俺がオレで、オレが俺で   作:よくかんさん

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京都の鬼門は比叡山と琵琶湖というすごい風水バリアーがある。
なので、琵琶湖がヤバイと京の平和がヤバイ。
琵琶湖、キレイにしようね。


俺がオレで、オレが俺で・8

「オカルト的な思考をするのなら……その九字紋は災いから身を守るためにあると思うんやけどもね。リョウ君、思い当たることはあるんかな?」

 

 紅林は研究用の史料で荒れ放題なデスクを片付け(といっても端に積み上げただけにも見えるのだが)、デスクと同じく椅子の上に乗せ放題だった郷土史の原稿も退かし、ミチルとリョウに着席を促し早速と件の九字紋の謎に取り掛かった。

 リョウは紅林の言われた通り自分の記憶から少しでも思い当たるようなことを探した。が、紅林に返ってきたのはさっきまでのとおりのいい朗らかな声ではなく「……ううん」という小さな唸り声だった。

 

「その……何が普段と違うのか良く分からなくて……。すみません、こちらからお願いしたというのに」

 

 リョウはこちらの『流竜馬』の身体となってまだ数時間で、自身に起こった変化を受け入れるのがやっとだった。さらに言えば、九字紋の痣についてはミチルに言われるまで全く知らなかった。

 知らない、というよりはそもそもリョウが痣に気付いたとしても、この身体の竜馬が彫った入墨なのだろうか?と素行に疑問を抱いても、それをさして大きな疑問としては思わなかっただろう。

 沈痛な面持ちのリョウに見かねて、ミチルは寄り添うようにフォローを入れた。

 

「仕方ないわ、キミにとっては起きて早々に知らない世界に投げ込まれたようなものなのだから。もうこの状態こそがオカルト的に考えれば、魂を入れ替える『呪』を受けた状態と言っても過言じゃないわ、だからそう気を落とさないで」

 

 もう科学もオカルトもない混沌とした状況に半ば吹っ切れたような冗談まじりのフォローだったが、そのミチルの何気なしな言葉が紅林の知識の隅を微かに刺激した。

 

「魂、かあ……。んー、そういえば反魂の術いうのがあったっけなあ……」

「はんごん、ですか?」

 

 リョウが聞きたそうに紅林に伺う。

 すると今度は紅林が困ったように眉をひそめた。

 紅林の脳内には遺物や郷土史の研究で得た知識、古代の生活に使われていたまじないの資料の情報が幾らかあるものの、それ以外の――例えば誇張され伝説として残るような陰陽術に関しては一般人とさほど変わらない知識量しかない。

 紅林は脳の奥にある微かな記憶を絞り出すように思い出そうとした。

 

「んー、魂を身体に反す術、死者の魂を呼び戻し蘇生させる……例えるなら復活の呪文みたいなもん、やろか。あー、なんやったっけ、陰陽師の安倍晴明が得意としたって聞いたような……ちゃうような……」

 

 そこまで言うと、紅林は首に手を当てて参ったと言わんばかりに頭を左右に振った。

 

「アカンわ、民間伝承くらいなら幾らか知ってんねんけど、伝奇小説とかに出てきはるようなそっちな知識はそこまでやのうてね。んまあ、今は関係あらへんし――」

 

 きっと必要な情報でもないだろう。そう話を切ろうとした紅林に「ねえそれ、死者……遺体じゃなくてもいいのかしら」

 ミチルが何か引っかかったように聞いた。

「うん?んー、どうやろね。身体は生きとっても魂がなければやれるんちゃう?よく知らんけど、脳死なり植物人間なり魂が空っぽみたいなら……せや。リョウくんの身体は重度の過睡眠状態やったな」

 

 紅林はミチルの言わんとすることを察した。意識が戻らなかった『流竜馬』に反魂の術が使われたのではないか、そう言いたいのだと。

 

「これは仮説よ。――流くんに『呪』を掛けて魂に干渉しようとした『何者』がいた。けど、対抗するように『何か』がドーマンの九字紋を掛けて流くんを守護した。ただし守護の効果は万全と言えず、流くんは意識不明の過睡眠症状を起こしたために『何か』が流くんの意識を戻そうと反魂の術を行った。……しかし、魂は流くんのものではなく、並行存在と言えるリョウくんの魂が身体に入ってしまった。……苦しいけど、少し話が繋がるわ」

