ピンクの魔人と共に   作:クー(無課金勢)

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今更だけど、
本当に不定期更新だから、もしかしたら活動報告とかで事前告知した方がいいのかな?
それかもしくはXのアカウント作って……。

求められたらやればいいか。……求められたら。


もう一人の自分

「……クリアおめでと。祝いだ、飲め」

「ありがとう……って言いたいとこけど、このコーラは一体どこから?」

 

 巨大迷路の終着点にある巨大な扉。その付近の壁に背中を預けていた仁は、何故か持っていたコーラ缶の蓋をプシュッと指で開け、フロストゴーレムの討伐に成功した雫へ差し出した。『また異世界らしくないものが出てきた……』と思いながらも雫はそれを受け取り、一口飲んでから仁の隣に座り込む。

 

 相当激しい戦いだったのだろう。雫は体中に傷を作り、荒くなった呼吸を整えている。そんな雫の状態に気付いた香織が"治癒魔法"を施すために駆け寄ろうとするが、それに気づいた雫自身がその行動を無言のまま手で制した。

 

 どうやら、『仁に治してもらうから平気』という意味らしい。そしてその意図に気づいた仁も横で肩を竦めて同意を示すと、香織は大人しくハジメの隣をユエから奪うため戦場へと舞い戻るのだった。

 

 唐突に、仁が呟く。

 

「あ、それオレの飲みかけな」

「ぶふっ」

「くっ、くくっ……嘘に決まってんだろ。というか、蓋開けるとこ見てたじゃん」

「あ、あんたねぇ~!」

 

 噴き出す雫から仁は顔を逸らして笑うのを必死に堪える。(まったく我慢できてないが)

 

 大迷宮でもいつも通りな仁に、雫は少しだけ恨みの籠った視線を向けるも、すぐに困ったように笑みを浮かべて体の力を抜いた。そんな雫の脳裏には、かつての仁との思い出が思い起こされていた。

 

 少なくとも小学生時代の仁はこんな冗談を言うような性格ではなかった。光輝や雫の後ろをただひたすらに追いかけて、何か困ったことや嫌なことがあればすぐに泣きついてくる。それが子供の頃の仁だった。

 

 だがある事件をきっかけに、仁は変わった。弱音を吐くことも、誰かを頼ることもなくなり、代わりに、いつも貼り付けたような薄っぺらい笑顔を見せるようになった。それが雫にとってとても恐ろしかった。あの顔を見る度に、本当に彼はあの仁なのか? という言葉がいつも脳裏を過った。

 

 でも今は違う。雫はあの時の真相こそ知らないが、仁が雫を想って行動してくれたことを知っている。それになにより、今の仁は本心からの笑みを浮かべていた。

 

 嘘も貫き通せばなんとやら、とかいう奴かもしれない。肉体が魔人ブウのものになったことでア少々性格が歪みはしたものの、今の欲望に忠実な仁の方が日本にいた頃の彼よりも雫は気に入っていた。

 

 だからこそ、雫の方も自然と笑みが零れてしまう。仁から治療を受けながら、下らない雑談に花を咲かせる。そんな何気ない時間が彼女にとっては幸福だった。……心の奥底にある、未だ満たされないナニカに関しては見て見ぬふりをして。

 

 そんな二人の様子を、少し離れた場所で女子達に囲まれながら眺めていたハジメは感心するような、もしくは面白がるような笑みを浮かべる。

 

「へぇ……いい感じだな」

「うんうん、雫ちゃんと仁君は昔から仲いいからねぇ~」

 

 悪い悪戯を思いついた子供のようにニヤつくハジメとほっこりとした微笑みを見せる香織。二人の視線は、なかなかに良さげな雰囲気を漂わせる仁と雫へ向けられている。香織はまあ仕方ないとはいえ、どうやらハジメの方も友人の恋愛事情に関して興味があるらしい。

 

 そして二人の関係性に興味を抱いたのは、ハジメと香織だけではない。

 

