ここでの行動によってはドワーフ王国が大森林を守る方針をより強固なものにするかも。
かなり重大な仕事だけど大丈夫だろうか。
とりあえず頑張れガヴァン。
先程までの人々が行き交う町とは打って変わって、屈強な男たちが汗水流して働く現場の空気感が流れている。
ここは魔石採掘場。
魔石とは魔法道具全般の開発に必要不可欠な物であり、文明が発達している国ほど、より多く必要とする物である。
何よりこのドワーフ王国が他国との取引を行う上で最も重要視している資源だ。
故にこの魔石採掘場は一年中忙しい。
「ここが魔石採掘場だ。あのトロッコの中、赤いキラキラした石があるだろ?あれは炎の魔石だ。ルーン文字ってのを刻み込んだ道具に魔石を合わせると……………」
武器職人でもあるゾッドが熱く語り始めたが、ルーン文字が出た辺りからガヴァンは全く話を聞いていなかった。
話がつまらないからでは無く、光属性の魔石があったら嫌だなぁと思って周りをキョロキョロ見回していたからである。
「……ま、そういう訳で魔石ってのは必要不可欠な物たんだ。採掘場のヤツらには足向けて寝れねぇのが俺ら魔石加工の職人ってわけよ。」
「ガヴァンは興味無いってよ。それよりゾッド、もうそろそろ目的地じゃないか?俺はあまり深い所まで来たことないから分からないんだ。」
「おお悪ぃ悪ぃ、おーいおっちゃん達!頼まれてた新品の採掘道具持ってきたぜ!」
「おう!ゾッドとシードルじゃねぇか!この前までガキだったのに今じゃ立派に職人だなぁ!」
「よしてくださいよそんな。俺らなんてまだまだッスよ。」
「へっへっへっ、相変わらず自信なさげな感じだなお前さんは。そうだ、今から丁度昼休憩なんだ!せっかくだからお前らも一緒に昼飯食わねぇか?」
「昼飯?その話詳しく聞いても良いかな?」
「おや、誰が知らんが嬢ちゃんも一緒に食うかい?」
「ええ!是非とも!」
ガヴァンが目覚めてから大森林で食べた物の大半は果物や野草で、不味くは無いが味気ない食事が続いていた。
さっぱりしていて薄味な食事は健康的だが、そもそも吸血鬼が最も好きな食事は血液。
ガヴァンは雑食なタイプのヴァンパイアだが、やはり血や肉が食べられるならそれに越したことはない。
そして鉱山のドワーフの昼食ともなれば、力仕事をこなす為にガツンとした料理が出るのは間違いない。
久々の肉にワクワクが止まらない。
「早く食べよう!お肉あるんだよね!」
「まぁ落ち着きなお嬢ちゃん。昼飯は逃げたりしねぇからよ。」
早速昼食を取るために休憩所に向かおうとしたその時、タイミング悪く事故が起きた。
「マズイぞ!落石だ!上層の連中がしくじった!走れ!とにかく走って逃げるんだ!」
「落石だと!?ちくしょうよりにもよって大事な客がいる時に!」
ゾッド達からしてみれば最悪のタイミングだ。
国が求めている情報を持っているであろう人物が、たった今落石事故に巻き込まれそうになっているのだ。
万が一ガヴァンが重傷を負って会話もままならない状態になれば、ゾッドとシードルは一気に国からの信用を失う。
「ゾッド!ガヴァンさん!とにかくここから離れるぞ!」
「おう!……て嬢ちゃん何突っ立ってるんだ!巻き込まれるぞ!」
坂の上から巨大な岩が一つ転がってきた。
まだ遠くだがあと十数秒もしない内にここまで転がってくるだろう。
そんな状況でガヴァンは一切その場から動かない。
「逃げろ!潰されるぞ!」
「逃げる?誰かが岩を止めなければ下層の採掘場に被害が出るでしょう?なら私がやるべき事は一つ。」
そう言い終わると共にガヴァンの姿が消えた。
常人では目に追えない程の速度で大岩に突っ込み、そして拳で叩き割った。
岩の勢いが凄かったので流石に被害ゼロとは行かなかったが、岩が細かくなったおかげですぐ修復できる程度の被害に抑えることができた。
「すっげぇ!あの岩を素手で叩き割ったぜ!あんた何者なんだ!?」
「あら?そういえば言ってなかったっけ?私ヴァンパイアなんだよね。」
「ヴァンパイア………ヴァンパイア!?」
「コウモリの羽が生えてるって聞いてたが…それらしいもんは生えてないみたいだな。」
「あ〜あれ収納できるんですよ。出すと服が破けるし背筋が疲れるから隠してるんです。」
「と、とりあえず昼飯食うか。」
「ええ是非とも!」
昼食は各自用意していた弁当を食べたのだが、ガヴァンという予想外の客がいたので、それぞれ少しづつ弁当の中身を分けてくれた。
長持ちするように濃い味付けで、ちょっとしょっぱいと感じつつも、たまにはこういう食事も良いなと思ったガヴァンなのであった。
そんなこんなでゾッドとシードルの仕事も終わり、ようやく本来の目的に進むことが出来る。
ドワーフ王国の技術者をエルフ村に招き入れる。
行き当たりばったりでやっていたせいなのか、気づけばガヴァンは国王と対談する事になっていた。
ドワーフ王国7代目国王デモールとの対談である。
個室に二人きりで入口には衛兵二名が待機している。
「あの、本日はよろしくお願いします!」
「あ、王様が先に挨拶するんですね。こちらこそよろしくお願いします。」
7代目国王であるデモール国王。
一応大人なのだがドワーフの中でも一際小柄であり、子供のようにも見える。
そして彼の日頃の振舞いも、正直に言うと王の威厳を感じられるものでは無い。
「まずは先程の件、魔石採掘場で我が国の民の失態が原因で発生した事故を客人であるあなたが防いでくれたと聞きました。まずはその件について謝罪と感謝を送りたい。申し訳ない、そしてありがとう。」
