俺がオレで、オレが俺で   作:よくかんさん

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新ゲサイドの話
ミチルさんには気苦労してもらう。
疲れたOLに好青年の爽やかスマイルがスーッと効いてこれは、ありがたい。


俺がオレで、オレが俺で・2

死を運命づけられた男の激情が、力を持て余した蒙昧な餓狼のその虚ろな生に意味を与えた。

 

『これ以上は持たんぞ、俺の屍を越えてゆけぇええっ……!』

『ッ!……先に地獄で待ってやがれェェエ!!』

 

暗雲垂れ込める浅間山。2つの魂が吼え、物狂おしい戦いに終止符が打たれる。

 

餓狼の駆る紅き翼が鬼の呪に抗う男の命を喰らった。この時、確かに二人には友情があった。

 

魂同士が理解した。

 

言葉など邪魔だった。

 

心と心が、形の違う魂がその刹那に分かち合った。

 

戦えと、抗えと。

 

斯くて、宿命に抗った男は餓狼へ己の生き様を託し、人として死んだ。

 

 

「これで三日目。……流くん、あなたいつ起きるのよ」

 

 竜馬は昏睡状態にあった。

 事は早乙女博士が人知れず完成させた強化型ゲッター炉がゲッターロボに搭載される、その前日に起こった。突如、早乙女研究所に保管されていた鬼の死骸が動きだしたのだ。

 今まで頭部を切断さえすれば復活することはないだろうと思われていた鬼の死骸は、保管されていたその全てがサンプルケースを突き破り、人外の力を揮って補完室を破壊し尽くし脱走した。

 鬼の行動パターンはシンプルだ。鬼は同族を増やすためまず人間を死なない程度の傷を付ける。その傷つけられた人間はまるでゾンビ映画のゾンビのように鬼に変態し、自我を崩壊させ、鬼として活動する。そして一定数鬼が増えたところで人間を虐殺していく。……のだが、今回は違った。

 鬼共は所員に目もくれず、竜馬にだけ狙いをつけていた。竜馬は何故鬼が自分だけを狙っているのか、少し心当たりがあった。もしかしたら過去の世界に跳ばされた時の因縁、あの斃したはずの粘着質で高慢な男、安倍晴明が生きているのかもしれない、と。

 本当に清明が生きているのか、この現代にも来ているのか、そのような確信がある訳ではない。だが、今の所こんなことを出来るのはあの男しかいないのだ。

 

 ――鬼共がオレを狙うってんなら上等だ、相手になってやるぜ。全部まとめて燃やしてやる!――

 

 竜馬は行きあたりばったりな作戦を立てた。自身が囮となって浅間山の中腹まで鬼共を誘い込み、そこを隼人と弁慶にナパーム弾を撃たせ鬼共を燃やし尽くす、というものだ。

 生きていようが死んでいようが摂氏1000℃に耐えられる有機物はない。

 ……本人は「燃えりゃ死ぬ!」くらいの知恵はあっただろう。

 結果、物の見事に竜馬の策で誘い込まれた鬼共はナパームの業火は鬼を地獄に叩き落とした。あるモノは燃え尽き、あるモノは融解し、あるモノは砕けちっていく。行きあたりばったりとはいえ、何はともあれ勝てば良い。竜馬の行動力と野生の勘が勝利した。

 この時、竜馬は業火から身を守るために、強化型ゲッターロボのテスト搭乗時に用意された防護服を着用していた。

 防護服はかなりの重量があり見てくれもあまりよろしくないが、熱にも、衝撃にも、有害な電磁波や宇宙線にだって耐え得る最新の特殊処理をされていた。空気ボンベも搭載しているため、無酸素のフィールドにだって数時間は耐えることが可能だ。ちょっとやそっとの事では着用している人間を傷つける事はない。

 だが唯一、その特殊防護服にも弱点があった。

 灼熱業火の中、最後に残った鬼が断末魔の叫びを上ながら朽ちたかに思われた。だが、鬼は髑髏のみを残し煌々と光ったかと思うと、竜馬に向かって禍々しい紫光を放ち砕けちった。

