いっぱい新ゲの竜馬に呪詛吐きまくってる真っ最中。
そんな事してるから回復が遅れてる。
帰還したゲットマシンから降りたリョウは、ハヤトとベンケイに対して抑えきれない憤りの感情のまま言葉を荒くして声を張り上げた。
「オイ隼人、弁慶!なんなんだよさっきのは。もたついて鬼を逃がすたア、その目ン玉は飾りかってんだ!」
百鬼ロボを逃したのが相当腹に据えているのか、リョウは晴れない怒りを振り撒いた。それを聞いたハヤトは怪訝そうに眉をひそめ、目を鋭くする。
「もたついていたのは悪かったよ。だがな、そうだからって俺たちのミスに漬け込んで怒り散らすなんざガキのするこったろうが」
確かにハヤトはリョウの変化には戸惑った。しかし、こうも野犬の様に噛み付いてこられると、先ほどのリョウへの心配はイライラとした心境へと変わっていった。
「またガキ言いやがって!」
「ハッ、違わないだろ」
「おいおい、二人とも今は止めとけってば!」
少し離れて事を見ていたベンケイが二人に駆け寄って割って入る。顔にこそ出していないが内心はなんでリョウがこうも怒りっぽくなってしまったのだろうかと、その殺伐とした雰囲気に半ベソをかいていた。
「なあ、落ち着けって。ハヤト、そりゃあ俺もカチンとくるよ。でも今のリョウは普通じゃない……」
「ああん!?今の俺の何処が普通じゃないってんだよ!」
「あ~もう!ややこしくなるからちょっと待ってくれよお!」
ベンケイはその恰幅のいいガタイを小さくして、リョウの噛みつ付くような声からできるだけ身を守るように、離れられるようにした。
戦うときは勇敢なのだが、普段温厚な性格のベンケイはそんなイガイガとした耳に痛い言葉は勘弁だったし、何より喧嘩が大嫌いだ。二人の喧嘩をなんとかして止めさせたい、その一心だったのだが……どうも雲行きは一向に晴れる気配はない。
「だからハヤト、お前はリョウと付き合いが長いから許せない気持ちが強く出てるんだろうけど、ここはグッと堪えてさあ……」
「百鬼の催眠波でそんなガキ臭い性格になるなんてな、お前の精神力を過信した俺が馬鹿だったぜ」
ハヤトはベンケイの言葉を無視してリョウを向こうに回して皮肉を吐いた。初めてあった頃ならば面倒事は無視を決め込む事もしただろう。しかし、今はリョウとの友情が出来上がってしまっている。楽しいと思えば喜びを共有して、気に入らないと思ったら口も手も出す。
もはや、『グッと堪える』事の出来ない友情を結んだ間柄なのだ。
「突っかかるじゃねえか隼人。でも、ニヒルぶってる最近のツラよりよっぽど男前だぜ、ええ?」
「……ちっ」
一触即発。両者の間に怒りの火花が散った。
リョウとハヤトは互いに腕を構え、一瞬にしてピリピリとした緊張感が走る。もうこうなったら誰も二人を止めることはできない。ベンケイは「あっちゃあ〜……」と頭を抱え、今から起こるだろう喧嘩の成り行きを見るしかないと諦めた。
実のところ、ゲッターチームの中で怒ると面倒なのは意外にもハヤトなのだ。一度怒りに燃えると誰が静止しても意地を貫く性格が止まらず、持ち前の冷静さを欠いてしまう。
リョウはハヤトの怒り顕にして燃える瞳に思わぬ物を見たとヒュウと口笛を吹く。
「へへ、やる気か。オレもな〜んかさっきから色んなのがしっくり来ねえんだよ。まずは……一番しっくり来ねえ身体を慣らすか!行くぜ隼人ッ!!」
「ぐっ!?」
鋭い正拳がハヤトの胸部の急所、胸尖を狙った。
すんでのところでハヤトが持ち前の反射神経で急所から軸をずらす。ダメージは入ったが、立てなくなるほどではない。
思わぬ本気の拳に焦りと苛立ちで、嚙み締められたハヤトの奥歯がキシリと鳴る。
「おおいっ!!止めろってリョウ!ハヤト!」
「うわっ、どうしたのベンケイさん!?二人とも殴り合いの喧嘩なんて!」
慌ててベンケイに駆け寄ったのは早乙女博士の末息子、元気だった。
元気はリョウ、ハヤト、ベンケイが帰還すると聞いて居てもたっても居られず三人が集合するシート室に来たのだが、まさかリョウとハヤトが殴り合いの喧嘩をしているなど思いもよらず、ベンケイにしがみついて事の経緯を聞いた。
「いやあ、それがね俺にも分からないんだよ……。ゲッターロボに乗ってる最中に突然リョウが性格が変わったみたいに凶暴になってさ、それをハヤトが咎めたらこんな喧嘩になって。もうホント、どうなってんだろうね元気ちゃん」
