この素晴らしい世界に漂流を   作:想いの力のその先へ

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第九話 めぐみんの憧れとカズマの考え

 めぐみんの爆裂魔法が炸裂し一匹のジャイアントトードを屠るものの魔力切れで倒れ、慌てて残りを討伐した圭たちは無事にアクセルの街へと帰還していた。

 圭に背負われて帰ってきためぐみんは、少し恥ずかしそうに、おずおず、と話しかける。

 

「あ、あのケイ……。もう大丈夫ですから……」

「だぁめ、まだきちんと立てないんでしょ?」

「い、いえ! あのアメのおかげでもう大丈夫ですから!」

 

 顔を赤くして捲し立てるめぐみん。本来であれば圭が言ったように、いまだ立つことが出来なかっただろう。しかし、何事にも例外がある。

 それが、めぐみんが先ほど言ったアメ。魔力切れを起こして倒れていためぐみんに、圭が渡したアイテムだった。そのアイテムとは――。

 

()()()()()()()()、しかも一個だけで、そこまで回復できると思えないんだけどね」

 

 チャクラドロップ、女神転生シリーズにおいてMP。魔力を回復するアイテムだった。

 圭が暮らしていた世界と、この世界。2つの世界の類似点が多かったこともあり、もしかしたら効果があるのでは、と考えて譲り渡したものだった。

 なお、その考察は正しかったようでそれを受け取っためぐみんは半信半疑で口に含んだのだが、その瞬間。僅かながらも魔力が回復したことで目を白黒させていた。

 彼女からすると爆裂魔法を撃ち込んだ後、倒れてしばらく行動不能になるのが当たり前だったからこそ、すぐに立てるようになる程度まで魔力が回復する。という状況になったことに驚いていた。

 

 と、言うのも彼女の知識の中では魔力を回復させるアイテム、というものは存在しなかった。

 一応、厳密には違うがマナタイトという魔力がこもった鉱石を使って肩代わりする方法や、リッチーが使用するスキル『ドレインタッチ』で魔力を吸収、譲渡する方法もある。が、マナタイト鉱石はもともと高額で手に入れることが難しい。ドレインタッチはリッチーのスキルなので、そもそも()()()に冒険者では使用できない。という制約がある。

 

 とにもかくにも、そのような理由からめぐみんはいまだガス欠状態ではあるものの立って歩く――もっとも、まだまだ魔力が足りない影響で千鳥足になってしまうが――ことは出来る。

 しかし、その姿が危なっかしいということで圭が彼女をおんぶしていたのだ。それだけが理由ではなかったのだが……。

 

「なんで、また私だけ……。女神なのに、カエルに食べられて、ぐちょっ、て……」

 

 身体中に粘液を、正確に言うとジャイアントトードの体液でぐちょぐちょに濡れ、陰気を発しているアクア。しかも、その陰気の矛先は自身を見捨てたカズマへと向けられており――。

 

「だぁ、もう! なんでお前は毎回カエルに突撃するんだよ! こうなるってのは目に見えてただろうが!」

 

 自身が見捨てたことは棚に上げ、突っ込みを入れているカズマ。

 

 はっきり言って圭は――ついでにめぐみんも――こいつらの関係者だと思われたくなかった。

 だからこそ圭はめぐみんを盾にするためめぐみんを背負い、めぐみんはこの場を離脱したかったから圭の背中から降りたがっていた。

 ……まぁ、この場を離脱したところで圭とめぐみん。二人とも、回りからはばっちり関係者だと思われているのだが……。

 なにせ圭は、何度かアクアやカズマとともに行動していたし、めぐみんも結構な数の人間にカズマたちのPTへの加入交渉を見られていた。その状況で関係者ではありません。という言葉が通用しないのは当然。すなわち、二人の行動は完全な無駄な足掻きでしかなかった。

 

 

 閑話休題。

 

 

 とにもかくにも、ジャイアントトードの粘液で濡れたアクアをギルドの中へ入れるわけにもいかないため、彼女を公衆浴場へ送り出した他の面々。

 残りの面々はギルド内の食堂で軽食を取ることにしたのだが、この中でカズマとめぐみん。二人の間で緊張が走っていた。

 

「……それでめぐみん。おまえ、爆裂魔法を一発撃って倒れてたわけだけど、他に魔法は使えないのか?」

 

 先ほどの戦闘。カズマたちの魔法を見せてほしい、という要望に彼女が一番威力のある魔法を披露した。と、判断したカズマは、そう問いかける。

 実際、あの爆裂魔法。あれの威力はすさまじくデモンストレーションという意味では大成功だった。ただ、問題なのは……。

 

「……使えません」

「……は?」

 

 ぼそり、と呟かれためぐみんの言葉。何かの間違い、あるいは耳が遠くなったかと思って、カズマの頭に疑問符が大量に浮かぶ。しかし、現実は残酷なもので――。

 

「……私が使えるのは爆裂魔法だけです」

「えっ……?!」

 

 あまりのことで絶句する圭。あれだけの魔法を年若い――とはいえ、圭と年齢はそこまで……。10歳も離れているわけではない――少女が使えるのは驚嘆すべきことだ。しかし、他の魔法が使えない、というのはどういうことだ。

 あるいは世界が違うことで法則が違うのかと知れないが、彼女が知る魔界魔法。そちらでは基本、下位の魔法から憶えていく。

 火炎属性、アギ系統なら下位のアギ、中位のアギラオ、上位のアギダインといったようにだ。それに、さらなる才能を秘めていればアギダインよりも上位。あるいは高位、もしくは固有の魔法、といった具合にステップアップしていく。