「ふむ。あれではくっつくのも時間の問題かのう?」

「……気に入らない。告白してみっともなくフラれたらいいのに」

「ユエさん……せめて形だけでも応援してあげましょうよぉ……」

 

 ティオ、ユエ、シアの三人も、方向性は違えど意味ありげな視線を二人に向けていた。

 

 ユエにとって、雫は仲間であっても仲が良いと呼べるほどの関係性ではない。だから別に彼女が誰と恋仲になろうが、その相手がハジメでない限りユエには関係ない話のであるはずなのだが……それはそれとして、世間一般的に見て超美人である雫が仁のような気に入らない男とくっつくのは気に入らなかった。

 

 ユエはその優秀な頭脳を使って計画を練る。雫をハジメに寝取らせる計画を。

 

「ん?」

 

 その時、

 

 ゴゥ!! と凄まじい魔力の奔流が天を衝いたかと思えば、絶大な威力を秘めた光の砲撃が真っ直ぐ()に突き進んできた。

 

 すぐに仁は雫を後ろに下がらせると、特に焦った様子も見せず、地面を抉りながら近づく光の奔流を片手で摘まみ取る。それだけで光の砲撃はガラスを割るかの如く砕け散った。

 

「光輝!」

「天之河の奴……後先考えずにぶっ放しやがったな。学習しない奴め」

 

 今のが詠唱省略版"神威"であると察した雫が、思わずと言った感じで声を上げ、仁も砲撃の飛んできた射線上にいる光輝を見つめて呟いた。光輝の顔は再び見当違いの方向に飛んでいった己の攻撃を見つめ、分かりやすく青ざめている。

 

 光輝に限らず、フレンドリーファイアーの標的は何故か仁に固定されていた。それでも今まで一度も攻撃が飛んで来なかったのは、ハジメを除き、誰もが味方を攻撃することを恐れて近接技以外を使わなかったからだろう。

 

 ただここに来て、光輝は切羽詰まった状況を打開すべく賭けに出たのだ。まあ、その賭けは()()()()()で負けてしまったようだが。

 

 とはいえ、"限界突破"を使った今の光輝ならば数分もしない内にフロストゴーレムに勝てるだろう。雫は今にも救援に駆けて行きたそうな雰囲気だが、一人に対し一体のゴーレムという分かりやすい試練攻略ノルマがある以上、そう簡単に手を出すわけにもいかない。

 

 続いて、仁は光輝から視線を外してフロストゴーレムと戦う鈴と龍太郎の方を見る。仁が一度疑似太陽を破壊してから大分時間は経ったが、その間に疑似太陽は何度か復活したものの、その度に仁が破壊されているため視界は未だ良好だ。

 

 鈴と龍太郎はどちらも苦戦していた。しかし鈴は自分とフロストゴーレム両方を"聖絶"で閉じ込め、自分の身を守りつつ炎系魔法を組み合わせた聖絶で敵を溶かすという持久戦に持ち込んでおり、龍太郎に関しては何故か武器を捨てたフロストゴーレムと素手で殴り合っている。そう、まるで川辺で殴り合う不良同士のように。

 

 ハジメは「阿保がいる……」と困惑し、仁は「ああいう馬鹿は嫌いじゃない」と楽しそうに笑みを見せる。そして香織と雫は呆れ顔のまま何も言えなかった。恐らく、この後龍太郎にはキツイ説教が待ち受けていることだろう。

 

 それから数分経過し。まず最初に光輝が"限界突破"の副作用により酷い倦怠感に耐えながら聖剣を杖代わりにして歩いて来た。次いで鈴がクリアし、雫が急いで迎えに行く。そして、最後にフロストゴーレムを倒し切ったものの一人、満足気な顔で血の海に沈んでいた龍太郎は仁が"念力"で回収した。

 

