俺がオレで、オレが俺で   作:よくかんさん

7 / 10
全国の女子高生のみなさーん!
頼れる天才キャッチャー、ベンケイよ〜!

※この話のオリジナル敵『金城鬼』はウルトラ怪獣のキングジョーが元ネタ。
声優の石川さんが好きな怪獣のひとつ。分かる、キングジョーはカッコイイ。
初めて映像化した合体ロボはキングジョーらしい。


俺がオレで、オレが俺で ・7

 竜馬とベンケイを外へ連れ出した元気は、人が集まる緑豊かな公園で足を止めた。

 雲一つない晴天、青々とした木々の若葉を揺らすそよ風は頬に優しい。ふさぎ込んだ気分をリフレッシュするには最適だ。

 それに、今日は元気にとってちょっとした特別な日である。

 

「竜馬さん、はい!ソフトクリーム!今大人気なんだよ」

「おう、おりがとよ。――ん、普通にうめえな」

「ベンケイさんも!」

「へへ、ありがとうな元気ちゃん。――んん〜〜、この口いっぱいに牛乳の濃い味が広がるのがいいんだよなあ」

 

 今世間はソフトクリームが一大ブームになっていた。

 アイスを扱うキッチンカーもいくつか出ていて、今日はソフトクリームを扱うキッチンカーが公園にやってくる日だった。

 元気は度々公園にやって来るキッチンカーのソフトクリームが大好きで、お小遣いをやり繰りしながらソフトクリームの看板が着ついたトラックが来るのを楽しみにしていた。

 いつもなら人の影がまばらの公園も、流行り物に目のない人、ソフトクリームに夢中な人、そして甘いものが好きな子どもたちとワイワイ集まり、さながら小さなお祭りでもやっているような賑やかさがあった。

 元気からソフトクリームを受け取った二人はちょうど木陰になっているベンチに腰を掛け、元気も自分用に買ったソフトクリームを大事にそうに持って、二人に習いベンチにピョンと腰掛けた。

 

「よいしょっ、と。ねえ竜馬さん、そっちの世界では竜馬さんは空手家で道場を持ってたんでしょ。お弟子さんとかいたの?」

 

 日差しにとろけそうになるクリームが落ちないように食べるのも、子供にとってはゲームのようなものでささやかな楽しみの一つ。元気は滴り落ちそうになるソフトクリームを一生懸命舐めとりながら、ベンチの背に腕を掛け寄っかかる竜馬に言った。

 

「いんや。オレが言うのもなんだがボロ道場だったからよ、見た目でなかなか入門者がいなくてな。オレからも勧誘してるっちゃしてんだが、なんでか声かけるやつ全員ケツ捲って逃げやがんだよ」

「そりゃあ、あんたそんなこわい顔してんだもん。リョウの顔でも分かるよ、興味ある人も尻込みしちゃうって」

 

 心底不思議そうに言う竜馬に対し、ベンケイは口の周りをクリームでベトベトにしながらため息を吐いた。

 

「威圧なんてしてねえよ!『しんこつていねん』に教えてやるつもりで、腰ひくーくして勧誘してんるんだぞオレは」

「……うん?」

 

 竜馬が何を言ったのか分からず、きょとんと固まる元気とベンケイ。そして、元気はそれが言い間違いなのだと気づくと、竜馬の脇腹を小突いた。

 

「……ねえ、それって『しんこつていねん』じゃなくて、『懇切丁寧』に、じゃないかな」

「あーあ、小学生の元気ちゃんに言われちゃった」

「っ……だああ!てめえベンケイ!一々突っかかんじゃねえよ!ちいっと間違えただけだっての!!」

 

 竜馬は強めに言い返したが、ベンケイは竜馬とのやり取りに慣れたのか、まだじとっとした視線を送っていた。流石の竜馬もバツが悪くなり、置きどころのない小っ恥ずかしさを紛らわせようとソフトクリームにかぶりついた……のだが。

 

「〜〜ッ!?くうぅっ……あったまいってえ……」

 

 頭の芯から額にかけてキーンと痛みが走る。いわゆる、アイスクリーム頭痛を起こしたのだ。

 

「わあ、ソフトクリームで頭痛くするヤツ見るの初めて見た。んもう、とことんリョウのイメージ崩れちゃうなあ」

「こっちだってしたくてこうなってんじゃねえよ――いっつぅー……」

 