「じゃあ俺がこの身体の俺と成り代わってしまった原因は反魂の術……?」

 

 リョウは『何者』が『安倍晴明』を指すのだと分かった。

 

「ちょい待ちい。ミチル、問題を解決したい気持ちはよく分かる。せやけどな、何処まで仮定してええの?オカルトは考え一つで無限に風呂敷広げられる。そもそもボクの知識が正しいと言えへんよ、聞きかじった程度や」

 

 紅林は額に皺を寄せて難しい顔をするとミチルの仮説に疑問を呈し、また深く考え込こんだ。

 その表情は至極真剣で、今の彼が『流竜馬』に起こった事象を解き明かそうと熱を入れてるさまが誰の目からも見て取れた。

 これほど真剣に考えてくれるのならば、紅林に『何者』が『安倍晴明』であり、この世界において『安倍晴明』は人ならざる存在であることを話しても受け入れてくれるだろう――そう思ったリョウはミチルを見やった。

 だが、ミチルの視線はリョウに念を押すような視線が送られていた。ミチルは紅林に『何者』の正体を話すのは待ってほしい、そう言いたそうな目だった。

 ミチルは一貫して『流竜馬』に害をなす存在を明かさずぼかし続けている。ミチルの心境は話しを進める内に紅林に真実を告げて事態に巻き込むことを避けたいという感情に傾いたようだ。

 リョウは承知したと目を瞬かせ軽く頷くと、ミチルは視線と思考を切り替えて話しを進める。

 

「でもこれで見えてきたんじゃないかしら。『何者』の呪に対抗できる『何か』が居る、そしてその『何か』は味方かもしれないという可能性がある。今は目先の正しさより真実への可能性を掴むことが必要よ」

「ほんに大胆なこと言いはるなあ。うーん、でもなんやろ。元のリョウくん……流くんやったっけ?彼が戻らずリョウくんが目覚めた理由はどうなんや?並行存在やから――が根拠なら、今ひとつ説明たりひんよ。不確定が過ぎよる」

「なら同条件だと魂を混同しやすいのかもしれない。並行存在であるリョウくんの魂も同じ状況にあった……とか――」

「同条件なら……それもどうもな。そうなり得る根拠が足りひんよ」

 

 二人の論議を静かに聞いていたリョウは『同条件』という言葉に引っかかりを感じ、自分がこの世界で目覚める前に何をしていたかを手繰るように思い返した。

 

 ――たしか……ミチルさんは、俺が目覚める前にコーチの名を、達人さんの名を呼んでいたとか言っていたな。しかし、何で俺はコーチを呼んでいた?何故そこまで亡くなったコーチに……同条件、この身体と同じように俺も……意識を失って……そうだ。俺は聞いたんだ。コーチの声を!――

 

「――そして俺はコーチの声に助けられたんだ!」

「えっ?」「な、なんやっ??!」

 

 突然大声を出したリョウにミチルと紅林は驚いて注目した。リョウは思い出した意識を失う前の記憶を忘れないよう、外界の刺激から遮断するように目元に手を当てて話し始めた。

 

「俺は元の世界で意識を失う前、一度強い催眠波を操る百鬼に襲撃されたんだ。為すすべなく催眠波を受けた俺は意識が朦朧としたとき、亡くなったコーチの声を聞いた。あれは俺を励ます声だった。……あの声は幻覚かもしれない。でも幻覚だとしても、あのお陰で、俺は意識を失わずに済んだんだ」

「なるほどね、キミも流くんと同じように意識を失う寸前だった――似た状況下にあった、と」

 

 ミチルの提唱した仮説が一つ現実的になったことで、紅林もある程度腑に落ちたのか「ふうむ……」と鼻を鳴らし、ミチルの仮説を幾らか受け入れたようだった。

 

「でもその後に百鬼メカが現れてゲッターロボで応戦しようとしたのだけれど段々と意識が薄れて……目が覚めたら、君が……」

 