 そうして全員が出口前に集合したからか、頭上で再び再生しようとしていた太陽がフッと姿を消す。そして、出口となるはずの巨大な門が、クリアを示すように燦然と輝き出し、開くのではなく光の膜を形成し始めた。

 

「どうやら、この光の膜が出口になっているようだな」

「魔力の流れからして、転移の魔法が刻まれてるな。またハルツィナの時みたいに飛ばされるとかだろ」

「……ん、ゲートに似てる」

 

 仁とユエが門の解析を終えると、シアが憂鬱そうにウサミミを垂らした。どうやらただでさえ精神責めという鬱陶しい試練に加えて、あまり良い思い出のない【リューティリス大迷宮】でのトラウマを思い出してしまったようだ。

 

「……風磨……俺の攻撃が……悪い」

 

 その時、香織から治癒を受けていた光輝が暗い雰囲気でポツリポツリと呟く。

 

「まっ、悪いっていう自覚があるだけ成長だな。じゃあ無理だと思うけど、次は気をつけろよ。オレの機嫌が良いうちは許してやる」

「……そうだな。俺の"神威"が飛んできたはずなのに、お前は汚れ一つついてない。何をしても、お前には痛痒一つ与えられない。だから、俺は……」

「光輝、大丈夫なの? 何だかおかしいわよ。"限界突破"の副作用、そんなに辛い? 少し横になる?」

「……」

「やっぱ許さない方が良かったか?」

 

 本当に心の底からなんとも思ってないという感じで欠伸をする仁に光輝は自嘲じみた言葉をこぼす。そんな光輝に、雫は心配そうに声をかけ、横になるなら膝を貸すと行動で告げるが、彼女は気づかない。真後ろで仁が見たことのない嫌そうな顔をしてることに。

 

 しかし、当の光輝は、そんな雫の気遣いにも仁の怒りの視線にも気づかない。まるで何か恐れるようにチラリと雫に眼差しを向けた後、直ぐに逸らした。

 

 首を振って不要を伝え、それから瞑目する光輝。だが、瞑目する直前、仁が感じとった殺意に近い憎悪の感情はきっと、勘違いではないだろう。

 

「なるようになる……かな?」

 

 その仁の呟きは、誰にも届かなかった。

 

 しばらくして、全員の回復がある程度終わった頃合いで一行は光の出口へ進むことにした。完全回復とまではいかないが、それでも囁き声が続くこの迷路内にいて精神をすり減らすよりはマシだろうという判断である。

 

 そうしてハジメの言葉と共に、全員は光の門へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界を埋め尽くした光が収まると、オレはゆっくり瞼を上げる。

 

「……一人、か。まあ、想定の範囲内だな。あいつらならなんとかするだろ」

 

 辺りを見渡すが、ハジメ達の姿はない。ゲートが時点でそんな気はしてたがやっぱりオレ達は転移の魔法のバラバラにされちまったらしい。まだ気の探知で感じられる範囲に全員いるのが唯一の幸運だろう。

 

 今、オレがいる場所はミラーハウスのような細い通路だ。左右、そして背後に道はなく前にしか道はない。どう考えても罠な気しかしないが、オレは一度大きくため息を吐いてから先へ進むために歩き出した。

 

 分かれ道の一切ない道を大体十分くらい歩いたあたりだろうか。やがてオレは中央に天井と地面を結ぶ巨大な氷柱のある大きな部屋に辿り着いた。鏡のような氷壁と同じで、円柱型の氷柱もよくオレの姿を反射している。

 

「いかにもなボス部屋だな……よし!」

 

 頬を両手で叩き、気合いを入れてから氷柱に歩み寄る。すると当然だが、鏡の奥の世界から反射して映ったもう一人のオレもこちらに近づくように歩いてくる。なんというか、実に奇妙な感覚だ。目の前の氷柱に映る自分にどうしても違和感を感じてしまう。

 

