しばらく針の筵を味わった圭とカズマ。ようやくアクアが現実に復帰したことで彼女たちはようやく解放。
結果としてカズマの評判というか、風評に多少傷が付いたがそれ以外には問題なく、圭たちは話を続けることが出来るようになった。
「それできみたちの目的……。というよりも、まずきみは何者なのかな?」
先ほどまでめそめそと泣いていたアクアを見て呟く圭。
彼女からするとアクアはカズマと違い、どことなく人を超越した雰囲気を感じるのだ。……まぁ、気のせいだと断じられたら、そうかも。と納得する程度、まさしくホンの僅かな雰囲気であるが。
圭に問いかけられたアクアは、ふんすふんす、と興奮した様子で席を立ち上がると――。
「よくぞ見抜きましたね、人間! そう、私が! 私こそがアクシズ教で信奉される女神――ぶべっ!」
名乗りを上げている途中でカズマに後頭部を鞘でどつかれ撃沈。
そんな彼女を尻目に、カズマは慌てた調子で捲し立てる。
「こいつ、こんな感じで自分を女神なんて言っちゃう痛いやつなんで、そこまで気にしないで――おぉ!」
「ちょっとこのヒキニート! すんごく痛かったんですけど! というか私、れっきとした女神なんですけど!」
すぐに復活したアクアは、カズマの肩を掴むとがっくんがっくんと揺さぶる。
また唐突に始まった二人の漫才に頭を抱える圭。このままじゃ、話が進まないんだけど。それが圭の偽らざる気持ちであった。
「それで、カズマくん。きみの最終的な目標は魔王討伐だ、と?」
「まぁ、出来たら良いな。程度の努力目標なんだけどな」
二人の漫才からなんとか話を軌道修正できた圭は、カズマから目標。というよりも転生者たちの最終的な目的を聞き出すことが出来た。
もっとも、その目標を聞いてまたもや頭を抱えることになったのだが。
「それにしても魔王、ねぇ……」
そういう圭の脳裏に浮かぶのはかつて人伝に聞いたり、実際に相対した魔王たち。
即ち、
それと同等、ないしは多少劣る魔王を討伐しようとしている目の前の少年。彼を見て、圭は即座にない、と結論付ける。
彼女とて幾つかの死線を潜り抜けてきた戦士であり、ある程度見ただけで相手の力を量ることはできる。
その彼女からして、目の前のカズマはどう考えても素人に毛が生えた程度。とてもじゃないが魔王を討伐できるなどとは思えなかった。それに――。
ちらり、とアクアの方を見る圭。
彼女の自己申告では女神、とのことだがアクアなる女神はいただろうか?
一応、アクアンズ。という名の水の精霊なら圭も把握しているが、それにしては力が大きすぎる。
それに、カズマの雰囲気。彼のそれはまるであの地獄が顕現する前の、あの平和だった日本の時のもので……。
「いまいち、分からないなぁ……」
「ん? どうかしたのか?」
「ううん、別に。大丈夫だよ」
こちらを見つめるカズマに、そう誤魔化す圭。
そして話題を変えるべく圭は口を開いた。
「それで冒険者、だっけ?」
「おう、俺は職業としても冒険者で――」
「私はアークプリーストよ」
この世界では冒険者ギルドが所属している冒険者たちにクエスト、という形の依頼を発布し、クリアさせることで報酬を配布。
また、この世界はRPGのように職業にレベルなども存在し、クエストをこなしモンスターを倒すことでレベルアップ、スキルポイントを獲得し職業ごとのスキルを習得。己を強化していく。
それらの説明を受けた圭は感慨深く頷く。なにせ、それはある意味圭にも馴染み深いものだったから。
カズマの――という名のギルド職員の――説明を要約するとこの世界では魂というものが実際に存在し、それを取り込むことで己の存在の強さを高めていく、というものだったが。
圭がもといた世界に於いても似たようなシステムが存在した。
もっとも、そちらは生命エネルギーであるMAG――生体マグネタイト――を取り込むことで力を高めていく。また、取り込むという行為は覚醒、超常的な存在に触れることで只人の壁を破るなどの行為をしない限りできない、という制約もあった。
それも道理ではある。なぜなら、覚醒という行為は己の肉体。その内にMAGを溜め置くための器を造る行為であり、そもそも器がなければ取り込むことは不可能なのだから。
そして彼女はかつての世界で、故郷で起きたバイオハザードという極限状態。避難先で後に悪魔召喚師としての師匠である蘆屋晴明との出会い。また、その場で遭遇した堕天使-フォルネウス、ならびにデカラビアという神話生物との邂逅。
それらが合わさって只人、愚者から覚醒者として文字通り覚醒。
多くの仲間や親友とともに戦いの場へと足を踏み入れることになった。
そのことを思い出し、懐かしい気持ちになった圭。
彼女が踏み入れた、そして生き残った戦いより既に二年。今では
……まぁ、それはそれとして。圭が有名なのはあくまであちらの世界での話。この世界では完全に無名、どころか戸籍すら存在しない。
そんな彼女が手っ取り早く手に入れられる身分証が冒険者という立場であり、いつか帰るにしても今しばらくはこの世界で暮らすためにも収入を得る立場が必要だった。だからこそ、圭は二人に冒険者について訊ねていたのだ。
まぁ、問題もなくはないのだが……。
「それで、1000エリスだっけ……」
エリスとはこの世界で広く信仰されている幸運の女神、エリス神の名前であり、そして同時に世界で流通している通貨単位でもあった。
もちろん、着の身着のままこの世界に漂流した圭がそんなものを持つわけもなく――。
「なんなら、俺たちの方で貸そうか?」
