ノウン魔王国へ向かう道中、ガヴァンはアサヒと話をしていた。
「今回行くのは魔王国って言って本物の魔王が支配する国なんだけど、本当に着いてきてよかったの?帰りたかったら今ならまだ間に合うよ?」
「大丈夫。」
「でも、魔王の機嫌を損ねたら何されるかわかんないし、流石に魔王怒らせたら私でもどうにもならないし、魔王が人間の女の子と一緒にいるって言うのも噂程度の話だし…」
「大丈夫だってば。」
ガヴァンは自分で誘っておいて凄く不安そうにしているが、アサヒの方は拾われた時とくらべてもうすっかり元気になっている様子。
森を出て街道を進んで行き、途中で野宿も挟んでようやく到着した。
ここがノウン魔王国だ。
やっとの思いで到着したが、まずは検問を通れるかどうかだ。
一応ドワーフ王国に行った時の身分証があるので、問題なく通過可能なはずだが。
「この国の検問所はゴーレムがやってるのか。お、私達の番が回ってきた。」
「身分証を出してください。」
この前作成した身分証を見せた。
「出身は大森林?随分遠くから来たんですね。そちらのお子さんは身分証をお持ちでは無い?」
「この子は私が保護した異世界人なんだ。身分証は与えられてないみたいなんだよね。」
「それはそれは…苦労なさったのでしょうね…。」
「あの、結局私たちは通っても良いんですか?」
「おっと失礼、通っても問題ありませんよ。」
国境検問所は問題なく通過できた。
後は魔王の城を目指して前進あるのみだ。
魔王の支配する魔物の国なだけあって、ドレイクに乗ったままでも入国できたので移動は楽だった。
そしてあっという間に魔王城の前までたどり着いた。
「あの〜…」
「うん?おう、お客さんか。そんな予定は聞いてないが。」
入口には当然門番が立ち塞がっているが、その門番が戦闘種族として有名なオーガなので驚きである。
「いや、事前にお知らせとかしてなくって〜、突然で申し訳ないんですけど魔王様とお話したいな〜…と思って来たんですけどぉ…今からでも大丈夫ですかね?」
「アポ無しってあんた勇気あるなぁ。他所の国の魔王ならブチ切れてるぜ?まぁウチの魔王は寛大なお方だ。怪しいヤツじゃなきゃいつでも歓迎だぜ。」
意外とあっさり通してもらえた。
門を抜けて城の中に入ると、早速案内役がやってきた。
「どうもぉ〜、私四天王兼案内役のトパーズだよ。よろしくにゃ。」
「猫の獣耳か。種族的には特に珍しくもないのに四天王の肩書きって事は、さぞかし素晴らしい力を秘めているのかな?」
「まぁそんなとこかなぁ〜。はい、ここが魔王様のお部屋だよ。」
「案内ありがとうございました。」
「あ、言っとくけどこの扉の先にいるサファエルって堕天使は怒らせない方が良いよ?キレると10時間説教されるからね。」
「無駄口叩いている暇があるならお望み通り10時間説教してやってもいいんだそ?」
「ゲッいつの間に!?」
「魔王様からお客様がいらっしゃると聞いて案内役を、と思ってついさっき退室したところだったのだ。私と同じ四天王と言えど勝手な行いは罰するぞトパーズ。」
「ごめんてぇ今度奢ったげるからさぁ。」
「そんな事しなくていいから!今すぐ持ち場に戻れ!」
「はぁ〜い。」
四天王の獣耳トパーズと堕天使サファエル。
どちらも相当の実力者である事は間違いない。
そして、扉一枚挟んだ先には、彼らを従える魔王デムリル・ノウン・ハウザーが待ち構えている。
大きく深呼吸をした後、その大扉を開けた。
「おや、突然の来客と聞いてエミリスが来たのかと思っていたが、見知らぬヴァンパイアと可愛らしい異世界人だったか。まあ、とりあえずこちらの席へ座って、一緒にクッキーでもいかがかな?」
「クッキー…ですか…?」
「ああ、私の手作りだ。少し待っていてくれ。」
そう言うとデムリルは虚空からクッキーを取り出した。
何も無い場所から取り出したように見えるが、おそらくは「アイテムボックス」というスキルだろう。
戦闘で強い能力では無いが、持っていればプチ便利なので欲しがっている人は多い。