 そう言って、リョウは目元から手を除けてミチルを見た。そして、

 

「……ん?リョウくん、どうしたのかしら」

 

 何故かリョウの顔が呆気にとられた表情になっていた。

 2、3度目を瞬かせ、じっとミチルを見つめる。紅林もどうしたんだとリョウに視線を向けた。

 

「君は……」リョウが戸惑うように声を絞り出す。

 その時だった。

 外からバタバタと足音が聞こえて来たかと思うと、研究室のドアが勢い良く開かれた。

 

「お話中すんません!紅林さん、明後日来るはずの依頼品着いてしもうたんですが、どないしはります?!」

 

 息を切らせて来た歴史博物館の事務スタッフが申し訳なさそうに頭を下げながら紅林に指示を仰いだ。これに紅林はバネが仕込んであるかのように勢い良く椅子から立ち上がり、口をあんぐりと開けて青ざめた。

 

「んなっ!?今日はボクしかここの研究スタッフおらんのに……しゃあない!先に業者さんお通ししといて!ボクもすぐ行く!」

 

 よほど予定外のことだったのだろう。紅林は手早く指示をすると、いそいそと山積みの資料から入館許可証を引っ張りだし、先に駆けていった事務スタッフよりも深く頭を下げ両手を合わせて二人に謝った。

 

「二人ともちょう待っててな、すぐ済ませるさかい!」

 

 済ませる、から先はもうドアの向こうだっだ。

 素早く研究室から出ていった紅林に、残された側であるミチルは「ちょっと……!」と声を漏らしたが、自分たちこそ唐突な客人である。軽くため息をつくと、仕方ないと言いたげに長い髪をかき上げた。

 そのミチルの仕草に、リョウが何か言いたげに手を差し伸べるが、直ぐに手を引いた。

 どうもリョウの様子がおかしい。まるでリョウとして起きたばかりの頃と同じように戸惑っているように見える。

 

「リョウくん、少しの違和感でも言って。今はどんな情報も貴重なの。特に、キミの情報はね」

 

 何かしらの変化がリョウに起こったに違いない。ミチルは探究心に光る黒曜石の瞳をリョウに向ける。その強い視線にリョウは観念したように口を開いた。

 

「その……君……いや貴女が、長い髪をした女性なんだな、と……」

 

 今度はミチルが困惑する番だった。何を今更?キミは何を見ていたの?怪訝な表情のミチルに、リョウは自身に起きた状況を説明しようとした。

 

「目覚めてから今まで見てきたものは変わらないのに、やっと貴女が俺の知るミチルさんではないと納得がいったというか……意識の根っこから認識できたというか……くっ!合う言葉が見つからない」

「認知の歪みが解消されて、正しく認識できるように変わった?」

「ええ、多分」

「ふうん……。ところで、髪が短いのね、そっちの私。どういう子なの」

「え?えっと、こちらのミチルさんはショートヘアの子で、カチューシャをよく付けてますね。頭が良くてスポーツも万能で――」

「言葉、敬語になってる」

 

 そう言いうとミチルは目を閉じて深く息を吐いた。

 

「いや、しかし貴女が大人の女性だと分かったのですからそうもなります、それでなくても今までの態度を謝りたいくらいで――」

「止めて。流くんの顔でそう言われると落ち着かないわ」

「でもミチルさん」

「それに……今の感覚に引っ張られては、いけない気がする」

 

 明らかな不安がミチルの声音に現れていた。それにリョウは疑問を持った。今まで自分の記憶を思い出すことを優先していたはずだ。情報だってどんなものでもほしいとほんの少し前にも言った。

 

「何故ですか?正しく認識できる方がいいはずです」

「もしキミの意識が、このまま流くんの身体に定着してしまう危険があってもそう言える?」

「えっ?」

 

 憶測に過ぎないけど――。前置きをしてミチルは思案げに語る。

 

「キミの今までの認知の歪みは、ある意味魂の不安定さを表していたんじゃないかと思ったのよ。だからキミが正しく認識できる状態になればなるほど、キミの意識は流くんの身体に馴染んでいき――」