 竜馬が髪をかきむしるようにして額の痛みに耐えていると、竜馬とベンケイのやり取りを苦笑いして見ていた元気が、ふと何かを見つけた。

 

「――ん?待って竜馬さん。その手、そのままにしてて」

「あん?なんだよ」

「どうかしたのかい、元気ちゃん」

 

 髪の毛を鷲掴みしているため、普段では見えないこめかみの部分が露出していた。

 そこに、不思議な形の痣のようなものがあった。

 

「ベンケイさん。この痣、なのかな。星に見えない?」

「あ、ホントだ。逆さまの星の形に見えるな」

「は?星だと?」

 

 痛みに渋い顔をしていた竜馬が、目をきつくしかめた。

 竜馬のまわりの空気が鋭くなる。苛立ちからくるものとは違う、もっと本能的な怒り――殺気だ。

 

「ん?心当たりあるの竜馬さん」

「……アレが、そんな術みたいなのをやっていた」

 

 それは痛みよりも勝る強烈な『過去』の記憶。

 竜馬の脳裏にまざまざと自身の記憶が蘇った。

 鼻腔にこびり付くような死血の臭い。

 数多の亡骸。

 そして、自分の名を呼ぶ耳障りな声。

 

「アレ?なんだっけ、あんたの世界って本物の鬼がいるんだよな」

「鬼だけじゃねえ。……安倍晴明、アレが鬼を操って、そんで、人間に鬼をけしかけてたんだよ」

「安倍晴明?!それって陰陽師のすごい人じゃないの?鬼退治に協力した正義の味方の――」

「アレはそういうんじゃねえッ!!」

 

 血を吐くような竜馬の激しい剣幕に、ただ事ではないと元気とベンケイは言葉を失う。

 

 ――こいつらには関係ねえことだ。なのに……。チクショウ、今はアイスクリームより頭に氷をぶちまけてギンギンに冷やしたい気分だ――

 

 竜馬は歯切れ悪い口調で、ボソリとごちた。

 

「あんなド変態ヤロー……忘れたくても、忘れられるかよ……」

 

 

 薄暗く重々しい謁見の間にて、鼻の下に歯ブラシのような髭を生やした壮年の男が、部下に向かってヒステリックに罵声を浴びせた。

 

金城鬼(キンジョウキ)!貴様、おめおめとゲッターロボから背を向け逃走した身で挽回のチャンスをだと!?このっ、恥を知らぬ弱卒が!」

 

 手に持った皮鞭を、金城鬼と呼んだ己の部下の背に何度も何度も叩きつけた。鞭は額を地に擦りつける金城鬼の隊服を破り背の肉を抉り、その裂傷からはじくじくと赤い血が流れ出た。

 金城鬼は悲鳴ともうめき声ともいえない声を上げた。しかし、金城鬼は引き下がることなく再び頭を上げて、上官のヒドラー元帥に懇願した。

 

「ヒドラー様!どうか今一度!今一度のチャンスを!流竜馬は睡眠波を直に受けたのは確かなのです!今奴が動けているのは想定外ですがっ、奴が操縦していたゲッターは機動力を半減させていました……。確実に!影響は受けているのですっ!」

 

 痛みに嗄れそうになる声を張り上げて、金城鬼は『もう一度戦う機会があれば確実に流竜馬を仕留められる』、そう主張した。

 これはヒドラーだけに言っているのではない。

 謁見の間のその玉座に、百鬼帝国の首領であるブライ大帝がいる。ブライの冷徹な目は部下を折檻するヒドラーを見つめ、その様子を窺っていた。

 金城鬼は自分は流竜馬にとどめを刺す能力があるとヒドラーを介してブライ大帝に陳情しているのだ。

 これを快くない思いをしている男がいる、ヒドラーだ。

 ヒドラーは権力への欲求が異常に強い男である。自分が上官であるのに、自分を飛び越えてブライ大帝に意思を伝えようと、しかも目の前でされるなどプライドと面子を潰されたのも同然だった。

 

 ――小癪なア、むざむざ引き返した敗残兵が!!――

 

 自尊心に傷を付けたられたヒドラーは無数に抱え持つ癇癪玉を一斉に爆発させた。

 

