いくらエルフ達が誘拐されて人が減ったと言っても、流石に大柄な種族が大勢押し寄せれば居場所が無くなる。
「労働力は充分集まったし、そろそろこの村を拡張するとしようか。」
ガヴァンが魔物達を集めた理由は、単なる戦力拡充だけでは無い。
大森林に住む魔物の中でも体格が良い魔物を中心に集めていたのは、彼らを労働力として動員するためだった。
「トレントは木を操ることができる。その木を素材としてエルフ達の家を再現した建物を建築する。運搬はトロルやドレイクに任せて、細かな作業はゴブリンに任せる。まずは最優先でトロルやドレイクが住めるような大きな建物を作ろう。」
ガヴァンの指示でエルフ村の拡大が始まった。
しかし、予想より早い段階で問題が発生した。
「ガヴァン様!大変です!」
「ん?どしたの?」
「この村には家を作る方法を知る人物が誰一人としていません!」
「な、なんだと!?」
「しかも家を作るために必要な道具もありません!」
「なんで!?」
「エルフ族の技術者は人間達に誘拐されてしまったそうです!」
「そこは盲点だったぁ!」
そう、今や彼らはまともに村を維持することも難しい状況だったのだ。
狩りを得意とする物や果物などが取れる場所を知る物は積極的に外に出るため高い確率で誘拐される。
そして技術者は人間に抵抗するだけの力を持たない者が多く、村が襲撃を受けた際に真っ先に狙われたそうだ。
加えて他のエルフ族の集落は既に壊滅状態であり、この村が最後の一箇所だったのだ。
「人間共め…思ったより被害は大きいようだな…。しかし技術者がいないならどうしても他所から協力者を探す必要があるだろうな。」
「そうですねぇ…あっそうだいい事思い付いたぞ!ドワーフを頼ってみてはどうでしょうかね?」
「ドワーフ……ドワーフかぁ……背は低いけどゴツくて髭面のおっさんがいっぱいいるイメージだし、正直近寄り難い雰囲気あるよなぁドワーフ…。」
「そりゃ典型的なドワーフって感じのイメージっすねぇ。でもここ百年ぐらいの間に結構雰囲気変わったって聞きますし大丈夫なんじゃないすか?」
「うーん…まぁリーダーの私が四の五の言ってる場合じゃないよなぁ…気は進まないけど。」
「ドワーフ族は確か洞窟の中に集落を作って暮らしてるとか聞いたっすね。人間との関わりも深いとか…。」
「人間との関わりが深い…か。まぁ背に腹はかえられないからなぁ。とりあえずエレフィアさんと話し合ってから決めよう。一応エルフの村の事だし。」
という訳なのでエルフ族の長エレフィアに直接話してみた所。
「冗談ではありません!誰がドワーフ族の手など借りるものですか!」
「えぇぇぇ……。」
エルフとドワーフは仲が悪い。
水と油、犬猿の仲、エルフとドワーフはそういう関係なのだそう。
「500年前に初めて遭遇したあの日から我々エルフは決してドワーフと和解できないと確信しています。何なら私がエルフとドワーフの接触を禁止しました。」
「いや、500年前の事とか知らないよ。500年前に決めたルールより今目の前に迫ってる滅亡の危機の方が重要でしょ?文句言ってる場合じゃないんで腹括ってよ。」
「許可を出すつもりはありません!仮に私が受け入れたとしてもドワーフ側もエルフに力を貸すつもりは無いはずですのでどの道無駄です!」
「そうは言ってもだよ?ドワーフはエルフより短命だから500年前なんてもう何世代も前のドワーフの話だ。ゴブリンが言うには近年のドワーフは雰囲気が変わったって言うし、可能性はあると思うんだよ。」
「ああそうですか!そこまで言うなら良いですよ!万が一にもドワーフが我々に協力すると言ったのなら私も素直に受け入れましょう!そんな事は絶対に有り得ませんけどね!」
「その言葉信じて良いんだろうね。後で取り消しとかなしだよ?」
と、言うわけで。
ガヴァンは早速ドワーフとの交渉のために遠征隊を組んだ。
大森林の隣り、双子鉱山の地下に存在するドワーフ王国が目的地なのだが、大森林の中心にあるエルフの村からドワーフ王国まではかなり距離があるため、移動にはドレイクを使用した。
ドレイクは高い脚力と鋭い爪で壁を登り、翼によって滑空する事が可能なため、非常に高い機動力を発揮できる。
そのおかげでドワーフ王国までの道程は、一日しか掛からなかった。
「さて、あそこが国境警備かな。順番待ちの列は人間ばかりだけど、魔物の私達でも通れるのかな?」
「ドレイクは流石に無理かもしれないっすけど、ガヴァン様は知性も理性もあるヴァンパイアだし、俺らも真っ当なゴブリンなんで大丈夫だと思いますよ?」
「そう?そうか。そうならいいんだけどさ。」
列が進むにつれてソワソワしてきた。