「聞いたのはぼくなのに逆に聞かないでよぉ~!!」
ほとほと疲れたと愚痴るベンケイに元気はガクリと肩を落とし、「んもう!」とベンケイの脇腹をポコッと小突いた。
出撃前、百鬼からの攻撃を受けたと聞いて一番に心配をしていたのは元気だった。元気からしてみればリョウは家族同然の青年だ。血は繋がっていなくても弟のように可愛がってくれるゲッターチームの面々には家族同等の絆を持っている元気にとって、その絆を失うことがたまらなく怖かった。
『また家族を亡くしてしまう』。そんな不安の思いを抱えてリョウの帰りを待っていた元気は、だからこそ、無事に研究所に帰ってきたリョウに一言「おかえりなさい!」と声をかけたかった。
それが早々喧嘩をしているなんて、元気にとってはまるで冷水を浴びせられたようなぎょっとする光景だった。
そんなベンケイと元気が小さい言い合いをしてる最中でも、リョウとハヤトは拳同士を打ち合っていた。……なのだが、『流竜馬』は拳を振るえば振るうほどに思ったような構えが出来ない事へ段々と強い違和感を感じ始めていた。
――チッ!やっぱ拳のキレがわりぃな。チカラは有り余ってるのによ……!――
例えるなら『自分の身体』ではないような、夢の中で自分でない誰かに成り代わっているような、言いようのない違和感だった。久しぶりに達人のこと思い出してから何となく色んなことがしっくり来なくなった気もする。それに、何故今になって自分は鬼との戦闘中に達人のことを思い出したのだろうかと、『流竜馬』を悩ます疑問が益々増え続ける。
「もう止めてよリョウさん!何があったか分からないけど、今喧嘩してたら百鬼帝国の思うツボだよ?落ち着いてって!」
喧嘩をしている二人を見ていられない元気はベンケイの後ろに隠れながら声を大きくして叫んだ。元気の声に反応したリョウとハヤトの二人は幼い声のする方へと目を向ける。
さもない発端で始まった喧嘩だ。元気に見られたことにハヤトはバツの悪そうな苦い顔をした。それに対しリョウは状況がまったく読み取れないといったあっけにとられた表情をしていた。
「……あん?なんで研究所にこんなちびガキが居るんだよ」
リョウが元気をまるで知らない子供を見るような目で見ている。今度はハヤトがあっけにとられる番だった。
「待て。リョウお前、本気で言っているのか……?」
「はあ?何言ってんだ急に」
何を言っているのかまったく分からないといったリョウの面持ちに今度は距離を置いていたベンケイも乗り出し、ハヤトに与した。
「急に、じゃないだろ!リョウ、元気ちゃんは俺達の中でお前と一番付き合いが長いんだぞ!それなのに……」
「元気?このちびガキの名前か?」
「ええっ?そんな、ぼくのこと……わからないの?嘘でしょ……ねえ、リョウさん!!」
ベンケイの後ろにいた元気がこけてしまうんじゃないかというくらいに勢いよく飛び出し、リョウの下へ駆け寄った。
リョウに忘れられてしまったのだというショックで今にも泣き出しそうな元気の表情に、『流竜馬』はただ複雑に眉をひそめるしかなかった。
「そんな顔されたって、オレはお前のこと……おい、どうにかしてくれよ!お前らはこのちびを知ってんだろ?」
ベンケイに助けを求めるように向けられた目には、もうハヤトに燃やしていた攻撃的な荒々しい感情は消えていた。今は自分の足元にいる子供、元気をどうにかしたい。それだけで頭が精一杯のようだった。
「そりゃあ知ってるよ。……ハヤト、なあもう止めようぜ。元気ちゃんのためにも」
多少は冷静に話を進められるだろうと考えたベンケイはリョウに答えながらハヤトにも話を振った。
「もう喧嘩どころの話じゃねえのは分かるさ。それに、リョウが……いや、『コイツ』が元気ちゃんを忘れちまってるってのが気に入らねえ。さあ、お前にはさっさと医療ルームに行ってもらうぜ」
ハヤトも本来の冷静さを取り戻し、今目の前にいる『流竜馬』へ診察するよう促した。どうもリョウの様子がおかしいとは思っていたが、元気を忘れてしまっているとなれば事は急を要する。
現在の『流竜馬』は想像以上に記憶状態が危うい、となれば本格的な検査を今すぐにでも必要とするだろうとハヤトは考えた。
「……まるでオレが病人だと言いてえみてえじゃねえか」
「元気ちゃんのこと忘れるようじゃ紛れもなく病人だろうよ。ほら、歩け歩け」
