猫は蝶にじゃれつく   作:白虎しゃも

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猫は蝶にじゃれつく

【視点・胡蝶しのぶ】

 

「にゃははは!」

 

 廊下から聞こえてくる笑い声に目を覚ました。机に突っ伏して寝ていたらしい。書きかけの論文がしわくちゃになってしまっているのを見て頭を抱える。いやいやまだ〆切まで時間はあるからと、一旦横に置いておいた。

 

「しのぶ! ただいま!」

「はい、おかえりなさい」

 

 また甘味でもお土産に買ってきたのだろう、寝子さんが両手に箱を抱えていた。痣のこともあって蝶屋敷に住み着いた彼女は外出するたびに様々な甘いものを探してくる。ニコニコ笑っていた彼女は私の顔を見て眉をひそめた。

 

「まーた睡眠削ったな?」

「そういう寝子さんは〆切が近いらしいですけど?」

「にゃはー、近いなんてもんじゃないぞ。〆切は一昨日だったからお詫びの菓子折を買ってきた、本当に申し訳ないと思っている」

「担当編集の方が気の毒ですねぇ」

 

 鬼殺隊が解体となり、それぞれ新たな道を進み始めた私達。腕っぷしの強さから警官や軍人を目指す人もいれば、故郷に戻って畑を耕す人、寝子さんみたいに全く別の職を得る人もいた。しかし、小説家とは。初めて聞いたときは意外に思って思わず理由を尋ねた。

 

「お姉ちゃんが話してくれるお話が好きだったんだ。それはボクだけの宝物だから誰にもあげないけど、ボクもお姉ちゃんみたく人を楽しませるお話を書きたいなって」

 

 自分のことを語りたがらなかった寝子さんが穏やかな表情で話す姿が印象的だった。……その割に〆切を踏み倒しては頭を下げている姿を見ることが多いけれど。

 

「そういや珠世さんは?」

「姉さんと一緒にお館様の診察です。峠を超えたといえどまだまだ油断できませんから」

「じゃあ茶々丸へのお土産は戸棚にでもしまっとくかなぁ」

「私の部屋には置かないでくださいよ、茶々丸さんは賢いので入ってくることはありませんが念のため」

「わかってるってー」

 

 鬼舞辻無惨を毒殺した後、珠世さんは思い残すことはありませんと言って、愈史郎さんを人に戻してから自死を選ぼうとした。そんな彼女に痣のことやお館様の病気のことなど理由を並べ立て、死ぬくらいなら人に戻って償ってくださいと引き留めたのは、正しかったのかどうか分からない。後悔はしていないので、いいだろう。

 

「そんじゃ、お昼寝しよっと」

「よく寝ますね、原稿はいいんですか?」

「良くないけどヨシ! 寝る子で寝子だからな! 寝る子で寝子! 寝る子は育つ!」

「いつまで根に持つんですかそれ」

 

 初めて会ったときに真菰が「狗尾」と呼んでいたためにずっと「狗尾さん」と呼んできた。錆兎さんや義勇さんが呼んでいる「寝子」を「猫」という愛称だと思っていた私は下の名前はなんだろうと疑問に持って、直接本人に尋ねたところ非常に拗ねられた。確かにその時は寝不足だったとはいえ失礼な質問をしたと自分でも思う。

 

「大体、もう育つような歳じゃないでしょう」

「お陰様でにじゅーろく!」

「定期検査からは逃げないでくださいね」

「はーい」

 

 言い伝えに寄るところの二十五歳を過ぎたとはいえ、まだまだ油断できない。しかし今現在、炭治郎くん含め五人とも元気にしている。それは素直に喜ばしい。

 

「えへへ」

「どうしました?」

「んにゃ、いつもありがとうって思って。うん、いつもありがとな、しのぶ」

「……そんなこと言っても、夕飯を作るのはアオイですから魚料理になったりしませんよ」

「にゃはは、そりゃ残念」

 

 楽しそうに笑って、ゆっくりと伸びをした。

 

「それじゃ、ご飯の時間になるか編集の人が怒鳴り込んで来たら起こして」

「怒鳴り込まれないようにしてください」

「おやすみー」

「まったく……おやすみなさい」

 

 丸くなって眠ろうとする姉弟子に、ちょうど目についた羽織をかける。寝付きのいい彼女は既にふにゃふにゃな寝顔をしていた。眺めていると寝転ぶ猫に蝶々が留まっているような感覚を覚える。少し考えて、私もちょっとだけ、休憩することにした。

 

 それから、二人仲良くご飯の時間までぐっすりと眠ることになります。そんな平和な日常が、これからも続いていくのでした。

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