ホロメンとの高校生活 作:主義
体育祭はどんどん進んでいく。自分が出場する競技よりも出場しない競技の方が多い訳で個人的には暇を持て余している。
適当に端末をいじりながら時間を潰していると後ろから急に話し掛けられた。
「沙花叉さん」
「…ちょっといいっすか…?」
「別にいいけど…」
そう言うと沙花叉さんは場所を代えるらしくて沙花叉さんの後に付いていく。付いていくと、そこはグラウンドの外れ。
生徒が体育祭に集中していることもあって少しグラウンドから外れると誰もいない。
「ここで大丈夫かな」
「なにが…?」
「ううん。こっちの話です!」
「そう…」
「早速、本題なんですけど…いいですか?」
「別にいいけど…」
すると、沙花叉さんは深呼吸を何度かして意を決したようで話し始めた。
「沙花叉に……手を握らせてくれないですか!!!」
「…………」
「…でどうですか…?」
「え、そ、それはどういうこと!?_」
「…手を握らせて欲しい…です…」
「別に手を握らせるぐらいは問題ないけど、なんでそんなことをして欲しいのか理由を聞いてもいいですか?」
こんなことを頼んでくる人は初めて…さすがに困惑を隠せない。
「…に、にぎって…ほしいから」
やっぱり聞いても意味が分からない。だけど、沙花叉さんのお願いはとても明確で『手を握って欲しい』ということ。それなら何でか分からないけど、手を握ってあげれば全てが丸く収まる。
「これでいいですか?」
「…う、うん……///」
しばらくの間、沙花叉さんの手を握っていた。いつ離せばいいのか、分からない。そのタイミングを図っていると沙花叉さんの方から離してくれた。でも、沙花叉さんはお礼を言いながら全速力で走り去ってしまった。
「あ、ありがとうございます!!!」
「う、うん。沙花叉さんの願いを叶えられたなら…」
やっぱり僕には沙花叉さんという人がまだ理解できていないのかも。まあ、知り合ってまだそこまで時間が経っていないし、少しずつ理解していけばいいよね。
そして僕も皆のところに戻ると…アナウンスで『障害物競走に出場する生徒は入場ゲートに集まってください』と聞こえてきた。僕が出る、借り物競争は昼食を挟んですぐなんだよね。逆に言えば、それまではかなり暇ということ。クラスリレーは一番最後だし。
「ねえ」
「あ、百鬼さん、どうしたんですか?」
「余、頑張って来るから見てて余!」
「はい、見ているので頑張ってきてくださいね」
「うん!」
最後に笑顔を浮かべて…百鬼さんは入場ゲートの方へと向かっていった。百鬼さんの運動神経に関しては知らないけど、やっぱりある程度はいいのかな。
そして競技がスタートするとそんな僕の心配は無意味だと思い知らされた。だって百鬼さんは断トツだった。障害物リレーの紅組のトップバッターだったけど、他の追随を許さないほどの速さでゴールした。正直、唖然としてしまって応援どころじゃなかった。
百鬼さんは僕を発見すると手を振ってくれていた、それに振り返しながら素直に『すごい人』だと思った。
「ちゃんと余のこと見ていてくれた?」
「は、はい。見ていましたけど、百鬼さん、圧倒的でしたね。まさかあんなに早いとは思っていなかったです」
「余もまさかあんなにスムーズに行けるとは思っていなかった余」
「そうなんですか?」
「うん!キミが見ていてくれるから…絶対に一位でゴールしたいと思ってたらゴールできた!」
「…本当にすごいですよ。僕も百鬼さんを見習って借り物競争では精一杯頑張ってどうにか良い順位でゴールできるようしたいですね」
「頑張って!余も精一杯、キミのことを応援するから余!」
「ありがとうございます」
どんどん競技は進んでいって午前中の部は全て無事に終わった。昼食は外でも中でもどちらもいいという決まりになっている。僕は外で食べるためにバック自体を持ってきていた。
そこで一つの問題が発生した。それは母さんが作ってくれたお弁当があるはずなのに…ないということ。確かに家から出るよりも前に…持ってきたはずなのに…。
「いや、でも今日はちょっと寝坊して急いでいたから…」
もしかしたら、お弁当をテーブルに置いたまんまになっている可能性がある。
「ど、どうしよう…」
さすがに昼食なしはキツイかな。だけど、今日は売店も食堂もやってないし。食料を手に入れる手段が何もない。もう諦めて時間が経つのを待とうかな。別に昼食を食べなかったからって死ぬわけじゃないし。
「どうしたのかしら?」
「あ、ちょっとお弁当を忘れちゃいまして」
