は、あの魔人族の男が攻略できたところなんだろ? なら、俺だって必ずっ!」

「あほくさ……」

 

 自分の弱さを認めた上で、立ち上がろうとしてる谷口とはまるで違う。この男は、結局のところ過去の栄光を取り戻して、自分が正しいと証明したいだけ。トータスに来て、魔人族なんかに負け、無能だと思ってた男に女を奪われ、初めて人の死を経験し、自分の間違いを咎められ、それでも天之河は昔とまるで変わらない。

 

 案の定、と言ってしまえばそうなのだが、その事実を再認識させられ、オレの中には怒りと諦めの感情がふつふつと湧き上がる。

 

 そもそも、自分の弱さを否定して、大迷宮にいちゃもんつけるのが気に食わない。

 

 オレにはオスカーの記憶もある以上、あの場で出会ったリューティリスが造り上げた大迷宮を侮辱されたことに相当腹が立っている。

 

 確かに【ハルツィナ大迷宮】はこれまでの大迷宮と比べても一際性格の悪い仕掛けばかりだった。だが前提として、大迷宮とは神に反逆しうる力と意志を証明する場。力は前提として、その精神性も強固でないと神に反逆する資格がないという解放者なりのメッセージでもあるのだ。

 

 それを自分が神代魔法を手に入れられなかったからと言い訳にするのは、あまりに勇者としてダサ過ぎる。正直1回殴ってやりたいが、それで苦労するのはフォローをしなきゃいけなくなる八重樫だ。というか、大怪我した天之河を優しく介抱する八重樫なんてオレが見たくない。

 

 だからオレはすっごい頑張って我慢した。それでもきっと怒気が漏れ出たんだろう。気を感じ取れる八重樫と野生の勘が鋭いシアが揃ってビクッと肩を跳ねさせた。

 

「ああ、鈴を一人で行かせるわけにはいかねぇ。恵里の奴も1発どつかねぇと俺の気も済まねぇし。南雲、風磨、悪ぃが、いっちょ頼むわ!」

「龍太郎まで……はぁ。まぁ、確かに鈴を1人にさせるわけには行かないわね。それに私も、恵理には借りを返したいわ。2人共、その……お願い出来ないかしら?」

 

 馬鹿(天之河)に続く形で、相変わらずゴリラな坂上が仲間が行くなら俺も行くぜ! と少年漫画的なノリで快活に頼み込み。続いて八重樫が困り顔のままそれも仕方ないと、申し訳なさそうに頭を下げる。

 

 谷口達の主張を聞いたハジメは、八重樫達の決断に涙ぐみながらも必死な眼差しを向ける谷口と、相変わらず感情を押し殺したような天之河、ゴリラなゴリラ(坂上)、皆を気遣う八重樫、そして、そんな幼馴染達を心配する白崎に順に視線を巡らせ、一度深い溜息を吐いた。

 

「……俺は構わない。でも最終的な判断は仁に任せる。お前の方がまだあの女のこと知ってんだろ?」

「ああ、やっぱりそうなるか……」

「風磨君……」

 

 ハジメがこう言うことはユエ達も同意見という認識でいいだろう。だったら、ここで空気を読まずに拒絶しても意味はない。オレが何を言おうとも絶対に諦めないと、谷口の眼は語っていたのだから。

 

「……分かった。ただし、2つ条件を呑んでもらう」

 

 谷口の息を呑む音が聞こえる。ただ許諾することが気に食わなかったオレが提示する条件は2つ。

 

「1つ、もし中村がおまえを無視して。こちらを殺しに来た場合、オレは躊躇なくあの女を殺す。救うにしろ殺すにしろ早い者勝ちだ。もしそうなった時、オレに文句は言うな。止められなかったおまえが悪い」

「それはっ! ……仕方ない……よね……」

 

 オレから殺しに行かなくても、あちらの方から襲い掛かってくることはある。その場合は流石に殺すけど、いいよな? という確認だ。わざわざあんな女のために加減してやる理由もない。

 

 こればっかりは仕方ないと、渋々納得した様子を見せる谷口へ続けて告げる。

 

「おまえがあいつを連れてくるのは勝手だ。だがもし連れてきた中村が改心してないとオレ達が判断したなら……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。大量殺人鬼の裏切り者と仲良くしたいってんならそのくらいの覚悟は決めろよ」

「っ……!!」

「風磨、それはいくらなんでも――」

「おまえは黙ってろ天之河。オレは谷口に聞いてるんだ。おまえはあの女のために、命を懸けられるのか?」

 

 少し脅し過ぎたかもしれないが、このくらいの覚悟、当たり前のように持ってもらわないと困る。天之河、坂上、白崎、八重樫が反論しようとするのを殺気をぶつけて黙らせ、オレは強烈なプレッシャーを谷口にぶつける。

 

