この素晴らしい世界に漂流を   作:想いの力のその先へ

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第十三話 勇者

 圭がキャベツと言う名の不条理に嘆いて数日後。彼女の姿はアクセルの街――ではなく、街道近くの平原にあった。

 

「……んんっ」

 

 とことこ歩いていた彼女だったが、足を止めて身体をほぐすように背伸びする。

 

「それにしても50万エリス、かぁ……。思ったよりすごい稼ぎになったなぁ」

 

 50万エリス、それは先のキャベツ収穫の際の報酬だった。まさか、収穫だけでそこまでの額が稼げると思っていなかった圭は、感慨深そうにひとりごちていた。

 

「ま、なんにせよこれで当座の活動資金は手に入ったんだし、問題はないかな」

 

 圭にとって想定外の稼ぎであったが、資金は資金。これ幸いとばかりに旅のための支度金として、保存食などの代金にある程度消費。残りは念のため手元へ残しつつ、この世界の調査のため、アクセルの街をあとにしたのだ。

 とはいえ、ここはまったく知らない異世界。圭自身、以前に召喚、という形でエトワリアというまた別の異世界へ行ったことがある。まぁ、その時は圭ひとりではなく、当時彼女が所属していた学園生活部顧問の佐倉慈。通称めぐねえと、圭や親友の美紀の命の恩人にして師匠。蘆屋晴明とともにだった。

 だが今回は完全な一人旅。それに当時は守られる側であったが、今回はそれなりに戦えるだけの力量を持っている。

 

 ……もっとも、圭はそれなりに戦える、と考えているわけだが、実際はそれなりどころか一線級の実力者だ。

 と、いうのもこちらの世界同様、あちらの世界でもある程度レベルという概念は存在する。まぁ、あくまで目安であり、完全に把握できるのは特殊な召喚器。籠手型のガントレット、もしくはパワードスーツ型のデモニカスーツだけだ。

 そして、それらの機器で圭のレベルを計った場合、表示されるレベルの数値は40。

 この数値だけを見ると中堅どころかな。と思うかもしれない。だが、実際のところはそれどころではない。

 なぜなら、あちらの世界ではアウトブレイク。いわゆるバイオハザードが起きる前では、レベル15で腕利き。25を越えれば一流とまで言われるところであった。

 事実、あちらの世界で圭が所属する超国家機関ヤタガラス以外の主要なオカルト組織。築地根願寺、ならびに恐山の当主のレベルが20を越えた程度、と言えば圭のレベルの出鱈目具合が分かるだろう。

 

 ……ただ、圭自身がそれなり、と勘違いしている理由ももちろんあり、それは一言で言えば彼女が所属する組織。超国家機関ヤタガラス、ならびにその構成員となるクズノハ。そして外部協力者に近い立場の()()が原因だった。

 蘆屋、という名字で既に察せられると思うが、彼女の師匠。蘆屋晴明がまず異常だった。以前圭が彼の事を転生者だと言うことを語ったのは記憶にあると思うが、彼の前世にはメガテン、ならびに派生作品の知識があり、なおかつ彼を転生させたのがラスボスクラスの力を持つ大悪魔、魔神-ヴィローシャナ。またの名を大日如来だ。

 

 そんな高位存在に転生させられたことを知った彼は、文字通り血反吐を吐きながら修行や実戦に臨み、バイオハザードが起きた時点でそのレベルは70を超えていた。

 それだけでも十分なのだが、その他にも蘆屋の分家である九頭竜と峰津院。その当主である九頭竜天音ならびに峰津院当主の妹である峰津院都。彼女たちふたりは晴明に劣るもののレベルは50を超えていた。

 他にも元学園生活部に所属していた先輩である恵飛須沢胡桃はとある理由で他の所属者よりも高い位階に上り、先に述べたふたりより少し格上のレベル60。また、圭のもうひとりの親友。唯野=アレクサンドラもまた特殊な事情、晴明とはまた別の転生者であり、そのレベルは先の3人以上、晴明以下のレベルとなっている。

 

 そして、それらを超えるものもいる。クズノハに所属する最強の術者、葛葉ライドウ。ライドウ家でもっとも優れたものが継承する名であるが、当代のライドウは現状、日本――というより世界で五指、その中でも最強の実力者でありそのレベルは80を超え、90の大台まで上る。

 まぁ、そのようなことで、はっきり言ってしまえば圭の比較対照が悪すぎた、というのが答えだった。

 

 

 

 

「んぅ……。それにしても、平和だなぁ」

 

 この世界を調べる。そのために旅立った圭であるが、予想外に平和な状況に肩透かしを食らっていた。

 なにしろ、カズマの話ではこの世界は魔王が跋扈しており、それを討伐するため転生者が送り込まれている、と聞いていた。そのことから、彼女は世界中で人間とモンスターの戦いが繰り広げられている、と思っていたのだが……。

 しかし、フタを開けてみればモンスターに一切遭遇することなく、安全な旅を続けている。

 正直な話、もっと、こう……。殺伐な世界を想像していた。なにせ、水の女神アクア、そしてクリス――この世界の主神、幸運の女神エリスが降臨していたのだから。

 