 とうとう氷柱に触れることが出来るくらいまで近寄ったオレは、ジッと氷柱に映る自分を見つめる。ピンク色の肌だが整った容姿に大きな目、髪なんかほとんど手入れをしてないのに常にリンスをかけたかのように滑らかだ。地球であればきっとモデルとかアイドルをやれててもおかしくない。

 

「うん。今日も可愛い」

 

 首の角度を変えたり、クルリと回ったりしながら自分の姿を色んな方向から観察していたオレはついそう呟く。そして自分が発した言葉の意味を脳内で租借し、なんとも言えない感情に襲われた。

 

「……」

『いや、いいのそれで?』

「うるさい! 聞かなかったフリしろよ、そこは!」

 

 反射的に、突然聞こえた聞き覚えのある声に言い返す。視線の先にいたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()。そう、今オレに声をかけたのは鏡の中のオレ自身だった。

 

『え、えぇ……まったく驚かないし。そんな反応じゃ全然面白くないよ、()

「そう言われてもな……。結構予想できた展開だし。だってあんだけヒントがあったんだぜ。気づけなかったらあの生意気吸血鬼にも笑われちまうよ。というか、その一人称やめてくれない? なんか滅茶苦茶ムズムズする」

『え、ヤダけど。嫌なら力ずくで黙らせてみなよ』

 

 オレの偽物が敵として立ちはだかってくる。これは別に驚くことじゃない。予想できた話だ。

 

 ここまで試練を受けてきて、この大迷宮が"自分の弱さを乗り越えること"をテーマにしてるくらいは分かった。そこに加えて、大迷宮を進んでる最中、天之河が『鏡の中に映る自分が笑った』なんてふざけたことを言い出しやがったんだ。あいつのことだから強い被害妄想の可能性もあるが、別に鏡の世界から自分が殺しにかかってきたってこの大迷宮なら不思議じゃない。

 

 敢えて言わせてもらおう。初歩的なことだよ、ワトソン君。

 

 それはそれとして、目の前のオレを見ているとなんかムクムクと殺意が湧き上がってくる。言っちゃあ悪いが、これはもう動いて喋る黒歴史だ。八重樫やハジメに見つかる前に一秒でも速く始末するとしよう。

 

「だったら早く出て来いよ。一瞬で終わらせてやるから」

『うーん。今の君じゃあ無理だね。僕には勝てない』

 

 すると、挑発を軽く流した鏡の中のオレが突如豹変する。その目が赤黒い光を放ち始め、全身が黒く染まり始めた。白髪は黒色に、ピンク色の肌も灰色に、服の色まで全て漆黒を基調にしたものへと変わっていく。

 

 なんというか、オレよりちょっとカッコよくない?

 

『君は僕だ。攻撃のタイミングも、戦闘スタイルも、使う技も……全部僕には手に取るように分かる』

 

 ニヤつきながらもう一人のオレが鏡の世界から足を踏み出す。そして波紋を広げながら全身を氷柱からズズッと現世へと出現させた。そこでやっと気づいたが、驚くことに見た目だけじゃなく気までオレと同質だった。想定以上の再現度にオレの口元は楽し気に歪んでしまう。

 

「顔や形だけじゃなくて力も同じ……。厄介だが、これ以上の修行相手もいないな。自分と同じ戦い方をするってことは、オレの弱点も知れるってわけだ。つまり、おまえを倒した時、オレは今の自分を超えたってことになる」

『そう考えるんだ。また随分とポジティブだね。でも忘れてない? その条件はこっちも同じ。しかも僕には()()()()()()()()がある』

 

 オレは鏡から現れたもう一人のオレと向かい合うように立つと、コートを脱ぎ捨て、気を解放する。破れたりしたら困るからね。

 

「だろうな。そうでなきゃ張り合いがない。さあ、おまえにはオレが更に上に行くための踏み台になってもらうぞ」

『出来るものならやってみなよ、風磨仁。君は()に勝てるかな?』

 