 その直後、「ぐあっ!?あ、あの粘着野郎……ゴキブリ並みに、しつけえ、よ……」竜馬はその場に倒れてしまった。

 最新科学の粋を集めた特殊防護服の弱点とは、非科学的な『呪』。

 本来なら考えられない呪というオカルティックな要素は、最新科学の塊でさえ防ぎれなかった。

 その後、竜馬は研究所のメディカルルームに緊急搬送され原因不明の昏睡状態と診断された。

 戦闘での外傷はなく、心拍脈拍ともに平常。しかし、脳波だけは妙な波長を表していた。

 ミチルが医療班から受け取った竜馬の診断書にはありきたりの文言が連なっている。要約すれば竜馬の容態は『健康体』だった。細かい異常が見られてもそれが昏睡状態につながる原因として挙げるには憶測の域にしかならず、病態解決の要素は見つけられなかった。

 

「シータ波が妙な表れ方をして、アルファ波の連続した徐波化がみられる。だけど、細かい異常値の結局の原因は不明、ね……」

 

 真っ白い医療用ベッドに眠っている竜馬のその姿は、本当にただぐっすりと惰眠をむさぼっているようにしか見えない。

 ミチルは竜馬の寝顔を覗き込み、湧き上がる不安を消すためにその寝顔についてぼんやりと思ったことを口にした。

 

「寝顔はこんなにあどけなさを残しているのよね。……もし流くんじゃない人格が入ったら、どんな表情見せるのかしら。……なんてね」

 

 独り言が静かなメディアルームに広がる。

 ミチルの顔は疲れ切っていた。少しでも冗談を言って自分をおかしく茶化していないと気がおかしくなりそうだった。

 鬼にナパームを使えばいいと言いだしたのはミチルだった。彼女は自身の研究が早乙女研究所の危機を招いたことに深く気を落とし、生来の勝ち気さを失い自暴自棄になって「全部燃えるなら……ナパームで全部燃えてしまえばいいじゃない」と口走ってしまったのだ。

 それを傍で聞いた竜馬が口を挟み、

『ナパーム?あンのかよここに』

『対鬼用に開発されていたんだけど、非効率だからって開発中止になったものが破棄されないままあるの。ふふ、今までの私の研究って、なんだったのかし……』

『なんだよ、そんなイイもんがあるなら最初に言え!ったく、気が利かねえ女だな。あれか、男を気立てる気も興味もないとくりゃあ、お前、『アッチの気』があンのか?』

『は、はあ!?こんな時に何を言っているのよっ!』

 なんてやり取りが最後だなんて、あまりにも、面目が立たないしいたたまれない。だからこそ、この目の前の男が起きたら一言言い返してやりたかった。

 

「う……達人……」 

 

 その呻きに思わずミチルは手元の診断書を落とすところだった。

 竜馬の意識が回復しだした。前兆もなく急ではあるが回復傾向にあるならば喜ばしいことだ。

 だが何故、ミチルの亡くなった兄『早乙女達人』の名を呼ぶのかが不思議で、当時あれだけ心を痛めたというのに今はもう達人の夢を見なくなってしまったミチルはほんの少しだけ笑えてしまった。

 

「……なんで流くんが兄さんの夢見てるのよ。私なんてもう、去年から兄さんの夢見ていない……」

「達人、さん……」

「え?」

 

 竜馬は苦しそうに身体をわななかせる。呼吸が荒くなり、全身から脂汗がにじみ出した。悪夢障害の過緊張による症状とよく似ている。今、『流竜馬』は脳内の夢のイメージによる高ストレスを受けていた。

 

「ぐっ……あ、ああっ……達人コーチィィイ!!ッは!?」

 

 絶叫とともにベッドから跳ね起きた『流竜馬』は、今まで見ていた夢と今触れるリアルの境目に戸惑いを見せていた。過呼吸気味に息を切らし、周囲を不安げに見渡す。その目の色はいつもの野獣めいた覇気が消失していた。

 

「こ、ここは……」

「メディカルルームよ」

 

 クールに、『流竜馬』が知っている早乙女ミチルらしく、心配していたことを悟らせないよう冷たい女としてミチルは振る舞った。

 