「ならば何故逃走したのだ!影響を受けているならば流竜馬の息の根を、ゲッターロボごと絶えさせればよかろうものが!違うのか金城鬼!」

「それはっ……強力な気配を感じたのです……」

「なにい?気配だと?」

 

 今までの確固とした意志を見せていた金城鬼は、まるで一瞬前迄の様子が嘘だったかのように自信のない弱々しい態度になる。口調もしどろもどろにながらも、懸命に、振り絞るように言葉を紡いだ。

 

「とどめを刺そうとした瞬間に、身を裂くような強烈な気配を感じたのです……っ。私は流竜馬よりもその気配に危機感を持ち――」

 

 鞭の空を裂く音が爆ぜて、金城鬼の言葉は再びうめき声に変わる。

 もはやヒドラーは理由など求めてない。怒りのまま、作戦を失敗した男を殺すことだけを、ただそれだけの欲求が頭を支配していた。

 

「怖気づいたに変わりないわ!これ以上の無駄口は醜いだけだぞ金城鬼!その口が二言目を告げられんよう、ワシがこの場で処刑してやる!」

「待て、ヒドラー」

 

 今まで静観していたブライがゆっくりと座から立ち上がり、冷厳な声音を響かせた。さしものヒドラーも冷水をかけられたように怒りの気が引く。

 

「はっ!ですが……」

 

 ブライはヒドラーを一睨みする。ヒドラーはその絶対零度の視線にぞっと背筋を凍らせ、首をちぢめ、口を噤んだ。

 

「金城鬼、貴様は人間であることを辞め百鬼となった。その時、我らに誓ったあの言葉、よもや忘れてないだろうな?」

「ははっ!『我が故郷の島を見捨てた人間どもに復讐を成すため、私は鬼になりとうございます』――忘れることなどあり得ません!」

 

 大帝陛下に聞き入っていただける!そう喜びを隠せない様子にヒドラーが恨みたらしく金城鬼をぎりと睨みつける。

――しかし、ここにいるのは百鬼一族の長。非情な百鬼帝国の大帝だ。

 

「貴様が恐れた気配とやらは、貴様の復讐心よりも強烈なのか?」

「い、いえ……それは……」口ごもる金城鬼。

 

 さらにブライは言葉を続け、宣告する。

 

「ヒドラーの言うことは最もだ。百鬼帝国に弱卒はいらん。……が、その命を掛けるのであれば話は別だ」

 

 金城鬼の額に脂汗がじわりとにじみ出る。

 死んでこい、そう言われているのだ。

 

――どうせ、故郷は海に沈み、もう帰る場所などない。俺は新参の百鬼だが、作戦を失敗すれば古参の百鬼言えども死あるのみ……そうこれは大帝陛下の温情なのだ。死んで使命を果たせと仰っているのだ――

 

 金城鬼はゆらりと立ち上がり、ブライ大帝へ深々と頭を垂れた。

 この手で人類の未来を閉ざすことができるならば、それは誉れだ。

 そして百鬼帝国に自分の名を刻み残すことは、永遠に名が知れ渡ることになる。

 そう、死ぬことで永遠を得られる――

 

「……ブライ様、金城鬼は百鬼帝国に帰ることはありません。私は誇りを持って鬼として死にます。……ゲッターロボを、道連れにして!」

 

 それを聞いてブライは笑った。満足そうに、口の端を上げて鋭い犬歯を見せる。

 酷く歪んだ、心内を表すような邪悪な笑みだった。

 

「よく言った金城鬼。貴様の死が百鬼の吉報になることを儂は強く望む。ではゆけ!メカ金城鬼とともに!!」

「百鬼ブライッ!!」

 

 金城鬼は、もう死を恐れることはなかった。

 

 

 どうも『安倍晴明』という存在はこちらとあちらで違うらしい。しかも竜馬は『安倍晴明』に会ったことがあるようだった。元気は少しずつ落ち着きを取り戻した竜馬に聞くことにした。

 

「ねえ、竜馬さん。竜馬さんの世界の晴明は悪い奴、なの?変態とかなんとか言ってたけど」

 