 巻き込まれたのではなく、オレの殺気を直接受けたからだろう、谷口は膝をガタガタと震わせ、呼吸を荒くし、あからさまな恐怖に支配されていた。

 

 それでもオレは分かっていた。というか、信じていたに近い。谷口の覚悟はこの程度で潰れる程脆いものじゃないと。

 

「……うん、分かった……よ……」

「鈴……本当にいいの……?」

「うん。……もう逃げないって決めたの。だからそのためなら、命だって賭けてみせるよ! それが親友ってものでしょ!」

 

 全身を震わせながら、青白い顔を見せているのに、谷口は無理やりにでもいつもの笑顔を作って見せた。その顔を見れば、もう揺さぶりは必要ない。覚悟は十分に伝わった。

 

「ふっ……それだけ聞ければ十分だ。どんな手段を使ってでもあのイカレ女と和解してこい。必要になればオレの力も請え。少しくらいだったら手を貸してやる」

「風磨君! ありがとうぉ!!」

 

 殺気を霧散させ、オレが頭をポンッポンッと軽めに叩くと、谷口はパァと顔を輝かせ元気に礼を言った。続けて八重樫と龍太郎も礼を述べたが……天之河は、ただただ不満そうだった。

 

 本心としては、中村が改心するなんてこれっぽっちも思っていないが、それはそれとして谷口がここまで見せたやる気は評価しないといけない。とはいえ、もし本当に谷口が腹に一物抱えた中村を連れてきたんなら、マジでさっき言ったことをやらせるつもりだ。まあ最悪、天之河をプレゼントすればなんとでもなるだろ。

 

 結局のところ、谷口達を最後の大迷宮に連れて行けばいいだけであって、そこに然程大きな問題はない。せいぜい天之河が精神的に面倒なモードであることぐらいだ。

 

 決意を新たにする谷口達を見るオレへ「相変わらず甘いな」とハジメが横から告げてきたが、オレもブウも苦いよりかは甘い方が好きだ。誉め言葉として受け取り、オレは自信ありげに胸を張った。

 

「谷口は中村と分かり合う覚悟を決めたか……じゃあ、オレもそろそろ割り切らないとな」

「ん? なんか言った仁?」

「別に。ただのぼやきだ。気にすんな」

 

 やる気を見せる谷口を見て、オレもようやく一歩踏み出す勇気が出た。そこに関しては、感謝した方がいいだろう。ここまで見て見ぬふりをしてきたが、そろそろオレも整理をつけるべきだ。

 

 今の南雲ハジメを見るたびに心の内に蓄積していく……この()()の感情に。




雫VSユエ
一度でいいから、メインヒロイン同士のバトルというものをやってみたかった作者の願望から生まれた一戦。
当たり前だが、いくら強くなったとしても雫じゃあユエに勝つのは無理なので、ユエ側に相当ハンデをつけて戦った。
ハジメや香織は普通にユエの圧勝だと思っていたようだが、意外に善戦しているようで内心ビックリ。この件をきっかけに2人は仲良くなった。

萌え刀
ハジメが雫のために造り上げた刀身から持ち手、鞘まで完全ピンクに染め上げた刀。
原作の雫の得物である黒刀と形状こそ同じであるものの、そこに生成魔法による魔法の付与は行われておらず、高度な錬成技術のみによって鍛え上げられた新たな刀。
そのためアーティファクトの枠には収まっておらず、異常なほど切れ味がよくて頑丈な刀というところ。
特にこれといった名称はない。ハジメが以前、厨二関連の話題で笑われた件の仕返しのためになんとなく全部ピンクに染めた。つまりは仮面ピンクの代用品。
敢えて名付けるならば……『萌え刀』

Q. なんで仁は気絶状態なのにフェアベルゲン出禁にされたままなの?
A. 掟だからです。

聖剣の行方
光輝「南雲! 俺の聖剣はどうした! お前が奪ったのは知ってるんだぞ!」
ハジメ「そういや、返してなかったな」ポイッ
聖剣『悪い相棒……俺、変えられちまったよ……///』(聖なる力弱体化、生成魔法&昇華魔法による超強化)
光輝「……」

仁が眠っている間の看病シフト
1日目:雫
2日目:香織
3日目:雫
4日目:ティオ
5日目:鈴 ←仁起きる



一方その頃、ティオはといえば

ティオ「よいか、愛しき者から与えられる痛み……それを人は愛と呼ぶ。愛するからこそ傷つけ、愛されていると実感するからこそ痛みを受け入れられるのじゃ。すなわち、痛みとは愛ということよ」
アルテナ「な、なるほど……奥が深いのですね」

 森林族の長老の孫娘の開けてはならない扉を開けようとしていた。 



 これでこの章での話はおしまいです。
 次章はついに最後の大迷宮攻略! 原作では雫がハジメに惚れたり、光輝が色々暴走したりとか色々ありますが果たしてどうなるのか?
 わかっていることはただ1つ。とりあえず光輝は酷い目に遭います! 
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