「おはよう流くん。あなたどんな夢見てたのよ、兄さんの名前を呼んで起きるなんて。もしかして、あなたこそ『ソッチの気』があるの?」

 

 やっと言ってやった。ミチルはしたり顔で竜馬を見る。

 ミチルはこれを言ってやりたくて時間を見つけては昏睡状態の竜馬に付いていたのだ。自身も子供っぽいと自覚しているし亡くなった兄をだしに使うのは心苦しいが、ちょうどネタになってくれそうな夢を見ていたのだから使わない手はない。

 さあどう言い返して来るか、第一声が楽しみだった。

 

「……君は、誰だ?」

 

 それは聞いたことのない穏やかな声だった。。

 いつもの攻撃的な黒い上がり目を丸くして、『流竜馬』は落ち着いた口調でミチルに聞いた。

 まるで初めてあった人のように。いや本人が「誰だ?」と聞いているのなら知らないのだ。今の『流竜馬』には。

 ミチルの脳裏に『後遺症』の文字が浮かぶ。昏睡状態から目覚めた場合、意識障害は高確率で発症する。最悪、今の竜馬には記憶喪失の可能性があった。

『ソッチの気』に対して言い返せないための冗談か、本当に記憶喪失か。ミチルは冗談であってほしかった。

 

「ちょっと止めて、記憶喪失なんて昨今ネタにもならないわ」

「ごめん……記憶がぐちゃぐちゃになってるんだ。君を知っているはずなのに、良く……分からない」

 

 心の底から言っているのだろう。竜馬は申し訳ないと眉尻を下げ、しゅんと肩を落とした。だがその姿は『流竜馬』を知っている人間なら絶対に信じられない行動で、意識を失う前とはまるで別人だった。

 しかし、「君を知っているはず」と言っているということは、軽い意識混濁ゆえの混乱が発生していることも考えられる。

 目の前の男は今起きたばかりの病人なのだ。ミチルは気を改めて診断書に追記するため『流竜馬』の意識調査をした。

 

「……ショックが残ってまだ意識が混濁しているかもしれないわね、冗談を言って悪かったわ。私は早乙女ミチル。ここ早乙女研究所の所員で所長早乙女博士の娘よ。あなたは流竜馬、ゲッターロボのパイロット。研究所のお抱えパイロットね。早乙女研究所は主にゲッター線の研究をしているわ。……どう?この情報で少しは思い出したかしら」

「……ああ、思い出してきた。君は早乙女ミチル。俺は流竜馬……そうだ、仲間にはハヤトとベンケイがいる。ゲッターロボは早乙女博士が作った3体のゲットマシンからなるロボット……で、間違ってないだろ?」

 

 口調はさっきよりしっかりしている。というより、しっかりしすぎているくらい答えられている。少々言葉が固いのが引っ掛かりはするものの、この応答なら数時間で元の竜馬に戻るだろうとミチルは判断した。

 となれば、後の面倒は残りのゲッターロボパイロットに任せるのが賢明だ。同性とのコミュニケーションのほうが竜馬も気楽になり、回復もより早くなるだろう。

 

「そうよ、それだけ言えるなら大丈夫そうね。じゃあ私は神くん達にあなたが起きた事を伝えに行くわ。じゃ」

「ああ。俺を診ていてくれてありがとう、『ミチルさん』」

 

 にっこり。そんな擬音がよく似合う、なんともまばゆい太陽のような好青年の笑顔。

 きっと初めてその笑顔を見てしまったら誰もが心を許し、恋を知らない乙女は頬を染めてときめいてしまうに違いない。だが、それを医療用ベッドの上にいる男がしているというのが問題だった。

 どこにそんな精悍さがあったのか、あの『流竜馬』が心からにこやかに笑っているだなんて、ミチルはそのあまりにも見合わない表情に不快な虫を見つけてしまった時にしてしまうような悲鳴を上げそうになった。

 

「……待って。あなた本当に意識回復している?」

「え、どうしてだい?」

「そんな殊勝なこと流くんが言うはずないからよ」

「ひどいなあ、そんなに不真面目かな俺って」

「だから、いつもの流くんはそうは言わないの……」

 

