太陽光に体勢があってもヴァンパイアにとって気分のいいものでは無いのです。
アサヒを保護してから数日、森で出会ったゴブリンを下僕として屋敷に連れ帰りアサヒの看病を任せていたが、ガヴァンは不満な事があった。
「引っ越したい。」
そう、このボロ屋敷を手放そうと言うのだ。
屋敷で過ごした思い出は長い眠りの間でほとんど失われ、残ったのは雨風凌ぐのがやっとのボロ屋敷だけ。
おまけに陽の光が刺してくるので過ごしずらいし、衛生面的にもアサヒが病気になる可能性を危惧している。
「アサヒは私がおんぶしていけば良いし、最低限の家具ならゴブリン達に運ばせれば良い。魔物が大勢住む大森林なんだから、建物譲ってくれる魔物とか亜人種とかもいるかもしれないよね。うん、引っ越そう!」
「…その話する為だけに全員呼び出したんですか?」
「そだよ〜。」
「せめて移住先決めてから呼んでくださいよ。」
「だから今からその移住先を探しに行こうって言ってるんじゃないか。」
「えぇ!今からですか?!」
「善は急げって言うじゃない?思い立ったが吉日とも言うしさ。」
「はぁ、まぁ俺らも血を分け与えられた立場なんで従いますけど。」
ヴァンパイアのガヴァン。
一度思い立ったら止まらなかったりする。
そんなこんなでガヴァン達は旅立った。
ガヴァン本人と彼に背負われたアサヒ、そしてガヴァンの血で強化されている三十人前後のゴブリン達。
食器や寝具や衣類で持ち運びが楽な物だけを持ち運び、事前に集めておいた食料も持ってひたすら歩き続ける。
ゴブリン達は自分達の集落以外の集落に心当たりは無く、ガヴァンも150年前の土地感覚なので、もはや誰も頼りにならない完全なる手探り状態。
昼間の内にオーガの群れにでも出くわせば一巻の終わりである。
「しかしこんな調子でホントに移住先なんて見つかるんのかねぇ?」
「お!見ろよ、何か人工物が見えてきたぜ!」
「マジかよ…。」
意外や意外、初日の昼過ぎという予定より早い段階で建物を見つけた。
だが、見たところそれは気で作られた塀のようなものだった。
「ふむふむ、木製の防壁と言った所かな?この向こうに賢い種族がいることは間違いないだろうね。」
「何か声聞こえてきません?」
「私は耳がいいんだ。どれ、アサヒを抱っこしておいてくれないかな?壁に耳を当ててよく聞いてみよう。」
そう言うとガヴァンは壁に耳を当てて壁の向こうの声を聞いた。
「ふむふむ…うーんなるほど?これ光魔法の詠唱呪文だね。」
ピカッ!と壁の向こうで強く大きく光った。
あまりの眩しさにガヴァン以外の全員が目を閉じる。
その隙をついて壁の向こうの種族、エルフ族が姿を現し攻撃を仕掛けようとした。
「下劣な人間共め!私達は決して貴様らには屈しないぞ!」
どうやら人間と勘違いして迎撃しようとしているらしい。
だが何故人間に対して攻撃的なのだろうか?
ゴブリン達は何とか身を守ることが出来たものの、持ってきた食器や寝具は、エルフ達が放った魔法や弓矢を受けて壊れてしまった。
「壁越しの迎撃射撃では正確に対象を射抜くことは出来ないみたいだね。それでも私の持ってきた物は壊れたようだけども。」
相手にも事情があるとは言え、相手の顔も見ずに敵と決めつけ襲いかかったエルフに対して流石に少しイラッときた。
ガヴァンはひょいと一飛びで壁を越えてエルフ達の前に姿を見せた。
「これはこれはエルフ族の皆さん、ご機嫌麗しゅうございますねぇ。」
「なっ!人間がどうやって壁を乗り越えた!」
「待って!あいつ人間じゃない!」
「あ、あの目はまさか……ヴァンパイア!!」
「お?知ってるなら話が早い。ヴァンパイアである私が陽の光を克服しているという事が何を意味するか分かるかな?」
「くっ…。」
エルフは植物や風や光の魔法を得意とする。
しかしヴァンパイアの弱点である光の魔法に対して耐性があるガヴァン相手に、エルフ側から繰り出せる有効な攻撃は存在しない。
「だが、いくらヴァンパイアでも我々エルフ全員を一人で相手するなど不可能!」
「誰が一人で相手するなんて言った?」
「なに!?」
そう言うとガヴァンは拳一つで木製の壁をいとも容易く破壊した。
「ひぇっ…。」
流石のエルフ達も、日光で弱体化した上でのこの怪力には血の気が引いた。
さらにその奥には三十人以上のゴブリンまでいた。
