その日、上弦の鬼が二体討伐される。
「うちには猫がいるんだよ、変な壺とか魚とか危ないでしょ」
雨の呼吸 拾ノ型 狐の嫁入り
「無一郎!」
「任せて」
霞の呼吸 漆ノ型 朧
「こちとら内臓やらかしているんだぞ! それなのに雷とか! 衝撃波とか! 物理で戦え物理で! コレ使うと全身の筋肉わやになるんだ! しのぶに怒られるの全部お前のせいだからな!?」
猫の呼吸 陸ノ型 我輩は猫である
「寝子ちゃんがあんなに頑張ってるのに、柱としてカッコ悪いところは見せられないわ! まだまだいけるんだから!」
恋の呼吸 伍ノ型 揺らめく恋情・乱れ爪
そして、痣の発現した剣士が四人現れた。
【視点・胡蝶しのぶ】
「ねぇねぇ、しのぶ」
「駄目よ」
「まだ何も言ってないのに」
可愛らしく頬を膨らませる親友に絆されそうになるが、そうも言っていられない。
「柱合会議に出たくない、でしょ?」
「うん、ほら、私は柱じゃないしさ」
「私も準柱だし。でも、真菰が柱になってくれたら私の心労がとても減るかしら」
「あはは」
姉さんがいるから頑張れる。姉さんがいなかったら兄弟子に斬りかかっていたかもしれない。溜息をついてしまいそうになりながらも我慢して、親友が逃げないように手を繋いだ。
「禰豆子さんが太陽を克服した今、鬼殺隊は一丸となって戦いに備えないと。それに、真菰と狗尾さんにも出た痣について話があるらしいから出席しなさい」
「ちぇー、じゃあ炭治郎は?」
「ああ、炭治郎くんなら……」
「おい」
障子が開き、中から身を乗り出した宇髄さんがこちらを手招いている。
「地味に立ち止まってねぇでさっさと入ってこい、会議始めるぞ」
部屋の中には既に他の柱が集まっていた。錆兎さんの横に義勇さんも座っていたし、狗尾さんも甘露寺さんの隣で伊黒さん(というより鏑丸さん)に睨まれてプルプルしている。助けを求めるような視線を感じたが、これ以上の心労は抱えきれないので気づかない振りして姉さんの隣に座った。
「真菰さん、こんにちは」
「無一郎、そっか、柱だもんね」
いつもぼんやりしている時透くんが珍しく、飼い主に駆け寄る子犬のように真菰の近くへやってくる。親友は良い笑顔をしていた、話を振られたら全て時透くんに回そうって考えてそう。
「む、全員集まったか」
「ったく、嫁が戻ってきたのはいいが俺ぁ上弦取り逃がしちまったんだよなぁ……ま、上弦二体討伐はド派手に目出度い! この俺が褒めてやろう!」
「うむ! しかも俺の継子が活躍したと聞いて嬉しいかぎり! わっしょい!」
「継子ォ? ああ、甘露寺か」
「否! 竈門少年だ!」
「はい?」
「どうした胡蝶妹! 君からの紹介だったはずだ!」
竈門少年、炭治郎くんが煉獄さんの継子になったとは初耳だ。真菰もきょとんとしている。
「ええと、確かにヒノカミ神楽について調べていた炭治郎くんを煉獄さんに紹介しましたけど、継子にしたのですか?」
「正式な届け出はまだ出していないが訓練自体は始めている! 中々筋が良い!」
義勇さんが今まで見たことのない表情をしている。どんな感情の表情なんでしょうかあれは。
「竈門炭治郎ね、そこの甲隊士二人を呼んだのなら、何故そいつは呼ばない? 何か隠しているんじゃないだろうな?」
「彼は絶対安静ですよ、むしろ会議に参加している四人の回復が異様に早いのです」
「竈門少年なら父と弟と共に書庫でヒノカミ神楽について調べている! やましいことなどなにもない!」
「煉獄さん?」
「よもや! 絶対安静とは知らなんだ!」
うーん、この。
「どいつもこいつも……」
「まぁまぁしのぶ、落ち着いて?」
怒りの制御をかなぐり捨てた。姉さんに宥められるが、収まるはずがない。狗尾さんが気まずげに目をそらしていた。
歩きながら会議の内容と珠世さんの手紙を反芻する。覚悟は既に決まっていた。
蝶屋敷に着くと、ちょうど煉獄さんの屋敷から戻ってきた炭治郎くんと鉢合う。一通り説教を終え、ちょうどよかったと包みを二つ手渡した。
「炭治郎くん、今日の分のお薬です」
「ありがとうございます!」
「あとこれ、禰豆子さんを人に戻す薬です」
「わぁ、ありがとうございま、すぅ!? え、ほ、本当に!?」
「ええ、完成しました」
それは予備といいますかサンプルのようなものですけれど、と付け足す。禰豆子さんに処方する薬は産屋敷邸に保管してある。
「柱稽古のことは聞いていますね? 私は準柱ということもありますが、禰豆子さんに薬を処方するためここを離れます。稽古はつけてあげられないけれど、応援していますから、頑張ってくださいね」
「は、はい!」
「姉さんもカナヲも屋敷にいますし、何かあったら此方から手紙を送りますからね」
笑顔を絶やさすに話し続ける。炭治郎くんには、バレてしまうかもしれないけれど。
「……あの、」
「炭治郎くん」
しぃー、と口の前に指を立ててそれ以上何も言わないよう、お願いする。今の私からどんな匂いがするのか、少し、気になったけれども。
羽織を翻し、その場を去る。背中に声はかからなかった。
そうして水柱邸、錆兎さんの屋敷に立ち寄る。その一室に赴いた。
「狗尾さん」
「うん?」
はちみつ色の瞳が瞬く。さて、最後の仕上げをしましょうか。
「少し手伝って欲しいことがありまして」