 

 リョウが戦慄する。もう、その言葉のあとは想像に容易い。

 

「まさか、完全に俺の身体になって戻れなくなるのか!?なら『何か』の正体を早く突き止めなくては!」

「ええ。まだ根拠には乏しいけど、可能性はあるとして行動したほうがいいわね。紅林くんが戻り次第ドーマンの九字紋を掛けた『何か』に接触する方法を探して――」

『早乙女ミチル様、早乙女研究所の所員の方からお電話をお預かりしております。急ぎ、執務室までおこしください』

 

 割って入ったのは館の放送アナウンスだった。

 

「ごめんなさい、私も少し席を外すわ。……携帯に掛けてくればいいのに」

 

 突然のアナウンスに愚痴ると、ミチルは内ポケットに入れていた携帯を確認する。

 携帯は新幹線に乗ってからマナーモードにしていたが、直ぐに対応できるようバイブレーションに設定している。だから電話に気付かない、ということはないはずだ。

 矢張り電話の着信履歴はなく、メールはいくつか来ているものの、緊急性のあるものはない。

 少々不思議に思ったが、ミチルは執務室へと席を立った。

 

 

 ミチルが席を立ってから数分も経たないうちに「おっこいせー……!」という腹から踏ん張るような声が聞こえてきた。

 これからの行動に思考を巡らせていたリョウは、静かな研究室には不釣り合いな肉体労働者がするような掛け声が気になり、思考を一旦置いて席から立とうとした。

 すると同時にドアが開かれた。

 

「あちゃあ、ミチルもう執務室に行ったんか……よいっしょ……!」

「紅林さん!?あの、大丈夫ですか?」

 

 リョウが驚くのも無理はない。

 そこには血圧が上がって顔を真っ赤にした紅林が、子供が入れそうなほどの大きく重量のありそうなジュラルミンケースをもって研究室に入ってきたからだ。

 あまりにも重そうに一歩一歩踏ん張って運ぶ紅林にリョウは急ぎ近づいて手をかそうとするが、紅林は汗でだんだんずり下がる眼鏡にも気にせず首を左右に振った。

 

「大丈夫大丈夫。こういうの運ぶのも仕事の内やから……よっこいしょ!!」

 

 最後の力を出し切るような掛け声と共にワークデスク脇に置かれた大きいジュラルミンケースは、どすっと鈍い音を立て異様な存在感で鎮座した。

 紅林は大きく一息をつくと、受取書をファイリングして物品をいつ受け取ったのかセキュリティに関するチェックに当たっていた。よっぽどの物なのだろうとリョウは少年らしい好奇心でその大きい荷物がなんなのか聞いてみたくなった。

 

「とても厳重に保管されてますね、なんの出土品なんですか?」

「あ、これはそういうのちゃうよ。お寺さんから鑑定してほしいと依頼があって、もし本物なら博物館で預かって欲しいんやって。んまあ、これにまつわる逸話が壮大すぎて本物かどうか眉唾なんやけどねえ」

「へえ、壮大すぎる逸話かあ……どういった物だろう。伝説に残るような和尚様が彫られた仏像、とかですか?」

 

 リョウの質問に紅林は困ったように笑うも、本当はどこか心の隅で思うことがあったのだろう。本来は機密であるその大荷物の中身をひっそりとリョウに教えた。

 

「ううん、これは……笑わんでな。なんと、かの鬼退治の名人、源頼光が鬼の総大将を討った刀なんやと」

 

 

 

「もしもしミチルよ。研究所で何かあったの?」

 

 執務室へ到着したミチルは、早速研究所からの電話を館の事務スタッフから受け取った。相手側の所員は落ち着きのない様子で早口に喋り始めた。

 

「所長代理お疲れ様です。このような形ですみません。こちらで観測してますゲッター線なのですが京都府から急激な上昇を感知しました」

「京都に、ゲッター線……?」

 

 一瞬耳を疑った。最近までゲッター線は殆どその線量を一定の間隔を保ち、これという変化は見られなかった。唯一と言っていいのは平安時代へとタイムワープした竜馬たちが現代へ帰ってきたときだ。