 ぞわあ〜……。ミチルの全身に鳥肌が立った。

「~~だい?」に「~~なあ」。挙句に「~~かな」。なんとも爽やかに、テレビドラマの俳優の口からしか聞いたことのない言葉をこの男が言いのけている。

 どうしたっておかしい。どう考えたってありえない。ミチルはまるで解離症患者を相手にしているような認識の大きなズレを感じた。

 そもそも、ミチルは竜馬が夢にうなされていた時から小さな違和感を持っていた。自分や兄の達人をさん付けで呼び、言葉遣いは若者らしさの残る丁寧なもの。表情は本来のあどけなさを遺憾なく発揮する人好きのする顔を見せ、そして何よりも『流竜馬』がいつも纏っている雰囲気と違う。

 やはりあのうなされていた夢に原因にあるのだろうか、それとももっと他の要因なのか。どこか触れることを憚らせる竜馬の夢の内容に、ミチルは恐る恐る踏み込んで聞いてみた。

 

「ねえ、流くん。あなたさっき起きる寸前に私の兄さんの名前呼んだんだけど……その時『達人コーチ』って言ったの、自覚している?なんでコーチなの」

「自覚もなにも……達人さんは俺のサッカーのコーチだったろ?」

 

 何を当たり前な。そう言いたげに『流竜馬』は至極当然とした顔をして、そして深く懐かしむように話し始めた。

 

「コーチは恐竜帝国の攻撃で亡くなってしまったけど、俺にとっては今でも大切な思い出の人さ。いやもちろん、ミチルさんと元気ちゃんにとって達人さんは俺が思う以上の大事なお兄さんで……ん?どうしたんだいミチルさん。俺、何か間違っているかな」

 

 ――サッカーのコーチ?恐竜帝国?私には兄さんしか兄弟がいないことは流くんも知っているのに。見当識障害……にしては『設定』があまりにも突拍子がないわ――

 

 目の前の男はまるで夢の中にいるようなことを語る。兄の達人はサッカーのコーチで恐竜と戦って死んだなんて、荒唐無稽でアクロバティックにも程がある。

 この男は『流竜馬』ではあるが、自分の知る『流くん』ではないのだと、ミチルはそんな気がしてならなかった。

 精神的に安定している今の彼に、自分の知る真実を伝えるのは気が咎めた。しかし、意思確認のためにも言わなければならない。

 

「……兄さんを殺したのはあなたよ」

「え?」懐かしい記憶に思いを馳せていた『流竜馬』の顔がぴしりと凍り付く。

「鬼に成った兄さんをあなたがゲットマシンで殺したの。あなたは、ゲッターロボで鬼と戦ってきた。恐竜なんかと戦った事なんてないわよ」

 

『流竜馬』がミチルの言葉に絶句する。信じられないと言うような驚愕した表情を貼り付け、そんなことあり得ないと動揺を隠せないでいた。

 ああ、彼は違う。私の知っている『流竜馬』ではない。そう、ミチルはどこか納得した。

 そもそも現実に鬼がいて、呪があって、時空を越えることさえもできるのだ。今、『流竜馬』にオカルト的なことが起こっていたとしてもおかしくない。

 

「俺は……ミチルさん俺は……ううっ」

 

 不安と痛みに耐えてるのだろう。『流竜馬』はうずくまり、頭を抱え小さく呻いた。この病状を調べれば今の『流竜馬』に合致したものが見つかるかもしれない。しかし、それは『流竜馬』が抱える真実じゃない。

 その耐え忍ぶ姿をミチルは放っておけず、思わずその背を撫でさすり目の前の青年を安心させるよう柔らかい声音で話した。

 

「大丈夫よ。あなたが落ち着くまでいてあげる」

「……何故だ?何故、俺の記憶はミチルさんの知ってる俺と違うんだ……?」

「焦っても答えはでないわ。待ってて、今リラックスできるよう医療スタッフに頼んで飲み物もらってくるから」

 

 ――放っておけないでしょ、こんなに苦しそうにしていたらさすがに心配になるじゃない――

 

 黒平安京や女の源頼光、鬼を操る安倍晴明がいるのが今の現実なのだ。もう何があっても驚きはしないと、ミチルは自分の知らない『流竜馬』のために飲み物を取りに行った。

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