 同時に、もう一人のオレも同じように着ていた漆黒のコートを脱ぎ捨て、気が爆発的に膨れ上がった。そしてオレ達は、鏡合わせのようにまったく同じ構えを取る。オレ達の気が衝突し合い、その衝撃だけで周囲の壁に大きな亀裂が入っていく。

 

 直後、オレともう1人のオレは全く同じタイミング、まったく同じ動作で地面を蹴った。一瞬のズレすらなく動いたオレ達は瞬きの間すらなく距離を潰し、お互いの肘がぶつかり合う。

 

「はぁあああああ!!」

『はぁあああああ!!』

 

 まるで鍔迫り合いのように衝突したオレ達だったが力は互角。すぐに互いに距離を取り、息つく暇もなく再び衝突した。

 

 交差するように拳と拳がぶつかり合い、振り返りざまに振るった膝がまた衝突する。お互いのパワーが同じ以上、どちらかが押し負けることもない。オレはもう一人のオレは掌を掴み合い、力比べの姿勢へと入ったかと思えば即座に腹を蹴り上げられ、空中へと吹き飛ばされる。

 

 戦場を空中へと移したオレ達はお互いに叫び声を上げながら零距離で再度殴り合いを続けるが、どちらの攻撃も精々掠める程度で決定打には届かない。だがほんの一瞬、ムカつく顔を殴ることを意識してしまったからだろう。その動きを読まれ、逆にオレの顔面に拳がヒットした。

 

 偽物とはいえオレの力だ。その威力はこれまでの魔物なんかとは比にならない。勢いよく吹き飛ばされ、その射線上に先回りしていたもう一人のオレに踵落としで叩き落とされる。だがオレは地面に叩きつけられるスレスレで体勢を立て直し、追撃を仕掛けてきたもう一人のオレの顎を蹴り上げ、腹に零距離からエネルギー波を浴びせた。

 

 吹き飛んでいくもう一人のオレを追って跳躍、蹴りを入れようとしたが、クロスさせた腕にガードされ、返しに膝が飛んでくる。確実に腹を狙ってきたそれを腕で掴むようにして受け止め、逃げられない状況にしてから口からエネルギー波を放つも、同時に目から発射されたビームに相殺されてしまう。

 

「バラバラにしてやるよ!」

『だったらそっちは三枚おろしかな!』

 

 オレが腕にサクラブレードを纏うと、鏡合わせのようにもう1人のオレも漆黒のサクラブレードを纏う。そして今度は拳ではなく気の刃同士による白兵戦が始まった。

 

 オレの突きを体を横にズラして躱し、横に振るわれる刃を上体を逸らすようにして躱す。攻撃しては躱され、躱しては攻撃に移る。それを何度繰り返しただろうか、いつしかオレ達の戦いは周囲の空間にまで影響し、サクラブレードを振るうと同時に発生する気の斬撃によって壁や天井、床といったあらゆる場所が秒単位で切り刻まれ続けていた。

 

 その最中、互いのサクラブレードが衝突し合い、そのどちらもが砕ける。そしてそれと同時に、お互いの身体中の皮膚が裂け、パクリと割れた。

 

『……やるね』

「そっちもな。思った以上だ」

 

 お互いに笑みは崩さない。まだオレ達にとって、この程度はウォーミングアップに過ぎないからだ。オレ達は再び距離を取って向かい合う。そしてギア一段階上げるかと、オレももう一人のオレも静かに、だが激しく気の増加させていく。

 

『凄い気だ。まさに最強の名に相応しい。でも君だって分かってるんだろう? その力は本来魔人ブウのものだ。君は彼の力を勝手に使ってるだけであって、君本来の力じゃない。凄いね、他人の力で戦っておいてそこまで強者面できるなんて。あまりに面の皮が厚すぎて尊敬する気持ちすらあるよ。というより、そもそもその力って――』

「あ、そういうのいいから。さっさと続きやろうぜ」

『……』

 