「……カズマさん?!」
カズマの提案に驚くアクア。
二人とて、ついこの間まで出稼ぎ労働者のような仕事ばかりで財政的に余裕があるわけでもなく、実際寝泊まりは馬小屋でしていることからも困窮していることがうかがえる。
そんな状態での提案なのだから、アクアが驚くのも無理からぬことだった。
しかし、圭はその提案をありがたいと思いつつも拒否する。
「あはは、それはたぶん大丈夫。それよりも二人に聞きたいことがあるんだけど……」
その代わりとばかりに圭は二人に質問する。
「ここの近くで物を換金できる場所って知ってる?」
「換金できる場所、かぁ……」
「私は知らないわね」
「そっかぁ……」
そもそも、カズマにしろアクアにしろ、ここアクセルに来たのはつい最近。そこまで地理に詳しくなかった。
「……おい」
三人で悩んでいた時、近くから声をかけられる。
そちらに視線を向ける圭。そこにはモヒカンの強面な男が席に座っていた。
「おまえさん、換金場所を探してるのか?」
「あ、はい……」
まさか、そんな人間に声をかけられると思っていなかった圭は突然のことに気圧されるように返事し、ジャックはそんな男に対して警戒している。
もっとも、男はそんなことを気にも止めず話を続ける。
「それならあそこだ」
男はある一ヶ所を指差す。そこは冒険者用のクエストカウンターのすぐ近くであり――。
「本来ならクエストで入手した素材を換金する場所だが、ときたまクエスト以外でも物を持ち込むやつがいるから、その場合も換金してくれる。ちょうど、今回のおまえさんのようにな」
なんというか、懇切丁寧に説明してくれるモヒカン男。そんな男に圭は深々と頭を下げる。
「あ、ありがとうございます!」
「良いってことよ! 冒険者になるんだろう、頑張れよ!」
にかっ、と男臭い笑みを浮かべるモヒカン。
それを見て圭は、人は見た目じゃないんだなぁ、と思いつつ換金場所へと向かうのだった。
「はい、ご用件はなんでしょうか?」
「これを換金してほしいんです」
換金場所に到着した圭は、職員にブツを差し出す。それを見て職員は目を大きく見開く。
「これを、ですか……?!」
職員の目の前にはダイヤモンドやルビー、いわゆる宝石が、しかも手のひらサイズの大きさのものが雑に広げられている。
それに気付いた他の冒険者や職員たちも驚きを露にし、ギルド内はにわかにざわつき出す。
「しょ、少々お待ち下さい!」
慌てて奥に引っ込む職員。
奥からは、どこのお貴族さまだよ。やら、どうするんだよ! という、小さな叫び声が聞こえてくる。
それを聞いて圭は顔を引くつかせる。今さらだが、ようやく彼女は宝石が高価なものだということを思い出した。
ただ言い訳するのならば、彼女にとって宝石とは悪魔をシバき倒せば手に入る交換素材でしかなく、そこまで高価なものだという認識がなくなっていた。
ある意味裏の世界にどっぷりからだを浸からせていた弊害であった。
ともかく、なんとか貴金属を換金できた圭は改めて冒険者として登録するためにカウンターへ。
ちょうど先ほどの騒ぎを見ていた金髪巨乳でアクセルの冒険者ギルドにおける看板娘。ルナは顔がひきつらないように我慢しつつ応対する。
「本日のご用件は、冒険者登録で宜しかったですか?」
「はい、お願いします」
「それでは、こちらの用紙に必要事項の記入をお願いします」
ルナに言われるまま、記入していく圭。
「はい、ありがとうございます。……シドウケイさまですね。それでは最後に、こちらのカードへ触れてください」
「えっと、これは……」
「こちらは冒険者カードと言って、シドウケイさまのステータスなどを記載する身分証明書のようなものです。また、モンスターの討伐数や経験値の取得状況なども確認できますよ」
「そうなんだ……」
ルナの説明に目を丸くしながら、圭は言われた通り触れる。
すると圭のステータスなどが記載されていく訳だが。
それを確認したルナが素っ頓狂な声を上げる。
「これは――! 全てのステータスが軒並み……。いえ、幸運値だけが普通ですね。いえ、それはともかくとして。これだけのステータスならどんな上級職にもなれますよ!」
興奮した様子で話すルナ。それを遠くから見ていたカズマは、あ、これ見たことあるやつだ。と黄昏ていた。
それはともかくとして、圭がなれる冒険職を見ていたルナだったが、その中に見慣れない項目が存在していた。
「……あら? これはなんでしょうか? えっと、デビル、サマナー……?」
それを聞いた圭は苦笑いを浮かべる。その名前が出た時点で、この世界に於いても自身が就くべき職が既に決まったようなものなのだから。
「……うん、私の職はそれでお願いします」
「えっ……。よろしいのですか? このステータスなら他の強力な職も選びたい放題ですが……」
「いいんです。それに私はこの職についてよく知ってますから」
「はぁ……」
苦笑している圭を見て、ルナは本当に大丈夫かな、と思いつつも最後に言葉を掛ける。
「それでは改めて冒険者ギルドにようこそ、シドウケイさま。スタッフ一同、今後の活躍を期待しています!」
「あ、ははは……」
ルナの歓迎を受け、恥ずかしそうにしている圭。
だからこそ彼女は気付かなかった。彼女を警戒した瞳で見つめている少女の姿があったことを。
「デビル、サマナー……?」
「どうかしたのか、クリス」
「ううん、なんでもないよダグネス」
クリスと呼ばれた銀髪の少女は警戒と、何より敵意のこもった目で圭を見つめていた。