「恐ろしいヴァンパイアめ…何が目的なんだ!」
「まぁそう警戒なさらず。今のは私の持ってきた食器や寝具を壊されたことに対する腹癒せ。争いに来たわけじゃないんだよね私達は。」
「争いに来たわけじゃないだと?」
「さて、こっちはリーダーである私が直接話してるんだ。そっちもリーダーが直接出たらどうなんだ?」
「族長様を出せ…という事か…?だか…。」
「皆さんは下がっていてください。後は族長である私が何とかします。」
「で、ですが族長様!」
「おー話が早いじゃんか!私ガヴァン、そっちは名も無きゴブリン達と勇者アサヒ。彼女の面倒を見るのに私の住んでいるボロ屋じゃ都合が悪いから家が欲しいって事で来ました。ここまでOK?」
「え、ええ。大丈夫です。」
「いやぁすいませんねぇ吸血鬼ってどうしても血の気の多い種族なもんで、イラッとくると手が出ちゃって。無闇矢鱈に命奪ったりしないんで、衣食住保証してもらえれば他には何も求めないんで家譲ってもらえませんかねぇ?」
(断れば一族が滅んでしまう…致し方ありません…)
「わかりました。家を譲りましょう。」
「話が早くて助かるぅ!そんじゃ色々話したい事もあるんでとりあえずゆっくり話し合える場所に行きましょうか『二人っきり』で。」
「……護衛を一人連れていくのは」
「ダメです、一対一の対等な立場での話し合いです。」
ガヴァンは真面目に対等な立場で話し合うつもりでいるが、相手からしてみれば護衛無しは不安でしかない。
かと言って逆らえる立場でも無い。
本人が気付かないうちに恐怖による支配という構図が出来上がってしまっていた。
ゴブリン達とアサヒは別室で待機し、ガヴァンはエルフ族の族長エレフィアと、話し合いを初めていた。
「改めまして自己紹介しましょうか。私の名前はガヴァン。ヴァンパイアのガヴァンです。」
「…エルフ族の長、名はエレフィア。」
「表情が硬いですよぉ?もっとこうリラックスして!」
ガヴァンがそう言うとエレフィアは明らかに怒ったような顔になった。
「対等な立場…ふざけた事を…。」
「ん?何か?」
「何でもありません!!」
ガヴァンは何故怒っているのか分かっていない。
ガヴァンは気を使って場を和ませようとフランクな態度で接したが、エレフィアからすれば逆らえない立場の相手をおちょくっているように見えたようだ。
「まぁそうカリカリしなさんな。取って食ったりしませんから。私はエルフの皆さんと協力関係を築きたいだけですよ。」
「強力関係…?」
「見たところ皆さんは人間を嫌っている様子、下劣な人間とまで扱き下ろしていましたよね?」
「当たり前です。奴らは我々エルフを人とすら思っていない。集団で我々の村を襲撃し奇妙な術で弱体化させ、誘拐し、まるで道具のように使い捨てるのです。これ以上奴らの好きにさせるわけには行かないのです。」
「なるほど、考える事は一緒ですね。」
「考える事は一緒…まさか私を!?」
「あーー違う違う!なんですぐそういう解釈するんだ!労働力はゴブリン達で間に合ってるの!」
「労働力では無い…まさか体が目当て!?」
「だから!違う!そういうのじゃないから!」
「では何が目的だと言うのですか!」
ガヴァンは一呼吸置いて心を落ち着かせてから話し始めた。
「簡単な事さ。エルフ族と我々で協力して国を潰すんだよ。」
「なっ!なんと野蛮なことを!」
「野蛮だって?あんたらも無差別に攻撃してたじゃないか。まぁとにかくこっちの事情を話すとしよう。さっきいた人間覚えてる?あの子アサヒちゃんって言うんだけどさ、とある国が異世界から召喚した人間でね?魔王討伐に利用した挙句に用済みになったから捨てられたんだ。多分あんたらの仲間を誘拐した連中も繋がってる。私はそいつらが気に食わないから潰したい。」
「だから協力者を探していると?」
「そゆこと。まぁエルフは自称高貴な種族だから争いは好まないだろうし無理にとは言わない。戦力なんてこの広大な大森林を探し回ればそのうち見つかる。その拠点として機能すればそれで十分。分かる?私が言ってること。衣食住提供してくれれば拐われた仲間を連れ戻すの手伝うって言ってんの。」
「国を潰したとして、次は何をするのです?」