 これから本番って時に、なんか色々余計なことを語り始めたもう一人のオレにストップをかける。結果、もう一人のオレから物凄く白けた視線が突き刺さってきた。まあ、大迷宮の試練としての性質上仕方ないのだろうが……なんかなぁ。

 

【氷雪洞窟】(ここ)のコンセプトはなんとなく分かってる。そこから考えれば、今回の試練はただ自分自身と戦うだけじゃなくて、おまえが精神的な揺さぶりもかけてきて……それに打ち勝てばおまえにデバフが、拒絶し続ければバフが入る。どうせそんな感じだろ?」

『あー……いや、合ってるんだけどさ。いくらなんでも状況把握が早くない? もしかしてオスカー・オルクスの記憶からカンニングでもした?』

「半分そうだな」

 

 オスカーの記憶から、ヴァンドゥルがそういった熱血系の精神論が好みなのは知っている。そこからこれまでの大迷宮の試練を思い出せば、この推測に辿り着くのもそう難しいことじゃない。

 

 そしてなにより、さっき喋ってた時、もう一人のオレは物凄く複雑そうな顔を見せていた。

 

 目の前のオレは恐らくオレが1番弱かった時期。要するに忘れ去りたい黒歴史となった過去のオレをベースに人格が形成されてるはずだ。だったら奴は天之河のような善とか正義とかキラキラしたものが大好きで、人の悪口を言うのにも嫌悪感を感じて、誰かが苦しんでいるのを見ると自分も辛くなる。そんな情けない性格なんだろう。……なんか、自分で言っててイライラしてきたな。

 

 弱く、優しい。そんなオレがあんな顔して、どう見ても嫌々挑発なんかしてきたんだ。そこにはそれだけの理由があると考えるのは当然だろう。まあ、あの様子だと自分がどんな顔してたか気づいてないみたいだが。

 

「ネタが分かった上で。わざわざその揺さぶりに引っかかってやるほど間抜けじゃない。だから何を言っても無駄だ。早く続きを始めよう」

『いやいやいや、悪いけどこっちも仕事だからそういうわけにはいかないんだ。こちらの意図が完全にバレてたとしても、せめて(弱さ)を乗り越えるぐらいはしてもらわないと……』

「……分かった。じゃあなんか適当に言ってみてくれ。そこにオレが反論したら戦おう。それでいいな?」

『なんでそこまで戦いたいの……。我が事ながらよく分からない」

 

 とっくに傷は再生して無傷の状態でストレッチを始めるオレに何やらもう一人のオレはドン引いてる様子だ。見た目は同じだとしても、オレを苛つかせるために昔の人格を持ってきたからだろう。知識の面では納得しているが、感情的な面で追いつけてない。

 

『じゃあお言葉に甘えて……』

 

 そして呆れたような、諦めたような。そんな感じの曖昧な顔を見せてから、もう一人のオレは静かに言った。

 

()()()()()()()()()()()()()

「……」

 

 ……そう来たか。

 

 一瞬、そんな言葉が脳裏を過った。

 

 想定していないわけじゃなかった。いつかはそれを言われるとは思っていたが、それより前に八重樫関連のやらかしについて色々と言われるものだとばかり思っていたから少し意外だっただけ。

 

『おっと、黙ったね。もしかして意外に効いてる?』

「いいや、少し驚いただけだ。まさか()()を選ぶとはな。オレを揺さぶる材料なんていくらでもあっただろ? どうしてそれを選んだのか参考までに聞かせてもらってもいいか?」

『簡単だよ。君に悩みは無数にあるけど、そのほとんどは過去のものばかり。でもこれは……"今"だろ』

「はっ、違いない」

 

 オレがハジメを嫌ってる。

 

 なんとなく、そんな気はしていた。昔と違って、今のハジメは強く、冷酷で、横にいつも女を侍らせている。そんなあいつを見る度、心の何処かに苛立ちが生まれてた。オレはハジメの弱くても最善を尽くして、見知らぬ誰かのために頑張れて、なにより暴力による解決とは真逆のやり方で問題を解決する姿が気に入っていた。一種の憧れに近い、と言ってもいい。