「あの、ところでそちらの少女とはどういった関係なんでしょうか?」
魔王の膝の上に少女が座っている。
顔が赤いので恐らく恥ずかしがっているのだろう。
「この子は私の娘だ。」
「やめてください魔王様!そんな、娘だなんて恥ずかしいです!」
「思春期かな?ウチのアサヒちゃんもあんな感じになるのかな?」
「あの、改めましてご挨拶させていただきます。私は魔王デムリル・ノウン・ハウザー様の配下の者であり、魔王軍最高幹部を務めるペリドット・ノウン・ハウザーと申します。」
「ペリドット・ノウン・ハウザー、やっぱり親子なんですか?」
「違います!私など所詮は名前を与えていただいただけの立場であって、娘だなんてそんな近しい関係では無いのです!」
「うむ、ペリドットは生きる希望を失っていた人間の少女だった。あまりにも可哀想だったのでどうにか救えないものだろうかと思い、こうして名を与えて娘として愛でているのだ。」
「……ロリコン?」
「こらアサヒ!そんな失礼な事言っちゃダメでしょ!」
「ハッハッハッハッ。変な事を言われても気にしないさ。私など無駄に歳とってるだけの男だ。」
「私より年上なのに見た目が若々しい。何なら仮面で目元隠れてるのにイケメンオーラ感じるし。」
「おっと失礼、客人の前では仮面を外すべきだったね。」
目元しか隠れていない仮面を外すと、そこには魔王とは思えない優しげな目があった。
「いやはやお恥ずかしい。魔王なのに目が優しすぎで威圧感が無いと言われたので常に仮面を身につけているんです。」
「確かにこれだけ優しげな顔してると魔王って感じはしないかも。」
「ハッハッハッハッ。まぁ今はこの顔も親しみやすいから好きという者のために、週に一回のノーマスクデイを設けている。」
雑談に花を咲かせていたが、ふとした時に本題を思い出した。
「そういえば!今日はアドバイスが欲しくて来たんだった!」
「アドバイス?」
「はい!実はですね……」
ガヴァンは大森林の事やネサーム王国との関係性など様々な問題点について話した。
「なるほど…つまり私に聞きたいことは、複数種族をまとめるためのコツと敵対関係にある国との関わり方、と言ったところか。」
「是非お力添えを。」
「うーむ、そうは言っても私から言える事もあまり無いからなぁ。というのも、私の場合は気が付けば人が集まっていて、私が何も言っていないのに勝手に国として発展し、いつの間にか魔王として扱われていたのだ。それ故に、私からこれといってアドバイス出来ることは無いのだ。すまない。」
「なるほど…カリスマ性ってやつなのだろうか…それしゃ人間との関わり方とかは分かりますか?」
「人間との関わり方?」
「はい、人間…特に子供との関わり方が知りたいです!アサヒちゃんと仲良くなりたいので!」
「うむ、触れ合いの時間を多く取ることだな。」
「触れ合いの時間ですか?」
「種族間の私生活の違いや価値感覚の差を理解し、お互いにとって苦のない関わり合いとはどういう物か。それを知ることで仲を深めることができると考えている。実際、ペリドットとアサヒは既に仲良くなっているようだ。」
ふと視線を横に向けると、そこには年相応にはしゃぐ二人の少女の姿があった。
どうやらアサヒは自分が元々くらしていた世界の古生物について話しているようだ。
アサヒの見た目は十三歳ほどだが、この世界に呼び出されたのがいつ頃なのか分からないので、実年齢は分からない。
「いつの間にかいなくなってると思えばもう友達を作っているなんて…案外人懐っこい性格なのかな?」
「うむ、私とペリドットもまだ出会って一年ほどしか経っていない。彼女は私を慕ってくれているが、まだお互への理解は中途半端とも言える。ゆっくり時間をかけて仲を深めるのが良いだろう。」
彼女らを見つめるデムリルの顔は、邪な気持ちのない優しく穏やかな笑顔だった。
本人も言っていた事だが、本当に魔王とは思えない顔だ。
「それで、私からも一つ君に質問をさせてほしいのだが構わないかな?」
「あ、はい。何ですか?」
「君は魔王になる気はあるのかな?」
「……え?」