ハヤトはさっきの拳のお返しだとばかりにリョウの肩を強めに叩き押す。『流竜馬』はややムッとした顔になったものの足下にいる視線になんとなく引け目を感じ、何も抵抗することなく医療ルームへと連れられて行った。
※
数時間後、リョウの検査は滞りなく終わった。その結果を伝える為、早乙女博士はハヤトとベンケイを所長室に呼んだ。博士のデスクには検査結果と思われるカルテや資料が置かれているが急いでいたのだろう、少しだけ資料が散らばっていた。
「博士。リョウはどうでした?」
「ああ、端的に言えば彼は健康だ。……睡眠中だということを除いてはな」
「睡眠中?」
怪訝な面持ちで疑問を口にするハヤトに博士は「ああ」と相槌を返し、『君の気持ちは分かる』と言いたげな難しい顔をした。
「リョウくんはレム睡眠、浅い眠りについている状態だ。言い方は雑になるが、イメージとしては寝ぼけている状態に近い」
「あれが寝ぼけ?俺は寝るのが得意ですけどね、あんな寝ぼけ方したことないですよ。あれが寝ぼけ状態なんてちょっと変じゃないですか」
何故かリョウの睡眠に対して張り合うようにベンケイが言う。
ベンケイは好きなことを好きなようにストレスなく生活するのがモットーだ。だからこそ、睡眠に対しては独自のこだわりがあり、少々うるさかったりする。
その少しずれたベンケイの発想に少し気が紛れたのか早乙女博士は小さく笑った。しかし、そのおとぼけた発言もデスクの資料が博士に現実を付けつける。
「ちょっと変だったらどんなに良かったか……大いに可怪しいのだよ。ワシも医療班から聞いたときは何を言っているのか問い詰める勢いで聞いた。だがね、そうとしか言えないのだ。これを見てくれ」
「脳波、ですか」
博士がデスクにあった資料を二人に差し出した。それにはうねった線がある一定のパターンで書かれていた。ハヤトがそれがリョウの脳波を表す脳波図だと察した。博士はそうだ、と頷く。
「これが一般的な正常な脳波。で、これが睡眠時の脳波だ。そして今君たちが持っているのはリョウくんの脳波図。比較すると正常な脳波より睡眠時の反応が興奮を示すもの以外、同じだろう?」
「じゃあ寝てる状態ってことなら起こせばいいってことだよな。博士、どうやってリョウを起こすんです?」
ベンケイの言うことはもっともだった。寝ているならば起こせばいい。
「そこなんだが……担当医からすると原因は『わからない』だそうだ。先程、精神や脳の医学トップにも話を通したのだがね……」
「担当医と同じ答えだった、ということですか。百鬼の催眠波がああいう風にしたと思ったんですが」
ハヤトの言葉に博士は深刻そうに頭を振る。その顔には隠しきれない苦悩がにじみ出ていた。
「あれはトリガーに過ぎない。リョウくんを狙った百鬼の催眠波には脳のシナプス伝達物質を抑制したり意識レベルを低下させる作用があるのは確認した。だが、あのように異様な睡眠状態を持続させる作用はない、というのが我々が今出せる答えだよ」
「そ、そんなあ……」
「原因不明、か……。最先端の科学で出した答えがこれとはな。畜生、歯がゆいぜ……」
早乙女博士たちがリョウの回復の糸口を見出せず苦悩しているその一方。『流竜馬』が寝かせられている病室では、件の『流竜馬』が眉を八の字を寄せて来訪者の少年をジトっとした目で見ていた。
「なんだよ、ちび」
「えへへっ。リョウさんをほっておけなくて来ちゃった。あ、これおみまいのくだもの。お母さんに黙ってお台所から持ってきたんだ。みんなにはナイショだよ?」
先程まで『流竜馬』の記憶から忘れ去られた事にショックで沈痛な表情を顔に貼り付けていた少年・元気が、今は人懐こい笑顔を浮かべ『流竜馬』のベット際にある丸椅子に座っている。
遠目から二人を見れば、さながら不貞腐れて悪態をつく兄と遊び半分で見舞いに来た弟、といった感じに見えるだろう。……普段ならばそう見えても何らおかしくは無いのだが。『竜馬』はこの少年の微笑ましい行動に喜びや感謝ではなく「何でいるんだよ……」という疑問しか浮かばなかった。
自分の事を知っていると言う、やっと小学生になったような年の少年。その一つ一つの行動が思いやりから来たものであり、心から『流竜馬』を慕っているからこそなのだと、それは『流竜馬』にもよくわかっていた。