「それなら、ちょこのお弁当をあげよっか?」
「それはさすがに悪いです。癒月さんのお弁当は癒月さんのものですし」
「ちょこは全然、いいよ。ちょっと作り過ぎちゃったし。逆にキミに食べてもらえるの方がちょこは嬉しい」
「ほ、ほんとですか?」
「うん、作り過ぎちゃっているのは本当」
「…そ、それならちょっとだけもらってもいいですか?」
僕に気を配ってくれているだけなら遠慮しようと思ったけど、本当ならちょっとだけでも何かを胃の中に入れたい。今日はちょっと寝坊しそうだったから急いで家を出たから朝食を食べていないから、今もずっとお腹の音が鳴りやまない。
「うん、ちょことしては大歓迎!」
そして僕は癒月さんがお弁当を食べているところまで案内してもらうとそこには…いつものメンバーが居た。湊さんに紫咲さん、百鬼さん、大空さん。
「な、なんで…キミが?」
「もしかして、ちょこ先が無理矢理連れてきたんじゃ!」
「いや、違うんです。僕がお弁当を忘れてしまって困っていたところに癒月さんが話し掛けてくれて、状況を説明したら作り過ぎたと言っていたのでちょっとだけお弁当を恵んで貰おうと」
かなりカッコ悪いけど…今は仕方ない。だってそれが現実ですし。
「それならシオンのお弁当を分けてあげるよ!」
「ううん。す、すばるのお弁当!」
「余も分けてあげる余」
「…あ、あたしも……わけれるよ…」
「だ、だいじょうぶですよ!!癒月さんのちょっとだけ分けてもらえれば」
それに少しだけ食べて…あとは夕食まで我慢すればいいだけですし。借り物競争とクラスリレーを走る体力をどうにか補えれば…。
「え~~シオンのお弁当、食べていいのにぃ~」
癒月さんの取り出したお弁当を見た時の感想は「きれい」だった。盛り付けも綺麗で本当に目だけでも楽しませてくれるような料理ってこういう料理のことを呼ぶんだろうな。
「こ、これ本当に食べてもいいんですか?」
「うん!ちょこは…クラスリレーしかでないから急がないけど、キミは借り物競争に出るなら急いでいるんでしょ」
「まぁ…」
「それなら先にキミが食べて、残ったものをちょこが食べる」
さすがにこれは申し訳ない気がするが、こんな美味しそうなものを目の前にして食欲を抑えられそうにない。
「いただきます」
一口…入れた途端に思考が止まってしまうほどに『美味しい』。見た目が味を裏切っていない。見た目通りの美味しさ。
「本当に美味しいですね!」
「そ、そう……///」
こんなに美味しいものを作れるなんて…癒月さんは本当にすごい。
「余、余のも食べて!」
そう言って、百鬼さんが箸で唐揚げを挟んで…僕に差し出してくる。
「そ、それは申し訳ないです!」
「ううん、余が食べて欲しいの!」
「そ、そうですか…」
百鬼さんの押しに負ける形で…唐揚げを受け取る事はしたのだけど、いつまで経っても百鬼さんは弁当箱に唐揚げを置いてくれない。ずっとこっちに差し出している。
「あ、あの…置いて…くれないんですか?」
「うん、あ~~ん」
まさかとは思っていたんですが……。
「そうしないとダメですか?」
「だめ!」
僕は意を決して…百鬼さんは差し出している、唐揚げを食べた。予想以上に恥ずかしくて…顔の温度が上がっているのが分かる。
だけど、唐揚げはとても美味しい。噛んでいくと肉汁が出てきて…美味し過ぎる。最近は皆、これぐらい上手く料理を作れるものなのかな。ちょっとレベル高過ぎじゃない。
「美味しいです!百鬼さんって何でもできるんですね!」
「…あ、ありがとう…///」
「いえ、本当に美味しいですよ!将来、百鬼さんの旦那さんになる人は幸せですね。こんなに美味しいものを食べれるなんて!」
僕がそう言うと…なぜか空気が怖ってしまった。まるで触れてはいけなないものに触れてしまった。
「え、どうしたんですか……ぼ、ぼくなにかしちゃいましたか…」
「そうだよね。じゃあ…余の……」
なにか百鬼さんが言いかけたところで紫咲さんと大空さんに口をふさがれてしまった。百鬼さんは必至に抵抗しているが、抵抗虚しくだめだった。
「や、やっぱり…あてぃしの…」
今度は湊さんが卵焼きを箸で挟んでくる。
「くれるんですか?」
「う、うん……あ~~ん」
百鬼さんの時と同じように僕は湊さんに『あ~ん』をしてもらって…食べた。これに慣れ始めている、自分が一番怖い。
それからは大空さん、紫咲さん、癒月さんから『あ~ん』をされた。でも本当に慣れというのは恐ろしいもので回数を重ねるほどに恥ずかしさというのがどんどんなくなっていたのだった。
感想があれば