ピンクの魔人と共に   作:クー(無課金勢)

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今回からオリジナル要素が増えます。


封印されし者

 何も見えない。

 何も聞こえない。

 頭がぼーっとして俺がどんな状況にいるのかすら分からない。

 それでも、体中の痛みだけは感じていた。

 体の至るところがズキズキと痛む。しかし、その痛みのおかげで、俺の沈んでいた意識は覚醒した。

 

「っ……ここ、は」

 

 目覚めた場所は暗闇の中だった。よく目を凝らしても、辺りを見回しても、光の一つも見えはしない。

 

「確か俺は……ハジメを助けようとして……ああ、落ちたのか……」

 

 体中を襲う痛みに耐え、記憶を辿る。この記憶が正しいのならば俺はハジメと一緒に奈落に落とされたはずだ。もしかしたら、ここはあの橋の真下なのかもしれない。

 

「おい、ハジメ! いるか!」

 

 一緒に落ちてきたはずの友人を呼びかける。視覚は役にたたないから声を頼りに探す。

 

 だが返答はない。

 

 次に俺は周囲の気を探る。最後に試した時には俺を中心に半径10メートル程度は探ることができた。これで見つからなければ近くにハジメはいない。

 

 しかし周囲にはハジメどころか魔物の気配すらない。

 

「落ちる途中に離されたか、もしくは俺に気づかず一人でどこかに行ったか。または……死んだか。これは思った以上にまずい状況だな」

 

 目が覚めたらそこは一切の光を通さない暗闇で、一緒に落ちてきたはずの友人は消息不明。状況は最悪とは言えないが、確実に悪い方には傾いていた。

 

「それにしても……軽傷すぎるな」

 

 今も体中がめちゃくちゃ痛いのだが、それでもあの高さから落ちたにしては俺の体の怪我が少なすぎる。普通なら死、良くても体はボロボロ。骨の一本すら折れていないというのはある意味異常だ。

 

「助かったことについてはありがたいが……なんか釈然としないな」

 

 何故自分が助かったのか、それを助かった本人である俺が一番理解できていいない。少し気持ち悪いが、今はそこに思考を回すよりも体を動かした方がいい。周囲に魔物がいないからといって安心できない。むしろ迷宮の中にも関わらず魔物すらいないこと自体がおかしい。

 

 こうして、俺はどこにあるのかも分からない出口に向かって暗闇の中を進み始めた。

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、キツイな」

 

 あれから暗闇の中をしばらく進んではいるが、全く景色に変化はない。ずっと真っ暗だ。いつ魔物に襲われてもおかしくない緊張感の中、俺はずっと気を探りながら進んでいた。いつも以上に神経を張り巡らせていたからだろうか、俺の集中力はだんだんと消耗していった。だが、ここで警戒を解くわけにはいかない。警戒を緩めた瞬間に死ぬ。なんてこともありえる。一瞬の油断も許されない。

 

「どうなってんだここは。本当に魔物の気配を感じない。迷宮の中だろ?」

 

 それにしても本当にこの場所は異常とも言えるほどに魔物と遭遇しない。もしかしたらここは魔物ですら住み着かない場所なのか。そう思いたかったが、確実な証拠か根拠がない以上、警戒を解くわけにはいかない。

 それからも気を探り続けながら慎重に進む。しかし、その時の俺は自分が注意するべき相手は魔物だけだと思っていた。この視界が塞がれた状況で一番注意すべきことをおろそかにしていた。

 

 だからこそ、目の前の地面にある大人が余裕をもって通れそうなほどの大きさの穴にすら気づかなかった。

 

「……………………あ」

 

 目の前に穴があるなど考えもしていなかった俺は、躊躇なく足を踏み出す。当然そこに足場はなく、真っ逆さまに綺麗に落っこちた。体を襲う浮遊感から自分が落ちているのを俺はすぐさま理解する。

 

「嘘だろぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 橋から落ちて、落ちてきた先でもまた落ちる。全く嬉しくないが、もしかしたら俺には落下というもの自体に縁があるのかもしれないな。いや、ふざけてる場合じゃない。

 

「すぐに舞空術を…………ん? あれは……」

 