 溶けたソフトクリームでぐにゃぐにゃにふやけたコーンを咀嚼しながら、竜馬はぼうっと考えた。

 そういえば、名前は何となく知っているが歴史上の、しかも古い時代の人間だったとは知らなかった。いや、あれが『人間』とはあまりにも力が人外過ぎて甚だ疑問だが――本来どんなふうに言い伝えられた存在なのか全く分からなかった。

 

「……分からねえ。そもそもオレは京都がどんなとこだってのも、平安京なんてもんが過去にあったことさえ知らねえ。こっちの世界と同じように安倍晴明が正義の味方とか言われてたのかもよく知らねえ」

「なんだよ、あんた知らないことばっかりだなあ……」

 

 ベンケイは言葉だけでなく態度まで有り余るくらいの呆れをこれでもかと言うくらいに出した。

 気が気じゃないのは元気だ。何でかベンケイのぼやきがいつもより多い、まるで竜馬に喧嘩をふっているようにも見える。

 

「もう!ベンケイさんったら!」

「へっ、ベンケイの言うとおりだ」

 

 意外なことに竜馬はベンケイのぼやきに怒るどころか、同意して静かな様子だった。

 

「オレはなんも知らねえ。使命感がある訳でも、何かしたくてゲッターに乗ってる訳でもねえ。強いて言うなら暴れられるから乗ってるだけで、ほとんど強制的にゲッターに乗せられて、そんまま流されてるだけだしな」

 

 確かこの身体の持ち主『リョウ』は部活のコーチが早乙女研究所のテストパイロット、しかも研究所所長の息子だったと言うのもあり最初からゲッターに好意的だった。――そういう『記憶』を見た、見せられた。

 その息子がプロトタイプのゲッターロボのテスト飛行中に敵のトカゲ人間に不意打ちで落とされて死んてしまった。リョウはコーチに代わりトカゲ人間から世界を守るため、そして研究の支えとしてパイロットに志願した……そういう『使命感』がリョウにあった。

 竜馬には――オレにはない。そう、竜馬が考え出した時、

 

「ボクは、そう思わないよ」

 

 竜馬の思考を読み取ったかのような絶妙のタイミングで、元気は意見した。

 

「何時だって逃げてれたはずじゃない。でもそうしないってことは、竜馬さんには戦う本当の理由みたいなのがあるんでしょ?」

「それは……」竜馬が打ち消したげに口ごもると、

「ええ〜、俺はそんな殊勝には見えないけど」ベンケイがまたもぼやいた。

 

「ベンケイさぁんっ!!もうどうしちゃったんだよ、さっきから竜馬さんが言うたびにトゲトゲしたこと言ってさあ!」

 

 流石にぼやきが過ぎると元気はカンカンに怒って声を張った。

 ――その時だ。

 竜馬とベンケイの腕時計、研究所へと繋がる小型通信機が鳴り響いた。

 

 ただの腕時計だと思ってた竜馬は驚き、携帯のようなものなのだろうと操作しようとするが、使い勝手がよく分からなかった。デタラメでもいいからスイッチを押そうとする竜馬に見かねたベンケイは、先に自分の通信器を開いて応対した。

 

「こちらベンケイ、どうぞ!」

『ワシだ。ベンケイくん、悪いが竜馬くんと至急早乙女研究所に戻ってくれ。君たちの学園に百鬼メカが現れて、ゲッターロボとの決闘を申し出た』

 

 早乙女博士からの通信だった。深く落ち着いた声で状況を話す早乙女博士だが、その内容は最悪をベンケイに知らせた。

 

「な、なんだって学園に百鬼メカが?それに決闘って、どうしてこんな時に」

『こんな時、だからかもしれん。決闘を申し出たのはリョウくんを催眠波で昏睡させた百鬼と思われる、同型の百鬼メカだった。百鬼側からしてみれば綿密な作戦を立てるよりも、リョウくんの回復を阻止する電撃作戦の方に勝算があると踏んで舵を取ったのだろう」

 

 なんてこったあ……!ベンケイは右手で頭を抱えた。いつかは逃げた百鬼と戦うことになるだろうとは思っていたが、あまりにも早い再戦にベンケイは目眩を覚えた。

 まだリョウの意識は眠ったまま。リョウの代わりにパラレルワールドの竜馬を乗せてゲッターロボで戦うだなんて無茶苦茶な話だった。

 一応はパラレルワールドの竜馬はこちら側のゲッターロボも操縦できるようだが竜馬はリョウと違って戦い方がとても荒い、そして自分たちと息を全く合わせようとしない。このまま戦えばチームワークの乱れを突かれて百鬼帝国に敗北、というのは大いに有り得る。