「そんなこと今は考えてない。国を潰す事が目的って言うよりクズ共を潰したいだけだから。性根が腐った連中に身の程ってのを思い知らせる。それ以外はどうでもいいし、なんなら君らがすきにしてもいい。仲間は帰ってくるし国も手に入る。交渉材料として悪くないんじゃない?」
「我々エルフは森と共に生きる種族…森を離れるつもりはありません。それに我々が強力したからと言って国との戦争に勝てるとは限りません。」
「あっそ。まぁ何でもいいけどとりあえず家は借りるからね?」
「それは…構いませんが…。」
「おっけ。とりあえず交渉成立。君らは村を守る事に集中していればいいよ。私は今から森に住む魔物達を勧誘してくる。念の為に言っとくけど私がいない間にゴブリン達やアサヒに手を出したらこっちも同じ数だけ君らの同胞を狩るから、そこんとこよろしく。」
そう言い残してガヴァンは族長の家を出ていった。
「くっ…汚らわしいヴァンパイアめ…真の目的は一体何だというの…私が真実を見抜かなくて…。」
協力を得られると思って考えてる事をそのまま話したガヴァンの考えとは裏腹に、エレフィアはガヴァンが何か隠し事をしていて真の目的は別なのでは無いかと邪推していた。
「エルフの長エレフィア…なんか話の通じない人だったなぁ…。もしかして私が高圧的すぎたのかな?そんなつもりなかったんだけどなぁ…。」
悩みながら森を歩いているうちに、ガヴァンは魔物に遭遇した。
「おや?その巨体…君たちはトロルか何かかな?」
「ダレだオマエ?ニンゲンか?」
「質問に質問で返すのは癪に障るけど、野蛮な種族として有名なトロルが喋れるという事は、君がこの群れのボスという事かな?」
「ニンゲン敵。ニンゲン殺ス!」
「私はヴァンパイアなんだがなぁ。話が通じない相手には強行手段を取るとしよう。」
トロルのボスは手に持っていた大きな棍棒を振り下ろしたが、ガヴァンは既にその場所にはいなかった。
素早く攻撃を避けたガヴァンはすかさずトロルの皮膚に爪を刺した。
トロルの皮膚は生半可な刃物では切り下げない硬さだが、ガヴァンの爪は金属も貫く貫通力を持っているので彼らの皮膚を貫き引き裂く事など容易いことだ。
「さあ、私の血を分けてやろう。これでお前たちは今まで以上に強くなれる。その代わりにお前たちは私に逆らうことはできなくなる。これでお前も私の血を分け与えた仲間だ。」
「グッグオォ…。」
「ボス個体の魔物が強くなれば配下の魔物も連動して強化される…群れを強化しつつ全員まとめて配下にできる…我ながらとんでもないスキルだなこれは…。」
その後もガヴァンは、トロルを初めとした大森林各地に住む魔物達を下僕として迎え入れた。
知能の低いトロルは話を聞かなかったが、森に住む他の魔物オークやトレント、フォレストドレイク(森に住む龍系の魔物)などは人間に恨みがあるためガヴァンの誘いを快く受けてくれた。
こうして一晩のうちに百体以上の魔物を従えて、翌日の夜明け頃にエルフの村へと帰ってきた。
「お、帰ってきたんすねガヴァン様…て何ですかその魔物達は!」
「この人達みんな私達に力を貸してくれるってよ。同胞を殺された怒りや森を削られた怒りがあるんだってさ。」
言うまでもないが、村に住むエルフ達はものすごく怯えていた。
各種族単体ならまだしもこれだけ多様な種族が一箇所に集まり、そのほとんどがガヴァンの血によって強化されているのだ。
敵意がないと分かっていても恐ろしいものは恐ろしい。
「さてと、しばらくはこの程度で足りるだろう。」
仲間を集めたガヴァンの次の目標は何なのだろうか。
本編で語られない設定を語ろうのコーナー
アサヒは異世界から呼び出されて突然勇者にされた。
異世界人は召喚直後に洗脳教育を受ける場合が多く、アサヒも魔物は人類の敵という教育を叩き込まれていたが、それに関してはイマイチ理解していなかった。
年齢は推定13歳前後であり、昔から魔法少女とかより恐竜に憧れるタイプの子だった。
どんな武器や防具でも扱える「完全武装」のスキルと、頭に思い浮かべた生き物を召喚できる「幻獣召喚」のスキルを持っている。
一番好きな恐竜はもちろんティラノサウルスだし、ティラノサウルスの背中に乗りたいと思っている。
ガヴァンの事は恩人として感謝はしているが、まだ三割ぐらいしか好きになって無いし、魔物は悪いやつと教わったので五割ぐらいは信用していない。