 アホな事を考えながらも現在進行形で迫る危機から逃れようとした俺は真下に何かが()()()』ことに気づいた。そう、『見える』のだ。この暗闇の中で。

 

「光だ……」

 

 それは、今俺が一番探し求めていたものだった。光が見えたならば、俺のやるべき事は一つしかない。この穴から上に脱出するのではなく、下に着地する。

 

 橋から落ちる時ほどの高さがあるわけではないが、この高さから地面に衝突したら最悪死ぬ。着地を失敗したら一巻の終わりだ。

 

「………………………………今!」

 

 地面へと衝突するまであと2秒、そのタイミングで俺は舞空術を使うことで落下の勢いを殺し、ゆっくりと安全に着地する。なんとか着地は上手くいった。そう安心したのも束の間、久々の光のある空間で見た景色を俺はあまりにも信じられずに固まってしまった。

 

「……………………なんだよ……これ……」

 

 そこはこの迷宮には不釣り合いな近代的なドーム状の部屋。半径12メートル程の円形の青い床に6メートルほどの高さにある黄色い天井、側面には窓のようなものがいくつもあるが、そこから見える景色は黒一色で染められている。

 まさにSFでよく見る宇宙船の内部のような場所だった。そして何より目を引く物、それは部屋の中心に佇んでいる巨大な球体。

 

「卵……なのか。だとしたらデカ過ぎるだろ」

 

 それは人間2人分くらい余裕で包み込んでしまいそうな程の大きさの紫色の卵のようなものだった。その卵はまるで生きているかのように脈打っている。そこにあるだけでここまで存在感を放つものを俺は初めて見た。

 

「しかも、なんだよこの気は……」

 

 この部屋に来た瞬間から、俺はこの卵の中に眠る謎の存在の気を感じ取っていた。不思議な気だ。俺の知る気とは決定的に何かが違う。何が明確に違うのかを言葉にするのは難しいが、これは人とも魔物とも違う、全く別物の気としかいいようがない。

 

 それでも俺に分かることがあるとするならば、

 

「……弱ってる」

 

 その気の持ち主は異常な程に衰弱していた。

 

「さて、どうするべきか……」

 

 いきなり現れた難題に頭を悩ませる。目の前にある卵の中にいる何かは弱ってることだけは間違いない。問題はコレをどうするかだ。

 

 助けるか、放置するか。

 

 どう考えてもヤバい雰囲気を漂わせるそれは、ゲーム脳のハジメならば絶対罠だと断言するに違いない。でも、何故だか分からないが俺はこの気の持ち主を悪い奴だとは思えない。理由はない。ただの勘ではあるが、俺はその直感を切り捨てられずにいた。

 

 きっとこのまま放置すれば、この卵の中にいる存在は近いうちに死に至る。こんな静かな場所で、看取る者さえいないまま。ひっそりと命の灯を消していく。

 

「それは……嫌だな」

 

 その終わりはとてもじゃないが、良いものであるとは言えない。俺はその卵の中にる相手を純粋に憐れんだ。もし自分の最期が同じ結末を迎えるならばと想像するだけで辛くなる。

 

 今が危機的な状況だということは分かってるはずなのに、奈落に落ちてまでも人間らしい甘さを捨て切れていない俺は考えてしまった。

 

 この正体不明のナニカを助けたいと。

 

 正常な判断でないのは分かっている。ただでさえ俺の命も危険なのに誰かを助けるほどの余裕がないというのも理解している。

 

 それでも俺は見て見ぬふりをして、見捨てることなどできなかった。

 

「しかし……助けるにしてもどうやったらいいか分からん」

 

 白崎のように高度な回復魔法は使えないし、あの卵からどうやって出すのかが分からない。そもそも前提として魔法で回復するかどうかも不明だ。ぱっと思い浮かんでくるアイデアはない。

 

「とりあえず触ってみるか」

 

 ちょっと……いや、かなり脈打つ球体というのは気持ち悪いが、まずはソレに触れてみることにした。直接触ることで何かが分かるかもしれないし、運良く何かイベントが起きてくれればラッキー程度の気持ちで俺はそれに触れた。

 

 よくよく考えてみれば、どこからどうみても危険物なソレに触ろうなんて迂闊な行動を取った俺はよほど頭が回っていなかったことは間違いない。

 