 しかし、圭自身は平和なら平和でいっか。と、楽観的になっている。なにしろ、もとの世界では常にゾンビや、神話生物と切った張ったの大立ち回りを繰り広げており、そのことで本人が望む、望まないに拘わらずひたすら戦闘経験を積んでいる。

 そのことから、圭からすると望んだわけでもないし、完全に風評被害であるが、あの師匠あって、この弟子。(常に死地へ身を投じる)頭のおかしい悪魔召喚師(デビルサマナー)などという渾名が付けられていた。

 だからこそ、圭は久々の休暇だ。と、内心ウキウキしていたわけだが……。

 

 ――ギィン。

 

「はぁ……。うん、知ってた」

 

 鉄となにかのぶつかる音が圭の耳へ届いた。ただ、その音は圭だからこそ拾うことの出来た音であり、彼女は自身の耳の良さに、今回ばかりは恨めしく思いながら、音がする方へ駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 軽快に走っていた圭であったが、すぐに音の発生源へたどり着くことが出来た。

 そこには藍色の鎧をまとい、大剣を持った少年とボロボロになった鎧をまとった骸骨が数体集まり戦っていた。その近くでは露出度の高い服を着たふたりの少女が同じように骸骨たちと戦っている。

 

「はぁっ!」

「――――!」

 

 がきん、と金属がぶつかる音が響く。

 どごん、と骸骨が吹き飛ばされる。

 

「へぇ……」

 

 それだけ少年の膂力が凄まじい、ということなのか。圭は感心した、あるいは興味深そうに少年を見る。

 実力者、ではあるのだろう。あれほどの大剣を振るい、骸骨。モンスターを吹き飛ばせるのだ。しかし、どうにも圭にはなにか、少年がチグハグなように見えた。

 戦っている少年が押しているのも確か。それなりの場数をこなしているようにも見える。だが、ふとした瞬間。少年がまるで力に振り回されているように見えるのだ。

 

 これは、加勢すべきだろうか? しばし悩む圭。たぶん、このまま放置しても少年に軍配が上がるのは確実。手を出したところでそこまで意味はないだろう。だが――。

 

 ――ちらり、戦っている少女たちを見る。

 

 なんというか、普通、とでも言うべきか。あきらかにいっぱいいっぱいになっている。それでも、それなりに動けているようには見える。ある意味比較対象が悪いが、間違いなくカズマよりは上だろう。ふたり懸かりであれば、あるいはクリス相手にある程度戦えるかもしれない。()()()()()()()。きっと、少年が保護したのだろう。考えるまでもなく、足手まといだった。

 このまま、少年が骸骨を殲滅できるなら良い。しかし、もしもひとつでも討ち漏らし少女たちを襲えば、彼女らは一気に窮地へ陥るだろう。

 

「さすがにそれが分かってて見捨てるのは目覚めが悪いよね」

 

 圭は少年へ加勢することにした。

 己が武器にして召喚器であるサックスを構える。奏でるは荘厳な旋律、現れたるは銀髪の幼女。彼女の仲魔たる外道-ジャックリパー。

 ジャックも己が呼ばれた理由を理解してるのだろう。とんっ、と軽い調子で地面を踏み込み加速。ごう、と風を切り、目にも止まらぬ速さで少女たちと交戦している骸骨に接近。

 

 ――キラリ、と銀閃が幾重にも煌めく。

 

「えっ……!」

「うぇっ?!」

 

 少女たちが驚きの声をあげた。それもその筈、戦っていた筈の骸骨たちが突如バラバラになって、地面にぶちまけられたのだ。

 そして自身らの近くには、いつの間にかいる外套をまとった銀髪の幼女。困惑、混乱するなと言うのは無理な話だった。

 そんな少女たちの声を聞いた少年は、思わず彼女たちの無事を確認する。

 

「フィオ、クレメラ――!」

 

 ――だが、それは目の前の敵から意識をそらすことを意味する。

 好機、とばかりに剣を振り上げる骸骨。しかし――。

 

 ――ガォン、ガォン、ガォン!

 

 轟音が辺りに響く。そして剣を振り上げた骸骨は頭部を砕かれ、そのまま倒れた。

 その時になって、ようやく隙をさらしたことに気づいた少年は一筋の冷や汗を流す。

 

「……ごめん、ごめん。逆に邪魔しちゃったかな?」

 

 少年にとって見知らぬ女性の声。何者か、と声を主を探すと当然のごとくそこには、銃を、デザートイーグル50AEを降ろす圭だった。

 

「あなた、は……?」

「あはは……。さすがに警戒されちゃうか。怪しい者じゃない、なんて言っても信用できないよね? わたしは圭、祠堂圭って言うんだ」

「祠堂、圭……。もしかして、日本人ですか?」

 

 少年の日本人、という言葉にぴくり、と反応した圭。そういう確認を取るということは……。

 

「きみも日本人、と言うことだよね?」

「えぇ、そうです。僕は響夜、御剣響夜です」

 

 それが指導圭と、現地の人間に魔剣の勇者と評されるミツルギキョウヤの出会いであった。

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