 

 だが今のあいつは……酷いくらいに残酷だ。それでいて以前のような優しさも併せ持つアンバランスさ。そこにオレはどうしようもない違和感を感じていた。

 

 言葉を選ばずに言うと……()()()()()()()

 

 薄々は分かってた。もう、オレの親友であった南雲ハジメは死んだのだと。

 

「悪いな、前言撤回だ。さっきの発言は取り消すよ。その代わり……」

 

 でもそれを認めてどうする。オレだって変わった。今この瞬間もなお、オレは魔人ブウに染まりつつある。そんなオレがハジメを否定していいのか? いいや、いいわけがない。

 

 ハジメがオレに風磨仁として接するのなら、オレだってあいつを南雲ハジメとして扱う。それはもう、決めたことだ。今更止めるつもりなんてない。

 

 だからこそ、オレは敢えてこの大迷宮のコンセプトを()()()()

 

「――その挑発、受けてやるよ。今ここで死ね、模造品!」

「拒絶したな! 風磨仁()!」

 

 確固たる拒絶の意志を胸に抱いて、オレは飛び出した。そして同じように飛んだもう一人のオレとの戦いが再開する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中央に巨大な円柱形の氷柱を構えた大きな空間に、白と黒という同じ見た目であるというのに対照的な色をした二人の男が鏡合わせのように向かい合って立っていた。

 

『……全く、この試練を"乗り越える"のではなく"開き直る"ことで突破する奴がいるとはな。動揺してくれれば、まだ俺の勝機もあったのに』

「馬鹿言うな。最初からお前の勝機なんてない。虚像は所詮、虚像だ。そのムカつく面ごと粉砕してやる」

『自虐だぞ、それ』

 

 二人の男の周りにはつい先程まで争いがあったことを示すように、銃弾や薬莢が至る所に転がっており、あちこちに焼き焦げたような跡が見える。余程激しい戦いだったのだろう。無限に再生するはずの氷の壁が、再生しきれていない。

 

 しかしその決着はもはや、誰が見ても明らかだ。

 

 片や、多少の傷こそあるものの二丁の強力な銃を握り敵へと向けて標準を定め、片や全身傷だらけで手持ちの武器を全て破壊された上に右手と脇腹がそこにはない、まさに満身創痍だ。放っておいても、その内息絶えるだろう。

 

 仁と同じく虚像の自分と戦っていたハジメはまさに今、勝利の時を迎えようとしていた。

 

『お前の勝ちだ。だから最後に、これだけは言っておく』

「そんな時間くれてやるわけないだろ。さっさと逝け」

『おいおい、少しぐらい聞く耳持てよ。まったく、やっぱこういうとこは俺だな。はぁ……仁とのことだ」

 

 最期の言葉なんかに興味はないし、聞こうとも思わない。虚像相手とはいえ、自分自身相手に随分な対応を取るハジメは情け容赦なくドンナーの引き金を引こうとした。しかし、仁の名前に反応して動きを止める。

 

 これまで黒いハジメは"故郷に帰った後のこと"、"変貌した自分"、そして"ユエへ向ける感情"を利用して揺さぶりをかけてきた。実に耳の痛い話ではあったが、『考えたところで無意味』という開き直っただけの結論と驚異的な成長速度によってハジメは黒いハジメを打破して見せた。

 

 しかし、これまでの話の中に仁が出てきたことはなかった。だからこそ、ハジメにしては珍しく()()()()()()()()()()()

 

「言ってみろ」

「こいつは……また随分と分かりやすいな」

 

 つい先ほどまで"今すぐ殺す"、"絶対殺す"という強烈な殺意が向けられていたにも関わらず、親友の名前を出しただけでこの様子。黒いハジメは『こっちの方面から揺さぶりかけるのが正解だったか』と、自身の新たな敗因を知り落胆する。