「ぐっ……うあああああああああああああああああ!!!!」

 

 卵に触れた途端、とんでもない勢いで俺の気が吸い取られていく。その吸収速度はあまりにも早く、ようやく半分程回復した俺の気がものの数秒で一割にも満たないほどになるまで奪われていった。

 

「クソがあああああああ!!」

 

 このままではまずい。

 じっくりと長考するわけでもなく、それを察した俺は自分から手を離すわけではなく、反射的に卵に蹴りを入れ、無理矢理突き離した。

 

「はあ、はあ、はあ、はあ……クソッ! なんだよコレ!」

 

 直接触れていた手が離れたことで、これ以上の気が吸収されることは無くなった。だか、もうすで残りの気はカス程度にしか残っていない。だんだんと意識も朦朧とし始める。

 

「マジかよ……こんなところで死ぬのか?」

 

 こんな情けない死に方をしてたまるかと、無理矢理にでも意識を保とうとするが、肉体の方が先に限界を迎える。体に力が入らなくなり、薄れゆく意識の中、俺が最後に見たものは……

 

「ブウーーーーーッ!!」

 

 2つに割れた卵の中からピンク色の煙と共に現れた丸々太った人型のナニカだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仁が意識を失った後、宇宙船のような部屋では封印から解放された魔人が一人ただただ困惑していた。

 

 封印が解けたことにではない。封印されていた魔人は目が見えなくとも、耳が聞こえなくとも、思考を封じられようとも、誰かが封印を解こうとしているのは感覚で分かっていた。だからこそ、復活したこと自体にそれほど驚きはない。

 

 魔人が困惑している理由というのは単純なもので、自分を復活させた相手が何故か死にかけているからだ。

 

「おい、おまえ。大丈夫か?」

 

 当然だが返答はない。すでに仁は意識を失っている。それに加えて体もかなり弱っている。恐らく数分も経てば死に至るだろう。復活したばかりで未だに状況を把握しきれていない魔人であったが、『その人間を死なせてはいけない』そんな言葉がいきなり頭の中へと流れ込んだ。

 

 自分の身に何か異常が起きているのは分かったが、ひとまずは聞き覚えのあるようでないその声に従い、目の前で倒れている仁を回復させるため体に触れる。

 魔人は相手に直接触れることで体力を回復させる()()が使えた。それによって仁を助けようとした魔人だったが……

 

「………………うん?」

 

 仁の体には何も変化は起こらない。

 

「治せない……」

 

 それもそのはずで、今の魔人は復活したばかり、なおかつ完全な状態じゃない。もし完全な状態で復活していたならば倒れた仁を癒すことぐらい造作もないだろうが、今の不完全な魔人ではそんな簡単なことすらできない。

 本来、魔人は必要な量のエネルギーを提供されることで封印から解放される。だが今回の場合はそうじゃない。本来必要な気の量の4分の1にも満たない程度の気が与えられたことで眠っていた魔人が目覚め、卵が転がる程度の衝撃が与えられたことで運良く復活できただけにすぎない。つまりはただの偶然だ。

 

「困った。これじゃあ治せない」

 

 こうなってしまってはいくら魔人といえどお手上げだ。はっきり言って魔人もこんな状態で復活させられたことにはかなり不服だった。誰だって自分の本来の実力が発揮できなければ気分は良くない。それが他人のせいならば尚更だ。

 

 そうはいっても、目の前の人間が死んでしまったら苦情を言うことすらもできない。魔人はなんとかして助ける方法がないかを考える。回復以外の方法で死にかけの人間を助ける方法。

 

「あっ! オレ、いいこと思いついちゃった!」

 

 その瞬間、魔人の脳……脳があるのか分からないが、とりあえず脳を働かせた結果、とある名案が思い浮かぶ。ぶっちゃけ名案というより迷案といった方が正しいのだが、とりあえず方法は思いついた。

 

「おまえ、吸収してやる!」

 

 そして魔人は自分の体をアメーバ状に変化させると、気絶している仁の体を包み込むように取り込んだ。




やっとこのピンク色の魔人を登場させることができました。

個人的には【純粋悪】の方が好きですが、そっちだと主人公が死んじゃう気がしたので、【善】の状態で出てきてもらいました。
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