猫は蝶にじゃれつく   作:白虎しゃも

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蝶屋敷

【視点・竈門炭治郎】

 

 那田蜘蛛山で全身ボロボロになり、柱合会議での大乱闘により悪化した怪我の数々も、今ではそれなりに癒えて、問題なく身体が動くようになってきた。

 

「おーっす、炭治郎元気かー?」

「あ、寝子さん!」

「うむ、元気そうだな、何より!」

 

 機能回復訓練に打ち込む日々を送っていると、果物籠を片手にひょこひょこと寝子さんが遊びに来てくれた。それを見た善逸がスススと俺に近寄ってくる。

 

「た、たた炭治郎、誰その女の子? なんかさ、距離近くない?」

「寝子さんだよ、姉弟子なんだ」

「お前しのぶさん以外にも姉弟子いたのかよ! 羨ましいなおい!」

 

 善逸が余った袖でぺしぺしと叩いてくるのを宥めようとしたその時、伊之助が外から飛び込んできた。

 

「猪突猛進! 猪突猛進!」

「あーお前、猪頭! ここで会ったが百年目! お前倒して十二支に猫をいれてやらぁ!」

「あぁん? 猫か杓子かやんのかコラ!」

「やってやんよ、百獣の王になってから獣の呼吸を名乗れ! ネコ科になれ!」

 

 わいわい楽しそうにじゃれあっている寝子さんと伊之助を眺める。心がほっこりとした。

 

「落ち込んでいた伊之助もすっかり元気になったなぁ」

「お前姉弟子の振る舞いに疑問を持たないのかよ」

「? 今日も元気でいいと思う!」

「そうか……」

 

 残念なものを見るような匂いをさせる善逸に首を傾げる。わぁわぁと騒いでいた二人はアオイさんに叱られ、寝子さんは背中を丸めてしょんぼりしているし、伊之助はへそを曲げて床にベッタリくっついていた。

 

「あ、そうだ」

 

 パッと顔をあげた寝子さんの瞳に悲しみの色はなく、キラキラ輝いている。立ち直りが早い!

 

「いま診察室に行ったら面白いものが見れるぞ」

 

 そんな彼女は口を三日月に歪ませて、猫のように笑っていた。

 

 

 

【視点・冨岡義勇】

 

 俺も寝子についていって炭治郎の見舞いに行けばよかった。目の前の光景を眺めながらぼんやりと、そう思う。

 

「錆兎くん、しのぶは私の妹なの」

「知っているが」

「それに私の継子だったの」

「それも知っている」

 

 花柱は眉を下げ、沈痛な面持ちで話を続けた。

 

「なのに……」

 

『準蟲柱? あぁ、あの狐一味の人』

『水柱の継子だったんでしたっけ?』

『確か鬼狂いって噂の、ひえっ!?』

 

「お揃いの髪飾りを身に付けているのに! 羽織だってお揃いなのに! みんな鱗滝一門の子っていうの! 確かにそうなんだけど……あと、しのぶに対する謗りは姉さん許しません」

「ふむ」

 

 蔦子姉さんは女の子に優しく、と言っていた。しかし、俺は喋るのが苦手だから落ち込んでいる花柱にかける言葉が見当たらない。錆兎は俺と違って、少し考えてから頷き、花柱を励まし始めた。

 

「安心しろ、しのぶは胡蝶の妹で継子だ。その事実は誰がなんと言おうと変わらん」

「そうじゃなくてね、暫く姉妹水入らずで過ごしたいなぁ、って」

 

 一転、ニコニコと手を合わせながら、有無を言わせぬ迫力を発する。錆兎は珍しく目を丸めて、ゆっくり言葉を咀嚼していた。

 

「それは、次の任務にしのぶを連れていくな、ということか?」

「その通り、と言いたいところだけれど、本人が希望したというし止めないわ。ただちょっと、その任務が終わったら担当区域の見回りをすこーし代わってほしいの」

「なるほど、構わない」

「ふふ、ありがとう」

 

