猫は蝶にじゃれつく   作:白虎しゃも

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胡乱

【視点・竈門炭治郎】

 

 錆兎さんは力強くて、皆を大切に思っている匂いがする。義勇さんは口下手だけど、とても優しい匂いで、寝子さんはいつも一生懸命頑張っている匂い。しのぶさんは一つのことに夢中になっている匂いだ。そして皆、どこか悲しい匂いがする。

 ……今、目の前のしのぶさんからは怒りの匂いしかしないけれども。

 

「炭治郎くん」

「は、はい!」

 

 しのぶさんは笑顔のまま禰豆子を優しく抱き締めた。

 

「うちの子にします」

「ごめんなさい!!」

 

 額を地面につけて謝る。本気だ。本気の匂いがする! 今すぐにでも連れて帰るという強い意思を感じる!

 

「鬼舞辻無惨の匂いを感じたから駆け出した、なるほどなるほど、分かりますよ。鬼舞辻無惨がいると分かったら誰だって追いかけます。それで? なぜ私と禰豆子さんを置いていったのです?」

「それは……」

「人を頼りなさい、私はこれでも炭治郎くんよりずっと長く鬼殺隊にいます。妹から目を離してはいけません、貴方だけの問題ではないのですから」

「はい、すみません……」

 

 項垂れる俺の肩をポンポンと叩いたしのぶさんは、いくらか怒りの匂いを和らげた(それでもしっかりと怒っている)。

 

「それではお客さんもいるようですし、その伸びきったおうどんを食べたら出発しますか」

「あ、はい!」

 

 勢いよくうどんを啜り、よく噛んで食べる。おいしい、伸びる前はもっとおいしかっただろう。申し訳ない。

 

 うどんを食べ終わる頃、愈史郎さんが迎えに来てくれた。禰豆子が警戒していたので宥めていると、スッと姉弟子が前に出る。

 

「なんだこの女、近づくな、離れろ」

「貴方も人を食べた気配がしませんね、でも、禰豆子さんとはまた違った気配です。とりあえず一本いっておきますか」

「いかないでください」

 

 興味津々に愈史郎さんを観察し、日輪刀に手をかけたまま、空の注射器も取り出したしのぶさんを手で制する。

 

「ちっ、なぜ珠世様はこのような奴等を迎えいれようとするのか、俺には理解できない」

 

 悪態をつきながら歩く愈史郎さんについていくと、匂いも何もしていなかったところに家が出てきた。なんというか、影の薄い家で、今でも家があるということを強く意識していなければ見失ってしまう。

 

「へぇ、血鬼術。人を食べずとも使えるものなのですねぇ、いつか禰豆子さんも使えるようになるのでしょうか?」

「むー?」

 

 これが愈史郎さんの血鬼術、すごい。俺一人じゃ絶対に見つけられないぞ。愈史郎さんは止まることなく進んでいき、家の奥へと辿り着いた。珠世さんがこちらに気づいて顔をあげる。

 

「ようこそ」

「あの、さっきはありがとうございます。助かりまし……」

 

 お礼の言葉の途中で、しのぶさんが刀を抜いた。

 

「え?」

「っ!」

 

 愈史郎さんが珠世さんを庇うように立ちはだかる。しのぶさんは流れるような動作で、切っ先を二人に向けた。

 

「珠世さん、と言いましたか。貴女は人を食べましたね?」

「…………」

「それもかなりの人数、普通の鬼とは異なる非常に複雑な気配ですが、間違いありません」

 

 眉間にシワを寄せて、憎悪に満ちた顔をしている。珠世さんは悲しそうな顔をして、ゆっくりと頭を下げた。

 

「言い訳を、するつもりはありません。私は多くの人を殺めました。その贖罪のためにも鬼舞辻無惨を抹殺します。それで私が赦されるだなんて露にも思いませんが、今ここで死ぬわけにはいきません」

「そうですか」

「今は人から少量の血を分けていただきながら生き永らえています、どうか鬼舞辻を殺すまでは、猶予をくださいませんか。その後は逃げも隠れもしません」

「珠世様!」

「……」

「しのぶさん」

 

 嘘の匂いはしない。なにより、ああ、なんとも自分本位な話だけれども、珠世さんたちなら禰豆子を人に戻す方法や鬼舞辻無惨を倒す方法を知っているかもしれない。だから、どうか刀をおさめてほしい。

 