 可能性を考えればミチルの父親、早乙女博士がゲッター線を増幅させる研究を研究所の地下施設で行っているが、それを考慮しても急激な上昇を見せるなどあり得なかった。しかも、京都という限定的な地域に反応が見られたというのがまず論外の話で、京都のどの地域にもゲッター線関連施設が一切ない。

 ゲッター線は宇宙線の一種。ゲッター線増幅炉がない限り、線量が増えることは考えられない。

 疑いたい気持ちは多大にある。だが、電話口の所員は肯定を口にした。

 

「はい、あまりにも突発的かつ強い反応のもので、そちらに代理がいらっしゃいますしご報告をと携帯へ連絡しようとしたのですが、電波が届かないものでこちらの方に――」

 

 ――電波が届かない?――

 

「待って、私の携帯電波きてるわよ。さっきも確認したし、そっちに間違いはないの?」

 

 今度は所員が信じられないと言ったふうに驚き返した。

 

「えっ、待ってください確認します。……おかしいな、電波障害が発生している情報もないし他の宇宙線も安定しています。あ、ですが磁場……」

 

 プツッ――ツーツーツー……。なんの前触れもなく通話が切れた。

 

「もしもし?……ちょっと、もしもし!」

 

 ミチルのただならぬ声に執務室にいた数人の事務スタッフたちがぎょっとしてミチルに注目する。訝しがる視線が一点に集まる中、ミチルは不自然に切れた電話を掛け直した。早乙女研究所への直通電話に掛けるが、コール音なく応答したのは電波の繋がらないか……というアナウンスだった。直ぐに携帯から掛けるも、同じく機械的なアナウンスが流れるだけだった。

 

「何が、何が起こっているのよ。京都でゲッター線の上昇なんて……原因は何?」

 

 

 一台の漆黒のセダンが、今まで吹かしていたエンジン音を潜めてミチルたちがいる歴史博物館の駐車場へ静かに止まった。

 長らく隼人のナビゲートで車を走らせていた弁慶は窮屈だったとばかりにシートベルトを外して大きく腕を振り上げて伸びをし、自由になった身体に喜んだ。

 

「くぅあ〜〜えらい長旅だったぜ〜!まったく、長く運転してると尻とシートがくっつくんじゃねえかと……どうした隼人?」

「……静かすぎる」

 

 後部座席でパワーウインドウを下げて外を確認していた隼人が切れ長の双眸をさらに鋭利に細める。

 街から離れた場所にある博物館だが古都の歴史に触れられる施設だ、ツアーとして団体客がいてさして当然であるのだが、その客らしい人が見えない。休館日でないのは出立前にリサーチ済みであったし、むしろ特設イベントをしているとの情報があったことから客が多めにいるものと警戒していたほどだった。

 

「ううん?そりゃあ……京都くんだまりまで来て態々歴史館なんざ行くより清水や金閣寺に行く観光客が多いからじゃねえか?まっ、祇園で練り歩く舞妓の尻追っかけたほうがよっぽど楽しいと思うがな、俺は!」

 

 安直で欲に忠実な弁慶の名推理に隼人は面倒とばかりに無視を決め込んだ。

 

「弁慶、まだ車の外に出るな。どうも空気がひりつく、出るのはもう少し様子を見てからだ」

「俺は頭がひりつくなあ、あと股ぐらも……」

 

 ゲシィッ!!!

 

 弁慶の座っている運転席のヘッドレストが強く殴られた。

 犯人は言わずもがな隼人であるが、隼人は自分のルールやペースを崩されるのを至極嫌った。真面目な話の腰を折られたものだから道中今まで溜めに溜めたストレスを一気に掌底で叩き込んだのだ。直接頭を狙わなかったのは微塵に見せた彼なりの有り難い心遣いである。

 見事弁慶のしょうもない下ネタを阻止したのだが、その反動は凄まじく、ヘッドレストから伝わった衝撃が弁慶の頭を大きく揺らし天井にをぶっつけた。

 

「いてえ!?ううっ、頭がひりつくのは本当なんだぞ。でも、なんなんだ、妙なピリピリとした痛みが抜けん……情けない」

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