ホロメンとの高校生活 作:主義
先輩はとってもガードが高くて…簡単にプライベートを晒してくれない。船長としてはもっと先輩との関係を強めて…あんなことやこんなことをしたいのに。それなら…プライベートにズカズカ入って行けばいいかもしれないと思うかもしれませんが、先輩には嫌われたくない。嫌われちゃったらもう近づけないし、先輩に拒絶されたら生きていける気がしない。
そして今は放課後でほとんどの生徒が部活か帰路についている。でも、船長は廊下であくたんとまつり先輩、ころね先輩と話している。
「あくたんもまだ聞けてないの!?」
「…う、うん…」
あくたんで聞けていないんだとしたらマリンに出来るわけでない。あくたんは先輩と同じクラスだし、一番関わりが多い方なのに…。
「ころねも」
「ころね先輩はあんまり先輩と接点ないんじゃないですか?」
「あ、あるもん!!」
「どんなところで?」
「……放送の時にあるし!」
「それだけだよね。ころね先輩はこの中で一番接点ないよ。まだマリンの方が先輩と話す機会多い」
そしてそんな話を聞いているのは…まつり先輩。強者が見せる余裕の笑みを浮かべている。
「な、なんですか、まつり先輩」
「まつりは後輩くんの連絡先知ってるよ。皆と違って」
「え、ま、まつり…せんぱいが…」
「えへへ…体育祭が終わった後に後輩くんにおねだりしたら教えてくれたんだぁ~」
そう話す、まつり先輩が幸せ一杯みたいな顔をしていて一瞬、イラッとした。だけど、深呼吸で精神を落ち着けてからまつり先輩に聞く。
「まつり先輩、教えてくれないですか?」
「え~~後輩くんに確認とらないとさすがに無理かな。まつりも誰でも紹介して後輩くんの迷惑になるようなことしたくないし」
実にまともな答え。まつり先輩ならノリとかで教えてくれそうな感じがしたけど、さすがにまつり先輩も後輩くんが関わるとブレーキが存在する。
「そ、そうですよね」
「何の話ですか?」
声のした方向に視線を向けるとそこには…先輩が不思議そうな顔でこっちを見ていた。
「せ、せんぱい!」
「はい…ってなんでそんなに驚いているんですか?」
「い、いつから!」
「いや、今さっきですよ。ちょうど先生から頼まれていたことが終わったのでこれから教室に戻って、帰る用意をしようと思って」
「そ、そうなんですか…」
まさか、先輩がこの時間も学校に居るとは思っていなかった。でも、これは大きなチャンスかもしれない。まつり先輩でもおねだりしたら教えてくれたと言っていましたし、マリンでも。
「せ、せんぱい!」
「はい、どうしたんですか?」
マリンは告白する人のように深く頭を上げて、片手を先輩の方へと差し出す。
「連絡先を交換させてください!!」
少しの間、静寂が包んでマリン的には寿命が削られていく感覚を覚えながらも先輩の返事を待つ。
「いいですよ」
マリンは急いで顔を上げるとそこにはいつもの笑顔の先輩。
「い、いいですか!?」
「別にいいですよ」
嬉し過ぎて今にも飛び跳ねてしまいそうだけど、さすがにそんなことをしたら先輩の不思議がられるから必死に抑える。
連絡先を交換する時もマリンのスマホを持つ手が震えて上手く操作ができなかった。
そんなことをしていると先輩が―――――
「交換するね」
先輩は慣れた手つきでどんどん進んで行き、数秒でマリンに携帯が戻ってきた。
「これから改めて宜しくね、宝鐘さん」
「よ、よろしくお願いします!!」
それで立ち去ろうとする先輩の服の袖をあくたんが掴んで、後ろから抱き着いたのがころね先輩。
「な、なんですか?」
「こおねも交換したい~~」
「あ、あてぃしも」
「あ、そうですね。お二人とはまだ連絡先の交換していませんでしたね」
そしてさほど時間も掛からず、交換は済んだ。
「こおねをぎゅってして」
マリンはころね先輩が言ったことに…動きが止まった。まじで誰かの発言でここまで頭がショートしたのは初めての経験かも。
「え、別に僕はいいですけど……戌神さんはいいんですか?」
「こおねはウエルカム!」
「そうですか」
すると先輩はころね先輩のことを抱きしめた。普段の先輩はもっと女性に対して一枚壁があるような人で「抱きしめて」と言っても断るような人のはず……なのに。
「ぎゅ~~」
「ま、まだ放してくれないんですか?」
「まだ、こおねがまんぞくするまで」
「そうですか…」
それから十分ぐらいして先輩はやっと解放された。
周りを見渡すとあくたんもまつり先輩も固まってしまっている。こんな光景を見せられたらそうなっちゃいますよね。
「ま、まつりも!!」
「え!」
驚きでマリンは声が漏れちゃった。
「いいですよ」
「やったぁ~~」
まつり先輩はちょっと緊張しているのが伝わってくるような感じだけど…抱きしめられている時のまつり先輩はアイスが溶けている時のように顔が溶けている。
まつり先輩ってどんな時でも動じない感じ。だから、そんなまつり先輩があんな顔にさせられるなんて先輩はどれだけすごいんだと思ってしまった。
「これぐらいでいいですか?」
「まちゅり…だめぇ…」
「え、夏色先輩大丈夫ですか?」
「だ、だぁいじょうぶぅ」
明らかにまつり先輩は伸び切っちゃってる。だけど、まつり先輩は幸せそうな顔をしていて目を閉じる最後に『わが人生に悔いなし』と言って目を閉じた。
「あ、あてぃしもしてほしい!!!」
「え、あくたんまで!」
この中で一番奥手のあくたんですらも抱きしめてというなんて考えもしなかった。でも、確かにこの手を逃す手はない。
「マリンも!!」
「せ、せんちょうも?」
「うん!!ここであくたんに先を越されるわけにはいかないもん」
「今更ですけど、本当にいいんですか?」
「いい!」
「マリンは先輩がいいんです!」
「そうですか」
そして先輩はあくたんと船長に近づいてくる。一歩、一歩、近づいて来る度にマリンの鼓動がどんどん早くなってくる。
「お二人とも、一緒でいいですか?」
「え…」
「…船長とあくたんが一緒にってこと?」
「はい、だめですか?」
本当はまつり先輩やころね先輩みたいに一対一がいいけど、先輩に抱きしめてもらえるんであればどんな状況でも嬉しい。ゾンビに追いかけられているという状況であっても先輩に抱きしめてもらえれば落ち着ける気がするもん。
「それじゃあ、いきますよ」
「う、うん!」
「はい!!おねがいします!」
すると先輩はあくたんと船長を抱きしめた。とても優しくて、これも先輩の性格が表れていると思った。でも、先輩に包み込まれているだけで『マリンは僕のものだよ』と言われている気がして脳が爆発しそう。
隣に目線移すとそこには今にも昇天しそうなあくたんの姿があった。
そして先輩が抱きしめるのを止めるのと同時に足から崩れ落ちた。
「だ、だいじょうぶですか!!」
「だいじょうぶ。ちょっと腰が抜けちゃっただけで」
「保険室に行きますか?」
「ううん!!だいじょうぶ!!あくたんもいるし!」
「そ、そうだよ。あてぃしもいるし!」
「そうですか?それならいいんですけど。ではお二人共、また明日」
「また明日~」
「またね~」
先輩がいなくなってから、あくたんは腰を屈めて船長と目線が合うようにしてくれた。
「あくたんはどうだった?」
「…うれしかった」
「やっぱそうだよね。あの幸せは忘れられないかも」
三十分間は立てなかった。