王国を潰すと強気な事を言っていたガヴァンだが、内心人間と接触する事を避けたいと考えている。
いくら太陽光と銀製品に耐性があるからと言って刃物で刺されたら痛いし、記憶が曖昧とはいえヴァンパイアハンターに殺されかけた過去があるのだから、人間を警戒するのは至極当然。
しかもドワーフは優秀な鍛冶師が多く揃う種族。
銀製武器に限らず、ヴァンパイアに対して有効な武器も揃っているであろう場所に行くのだから、不安になるのも仕方がない。
「次の方どうぞー。」
「ハイ!」
ようやくガヴァンの順番が回ってきた。
「入国許可証持ってます?」
「あ、えと、持ってないです。」
「では何か身分証明ができる物とか持ってますか?」
「あ、いや、それも無いですね、はい。」
「国を出る前に許可証や身分証の発行してなかったんですか?」
「えーとですねぇ……。」
「あの、俺たち大森林から来た亜人種族なんですよ。村の状態が良くないんで、どうにか別種族から協力を得たいって事でドワーフ王国を尋ねたんですけど、どうにか通して貰えませんかねぇ?」
「あー大森林出身の方でしたか。たま〜にいるんですよねぇ大森林出身の方。そういうことならちっとお時間頂きますけど、まあとりあえず上の者と相談しないことには進まないですね。とりあえず着いてきてもらいますね。」
「あっ…はい……。」
「しっかりしてくださいよガヴァン様。」
「ごめん緊張しちゃってさ。」
入国審査官に連れられて待合室にやって来たガヴァンとゴブリンのリーダー。
リーダー以外のゴブリンとドレイク達は国境付近でガヴァン達が来るまで待機という事になった。
「お待たせしました。ガヴァンさんとゴブリンさんですね。とりあえず簡易的な身分証は用意できましたよ。」
「あれ、もうできたんすか?案外すぐできるんですね。」
「いやぁ一時期大森林からの移住者が増えましてね?特にエルフが多かったんですけど、大森林でどこかの国の人間に襲われて、必死に逃げた先にこのドワーフ王国があったって事らしいですよ?」
おや?
移住者にエルフが多くいる?
「え?ちょっと待って。エルフも来てるんですか?」
「はい、老若男女合わせて五人以上は来てます。」
「えっでもドワーフとエルフって仲悪いんじゃ…。」
「あーそれエルフのみなさんも言ってました。実はそれ勘違いでしてね?」
「か、勘違い?」
「ええ、何でも500年前にドワーフ王国の国王が初めてエルフ族の族長と出会った時に嫌われたそうで、その後エルフ族から一方的に接触を避けるようになって、我々ドワーフ族がエルフに対して悪いイメージを持ってたのもだいたい150年前ぐらいの事なんですよ。」
つまり、500年前のドワーフの王がエレフィアの機嫌を損ねた結果、エレフィアが一方的にドワーフ族との交流を拒否。
ドワーフが世代交代を重ねるにつれて、もはやエルフ族長とドワーフ王が対談した事自体が架空の出来事なのではと疑われ初めていた。
「マジか…やっぱエレフィアさんが変だったのか…。それで避難してきたエルフ族の皆さんは今どこに?」
「現国王の計らいで臨時の移民用住居を建設してありまして、そこに一時的に住んでもらってますね。」
「なるほど…。」
「質問の答えはこんなもので宜しいですか?」
「あ、はい。いや、やっぱもう一つ質問良いっすか?。
この国の技術者で村の復興とかに役立つ技術を持ってて、尚且つ最近暇してそうな人っていませんか?ご存知の通りエルフの村は酷い有様で、優れた技術を持つというドワーフの力を借りられたらと思ってこの場所へ来たんですけど。」
「なるほど。そういう事でしたら知り合いを紹介しますね。彼らならきっと力になれるはずですよ。」
そう言うと入国審査官は案内人と交代し、案内人はとある店へ案内してくれる事になった。
「いやぁしかしドワーフって意外と物腰柔らかな感じなんだね。てっきり頑固な感じの人達の集まりなのかなって。」
「いやぁその事についてなんすけどね?大森林に来た旅人からこっそり盗み聞きした話によると、亜人系種族がこぞって改革を進めてるらしくてですね?ドワーフも例に漏れずで、古き良き時代のドワーフ文化を残しつつ他種族からも色々と見習おうって方針になったらしいんすよ。」
「へぇ〜それであんな好青年って感じなんだ。古き良き時代の文化を残すって事はイメージ通りなおっちゃんもいるのかね?」
「まぁ職人は今でもそういう感じのおっちゃんばっかりって聞きますよ?」
そんな話をしているうちに、どうやら目的の場所に到着したようだ。
「着きましたよ!ここがゾッドさんのお店です。」
「ゾッド?という人が優れた技術者?」