 

『お前、今の仁のことが気に入らないんだろ?』

「……」

『否定しないんだな』

 

 銃口を向けたまま、ハジメは殺意を増大させる。そこには無遠慮に心を覗かれた怒りが現れていた。

 

『今の(お前)と仁はギリギリだ。ほんの少しでも歯車が狂えばきっと今の関係は壊れるだろうな』

 

 変わり果てたハジメと今もなお徐々に変わりゆく仁。二人は元の関係から僅かにズレ、そのズレは時が経つにつれどんどん広がっていった。それにはハジメも当然気づいてた。以前とは少し距離を置いた仁の態度。そして以前とは違う、仁に対して内から湧き上がるような苛立ち。

 

 それは少なくとも、親友に向けていい感情ではなかった。

 

 それでも、ハジメにとって仁は弱かった頃から南雲ハジメの強さを認めてくれた唯一の親友だった。だからその関係を壊せなかった。正確に言うと、壊したくなかった。

 

 その弱みを正確に見抜いていた黒いハジメは"予言してやる"と続ける。この先もまだ仁と親友としての関係を続けていくつもりならば――

 

『――(お前)と仁はまた戦うことになる。本当の意味で"敵"として、な』

 

 嗤うような、それでいて心配しているような、曖昧な顔を見せた黒いハジメへ向けてハジメは「そうか」と短く返すと今度こそドンナーの引き金を引く。

 

 下半身が吹き飛び、倒れ伏しながら陽炎のようにゆらゆらと揺らいで消えていく黒いハジメ。既に言葉はなく、しかし、その表情はどこか満足げだった。

 

「……」

 

 以降、ハジメは何も口にしない。勝利の余韻に浸ることすらなく、ハジメは部屋の壁から現れた通路の奥へと進んでいった。しかしハジメの耳には黒いハジメの言葉が呪いのようにこびりつき、暫くの間離れることはなかった。




・風磨仁(虚像体)
大迷宮の機能によって生み出された仁の虚像。見た目的には仁の姿のまま髪を黒くし、ガリブウのような肌にした上で、服装を厨二感溢れる黒っぽい感じにした容姿。
性格はわざわざ拒絶させるために敢えて仁が忘れ去りたい子供の頃の性格をしており、一人称は僕、そして口調も多少柔らかい感じとなっている。効果はちゃんとあるようで、対峙してる最中仁は物凄くイライラしていた。
ちなみに戦いの火蓋を切った会話のシーンはドラゴンボールファイターズで天津飯が自身のクローンと戦う時の掛け合いが元ネタ。なんであの人あんな武闘家として完成されてるんだろう?

・まさかの本音!? 仁はハジメが嫌いだった?
もう一人の仁によって突き付けられた仁の本心。まあ仕方ない。これはあまりにも豹変し過ぎたハジメも良くない。
どちらかといえば、嫌いというより気に入らないという方が近いのだが、もう一人の仁は挑発の意味も込めて敢えてそう口にした。

・フロストゴーレム 香織クリア方法
香織「食らえ、一撃必殺魂切断ソード!」
ゴーレム「うわぁ!? あれ、痛くな……ぎゃぁあああああ!!」
大体まあこんな感じ。やっぱり原作の使徒の肉体を得た香織の方が強いが、一応相当な戦力になっていると信じたい。
本当になんでこのキャラは救済したら弱くなるの……扱いずらい。

Q. なんか最後のシーンってハジメにも弱みあるみたいだけど、試練は別に苦戦してないよね?
A. はい。全然余裕です。ハジメは今の自分が仁に対してどう向き合っていけばいいか迷ってますが、それよりもユエの方が全然大事なので仁との関係ですら彼には"些事"の内に当てはまります。
それが分かっていたから、黒ハジメも敢えてそこから揺さぶりをかけるようなことはしませんでした。
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