この素晴らしい世界に漂流を   作:想いの力のその先へ

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第十二話 世界が違えば常識も

「さて、それじゃそろそろわたしはお暇しようかな?」

「おい、圭――」

 

 もろもろの話が終わり、席を立とうとする圭とそれを止めたいカズマ。がたり、と圭が席から立ったとき、ギルド。いや、アクセルの街中に放送が響き渡った。

 

『緊急クエスト! 緊急クエスト! 街の中にいる冒険者は至急ギルドへ集合してください! 繰り返します、冒険者各位は至急ギルドへ集合してください!』

 

 唐突な緊急放送に顔を見合わせるふたり。そして圭は、こんなときにGUNP(ガンプ)。かつて自身が使っていた銃タイプのコンピューターがあれば、とつくづく思う。

 あれには、エネミーソナーというアプリがインストールされていた。敵意を持つ相手が近くにいるとそれを表示。警戒を促してくれる、というものだ。

 しかし、いま圭が使っているのはサックス型のCOMP。もともと使用していたGUNPから悪魔召喚プログラムなどをインストールしていたものを移植して作った特注品だ。

 しかもサックス型に変えたことから他のアプリなどは使用不可になっている。もっとも、その代わり武器として使用できる召喚器という利点があるのだが。

 

「おい、緊急クエストってなんだ? モンスターが襲撃にでも来てるのか?」

「……たぶん、違うと思う。破壊音も破砕音も聞こえないし、悲鳴なんかも聞こえない」

 

 いつの間にか目を瞑っていた圭が呟く。自身の武器ともいえる聴力で付近の状況に聞き耳を立てていた。

 少なくとも、この場で圭が嘘をつく理由はない。それゆえ、カズマも彼女を信じた訳だが、そうするとますますもって緊急クエストの意味が分からない。

 ふたりの頭に疑問符が浮かぶ。それとは対照的にめぐみん、ダグネス、クリスはどこかそわそわしている。そして、少し嬉しそうにも見える。

 そんな中、ダグネスは少し興奮した様子で跳ねるような声を出す。

 

「……ん、多分キャベツの収穫だろう。もうそろそろ時期だからな」

「………………はい?」

 

 意味が分からない、とばかりに呆然としている圭。

 キャベツ? キャベツとは、あのキャベツだろうか?

 確認のため、カズマを見る。知らないとばかりに首を横へ振っていた。どういうことだろうか、と悩んでいたがそこへクリスから助け船を出される。

 

「あぁ、うん。キミたちには信じがたいだろうけどね? ここでは新鮮なキャベツは飛ぶんだ」

「……飛ぶ? それ以前に、その……。キャベツって新種のモンスターだったり――」

「しないよ、残念ながら。うん、本当に信じがたいだろうけど、ここのキャベツは収穫の時期になると簡単に食べられてたまるか、って感じで空を飛ぶんだ。そして最後には大陸や海を越え、秘境の地でひっそりと息を引きとる、そう伝えられてるの」

「えぇ……」

 

 あまりにも常識はずれな説明に、思わず声を上げる圭。クリスは、そんな彼女を見て苦笑いを浮かべながらも話を続ける。

 

「ま、アタシたちとしてもそれに付き合う意義も意味もないからさ。それでこの時期になると冒険者は総出でキャベツの収穫に借り出されるんだ」

 

 それに、味が濃縮されたキャベツは経験値のかたまりで高値で取引されるし、ね。そう告げたエリスの言葉を聞いて、圭は完全に脱力していた。

 

「……さすが異世界、ぶっ飛びすぎでしょ」

 

 圭がポツリ、と呟いた呆れた声は、誰に聞かれることもなく、ギルドの空気の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 その後、圭はクリスが言ったように、キャベツの収穫に借り出されることになった。

 もっとも、その収穫そのものはなんの問題もなく終えていた。あえて言うなら、本当に空を飛んでいたキャベツを見た圭の正気度が少し、本当にわずかに削られたくらいで……。

 

「本当に、キャベツが飛んでたね……」

「あぁ……」

 

 呆然としてやり取りをする圭とカズマ。

 確かに、クリスが言っていたようにキャベツが飛んでいたのだ。しかも、キャベキャベキャベ、という鳴き声付きで。

 だが、それだけだったらまだマシだっただろう。しかし――。

 

「確かに、確かに美味しいんだけど……」

 

 それが逆に理不尽に感じる。シャリシャリした食感に、程よい甘みが口に広がる。しかも……。

 

「なぁんで、MAGまで増えてるのかなぁ……」

 

 圭も理屈は分かるのだ。MAGとは生命力であり、空を飛ぶほど元気なキャベツを食べれば、きっとそれなりの量を取り込むことができる、ということぐらいは。いや、確かに分かるのだが……。

 

「やっぱり、理不尽だ」

 

 憮然として呟く。もし、あの時(アウトブレイク)にこれがあれば色々楽だったのに、と。

 いまさら言っても詮なき事ではある。それでも、そう愚痴らずにはいられなかった。

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