猫は蝶にじゃれつく   作:白虎しゃも

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姉と妹と夜の学園と

 宇髄天元はおや、と首をかしげた。

 学生時代からえげつないほどの人気を誇った胡蝶カナエの歓迎会。周囲がカナエに見惚れる中、同じテーブルについた男どもは通常運転。その中で紅一点(カナエも含めれば紅二点だが)の狗尾は普段通りにゃーにゃーと冨岡の肴を横からかっさらっていると思いきやプルプルと震えてカナエの横顔を窺っている。

 

「狗尾先生」

「にゃい!?」

「よろしくお願いしますね、妹共々」

「は、はいぃ……」

 

 冷や汗をダラダラとかきながら返事をする様子に益々好奇心がかきたてられる。しかし、絶対に首を突っ込まない方が良いと勘が告げている。こういう直感には従うべきだ。宇髄は二人の関係に触れず、カナエ先生に話題を振った。

 

 狗尾はカナエの話し相手になっている宇髄にこの上なく感謝した。今なら宝物のビッグハンドキャットのヌイグルミを宇髄にならプレゼントしても良いと思えるくらいの感謝だ。

 狗尾はキメツ学園の英語教師である。だがしかし、キメツ学園の生徒である胡蝶しのぶと交際していた。清い関係であるし、お互い周囲には秘密にしているものの、しのぶの姉であるカナエにはバレているような気配がある。というか、少し話してみて分かったが、これはバレている。狗尾はボクの教師生活も今日で終わりか……と空を仰いでいたが、その後、特に話し掛けられることもなかった。

 隣で怪談話が始まったときは半べそになりながら耳をふさいでいたし、夜回りに誘われたときには即答で断ったが、歓迎会は無事に終わる。ホッと一息ついて家に帰ると、また姉が部屋を散らかしていたので小言を言いながら片付けていた。

 

「だからどうしてお姉ちゃんは出したものを元の場所に戻さないの……っと電話?」

 

 仕事用ではなくプライベート用のスマホが鳴っている。相手を確認して直ぐ応答した。

 

「おーっす」

『寝子さん、今いいですか?』

「いいよ、どうした?」

『最近話題になっている怪談話をご存じでしょうか』

「しのぶが猫を苦手なようにボクがお化けを苦手だとしのぶさんはご存じなはずですが」

『はい、ご存じではあるのですが』

 

 狗尾は声を震えさせて返事をしたもののしのぶの声にからかいの色がないことから、気合いを入れて返事をした。

 

「すぅー、はぁー。よし、怪談話がなんだって?」

「どうやら実在するみたいなんです。真菰が髪飾りを盗られて、絶対に取り返すと息巻いてまして」

「は、え? ま、真菰に怪我は?」

「被害は髪飾りだけです、怪我はありません」

「それは良かったけど、良くないな。よりによってあの髪飾りか」

 

 校務員の鱗滝さんから貰ったという狐のお面を模した髪飾り。常に身に付けていて大切なものだとはにかみながら真菰が言っていた。

 

「うん、事情は分かった」

『では』

「明日、宇髄たちが夜回りするって言うから……ボクもついていって」

『すみません、それでは遅いんです』

「へ?」

『今、錆兎くんから借りた木刀を片手に学校へ侵入しようとしている真菰を校門で止めているところです』

『どいてしのぶ! あいつ殴れない!』

『はいはい落ち着きましょうね』

「えぇ……?」

 

 思わず困惑の声が漏れたが、深夜に外出とは危ないことをする。説教は後にするとして早く迎えに行かねばと、狗尾は外出の準備を始めた。プライベート用のスマホを鞄へ、仕事用は置いていくかと手に取ったところで着信が来る。目に入った送信者は、今夜連絡先を交換したばかりの胡蝶カナエであった。

 

「ひえっ」

 

 そういえばカナエも二次会はするりと抜け出していたはずだ。震える指でなんとかスマホを操作する。

 

「……はい、狗尾です」

『狗尾先生! しのぶ、しのぶを知りませんか!?』

「わ、と。しの、妹さんなら学園前にいると連絡があって、今なら迎えに行くところです。ええと、一緒に行きますか? 車出しますから、詳しい事情はそのときに」

『……っ、はい。お願いします』

 

 狗尾は自宅と学園、胡蝶家のルートを脳内で検索し、遠回りにならないと結論付け提案した。カナエの切羽詰まった様子に、抱いていた苦手意識は吹き飛んでいる。

 車を飛ばして、カナエを助手席に押し込んだ。今更ながら飲み会で飲まなくてよかったと胸を撫で下ろす。狗尾は未成年にしか見えない容姿のためアルコールを頼みにくいし、そもそも下戸ゆえ飲めない。カナエは事情を聞き、いつもの笑顔はどこへやら、真顔で目を細めている。コワイ!

 

「あの、確かに今回の行動は危険なものです。でも、妹さんは友達を想って起こした行動なのですから、どうか穏便に……」

「違います。いえ、しのぶのこともお友達のことも心配なのは確かですけれど」

 

 カナエはバックミラー越しに狗尾の目を見つめた。

 

「すみません、しのぶが真っ先に狗尾先生を頼ったと思うと、少し嫉妬してしまいました」

「え?」

「だって、狗尾先生は怪談話苦手でしょう? それでも、あの子は狗尾先生を頼りました。昔は、何かあれば姉さん姉さんって言ってくれたのに」

 

 カナエはもう一度、ごめんなさい、と謝り黙り込む。狗尾は何度か口を開こうとしては閉じ、赤信号で停まってようやく、カナエの方を向いて口を開いた。

 

「それは、カナエさんのことが大好きだからですよ。大好きな姉に対して、妹は心配かけたくないし、カッコつけたくもなるんです」

「……そうなんですか?」

「はい、そうなんです」

 

 ふにゃりと、普段浮かべる笑みとは別物の笑みを浮かべる。

 それから間もなく学園に辿り着いた二人は無事にしのぶ、真菰と合流を果たした。

 

「気持ちは分かるけど、まず大人に相談しましょうね」

「……はぁい」

「なんで姉さん連れてきたんですか……」

「にゃはは、まぁ大人しく怒られるこった」

「じゃあ、行きましょうか」

「うん、帰ろう……どうして校舎に向かうんですカナエさん?」

「可愛い妹のお友達に手をだすなんて、あつーいお灸が必要でしょうから、うふふ」

「あ、酔ってる? さては酔ってるな!?」

 

 にゃーにゃー喚く声は虚空へ消えていく。次の日から怪談話は鳴りを潜め、真菰はいつも通り髪飾りを身に付けて学園へ通うのであった。

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