猫は蝶にじゃれつく   作:白虎しゃも

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縁側に寝転ぶ猫

【視点・狗尾寝子】

 

 ポカポカの陽だまりに包まれて、うつらうつらと船を漕ぐ。ハッと目を覚ますと目の前でひらりひらりと蝶が舞っていた。

 

「あれ? うーんと……あ、そっか」

 

 膝をポンと叩く。夢うつつな脳みそがようやっと現状を理解した。

 ボクは狗尾寝子、鬼殺隊員で階級は甲。現在、蝶屋敷にて療養中。朝早く目が覚めたから少しお散歩をして、縁側で微睡んでいたところ。

 

「ふわぁ……ねむ」

 

 懐かしい夢を見ていたような気がする。ちょうど、しのぶと真菰が鬼殺隊に入る頃の夢。心地の良い懐かしさだったと、くつくつ喉を鳴らして笑いながら、聞き覚えのある足音に振り向いた。片手をあげて挨拶をする。

 

「おーっす」

「おーっす、ではありません。全身の筋肉を痛めている人がフラフラ出歩かないでください」

「にゃはー、猫だから大丈夫だよ」

「またそれですか」

 

 眉間にシワを寄せながらも連れ戻すつもりはないらしい。しのぶはちょこんと隣に腰を下ろした。

 

「薬の研究は順調?」

「薬ではなく毒ですよ。率直に言いますとそちらの進捗はあまり芳しくないですが……」

 

 鞘に入ったままの刀を腰から取り外し、少しだけ刀身を出す。刀と言うには細すぎるそれに首をかしげた。

 

「なにそれ?」

「この部分、鞘に仕込んだ毒を装填することが出来るんです。そして、刺突で相手の体内に注入できます」

 

 しのぶが鯉口を鳴らすと、鞘の中で仕掛けが動く音がする。これは、なんとも。

 

「かっけー!」

「でしょう?」

 

 いいな、ボクも刀に何か仕込んで……いや、そんなこと言ったら『俺の刀に何をする気だオラァ!?』ってなるな。やめておこう。それよりも目の前にあるかっけー刀について語ることにした。

 

「まさしく蝶のように舞い、蜂のように刺すって感じだな。だから蟲の呼吸ってことか」

「えぇ、良い名でしょう?」

「ボク、脚が六本以上ある生き物は苦手でなぁ」

「奇遇ですね。私も脚が四本あって毛むくじゃらの生き物は苦手なんです」

「えっ、それはもしや……猫のことをおっしゃってる?」

「犬なども含みますよ」

「いや、え、猫だよ? 猫なのに?」

 

 しのぶは何も言ってくれない。

 

「……この話やめよっか! それで、毒の進捗ダメなのか? 鬼を殺せる毒は出来たって聞いたけど」

「人を一人か二人、いえ二桁いかないほど食べた鬼くらいなら殺せるでしょう。ですがその上、血鬼術を使えるくらい人を食べた鬼は殺せません。ましてや十二鬼月、そして鬼舞辻無惨を殺す毒には、まだまだです」

「うへぇ、血鬼術使えるような鬼なんてロクなのいないもんなぁ。十二鬼月とか十二支と似ててムカつくし」

「十二支のくだりは分かりませんが、狗尾さんがうちに来ることになった原因は血鬼術と聞きましたね。どんな鬼でした?」

「酷かったよ。身体の一部を霧に出来て、その霧で体内に入ってこようとするから全然カウンターが出来なくて」

「へぇ、どうやって倒したんです?」

「こう、ちょろちょろっと鬼が来たからカッと猫になって」

「相変わらず自分のことを人に教えるのが下手ですねぇ」

 

 自覚はある。誤魔化すように声をあげて笑った。

 

「にゃはは、ボクのことが知りたい? いいぞ、可愛い妹弟子の質問なら何でも答えよう!」

「どうしてそんなに真菰に嫌われているんですか?」

「き、嫌われてないし! ……ないよね?」

 

 しのぶは何も言ってくれない。ただ静かに微笑んでいる。言い逃れは許さないという圧を感じる笑みだった。口をモゴモゴさせてから、ようやっと舌が回り始めた。

 

「えーと、真菰の剣筋は不思議なのはしのぶも知っての通り。あれはどうやってもいなせなくて何本もボクの木刀が折られた訳で」

「よく転がされてましたね」

「とても嬉しそうに転がしてくるよなアイツ……でも、感情が高ぶると、特に激昂したときとかには剣が鈍る。鈍るというか普通になるんだ。普通の小さな女の子が振るう剣」

 

 あまりにも弱々しいそれは、見ていて痛々しい。ボクなんかよりずっとずっと強い鬼への憎悪が、真菰を生かしながら殺していて悲しかった。

 

「鬼を前にしたときに怒らないで刀を振るうなんて土台無理だけどさ。怒りを剣に出さないようにするのは必要なわけで」

「つまり何をしたんです?」

「猫だましとか砂かけとか」

「怒るというか、驚くというか」

「一番怒らせたのは、うんまぁ、頬に接吻したとき」

「うわぁ」

「あれ以来ボクを変態さんと呼ぶようになったな……」

 

 遠い目をしてから空を仰いだ。とても青い。いい天気だ。

 

「とりあえず姉さんに近づかないでくださいね」

「ボクのことを慰めてくれたっていいんだぞ?」

「自業自得じゃないですか」

「そうなんだよなぁ」

 

 落ち込んで丸まる、と身体が軋んで痛かったのでごろん、と寝転んだ。しのぶもそろそろ休憩はおしまいです、と立ち上がる。そのとき、カラスが空を旋回しながらやってきた。

 

「カァー! カァー! 水柱ヨリ伝令! 狗尾寝子! 胡蝶しのぶ! 狭霧山ヘ向カエ!!」

「狭霧山……鱗滝さんに何かあったのでしょうか?」

「おーいカラス、錆兎は何だって?」

「用件ハ直接話ス! ホラ、サッサト行ケ、ウスノロ!」

「にゃーん? 焼き鳥にすっぞコラ」

「毎度毎度、鎹烏と喧嘩しないでくださいよ……」

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