 錆兎はけろっと返事をしている。しかし断ったらどうなるのか、背筋に寒気が走るほどの圧を感じた。目をそらすと、渦中の人物が視界に入る。

 

「義勇さん、暇なら磨り潰すの手伝ってください」

「……あれはいいのか」

「いいんです。私にはもうなにも怖いものなんてありません。姉さん風に言うのなら、姉さんは可愛いからいいんです」

「なんだその理屈」

 

 すり鉢を渡されたので、見よう見まねで磨り潰す。錆兎と花柱の会話が終わるまでしのぶの手伝いをしよう。

 

「では範囲と期間の擦り合わせをしましょうか」

「ああ、好きに決めるといい」

「あらあら、そんなこと言ってしまっていいの?」

「前払いみたいなものだ、これからもしのぶには同行してもらうしな」

「……へぇ?」

 

 それから、俺の腕が疲れるまで二人の会話は続いたのだった。

 

 

 

【視点・竈門炭治郎】

 

「錆兎さんとしのぶさんのお姉さんがしのぶさんを取り合ってるって、止めなくていいんですか?」

「いーのいーの、結局はしのぶの一声だ」

 

 庭で伊之助との組手を終え、泥塗れになって帰って来てアオイさんの説教を受け終えた寝子さんが縁側でくつろいでいる。

 

「皆さん蝶屋敷に来てるんですね」

「うん、話が終わったら炭治郎のお見舞いに来るさ、ほら噂をすれば」

 

 手のひらを向けた先には狐のお面。視線にたじろいで後ろに下がる影。

 

「真菰さん」

「……こんにちは」

 

 困ったように笑って、所在なさげに頬をかく。

 

「おおっと、ボクはカナヲにラムネを届けなければならぬのだった」

 

 するりと立ち上がった寝子さんは、真菰さんの肩をポンと叩いてから去っていった。

 

「炭治郎」

「は、はい!」

 

 真菰さんは泣きそうな表情をしている。

 

「ごめんね、ずっと禰豆子のこと見てみぬ振りをしてきて」

「いえ、そんな……」

「大切な人にはさ、鬼になったとしても生きていてほしいよね」

 

 とても悲しい匂いがしていた。たくさんの悲しいことを飲み込んで、今、真菰さんは俺の目の前に立っている。

 

「ねぇ炭治郎、絶対、禰豆子を人に戻してね」

 

 誰か、大切な人のことを禰豆子に重ねているのだろう。どこか遠くを眺めて目を細めていた。

 

「そうなったら、たぶん、私はすっごく救われると思うんだ」

「……はい、必ず禰豆子を人に戻します」

「……うん、ありがとう」

 

 ほっと息をついて、少しの間目を閉じてから、晴れ晴れとした表情で微笑んだ。

 

「もちろん応援も手伝いもするよ。今更かもしれないけど、私も炭治郎の姉弟子だから、ね」

 

 それは、花咲くような笑顔だった。

 

 

 

 錆兎さんと義勇さんもお見舞いに来てくれて、久し振りに手合わせをしたり型を見てもらったりしていたら、あっという間に時が過ぎ去っていく。

 

「んじゃ、ボクたちは任務いくけど身体をしっかり治すんだぞ。あんまり無茶しないように」

「はい!」

 

 全集中・常中も途切れることなく出来るようになってきた。早く、皆さんと肩を並べて戦えるようになりたい。そのためにも、一つ一つ出来ることをやっていこう。

 

「この中で列車の乗り方知ってる人ー?」

「乗ったことないな」

「……」

「はい」

「うん、しのぶだけが頼りだね。いやー、世の中鬼殺以外にも学ぶべきことが多いと常々思うよ」

「精進したらいい」

「義勇もだよ、むしろ義勇がだよ」

「ボク知ってるぞ、スイカで乗るんだ」

「いや、どうやって」

「スイカを渡して乗るんじゃないのか?」

「なんでスイカなの」

「なんでだろ、美味しいからか……?」

 

 そんな会話が聞こえてきた。寝子さん、嘘の匂いはしないけれど、たまに不思議なことを言うなぁ。

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