突然の質問だった。
「いや、今の所魔王になるとかは考えてないですけど…どうしてですか?」
「単純な疑問さ。見たところ君もかなり強い魔物だ。力のある魔物ほど魔王に憧れる傾向にある。そして、魔王になった者は人を襲う事もあれば、魔王同士で争うこともある。君にその気があるのかどうか、それが聞きたかった。」
「うーん、争わなくていいならその道が一番いいからなぁ。自ら進んで修羅の道を歩むつもりは無いかなぁ今の所は。」
「そうか、なら良かった。だが強大な力と大きな組織を持つものとして、他の魔王について知っておく必要はあるだろうな。私のように好戦的では無い魔王は私を除くと一人だけ、それが私の友人エミリスだ。」
「エミリス…最初私が間違えられた人か。」
「エミリスは魔王らしからぬだらけ癖があるため争いは避けている。だが他の魔王はお互いに対する対抗心からか、常に新たな戦力と領土を求めている。エミリスには私からも紹介はしておくが、人間だけではなく魔物にも警戒したほうが良いだろう。」
「心配して貰えるのは嬉しいけど、なんでそこまで心配してくれるんですか?」
「君とは今後も仲良くしたいと思っているからだ。それ以外に理由は無い。いつか君ともエミリスのように対等な立場で話し合えるような関係になりたい。そう考えているんだ。」
色々と話している内に空は暗くなってきた。
時間を忘れて長話をしてしまったが、結局組織運営のコツを教わることはできなかった。
しかし、今回の件で人と触れ合いお互いを知る事の大切さというのを学んだような気がした。
往復一週間を掛けて魔王国から帰還した一行は、ようやく村に到着した。
ガヴァン達がノウン魔王国に行っていた一週間の間に、エルフ村は見違えるほど発展していた。
ドワーフの高い技術力とオーク達の丈夫な肉体によって凄まじい速さで作業が進み、わずか一週間で村は大きくなり、町と呼んでも違和感の無い程に大きくなっていた。
いや、流石に町は誇張表現だが、とにかく建物の数や防壁の範囲が大きくなっている。
「おう!帰ってきてたのかガヴァン!」
「お、その声はゾッドか?一週間で随分でかい村になったねウチも。」
「そうだろ?俺は建築は専門外だが、ドワーフの建築士は一流揃いだ。それでいてエルフ達の作った家の面影も残しているのがこだわりポイントって所だろうな。」
「やっぱりドワーフ王国から協力を得られたのは大きかったな。そういえば、私達以外の遠征部隊はどうなったの?」
「おう!そいつらもついさっき帰ってきたとこだぜ!大森林の中だけでもそれなりの数は集まったらしいが、ちょっと大森林を抜けた場所にも行ったらしくてな。そこで知り合った連中も招き入れたんだとよ。」
「大森林の外って何があったっけ。」
「大森林以外だと西の大平原と南の大湿原。あとは東の大洞窟と北の大雪原だな。」
「大森林の周りってそんなしっちゃかめっちゃかな地形してたんだ…知らなかった。ドワーフ王国の地底都市が東の大洞窟の一部分だって言うのは知ってたし、西の大平原はノウン王国に行く途中で通ったから知ってたけど、湿原と雪原は知らなかったな。」
「とりあえず、今回新たに集まった種族の長があそこのビレッジホールに集まってるはずだ。あんたもリーダーとして参加した方がいいと思うぜ?」
「おう、村の中心地的な場所もできてたのか。うん、とりあえず行ってくるわ!」
一体どんな種族が集まったのか。
ガヴァンは期待と不安を胸にビレッジホールへと向かった。
本編で語られない設定を語ろうのコーナー
魔王デムリル・ノウン・ハウザーは魔族という種族を名乗っているが、魔族が何なのかは謎である。
大きな角が生えている点は悪魔によく似ているが、尻尾や翼が無く、魔界出身でも無いので恐らく悪魔系統の種族とは別種。
ペリドット・ノウン・ハウザーは一応人間たちが勇者として魔王討伐に送り出し剣士なのだが、アサヒと違いこれと言って強力なスキルは無い普通の人間であり、デムリルに出会うまでは、家族も友人もいない上に名前すら無かった悲しい少女だった。