「鬼の言うことに耳を貸すつもりはありません」

「しのぶさん!」

「ですが……炭治郎くんから貴女達の行いを聞きました。近くに、人を食べたことのない鬼の気配がしますね。彼は人を食べずに済みますか?」

「……ええ、もちろん。最善を尽くします。必ず人を殺めさせません」

 

 珠世さんを冷たく見据えていた視線が、こちらの方へ向いた。

 

「炭治郎くん」

「は、はい?」

「聞きたいことがあるのでしょう? 邪魔をしましたね。どうぞ、私は黙っていますから」

 

 刀が鞘に仕舞われる。今にもしのぶさんに殴りかかろうとしている愈史郎さんを羽交い締めにしながら、ほっと息をついた。珠世さんに窘められてようやく暴れるのをやめた愈史郎さんから離れ、禰豆子の手を握る。

 

「あの、珠世さん! 禰豆子を、妹を人に戻す方法はありませんか?」

「……今はありません。ですが、可能性はあります」

 

 鬼を人に戻す薬、珠世さんが開発しているもの。それがあれば禰豆子は人に戻せるし、鬼舞辻を人に戻して倒すことが出来る。そのために、禰豆子の血や鬼舞辻に近い鬼の血を調べる必要があるらしい……ん? それって……。

 

「決めました」

 

 愈史郎に殺気を込めた目で睨まれながら、気にした様子もなく本棚から取り出した書物に目を通していたしのぶさんが顔もあげずに声をあげた。

 

「ここに住みます」

「しのぶさん!?」

 

 いったい急に何を言い出すんだ!? 珠世さんからは戸惑いの匂い、愈史郎さんからは嫌悪感を濃縮したような匂いがし始めた。コロコロと笑うしのぶさんはとても楽しげだ。

 

「素晴らしい、素晴らしい鬼の研究です。集積された知識と技術。失うには惜しい」

 

 笑っている、怒っている。楽しんでいる、憎んでいる。

 

「こちらから提供するのは禰豆子さんの血液の記録二年分、下弦の鬼の血のサンプルです。いかがですか?」

「……良いのですか?」

「ええ、これは取引ですから。代わりに貴方の研究結果を貰います。そうですね、つまりは」

 

 彼女はすべてを飲み込んで、ゆっくりと、手を差し伸べた。

 

「貴女の何百年という時間を私にください」

 

 ……なんだか違う意味に聞こえる!

 

「あぁ、あと貴女の身体も診せてくださいね。珠世さん?」

「愈史郎さん落ち着いて愈史郎さん!!」

「がぁぁぁ!!」

 

 それから、愈史郎さんが落ち着くまで夜明けまでかかってしまった。

 

 

 

「それでは、何かありましたらこの子を行かせますので」

 

 今後のことを話し合った後、連絡を取り合ったり物資を運んだりするため、茶太郎という三毛猫を紹介される。一鳴きで姿を隠せるすごい猫だ。

 

「ひっ」

「え?」

「炭治郎くんその生物を私に近づけないでください」

「え、え? 猫、苦手なんですか? 寝子さんは大丈夫なのに!?」

「だから狗尾さんは人ですからね!?」

 

 

 

【視点・狗尾寝子】

 

「浅草といえば花やしき!」

「花屋敷? カナエさんの別荘?」

「にゃふふ、花やしきとは! 遊園地! じゃなくて動物園? 植物園だったかもしれない?」

「どれなのさ」

「知らん!」

 

 行ったことないから! 真菰は深く深く溜め息をついた。

 

「そういや、しのぶが任務で浅草に来てるって言ってたな。見かけたら誘って行ってみようぜ」

「ねぇ、もしかして」

「うん」

「この鬼たち、しのぶの獲物だったんじゃない?」

 

 鞠を投げつけてくる鬼に綺麗好きで真菰曰く力を操る鬼。鞠は全ていなして打ち返し、真菰はボクには見えなかったからよくわからんが、敵の血鬼術をひょいひょい躱して、どちらも首を斬り落とした。やっべ。いや鬼殺にやばいもなにもないが、しのぶが拗ねるかもしれない。

 

「……あ、ほら血をとってお土産にしようぜ。身体が崩れきる前にさ」

「いいね。この前、義勇が下弦の鬼の血を渡したときに見せたしのぶの笑顔が忘れられないんだよね」

「それな」

 

 だってなによりも喜ぶのだもの。そんなことを言い合いながらボクたちはせっせと鬼の血を集めるのであった。

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