 それに何より、ベンケイはこの竜馬が人を助けるような人間と思えなかった。何もかも真逆な、反転した世界からやってきたような『流竜馬』を、いくら元気が慕っているからと言ってベンケイは信用ならなかった。

 ベンケイは斜に構える性格ではない。思ったことをすぐぼやくのんきで抜けたところもあるが、根はおおらかで自然と動物を愛する平和主義者の青年だ。本来は戦いなんて大が付くほど嫌いである。

 それでもベンケイがゲッターロボで戦うのは適正を見出されたという他に、この力で自然や動物、大切な何かを守ることができると考えたからだ。むしろ守ることこそ、ベンケイは一番重要視していた。

 だから少々口うるさくても正義感と使命感溢れるリョウをリーダーとして認めているし、命も預けられる。それが、この竜馬にはないように見えた。

 チームワークを軽んじて、無駄な戦いを好むこと、何かを守ろうとする心も無いとなればベンケイの中に忌避感が生まれても仕方なかった。

 命を預けられない、そういう気持ちがわだかまっていた。

 

 ――リョウが起きるまで時間稼ぎとか出来ないかなあ、このままじゃやり辛いったらないよ。……でも百鬼が俺たちが通う浅間山学園で決闘を申し出るだなんて変だよなあ。……もしかしたら、これって――

 

「博士、と言うことはリョウが目覚めるまで戦わないなんて言ったら」

『ああ、あちらは決闘の申し出を棄却すれば即刻学園を破壊すると言っている』

「やっぱり!学園を人質にして、俺たちを呼んでるんだ!」

『まだ学園内には部活で残っている生徒や教員も見られる。時間を掛けられない非常に危うい状況だ』

 

 なんと間の悪い、いやこちら側の間が悪いのを分かって百鬼は今呼び寄せようとしている。

 こうしてはいられないとベンケイは「了解しました博士、今行きます!」と言って通信を閉じ、研究所に戻ろうとした。

 二人を連れて戻らねば……しかし、『自分より勉強を禄にしてこなかった竜馬が学園を守ろうとするのだろうか?』という疑問がベンケイの胸の中に湧いた。

 ――が、その疑問は一瞬に解消した。

 

「ったく、こっちの鬼もクソほど厄介だな!おい!さっさと研究所戻って学校に行くぞベンケイ!!」

 

 ふやけきった残りのコーンを口に詰め込んで、誰よりも早く研究所に戻ろうとした竜馬にベンケイは驚いた。

 

「え!?ちょ、ちょっとあんた良いのか?あんた浅間山学園に縁もゆかりもないだろ」

「んぐっ、ンなの言ってる場合か!オレは空手ばっかりで勉強はほとんどやってこなかったしハッキリ言って苦手だ。けど、学校が壊れちまえなんて思ったこたアねえよ!」

 

 無学で、使命もない、戦うことだけしか能のない粗暴な男。だがその根底にあるのは正しく――

 

「逆にのんきに学校行ってるおめえらが羨ましいくらいだぜ」

 

 羨望するものを守りたいという意思があった。

 

「あんた……」

 

 ベンケイの言葉を待たず竜馬は駆け出した。その竜馬の背に力が漲って見えるのは、『暴れたいから』という理由だけでは説明のつかない勇ましさがあった。

 駆けていく竜馬に気取られていたベンケイは、ふいに服の裾をクイッと引っ張られた。

 

「さあボクたちも研究所に戻ろうよ!ほら、ベンケイさん!」

 

 裾を引っ張っていたのは元気だった。その顔は緊急事態に緊迫しつつも、声は明るかった。何処か安堵したような嬉しさも混じっている。元気はベンケイの不安にわだかまった気持ちが分かっていたようだ。

 そして少年は、もうその心配はないよと言っているような、キラキラと光る硝子玉のような目を向けていた。

 

「……わかったよ元気ちゃん。よしっ、お〜い竜馬さーん!操縦の補佐は任せてくれよー!」

 

 ベンケイと元気は小さくなっていく竜馬の姿を追って走った。

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