 事実、先ほどの戦闘で圭が爆裂魔法の引き合いに出したメギドフレイム。あれは現状、魔王-アモンの専用スキルだが、それもこれもアモンには魔王としての側面だけではなく、エジプトの太陽神。魔神-アメン・ラーとしての側面も持つことから得ているスキルだった。

 

 それはそうとしても、やはり疑問に思った圭。しかし、今回そのことに詳しそうなアクアは公衆浴場へ行って別行動だ。

 果たして、どうしたものか。と頭を悩ませていた彼女に聞き覚えのある声がかけられる。

 

「あれ、ケイさん。どうしたの?」

「あっ……。エ――クリスさん」

 

 そこにいたのは、幸運の女神が変装した姿であるクリス。……なお、圭が言い間違えそうなった瞬間、どっ、と冷や汗を流して、盛大に顔を引きつらせていた。

 彼女もアクアと同じく――というより、この世界の主神なのだから、より詳しい筈――知識があるだろう、と考え、斯々然々と問いかけた。

 なお、その質問を受けたクリスは先ほどとは別の意味で顔を引きつらせていた。

 

「えっ、と……。爆裂魔法を習得してるってことは潤沢にスキルポイントがある筈だよね? それで、他の魔法を習得してない、ってのはちょっと信じられないんだけど……」

「「スキルポイント?」」

 

 圭とカズマの声がハモる。それでスキルポイントについて知識がない、と悟ったクリスは解説する。

 

「スキルポイントってのはね? 職に就いた時に貰える文字通りスキルを習得ために使用するポイントなんだ。たとえばあたしの場合だと盗賊職だから、敵感知や罠感知、姿を隠す――」

 

 その言葉と同時に、クリスの気配。姿が薄くなっていく。

 

「――潜伏スキル、なんかだね」

「驚いた……」

 

 目をぱちくり、とさせながら圭は声をもらす。完全に見失ったわけじゃない、だが、限りなく気配が希薄になっている。しかも、目の前でスキルが使われたのに、だ。

 これが実戦ならそのまま奇襲されても気付かないかもしれない。そんなことを思い、戦慄する。ある程度実力の伯仲する相手なら、最悪全滅する可能性すらあるのだから、警戒するのは当然と言えた。

 そんなことを考えている合間にスキルを解除したのか、クリスがふたたび、ふっ、と姿を表した。

 

「と、まぁこんな感じなんだけど。当然、職や個人の才覚で覚えられるスキルも違ってきてね。たとえば、火属性なんかも苦手な人なら大量のポイントを使わないと習得できなかったり、最悪習得できない、なんて可能性なんかも……」

 

 神妙に語るクリスに、知らず知らず顔が引き締まっていくカズマと圭。

 

「それで、ね。爆裂魔法が分類される爆発系の魔法。これは複合魔法って言われて、火と風の属性が必要なんだ。つまり、爆裂魔法を使えるんなら、これらの魔法は簡単に習得できる筈、なんだけど……」

「あっ、やっぱり。こっちでも、基本は下位から魔法を憶えていくのが普通なんだね」

「うん、そうだよ」

 

 クリスの解説で圭の疑問は解決された。が、それならなぜめぐみんが他魔法を使えないのか。その理由はいまだ分かっていない。

 説明を求めるように、めぐみんへと視線が集まる。

 

「……私は爆裂魔法をこよなく愛するアークウィザード。爆発系統、ではなく爆裂魔法を、です」

 

 めぐみんの独白に、気付かれない程度に首をかしげるカズマ。圭はなにか思うところがあるのか、神妙な面持ちになっている。

 

「確かに、地水火風のスキルを取れば冒険は楽になるでしょう。それこそ万が一接近された時のため、ブレードオブウィンドを習得するだけでもだいぶん違う筈です」

 

 本人もそんなことを分かっている、と言わんばかりに吐き捨てる。そして、歯がぎり、と音を立てるほど噛み締めた。

 

「……ですが、ダメなのです。私は爆裂魔法しか愛せない。いえ、憧れ。夢、と言っても良い。例え、日に一度しか使えなくても、使った後に倒れることになっても私は爆裂魔法に拘り続けます。なぜなら、それこそが私がアークウィザードになった要因、なのですから!」

 

 熱く語るめぐみん。その言葉の節々から、彼女が本気であること。爆裂魔法以外を憶える気がないことをうかがわせた。

 そして、こんな人種の者たちは他人に指摘された程度で歩みを止めることはないのは、圭もよく理解できた。

 ちらり、と流し目でカズマを見やる。そこには真剣な表情で悩むカズマの姿。それを見て意外に思う。

 ここまでカズマと接した圭は、カズマがこんな場合めぐみんを切り捨てる形で動くだろう、と考えていた。しかし、現実では悩む様子をみせ、排除する方向で動いていない。カズマもなにか思うところがあるのかもしれない。そう、圭は考えるのだった。

 

 そして、圭の考え通り。カズマはめぐみんについて思うところがあった。

 確かに、ここまで聞いた感じめぐみんが一発屋だったのはいやというほど理解できた。しかし、同時に彼女は爆裂魔法が絡まなければ、まともな人格ではないのか?

 そんな考えが頭によぎっていた。

 実際、カズマも転生特典として水の女神アクアをこの世界へ引っ張ってきた訳だが、これまでの言動を見るに頼りになる、とは到底思えなかった。

 そんなところで、爆裂魔法フリークではあるものの、それ以外は比較的まともそうなめぐみんの登場。

 断るだけなら簡単だが、それだけなら大魚を逃したことになりかねない。爆裂魔法しか使えない、というのも適当な場面で使わせれば役に立つ筈だ。そうなると、アークウィザードという上位職のめぐみんはスカウトするべきだ、とカズマが判断するのも無理からぬことだった。

 そして、そんな考えが甘すぎたことをカズマは後々いやというほど理解することとなるのであった。

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