だからこそ落ち着かなかった。早乙女研究所の事やゲッターのこと、隼人や弁慶のことは覚えている。もちろんあの可愛げのない女のミチルやその父親早乙女博士、博士の息子でありミチルの兄であり……自分が殺した達人のことも嫌でも覚えている。だがこの少年ことは、まったく記憶がなかった。
居心地の悪さとまとわりつくような不可解さ、そして理由の分からないじりじりとした焦りが『流竜馬』の胸に渦巻く。こんな年端も行かない子供に気を遣わせるなんて、一体オレはどうしてこうなっているんだ?と『流竜馬』は記憶が曖昧な自分にイライラをつのらせていった。
「ここにいても無駄だぜ、オレは…」
「ぼくのこと、覚えてないんだよね。さっきはガッカリしたけどさ、『生きてるだけで丸儲け』って言葉があるでしょ?きっと何とかなるってぼく信じてる」
それに今のリョウさんなーんかさみしそうだし一人じゃかわいそうだなって思ってね!と、元気は自分の名前通りの溌剌とした笑顔で言った。
しかしその笑顔がどこか無理をしているような空元気に感じて、『流竜馬』はさらに眉間に深いシワを作って訝しんだ。
「チッ……こんなちんちくりんなちびに心配されちまうのかよ」
「でもさみしいでしょ?」
「さあな。もしそうだとしても、男は弱い自分を認めるワケにゃいかねえよ」
「あはは、やっぱりリョウさんだなあ。性格は違くなっちゃったけど、変なとこ意地っ張りでガンコなのはそのまんまだもん!」
またケラケラと元気は笑ってみせる。
正直、『流竜馬』はなんでこんなにもこの少年は笑っていられるのだろうと不思議だった。数時間経ったとはいえ、悲しみで顔をこわばらせる少年の表情が、まだ脳裏に焦げ付くような強いイメージとして残ってる。だというのに、この少年は記憶のない自分に心配かけまいと立派にしているのだ。
アレを知らないコレは分からないと言ってしまうことで、またこの少年をしょげさせてしまうんじゃないか?そんな『いつもらしくない』考えが、おかしなちびガキとして邪険にしていた考えを改めさせ、この少年をほんの少し知ろうとする興味へと変えていった。
「……なあ、ちび。お前って名前、何だっけ」
「元気。早乙女元気だよ」
「早乙女?じゃあお前に兄弟はいるのか?」
「うん、いるよ。お姉ちゃんの早乙女ミチルに、お兄ちゃんの早乙女達人。けどお兄ちゃんは、恐竜帝国に殺されて今はお墓にいるけどね」
達人。『流竜馬』の脳にその二文字が反芻した。自分が元気を知らないとはいえ他の記憶は合っているはずだ。そう思っていた。だか、『流竜馬』自身が持つ記憶と元気の認識に大きな矛盾があった。
「きょーりゅーに殺された?何言ってんだアイツはオレが……達人はオレ、が……あ゛、があ゛あ゛ッ!!?」
脳に浮かぶ2つのイメージが『流竜馬』の意識を切り裂くように、刺さすように、脳の神経を駆け巡る。早乙女達人の死に際を思い出させる。
まるで封を開けるためのキーワードのように、しっかりと蓋がされていた意識の奥底を鮮明にしていった。直接神経に電流を流されたような強烈な痛みとともに、自分のものでない記憶がこじ開けられていく。
自分の知らない自分の声が、脳に響いた。
―灰色のプロトタイプゲッターが研究所のモニター越しに墜ちてゆくのを俺は見た。ゲッター線を恐れた恐竜帝国がプロトゲッターを襲ったんだ。テストパイロットで乗っていた達人さんはそのまま帰らぬ人となってしまった……。早乙女達人はオレのサッカーのコーチであり、大切な恩師。俺は、達人さんの代わりにゲッター1の、ゲッタードラゴンのパイロットを努めらければならないんだ―
「ぐっ……ちげえ!オレの、オレの記憶はそうじゃねえ!ぐあっ、頭が、割れる……ッ!」
ズタズタにされた脳みそが口から出てしまうのではないか、そんな妄想に取り憑かれるほどの痛みが『流竜馬』に襲い続けた。
「大丈夫リョウさん!?い、今お医者先生呼んでくるから!!」
元気の声が『流竜馬』の耳に入る。その声は『流竜馬』の脳内で荒れ狂う神経の末端にまで浸透していくように耳から音へ、そして記憶へと行き渡り様々なものを鎮めていった。
『流竜馬』は気付いた。この少年を知らないのは、『竜馬』には当たり前のだ。
――……あ、そうか。そうなのか。オレは……もっと早くに気付くべきだった。オレは……!――
「……なあ、ちび。笑わずに聞けよ。もし、オレがお前の知っている『リョウ』じゃねえ別の『竜馬』だって言ったら……信じるか?」