「あぁぁ、なんか国で一番偉い人に頭下げられるのは変な感じするんで勘弁して欲しい。というか本題について早く話しましょうよ。」
「あ、それもそうですね。まず我々ドワーフ王国が貴方の住む大森林の調査を行う予定だった、というのは既に耳にしていると思います。今回は現地に住む人物の中でも、現状を最も正確に理解しているであろう貴方から詳しい話を伺いたいのです。」
「理解しています。まず初めに、エルフ族は壊滅の危機に瀕しています。」
「滅亡の危機…!?」
「はい。大森林に複数存在したという集落は、族長が把握している限りでは族長の住む村を除き既に全滅状態。そして、復興作業に取り組もうにも技術者は誰一人残っておらず、食料調達も少しづつ間に合わなくなっている状態です。」
「避難してきたエルフから話を聞いていましたが、まさかそこまで追い詰められていたとは…。私の判断は一手遅れていたようですね。」
「最も被害が大きいのはエルフ族ですが、他種族も少なからず被害を受けています。しかし、肝心の主犯の決定的な証拠は何一つ手に入っていません。と言うより、長い眠りから目覚めたばかりの私では、調査に費やせる時間や労働力が圧倒的に足りていない。そこでまずは拠点を整備する事が大事だと判断しました。だからこそドワーフの手を借りたいのです。」
「我々も元よりそのつもりです。ですが一つだけ不安な事がございまして…。」
「不安な事ですか?」
「その、初代国王がエルフ族の長に粗相を致したと言い伝えられておりまして、もしそれが真実だとしたら現国王である私も怒りを買う事になるのか、という点が唯一の不安要素なのです。」
こんな緊急時にも関わらず、長歴500年以上のエレフィアが、王就任から2~3年程ののデモールを困らせるこの状況に、流石のガヴァンも険しい表情。
「あーそれなら心配ないですよ。族長のエレフィアが自分の口で『万が一にもドワーフが我々に協力すると言ったのなら私も素直に受け入れましょう!』とか何とか言ってましたんで。」
「なんと!そういう事でしたら明日にでも技術者と調査隊を送りましょう!エルフ族との和解も我々ドワーフ王国の王としての役目の一つです!」
「おお!明日に!それは助かります!」
「ただ、どうしても移動手段が限られていますので、明日すぐ出発したとして、馬車等を使用したとしても最低三日はかかるかと思われまして。」
「その件について相談なんですけども、実は私ドレイクという魔物を使役していまして。彼らは非常にある程度の戦闘能力に高い機動力を兼ね備えておりまして、ドレイクに乗れば片道一日で安全に移動できるんです。なので先に技術者だけでもドレイクに乗ってもらって一足先に現地に向かうというのはどうでしょう?道具はありませんが資源なら現地調達も可能でしょうし。」
「なんと、ドレイクと言えば自分達より強い者の命令にのみ答えるというドラゴンの下位種族。それを従えているあなたは……それでで巨岩を拳一つで打ち砕く事ができたというわけですか。」
「いえいえそんな。150年前に比べれば体は鈍ってしまってます。それにフォレストドレイクはドレイク種の中でも最も非力な種族ですから。」
フォレストドレイクがドレイク種の中で最弱と言えば、何となく弱そうに聞こえてしまうが、そもそもドレイク種の群れが出たとなれば、どこの国でも討伐隊を送り込む程危険な存在だ。
ヴァンパイア族の中でも比較的強い個体であるガヴァンだからこそ雑魚扱いできる相手なのだ。
「まぁ何にせよ、我々として迅速に対応できるに越したことはありません。御力を貸していただけるのであれば是非とも御協力頂きたい。」
「では決まりですね。ドワーフ王国の、主に建築に関する道具と技術者をフォレストドレイクを利用してエルフ村まで送り、調査隊は二日程遅れての到着する予定。村までの案内役兼護衛役としてゴブリン数名を調査隊に同行させましょう。」
こうしてガヴァンは無事にドワーフ王国からの支援を受ける事ができた。
話し合いで決めた通りに、技術者を先に送ることになり、ゾッドとシードルを含む王国随一の技術者達が一日かけてエルフ村にやってきた。
「ドワーフ族が…何故この村に…!?」
「ドワーフ王国の国王が調査隊と復興チームを組んでくれたんだ。今日から村の復興が始まるし、あと二日もすれば調査隊が村に不審人物が来ないよう周辺を捜索してくれるらしいよ。」
「ば、ばかな!そんな事があるわけが無いのです!犬猿の仲であるエルフとドワーフが協力なんて!」
「聞いた話によればドワーフ族は元々エルフ族を嫌っていたわけではないようでしたよ?てかまずは彼らに言うべき事がありますよね?約束ですからね?」
「……仕方ありませんね。我々エルフ族は…ドワーフ族の協力を歓迎いたします。」
「はいはーい!族長からも許可もらったわけなんで、早速作業内容をまとめようか!」
村の復興作業を始めるため、技術者と村人で話し合う事になった。
本編で語られない設定を語ろうのコーナー
エルフ族の長エレフィアは美男美女しかいないエルフの中でも特に美人だと言われるお姉さん。
美女なのは間違いないし、光と風の魔法を得意とする魔法の使い手でもある。
だが逆に取り柄はそれだけで、無理に籠ってるので知識は中途半端だし、思い込みも激しく、家事も人任せで、緊急時の対応も部下に任せっぱなし。
この人なんで族長になれたんだろうという疑問が湧き出てくる人です。