「はい。店主のゾッドさんと従業員のシードルさんはドワーフ王国でも特に優れた技術の持ち主です。ゾッドさんは主に金属加工を得意とする方で、シードルさんは木を加工する技術が優れていますね。お互いの得意とする技術を合わせた様々な道具を作ってこの店で販売しているんです。」
「へぇ〜、たしかにこの剣なんか出来がよさそうだよね。まぁ素人だからよくわかんないけど。」
「店主のゾッドさんはこの奥にいらっしゃると思いますよ。それでは私はこの辺りで失礼しますね。」
案内人が退店した後、早速ガヴァンは店主がいるという工房の扉を開けた。
「失礼しますよっと。」
「ん?お嬢ちゃんウチに何か用かい?今丁度新作の剣を完成させようって所なんだが。」
「いや〜ちょっとご相談したい事があって来たんですけど、お邪魔でしたかね?」
「俺は今から仕事に集中しないと行けないんでな。話ならそっちで暇してるゾッドの方に聞いてもらってくれ。」
「ふむ、あなたがシードルさんか。そしてこちらがゾッドさんと。それじゃこちらも自己紹介。初めまして私ガヴァンと申します。そしてこっちは私の部下のゴブリンです。」
「へへっ、どうも!」
「おう、俺はゾッドでそっちがシードルだ。で、早速だが話ってのを聞かせてもらおうか。」
ガヴァンはゾッドに諸々の事情を話した。
「なるほど?そんで俺らを紹介されたって訳だ。」
「そういう事ですね。それで、引き受けていただけます?この仕事。」
「まぁ俺らも丁度デカイ仕事終わらせた所でな。しばらくは暇になるって事で引き受けられんこともないが、アンタら金は払えるのか?」
「うっ…流石にタダは無理っすよね。いや当たり前なんだけどさ。」
大森林に貨幣制度は存在しない。
最も文明が発展しているエルフ族ですら自給自足で生きてきたので、仕事をして金を稼いで店で物を買うというのはガヴァン達には縁のない話である。
ちなみにガヴァンの屋敷にあった物はガヴァンの先代のヴァンパイアが、人々から奪い取った物なので、ガヴァン自身が買い物をしたり略奪をした事は無い。
「タダで雇われるってのは出来ない話だ。だがここであんたに聞いてほし話がある。実を言うと、ここドワーフ王国は近い内に大森林の詳しい事情調査を行う予定だったらしいんだ。」
「ほほう?そりゃ興味深い話だね。」
「何でもここ数ヶ月でエルフに限らずオークやゴブリンまで避難してきたってんで、国もこの事態を重くとらえ始めたってワケよ。そんで現地で詳しく事情を調べ上げて、場合によっては援助として技術者を送る予定もあるんだとよ!」
「そうなってくれればありがたい話しだけど、何でドワーフ王国はそこまで大森林を気にかけてるの?」
「色々理由はある。まずあそこは木の質が良い。上質な木材は高品質な家具や道具を作るのに重宝する。そんで魔物が多く住む大森林は、迂闊に近づけば怪我をするって理由で移動の際に迂回する事が多い場所でもある。そして何よりエルフ族の存在が大きい。エルフの優れた魔法能力や長い寿命に注目し研究しようとする人間は少なからずいる。その全てが、万が一どこか一つの国に偏ったらだ。当然他所の国は気に入らねぇワケよ。」
「なるほど、そうなると当然と言えば当然なのか。」
「そんでもう一つ理由を上げるとしたら、初代ドワーフ国王の失態の尻拭いだろうな。」
「あぁぁ〜……そういう事……。」
500年前の出来事に固執するエレフィアに比べて、過去の過ちを正そうと行動に出ようとする現国王の有能さと来たら…と思うガヴァンであった。
「まぁ要するにだ。この仕事が終わったら俺は嬢ちゃんを大森林の代表として国王に紹介するつもりだ。」
「うえぇぇ!!ちょっと話が肥大化してないか?!」
「こう見えて俺は国から仕事を任される事もあるぐらい気に入られてるんでね。エルフ村の代表が来たって事を黙ってる訳にも行かねぇのよ。」
「うっ、それもそうか。」
「まぁ何にしてもまずは今の仕事を終わらせるのが先だ。まずは魔石採掘場に俺らが作った道具を届ける。話の続きはその後だ。」
鉱山洞窟の中の街から、さらに下に潜った場所にあるという魔石採掘場。
せっかくなのでガヴァンも見学することにした。
本編で語られない設定を語ろうのコーナー
シードルとゾッドは数年前に出会った比較的若いドワーフの職人。
シードルはドワーフにしては高身長で細めの体型なのに対して、ゾッドは背は低いが筋肉質という典型的なドワーフ体型。
仕事終わりに酒を飲むのを楽しみにしていて、最近一緒に飲むようになった大森林からの移民達の事を思うと、自分達も何か力になりたいと思う事もあった。
あと、酒場によく来るエルフの姉ちゃんが良い飲みっぷりなのでエルフに対しては好印象だったりする。